三騎士英雄譚〜第二十七章〜

エドワード・レザースミス(23歳)男 愛称=エド
セルディア王国第六近衛騎士団所属。
革鎧職人の息子として生を受け16歳で戦時召集により兵士となる。
王都で開催されたトーナメント(馬上試合)の前座で行われた
勝ち抜き剣術試合で脅威の60人抜きを果たし近衛騎士の叙勲を受ける。
民衆寄りの考え方から上官との諍い(イサカイ)は絶えないが
剣の腕は王国一とも大陸一とも噂される。

グレゴール・ファントム(25歳)男 愛称=グレイ
エスティア人の傭兵。
通り名は死神グレイ。彼は今まで危険な任務をこなして来たのだが、
その為、彼の戦友のほとんどは戦死を遂げている。
戦場から、ただ一人生き帰る彼を傭兵仲間は死神だと噂するようになった。
無口で一見、無骨だが本当は心優しい男。

マイア・アスタフィエフ(19歳)女
ローゼルクの吸血鬼
小剣と短弓の名手。
透き通る白い肌と流れる美しい金髪を
黒い毛皮の帽子と外套で隠している。

シーギスムンド・ベールヴァルド(26歳)男
エスティア人の暗殺者
ミカエルの側近であり腕利きの暗殺者

シュティーナ・リンドホルム(23歳)女
エスティア人の暗殺者
踊り子の一員として身を潜めている。
マデリーネと偽名を名乗る。

イヴァン・ビリュコフ(26歳)男
ローゼルク人のアスエル教会騎士
戦斧を愛用する豪腕の聖騎士
ガルビア枢機卿からの依頼によりシーギスムンド等に協力する。

舞台説明



イヴァンN:聖剣の探索の為フェンリル峡谷に向った我々の前に
      二十名余りの人狼が行く手を阻む。
      我が教会騎士団とシーギスムンド卿等の活躍により、これを撃破。
      すごすごと撤退する人狼を追撃するも
      死神の如き魔物に道を塞がれ、壊滅の期を逃してしまった・・・
      如何やらこのフェンリル峡谷には魔の気配が漂う様である。

シーギス:逃げられたか・・・

イヴァン:しかし、傷を負わせました。
     今ならまだ追撃出来ましょう。

シーギス:深追いは禁物だ・・・

イヴァン:しかし・・・

シュティ:周りを良く見ろ!
     傷ついたのは化け物共だけじゃない。

シーギス:先を急ぎたいのは我々も同じだ。
     しかし、今は傷を負った者の手当てをせねば
     この先の戦力にならない。

シュティ:聖騎士ってのは医学の心得もあるんだろ?

イヴァン:専門ではありませんが・・・まぁ・・・

シュティ:ならさっさと仲間の傷を見てやりな!

シーギス:よし!一時間の休息だ!
     動ける者は天幕を張れ!負傷者は治療を受けるんだ!

イヴァン:傷の深い者から手当てをする!
     おぃ、手が空いてるなら火を熾して、
     消毒に使う酒を持ってきてくれ。

シュティ:流石だねぇ・・・手馴れてるじゃないか?

イヴァン:薬草学は得意ではありませんが・・・
     傷の応急手当には自信がありますからな。

シーギス:この分なら負傷による戦力の低下は抑えられそうだな。

イヴァン:お恥ずかしい・・・先程は興奮の余り、冷静さを欠いていた様です。
     あのまま深追いしていれば被害はもっと深刻になってた事でしょう。

シーギス:奴等の方が負傷が酷い筈だ。
     当分は引き返しては来ないだろう。

イヴァン:仰られる通りです。
     流石はガルビア猊下の家臣であられますな・・・
     人命を第一に考えておられる。

シーギス:人命など考えていては戦など出来るものか・・・

イヴァン:・・・なるほど、敵の命を奪う事も戦の摂理。
     深いお考えです・・・感服致しました。

シーギス:まぁ如何取って貰っても構わんが・・・

シュティ:まぁ良いじゃないのさ。
     腕も立つし、治療の心得もある。
     案外、役に立つじゃないの?

【フェンリル峡谷、崖壁】

エド:うわぁっ!!?

グレイ:エド大丈夫か!?

エド:くっ・・・何とか・・・

グレイ:まだ道程(ミチノリ)は中盤だぜ?

エド:ふぅ・・・崖登りって慣れてなくて・・・

マイア:手古摺(テコズ)ってる様子ね。

エド:マイアさん!

マイア:この崖を登るつもり?

