三騎士英雄譚〜第二十六章〜

エドワード・レザースミス(23歳)男 愛称=エド
セルディア王国第六近衛騎士団所属。
革鎧職人の息子として生を受け16歳で戦時召集により兵士となる。
王都で開催されたトーナメント(馬上試合)の前座で行われた
勝ち抜き剣術試合で脅威の60人抜きを果たし近衛騎士の叙勲を受ける。
民衆寄りの考え方から上官との諍い(イサカイ)は絶えないが
剣の腕は王国一とも大陸一とも噂される。

グレゴール・ファントム(25歳)男 愛称=グレイ
エスティア人の傭兵。
通り名は死神グレイ。彼は今まで危険な任務をこなして来たのだが、
その為、彼の戦友のほとんどは戦死を遂げている。
戦場から、ただ一人生き帰る彼を傭兵仲間は死神だと噂するようになった。
無口で一見、無骨だが本当は心優しい男。

サナウジャール(54歳)男
セルジア伯爵領の山地に住む野盗の頭。
元、宮廷占星学者であり、隠居の身にあった。
伯爵夫人の横暴から領民を守る為、現在野盗に身を落としていた。

マイア・アスタフィエフ(19歳)女
ローゼルクの吸血鬼
小剣と短弓の名手。
透き通る白い肌と流れる美しい金髪を
黒い毛皮の帽子と外套で隠している。

アラム・ブラゴヴォリン(38歳)男
ローゼルクの吸血鬼
関節を破壊する関節技の使い手。
大鎌を持ち黒装束に身を包んでいる。

ロジオン・フライロフ(65歳)男
氷狼の部族の族長
フライデスの民を束ねる大族長でもある。
次期大族長にアラムを押している。

舞台説明



エドN:聖剣を奉じているフライデスの民に接触する為
    負傷したイリーナさんとその治療に当るコルネリアさんを残し
    フライデスの民の少女マイアさんの案内で
    フェンリル峡谷へと向っている。
    ガルビア内務大臣の刺客シーギスムンドも
    フェンリル峡谷へと向ったとの情報もあり
    油断の出来ない状況が続いている。

グレイ:まったく、こっちに来てからまともな休息を取った記憶がないな・・・

サナウ:仕方なかろう・・・シーギスムンドめに先を越される訳にはいかんのじゃ
    フェンリル峡谷の集落に着けば一息はつけよう・・・

マイア:エドワード・・・

エド:どうしました?

マイア:・・・いや、なんでもない。

エド:はぁ・・・

グレイ:で、嬢ちゃん・・・その集落ってのは、まだ遠いのかい?

マイア:まだ峡谷に入ったばかりだ!
    シーギスムンドとやらを警戒して谷を迂回するのだろう?
    これからが険しい道程(ミチノリ)だ。

グレイ:そりゃ、有難い話だな・・・

エド:疲れてるのはみんな同じなんですよ!
   マイアさんだって、グレゴールさんから受けた傷が治り切ってないのに
   こうして案内してくれてるですよ?

グレイ:そりゃ俺のせいじゃねぇよ。
    お互い覚悟の上での戦いだったんだからよ・・・

マイア:別に恨んでなどいない。

グレイ:そいつは良かった。

サナウ:無駄口を叩く体力があるなら、ワシの荷物でも運んでくれ。

グレイ:まったく・・・仕方ねぇな〜

エド:あ、足元、滑りますから気を付けてくださいね。

マイア:そんな事より急ぐんだろ?
    早く行くぞ!

【フェンリル峡谷、氷狼の集落】

ロジオン:おぉ、アラムよ。

アラム:大族長、お久しぶりです。

ロジオン:去年の族長会議ぶりかの?

アラム:そうですね・・・そうなります。

ロジオン:して、今回は何の用じゃ?
     ただジジイの顔を見に来た訳でもあるまい?

アラム:はい。我等の太陽を狙う輩が、
    此方に向っております。

ロジオン:平地の民か?

アラム:はい。教会が腕の立つ余所者と共に、
    太陽を奪おうと、この谷に向っておる様です。

ロジオン:お主の腕でも手に余るのか?

アラム:今回はどうも数が多い。
    私共だけでは・・・・

ロジオン:それで氷狼(ヒョウロウ)の力を借りようと言うのだな?

アラム:はい。氷狼(ヒョウロウ)の戦士をお借り出来ないでしょうか?

