三騎士英雄譚〜第三十章〜

エドワード・レザースミス(23歳)男 愛称=エド
セルディア王国第六近衛騎士団所属。
革鎧職人の息子として生を受け16歳で戦時召集により兵士となる。
王都で開催されたトーナメント(馬上試合)の前座で行われた
勝ち抜き剣術試合で脅威の60人抜きを果たし近衛騎士の叙勲を受ける。
民衆寄りの考え方から上官との諍い(イサカイ)は絶えないが
剣の腕は王国一とも大陸一とも噂される。

グレゴール・ファントム(25歳)男 愛称=グレイ
エスティア人の傭兵。
通り名は死神グレイ。彼は今まで危険な任務をこなして来たのだが、
その為、彼の戦友のほとんどは戦死を遂げている。
戦場から、ただ一人生き帰る彼を傭兵仲間は死神だと噂するようになった。
無口で一見、無骨だが本当は心優しい男。

サナウジャール(54歳)男
セルジア伯爵領の山地に住む野盗の頭。
元、宮廷占星学者であり、隠居の身にあった。
伯爵夫人の横暴から領民を守る為、現在野盗に身を落としていた。

マイア・アスタフィエフ(19歳)女
ローゼルクの吸血鬼
小剣と短弓の名手。
透き通る白い肌と流れる美しい金髪を
黒い毛皮の帽子と外套で隠している。

コルネリア・ケアード(21歳)女 愛称=コニー
アスエル教団の女司祭。ガルビア・フォン・クライセン枢機卿の姪にあたる。
薬草学に精通しており、治療行為は得意としているが
人前に立つ説教は苦手で、布教活動をする事は少ない。

イーゴリ・バラノフスキー(34歳)男
ローゼルクの吸血鬼
白装束を着た8フィートの体躯を持つ巨漢。
その動きは素早く。鉄球棍棒で人間を叩き潰す。

シーギスムンド・ベールヴァルド(26歳)男
エスティア人の暗殺者
ミカエルの側近であり腕利きの暗殺者

シュティーナ・リンドホルム(23歳)女
エスティア人の暗殺者
踊り子の一員として身を潜めている。
マデリーネと偽名を名乗る。

舞台説明



サナウN:『太陽の大剣』を手に氷狼(ヒョウロウ)の集落を後にする一行は
     ベルホルムで別れたケアード司祭とイリーナ女史との合流をすべく、
     フェンリル峡谷北西の山道を急ぐ。
     二人の身の危険を感じ、焦りを覚えるも山中の道は続いておったのじゃった。

【馬上の二人】

イーゴリ:馬よ駆けろ!ハッ!

コニー:貴方が始めに襲った男もフェンリル峡谷にいる筈よ。
    気を付けて。

イーゴリ:知っている。

コニー:そう・・・兎に角、人目につかない様にお願いするわ。

イーゴリ:分かった。

コニー:グレゴール様・・・

グレイOFF:ま、ヤバくなったら俺が守ってやるよ・・・

コニー:守って下さいましね・・・

【フェンリル峡谷、北西山道】

マイア:この下りを抜ければ荒地だが、なだらかな大地に出る。

グレイ:悪い。嫌な予感がするんだ、急いでくれ!

サナウ:修羅場を潜(クグ)った戦士の勘ってやつかの?

グレイ:ああ、胸が詰る感じだ。

エド:グレゴールさん・・・不吉な事言わないで下さい。

グレイ:そうだな・・・すまん。

マイア:まぁどのみち急ぐんだ。
    此処で彼是(アレコレ)考えても仕方ないだろ!?

サナウ:そうじゃ、このまま先を急ぐぞぃ。

【ローゼンブルグへの街道】

シーギス:イヴァンに先行させて如何したんだ?

シュティ:教会ってのは苦手でね。
     大教会ともなれば説教臭い連中がうじゃうじゃしているだろうからな。

シーギス:そういう事か。
     どの途、金貨を受け取る際には顔を合わせなくてはならないぞ。

シュティ:それでも、顔を合わせる時間は少なくて済むだろうからね。

シーギス:まぁ俺も苦手だ。
     何も責めはしない。

シュティ:たまには気楽に過ごせて良いだろ?

シーギス:ああ、・・・・待て。向こうから馬が駆けて来る。

シュティ:あれは・・・

シーギス:身を隠すぞ・・・


イーゴリ:この先の荒地を抜ければ集落への近道だ。

コニー:漸(ヨウヤ)く皆に逢えるのね。

イーゴリ:しっかり掴(ツカ)まってろ!

コニー:はい。

【岩陰の茂み】

シーギス:あいつは・・・

シュティ:キャスカル峡谷で襲って来た人狼(ジンロウ)じゃないか!

シーギス:馬の後ろに乗せているのは、要塞の騎士エドワードの仲間だな・・・

シュティ:どちらにしても敵である事に違いない。
     丁度、二対二だ・・殺ってしまおう。

シーギス:ああ、毒矢で仕留めるぞ。

シュティ:来るわ・・・

SE:ヒヒィーーン!!!
≪矢を射られ急に前足を跳ね上げ暴れる馬≫

コニー:きゃっ!?

