三騎士英雄譚〜第三十六章〜

セドリック・フォン・ラグワルト(32歳)男 愛称=セディ
セルディア王国ラグワルト伯爵家の次男。第二白銀騎士団中隊長。
貴族の名家の生まれだが華やかな社交界を嫌う変わり者。
いまだ独身を通しており、剣の道に進むが
うらはらに婦人からの人気は高い。
物腰は柔らかく、文才に長けるが剣の腕は白銀騎士団随一の腕を持つ

ティナ(15歳)女
ラグワルト家に盗みに入った泥棒。
セディに一目惚れして付き纏う。

バーナード・オズワルド(37歳)男 愛称=バーニィ
ラグワルト家に代々仕えるオズワルド家に生まれ。
セディが生まれた時から従者として仕えている。
騎士の武装を禁じられている為、戦斧を愛用している。

シャルル・フォン・フランソワーズ(29歳)男 愛称=シャル
セルディア王国フランソワーズ子爵家の当主。
剣より学問に通じ、第一黄金騎士団に所属するも
自領の統治に尽力を尽くしている。
セディとは幼少からの付き合いがある。
学者肌の貴族。

舞台説明



シャルN:本格的な冬の季節の到来。
     大陸側からの風が冷気を運んできている。
     山中のガルニア峡谷に位置する要塞は連日の雪に
     薪(マキ)の消費量を一段と増やしていた。
     私の親友、セドリック・フォン・ラグワルト卿には
     国内の有力貴族との会談を進めて貰っている。

セディ:シャル。
    バウマン子爵からの密書が届いたんだって?

シャル:ええ、ルーク皇太子の王位に正統性を認める。
    ガルビア要塞に集結する騎士、貴族と共闘するものでは無いが、
    その本意は類似しているものと信じ、
    国内に乱れが生じたと当方も認識した際には貴卿等の呼応に
    応じる用意がある事だけは伝えたい。
    バウマン子爵からは、こう返答が来ました。

セディ:表立って波を荒立たせないが、賛同の意思は表明したという訳か・・・

シャル:現在の勢力関係で見れば、
    アスター派の勢力は無視出来ないでしょうからね。
    まぁセディとの会談でルーク派の勢力も無視出来なくなった
    という事であれば、会談は成功と見て良いでしょうね。

セディ:そうだね・・・で、次の会談は各騎士団の団長達を考えているんだが・・・
    いざ内乱に発展した際には戦力は大きなウエイトを占めるからね。

シャル:なるほど。
    近衛騎士団のフォルテウス・エイブス卿は兎も角、
    黄金、白銀、紺碧、深緑、真紅の各騎士団は、どちらに就くか
    分かりませんものね・・・

セディ:紺碧騎士団については、ランスフォード卿が副団長を務めているのですから
    彼に任せて問題ないと思うのですが、
    深緑騎士団の戦力は確保して措きたいですからね。

シャル:深緑騎士団ですか?
    それは一寸(チョット)難しそうですね・・・・

セディ:どういう事です?

シャル:深緑騎士団の団長カール・アイブリンガー卿は
    ガルビアの懐刀マグナルーク・フォン・クライセン子爵と親交が深くてね・・・
    同じ騎士家系で構成される紺碧騎士団に対する劣等感も持っている様だし
    我々ガルニア要塞に協力的な態度を取らないでしょう。
    それに私の所属する黄金騎士団は貴族当主で構成される為、
    団長が頷いても団全体の同意は得られないでしょうからね。

セディ:私の所属する白銀騎士団に措いても、それは同じですね。
    私が与っている中隊の騎士ならまだ融通も利きますが・・・

シャル:黄金、白銀騎士団は団長と会談を持つ事にはメリットが無く・・・
    深緑騎士団に関しては会談の成功が望めない・・・
    残すは真紅騎士団ですね。

セディ:シュタイン夫人の所属する女性だけで構成された騎士団ですね?