ロジオン:我が集落の戦士も年々、人数が減っておるでな・・・
     二十人程ならお主に付けてやれるがの・・・

アラム:それ程、部族の戦力は衰えているのですか!?

ロジオン:ここ数年、平地の民との諍(イサカ)いが絶えなくての・・・
     最近になって教会の戦士が我等を躍起(ヤッキ)に
     追いまわしてきよる。

アラム:最早、我々の力ではこの流れを変えられぬのかも知れませんな・・・

ロジオン:何を気弱な事を・・・
     我等フライデスの民は誇り高き民族。
     我等が滅ぶ事などないのじゃ。

アラム:太陽が待つ勇者が現れるとお考えなのですか?

ロジオン:そうじゃ、ワシはの・・・
     お主こそがその勇者ではないかと考えておる。

アラム:私が・・・?

ロジオン:そうじゃ!我がフライデスの歴史において
     お主程、武勇に長けた者はおらんかったじゃろう。
     太陽が待つ勇者はお主に違いない。
     この度の平地の民の侵略・・・
     太陽を以ってお主が防いでみよ!

アラム:私に太陽を!?

ロジオン:侵略を防いだ暁には、お主を勇者として認め
     大族長の座をお主に譲ろうと考えておる。

アラム:ご引退なされるか?

ロジオン:アラムよ、ワシももう歳じゃ・・・
     そろそろ若い者に代を替わるべきじゃろう・・・

アラム:そうですか・・・
    分かりました。この度の戦い、必ず勝利してみせましょう・・・

ロジオン:頼んだぞ。



マイア:ここが我等フライデスの最大の集落『氷狼(ヒョウロウ)の集落』だ
    
グレイ:最大の・・って

サナウ:思ったより小規模じゃな。

マイア:仕方ないのだ・・・フライデスの民はこの山脈に住むしかない
    麓に降りればローゼルクの民と争いになるからな・・・
    だが、こんな山中では食物も満足には手に入らん。

エド:それは・・・そうですね・・・

マイア:だから人口も増える事はない・・・いや、増えても養えぬのだ。
    その上、最近は教会が我等を人狼と称して狩り、
    集落の戦士も数を減らしている。

エド:ローゼルク国はフライデスを人狼だと思い・・・
   フライデスの民はローゼルクを闇の眷属の末裔だと思っている。
   この誤解を解かない事には・・・

サナウ:そうじゃ、いずれ戦が起こり、弱体化したフライデスの民は
    滅ぼされるであろうな・・・

エド:でも『太陽の大剣』を俺なんかに預けてくれるでしょうか?

サナウ:その為にはフライデスの民にお主が勇者である事を
    認めさせねばならん。

エド:・・・俺が・・勇者ですか・・・

サナウ:シャルル卿もランスフォード卿も
    エドワード卿が『太陽の大剣』を持つに相応しいと
    言ってくれておるのじゃろう?

エド:それはそうですが・・・

サナウ:まぁ簡単には認めてはくれぬじゃろうが・・・
    ワシはエドワード卿ならば
    このフライデスの民とローゼルク王国の和解の架け橋に
    なる事が出来ると信じておるよ。

エド:しかし、聖剣がフライデスの民にとって秘宝であるなら
   このままフライデスの宝としておいた方が良いのではと・・・

サナウ:聖剣を欲しておるのはワシ等だけではない。
    ガルビアもシーギスムンドという暗殺者を使い、狙っておるのじゃ
    もし、聖剣がガルビアの手に渡れば、
    ワシ等にとっても、フライデスの民にとっても本意ではあるまい。

マイア:そこの爺(ジジイ)が先日言った様に
    我等フライデスの未来を約束してくれるならば・・・
    私は太陽をお前に譲る事は厭(イト)わない。
    だがローゼルクの王が我々に領地を割譲しないのであれば
    この話はなかった事になるぞ!

エド:それについてなら・・・策はあります。

マイア:・・・私は・・・・

エド:はい・・・?

マイア:私は、お前が本当に勇者なのかも知れないと思っている。

エド:俺が・・・ですか?

マイア:ふんっ、勘違いするなよ!?
    私は、お前が勇者で、このフライデスを救ってくれるのならば
    歓迎したいと考えているだけだ!

グレイ:なんだ?嬢ちゃん顔が赤いぜ?

マイア:ふざけるなっ、・・・・風で冷えただけだ!

グレイ:そーかい。


ロジオン:マイアか・・・その者達はなんじゃ?