イーゴリ:ドウ!ドウドウ!!

コニー:何事なの!?

イーゴリ:矢だ!

コニー:矢!?矢が飛んできたと言うの!?

イーゴリ:来るぞ!

コニー:くっ!?此処まで来たというのに・・・

シーギス:この前は世話になったな・・・大男。

イーゴリ:お前は・・・

シュティ:そっちの女は騎士の仲間だったね?

コニー:貴女、ガルビアの放った暗殺者ね!?

シュティ:よく知ってるじゃない。

コニー:じゃあ、その男がシーギスムンドね!?

シーギス:俺の名前まで漏れてるとはな。

シュティ:まぁ良いんじゃない。此処で死んで貰うんだからさ!

コニー:・・・・死なない!貴方達になんて殺されないんだから!

イーゴリ:任せろ。

コニー:ええ、・・・お願い。

シーギス:おっと、大男。
     お前の相手は俺がしてやるぜ!

シュティ:女、あたしが相手だよ。

イーゴリ:ガァアア!!

シーギス:正面からなら、この前の様には遣られはせん!

イーゴリ:ぐぐっ!

シーギス:くっ・・・力だけは半端じゃないな・・・化け物め!!

シュティ:女ぁー!こっちも行くよ!!

コニー:はっ・・・

シュティ:喰らいなっ!!

コニー:きゃぁ・・・弓が相手なら接近に持ち込めば・・・

シュティ:この至近距離から私の弓を躱(カワ)すとはね・・・
     やるじゃない?

コニー:ぅ・・・掠(カス)った右腕に力が入らない・・・

シュティ:完全に避けられなかったのが残念だけどね。

イーゴリ:お前は逃げろ・・・

シュティ:逃がさないよ!

【北西の山道で出口】

グレイ:戦いの喧騒か!?

エド:こんな所で誰が戦って居るのでしょう?

マイア:我が部族の者はこの辺りには居ない。
    考えられるとすれば・・・

サナウ:ケアード司祭達が襲われておるのか!?

グレイ:悪りぃが先にいくぜ!

エド:あっ、俺も行きます!

マイア:なら、私も・・・

エド:マイアさんはサナウジャール殿と一緒に来てください。
   この辺りに別の刺客が居ないとも限りませんから!

マイア:分かった・・・すぐ、追い付く。

サナウ:エドワード卿、早よう行け!・・・さて、ワシ等も急ぐかの。

マイア:ああ。


グレイ:コニーぃぃ!!!

コニー:・・・グレゴール様!?

シーギス:チッ・・・増援が来ちまったか。

シュティ:ちょっと騒がしくなったけど、
     纏めて相手してやろうじゃないのさ!

エド:イーゴリさんですねっ?

イーゴリ:そうだ。

エド:マイアさんも、もうすぐ来ます。
   今回は敵ではありません。共闘しましょう!

イーゴリ:分かっている。

シーギス:くっちゃべってる暇はないぜ!ぅおりゃっ!!!

イーゴリ:ぐぅ・・・っ

エド:イーゴリさん!?
   この暗殺者・・・かなりの実力だ。

グレイ:コニー無事か!?

コニー:はい、何とか・・・

シュティ:隙だらけなんだよ!!

コニー:きゃっ!!?

グレイ:コニーぃぃ!!くそっ弓かよ!コニーに手を出すんじゃねぇ!!

エド:シーギスムンドぉーーー!!!相手はこっちだっ!!

イーゴリ:ゥガァー!

シーギス:ぐっ・・・二人相手では流石に捌(サバ)ききれんか・・・

グレイ:女とて手加減などせん!タリャーァっ!!!

シュティ:キャ・・・ぬぅ・・・傭兵如きがぁ〜!!ハァっ!!

グレイ:ダリャァァ!速いだけの直線軌道などっ!・・・ウラァ!

シュティ:チッ!
     距離が・・詰められた!?

シーギス:シュティーナ!これ以上は無理だ!一旦退くぞ!!

マイア:イーゴリいるか!!

シュティ:また増援!?

シーギス:厄介な時に・・・ゾロゾロとっ!

エド:逃がさないぞ!!

シーギス:ぇえい!鬱陶しいっ!!

シュティ:今日は退いてやる!毒矢の餞別だっ!!

コニー:ぐはぅ・・・!

グレイ:コニー!?このアマっ・・・待ちやがれ!!

コニー:ぅぅ・・・
    ≪崩れ落ちるコニー≫

グレイ:っ!?コニー!しっかりしろ!!

エド:このまま逃がしてたまるかよぉ!?ぅぉおおおおおお!!!

シーギス:大人しく見送りやがれっ!!

エド:だぁあああ!!!

シーギス:うぐっ・・・!!?中々の手練だな・・・しかも両手刺突剣(エストック)ごと
     鎧を斬り裂きやがった・・・だがっ、
     ・・・んがぁ・・ダァァ!!

エド:くっ・・ぅわぁ!?

サナウ:上背(ウワゼイ)のあるエドワード卿を・・・蹴りの一撃で浮かせおるか!?

シーギス:決着はまた後日だ!

