三騎士英雄譚〜第二十五章〜 サナウジャール(54歳)男 セルジア伯爵領の山地に住む野盗の頭。 元、宮廷占星学者であり、隠居の身にあった。 伯爵夫人の横暴から領民を守る為、現在野盗に身を落としていた。 コルネリア・ケアード(21歳)女 愛称=コニー アスエル教団の女司祭。ガルビア・フォン・クライセン枢機卿の姪にあたる。 薬草学に精通しており、治療行為は得意としているが 人前に立つ説教は苦手で、布教活動をする事は少ない。 イリーナ・アヴェルチェフ(21歳)女 ローゼルク人のアスエル教会騎士 槍を使う女聖騎士。 信心深く、争いを好まない。 マイア・アスタフィエフ(19歳)女 ローゼルクの吸血鬼 小剣と短弓の名手。 透き通る白い肌と流れる美しい金髪を 黒い毛皮の帽子と外套で隠している。 舞台説明 イリーナN:セルディア王国で内乱を企む一派として シーギスムンド卿が追っていた筈のエドワード卿一行に助けられ 一命を取り留めた私は・・・ 一行に居たガルビア枢機卿の姪であるケアード司祭等と共に ベルホルムの街へと下り、教会でケアード司祭から治療を受けていた。 コニー:とりあえず傷口は塞がったわ・・・ イリーナ:ケアード司祭・・・お手数、痛み入ります。 コニー:でも、まだ身体を動かすのは厳禁よ? 臓腑(ゾウフ)が傷ついているのですから。 イリーナ:分かりました。 ところで・・・人狼の・・・いえ、あの少女の様子は如何ですか? コニー:傷は大した事ありません。 でも、あの雪の中、気を失っていたのが祟ったのでしょう・・・ まだ意識が戻らないようで・・・ イリーナ:そうですか・・・ あの・・本当に彼女を助けるおつもりなのですか? コニー:ええ、サナウジャール様が仰ってた様に、 彼女は人狼などという怪物ではないのですから。 それにエドワード卿は彼女を助ける為に、 ここに連れて来させたのですよ? イリーナ:そうでしたね・・・ でも、我々を襲って来た事は事実・・・ 気が付けば、また襲って来るのではないでしょうか? サナウ:武器も鎧も取り上げておる。 それに両手は縛ったままじゃからな。 観念するじゃろうて・・・ 話も聞かねばならんしの。 コニー:それにしても、グレゴール様達・・・・遅いですわね。 サナウ:エドワード卿とグレゴール殿は徒歩じゃからな。 まだ数刻掛かるじゃろう? イリーナ:申し訳ありません・・・ シーギスムンド卿を一刻も早く追いたいのでしょうに・・・ 私の為に足止めをさせてしまって・・・ サナウ:確かに一刻も早くフェンリル峡谷へと向いたい・・・じゃが、 傷ついた者を捨て置くのではガルビアの連中と変わらん。 コニー:そうですわ。 それに彼女が目を覚ませば、何か分かるかも知れませんもの。 サナウ:ワシ等の聖剣の探索は、ガルビア枢機卿が 聖剣を狙っとると分かったから始めたモノじゃ。 じゃから戦略上では大した意味は持っとらん。 コニー:そんな事を言われては・・・エドワード卿が落胆なさいますわ。 サナウ:そうじゃのぉ・・・ しかし、いくら優れた剣であっても、 人の命と秤に掛けられんという事じゃよ。 イリーナ:聖剣とは一体何なのでしょうか? サナウ:そうじゃな・・・二百年も前に鍛えられ、 幾度もの戦に使われておるというのに 刃毀(ハコボ)れ一つしないと言う伝説の剣。 ワシもつい最近まではアスエル教会が神秘性を高める為に作った 寓話(グウワ)の一つじゃと思っておった。 イリーナ:教会が伝説を捏造(ネツゾウ)するなどありえません! サナウ:・・・・まぁ、興奮なさらぬな、 聖剣は実際に実在したのじゃ。 アシュレイ海運商会のギルバート提督が『月の湾曲刀』を所持しておったし 『星の剣』はサーバルド卿がガルニア要塞へと持ち帰った。 ならば最後の一振り『太陽の大剣』も実在するはずじゃ。 マイア:太陽の大剣は我等の秘宝だ。 