三騎士英雄譚〜第二十章〜 エドワード・レザースミス(23歳)男 愛称=エド セルディア王国第六近衛騎士団所属。 革鎧職人の息子として生を受け16歳で戦時召集により兵士となる。 王都で開催されたトーナメント(馬上試合)の前座で行われた 勝ち抜き剣術試合で脅威の60人抜きを果たし近衛騎士の叙勲を受ける。 民衆寄りの考え方から上官との諍い(イサカイ)は絶えないが 剣の腕は王国一とも大陸一とも噂される。 グレゴール・ファントム(25歳)男 愛称=グレイ エスティア人の傭兵。 通り名は死神グレイ。彼は今まで危険な任務をこなして来たのだが、 その為、彼の戦友のほとんどは戦死を遂げている。 戦場から、ただ一人生き帰る彼を傭兵仲間は死神だと噂するようになった。 無口で一見、無骨だが本当は心優しい男。 サナウジャール(54歳)男 セルジア伯爵領の山地に住む野盗の頭。 元、宮廷占星学者であり、隠居の身にあった。 伯爵夫人の横暴から領民を守る為、現在野盗に身を落としていた。 コルネリア・ケアード(21歳)女 愛称=コニー アスエル教団の女司祭。ガルビア・フォン・クライセン枢機卿の姪にあたる。 薬草学に精通しており、治療行為は得意としているが 人前に立つ説教は苦手で、布教活動をする事は少ない。 舞台説明 サナウN:『雪の乙女が舞う谷の 朝日差す窓、光満ち 全ての闇を断つ陽の光 聖なる大牙ここにあり 真の勇者を待ち眠る 闇の眷属、討ち払い 太陽を翳(カザ)す約束の日まで・・・』 ユーリー・アルゲエーフ殿の故郷に古くから謳われている 伝承の一文じゃが、アスエルの聖剣『太陽の大剣』の在り処を 表しておるとの事じゃ・・・ エドワード卿がこの聖剣を求めローゼルク王国に旅立つ事になった・・・ このワシも同行の命を受けておるのじゃが・・・ グレイ:エド、お前は北方の国には行った事はあるのか? エド:いや、国外に出たのはデミドーラ王国ぐらいだよ・・・ グレゴールさんは行った事あるんですか? グレイ:傭兵として任務で何度かローゼルクにも行っている。 エド:へぇ・・・やはり寒さは厳しいですか? グレイ:そうだな、セルディアの冬とは比べものにならない。 ローゼルクの冬は全てを凍らせてしまう不毛の地と化すからな・・・ 何もこの季節を選んでローゼルクに渡る事もあるまいによ。 エド:はは・・・仕方ないですよ、春になれば・・・ 何時、ガルビアが軍が動かしても可笑しくないですし。 そうなったら常に警戒を怠れないですからね、 動けるのは今のうちだけって事です・・・ サナウ:やれやれ・・・骨身に凍みそうじゃな・・・ エド:サナウジャール殿・・・ グレイ:くっくっ・・・爺さん、大丈夫なのかぁ? 年寄りの冷や水は良くないぜ? サナウ:そう年寄り扱いするでない。 ワシだってまだそこまで老いぼれてはおらんわ・・・ エド:そう言えば、 サナウジャール殿はローゼルク王国に居た時期もあるんですよね? サナウ:うむ、もう三十年も昔の話じゃがな・・・ 小さな私塾で占星学を教えておったのじゃよ。 エド:へぇ〜・・・ サナウジャール殿って占星学もお出来になるんですね。 サナウ:エドワード卿・・・ワシは元々占星学者じゃよ? 用兵学やその他の学問も修めてはおるがの・・・ エド:そうだったんですか!? サナウ:ワシは何だと思われておったのだか・・・ エド:はは・・・軍師か何かとばかり・・・ グレイ:占い師なんかより、そっちの方が向いてるんじゃないか? サナウ:占星学を占いなんぞと一緒にするでない! 占星学とは天の星を標(シルベ)に歴史を読む統計学、 それは科学であり数学であり神秘なる哲学なのじゃ! グレイ:へぃへぃ・・・そういう難しい学問は爺さんに任せて、 俺は剣の繰り出し方でも勉強しますよっ。 サナウ:まったく・・・お前さんという奴は・・・ そう言えば先程ケアード司祭がお主を探しておったぞ? グレイ:コニー嬢ちゃんが? エド:じゃあ、コルネリアさんには傷薬も分けて貰いたいですし これから会いに行きましょうよ? サナウ:ワシらが一緒に行かんでも、 グレゴール殿に貰いに行ってもらえば良かろう・・・ グレイ:なんだよ・・・俺は雑用係かよ。 