三騎士英雄譚〜第四十九章〜 ミカエル・フォシュマン(27歳)男 エスティア王国からの亡命貴族、元辺境伯 クライセン侯からの庇護を受け 暗殺などの裏稼業の斡旋で財を成している。 シュティーナ・リンドホルム(23歳)女 エスティア人の暗殺者 聖剣探索行に赴くも失敗。 名誉挽回の機会を虎視眈々と狙っている。 ヴェルチェフ(26歳)男 通称=ヴェル ローゼルク人の傭兵。 ヴェルチェフはローゼルクの言葉で烈風を意味し本名ではない。 馬術と槍斧(ハルバード)の使い手であり。烈風の如き速さで戦場を駆け巡る。 死神グレイとは戦場で轡を並べた事のある人物。 グロム(25歳)男 シラルド人の傭兵。 ヴェルチェフの相棒で名はローゼルクの言葉で迅雷、激しい雷鳴。 稲妻型の矛先を持つ蛇矛(ダボウ)という武器を愛用しており また、ヴェルチェフから贈られた炎状剣(フランベルジェ)を モルニヤ(ローゼルクの言葉での稲妻の意)と称し愛剣としている。 レイラ・アウロフ(25歳)女 ローゼルク人の傭兵。 没落したローゼルクの騎士家の令嬢。 アウロフ家復興の為、傭兵へと身を落とし武勲を上げる事を夢見ている。 女としての筋力の無さを素早い体捌きと巧みな剣捌きで補っている。 所持している方形盾(ヒーターシールド)はアウロフ家の家紋を装飾した名品。 『家名を守る』の誓いを込めている。 舞台説明 シュティN:港町アムシーダでフォルテウス・エイブスを倒し 次の標的をランスフォード・シュタインに定めた私達は ランスフォードの居るグリーゼンの街へと出発する事となった。 グリーゼンはセルディア国内の優秀な鍛冶師が集まる工業都市 聖剣『星の剣(ツルギ)』の修復を依頼していたのだと推測される。 聖剣諸共、紺碧騎士副団長の命も奪い去る事にするとしようかね・・・ ミカエル:御苦労だったな傭兵。 ヴェル:なぁ〜に、結局何の仕事もしちゃいねぇさ。 シュティ:そうね、運の良い奴らだ。 ミカエル:ま、此方の要件は満たしたのだ・・・ 未払いになっていた報酬は私から支払おう。 ヴェル:悪いね。 レイラ:じゃあ有り難く頂戴するとしましょうか。 でも、こんな仕事で金貨五百枚も出して良いのかい? ミカエル:今回の件はおまけの様なモノだ。 部下が報酬を未払いの儘(ママ)逃げたとあっては 私の信用に係わるからな。 シュティ:・・・・っ。 レイラ:そういう事なら、遠慮なく。 ミカエル:それで、お前達・・・此れから仕事の当てはあるのか? ヴェル:いいや?だが、この国に居る限り この先、傭兵稼業があぶれる心配はねぇと踏んでいるんだがね。 ミカエル:中々鼻の利く事だな。 まぁいい。もし、次の仕事を決めて居ないのなら 私の下(モト)で働かないか? シュティ:こ奴らをですか!? ミカエル:腕も立つ、問題はあるまい。 シュティ:そうですが・・・ レイラ:あんたの下(モト)でか? ミカエル:そうだ。 期間契約でだ。 ヴェル:・・・・いくらだ? ミカエル:この国で来春、大きな戦がある。 戦と言っても内乱に過ぎんがな・・・ その戦が終わる迄を期限として・・・ひと月金貨三千枚。 シュティ:ミ、ミカエル様っ!? ヴェル:ぅひょ〜、そいつはまた豪気だな。 グロム:仕事内容は何で御座るか? ミカエル:色々だ。そうだな・・・差し当たっての依頼なら、 フォルテウスを討った際に遅れて駆け付けて来た男が居ただろう。 奴が、以前話したギルバート・アシュレイ。 聖剣『月の湾曲刀』を所有する海賊の頭(カシラ)だ。 グロム:禍根を残さぬ為に、あの男の首を取れと言われるか? ミカエル:いや、あんな下賤の首等いらん。 奴の所有する聖剣を奪って来い。 ・・・・まぁ、すんなりと渡してくれる訳でもないであろうから・・・ その時は・・・ ヴェル:結局、殺れって事じゃねぇか。 