コニー:気が付かれましたのね? マイア:不覚を取った・・・殺すならば早く殺せ・・・ イリーナ:仲間を襲った貴女を許す事は出来ない・・・今すぐ斬ってあげる。 ・・・・って言いたいけど、 この方達は貴女を助ける為にここまで連れてきたのよ。 マイア:情けなどいらない!・・・くっ、 コニー:まだ動いてはいけないわ。 肋骨に罅(ヒビ)が入っているのよ? しばらくすれば熱も出てくるわ。 マイア:私はあんた達を襲った人狼なのだろう? どうして助けようとする・・・ サナウ:人狼ではない。お主はフライデスの民じゃろう? マイア:お前!?我々を知っているのか!? サナウ:ローゼルク王国建国前からこの地に住む先住の部族じゃな? 太陽を信仰する山岳部族と聞いておったが・・・ 太陽とは天の太陽ではなく『太陽の大剣』の事であったのか? マイア:あんた達は私達の太陽をどうするつもりだ? コニー:太陽・・・聖剣の事ね? 貴女方が襲ったシーギスムンドという男の雇い主が 聖剣を狙っているの。 私達は三聖剣の一振り『星の剣』を手にしているわ 残りの『月の湾曲刀』も私達の協力者が所有しているの。 マイア:つまり我々の太陽もその男に狙われているのか? サナウ:狙っておるのは、ワシ等も同じじゃ、 しかし、ガルビアという男の手に渡す訳にはいかんでな。 マイア:我々の太陽は誰の手にも渡さん! あれは我々の宝なのだ! サナウ:フライデスの民にとって太陽とは一体何なのじゃ? マイア:我々フライデスの民はこの氷の大地に住み 常に飢饉や寒さと戦って来た・・・ 今より二百年前、この地に降り立った太陽の使者は この極寒の地に暖かな陽の光を・・・豊穣なる大地を与える為 一振りの剣を我等に授けた。 コニー:それが『太陽の大剣』ね・・・ マイア:その剣は氷の山を打ち砕き、我等に安住の地を与えたのだ。 しかし、程なくして闇の眷属が現れ、我等の太陽を奪いに来た。 我々は闇の眷属と勇敢に戦ったが、ついには破れ・・・ また太陽は力を使い果たし、我々は不毛の地へと追いやられたのだ。 サナウ:それが二百年前の出来事だというのか? マイア:そうだ。 サナウ:二百年前・・・ ローゼルクの前身国のコートベルグが建国された時期じゃな 闇の眷属とはコートベルグの軍の事かも知れんの。 マイア:我々の太陽は闇の眷属を打ち払う力がある・・・その時まで、 我等が守らねばならない! サナウ:『雪の乙女が舞う谷の 朝日差す窓、光満ち 全ての闇を断つ陽の光 聖なる大牙ここにあり 真の勇者を待ち眠る 闇の眷属、討ち払い 太陽を翳(カザ)す約束の日まで・・・』 伝承のままじゃな・・・ マイア:どうしてその詩(ウタ)を!? コニー:ユーリー・アルゲエーフ殿が教えてくださった この探索の切っ掛けになった伝承ですの。 マイア:その詩(ウタ)は我等フライデスに伝わる詩(ウタ)だ。 サナウ:やはりの・・・・ コニー:しかし『太陽の大剣』が彼女達フライデスの民にとって それ程大切な物なら・・・ 我々が奪い去って良い物では無いようですね・・・・ マイア:お前達は・・・太陽を持ち去る為にこの国に来たのではないのか!? コニー:それは、そうですが・・・ 譲って頂ける物ではありませんでしょ? マイア:当たり前だ・・・ イリーナ:やはり貴方がたが正しき人達の様ですね・・・ シーギスムンド卿からは、正義が見えませんでした。 けど、貴方がたからは・・・正義の志しが見えます。 サナウ:正義とな・・・?ふぉっふぉ・・イリーナ殿は信仰深い事じゃな・・・ マイア:そのシーギスムンドとかいう奴が太陽を狙う男だったな? ならば、そのシーギスムンドを始末しなくてはな・・・ サナウ:それで、じゃ・・・お主の話と伝承を合わせて考えるとじゃな 二百年前にフライデスの民は太陽の使者に連れられ 現在のローゼルク国内にある、穀倉地域に移り住んだのじゃろう・・・ しかしコートベルグを建国の際、 コートベルグの侵略者はフライデスの居住地を襲い 元居た山岳に追いやった・・・という事じゃないかの? マイア:つまり太陽を使ってローゼルク王国を・・・ 闇の眷属の末裔を滅ぼせば良いと言うのか? サナウ:最早フライデスの民の力では王国を相手取って戦を起こすなど出来まい それにじゃ、ローゼルクは闇の眷属の末裔ではないぞぃ? コートベルグを討ち滅ぼし、ローゼルクは建国したのじゃからな。 