三騎士英雄譚〜第二十九章〜

エドワード・レザースミス(23歳)男 愛称=エド
セルディア王国第六近衛騎士団所属。
革鎧職人の息子として生を受け16歳で戦時召集により兵士となる。
王都で開催されたトーナメント(馬上試合)の前座で行われた
勝ち抜き剣術試合で脅威の60人抜きを果たし近衛騎士の叙勲を受ける。
民衆寄りの考え方から上官との諍い(イサカイ)は絶えないが
剣の腕は王国一とも大陸一とも噂される。

グレゴール・ファントム(25歳)男 愛称=グレイ
エスティア人の傭兵。
通り名は死神グレイ。彼は今まで危険な任務をこなして来たのだが、
その為、彼の戦友のほとんどは戦死を遂げている。
戦場から、ただ一人生き帰る彼を傭兵仲間は死神だと噂するようになった。
無口で一見、無骨だが本当は心優しい男。

サナウジャール(54歳)男
セルジア伯爵領の山地に住む野盗の頭。
元、宮廷占星学者であり、隠居の身にあった。
伯爵夫人の横暴から領民を守る為、現在野盗に身を落としていた。

マイア・アスタフィエフ(19歳)女
ローゼルクの吸血鬼
小剣と短弓の名手。
透き通る白い肌と流れる美しい金髪を
黒い毛皮の帽子と外套で隠している。

アラム・ブラゴヴォリン(38歳)男
ローゼルクの吸血鬼
関節を破壊する関節技の使い手。
大鎌を持ち黒装束に身を包んでいる。

ロジオン・フライロフ(65歳)男
氷狼の部族の族長
フライデスの民を束ねる大族長でもある。
次期大族長にアラムを押している。

舞台説明



エドN:聖騎士団を率いて氷狼(ヒョウロウ)の集落に迫るシーギスムンドを
    雪崩を起こして撃退した俺達は
    事の顛末を大族長に報告する為、集落へと戻っていた。
    あの自然の脅威を以ってしてもあの暗殺者、シーギスムンドが
    命を落とすとは思えないが・・・

【氷狼(ヒョウロウ)の集落】

アラム:大族長。マイアが異国の二名を連れ戻って来たようです。

ロジオン:教会共は攻めて来る様子はないが・・・
     あの者達が上手くやったという事かの?

アラム:その様ですね。
    先程の轟音と何か関係があるのでしょうか・・・

ロジオン:あの音・・・谷の方で雪崩でも起きた様じゃな。
     それに助けられたのかも知れんの。

マイア:大族長。只今戻りました。

ロジオン:して、如何なったのじゃ?

マイア:二人は峡谷の崖上に登り、炭を使って山の神の力を操り雪崩を起こしました。

アラム:山の神の力を?・・・雪崩を意図的に起こしたというのか?

マイア:はい。教会の者共は雪崩に呑み込まれ。
    壊滅したものと思います。

サナウ:如何やら巧くいった様じゃな。

ロジオン:旅の老師よ。これは如何いう事なのじゃ?

サナウ:お主等の言い方で言えば・・・
    太陽の力を借りて、山の神に雪崩を起こす様、お願いしたのじゃ。

マイア:山の神の怒りを買った訳ではないのか?

サナウ:然様(サヨウ)、炭の粉を撒くのは雪を溶かす為に、太陽の光を集めて貰う為の・・・
    そうじゃな〜、貢物じゃ。
    その雪の溶かし方によって山の神は此方のお願い通りに
    雪崩を起こしてくれるのじゃ。

ロジオン:お主等は太陽にも山の神にも交渉を持てるのか!?

サナウ:何でもとは言わんが、頼み方が解っておればいつでも願いは叶えてくれるのぉ。

ロジオン:旅の者よ。お主等は何者なのじゃ?
     我等の部族きっての戦士。イーゴリを破った事は聞いておる。
     破った者は優れた戦士ではあろう。
     しかし、神々の力を・・・太陽の力も動かす等、最早戦士の業(ワザ)ではない。
     お主等は神の使いか?それとも魔人か?

サナウ:ワシ等は神の使いでも魔人でもない。只の人間じゃ。
    じゃが、世を正そうとする心を持っておる。
    ワシがエドワード卿に随うのも、彼等の熱き想いに打たれたからじゃ。

アラム:大族長。お預かりした太陽。
    戦いに敗れた私が所持するには荷が重過ぎます。
    これはお返しさせて頂きます。

ロジオン:アラムよ。お主は太陽が待った勇者ではなかったと・・・そう申すのか?

アラム:確かに私は武勇に自信と誇りを持っております。
    ・・・ですが、フライデスの民に太陽の力を取り戻させる程の偉業は・・・
    民の未来を導く偉業は、私如きの使命には大き過ぎるのです。
    ここは、マイアが信じた男に・・太陽を預けては如何(イカガ)でしょう?

ロジオン:うむ。ならば、そのエドワードとやらに一時太陽を預けよう。
     そして、お主が言う様に、平地の民から我等の安住の地を譲らせる事が
     出来たならば、その時は真の勇者として太陽を授けようぞ。

サナウ:エドワード卿ならば、その大儀、必ず果たしましょう。

マイア:エドワードを呼んで来ます!



