三騎士英雄譚〜第四十章〜

セドリック・フォン・ラグワルト(32歳)男 愛称=セディ
セルディア王国ラグワルト伯爵家の次男。第二白銀騎士団中隊長。
貴族の名家の生まれだが華やかな社交界を嫌う変わり者。
いまだ独身を通しており、剣の道に進むが
うらはらに婦人からの人気は高い。
物腰は柔らかく、文才に長けるが剣の腕は白銀騎士団随一の腕を持つ

ティナ(15歳)女
ラグワルト家に盗みに入った泥棒。
セディに一目惚れして付き纏う。

バーナード・オズワルド(37歳)男 愛称=バーニィ
ラグワルト家に代々仕えるオズワルド家に生まれ。
セディが生まれた時から従者として仕えている。
騎士の武装を禁じられている為、戦斧を愛用している。

アルマント・フォン・アルムホルト(45歳)男
セルディア王国アルムホルト公爵当主。
アスター・エイルファン・セルディア殿下の従兄弟にあたり
外務大臣の要職に就く。
正妻との間には子宝に恵まれず、
跡取りの不在が悩みの種となっている。

クリスティアーネ・アルムホルト(11歳)女 愛称=クリス
アルムホルト公の一人娘。
幼いながらも母譲りの美しい少女であるが、
表情に乏しく、醒めた一面を持つ。
大変、読書家で何時も本を読んでいる。

ゲオルク・ベーレンドルフ(32歳)男
アルムホルト家に仕える執事で、第四深緑騎士団の中隊長。
常に慇懃な態度で、アルムホルト家の職務を一手に管理している。
密偵として活動していた事もあり短剣術に秀でている。

舞台説明



セディN:アルムホルト公爵家との会談。
     協力するに相違ないが、代わりに娘と婚姻を結び
     公爵の跡を継げ・・・これがアルマント公からの返答なのだ・・・
     ティナ・・・私は如何すれば良いのだろう・・・

バーニィ:セドリック様・・・此方においででしたか?

セディ:バーニィか・・・少し風に当たりたくてな。
    で、如何した?

バーニィ:アルマント様にどの様なお答えをする心算(ツモリ)なのです?

セディ:今考えている。

バーニィ:悩む必要等・・・無いと思われますが・・・

セディ:公爵家の世継ぎに・・・確かに私の立場で考えれば、
    迷う必要等無いだろう。
    しかし・・・

バーニィ:ティナ・・・ですか?

セディ:嗚呼・・・

【アルムホルト家、中庭】

クリス:其処に居るのは誰?

ティナ:・・・・意外と勘が良いのね。

クリス:曲者?

ティナ:ええ、曲者。

クリス:ふふっ、自分から曲者だなんて自己紹介する曲者なんて、聞いた事が無いわ。

ティナ:あら?案外居るかも知れないわよ?
    現にココに・・・

クリス:そうね。・・・・で、貴女は誰?

ティナ:ティナよ。

クリス:ティナ?私はクリスティアーネ、クリスで良いわ。

ティナ:そう、クリスね。
    貴女、見知らぬ貴族との結婚をするんだって?

クリス:見知らぬ訳ではないわ。
    先日、お顔を拝見したもの。

ティナ:でも、好きでもないんでしょ?

クリス:話が突然ね。
    でも、そうね・・・

ティナ:クリスは其れでいい訳?

クリス:私はアルムホルト公爵家の娘よ?
    セドリック様と結ばれなくとも、
    いずれ何処かの見知らぬ殿方と婚礼されられる事になるわ。

ティナ:でも・・・

クリス:セドリック様は素敵な方だと思うわ。
    だから実は、少し安心してるのも確かなの。

ティナ:如何いう事?

クリス:我がアルムホルト家を継がれるに相応しい技量をお持ちだと、
    父上が認めた方で・・・見た目にもお美しい方でしょ?
    好きとか嫌いとか、今はまだわからないけど、
    素敵な人だとは思うの、そう思える人は他に居そうもないもの。
    父は家督を重視される人、今度の話を逃したら、私・・・
    どんな殿方がお相手になるか、分かりませんわ・・・

ティナ:そんなぁ〜。
    ・・・でも、クリスの気持ちは?
    だって、好きでもない人と結婚するなんてさー!!
    絶対、可笑しいよ!

クリス:それは公爵家に生まれた宿命だと諦めてるわ?
    だって、私の代で家を潰す訳にはいかないでしょ・・・
    だから、相手がセドリック様の様な方で、私は幸せだと思ってる。

ティナ:其れは・・・そうだろうけど・・・

クリス:ティナさん。
    貴女は只の曲者さんではないのでしょう?
    何者なの?

ティナ:ぇ?・・・・それは・・・

ゲオルグ:クリスティアーネ様!どちらにおられますか!?

ティナ:やばっ!

クリス:あら?もう行ってしまわれるの?
    ・・・またね、曲者さん。

ゲオルグ:ぁ・・・こんな所におられましたか。

クリス:ゲオルグ・・・如何かなさいまして?

ゲオルグ:旦那様がお呼びです。書斎にてお待ちになられていると・・・

クリス:分かったわ。

ゲオルグ:さぁ、こちらへ・・・足元に泥濘(ヌカルミ)が御座います。

クリス:ありがと・・・。

【アルマント書斎】

ゲオルグ:旦那様。クリスティアーネ様をお連れ致しました。

アルマ:そうか。
    クリス、入りなさい。

クリス:お父様、如何かなさいまして?

アルマ:ゲオルグより聞いたが・・・セドリック卿と顔を合わせたそうだな?

