三騎士英雄譚〜第四十三章〜

セドリック・フォン・アルムホルト(32歳)男 愛称=セディ
セルディア王国ラグワルト伯爵家の次男。第二白銀騎士団中隊長。
貴族の名家の生まれだが華やかな社交界を嫌う変わり者。
アルムホルト公爵家のご令嬢と結婚し、次期当主となる。
物腰は柔らかく、文才に長けるが剣の腕は白銀騎士団随一の腕を持つ

ティナ(15歳)女
ラグワルト家に盗みに入った泥棒。
セディに一目惚れして付き纏う。

アルマント・フォン・アルムホルト(45歳)男
セルディア王国アルムホルト公爵当主。
アスター・エイルファン・セルディア殿下の従兄弟にあたり
外務大臣の要職に就く。
正妻との間には子宝に恵まれず、
跡取りの不在が悩みの種となっている。

クリスティアーネ・アルムホルト(11歳)女 愛称=クリス
アルムホルト公の一人娘。
幼いながらも母譲りの美しい少女であるが、
表情に乏しく、醒めた一面を持つ。
大変、読書家で何時も本を読んでいる。

舞台説明



アルマN:季節は春まだ遠く、だが確実に穏やかになってきている。
     娘のクリスティアーネとセドリック卿の結婚は
     速やかに執り行われ、優秀な世継ぎが出来た事に
     私は胸を撫で下ろしていた。

クリス:セドリック様?
    ・・・何をお考えですか?

セディ:クリスティアーネか・・・
    いや、何でもない・・・

クリス:ゲオルグの事ですか?

セディ:それもある。
    何かしらの行き違いがあったのだろう・・・
    許せよ・・・

クリス:セドリック様こそ、従卒を亡くされて・・・
    お悲しみの事でしょう・・・

セディ:バーニィは私が幼い頃からの友であったからな。
    真相が如何あれ、ゲオルグ卿を恨まずにはおれないのだ・・・

クリス:お心、お察しします・・・

セディ:クリスティアーネにとってもゲオルグは親しかったのだろう?

クリス:はい、セドリック様・・・
    あの、夫婦の仲でこう呼ぶのはおかしいでしょうか?

セディ:・・・・それも、そうかな?
    何と呼んでくれても構わないよ。
    好きに呼ぶといい。

クリス:ではセディ様とお呼びして宜しいですか?
    私の事はクリスと呼んで下さって結構ですから・・・

セディ:わかりました。それでクリス、貴女を妻とした訳だが・・・
    クリスはそれで良かったのか?

クリス:不安は御座いましたけど・・・
    昨晩でセディ様のお優しさは良くわかりましたから・・・

セディ:・・・・恐い思いをさせましたか?

クリス:いいえ・・・嬉しかったです・・・
    途中からあまり、覚えがないのですが・・・

セディ:・・・・この様な事を思い返しては・・・顔を見づらいな・・・

クリス:そうですね・・・昨晩で授かっているのかしら・・・

セディ:早々に世継ぎは授かりませんよ。
    それより早くお着替えになって下さい。
    お義父様が参られますよ。

クリス:はい。

セディ:では、先に広間に行っています。
    支度が済みましたら来て下さい。


アルマ:お早う。セドリック君。

セディ:お早う御座います。
    お義父上・・・

アルマ:昨晩はよく眠れたかね?

セディ:はい、流石に慣れず少し緊張しましたが・・・

アルマ:そうか。

セディ:クリスティアーネも直(ジキ)に参ります。

アルマ:書物にしか興味のない娘だが
    どうか宜しく頼む。

セディ:はい。

アルマ:それと、そなたの従卒の件・・・
    我が家の者の不始末許せよ。

セディ:真相はまだ解りませんが、ゲオルグ卿を失わせた事
    こちらもお詫びせねばなりません。

アルマ:そう言ってもらえると助かる・・・
    ゲオルグが襲った娘の方は当家に部屋を用意した。
    元々セドリック君の密偵であるし
    傍に置く方が何かと都合が良かろう?
    娘の部屋からは少し遠いが来客用の離れを用意した。
    中での声が外に漏れる心配もないから安心したまえ。

セディ:心遣い感謝します。

クリス:お父様・・・お早う御座います。

アルマ:漸く起きて来たか・・・
    朝の早いお前にしては珍しいな。

クリス:・・・・・

セディ:お義父上・・・あまり、からかわないで下さい。

アルマ:ふははっ、これでも一人の娘の父親なのだ、
    心境は複雑なモノなのだよ。
    少しぐらい、からかっても責められはせんだろう?

セディ:胸中計り兼ねますが・・・

アルマ:それにしてもだ。
    今やセドリック君も正式に我がアルムホルト家の一員
    この様な愛で致し(メデイタシ)日なのだから
    今日ぐらいは和やかに行こうではないか。

セディ:そうですね。
    私も妻やお義父上と揃って朝食を囲めるのは
    この冬の間だけとなるでしょうし・・・

アルマ:うむ、アスターとガルビアの一件
    婿殿に任せっきりとなるな。

セディ:私には信頼できる優秀な仲間が大勢おります。
    その辺はご安心下さい。

アルマ:世間の目というものもある。
    戦争に感(カマ)けるのも良いが
    世継ぎ作りも忘れんでくれたまえよ?

