三騎士英雄譚〜第四十八章〜 フォルテウス・エイブス(41歳)男 近衛騎士団団長。船乗りあがりの騎士。 元海賊であったという噂もあるが その噂に似合う豪胆な性格。 エドを近衛騎士に引き立てた人物でもある。 ギルバート・アシュレイ(31歳)男 愛称=ギル フォルテウス・エイブスの知人 セルディア人の貿易商であり、また海賊でもある 港町アムシーダを拠点に大規模な海賊団を率いている。 月の湾曲刀の所有者 ウォルター・ラザフォード(24歳)男 ギルバート提督の参謀を務める地理学者 剣の腕はないが連射式弩弓を持ち、 その威力は素人のウォルターを強力な弓兵へと変える。 新測量技術を考案したり、巧みな会計術により ギルバートの海賊団を支えている。 フィネ(17歳)女 港町アムシーダに出稼ぎに来た田舎娘。 舞台説明 エイブスN:左肩に奔(ハシ)る痛みに、脂汗が噴き出す。 意識は朦朧(モウロウ)としているものの、眠ってなどいられなかった。 ここはアシュレイ海運商会の応接室か・・・ 痛みに耐え兼ねて左腕を押さえる・・・ しかし、其処には既に左腕は存在していなかった。 ウォルター:目が覚めましたか・・・? 良かったぁ〜、此の儘、目を覚まさ無いんじゃないかって 心配してたんですよ。 エイブス:・・・・そうか、ワシは奴等に毒を喰らって・・・ ウォルター:ギルバート提督が血塗れのフォルテウス卿を担いで帰って来られた時は 私も肝を冷やしましたよ。 エイブス:そうか・・・あいつが運んでくれたのか・・・ 迷惑を掛けたな。 ウォルター:何言ってるんです。水臭い。 提督ー!フォルテウス卿が目を覚まされましたよ! ギル:何っ!?大丈夫ですかぃ旦那!? エイブス:あぁ、面倒を掛けたみたいだな。 ギル:吃驚(ビックリ)しましたぜぇ!?ウォルターの目を盗んで酒場迄、逃げ出して来たら・・・ 提督が自分の腕を斬り落してぶっ倒れるんですから! エイブス:毒蛇から調合した毒を刃に仕込んでいた様でな、 処置が遅れれば、今頃、命も無かっただろう・・・ ギル:其れにしても、自分で自分の腕を斬り落とすなんて・・・ 俺にゃあ、おっかなくて出来ねぇや・・・ エイブス:お前が毒にやられる事があったら、 ワシが斬り落としてやるさ。 ギル:勘弁してくだせぇ。 ウォルター:毒消しとか出来ないんですか? エイブス:毒蟲の毒なら解毒も出来るがな・・・毒蛇の毒は解毒出来ないと聞いた事がある。 ワシの喰らった毒は斬り傷を付けられて直ぐ、 意識を奪われそうになった・・・猛毒だったのだろう。 毒消しで処置出来るモノでは無かっただろうな。 ウォルター:お茶の葉を煎じて洗い流せば蛇の毒も処置出来ると聞いた事がありますが、 確かに、その様子では手遅れになっていたでしょうね・・・ エイブス:なに・・幸い利き腕の右腕は無事な訳だし、命あっての物種(モノダネ)だ。 ・・・しかし、以前の様に戦えぬだろう、何かと不自由はするだろうな・・・ ギル:元気出してくだせぇ! 旦那の世話位、俺が何とでもして遣りまさぁ! ウォルター:そうですよ。 フォルテウス卿にはお世話にもなってるし、 アシュレイ海運商会の方からフォルテウス卿の世話をする使用人を雇いましょう。 エイブス:世話になっているのはワシの方だ。 ガルビアの手から匿(カクマ)ってもらう為に厄介になりに来たのだからな。 ギル:だけど、旦那にはウチの仕事も手伝って貰ってやすしねぇ・・・ 気にせんでくだせぇ。 エイブス:んむ・・・どうせ今後も厄介になるんだからな。 使用人など要らないと言い張れば、逆に迷惑を掛ける事になるか・・・ ウォルター:そうですよ。 