シャル:ええ、女性といっても彼女達の実力は他の騎士団に劣りませんよ。
    団長のアマーリア・ベッケラート女史は紅蓮地獄の戦乙女(バルキリー)と
    渾(アダ)されている位ですからね。

セディ:紅蓮ですか・・・

シャル:今は郊外の邸で休暇を取られている筈です。

【ベルツ男爵領の村】

ティナ:綺麗な村ね〜セディ様♪

セディ:この村はベルツ男爵が統治する領地ですが、
    アマーリア女史の意向が強いらしく
    街道や治水の整備は行き届いているようですね。

ティナ:でも地方税が高そうだね・・・

セディ:地方税の増減は領主の権限ですからね。
    アマーリア女史の意向は届かないところでしょう。
    その分、正当な村の管理に当てているのでしょうけど・・・

ティナ:成る程ねぇ〜♪ねぇねぇ、この小川沿いの遊歩道なんて静かで素敵だよね?

セディ:そうですね。

ティナ:ねぇセディ様?帰る前に一度散策したいね♪

バーニィ:ティナ、セドリック様に寄り添い過ぎだ。

ティナ:いいの〜こう見えて、セディ様も私を女として見てくれているんだから♪

バーニィ:何という事を・・・身分を弁(ワキマ)えよ!ティナ!

セディ:バーニィ・・・良いのですよ。

バーニィ:セドリック様!・・・もしや、本当にティナ等と戯れるおつもりでは
     無いでしょうな!?

セディ:バーニィ、それは少しティナに失礼な言葉ではないか?

ティナ:そうだよ!別に結婚したいとか言ってる訳じゃないんだからさ〜

バーニィ:け、結婚等と・・・ラグワルト家の者が盗賊風情と婚姻を結ぶ等・・・
     アスエルの御許が許しても、私が許す訳には参りません!

ティナ:頭の堅いオヤジ!ベェーだ!

バーニィ:ティナぁ!!待たないか!!

ティナ:バーニィなんかに捕まるもんか〜♪

バーニィ:ふぅ・・・セドリック様、今の話は如何お考えなのですか?

セディ:如何って・・・ティナは中々に愛らしい少女だとは思わないか?
    社交界の気取った娘達より、素朴で明るくて・・・

バーニィ:確かにそうかも知れませんが・・・
     ティナとの間に何があったのですか?

セディ:ガルニア要塞に賊が進入した事があったでしょう?

バーニィ:不覚にもセドリック様のお命を危険に晒す事になってしまった
     忌まわしい事件ですな・・・。

セディ:あの賊はティナの盗賊仲間だったのだよ。

バーニィ:ティナの!?

セディ:ああ、ティナを我々に奪われたのだと・・・取り返しに来たのだ。

バーニィ:何を血迷った事を・・・

セディ:何・・・至極当然の事だとは思わないかい?
    ティナは貴族ではない。盗賊には盗賊の世界があり
    そこには仲間も仕来(シキタ)りもある。

バーニィ:はぁ・・・?

セディ:我々はティナの能力を勝手に借りて、
    ティナの仲間達に何の挨拶も行ってはいなかった。

バーニィ:それで、折角捕まえた賊を早々に解放してやったのですな?

セディ:ああ、そうだ。
    それに、彼からは大事な事を教えて貰ったからな。

バーニィ:大事な事・・・ですか?

