三騎士英雄譚〜第二十一章〜

ランスフォード・シュタイン(29歳)男 愛称=ランス
セルディア王国の無名の騎士の家生まれる。第三紺碧騎士団副団長。
父アーデル・シュタインは国王命令無視の罪により
騎士資格剥奪という憂いに遇うが、当時14歳であったランスに
異例の騎士叙勲を与え御家断絶の危機を逃れる。
また、29歳で騎士団副団長の要職への出世も異例。

サーバルド・アンセル(29歳)男 愛称=セル
セルディア王国第三紺碧騎士団中隊長。
ランスの同期であり親友。
槍術、馬術ともに長けているのだが
不真面目な所があり騎士としては優秀とは言えない。

アルフレッド・ローランド(26歳)男 愛称=アル
セルディア王国第三紺碧騎士団中隊長。
ランスの部下。セルの同僚
弓術の名手でありガルニア要塞攻略参加を以って中隊長昇格
セルと対照的に真面目。

アンジェリカ・シュタイン(24歳)女 愛称=アン
セルの腹違いの妹。真紅騎士団の一員。
婚約者がいたが、今はランスと結婚しシュタイン家に入る。
剣術を学んでおり、細身の剣の試合での実力は兄にも勝っている。

リーゼロッテ・イレーネ・セルディア(17歳)女 愛称=リズ
セルディア王国アスベールU世王の娘。
ルーク皇太子の妹にあたる。
王女として厳格に育てられたが
元来の活発な性格で姫らしくない。

ローゼマリー・ブラウンフェルズ(35歳)女
ルーク皇太子の侍女長
お淑やかで大人しい女性ですが
侍女として職務は器用にこなす。

舞台説明



ランスN:春に予想される戦に向けて、ガルニア要塞の練兵を任されたのだが、
     騎士達の練度の高さに比べ、歩兵団の練度の低さに驚きを覚えた。
     元々ガルニア要塞に詰める騎士達は、セルディアの騎士達の中でも
     選りすぐりの腕利き達だ、同じ腕を
     一般の兵に望んではいなかったのだが・・・

セル:ランスぅ〜!一体なんだありゃ・・・
   見掛けは立派だが、編隊行動どころか剣の振り方すら知らねぇとは・・・

アル:基礎体力だけは鍛えられてる様ですけどね。

ランス:うむ、これまでの指揮官や教官が悪かったのだろう。

アン:隊列行進から訓練するしかなさそうね。

セル:ぉ?そういやアン、腹の調子はどうなんだ?

アン:お兄様・・・腹の調子って、腹痛の病じゃないんですからね!

セル:あぁーわかった、わかった、悪かった。
   で、順調なのか?

アン:ええ、順調です・・・まだそんなにお腹も目立たないでしょ?
   
ランス:休んでなくていいのか?

アン:少しぐらい大丈夫よ。
   辛い様なら、勝手に休ませて貰うわ。

アル:元気な男の子だと良いですね!

ランス:私は元気なら息子でも娘でも構わない。
    アンと私の大切な子供に違いはないのだから・・・

アン:ランス様は親馬鹿になりそうね?

ランス:せめて子煩悩と呼んで欲しいな・・・

セル:それじゃ、あんまり変わらんと思うぜ?

ランス:ゴホンっ・・・・私は訓練の様子でも見て来る。

セル:ありゃ・・逃げたな・・・

アル:意外と可愛いところあるんですね・・・

アン:お兄様達?・・・そんな事言ってると後でしごかれますわよ?

セル:そりゃ、カンベンだ!・・・じゃあ俺も様子を見て来るか!

アル:私は弓術訓練の方に・・・アンジェリカ夫人、失礼しますね。

アン:ふふっ・・・

リズ:楽しそうなお兄様ね。

アン:これはリーゼロッテ王女。
   気付きませんで、失礼を致しました・・・

リズ:いいの、いいの♪
   あんまり気を使わないで。
   王城では誰も彼も畏まっちゃって・・・まともに話も出来ないんだもの。
   こっちに来て正解だったわ!とっても楽しい人ばかりですもの!