提督には仕事が溜まってますし、フォルテウス卿の世話に手を取られたら、 使用人の給金以上の損失になりますからね。 あぁ、そうだ・・・腕の良い、義手職人にも連絡しなくては・・・ エイブス:何から何まで悪いな・・・ ギル:いいんでさぁ〜、俺が旦那の立場なら、ヘコんじまって、数年は酒浸りになりやすぜ。 まぁ、その前に、自分で腕を斬るなんて出来ずに あの世に逝っちまってるでしょうけどね。 ウォルター:提督はヘコむ前から酒浸りでしょうに・・・ ギル:うるせぇ! エイブス:分かった・・・では、お前達の世話になる。 全く、お前達と一緒に居ると、落ち込む暇もないな。 だが、ワシは良い友を持った様だ。 ギル:へん、水臭せぇですぜ。 ウォルター:では、フォルテウス卿の意識も戻られたという事で、安心しましたし そろそろ提督にはお仕事に戻って頂いて・・・ 私は早速、義手の手配をして参りますよ。 エイブス:あぁ、悪いが頼む。 ギル:おぃ、もう少し休憩させてくれよ・・・ ペンを持った指が痛てぇんだ・・赤くなってんだぜ? ウォルター:其れは普段から仕事をされていないせいでしょう? ギル:たはは・・・ エイブスM:毒に冒された左腕をその場の勢いで斬り落としたのは自分自身だが・・・ いざ片腕を失ってみると、自分が異質な存在(モノ)になってしまった様な そんな感覚を覚えた。 利き腕は無事と強がってみたものの・・・ 後悔にも似た虚無感だけが心の中を支配しているのだった。 フィネ:止めて下さい!そんな心算(ツモリ)で付いて来たんじゃありません! ぃ嫌・・・誰か・・・!! ウォルター:ん・・・?おぃ、其処で何をしている! フィネ:ぁ・・・助けて下さい・・・ ウォルター:全く・・・ギルバート提督といい、他の水夫達といい・・・ 如何してこの街の男連中は女性に対して下品なんですかねぇ・・・ フィネ:この人達が自分達に付いて来れば仕事を紹介してくれるって・・・ ウォルター:其れで行き成り襲い掛かられた・・と。 フィネ:・・・・はい。 ウォルター:私はアシュレイ海運商会の会計士長ウォルター・ラザフォードです。 見たところ貴方達も水夫の様ですが・・・ これ以上、此の女性に迷惑を掛ける様なら、この街で仕事が出来なくなりますよ? フィネ:・・・ぁ、 ウォルター:ふぅ・・・素直な連中で良かった。 フィネ:有難う御座いました・・・何とお礼を申し上げれば良いか・・・ ウォルター:この街では見掛けない顔ですね? フィネ:はい、今日此の街に出て来たばかりで・・・ ウォルター:仕事を探しておられるんですか? フィネ:ええ。 ウォルター:なら、お礼の代わりという訳では無いですが・・・ うちで働いて頂けませんか? 今、片腕を失った騎士様の世話をしてくれる方を探していて・・・ フィネ:良いですか!? ウォルター:ええ、此方も求人の手間が省けますし。 うちの商会は、このアムシーダでは手広くやってますから。 この街で職を求めるなら、どの道うちと関連を持つ商店になるでしょうからね フィネ:良かったぁ〜、是非お願いします! ウォルター:では一応面接をしますので、商会に来て下さい。 フィネ:分かりました。 ギル:ウォルター!何処行ってやがった?・・・ん?その女性はどちら様だぃ? ウォルター:フォルテウス卿の世話をして頂く・・・・え〜と・・・ フィネ:あ、フィネです。 ギル:ほぉ〜フィネちゃんね。 ウォルター:紹介しますね。 此の偉そうな人がギルバート・アシュレイ提督。 このアシュレイ海運商会の運営者です。 ・・・提督、このフィネさんは 今日、このアムシーダに出て来たばかりなのだそうですが 面接で問題無ければ、フォルテウス卿のお世話をお願いしようと思ってます。 ギル:ぁん?