三騎士英雄譚〜第二十二章〜

エドワード・レザースミス(23歳)男 愛称=エド
セルディア王国第六近衛騎士団所属。
革鎧職人の息子として生を受け16歳で戦時召集により兵士となる。
王都で開催されたトーナメント(馬上試合)の前座で行われた
勝ち抜き剣術試合で脅威の60人抜きを果たし近衛騎士の叙勲を受ける。
民衆寄りの考え方から上官との諍い(イサカイ)は絶えないが
剣の腕は王国一とも大陸一とも噂される。

グレゴール・ファントム(25歳)男 愛称=グレイ
エスティア人の傭兵。
通り名は死神グレイ。彼は今まで危険な任務をこなして来たのだが、
その為、彼の戦友のほとんどは戦死を遂げている。
戦場から、ただ一人生き帰る彼を傭兵仲間は死神だと噂するようになった。
無口で一見、無骨だが本当は心優しい男。

サナウジャール(54歳)男
セルジア伯爵領の山地に住む野盗の頭。
元、宮廷占星学者であり、隠居の身にあった。
伯爵夫人の横暴から領民を守る為、現在野盗に身を落としていた。

コルネリア・ケアード(21歳)女 愛称=コニー
アスエル教団の女司祭。ガルビア・フォン・クライセン枢機卿の姪にあたる。
薬草学に精通しており、治療行為は得意としているが
人前に立つ説教は苦手で、布教活動をする事は少ない。

シーギスムンド・ベールヴァルド(26歳)男
エスティア人の暗殺者
ミカエルの側近であり腕利きの暗殺者

シュティーナ・リンドホルム(23歳)女
エスティア人の暗殺者
踊り子の一員として身を潜めている。
マデリーネと偽名を名乗る。

舞台説明



シーギスN:ガルニア要塞から聖剣探索に騎士共が旅立った・・・
      俺達は探索阻止の任務を受け、後を追う・・・
      ここは北の大地ローゼルク、氷と雪に閉ざされた王国。
      聖剣『太陽の大剣』がこんな北の国に眠っていたとはな・・・

サナウ:如何じゃ?新しい鎧の着心地は・・・

エド:いい感じですよ。
   少し重いですけど、鞣革(ナメシガワ)の鎧下(ヨロイシタ)は風を通しませんし、
   フェルト製の騎士羽織(サーコート)と外套(ガイトウ)のおかげで
   かなり寒さは防げますよ。

グレイ:爺さんの長衣(ローブ)は狐の毛皮か?
    森の主の古狐(フルギツネ)みたいになってるぜ・・・?

サナウ:お主も人を言えた柄か・・・
    熊か何かの怪物の様じゃよ。

コニー:ふふっ・・・皆様とてもお似合いですわ。
    それにしても大きな馬・・・
    雪国の馬は皆こんなにも大きいのかしら?

サナウ:この馬は特別じゃよ。
    重い荷を積んだ雪橇(ユキゾリ)を豪雪の中、曳く為に
    体の大きな馬の飼育が盛んになったのが始まりじゃが、
    今はその力強さを買われて、軍馬としての飼育がされておるのじゃよ。

コニー:ヨシヨシ、本当に太い足。

エド:それで、ユーリー殿から教えて頂いた伝承では、
   聖剣の在り処は何処だと伝えているのですか?

サナウ:う〜む・・・伝承は、
    『雪の乙女が舞う谷の 朝日差す窓、光満ち
     全ての闇を断つ陽の光 聖なる大牙ここにあり
     真の勇者を待ち眠る 闇の眷属、討ち払い
     太陽を翳(カザ)す約束の日まで・・・』
    こう謳っておるだけじゃ・・・

エド:雪の乙女が舞う谷・・・
   これが場所を表しているんですよね?

サナウ:そうじゃろうが・・・
    雪の乙女が舞う谷というのが、雪が降る谷を表しておるのなら・・・
    この雪の国ローゼルクでは場所を特定するのは困難じゃぞ?

コニー:朝日差す・・・って事は東から光が差すって事でしょ?
    つまり谷は南北に伸びているって事じゃないかしら?

グレイ:この国は山脈が東西に広がっているからな・・・
    谷が南北に伸びてるっていやぁ・・・
    フェンリル峡谷とキャスカル峡谷ぐらいだな・・・

エド:二つしか無いんですか?