エド:くそう・・・。


グレイ:・・・コニー!コニーぃ!!
    返事をしろ、コニーっ!!

コニー:グレ・・ゴール・・・様・・・。

グレイ:矢は全部抜いた!急所には刺さってねぇんだ大した事はねぇ!

コニー:ちゃんと・・・守りに来て・・くれたんですね・・・

グレイ:ああ、約束だったからな!だから倒れてるんじゃねぇ!!
    しっかりしろ!!

コニー:・・・相手は暗殺者・・・ですもの・・・矢に毒が・・・

グレイ:毒なんかに負けるな!俺をまた死神にしないでくれ・・・

コニー:・・・・ごめんなさい・・・かはっ・・・

グレイ:何謝ってんだ!?俺はそんな言葉聞きたくねぇぞ!

コニー:麻痺・・系の・・毒・・・もぉ内蔵器官まで冒されているの・・・

グレイ:分かった。毒消しだな!?どいつを使えばいいんだ?

コニー:・・・聞いて・・・グレゴール様・・・・お気づきでは・・
    なかったでしょうけど・・かはっ・・

グレイ:俺は鈍感だからな・・・何かあるなら謝る!

コニー:違うの・・・私、貴方を・・・お慕い・・・申し上げて・・・
    だから・・・貴方の・・守ってやるって・・・言葉・・嬉しかった・・・

グレイ:バカヤロウ!お前の事ぐらい・・・何時でも守ってやる!!
    だから・・・だからっ・・し、死ぬなぁ!!!

コニー:・・・ふふ・・・バカヤロウか・・・貴方らしい・・・わ・・

グレイ:頼む・・・・これからもお前を守らせてくれ。

コニー:今回の・・旅・・・楽しかっ・・た・・・・・。

グレイ:コニーぃぃぃ!!!!
    ふざけろよ!?結局、守れてねぇじゃねぇーか!!
    俺はお前に何が出来たよ!?何で慕ってくれるんだよ!?
    ・・・・俺だって・・・お前の事・・嫌いじゃなかったんだぞっ!!!

エド:グレゴールさん・・・・

サナウ:お主のせいではない。
    丁重に葬ってやるんじゃ・・・

グレイ:俺はやっぱり・・・死神でしかねぇっていうのか・・・

マイア:戦いに敗れて死んだのだ。
    雪辱を果たしてやりたいなら、仇をお前が討てば良いだろう?

グレイ:・・・・そんな事は当然だ・・・だが・・・

サナウ:イーゴリとやらよ、イリーナという娘は一緒ではないのか?

イーゴリ:会った時は一人だ。

マイア:コニーって女一人で居たのね?

イーゴリ:教会に追われていたそうだ。

マイア:イリーナって奴の事は何か聞いた?

イーゴリ:そいつを逃がす為に死んだ。

サナウ:そうか・・・あの娘も殺されておったか・・・

エド:ローゼルクの教会もガルビアの息が掛かっていると見て、
   間違いなさそうですね。

サナウ:うむ。神に仕える者がのぉ・・・酷い世の中じゃ。

イーゴリ:ぅぐ・・・

マイア:如何した、イーゴリ。

イーゴリ:・・・毒だ。

マイア:お前も毒を受けてたのか!?

サナウ:その様子じゃまだ毒は身体に回りきっておらん様じゃ、
    ワシ等も毒消しの薬を持っておる。早く解毒するんじゃ。

マイア:有難う・・・それは助かる。
    イーゴリ、さぁこっちに来い。

エド:折角、合流出来たっていうのに・・・

サナウ:エドワード卿。今は辛いじゃろうが、悲しむのは後じゃ。
    お主まで落ち込んでいては、死んだ者も浮かばれん・・・
    腐敗した教団の膿を出し。平和の為に戦うのじゃ。
    それこそケアード司祭の望んだ事じゃろうし・・・
    フライデスの民との約束を果たす事でもある。

エド:・・・はい。

サナウ:グレゴール殿・・・

グレイ:爺さん・・・。

サナウ:ケアード司祭の死を「無駄死に」にするな。
    これでお主が自暴自棄になってしもうたら、悲しむのはケアード司祭ぞ?

グレイ:・・・・俺は許さねぇ・・・ガルビアもあの暗殺者共も、
    イリーナを殺した教会の野郎共もだ!!

サナウ:・・・・復讐はお主の剣も鈍らせよう。じゃが、今は恨むなと言う方が酷かのぉ・・・



マイア:仲間の死に悲しみに暮れるエドワード達。
    復讐を誓いながらも、我等フライデスの民の為、
    ローゼルク王都ローゼンブルグに向い歩を進め始めた。
    負傷したイーゴリは、死んだコニーの亡き骸を氷狼(ヒョウロウ)の集落へと
    運ぶ事になる。
    エドワード、お前は太陽を持つ勇者なのだ。
    我等の民の、いや、全ての民の平穏の為、戦うがいい。

    今は雪が降ってくれば良いな・・・
    後方の足跡を消してゆく白い雪が、戦いの爪痕も消してくれる様に・・・。





                  三十一章へつづく・・・
                           次回に続く。