三騎士英雄譚〜第四十七章〜

フォルテウス・エイブス(41歳)男
近衛騎士団団長。船乗りあがりの騎士。
元海賊であったという噂もあるが
その噂に似合う豪胆な性格。
エドを近衛騎士に引き立てた人物でもある。

ギルバート・アシュレイ(31歳)男 愛称=ギル
フォルテウス・エイブスの知人
セルディア人の貿易商であり、また海賊でもある
港町アムシーダを拠点に大規模な海賊団を率いている。
月の湾曲刀の所有者

ウォルター・ラザフォード(24歳)男
ギルバート提督の参謀を務める地理学者
剣の腕はないが連射式弩弓を持ち、
その威力は素人のウォルターを強力な弓兵へと変える。
新測量技術を考案したり、巧みな会計術により
ギルバートの海賊団を支えている。

ミカエル・フォシュマン(27歳)男
エスティア王国からの亡命貴族、元辺境伯
クライセン侯からの庇護を受け
暗殺などの裏稼業の斡旋で財を成している。

シュティーナ・リンドホルム(23歳)女
エスティア人の暗殺者
聖剣探索行に赴くも失敗。
名誉挽回の機会を虎視眈々と狙っている。

ヴェルチェフ(26歳)男 通称=ヴェル
ローゼルク人の傭兵。
ヴェルチェフはローゼルクの言葉で烈風を意味し本名ではない。
馬術と槍斧(ハルバード)の使い手であり。烈風の如き速さで戦場を駆け巡る。
死神グレイとは戦場で轡を並べた事のある人物。

グロム(25歳)男
シラルド人の傭兵。
ヴェルチェフの相棒で名はローゼルクの言葉で迅雷、激しい雷鳴。
稲妻型の矛先を持つ蛇矛(ダボウ)という武器を愛用しており
また、ヴェルチェフから贈られた炎状剣(フランベルジェ)を
モルニヤ(ローゼルクの言葉での稲妻の意)と称し愛剣としている。

レイラ・アウロフ(25歳)女
ローゼルク人の傭兵。
没落したローゼルクの騎士家の令嬢。
アウロフ家復興の為、傭兵へと身を落とし武勲を上げる事を夢見ている。
女としての筋力の無さを素早い体捌きと巧みな剣捌きで補っている。
所持している方形盾(ヒーターシールド)はアウロフ家の家紋を装飾した名品。
『家名を守る』の誓いを込めている。

舞台説明



レイラN:ミカエルと云う男に雇われ、アムシーダという港街にやって来ていた。
     ローゼルクと違い、海辺だというのに身を凝(コゴ)らせる事はない。
     まるで季節が秋に巻き戻った様な錯覚を覚えた・・・
     私達の任務は雇い主であるミカエルが、フォルテウスという男の抹殺に
     邪魔が入らない様、取り巻きの排除が目的。
     雑魚の相手なんて楽な仕事だけど・・・嫌な予感がするのよね・・・

【鴎達の休息亭】

ギル:旦那ぁ〜居やすかぃ?ぁ、居た居た・・・ちょいとばかり匿(カクマ)ってくだせぇ

エイブス:何だ騒々しい・・・先程から、ウォルターの奴がお主を探し回っておったぞ?

ギル:何でぇ・・・この酒場も安全じゃねぇなぁ〜

エイブス:フンっ、どうせお主の事だ・・・執務を放っぽり出して遊び回っているのだろう。

ギル:それは言いっこナシですぜ・・・(汗)
   副長のゼフに任せていた海運業の書類が馬鹿みたいに溜まってやしてね・・・

エイブス:ほぉ・・・しかしそれは他の者が代筆出来る書類なのか?

ギル:ぁたた・・・それが出来ないから逃げてるんでさぁ〜

エイブス:成程な・・・先日の様な海賊討伐なら手伝ってやれるが・・・
     お主に代わりがおらぬ仕事ならば諦めて、さっさと終わらせれば如何だ?

ギル:旦那はあの書類の山を見てないからそんな事が言えるんですぜ?

ウォルター:あぁ!!ギルバート提督!!
      やっと見つけましたよ!・・・さ、仕事が滞っているんです。
      こんな所で油売ってないで、商会に戻って下さい!

ギル:あちゃぁ〜見つかっちまった・・・

ウォルター:何があちゃぁーですか!
      各港の入港証の更新手続きも期限が迫ってますし。
      交易所や契約をしている取引先に提出する帳簿も
      提督の署名が無いと!
      其れでなくても、造船所に頼んでおいた新造艦も進水式が近いんですよ!?

ギル:あー!そう一気に言い立てるな!!
   やりゃぁ良いんだろ!?

