三騎士英雄譚〜第三十三章〜

エドワード・レザースミス(23歳)男 愛称=エド
セルディア王国第六近衛騎士団所属。
革鎧職人の息子として生を受け16歳で戦時召集により兵士となる。
王都で開催されたトーナメント(馬上試合)の前座で行われた
勝ち抜き剣術試合で脅威の60人抜きを果たし近衛騎士の叙勲を受ける。
民衆寄りの考え方から上官との諍い(イサカイ)は絶えないが
剣の腕は王国一とも大陸一とも噂される。

グレゴール・ファントム(25歳)男 愛称=グレイ
エスティア人の傭兵。
通り名は死神グレイ。彼は今まで危険な任務をこなして来たのだが、
その為、彼の戦友のほとんどは戦死を遂げている。
戦場から、ただ一人生き帰る彼を傭兵仲間は死神だと噂するようになった。
無口で一見、無骨だが本当は心優しい男。

サナウジャール(54歳)男
セルジア伯爵領の山地に住む野盗の頭。
元、宮廷占星学者であり、隠居の身にあった。
伯爵夫人の横暴から領民を守る為、現在野盗に身を落としていた。

マイア・アスタフィエフ(19歳)女
ローゼルクの吸血鬼
小剣と短弓の名手。
透き通る白い肌と流れる美しい金髪を
黒い毛皮の帽子と外套で隠している。

アルトゥールW世(30歳)男
ローゼルク王国の若き国王。
先のエスティア王国クリストフェルV世の姪ウルリーカ・アーンシェと結婚し
南方の国々との国交を開いた。
為政者として程好く野心的で、国力の強化に関心が強い。

舞台説明



グレイN:ローゼルクの王城はシンメトリーと言われる左右対称の
     美しい作りをしている。
     磁器の様な白い壁に絢爛(ケンラン)な金の装飾。
     ゴテゴテと宝石やら何やらが落ち着きなく煌いている。
     謁見の間に通されるまでに幾つもの質疑応答(シツギオウトウ)を受け
     うんざり気味なところへ、
     漸(ヨウヤ)く謁見の間への呼び出しを受ける事になった。

サナウ:グレゴール殿、これから会う御仁は、このローゼルク国の国王じゃ

グレイ:そんくらい分かってるよ。

サナウ:何か粗相でもあらば、使者の代表たるエドワード卿の立場も悪くなろう
    振る舞いには十分気を付けてくだされよ?

グレイ:ああ、直接話を振られない限り喋らねぇよ。

サナウ:賢明じゃな。

マイア:爺さん、私も黙って居た方が良いのか?
    少なくともこの国での礼儀などは知らんぞ?

サナウ:マイア殿も無駄に口を挟まぬ方が良いじゃろうな・・・
    じゃが、マイア殿にはフライデスの民の代表として
    発言を求められるやも知れん
    今までは敵と思ってきたローゼルクであろうが、
    これから会うローゼルクの王は敵ではないと言う事を
    頭に入れておかれれば良いじゃろうな。

マイア:分かった。

グレイ:エド、呼ばれてるぜ?

エド:あ、はい。
   じゃあ皆さん、行きましょうか。

【謁見の間】

アルト:そなた達が予に謁見を願い出たというセルディアの使者か?

エド:はい。セルディア王国近衛騎士を務めます。
   エドワード・レザースミスと申します。
   後ろに控えますは、連れの賢者サナウジャールと
   傭兵団長のグレゴール・ファントム・・・そして
   ローゼルク地方の山岳民族フライデスの民の代表
   マイア・アスタフィエフ殿です。

アルト:我が国土の山岳民族とな?

エド:はい。貴国の前身国コートベルグの建国前より
   この地に生活していた先住の民で御座います。

アルト:ほぉ・・・それは、予は初耳だ。

エド:本日はそのフライデスの民についての話をお耳に入れたく、
   謁見を願い出た次第で御座います。

アルト:セルディア皇太子ルーク殿下からの親書には
    両国の親睦の儀と、
    そなたエドワード卿の我が国での滞在の際の
    保護を願うものであったが・・・

エド:はい、私共が貴国を訪問した理由は
   今、アスエル教団の枢機卿を務めるガルビア・フォン・クライセン侯爵が
   我が国の内乱を画策し、それを阻止する為
   貴国に向ったシーギスムンドという男を追ってやって来たのですが・・・
   その追跡の最中、貴国での人狼(ジンロウ)騒ぎに出くわし、
   その解決に尽力していたのです。

アルト:他国の民である貴卿に手間を取らせたな。感謝する。

エド:人狼(ジンロウ)等という人外の怪物を同じ人間として捨て置く訳には参りません
   ですが、私共がキャスカル峡谷でお救いした
   イリーナ・アヴァルチェフと仰られる聖騎士の方が戦われていた
   人狼(ジンロウ)とは、ここに控えているマイア殿でした。

アルト:この者は人狼(ジンロウ)なのか!?