ミカエル:そういう事になるな・・・だが、奴の命を奪った処で 聖剣が手に入らねば意味が無い・・・そういう事だ。 ヴェル:聖剣を奪って来る序(ツイデ)に殺って来い・・・って訳か。 人の命も軽くなったもんだな。 レイラ:あんたからそんな台詞が聞けるとはねぇ・・・ ヴェル:俺だって命は大切にしてるぜ? ただ、自分の利益の方が大事だってだけの事だな。 グロム:ヴェルチェフは人間の命より 動物の命の方が大切にしているのではないかな? 野良犬によく餌をやっていたであろう。 レイラ:なんだ?あんた見掛けに依らず、動物好きなのかぃ? ヴェル:ケッ!如何でも良い事を・・・ シュティ:軽口叩いてる暇があったら、さっさと任務に移れ! ヴェル:チッ・・・ ミカエル:私とシュティーナは此れからグリーゼンの街に向かう。 お前達は、このアムシーダで聖剣を奪ってから私達と合流しろ。 ヴェル:了解だ。 よし!じゃあ俺達は行くぜ? シュティ:ギルバートは中々の手練だからね・・・ 気を抜くんじゃないよ? ヴェル:ヘィヘィ。 ミカエル:さて、我等も行くとするか。 シュティ:はい。 ミカエル様はランスフォードについて何かご存じなのですか? ミカエル:以前、手合わせをした事がある。 あの時は不覚にも引き分けたが・・・中々の剣技の持ち主だな。 シュティ:ミカエル様が仕留め損なったのですか!? ミカエル:様子見、挨拶代わりといったところだったからな・・・ いや、正直に言ってランスフォードは強い。 聖剣を手にしたとなると、厄介な相手には間違いない。 シュティ:しかし、今ならばランスフォードは一人きり・・・ 好機は幾らでもある事でしょう。 ミカエル:そうだな。何時ぞやの借りを返してやるとしよう。 【アムシーダ裏路地の酒場】 グロム:ギルバートはこの街の顔役の様だ。 ヴェル:あぁ、海賊の頭(カシラ)が街の顔役たぁ、この街の治安も知れたもんだな。 グロム:アジトは直ぐに割れたが・・・如何する。 正面から出向くには少々頭数が多い様だが・・・ ヴェル:なぁ〜に、海賊共のお宝をちょぃと拝借すれば、 血相変えて追いかけて来るだろうさ。 レイラ:戦士である私達が盗賊紛いの事をするって言うの!? ヴェル:気にする事ねぇや、相手は海賊だぁ・・・堅気じゃねぇ。 其れに、盗賊の仕事は盗賊にお願いすりゃぁ良いのよ。 レイラ:盗賊を雇うって訳? グロム:経費は何処から出すのだ? 確かに今の所、懐に余裕はあるが・・・ レイラ:その心配は要らないわ。 別に私達の目的はお宝じゃないしね。 グロム:如何いう事で御座ろう? レイラ:私達は海賊の宝を奪って来る様に盗賊に依頼する。 そして、報酬はその奪って来た宝をそっくり其の儘、盗賊にくれてやれば良いのよ。 グロム:成る程。 ヴェル:なら早速、俺は依頼する盗賊を当たって来るぜ。 レイラ:じゃあ、私はアシュレイ海運商会を見張って探りを入れてみるわ。 ヴェル:あぁ、任したぜ? グロム:拙者は何をすれば良かろう? ヴェル:お前ぇはこの国でも目立ち過ぎるからなぁ・・・ 戦いの場で活躍してくれる事を願ってるぜ? グロム:心得た。 レイラ:ま、港町の酒場じゃ、どんな人種が居ようが誰も驚かないだろうし、 暇があるなら、この国の情勢でも聞き出しといておくれよ。 グロム:分かった。 ヴェル:レイラ、この国の情勢なんて探って何しようってんだ? レイラ:何処に儲け話が転がってるか分からないだろ? ヴェル:違げぇねぇ・・・ 【アムシーダ付近の街道】 シュティM:あんな傭兵をミカエル様直々にお雇いになるとは・・・ 私への信用は失った儘という訳か・・・ ミカエル:如何した? シュティ:いえ・・・何も・・・ ミカエル:あの傭兵達を雇った事に不満があるのか? シュティ:不満と言う訳では・・・ ミカエル:ローゼルクでの失敗を気にしているのだろう? ・・・名誉挽回を図るのは良い。 