エド:はい。あの突き出した岩のあたりまで行く予定なので・・・

マイア:それならこっちよ。
    このまま進んでもあんた等なら途中で滑落しておしまい。
    さぁ、着いて来なさい。

グレイ:ちっ・・・で、嬢ちゃんは集落を守ってなくていいのかい?

マイア:集落にはアラムも他の戦士達もいる。
    私一人が居なくても変わる事はない。

グレイ:そうかい?ま、道案内してくれるなら
    有難いがね・・・

マイア:大族長からお前達の事は任せられている。
    何かあれば責任を取るのは私だからな。

エド:そうですね、ご迷惑おかけしてすみません・・・

マイア:・・・そんな事はいいけどさ・・・
    私が勝手にあんた達を追って来ただけだし・・・

エド:はい、助かります。

マイア:で、何をするつもりなんだ?

グレイ:崖の上でこの炭の粉を撒きに行くのさ。

マイア:炭の粉?

グレイ:ああ、何でもそれで谷の敵を退ける事が出来るんだと。

マイア:お前達は一体何を考えているのだ?

エド:サナウジャール殿のお考えですから
   俺にも全ては理解出来ませんけど・・・

マイア:お前達と一緒にいた爺さんか・・・

エド:サナウジャール殿の仰る事ですから
   きっと上手く行く筈です。

マイア:こんな私達フライデスの民でも困難な崖の道を
    登って行こうとするお前達の方が凄いのだ・・・
    いや、馬鹿なだけか。

グレイ:そんな馬鹿の後を追ってくる嬢ちゃんは如何なんだい?

マイア:ふんっ・・・私も同類だと言う事か・・・

エド:お心遣い感謝します。

マイア:あんた等の為じゃないんだからな!
    大族長からの責任を果たしているだけだ!

グレイ:何も怒る事ないだろうよ・・・

マイア:怒ってなどいない。

グレイ:そーかい。で、この先は如何進むんだ?
    案内してくれるんだろう?

マイア:・・・・こっちだ。

【フェンリル峡谷、教会陣営天幕】

イヴァン:シーギスムンド卿、
     大方の応急手当は完了しました。

シーギス:そうか。

イヴァン:重傷を負った二名は下山を命じましたが
     他の者は十分に戦えます。
     
シュティ:なら、そろそろ出発だね・・・

シーギス:そうだな、まだ日は高いが、
     あまりゆっくりしていては雪中で
     野営になってしまうからな。

イヴァン:了解致しました。
     では、出発準備に取り掛からせます。

シーギス:ああ。

シュティ:ん?

イヴァン:如何かなさいましたか?

シーギス:何だ・・・この気配は・・・

イヴァン:気配・・ですか?

シュティ:空気が僅かに振動している。

シーギス:拙い!天幕は放棄して岩陰に身を隠せ!!
     何かにしっかりとしがみ付くんだ!

シュティ:雪崩か!?

イヴァン:ぅわぁー!!なんて事です・・・

シーギス:崖の上で雪が崩落した様だ。

シュティ:ちぃっ・・・なんて事・・・
     とんだ足止めだわ!

イヴァン:これも神の与えた試練なのでしょうか!?

シュティ:それなら神は人間の敵ね。

イヴァン:では邪悪なるものの意思という事ですね!

シュティ:何をおめでたい事を・・・っ来るわよ!

イヴァン:ぶぉわ!!?・・・・

【フェンリル峡谷、崖上】

マイア:この粉は魔法の粉か!?

エド:集落で分けて貰った炭をただ砕いただけの物ですよ。

マイア:炭を撒く事で山の神を怒らせたというのか?
    ならば、炭焼きは目立たぬようにせねばな・・・

エド:今まで集落内で炭を使う分には
   山の神は怒ったりしなかったのですから・・・
   炭を使っても大丈夫ですよ。

マイア:・・・しかし、今回の怒りを治める事は出来るのだろうな?

エド:後でサナウジャール殿にお伺いしておきます。

マイア:わかった。

グレイ:しかし、これでシーギスムンドの野郎は
    大打撃を受けただろうぜ?

マイア:これほどの大雪崩だ・・・
    最早生きてはいまい。

エド:教会の罪のない人まで巻き込んでしまった事が悔やまれますけどね。

マイア:教会に罪がないだと?