エド:良いじゃないですか、出掛ける前に挨拶もしておきたいし・・・ サナウ:そう言う事じゃないんじゃがな・・・ グレイ:まぁ、いいじゃねぇか! これから極寒の北国を一緒に旅すんだ・・・ 一緒に挨拶、済ましちまおうぜ? 【要塞内、救護室】 エド:コルネリアさん・・・居ますか? ・・・傷薬分けて貰いに来たんですけど・・・ コニー:あ、エドワード卿・・・ ローゼルク王国に発たれる準備ですね。 エド:ええ、それで医薬品類を頂こうと思いまして。 コニー:長い旅になりそうですものね・・・ エド:はい。 それでも春までには戻りますけどね。 コニー:では、傷薬はお分けできませんわ。 グレイ:おぃ・・・そりゃどういう事だ? コニー:傷薬で血止めは出来ましても、 手当てや看病は出来ませんでしょ? エド:でも、薬が無かったら止血も・・・ グレイ:俺は傭兵稼業をずっとやってきたんだ、 応急手当ぐらい慣れたものだぜ? コニー:それでも、私の方が専門ですわ? グレイ:そりゃ・・・どういう意味だ? コニー:私もローゼルクに参ります。 エド:いや・・危険ですよ!? 万が一怪我でもしたら・・・ コニー:その万が一の為に、私がご一緒させてもらうのです。 極寒の地では怪我だけじゃなく 病に冒される事もありましょう・・・ グレイ:・・・・駄目だ! コニー:グレゴール様は病との戦い方もご存知でして? グレイ:・・・・遊びに行くんじゃねぇんだぞ!? コニー:わかっております。 サナウ:して、ケアード司祭・・・今回の旅が如何いうものか 分かっておるのか? コニー:聖剣の探索・・・ユーリー様の覚えられていた ローゼルクの伝承を追っての旅。 ガルビア伯父様の仕向けた暗殺者達の妨害も考えられる 危険な探索行となるのでしょう? サナウ:ケアード司祭も危険である事は分かっておるのじゃろう? どうしてそこまで同行しようと思うのじゃ? コニー:嫌な予感がするのです・・・ 皆さんが無事帰って来られるのか・・・不安で・・・ もし、暗殺者が来てもグレゴール様やエドワード卿が 守って下さるのでしょ? それともグレゴール様達じゃ勝てない程、強敵ですか? グレイ:暗殺者だろうが騎士だろうが退けは取らん! だが・・・ コニー:なら、病や怪我からは私がグレゴール様を守って差し上げます。 それに私だって護身術の心得はございますもの。 足手纏いまでにはならない筈ですわ。 グレイ:・・・どうしても付いて来るのか? コニー:ええ、無理にでも付いて行きますわ。 それに、真実を確かめる為にも・・・ 貴方がたについていきますって以前申し上げました。 エド:その真実はもう分かった事でしょう? 伯父の悪事を信じたくない気持ちも分かりますけど・・・ ガルビア内務大臣がアスター殿下を擁立させ 次期国王下での実権を握ろうとしている事は、 コルネリアさんも理解している筈です。 グレイ:何を考えてるか分からんが・・・ 真実を、確かめる。なんてのは言い訳なんだろ? そこまで付いて来たいなら俺も止め様がない・・・ コニー:付いて行って宜しいのですね! もう旅の支度も医薬品の準備も整えてますから。 サナウ:ケアード司祭、道中は危険じゃ・・・ くれぐれも気を抜かぬ様にしてくだされよ。 コニー:はい。 【ガルニア要塞、城壁】 サナウ:こんな所におったか・・・ グレイ:爺さん・・・ サナウ:ケアード司祭の事が心配か? グレイ:心配っていうか・・・訳がわからねぇ・・・ サナウ:ケアード司祭の事を如何思っておるのじゃ? グレイ:如何って・・・ 薬剤師としては優秀だ、先日もセドリック卿が冒された 毒を見事に解毒してみせたしな・・・ 女だてらに肝も据わってやがる。 サナウ:そういう事じゃあるまいに・・・ グレイ:何を考えてやがるのかわかんねぇ・・・ だが、何かを企んでる訳でもねぇのは分かる。 サナウ:そうじゃな・・・今回の旅は確かに危険じゃ。 