セディ:は、はぁ・・・

アルマ:気の抜けた返事をしおって・・・
    まだ娘も若い、年内に・・・とまでは言わぬが
    二年と経って子も出来ぬとなると
    世間の笑い種にならぬとも限らんからな

セディ:心には留めておきますが・・・
    なにぶん天からの授かりモノにて・・・

アルマ:何を幼稚な事を言っておる。
    夫婦仲さえ睦まじければ、授かるものよ。

クリス:・・・お父様っ!

アルマ:これ以上、口を出すと娘に嫌われ兼ねんな・・・

セディ:そうですね。
    私も善処致しますゆえ・・・この辺でお許し頂いて・・・
    ところで、隣国の動向はどの様な状況ですか?

アルマ:ふむ、エスティアは今回の内乱に
    不干渉である事を明言して来おった。
    アスエル教団にこれ以上の力を持たせたくないのだろう・・・
    しかし、デミドーラの動向は芳しくないな・・・

セディ:デミドーラ外務大臣、ボドワン・アンデルソン卿ですか?

アルマ:いや、ボドワン卿は中々に慎重派でな
    今は国内の動向を探ってどちらが有利か天秤に架けておるよ。

セディ:では・・・?

アルマ:デミドーラは元々軍事国家だ。
    今は貿易による経済が成り立ってはおるがな・・・
    ガルニア要塞の陥落に戦意を失う者ばかりでは無いという事だな。

セディ:ではガルニア要塞奪還を目論んでいると言う訳ですか・・・

アルマ:そうだ。
    デミドーラの古い家系には武闘派の貴族が多い。
    今の所、大きな戦力は集まってはおらぬが・・・
    ガルビアの古狸がそれを嗅ぎ付けて
    糸を引き始めている様だ。

セディ:っ・・・ガルビアめ・・・・

【アルムホルト家ティナの私室】

ティナ:あ、セディ様・・・

セディ:ティナ・・・元気を出して下さい。

ティナ:何?バーニィの事なら悲しんではいるけど
    そこまで落ち込んでる訳ではないわよ?

セディ:しかし、元気が無いじゃありませんか。

ティナ:当然よ!
    だって・・・

セディ:如何したのです?

ティナ:・・・・だって・・・
    昨晩の事知らない訳じゃないのよ・・・?

セディ:っ!?忍び込んでいたのですか!?

ティナ:忍び込む心算(ツモリ)じゃ無かったんだけど・・・

セディ:心算(ツモリ)じゃなく・・・
    本館の二階にある部屋を覗き込めるのですか?

ティナ:だって・・・気になるんだもん!
    ・・・・勝手に足が向いちゃって・・・ごめん・・・

セディ:褒められた事ではありませんね・・・

ティナ:分ってるわよぉ!
    ・・・けど、仕方ないじゃない・・・
    分ってる・・・結婚したんだもんね・・・

セディ:すまない・・・

ティナ:ねぇ・・・私の事・・気にしてくれているって言葉・・・
    まだ嘘になってないよね?

セディ:ええ・・・

ティナ:じゃあ、私の事好き?

セディ:・・・・それは・・・

ティナ:答えられない?

セディ:いえ、ティナの事は好きです。
    妻ある身となってはしまったが気持ちは変わりません。
    こんな台詞が許されるか分りませんが・・・

ティナ:許すよ・・・?

セディ:ティナ・・・

ティナ:だから私の事もちゃんと忘れないで!
    クリスだけに感(カマ)けてたら許さないんだから!

セディ:そう堂々と浮気しろと言うのですね?

ティナ:セディ様は、貴族でしょ?

セディ:何か貴族に偏見持っていませんか?

ティナ:そんな事無いよ?
    でも、私だってそんな風に思われながら諦めれる訳ない。

セディ:こうなる事も運命なのですかね?

ティナ:そうかもね?

セディ:ふぅ・・・

ティナ:ところでガルビア達の事、放っておいていいの?

セディ:ガルビアの事も放ってはおきませんが・・・
    それよりも今はゲオルグ卿の事を聞いておきたいのです。

ティナ:うん・・・

セディ:まだ・・・話し辛いですか?

ティナ:ううん・・・大丈夫。
    私を狙った男は誰に雇われたか口を割らなかったけど
    ゲオルグに雇われていた事は明確ね・・・
    狙いは完全に私・・・
    本意は分からないけど、セディ様の結婚の邪魔になるって
    感じたんじゃないかなぁ・・・

セディ:私のせいですか・・・

ティナ:そっ!私犯されそうになったのよ!?
    ありえないよぉ!

セディ:すみません・・・

ティナ:でっ、バーニィの遺言でセディ様の事好きにしていいって
    言われてるの!
    ・・・だから、諦めないよ。セディ様♪

セディ:如何したモノですかね・・・

ティナ:じゃあ、まずは・・・キスして・・・

セディ:・・・・・それは・・・・。



ティナ:セディ様?私から逃げないでね♪
    私はあのバーニィの言いつけ守ってるだけなんだから・・・

    雪解けも間近に迫り、ガルビアとの決戦もそう遠くない。
    戦いの最終準備に私達はガルニア要塞へと一時戻る事となった。
    しかし、ガルニア要塞に起こる大事件には僅かな差で
    間に合わなかった・・・。





                  四十四章へつづく・・・
                           次回に続く。