ローズ:リーゼロッテ様。
    ここが最前線の要塞だという事もお忘れにならないで下さいましね?

リズ:わかってるっ!!
   けど、アンジェリカが羨ましい・・・
   ランスフォード卿の様な素敵な方と結ばれて
   サーバルド卿の様な楽しいお兄様がいるんですもの。

アン:リーゼロッテ様にはルーク皇太子様という
   素敵なお兄様がいらっしゃるじゃないですか?

リズ:お兄様の事は好きですけど、最近は遊んでくれませんもの・・・

アン:ルーク皇太子様はお忙しいんですわ。
   次期国王として、やらなければならない事が沢山あるのですもの。

リズ:わかってはいるんだけどねぇ〜。

アン:リーゼロッテ様には想いを寄せる殿方はいらしゃいませんの?

リズ:いない、いない!
   お兄様は「お前なんかを政略の為とはいえ、貰おうなんて男はいないから
   好きになった男と結婚しろ!」なんて言うけど、
   せめて貴族当主ぐらいの地位じゃないと認めてくれないだろうし・・・
   貴族の殿方にはランスフォード卿の様な
   男らしい方はいらっしゃらないですもの・・・

ローズ:このガルニア要塞守備司令のフランソワーズ子爵様など
    雅やかな顔立ちをなさってますわよ?

リズ:シャルル卿?
   まー確かに綺麗な方ですけど・・・私、もっと逞しい方が好みですわ。
   ・・・それに、例え素敵な殿方がいらっしゃったとしても
   私には女性としての魅力ないですもの・・・

アン:あら、リーゼロッテ様はとても可愛らしくて魅力的だと思いましてよ?

リズ:ほら・・・私・・胸、ないし・・・

アン:大丈夫ですわよ、女の魅力は胸の大きさだけじゃありませんのよ?

リズ:でも・・・ローズみたいに成長して貰いたいわ!
   アンジェリカだってローズ程じゃないにしても十分大きいし・・・
   見る度に羨ましくなっちゃう。

ローズ:リーゼロッテ様はお若いのですからそれで良いのですよ?
    それに、とても魅力的でいらしゃいます。
    私の様な小母さんとお比べになられなくても・・・・

リズ:ローズは小母さんって歳じゃないわ?
   とても若いもの、独身なのが不思議なぐらい。

ローズ:結婚なら一度・・・十四の頃にしております・・・

リズ:初耳だわ!?そうなの?

ローズ:リーゼロッテ様が生まれるより前の話ですもの・・・
    夫は王城の衛士をしていたんですの、
    婚姻の誓約を祝福されたその夜、王城に忍び込んだ賊を捕らえようと
    斬り合いになり、命落としましたが・・・

アン:・・・そんな事が・・・あったのですか・・・

ローズ:当時の国王ファーディナンド陛下が
    夫の妻になったばかりの私が路頭に迷う事が無い様
    王城付きの侍女として召抱えて下さり、
    今まで侍女としてやって来させて頂いているのです。

リズ:でも子供もいないのでしょ?
   再婚とか考えないの?

ローズ:そうですね・・・リーゼロッテ様が嫁がれて、
    こんな小母さんでも良いという方がいらしたら考えると致しましょう。

リズ:絶対いるよ!私が保証する!

アン:そうですね、ローゼマリーさんなら引く手数多と思いますわ。

ローズ:なら、リーゼロッテ様。
    早くに素敵な殿方見つけて安心させて下さいましね?

リズ:うっ・・・藪蛇だったか・・・

アン:そういえば、リーゼロッテ様達は、ここにはどうして?

リズ:そうそう!兵士達の訓練を見物しに来たの!
   私はこの要塞の視察として訪問してる訳だし、
   ちゃんと仕事もしないとね!