ロジオン:勇者エドワード。
     そなたに我が部族の太陽を預ける。
     我等フライデスの民の未来の為、平地の民より
     我等の安住の地を割譲させる事がそなたの使命じゃ。
     もし此れが適わぬ時。
     そなたの死を以って償う事になろう。
     じゃが、見事その使命果たす時、真の勇者として認め。
     太陽を授けようぞ。・・・・よいか?

エド:はい。民族は違えど、同じ人として・・・
   フライデスの民の幸福の為に一命を掛けて尽力致します。

グレイ:やったなぁ!

エド:まだ早いですよ。
   此れからが大変なんですから。

サナウ:そうじゃな。
    して、エドワード卿。
    お主にはローゼルク王国から領土を割譲させるに策があると申しておったが、
    如何(イカ)なる策なのじゃ?

エド:それは、そんなに複雑な策ではないんです。
   ローゼルク王国も自らが統治する領土は流石に割譲しないでしょう?
   ですが、ローゼルクには教団が荘園として所有する土地が多く点在しているんです。

グレイ:教団の土地から割譲させようってのかい?
    王家は許しても、教会が黙ってはいないだろう?

エド:ええ、でも今回の人狼(ジンロウ)騒動の事実が公(オオヤケ)になれば、
   教団のスキャンダルになると思いません?

サナウ:なるほどの・・・
    アスエル教団ともあろう聖職の者が罪なき部族を殺戮しておったのじゃからな。

エド:此方も強硬な態度で向えば、事実の揉み消しに掛かられるでしょうが・・・
   教団の土地の幾つかを謝罪の意味で割譲するという事で丸く収まるのなら
   話に乗ってくれると思うんです。
   一部族が移り住むと言ってもフライデスの民は少数民族ですからね。
   割譲地もそんなに広大でなくていい筈ですから。

グレイ:エド・・お前って頭もいいんだな・・・

エド:故郷の村は貧しくて、領主への陳情で頭を悩ませていましたからね。
   この手の交渉事なら多少は頭が働くんですよ。

サナウ:ならば、先にローゼルク国王に謁見をし、公然の事実にしておく必要があるの。
    教団側にはガルビアの息もかかっとるかも知れんし・・・
    ワシ等の動きを気付かれては、何かと厄介じゃ。

エド:そうですね。

グレイ:待ってくれ。

エド:グレゴールさん、如何しました?

グレイ:教団にガルビアの息が掛かっているとしたら・・・
    大教会に向った嬢ちゃん達が心配だ!

サナウ:それはいかん!ワシとした事がうっかりしておった!

エド:兎に角、『太陽の大剣』は手に入れたんですから、
   一刻も早くコルネリアさん達と合流しましょう!

マイア:あの女達は大教会に向ったのだろう?
    そこからこの集落に向って来るのならば北西の山道が近い。

エド:案内してくれますか?

マイア:良いだろう・・・
    お前達が太陽を持ち逃げせん様にも、同行して見張らねばならんからな!

エド:ええ、それに国王との謁見では集落の人間から事情を話した方が
   説得させ易いですからね。

マイア:分かった。自分の部族の為の事だ。
    必要な事はしよう。

サナウ:では行くとするかの?
    ケアード司祭達の事も心配じゃ。
    取り越し苦労ならば良いが、急ぐに越した事はあるまいて。

グレイ:そうだな。
    ヤバくなったら助けてやると約束したってぇのに・・・

エド:行きましょう。
   二人の無事を信じて・・・

グレイ:ああ。

アラム:私はお前達を信用しきっている訳ではない。
    もし我等を裏切る事あれば、南方の国に逃げようとも
    その命、奪いに行くからな?

エド:心得ました。しかし、俺は裏切るつもりはないし
   その時には、この命差し上げますよ。

アラム:・・・そうか。
    お前は何故、自分と関係のない我等フライデスの為に
    そこまで賭ける事が出来るのだ。

エド:こんな不毛の山中では生活も厳しいでしょう?
   少しでも豊かな地に移れるなら幸せではないですか。
   それに教会とフライデスの民がこれ以上無益な争いをしているのを
   只見ている訳にはいかない。

アラム:だからといって、お前が遣らねばならない理由にならないだろう?

グレイ:それはエドがあんた達と出会っちまったからだな。

アラム:なに?

グレイ:知り合っちまったら放っておけないのさ。
    あいつは、お人好しだからな。

アラム:はっはっはっ
    それだけなのか!?

グレイ:ああ、それだけだ。

アラム:良いだろう。信用してやる。
    マイアがお前達を信じた理由も頷けるな。    

エド:何ですか?勝手に俺を肴に盛り上がらないで下さい。

アラム:悪かったな。期待してるぞ。

エド:はい。急ぎますので、此れにて!

アラム:ああ。

ロジオン:もう発ってしもうたか・・・

アラム:大族長・・・

ロジオン:面白い者達じゃ。

アラム:そうですね。あの者達なら信用しても良いかも知れません。

ロジオン:そうじゃな真の勇者かも知れん男じゃ。
     故に太陽を預けたのじゃからな。

アラム:はい。彼等にフライデスの未来、託しましょう。



グレイ:コニー無事で居てくれ・・・俺をまた死神にしないでくれ。
    戦場でも味あわなかった不安に、心の臓が絞め付けられる思いだ。
    フェンリル峡谷の険しい崖道を氈鹿(カモシカ)の様に馬を走らせる。
    夕暮れの迫る冬の空は暗雲を立ち込めていた。


    


                  三十章へつづく・・・
                           次回に続く。