ウォルター:判りましたから、急いで下さい。
      帳簿も手続きも後は提督の署名だけで大丈夫な様に
      昨日の内に全て纏めてありますから。

ギル:はぁ〜、俺は字ぃ書いたり、細々(コマゴマ)した事は生来苦手なんでぇ・・・
   勘弁してくれ・・・

エイブス:有能な会計士が居て良かったな・・・ギルバート。

ギル:よしてくだせぇ・・・
   俺は其れに参ってるんですから・・・



ミカエル:シュティーナ、フォルテウスの根城は押さえてあるだろうな?

シュティ:勿論です。この街の酒場の一つ『鴎達の休息』亭・・・
     以前に調査した時と変わっておらず、我々を甘く見ているのではないかと・・・

ミカエル:其れだけ、お前達が手緩かったと言う事だ。

シュティ:面目ありません・・・

ミカエル:まぁ良い。おぃ傭兵!
     お前達ならまだ面も割れていない、様子を探って来てくれるか?

ヴェル:構わねぇよ。で、どんな野郎だい?

ミカエル:ちょっと待っていろ、似顔絵描きを持って行くと良い。

ヴェル:ほぉ・・・うめぇもんだな。

ミカエル:こんなモノか・・・40代前半のこういう男だ。

レイラ:へぇ・・・結構ダンディじゃない?

ヴェル:俺の方が色男だがな。

レイラ:あらそ・・・

グロム:右顎に傷が特徴で御座るか?

ミカエル:そうだ。

ヴェル:よし、覚えた。
    旦那の絵が上手いのは分かったが、こんな物持ち歩いてちゃ怪しまれる元だしな。

ミカエル:相手が認識出来るなら問題はない。好きにすればいい。

グロム:では、早速行って参ろう。

レイラ:あー、待って。
    グロム、あんたはここに残ってて良いよ。

グロム:ん?

レイラ:あんたの風貌は目立ち過ぎるからね。

グロム:港街ならばそう目立つ事もないと思ったが…
    確かに東方出身の拙者の姿は目に付き易いかも知れぬな。

レイラ:気にする事は無い。
    偵察位、私とヴェルチェフの2人で十分だからね。

ヴェル:何だ?俺と2人きりになりたかったのか?

レイラ:気持ち悪い事言ってんじゃないよ。
    ほら、行くよ!

ヴェル:はぃよ。

【アシュレイ海運商会】

ウォルター:さぁ、仕事は溜まってるんですよ。

ギル:チッ・・・遣りゃぁ良いんだろ・・・

ウォルター:はぁ・・・目を通して署名するだけでしょ?

ギル:なんだと?目は通してあるんじゃないのか!?

ウォルター:勿論、私は確認済みです。
      しかし、提督が署名するんですよ?
      提督自身が目を通さないで如何します・・・

ギル:なんだよ・・・わぁったよ。
   で、どいつから手を付けりゃ良いんだ?

ウォルター:どれからでも結構ですよ。
      兎に角、目を通して下さい。

【鴎達の休息亭】

レイラ:あれじゃない?

ヴェル:その様だな。ありゃ出来るぜ?

レイラ:剣捌きも見てないのに分かるのかい?

ヴェル:あぁ分かる。
    レイラ、今あいつに斬りかかると思ってみろ・・・
    殺れるか?

レイラ:・・・・そういう事かい。
    分かるよ・・・意識してみると・・大したモノね。

ヴェル:隙がねぇだろ?
    常時、隙を見せねぇなんて余程じゃねぇと出来ねぇよ。

レイラ:まぁ、私達の相手はあいつじゃないんだろ?

ヴェル:まぁな。

レイラ:如何やら今は一人の様ね・・・

ヴェル:其の様だな・・・俺は客の振りして見張ってるからよ。
    ミカエルの旦那に報告しに行ってくれ。

レイラ:分かったわ。



グロム:レイラ戻ったか?

レイラ:ええ。

シュティ:如何だったの?
     早く報告しなさい。

レイラ:フォルテウスって奴、今は酒場で一人よ。
    ヴェルチェフが客に成り済まして見張ってるわ。

シュティ:そう。仲間は居ないのね?

グロム:処で拙者達の相手となるフォルテウスの仲間ってのは
    一体どんな輩なのだ。

シュティ:この街を根城にしているアシュレイ海運商会とか言う船乗りよ。

レイラ:船乗り?

シュティ:えぇ、船乗り・・・表向きはね。
     でも裏ではこのセルディア最大の海賊組織よ。

グロム:海賊如き、拙者達の相手ではない。

ミカエル:それは心強いが・・・その首領はアスエルの三聖剣と呼ばれる名剣の持ち主でな、
     お前達を雇ったシーギスムンドも為損なった相手だ。
     油断して失態を重ねない様にな。

グロム:心得た。

ミカエル:シュティーナ、奴が一人で居るなら今が好機という事だ。
     ・・・殺るぞ。

シュティ:はい。
     お前達は入り口を見張ってな。

グロム:・・・自分に与えられた役割位は理解している。

シュティ:フン、なら行くよ!



