三騎士英雄譚〜第三十七章〜

セドリック・フォン・ラグワルト(32歳)男 愛称=セディ
セルディア王国ラグワルト伯爵家の次男。第二白銀騎士団中隊長。
貴族の名家の生まれだが華やかな社交界を嫌う変わり者。
いまだ独身を通しており、剣の道に進むが
うらはらに婦人からの人気は高い。
物腰は柔らかく、文才に長けるが剣の腕は白銀騎士団随一の腕を持つ

ティナ(15歳)女
ラグワルト家に盗みに入った泥棒。
セディに一目惚れして付き纏う。

バーナード・オズワルド(37歳)男 愛称=バーニィ
ラグワルト家に代々仕えるオズワルド家に生まれ。
セディが生まれた時から従者として仕えている。
騎士の武装を禁じられている為、戦斧を愛用している。

アマーリア・ベッケラート(36歳)女 愛称=アミィ
第五真紅騎士団の団長。
彼女の繰り出す連撃による返り血が紅蓮に見える為、
紅蓮地獄の戦乙女(バルキリー)の渾名を持つ。
女性である事の筋力の低さから重装備が出来ず
細身の長剣を愛用している。

舞台説明



バーニィN:セドリック様が、あのティナを意識していたとは・・・
      まさかとは思うが・・・ティナの動向には気をつけねばならんな・・・
      第五真紅騎士団、団長アマーリア・ベッケラート女史との会談。
      紅蓮地獄の戦乙女(バルキリー)と渾(アダ)される女傑は
      如何(イカ)なる人物なのだろうか・・・

ティナ:ねぇセディ様?アマーリア団長って会った事あるの?

セディ:騎士団の合同訓練の時に何度か顔を合わせた事はありますよ。
    こうして、話をするのは初めてですけど・・・

バーニィ:どの様なご婦人なのですか?

セディ:とても厳しい方だ。
    部下にもそうですが・・・自分にも厳しい。

バーニィ:そうなのですか。

ティナ:何か怖そうな人なのね。

セディ:そうでもないと思いますよ。
    本当はとても優しい人だと思います。

ティナ:そうなの?

セディ:そうだね、戦士にとって訓練を怠る事は死に繋がる。
    だから、彼女は部下にも厳しくあるのだと・・思いますよ。

バーニィ:人に厳しくするには、まず自分をも厳しく律さないと
     誰も付いて来ませんからな。

ティナ:そっかぁ・・・じゃないと示しが付かないもんね。

セディ:そうです。兎に角、直接お会いして話せば、
    どんな方なのか分かると思いますよ。

ティナ:そうだね!

【ベッケラート邸】

アミィ:よくぞ参られた、セドリック卿。

セディ:急な訪問、失礼を致しております。

アミィ:何・・・貴卿の様に礼節を正す御仁ならば、此方も迷惑もない。

セディ:忝(カタジケナ)い事です。

アミィ:セドリック卿はラグワルト伯爵家の生まれ、
    私の様な勲爵士(クンシャクシ)の出の者に礼を尽くされる事も無いでしょう?

セディ:アマーリア女史は第五真紅騎士団を預かる団長職の立場。
    私は伯爵家に産まれたとは言え、騎士としては中隊長です。
    礼を尽くすに問題があるとは思っておりません。

アミィ:セドリック卿は白銀騎士団所属だったかな?

セディ:ええ、第二白銀騎士団所属です。

アミィ:白銀騎士団にも貴卿の様な騎士が居ようとはな。

ティナ:どういう事?

バーニィ:コラ!勝手に発言をするな!
     ・・・・ベッケラート様、申し訳ありませんでした。

アミィ:良い。この者は?

セディ:私の信頼する供の者です。

アミィ:そうか・・・名は何と申す?