マイア:では何が言いたい!? サナウ:フライデスの民の存在はローゼルク国内でもあまり知られてはおらん。 山岳に住む部族としてでなく、ローゼルク国の民として フライデスの民の住む領地を割譲(カツジョウ)してもらう事じゃ。 マイア:ローゼルクの王がそんな事をする筈ないだろう! サナウ:それをする為に太陽を使うとすれば・・・ 伝承通りになるじゃろう。 イリーナ:フライデスの民の為に我が国の領地を割譲(カツジョウ)するですって!? コニー:アスエルの三聖剣はアスエル教団にとっても聖武具。 フライデスの民が聖剣の所有を主張する限り、 いずれ大きな戦になりますわ。 それを避ける為にも和解は必要だと思うの・・・ サナウ:それにワシ等も出来る事ならば聖剣を持ち帰らねばならんからの。 ところで伝承の「真の勇者を待ち・・・」の一節にある様に 太陽の所有者は勇者でなくてはならん。 じゃが、エドワード卿ならば聖剣を持つに相応しい勇者でもあるし セルディア王国の使者として ローゼルク国王への謁見も叶おう。 マイア:イーゴリを退けた男か・・・ その言葉は信じろと言うのか? サナウ:まずはフライデスの民にエドワード卿が勇者である事を 納得させねばならぬがな・・・ コニー:それよりシーギスムンド達に先を越されない様にしなくては・・・ フライデスの集落に行ってエドワード卿を勇者と認めさせる事も 重要ですけど肝心の聖剣が無ければ意味がありませんもの・・・ エドワード卿達が戻り次第、フェンリル峡谷に向わないと、 マイア:それならば問題ない・・・フェンリル峡谷には太陽を奉る祠と 祠を守るフライデス最大の集落がある。 コニー:ではフェンリル峡谷に向えばどちらも上手くいくのね? サナウ:上手くいくかは、まだ決まっておらんがの? イリーナ:フライデスの民が人狼でないと判れば 教会も矛を収める筈です。 私はその事をローゼルクの大司教様に伝えなければ・・・ コニー:それはまだ無理よ・・・ 貴女の傷は貴女が思っているより深いわ。 今、無理に動いては臓腑からの傷で死んでしまう事もあるのよ!? イリーナ:それでも・・・休んでいる訳にはいかないですもの! コニー:分かったわ・・・なら、私は貴女の治療の為に残りますわ。 イリーナ:ケアード司祭・・・ コニー:私なら教会にも顔が利く筈ですしね。 サナウ:ならばケアード司祭はイリーナ殿を宜しく頼みますぞ。 そう言えばお主、まだ名を聞いておらなんだな? マイア:マイア・アスタフィエフだ。 サナウ:ではマイア殿、お主にはフェンリル峡谷の集落までの案内を頼むぞ? マイア:わかった・・・だが、お前の話が嘘であったなら・・・ その時はお前から殺すからな・・・? サナウ:それで構わんよ。 イリーナ:この数刻後エドワード卿とグレゴール殿が帰還され サナウジャール殿、そしてフライデスの少女マイアと共に 休む間もなくフェンリル峡谷へと出発された。 私はケアード司祭に明日までは動いてはならぬと 言い聞かされ、引き続き治療を受ける事になったが、 これ以上、誤解からの殺し合いなど、急いで止めなくてはならない。 聖職者たる教会の者が無意味に殺生を重ねていたなど・・・ しかし、エドワード卿一行との出会いは 光神(コウシン)アスエルのお導きであったに違いないのだ・・・ この試練を乗り越える為の誓いを立てると、 何時の間にか私は眠りについていた・・・ 二十六章へつづく・・・ 次回に続く。