エイブス:・・・・ん?
     酒場内では迷惑を掛けるな・・・

ミカエル:何故気付いた・・・?

エイブス:ガルビアの手の者だな?
     其れ程、血の匂いさせていては警戒するなと言う方が無理というモノだぞ。

ミカエル:そうか・・・血の匂いか。

エイブス:それに其方のお嬢さんは顔見知りなのでな。

ミカエル:そうだったな。シュティーナを連れて居れば察しは付くか・・・

エイブス:シュティーナと言うのか・・・以前はマデリーネと名乗っておったが・・・

シュティ:そんな偽名を一々覚えていてくれるとはね。
     光栄な事ね・・・セルディア近衛騎士団長フォルテウス・エイブス卿。

エイブス:エスティアの暗殺者が正体を隠さぬという事は・・・
     ワシの命を奪いに来たという事か?

ミカエル:正体を隠そうが、隠すまいが・・・
     暗殺者が命を奪いに来る以外に何をすると言う心算(ツモリ)だ?

エイブス:酒の相手・・・とは、いかんだろうな。

ミカエル:くだらん。
     シュティーナ、援護しろ。

シュティ:ハッ!

ミカエル:では、フォルテウス卿・・・死んで頂こう。セァッ!!

エイブス:うぉっと・・・問答無用か?
     為らばお相手致そう・・・でりゃあ!!

シュティ:右には回らせないよ!

エイブス:くっ・・動きを読まれとったか?お嬢さんもやるものだな。

ミカエル:悠長に喋ってる場合ではないぞ?
     ハァアっ!!

エイブス:チィッ!!うぉぉお!!!

シュティ:何て身の動き!?

ミカエル:低く構えての横薙ぎか・・・無様な戦い方だな。

エイブス:そうかい?しかし貴様の斬撃も豪く単調ではないか。
     片手剣一振りでは左手が寂しがっておるのではないか?

ミカエル:つくづく察しの良い男だ・・・

エイブス:年の功という奴でな。
     貴様の様に二刀を使う野郎を知っている。

ミカエル:其れだけ低く構えられては此方も体勢を低くしなければ間合が狭くなる。
     しかし、慣れぬ体勢では剣速も鈍るというもの・・・

エイブス:立っている状態では案外、低い位置は攻撃し難いものなのだ。
     幾ら器用に二刀を使おうとも同じ事・・・腰が入らん。

ミカエル:剣を片手で操る分斬撃が軽いのを見込んでの戦法か・・・考えたものだな。
     剣を弾かれれば、隙を作るのは私の方だと言うのだな?

エイブス:ご名答。さて如何するね。

ミカエル:別に如何もしないさ。タァァ!

エイブス:其れでは当たらんよ!・・ぶはっ!

ミカエル:剣だけで攻撃する等と言った覚えはない。

エイブス:それもそうだ・・・顔面に蹴りとは中々効いたわ。

ミカエル:では、続けようか・・・

エイブス:為らば、次は此方から往かせて貰おう!セェィ!!

ミカエル:死ねぃ!!

エイブス:当たらぬ!!

シュティ:甘いねっ!ハァッ!!!

エイブス:何っ!?グゥッ・・・

ミカエル:二対一だという事を忘れていたか?

エイブス:女の方に誘導する為の一閃だったか・・・

ミカエル:貴卿は中々に避けるのが得意な様だったのでな。

シュティ:以前の借りは返させて貰ったよ。

エイブス:ぅぐ・・・・毒か・・・

シュティ:こいつは特別製だよ?
     何種かの毒蛇から抽出した毒をブレンドした猛毒さ。
     10分もしない内に全身へと回り、死に至る。

ギル:あれは・・・旦那!?
   てめぇ等!!其処で何してやがる!!

シュティ:あら、ギルバート提督じゃないかぃ?
     でも、少し来るのが遅かったねぇ・・・

ギル:てめぇはマデリーネ!!

ミカエル:最早、フォルテウスは助からん。
     面倒になる前に此方も退くぞ。



エイブス:左腕の傷口が麻痺したかの様に動かん・・・
     毒はすでに全身に回り始めているのか、平衡感覚を失い、視界が歪む。
     毒蛇の毒では毒消しも出来ぬか・・・
     朦朧(モウロウ)とする意識の中、右手に握る長剣を天に翳(カザ)すと
     自らの左腕目掛け振り下ろした。
     最後の力を使いきり、仰向け倒れ込む・・・
     意識を失う前に最後に見た物は、
     地面に転がったワシの左腕だった。





                  四十八章へつづく・・・
                           次回に続く。