ローズ:お部屋で暇だ暇だとお騒がれになってるところに、
    サーバルド卿が訓練の事をお教え下さいまして・・・

リズ:ちゃんと視察の為によ!?

ローズ:ふふっ、わかっております。

アン:お兄様が・・・?
   でしたら私がご案内致しますわ。

リズ:そうしてもらえる?

アン:ええ、兄がお誘いになったというのに姫様を放っておられるとあらば・・・
   尻拭いをするのも妹の役目というものですわ。

リズ:意外と手の掛かるお兄様なの?

アン:ええ、それはもう!(笑)

【訓練場】

ローズ:凄いですわね・・・あっ、リーゼロッテ様。
    あちらにリーゼロッテ様の親衛隊の方々が訓練をなさってますわよ。

リズ:ん〜と・・・あっちの方が面白そうよ!
   あれはアンジェリカのお兄様かしら?

セル:馬に乗ってる奴を相手にする時は槍が一番なんだ!
   相手は勝手に突っ込んでくる!
   そこにタイミングを合わせて槍を・・・こうだっ!!!
   ・・・・・
   なんだ!?その屁っ放り腰は!!
   馬上の騎士を突き落とすぐらいの気持ちで突きやがれ!!

アン:・・・お兄様ったら・・・

セル:ぉ!アン!!
   それにお姫さんじゃねぇ〜か!
   やっぱり見に来たんだな!

アン:リーゼロッテ王女の御前ですよ!?
   少しは下品な真似をお控え下さいっ!

セル:戦争するのにお上品にやってたんじゃ・・・
   命がいくつあっても足りねぇや!!

リズ:サーバルド卿ー!、結構ですよー!
   そのままお続けくださーい!!

セル:お姫さんは話がわかるねぇ〜

ローズ:アンジェリカ様あちらの藁は何かしら?

アン:あれは弓矢の射撃の的ね、
   王都などでは丸い的を使うのですけど・・・
   ここでは簡単に作れて補充の利く、あの様な藁の的を使うのです。

アル:第一班構え・・・脇を締めて腕を固定しろ!
   弓は決して槍や剣に劣る武器ではない。
   歩兵隊の扱う武器では最も効果的な武器だろう。
   無駄に敵に囲まれたくない者は、よーく練習するんだ。
   ・・・よく狙え・・・撃て!!

ローズ:あっと言う間にハリネズミですわね。

アル:王女様、ご視察ですか?

リズ:ええ。

ローズ:騎士様が弩弓ではなく短弓に秀でていらっしゃるなんて
    お珍しいですわね?

アル:これは猟師の使うセルフボウではなく
   コンジットボウですよ。
   長弓や弩弓では速射性が・・・つまり連続した射撃が出来ないんです。
   短弓ならそれが可能ですし、
   セルフボウと違ってコンジットボウは威力も十分にあるんです。

ローズ:弓と言っても色々あるのですねぇ・・・

アル:騎士では弓を軽視してますけど、
   訓練次第では騎兵に劣らない戦果を上げる事が出来るんですよ。

ローズ:騎士団も歩兵団もお強いなら負け知らずですわね。

アル:そう願いたいものです。
   あ・・・アンジェリカ夫人!ランスフォード卿なら中庭ですよ!

アン:そう、有難うアルフレッド卿
   これから行ってみるわ。

アル:はい。では失礼!
   ・・・第二班構え!・・・弧を描く矢の軌道をイメージするんだ!
   上手くいった時のフォームを体に覚え込ませろ!

ローズ:皆さん凄い気迫ですわね。

リズ:熱気で暖かく感じるぐらいですわ!
   けど、ちょっと汗臭くて・・・気分が悪くなりそう・・・

アン:では、中庭に出ませんこと?
   ちょうど夫が訓練を指揮している筈ですし・・・

リズ:そうね、ランスフォード卿なら剣の訓練かしら?
   あ、わざわざ中庭に出ているのだから、馬術の訓練ね!