セディ:私は知らぬ内に、ティナという少女に異性としての好意を
    向けていたのかも知れないという事をです。

バーニィ:・・・・私は賛成致しかねますぞ!
     仮にも伯爵家の血筋の者が盗賊を相手に恋をする等と・・・
     旦那様も奥様も・・・セドリック様の兄上であられる若様とて
     お嘆きになられるでしょう。

セディ:そこまで大層な事をしているか?私は・・・

バーニィ:当然で御座います。
     平民との娘ですら、貴賎の関係と風当たりが強う事でしょうに・・・
     それが盗賊の娘等と世間に知れては・・・

セディ:兄上とて奴隷の婦人を幾人も愛妾に囲っておるではないか・・・
    奴隷が良くて、盗賊が悪い等という理屈が何処にあるのです。

バーニィ:若様は一人の奴隷に熱を上げたりはしておりません。
     まぁ・・・褒められたご趣味では御座いませんが・・・

セディ:ふぅ・・・分かっている。
    私は腐っても貴族の身です。
    何(イズ)れは爵位を継承する娘の家に入るか、
    兄がラグワルト家を継いだ後、兄が持つ男爵の地位を継ぐしかない。
    ラグワルト家の家名に傷を付けぬ為には
    少なくとも貴族の血を引く者と婚姻を結ばねばならないと申すのだろう?

バーニィ:その通りで御座います。
     セルジア伯爵夫人との仲を取り持とう等という事は致しませんが、
     セドリック様には身分に相応しいご婦人との交際をお願いしたものです。

セディ:はは、セルジア伯爵夫人ですか・・・
    流石に御免被(ゴメンコウム)りたいな。

バーニィ:旦那様は、セルジア伯爵婦人とのご婚姻を賛成なさっている様ですがね。
     若様や奥様の反対で表立って事を急ぐ様な事はなさっていませんが・・・

セディ:父上が?

バーニィ:はい、ですのでセドリック様には、お早くにそれ相応のお相手をと・・・
     私は望んでおるのです。

セディ:そうか・・・しかし、ティナとの事は関係の無い事だ。
    私も、本気でティナを妻に・・・等と考えている訳ではない。
    ですが、もし私がティナを愛していると自分で気付いてしまったなら。
    その時は、家を捨ててでも、ティナを妻に向い入れるつもりだ。

バーニィ:本気なのですね?

セディ:こういった事で冗談は言いませんよ。

バーニィ:・・・何と旦那様に報告すれば良いものか・・・

セディ:安心して下さい。
    そうは言っても、今のところ、私自身よく分かってないのです。
    ティナへの想いが愛であるのか、ただの情であるのか・・・

バーニィ:お戯れが過ぎない事を祈っております。

ティナ:セディ様〜!

セディ:ティナ。あまり一人で先に行かないで下さいね。

ティナ:分かってる♪ベッケラート邸が見えてきたよ〜

バーニィ:そこから先には一人で行くんじゃないぞ!
     会談の前に粗相が有っては大変なのだからな!

ティナ:バーニィに言われなくても、セディ様を置いて行かないよ〜だ!

バーニィ:まったくっ・・・

【ガルニア要塞】

シャル:アマーリア・ベッケラート女史の対応を見る限り、
    セディとの会談で味方に付いてくれる事は間違いないでしょう・・・
    しかし、そろそろ我々の動きもガルビアに伝わる頃・・・
    例の暗殺者がセディを襲うかも知れない。
    バーニィやティナも付いている事ですし、
    そう簡単に不覚を取る心配も無いとは思いますが・・・
    こちらも何か策を講じなければなりませんでしょうね。


    
セディ:セルディア国内での貴族との会談は成功を収めつつある。
    ルーク皇太子派の貴族の結束は固まりつつあり、春に予想される
    アスター王弟派との決戦に向けて、剣無き戦いは激化の様相を見せている
    真紅騎士団長のアマーリア・ベッケラート女史との会談を前に
    郊外の澄んだ空気が日々の忙しい毎日の疲れを癒してくれた。
    バーニィにティナへの想いを反対された事は意外と言うべきか、
    それとも予想通りと言うべきか・・・
    ぎこちない空気が三人の間に流れていた。
    時間が解決してくれるのならば良いのですが・・・

    淡雪が街道を白く染める季節、暗雲の立ち籠めるこのセルディアの未来は
    これからの私達の外交力に懸かっている。





                  三十七章へつづく・・・
                           次回に続く。