ガルビア卿の放った暗殺者は腕利きだというしの・・・ ならば、お主の力で守ってやればよかろう? グレイ:駄目だ・・・俺には人を守るなんて出来ねぇ・・・ サナウ:お前さんの腕前なら、 敵から仲間を守るなど容易(タヤス)かろう? グレイ:俺の剣は敵を・・・人を殺(アヤ)める凶器だ・・・ 今まで何かを守れた例(タメシ)がねぇ。 エドワード卿は俺が守る必要もねぇ 悔しいが、俺よりも腕が立つからな。 サナウ:ワシやケアード司祭は守られねば生きて行けぬと・・・? グレイ:少なくとも俺よりは弱いだろ? サナウ:そうじゃな・・・剣を握ればお主の方が強かろう。 じゃが、知識ではお主は弱かろう? グレイ:はは・・・そりゃ駄目だ・・・俺じゃ話にならねぇ サナウ:戦いは剣の強さだけでは決まらん。 用兵術なり兵法なりが勝敗を分ける時もある。 グレイ:わかってるさ、爺さんを馬鹿にした訳じゃない・・・ サナウ:救護だって同じじゃよ。 グレイ:まぁな・・・確かに治療さえ出来れば生き残れた仲間も 沢山と居た。 サナウ:守ろうとしておるのはお主だけじゃないという事じゃ・・・ お主が剣で皆を守るなら、ワシは知識でお主等を守る。 ケアード司祭は治療によって守ってくれるじゃろう。 グレイ:爺さん・・・別に俺はあんた達が邪魔な訳じゃねぇんだ・・・ ただな、戦場で仲間の死を見過ぎて来ちまったのさ。 サナウ:傭兵時代の話か? グレイ:俺は今でも傭兵だ。 そして、俺の傭兵としての通り名は『死神』 俺は今まで生き残ってきた・・・が、仲間は皆、死んじまった。 サナウ:仲間の死の上に生き残る『死神』か? ふぉっふぉっふぉっ・・・お主の剣に守られては、 命がいくつ有っても足りなくなりそうじゃな・・・ グレイ:そうだ・・・だから俺は敵の命すら無駄に奪わない シャルル卿に惚れて、ここに志願したんだ。 まぁ、ここの奴等は皆良い奴だよ。 エドワード卿もあんたの事も嫌いじゃねぇ。 サナウ:しかし、お主は仲間を守る事が出来ぬと申すのか・・・ ならば、ワシはエドワード卿に守って貰う事にする。 が・・・エドワード卿一人で二人も守るのは辛かろう。 ケアード司祭はお主が守ってやれ。 グレイ:俺が嬢ちゃんを? サナウ:まったく気付いておらんのか? グレイ:・・・何がだい? サナウ:ケアード司祭はお主の事を気に掛けておるのじゃよ・・・ お主と離れるのが不安じゃから、 今回、あんな無茶を言い出したんじゃろうて・・・ グレイ:・・・・俺を気に掛けるって・・・そりゃどういう・・・ サナウ:漢気に生きてきたのは良いが・・・ あまりに鈍感なのは美徳ではないぞ? これ以上は年寄りのお節介と言われかねんな・・・ グレイ:・・・待ってくれ。 俺は、そんな・・・なんかの間違いだろ!? サナウ:兎に角じゃ・・・仲間としてでも良い。 守ってやってくれ。 エド:グレゴールさ〜ん!! コニー:フランソワーズ様がお呼びですよ!! サナウ:さて、行くかの・・忙しい事じゃな・・・ エド:サナウジャール殿もご一緒だったのですか? サナウ:話相手になって貰っておったんじゃよ。 コニー:珍しいですわね、何を話されてたんですか? サナウ:そうじゃな・・・年寄りの戯言じゃよ。 エド:まだ老いぼれては、いないんじゃなかったでしたっけ? サナウ:もう若くもないって事じゃよ。 エド:もぉ、調子いいなぁ〜・・・ グレイ:じゃあ、行くか・・・シャルル卿が呼んでるんだろ? コニー:・・・ええ。 グレイ:コニー・・・旅先で無茶はするなよ・・・? コニー:わかってます! グレイ:ま、ヤバくなったら俺が守ってやるよ・・・ コニー:・・・ぇ?・・・・はい。 グレイ:シャルル卿をあんまり待たせる訳にもいかねぇ エド!急ぐぞ!! コニー:このガルニア要塞での最後の夜が更けようとしている。 明日の朝、ローゼルク王国へと旅立つ私達。 謂れの無い悪い予感が胸をざわめかせている・・・ エドワード卿達の行く末に 何が待ち構えているというのでしょうか? グレゴール様・・・守って下さいましね・・・ ご自身の事も・・・・。 二十一章へつづく・・・ 次回に続く。