エド:ええ、マイアさん達がローゼルクや教会の人々を敵視するように
   ローゼルクや教会の人々も
   マイアさん達を人狼という怪物だと信じて敵視しています。

マイア:ローゼルクなど我々を山中に追いやった闇の眷族の末裔ではないか!
    教会共は我々を滅亡に追いやる為の存在だ。

エド:ローゼルクは闇の眷属ではありませんよ?
   それにマイアさんを治療したコルネリアさんは
   アスエル教団の司祭ですし。

マイア:・・・・なら、我等はなぜ戦っている。

グレイ:俺達が戦ってるガルビアって野郎に踊らされてるのさ。
    シーギスムンドって奴がこの国に来て教会騎士を操ってやがるが
    そいつはガルビアの手下だしな。

マイア:そんな奴が来る前から戦いは続いている。

エド:それはお互いを深く理解せずに、
   お互いを敵だと思い込んだからですよ。
   誤解が解ければ戦わずに済む筈です。

マイア:誤解だと?
    我等は互いに勘違いして殺し合って来たと言うのか!?

エド:残念ですがその通りです。

マイア:そんな馬鹿な事があるか!
    私の父も勘違いで死んだというのか?
    父だけではない、大勢の仲間が教会に殺されていると言うのに・・・

グレイ:しかし嬢ちゃんも教会の人間を殺してきたんだろう?
    俺は傭兵として依頼一つで敵も味方もなく殺してきた。
    依頼主によってつく陣営も変わるが・・・
    処が変われば見方も事情も変わる。
    敵にとっての敵は自分達だって事だ。

エド:だからこそ、そんな誤解は早く解かなきゃ。

マイア:あの爺(ジジイ)はあんたにそれが出来るって考えてるのか?

エド:勇者かどうかは別ですけど・・・
   これからの戦いを止める自信はあります。
   ・・・いや、それは止めなきゃいけない事なんだ!

マイア:・・・・認めてやる。

エド:ぇ?

マイア:お前が勇者だって事は・・・私が認めてやるって言ってるんだ!

グレイ:そうだな、エド・・・
    お前は勇者だぜ?嬢ちゃんの保障もついたんだ。
    後はその期待に如何応えるかだぜ?

エド:そうだね。
   マイアさん、俺は・・俺が勇者かどうかなんて如何でもいい。
   でも、マイアさんの期待には全力で応えるよ!

マイア:信じてるからな・・・

エド:ああ!!

【フェンリル峡谷、谷下】

シーギス:くそう!街に戻って態勢の取り直しだ・・・

シュティ:自然の力が相手じゃ、どうしようもないわ。

シーギス:無事だった者はどの位残っている?

イヴァン:私を含め教会騎士団は六名・・・
     シーギスムンド卿貴下の方達は三名の様です。

シュティ:手当てしたとは言え・・・傷を負っていた者では
     逃げ遅れたか・・・

イヴァン:しかし、人狼があれだけの徒党で現れるという事は、
     この谷に奴等の巣が在るに違いないですから!
     この事を教会騎士団長殿に報告すれば
     大兵力を以って奴等を壊滅させる事が出来るでしょう!

シーギス:そうか・・・
     我々も戦力の補充の為に傭兵を雇いたい。
     教会からその資金を借り受けれないだろうか?

イヴァン:そう多くは期待出来ませんが・・・
     私からも進言させて貰いましょう。

シーギス:それは有難い。

イヴァン:しかし傭兵等という下賤な輩を雇わずとも・・・
     教会兵の者で良ければお貸し出来ると思いますが?

シュティ:教会の者では我々が独断で動きたい時に
     何かと面倒だろ?

シーギス:それに命を落とすかも知れん危険な任務だ。
     傭兵の様に金で命を売る連中の方が
     気兼ねがなくていいのだ。
     お前達聖職者の命を無駄にする訳にはいかないからな・・・

イヴァン:我々とて聖騎士の誇りの為、命を投げ出す覚悟はございます。
     ・・・ですが、シーギスムンド卿の心遣い
     有難くお受けしましょう。

シーギス:クックッ・・・そうか。
     まぁ頼んでおく。

イヴァン:はぁ・・何か?

シーギス:いや、何でもない。

イヴァン:・・・分かりました、傭兵の件はお任せください。



シュティ:人狼の群れに、突然の雪崩・・・・
     一体どうなっているのだ。
     フェンリル峡谷に入り、聖剣の探索もまま成らぬまま、
     我々は街へと引き返す事なる。
     おめでたい聖騎士のおかげで人員の補充は利きそうだが、
     一向に進まぬ成果に苛立ちを隠しきる事が出来なかった。





                  二十八章へつづく・・・
                           次回に続く。