グレイ:ああ、部分的に朝日が差し込む場所は他にもあるだろうが・・・
    それじゃ逆に数が多すぎて探しきれん、
    聖剣の在り処を伝承として残しているのなら・・・
    谷全体が南北に伸びた所だろうが・・・

サナウ:ローゼルク山脈の峡谷は皆、東西に伸びておると言うのじゃな?
    その二つの峡谷を除いては・・・

グレイ:ああ、そうだ。

エド:じゃあ、二つの谷はどっちがここから近いんですか?

グレイ:キャスカル峡谷だな。
    ここから北西に一日程だな・・・

エド:なら早速、向かいましょう!

グレイ:ああ、



シーギス:奴等はキャスカル峡谷に向かうのか・・・

シュティ:私達はフェンリル峡谷に向かおうか?

シーギス:いや、奴等の後を追おう・・・
     聖剣よりも奴等の始末が先決だ。

シュティ:そうね・・・

シーギス:それにキャスカル峡谷が本命かも知れんしな・・・



コニー:防寒装備を着込んでも・・・寒いですわね・・・

グレイ:山道に入れば風も強いし気温も下がる。
    馬車の幌に入っていたらどうだ?

コニー:ごめんなさい、そうさせて頂きますね。

グレイ:慣れてねぇだろうからな。
    気にすんな・・・

エド:グレゴールさん、そろそろ日が暮れて来ますよ。

グレイ:仕方ねぇ・・・道の広い所見つけて野営にしよう・・・

エド:そうですね。



シーギス:如何やら奴等は野営するようだな。

シュティ:では我々も・・・

シーギス:シュティーナ・・・

シュティ:わかっている・・・奴等から目を離すつもりはない。

シーギス:いや・・・そんな事は心配していない。
     ・・・・俺達以外にも奴等を追う奴等がいるのか?

シュティ:報告は受けていない。
     ・・・でも、誰かいるのは確かだ・・・

シーギス:お前も気付いていたか・・・

シュティ:ええ、獣の気配だ・・・

シーギス:ああ、狼か何かかと思っていたが・・・

シュティ:その類の獣ではない。が・・・
     人の気配でもない・・・

シーギス:気付いているなら問題ない。

シュティ:辺りを見回ってくる・・・

シーギス:嗚呼・・・・



サナウ:これは、なんとも・・・効く酒じゃな!?

グレイ:この地方では錬金術師が生み出したとされる
    酒を蒸留して作られる火酒(カシュ)が好まれている。
    爺さんも昔は、このローゼルクに居たんじゃなかったか?

サナウ:当時は酒など嗜(タシナ)まない主義だったでな。
    ローゼルクウイスキーについての蘊蓄(ウンチク)だけなら
    お主以上に知っとるがの・・・
    口にするのは初めてじゃ。

エド:喉が熱い・・・て言うか、痛いですね。

グレイ:でも、身体が温まるぜ?

エド:確かに・・・

コニー:・・・私は葡萄酒で結構ですわ。

エド:俺も次からは葡萄酒にします・・・

グレイ:くっくっくっだらしねぇな〜

サナウ:グレゴール殿は変わられたのぉ・・・

グレイ:何がだい?

サナウ:初めてあった時は今程・・・多弁ではなかったじゃろ?
    どこか自分を他人を見る様に振舞っていた節が有った。

グレイ:確かにそうかも知れねぇ・・・

エド:そうですか?
   俺の知ってるグレゴールさんは最初から
   今みたいな感じでしたけど・・・

グレイ:俺はエドワード卿の事が好きだぜ?

エド:いきなり何ですか!?

グレイ:エドは俺なんかよりも強ぇ・・・
    正直、俺は剣の腕にゃ自信を持ってる。

エド:そうですよ、グレゴールさんだって
   騎士団の中で比べても強い方だと思いますよ?

グレイ:しかし、お前の方が腕は立つだろ?

エド:まぁ・・・・負けない自信はあります。

グレイ:ははっ・・負けない自信ね・・・言ってくれるな。
    ・・で、だ・・・・俺は傭兵だ。
    そして傭兵は常に命の保障などされていない。

サナウ:代わりの利く戦力、急場凌ぎに集めるのが傭兵じゃ
    捨て駒に一番され易いじゃろうな?