別に採用で良いんじゃねぇのか? ウォルター:いや、構わないですけど・・・身元も分からないままじゃ、今後が困ります。 ギル:うちのモンは、身元なんて上品なもん持ってねぇだろ? ウォルター:そんな事無いですよ! 提督は知らなくても、私はちゃんと従業員各自の身元を調べてありますから! 変な事言ってると、フィネさんが怖がって働いてくれませんよ? ギル:そいつは拙(マズ)いな・・・ぃゃ、うちで働く人間は紳士、淑女ばかりだから安心してくれ給(タマ)え。 ウォルター:そんな嘘つく必要も無いですってば・・・ でも、変な所じゃないから・・・安心して下さい。 海の男って事で荒っぽいのが多いですけど、皆、気の良い奴らですから。 フィネ:ふふっ、大丈夫です。 モートンの村から来ました、フィネです。 特別な知識も技術もありませんが・・・家事全般なら何でも出来ますので、 どうか宜しくお願いします。 ・・・・処で私がお世話をする騎士様というのは・・・ ギル:あぁ、フォルテウス・エイブス卿、此のセルディア王国の近衛騎士団長様だ。 俺様の親友でもある。 変に気ぃ遣う必要もねぇが、粗相のねぇ様にしてくれよ? フィネ:えぇ!?そんな高貴な方のお世話を!? ギル:あの旦那が・・・高貴?ぶはははっ!! ウォルター:確かに高貴ってイメージではないですね。 でも、考えてみたら高貴と言っても異論の無い立場の方ですよね・・・ ギル:まぁな・・・兎に角、本人に会って貰うのが手っ取り早いや。 旦那の所に案内してやりな。 ウォルター:ではフィネさん此方です。 フィネ:はい。 ウォルター:フォルテウス卿、入りますよ? エイブス:あぁ。 ウォルター:フォルテウス卿、此方がフォルテウス卿のお世話をお願いしたフィネ嬢です。 エイブス:ん?こんな若い娘さんがか? フィネ:あの、不束(フツツカ)な者ですが、一所懸命頑張りますので・・・ あの・・・宜しくお願いします! エイブス:あぁ。此方こそ宜しく頼む。 しかし、こんな短時間でよく探して来たものだな。 ウォルター:実は、彼女・・・街でガラの悪い水夫に絡まれてたんですよ。 放っておいたら何処に売り飛ばされるか分かったモノでは無いですからね。 エイブス:ふむ、港街には歓楽街は付き物だし。 裏街に入れば性質(タチ)の悪い店も多い。 田舎から出て来たばかりの娘を喰いモノにする輩も多いだろうからなぁ・・・ フィネ:私を何処かに連れて行こうとした人達もそういう人達だったのですか? ウォルター:ま、十中八九はね。 エイブス:なんだ、もう手荒な洗礼は受けておったか。 お嬢さん、この街はそういう一面も持った街だ。 此れから気を付けるがいい。 フィネ:はい・・・。 ウォルター:ま、フィネさんを雇うに問題は無い様ですね。 これからフォルテウス卿の事、宜しく頼みますよ? フィネ:はい! ギル:ぉ?フィネちゃんで決まったかぃ? エイブス:提督自ら覗き見とは、呆れた奴だな・・・ギルバート。 ギル:へへっ、酒場の女の色気も良いが・・・ フィネちゃんみたいなのも悪くないってね。 エイブス:ふぅ・・・全く。 お嬢さん、此の男には気を付けた方が良い様だ。 フィネ:ふふふ、其の様ですね。 ギル:酷いですぜ・・・旦那。 フィネ:街に出て、怖い目にもあったけど、 ひょんな事からフォルテウス卿という隻腕(セキワン)の騎士様のお世話をする事になった。 騎士団長の要職に就かれる様な高貴な方のお世話なんて私に務まるのか心配だけど、 お会いした騎士様はとても気さくで、紳士なお方でした。 アシュレイ海運商会の皆さんも良い人ばかりだし、 此れからのアムシーダでの生活は楽しい日々になりそうです。 四十九章へつづく・・・ 次回に続く。