しかし、冷静な判断が出来なくては同じ失敗を繰り返すぞ? シュティ:・・・・恐れ入ります。 ミカエル:どうもローゼルクより帰って以来、自信を失っている様に思える。 シュティーナ、お前の実力は決して低くはない。 だが、全ての任務を成功させる事は出来ない。 お前はお前だ、今まで通り自己の最大限で任務に当たれば良い。 シュティ:私に・・・まだ信用を置いて下さるのですか!? ミカエル:勘違いをしている様だな? 元より信用等してはいない。 ただ、お前の実力を理解しているだけだ。 シュティ:ミカエル様・・・ ミカエル:以降しくじるな。そういう事だ。 シュティ:はい、心得ました! 【アムシーダ裏路地の酒場】 グロム:ヴェルチェフ・・・戻ったのか。 ヴェル:あぁ、戻った。 仕事が済んだら東方の異国人を含む三人組が アシュレイ海運商会に探りを入れていたと噂を流して貰う手筈もしてきた。 グロム:東方の異国人・・・拙者の事か? ヴェル:決まってるだろ? グロム:まるで拙者が首謀者の様だな。 ヴェル:誰が首謀者か、なんて問題じゃねぇ。 アシュレイの奴等が探し易い様に特徴がある方が良いのさ。 グロム:成る程な・・・其れは理解致したが・・・ 盗賊等を信頼して仕事を任せても良いのであろうか? ヴェル:構やしねぇ、奴等だって玄人だ。 戦闘では役立たなくても、盗みに関しちゃ俺達より信用出来る。 グロム:確かにそうであろうが・・・裏切られたりしないであろうな? ヴェル:奴等は確かに信用ならない輩共の集まりだ。 だが、利益が絡めば裏切ったりしねぇさ。 それに・・・クックッ・・・ グロム:如何かしたのか? ヴェル:依頼した一味の下っ端に、態(ワザ)と財布を掏(ス)らせて締め上げてやった。 グロム:何故態々(ワザワザ)そんな事を・・・? ヴェル:くははっ・・・垂れ込みやがったり、俺達を裏切ろうなんて考えやがったら 傭兵相手に戦争する事になるぜ?って言ってやったら、 顔を引き攣らせてやがったぜ。 グロム:ヴェルチェフよ、其処までする必要があったのか? ヴェル:まぁ良いじゃねぇか。 奴等は裏切らねぇよ・・・裏の世界じゃ暴力も交渉の道具になるってこった。 グロム:戦場を職場にしている拙者が暴力を窘(タシナ)める訳にもいかぬか・・・ レイラ:其れは違うわよ?グロム。 ヴェル:レイラか。 レイラ:私達が使うのは暴力ではなく武力。 志(ココロザシ)の無い力を暴力というの。 傭兵は報酬を得る事で敵にも味方にもなる。 だから志(ココロザシ)が無いとも思えるかも知れない・・・ でも、雇い主に志(ココロザシ)があるから戦に成り得るのよ。 ヴェル:雇い主に志(ココロザシ)があるかなんて分からないぜ? レイラ:必ずあるわ。 それが善であろうと、悪であろうと・・・ 戦ってのはそういうモノ・・・ ヴェル:そんなモンかねぇ? レイラ:酔っ払い同士の喧嘩に傭兵が雇われる事なんてないでしょ? ヴェル:そりゃな・・・ま、いいや。 交渉の道具として暴力を使ってみせた俺の行為は 相手に裏切らせない為の抑止力ってヤツだ。 これも立派な武力なんだろ? レイラ:そうね・・・少々荒っぽいけど。 ヴェル:兎に角、賽は投げられた訳だ。 後は盗賊共が何を盗んで来るのか?でも 楽しみに待つとしようぜ・・・ シュティ:傭兵達は分かっているのだろうか・・・ ギルバート・アシュレイが其処等の海賊と同じでない事を・・・ まぁ、しくじった処で私に責任が問われる事はない。 其れよりも今はグリーゼンでのランスフォード・シュタインだ。 ミカエル様が仕留め損なう程の相手・・・ 気を引き締めなければならないな。 木枯らしが吹き荒ぶセルディアの街道を二つの影が東へと向かった。 五十章へつづく・・・ 次回に続く。