エド:いえ、人狼(ジンロウ)等では御座いません。歴(レッキ)とした人間です。
   マイア殿は今し方話した通り山岳民族フライデスの民なのです。

アルト・・・?どういう事なのだ?

エド:つまり、アスエル教会が人狼(ジンロウ)だと思って討伐していたのは
   人知れず山中で平和に暮らしていたフライデスの民だった・・・
   という事です。

アルト:真事か?
    その話が本当であらば、アスエルの聖騎士達は聖職の身にありながら
    罪無き人々を殺してきたと言う事か?

サナウ:恐れながら・・・

アルト:よい。賢者サナウジャールだったな・・話せ。

サナウ:ご賢察の通り、アスエル教団は山岳民族を人狼(ジンロウ)と思い込み
    無益な殺生を繰り返してきた事は明白・・・

アルト:ふむ・・・

サナウ:ですがじゃ、山岳民族もその報復として教会の者を襲っておりますのじゃ。
    元々この地に住んでおったフライデスの民は
    コートベルグ王国建国の際に不毛な山中へと追いやられた事から
    平地に住む人々を闇の眷属の末裔だと思い込んでおったのですからな
    お互いをよく知らず、お互いがお互いを悪だと思い込み
    悲劇とも言える争いを続けてきたのですじゃ。

アルト:なるほど・・・あい分かった。
    して、これからをどうすれば良いと申したいのだ?

サナウ:フライデスの民は豊かな平地での生活を望んでおります。
    しかし、ローゼルク王国の民と溶け込むにも
    生活も風習も違う民族では中々難しいもの・・・
    彼等が安住に過ごす地をお与え願いたいのですじゃ。

アルト:ローゼルクの領土を割譲せよと申すか?

エド:はい、しかしながら今回の一件、その責任はアスエル教団にあるものと・・・

アルト:なるほど、教団所有の荘園を譲渡するよう勧告せよと言うのだな?

エド:・・・御意。

アルト:好(ヨ)かろう。
    正直、このところのセルゲイ大司教の陳情には嫌気が差しておったのだ
    いや、これは失言・・・忘れよ。
    マイア殿と申したか?
    そなたの部族には迷惑を掛けた。ローゼルク王国を代表して陳謝する。

マイア:それじゃあ領地を割譲してくれるのですか?

アルト:我が国内でアスエル教団が所有する荘園の幾つかを
    そなた達フライデスの民に譲渡するよう、私から大司教に勧告致そう。

マイア:ローゼルクの王よ有難う。
    エドワード、これは信じて良いのだな?

エド:ローゼルク国王が自らの口で約束なさったのだ、間違いはないさ。

アルト:よく見れば愛らしい娘ではないか、
    この様な者を人狼(ジンロウ)と見間違えるとはな。

マイア:私もローゼルク国王とやらは、もっと恐ろしい男なのだと思っていた。
    百の目も黒い翼もないので驚いていたところだ。

グレイ:おい・・・

アルト:よいよい、お互い様だ。
    ところで、エドワード卿はガルビア・フォン・クライセン侯爵の
    手の者を追って我が国に来たと申したが・・・
    そちらの用はもう済んでおるのか?

エド:いえ、まだで御座います。

グレイ:シーギスムンドは今、この城の城門前で傭兵を引き連れて俺等を・・・
    ゃ・・・私共を待ち伏せしておりやす。

アルト:傭兵団長グレゴールよ、言葉飾らずとも良い。

グレイ:ありがてぇ・・・新たにこの国で傭兵を雇い込んだみてぇで、十数人の部隊が
    俺達が城から出るのを手薬煉(テグスネ)引いて待ってやがるんでさ。

アルト:それは大変だな?しかし我が王城前に伏せるとは無礼な輩だ。
    そなた等に正規騎士団の者を加勢に就けよう。
    これで心配あるまい?

エド:お心遣い傷み入ります。
   では、フライデスの民の移住の件、宜しくお願いします。

アルト:近日中にフライデスの民と会談を持つ事を約束しよう。
    今回の騒動はこちら側に非がある様だからな。
    今日は興味深い話を聞かせて貰った。礼を言う。
    エドワード卿も無事任務果たせる様願っておる。

エド:はい、有難う御座います。
   それでは失礼致します。 

グレイ:エド・・もういいのか?