マイア:南の国より太陽を求めてきた者達です。

ロジオン:太陽をじゃと!?

マイア:我等の伝承の詩(ウタ)を知る者です。

ロジオン:なんじゃと?

マイア:我こそは太陽が待った勇者であると・・・
    そしてこの者達は、私と・・・我が同志イーゴリを破っております。

ロジオン:それで軍門に降りここへ連れてきたのか?

マイア:いいえ、私も彼等を信じてみたいと思ってます。
    それに勇者のエドワードは・・・
    ローゼルクの領土を割譲させ我々フライデスの民に
    安住の地を与える事が出来ると・・・話しています。

ロジオン:平地の民の土地を我等にとな?
     そんな事が本当に出来ると思っておるのか?

マイア:私も信じられません。ですが・・・
    それが出来るなら太陽の待つ勇者であるのではないかと・・・

ロジオン:確かにの・・・
     しかし残念じゃが、太陽はもう既にアラムに預けた。
     今は集落の戦士と共に、教会の刺客を迎え撃っておる。
     戦いに無事勝利すれば、アラムを次の大族長とし
     太陽を譲るつもりじゃ。

エド:教会の刺客?シーギスムンド達ですね・・・

ロジオン:お主が勇者か?

エド:はい・・・まぁ。

ロジオン:ワシは我が部族のアラムこそが勇者じゃと思っておる。
     じゃが、イーゴリを破ったお主は優れた戦士である事は認めよう。
     因(ヨ)って、集落での滞在は許す。
     マイアよ、この者達の世話はお主の責任で任せるぞ?

マイア:・・・・はい。



グレイ:ぉ〜寒・・・なぁ、もっと薪をくべてくれよ・・・

マイア:無駄にする薪などない!

エド:この小屋はマイアさんのものなんですか?

マイア:いや、猟師が使っている小屋だ。
    冬場は猟に出ても獲物が取れないからな・・・
    冬の間は使っていない。

サナウ:しかし戦士として認められたのは良いが・・・
    聖剣はアラム殿とやらに渡されておったか・・・

マイア:アラムは私の集落の族長・・・
    大鎌使いの戦士だ。

グレイ:大鎌か・・・俺より死神の名が似合いそうだな。

エド:如何しましょう?

サナウ:とりあえずアラム殿が帰って来る迄、待つしかあるまい

エド:そうですね・・・

【フェンリル峡谷】

アラム:やはり、あの数では勝てぬか・・・
    それにあの男・・・私と一対一でも互角の勝負をするかも知れん・・・
    ・・・・・
    皆の者!ここは一時退却だ!!
    殿(シンガリ)は私が引き受ける!負傷した者を先頭に集落まで退け!!
    ・・・・どうやら太陽が待った勇者は私ではないようだ・・・
    このまま滅びの道を進むしかないのか・・・
    しかし・・・この戦いで滅ぶ訳にはいかん!
    皆が無事退却するまでは・・・この先には私が通さぬ!!

【フェンリル峡谷、氷狼の集落】

ロジオン:アラム!?これは如何した事じゃ・・・?

アラム:大族長・・・私の力が及ばず・・・

ロジオン:それで敵は?敵は如何なったのじゃ!?

アラム:数名は斬り伏せましたが・・・
    まだ大勢の戦士を以(モ)ってこの集落に向って来ております・・・

ロジオン:皆の者!!戦の準備じゃ!

サナウ:大族長殿・・・お待ちなされ。

ロジオン:お主は先程の・・・

サナウ:ここはワシ等に任せてはくれんか?

ロジオン:何?お主等が教会等を追い払ってくれると申すか?

サナウ:然様(サヨウ)、部族の者は集落の守りに徹して下され。

ロジオン:・・・・よし、ものは試しじゃ、お主等に任せよう。
     皆の者!!守りを固めよ!
     我等の集落を守るのじゃ!!



グレイ:シーギスムンド率いる聖騎士と暗殺者の奇妙な連合軍が
    氷狼(ヒョウロウ)の集落へと迫っている。
    爺さんの秘策を携え、集落を出る俺とエド。
    それにしても・・・全く、無茶を言うぜ・・・あの爺さんはよぉ
    折角、暖まった体がまた冷えて来やがった・・・
    緊張の迫る峡谷の集落に谷を吹き抜ける凍える冷気が
    甲高い鳴き声を上げていた・・・





                  二十七章へつづく・・・
                           次回に続く。