グレイ:ああ、剣の訓練なんざは飯のタネ
    だから命が惜しけりゃ自主的にするしかねぇんだが・・・
    傭兵が皆・・俺程、剣の訓練をする時間があった訳じゃねぇ

コニー:・・・・亡くなられた、傭兵仲間の皆さんの事・・・ですか?

グレイ:そうだ。
    俺が知る限りの傭兵の中では、俺が一番実力があった。
    ・・・ま、戦友の絆ってのは案外強いもんでなぁ〜
    いくつかの戦場を共にすりゃ、イケ好かない野郎でも
    どこか絆みたいなもんが出来上がってた。

エド:それは騎士や兵士にだってあります。
   グレゴールさんの事だって、ただの傭兵として見てませんし

グレイ:俺もだ。
    だが、俺の戦友達はお前程強くなかった・・・
    だから俺が生き残れてもあいつ等は死んじまった・・・
    お前は俺が勝てない相手でも勝つかも知れねぇ
    ・・・・先に行っちまう事がねぇって事だ。

エド:グレゴールさん・・・

グレイ:ムカつくんだよ!!(笑)
    俺の自信を打ち砕きやがって・・・嫉妬するぜ!?まったく・・・

エド:あはは!やめて下さいよ〜

グレイ:けど、コイツは自分より強いんだって思うと
    なんだかホッとするんだよ・・・

コニー:グレゴール様・・・
    それで明るくなる事が出来たのですね・・・

サナウ:いい傾向じゃ・・・辛気臭い男との長旅は御免被(ゴメンコウム)るからの。

グレイ:ま、気が付いたら楽しくやってたってだけの話さ。

コニー:ほら、シチューが温まりましたよ?
    空腹にあまりお酒を飲んでは・・・胃が荒れますわ。

グレイ:そうだな!

サナウ:しっかり食べて体力をつけておくのじゃ・・・
    敵はいつワシ等を狙って来るか分からんからの。

コニー:でも、火を焚いても良かったんですの?

サナウ:敵に居場所を悟られんか・・という事かの?

コニー:はい。

サナウ:相手はランスフォード卿達を襲った暗殺者部隊じゃろう・・・
    目立たぬ様にしておっても、動きは悟られるじゃろうて・・・

グレイ:そういうこったな。

コニー:素直に喜んで良いのか、分かりませんわね・・・

エド:それより折角のシチューが冷めてしまいますよ?
   はい、コニーさん、パンと干し肉です。

コニー:有難うございます。



シュティ:これは・・・人の足跡?
     まだ新しい、私達をつけている気配は人間って事?
     目的が分からない以上、これ以上動く訳にいかないわね・・・
     戻るとしましょうか・・・



シーギス:ん?シュティーナ・・・戻ったか?

     ・・・・・

シーギス:っ!?
     ・・・・お前は何者だ!!

シュティ:大丈夫!?シーギスムンド!!

シーギス:ぐはっ!!・・・・チッ!バケモノが!!

シュティ:おのれ!・・・・ハァァー!!

シーギス:ぬぅ・・・今のを躱(カワ)すのか!?

シュティ:獣の気配の正体はこいつか!?

シーギス:不意を衝かれたが・・・こちらの番だ!

シュティ:待て!逃がすか!!


シーギス:なんて素早さだ・・・くそっ逃げられたか・・・

シュティ:あれは何なの!?

シーギス:分からん・・・人間には違いなかろうが・・・

シュティ:あんたに手傷を負わせるなんて・・・
     しかし、まともな人間ではなさそうね・・・



シーギス:俺を襲った身の丈8フィートはあろうかという
     白装束の大男・・・
     巨体に似合わぬ敏捷さであり
     その身から漂う気配は肉食獣のそれだった・・・
     不意を衝かれ手傷を負ってしまったが・・・
     此れしきの傷ならば問題あるまい・・・
     だが、あの騎士共の追跡は一旦諦めねばなるまい・・・
     手の者に監視を命じ後を任せると
     俺達は踵を返した・・・如何やら、もう一つ仕事が増えたようだ・・・





                  二十三章へつづく・・・
                           次回に続く。