エド:ああ、これ以上お邪魔にならない様、退出しよう。

グレイ:そうか。

【王城玄関ホール】

マイア:思ったより拗(コジ)れなかったな?

グレイ:ああ、拍子抜けする程、簡単だった・・・

サナウ:教団を悪者にしたのが良かったのじゃろうな、
    ローゼルク王も教団には思うところがあった様じゃしの。

エド:ルーク皇太子からの親書もありましたからね。
   国王の態度からして、
   セルディアとの国交を深める用意があるのかも知れませんね。

サナウ:まぁ色々と思惑もあるのじゃろうて・・・

グレイ:たくっ、しかし、ああいう畏まった場は俺は苦手だ・・・

マイア:だらしのない事だな。

グレイ:煩せぇ・・・

エド:俺だって元々は苦手ですよ。
   戦場で剣を振るう方がどれ程気が楽か・・・

グレイ:ちげぇねぇ・・・

サナウ:後は氷狼(ヒョウロウ)の集落に戻ってローゼルク王との会談を成功させれば
    ワシ等の任務も無事終了じゃな。

グレイ:教会の奴等にイリーナの仇を討てなかったのが心残りだがな・・・

マイア:仇は仇だ。これから討ちに行けばいいじゃないか?

グレイ:無茶を言うな。
    折角、事が巧く進んでいるんだ。
    私情で話を縺(モツ)れさせる訳にはいかねぇよ・・・

マイア:複雑な考えだな。

グレイ:なぁに、教会騎士団なんてもんを組織してる限り、
    戦場で仇を取れる機会も廻って来るさ。

マイア:それよりも目前の問題は賞金稼ぎやシーギスムンド達だろう?

グレイ:ローゼルクの騎士さん達が手を貸してくれるみてぇだが・・・
    シーギスムンドの野郎とコニーに毒矢を放った女だけは
    俺達の手で始末しねぇとな。

エド:マイアさんとサナウジャール殿は城内に残って居て下さい。

マイア:私だって戦えるぞ!

エド:今の貴女はフライデスとローゼルクを繋ぐ架け橋的存在です。
   会談の成功まで危険な目に遭わせる訳にはいかない。

マイア:そうか・・・、だけどエドワード!
    お前も無事で居ろよ!

エド:今の俺には、この聖剣『太陽の大剣』フライデスの太陽がありますからね。
   どんな敵が相手でも負けはしません。

グレイ:聖剣が無くともエドは強いんだからな。

マイア:分かった。お前を信じる。

エド:はい。

マイア:グレゴール。
    コニーの仇は目の前であんた達を狙っている。
    コニーは私にとっても恩人だ。必ず仇を取ってやってくれ。

グレイ:分かってる。
    言われなくとも、仇は俺の手で討ってやるさ。
    そんな事でコニーの奴が許してくれるか分からねぇけどな。

マイア:大丈夫だ。コニーはあんたを恨んでなんかいないさ。

グレイ:そうだとしても俺自身が自分を許せねぇからな。
    借りは返させて貰うさ。

【謁見の間】

アルト:騎士隊長レオニードを呼べ。
    ・・・そうだセルディアの使者に恩を売ってやるのだ。
    今、セルディア王家は南方国の王家の中でも
    最も友好関係を築きたい王家だ。
    ・・・・それに・・・
    増長するアスエル教団の権威もこの辺で牽制してやらねば
    と思っていたところだ・・・
    牽制するには絶好のスキャンダルである事は間違いない。
    人狼(ジンロウ)からの教会の被害は報告を受けているが。
    その人狼(ジンロウ)の戦力も上手くすれば懐柔出来よう・・・
    どちらにしても一挙両得というやつではないか!



グレイ:正規騎士団の隊長レオニード卿とその貴下12名の騎士が
    軍馬に跨り俺達の前に現れた。
    シーギスムンドとの因縁の戦いは眼前の城門が開かれ次第開始される。
    先行するのはエドと俺の二人。
    シーギスムンド等が突撃を開始すると同時に騎馬が飛び出し
    包囲、殲滅させる作戦となる。
    敵の包囲が完了し次第、俺達はフェンリル峡谷へと先を急ぐよう
    提案されるが、コニーの仇だけは討たせて貰うぜ!
    馬の嘶(イナナ)きも静まる中、城門はゆっくりと開き始めた。





                  三十四章へつづく・・・
                           次回に続く。