ティナ:ティナだよ。

アミィ:・・・・侍女・・等では無さそうだな。

ティナ:一応、使用人って事になってるよ。
    密偵兼だけどね。

アミィ:密偵?・・・そうか盗賊の者か。
    白銀騎士団というは貴族の者で構成されておる騎士団だ。
    盗賊のお前でも分かるとは思うが、
    貴族の連中は鼻持ちならない連中が多くてな。

バーニィ:それは・・・いや、いえ。

ティナ:確かにね。けど、セディ様はその辺の貴族とは違うよ。

アミィ:フフッ・・・だから驚いたのだよ。
    女伊達らに騎士団長等をしておると
    女の癖にとか、一般騎士の成り上がりが等と言われるでな。

ティナ:セディ様はそんな事、絶対言わない。
    貧民街育ちの女の私でも、こうしてちゃんと扱ってくれるしね。

アミィ:そうか・・・それは良い主に拾われたな。
    ではセドリック卿。本題に入ろうか。

セディ:そうですね、実はガルビア・フォン・クライセン侯爵がアスター殿下を擁立し
    国内の実権を握ろうと画策している節があるのです。
    これに対し、我々ルーク皇太子派は対抗勢力を纏め様としているのですが・・・

アミィ:我等、真紅騎士団が味方に付くよう確約を取り付けたいと言うのだな?

セディ:その通りです。

アミィ:答えは、同意しよう、だ。

セディ:アマーリア女史?

アミィ:ガルビア内務大臣から同様の内容で、誘いがあった。
    ガルニア要塞に内乱を企む連中が集結しているから共に討って欲しいとな。

ティナ:私達が内乱を企むですってぇ〜ガルビアのヤツぅ・・・

アミィ:勿論、あんな男を信用する気は無い。
    奴は権力に溺れ、自らの私腹の為だけに国家を利用する。
    アスター派の貴族の筆頭である事は公然の事実だが、
    王位継承権からしても正統性がなく、
    特に才に溢れる訳でもないアスター殿下を擁立する理由等・・・
    傀儡政権の樹立でも目論んでいるとしか考えられん。
    正直、アスター殿下は悪人ではないが、
    王位を継ぐには凡庸だとしか言い様が無いからな。

ティナ:流石は騎士団長を務めるだけの人ね〜
    よく分かってらっしゃる!

バーニィ:ティナ!要らぬ口を挟むな!

ティナ:・・・はーぃ。

セディ:ガルビアの狙いはアマーリア女史の察するに遠く離れてはいないでしょう。
    現在の所、ガルビア卿の邪魔をする者は、
    我々、ガルニア要塞を守備するルーク皇太子派のみ・・・
    戦力的には五百名程の兵力です。
    大規模に軍を動かせる雪解けの季節には、我々を如何(イカ)なる理由を
    付けてでも潰しにかかって来る事でしょう。

アミィ:我々が貴卿等に助力するとして、我が真紅騎士団の団員は三百名・・・
    六騎士団の中で最も少数だが、勝機はあるのか?

バーニィ:我が軍の指揮官は紺碧騎士副団長ランスフォード卿
     紺碧騎士団の多くは協力してくれる事でしょう・・・
     また近衛騎士団長フォルテウス卿は私共の協力者で御座います。
     近衛騎士四百騎も加われば紺碧騎士八百騎と合わせて二千騎の軍勢・・・

ティナ:それに今は言っちゃいけないだろうけど、民間からの友軍もあるしね。

アミィ:傭兵か?

バーニィ:傭兵とは別ですが、似た様なモノだと考えられて結構かと・・・

セディ:黄金騎士団、白銀騎士団からも志を共にする者が共闘する事でしょう。

アミィ:借りに黄金、白銀両騎士団が敵勢力に回ったとしても九百騎、
    残る深緑騎士団千二百騎がどちらに付くかが問題か・・・

セディ:恐らく深緑騎士団は味方には回らないとのシャルル卿の読みです。

アミィ:ならば、最悪二千百騎のアスター派対、二千騎のルーク派に二分する構図か!?

セディ:歩兵隊や傭兵隊、教会兵団からの援軍を考えれば、更に兵力差は広がるでしょうね・・・

アミィ:悪いが部下を無駄に死なせる様な戦いに参加させるつもりは無いぞ!