クリス:はい。

アルマ:私はあの者をお前の夫にと考えておる。

クリス:はい、聞いております。

アルマ:如何思う?

クリス:素敵な殿方だと思いますわ。

アルマ:そうか。
    お前がそう思っておるのなら、私も安心だ。

ゲオルグ:旦那様・・・

アルマ:なんだ?例の娘の件か?

クリス:例の娘?

アルマ:いや、何でもない。お前が気にする事ではない。

ゲオルグ:私めにも気にするなと仰られるのですか?

アルマ:そうだ。ゲオルグ、お前も要らぬ気を使うな。

ゲオルグ:はぁ・・・御意。

【離れの邸】

セディ:ティナ・・・私は如何すれば良いのだろう。
    こんな事ならティナを連れて来れば良かったでしょうか・・・

ティナ:だろうと思った♪

セディ:ティナ!?

ティナ:コッソリついて来ちゃった・・・

セディ:まったく、ティナ・・・貴女という人は・・・

ティナ:ぇへへ・・・

セディ:で、何処まで知ってるのです?

ティナ:その・・・クリスって子との結婚?

セディ:・・・・知ってましたか。

ティナ:・・・うん。

セディ:正直・・・迷ってます。

ティナ:あの子が気に入らない・・・とか?

セディ:いえ、そういう理由ではありません。

ティナ:じゃあ・・・。

セディ:ティナ、君への想いを私はまだ答えにしていない・・・
    そんな状態でクリスティアーネ嬢を妻に迎え入れる事等・・・

ティナ:でも、私の事を選んでくれる訳でもないんだ・・・?

セディ:・・・・すまない。まだ答えられない。

ティナ:いいよ。素直に話してくれて・・嬉しいから・・・

セディ:・・・・悪いな。
    いい加減な事は言いたく無いのです。

ティナ:セディ様らしいね。
    うん。・・・クリスと結婚してあげて?

セディ:ティナ?

ティナ:もし、私の事を好きだと思っちゃったら、
    愛人にしてしまえば良いじゃない♪
    貴族なら其の位、簡単に出来ちゃうんでしょ?

セディ:ティナは其れで良いのですか!?

ティナ:良くは無いかな・・・・
    でも、盗賊の私がセディ様のお嫁さんになるなんて、
    やっぱり夢物語だよ・・・其れに・・・

セディ:其れに?

ティナ:クリスって子と話したんだ。

セディ:クリスティアーネ嬢と?

ティナ:うん。セディ様と結婚出来なきゃ・・・
    どんな人と結婚させられるか解らないって・・・
    そんなの絶対間違ってる!クリスが・・・可哀想。

セディ:確かに公爵家の一人娘のクリスティアーネ嬢の婚姻は
    次期公爵家当主の座を得る事を意味しますからね・・・
    私で無くとも、彼女の夫には
    其れなりの実績を持つ者が選ばれるでしょう。

ティナ:実績があるって事は其れなりの齢って事でしょ?

セディ:そうですね・・・私やシャル位の年齢か・・・
    そうでなければ若くても四十前の者になるでしょうか・・・

ティナ:私より年下なのに・・・
    でも、セディ様となら・・・ってあの子言ってた。
    だから・・・

セディ:彼女の為に婚礼を受け入れよと?

ティナ:アルムホルト家の協力も得なければならないんでしょ?

セディ:確かに・・・そうですが・・・

ティナ:だから・・・。

セディ:・・・・わかりました。
    ティナがそう言うのであれば、私は受け入れましょう。
    政略的意味で言えば、今回の話は私にとっても願っても無い話です。
    ただ、正直ティナ・・君の事で迷っていた。

ティナ:うん。

セディ:しかし、私も吹っ切れました。
    今回の話を受けようと思います。
    狡(ズル)い大人の選択をしようとしているのも解っていますが・・・

バーニィ:決心なさいましたか。

セディ:バーニィ・・・聞いていたのですか?

バーニィ:立ち聞きする心算(ツモリ)は無かったのですが・・・

セディ:ま、そういう事です。

ティナ:バーニィが私を置いて行こうとするから、
    セディ様を悩ませたんだからね!

バーニィ:ふむ・・・ま、身分は弁(ワキマ)えてた様だな。
    
ティナ:単純にセディ様を困らせたくなかっただけ!
    ・・・・其れに、あのクリスって子が可哀想だったから・・・

バーニィ:そうか・・・兎に角、ご決断されたなら
     早くご報告に上がらねば成りませんぞ。

セディ:そうだな。

【執事室】

ゲオルグ:クリスティアーネお嬢様・・・
     あのお年で伴侶を迎える事になるとは・・・
     しかも、想いを寄せる女が居ながら、
     次期公爵の地位に目が眩んだか!セドリック卿!!

アルマoff:そうだ。ゲオルグ、お前も要らぬ気を使うな。

ゲオルグ:そうは言われても、このゲオルグ・・・
     見す見すお嬢様を泣かせる様な事を許す訳には参りません。
     セドリック卿が婚礼を承諾すると言うのであれば・・・
     その娘には・・・消えて貰いましょう・・・



バーニィ:予期せぬセドリック様のご婚礼が持ち上がり
     私はホッと胸を撫で下ろした。
     相手は国内最大貴族のアルムホルト公爵家の一人娘。
     アルマント外務大臣のご令嬢、クリスティアーネ嬢である。
     ティナとのお戯れを心配していた私から見れば
     これ以上無い、良縁だと言えましょう。

     意外なる妨害の芽が芽吹いている事も知らず・・・
     親心にも似た、ひと時の安堵を味わっていた。





                  四十一章へつづく・・・
                           次回に続く。