アン:では、こちらですわ。

【中庭】

ランス:全軍前進!!
    ・・・・・
    止まれ!反転!!

リズ:ん?・・・あれは何をしているの?
   ただ行進してるだけ?

ランス:密集隊形を崩すな!!全軍前進!!

ローズ:隊列を組む訓練でしょうか・・・

リズ:けど、それが戦いに役に立つの?
   パレードとかの練習ならわかるんだけど・・・

アン:隊列を乱さない事は戦場ではとても重要な事なんですよ。

リズ:どうして?

アン:もし戦場の様に剣がぶつかり合う音や兵士達の雄叫びの中で
   兵士達が各々散開して戦っていては
   指揮官の合図が聞こえないと思いませんか?
   それでは指揮官の意味が無いですものね。

ローズ:その為に密集して戦うのですね?

アン:それと、正直なところ戦いの不安からも和らげる効果があるわ・・・
   勇敢な兵士と言えど、やはり戦場は恐怖だもの、
   密集隊形はそういった不安も紛らわせてくれる。

リズ:でも彼等、下級兵士は兎も角・・・貴方達、騎士でもそうなの?

アン:それは・・・

ランス:もちろん、そうですよ!
    リーゼロッテ王女。

ローズ:そうなのですか?・・・ランスフォード様・・・

ランス:騎士とはいえ、死を恐れぬものはいない。
    必ず勝てる戦などありません。
    故に、騎士も兵士も、いつ自分の命が消えるのか恐怖します。

リズ:勇敢な騎士だと聞いていたのだけど・・・
   意外な事を言うのね?

ランス:命を掛けて何かを守ろうとする事と
    命を粗末に考える事は、まったく別のモノです。
    私が勇敢であるのなら祖国の為、家族の為、そして妻の為なら
    この命尽きるまで戦い抜く事が出来るでしょう・・・
    そして私はそれらの為であれば・・・
    死をも恐れる事無く戦えると思っています。

リズ:死を恐れない騎士には守りたいモノがあるから・・・って事?

ランス:その通りです。
    しかし、常に死を恐れずにいる事は出来ません。
    散開して自由に戦って良いとなれば
    己の命を惜しんで逃走する者も多く出る。
    これは恥ずべき事ではなく、むしろ正常な考えです。

リズ:でも、正常な考えなら
   命を惜しんで逃走する事を封じる為に密集させるって・・・
   何か矛盾を感じるわね・・・死にたくない人を死に追いやるみたいで・・・

ランス:もし兵士が逃げる事を許し、兵士の命を救う事が出来ても、
    次はさらに多くの戦で負けた国の民衆が命を落とす事になります。
    それを防ぐ為に騎士は栄誉を、兵士は給金を受け取り武器を握るのです
    そして、戦場で少しでも被害を少なくする為には、
    規律の取れた隊形を維持し混乱を防ぐ、隊列訓練が必要なのです。

リズ:強い戦士が多い側が勝つのかと思ってたけど、
   戦って難しいのね・・・

アン:戦いの規模が大きくなる程、複雑になりますわね。

リズ:最初は興味本位だったけど、訓練の視察・・・
   勉強になったわ!

ローズ:そろそろ、中に戻られますか?

リズ:ええ、少し疲れたわ。
   ランスフォード卿!練兵の指揮、頑張って下さいましね



ローズ:ランスフォード様の指揮の下、
    ガルニア要塞の歩兵団は徐々にその練度を上げている。
    その後、リーゼロッテ様の騎士や兵士達に向ける態度が
    少し変化したように思えるのは・・・
    きっと私の思い違いではない様に思います。
    リーゼロッテ様自ら訓練に参加すると仰られた時は
    お止めするのに苦労致しましたが・・・・
    今日も最前線の要塞に生きる兵士達の日々は続いています。





                  二十二章へつづく・・・
                           次回に続く。