セディ:飽く迄、黄金、白銀騎士団の全勢力がアスター派に回った際の話です。
    ガルビアの手駒の兵力は現在のところ深緑騎士団の千二百騎のみ
    黄金、白銀の両騎士団の騎士は今後の勢力図によって
    与(クミ)する派閥を決めるでしょう。

バーニィ:仮に数で劣ったとしても近衛騎士や紺碧騎士は騎士団の中でも精鋭・・・
     我々に勝機があると見る者も多いのではないでしょうか?

アミィ:単純に考えるならばそうだろう。
    だが、相手はあのガルビア内務大臣だ・・・ただの負け戦など挑むまい。

ティナ:ルーク派貴族の政治的粛正と暗殺位はしてくるだろうね。

セディ:故に春の呼応に向けて確約を頂く事は望むとして
    それまでは中立の立場を装って頂きたいのです。

アミィ:正面対決ならば歩があるのは貴卿等だと言うならば・・・
    良かろう。私とてあの内務大臣に付くつもりは無い。
    兵を起こす際には必ずルーク皇太子殿下の下に馳せ参じ様。
    其れ迄は、どちらの派にも属さん。これで良いか?

セディ:ええ、有難う御座います。

アミィ:セドリック卿、ガルニア要塞には我が真紅騎士団の者も参加しておる。
    無茶はさせないでやってくれ。

セディ:心得ています。

アミィ:其れと・・・

セディ:何か?

アミィ:ガルビア内務大臣の甥、マグナルーク卿がミーティア計画という
    作戦を実行しているらしい。
    その内容は迄は分からんが・・・
    ガルニア要塞の攻略に関わっている事は確かだろう。

ティナ:ミーティア・・・確か西の言葉で流星だっけ?

バーニィ:流星計画?一体何をするつもりなのでしょうか?

セディ:さて、名前だけでは見当が付きませんね・・・

アミィ:真紅騎士団副団長のフランツィスカからの報告によると
    マグナルーク卿が錬金術士と大工を大勢集めているという事だ。
    まさかとは思うが夜空の流星を戦に使おうとでも言うのか?

セディ:流石に其れは無いでしょう・・・
    ですが調べてみる価値はありそうですね。

アミィ:うむ、では貴卿等も気をつけるのだな。

セディ:はい、それではアマーリア女史もお気を付けて・・・



バーニィ:如何やら真紅騎士団の協力は得られそうですな。

ティナ:ミーティア計画とか・・・気になる事も言ってたけどね。

セディ:そうですね・・・
    仮に要塞に流星が落ちる様な事があれば一溜まり無いでしょうが・・・
    サナウジャール殿の妖術でも其処迄の事は出来ません。
    何かの名称を引用したものだとは思うのですが・・・

ティナ:此処は私の出番かな?

セディ:そうですね。

バーニィ:密偵はティナに任せて、
     セドリック様は会談の方を進めて頂かねばなりませんぞ。

セディ:分かっています。

バーニィ:では、ユーリー・アルゲエーフ殿にティナの同行をお願いしては
     如何(イカガ)でしょうか?

セディ:ユーリー殿を?

バーニィ:彼はリーゼロッテ王女様の護衛兼ではありますが・・・
     密偵としても腕の良い人物。
     王女様の身は要塞内にいる限り安全でしょうから、
     お願いすれば同行を認めてくれるかも知れません。

ティナ:私一人で大丈夫だってば!

セディ:そうですね・・・ティナを信用していない訳ではありませんが、
    もしもの時があるかも知れませんし、一度お願いしてみましょう。

ティナ:まぁ、セディ様がそう言うなら・・・



バーニィ:後日、ガルニア要塞のセドリック様宛にアマーリア女史の密書が
     届けられる事になる。
     冬季の間、真紅騎士団はガルビア内務大臣からの要求を躱す為
     公爵夫人の漫遊の護衛に国内を離れるという事と
     呼応に対しては必ず馳せる事を約束する内容となっていたらしい。
     密偵に関してはユーリー殿も快く引き受けて下さり。
     当分はセドリック様とティナとの事で気を焼く必要も無くなったという事だ。
     思惑通り、貴族との会談が順調に進む中・・・忍び寄るガルビアの影は
     我等の隙を虎視眈々と狙っていた・・・





                  三十八章へつづく・・・
                           次回に続く。