三騎士英雄譚〜第五十章〜

ヴェルチェフ(26歳)男 通称=ヴェル
ローゼルク人の傭兵。
ヴェルチェフはローゼルクの言葉で烈風を意味し本名ではない。
馬術と槍斧(ハルバード)の使い手であり。烈風の如き速さで戦場を駆け巡る。
死神グレイとは戦場で轡を並べた事のある人物。

グロム(25歳)男
シラルド人の傭兵。
ヴェルチェフの相棒で名はローゼルクの言葉で迅雷、激しい雷鳴。
稲妻型の矛先を持つ蛇矛(ダボウ)という武器を愛用しており
また、ヴェルチェフから贈られた炎状剣(フランベルジェ)を
モルニヤ(ローゼルクの言葉での稲妻の意)と称し愛剣としている。

レイラ・アウロフ(25歳)女
ローゼルク人の傭兵。
没落したローゼルクの騎士家の令嬢。
アウロフ家復興の為、傭兵へと身を落とし武勲を上げる事を夢見ている。
女としての筋力の無さを素早い体捌きと巧みな剣捌きで補っている。
所持している方形盾(ヒーターシールド)はアウロフ家の家紋を装飾した名品。
『家名を守る』の誓いを込めている。

フィネ(17歳)女
港町アムシーダに出稼ぎに来た田舎娘。
フォルテウス・エイブス卿の世話係として
アシュレイ海運商会で雇われる。

ダーティーマウス(不詳)男
港町アムシーダを根城にしている盗賊。
人攫いや強盗等の荒仕事が主で、鍵開け等の技術は苦手。


舞台説明



フィネN:フォルテウス様の傷も落ち着き、ウォルター様が手配なされた義手のお蔭で
     一見には隻腕(セキワン)である事を忘れてしまいそうな程です。
     私はと言うと、フォルテウス様のお着替えや、街への買い物をこなしながら
     アシュレイ海運商会の皆さんとの楽しい毎日を過ごしているのですが・・・。

グロム:雇った盗賊から連絡は未だ来ないのか?

ヴェル:未だだな・・・まぁ焦っても仕方ねぇ。
    気楽に待とうぜ。

レイラ:で?どんな奴なの?

ヴェル:どんな奴って雇った盗賊か?

グロム:其れは拙者も気にはなっていた。

ヴェル:通り名はダーティーマウス【汚れ鼠】
    切れ者って訳じゃねぇが・・・通り名の通り
    どんな汚れた仕事でも、きちんとこなすと評判の男だ。

グロム:汚れた仕事か・・・褒められた評判ではないな。

ヴェル:俺達だって、大して変わんねぇだろ?

レイラ:一緒にしないで欲しいわ!

グロム:全くだ・・・



汚れ鼠M:ここがアシュレイの邸(ヤシキ)か・・・
     何でも良いからアシュレイの宝を盗んで来いったってよぉ〜
     何を盗み出しゃ良いんだ?・・・・ん?ありゃぁ・・・

フィネ:信じられない・・・!こんなに洗い物を溜め込んでるなんて・・・

汚れ鼠:女か・・・中々の別嬪(ベッピン)だ・・・
    へへっ・・・悪くねぇかもなぁ。
    あれなら高く売れるだろうし、俺も楽しめるぜ。
    あれも宝っちゃあ宝だよなぁ・・・

フィネ:ふふっ・・・如何したらシーツに泥汚れが付くのかしら・・・全く♪

汚れ鼠:ねぇちゃん・・・静かにしなっ!

フィネ:ヒィッ・・!?

汚れ鼠:痛い目に遭いたくないなら・・・大人しくするんだな。

フィネ:・・・・・っ。

汚れ鼠:へへっ・・・イイ子だ。
    悪りぃが一緒に来てもらうぜ?

フィネ:ぃゃ・・・・

汚れ鼠:・・・死にてぇのか?

フィネ:ぅぅ・・・



汚れ鼠:旦那・・・・。

ヴェル:ん?てめぇか・・・首尾は如何だ?

汚れ鼠:上々ってヤツかねぇ〜?

ヴェル:で?・・・ブツは?

汚れ鼠:其れが・・・

ヴェル:ぁ?

汚れ鼠:いゃ、何でも良いって言われてたからよ・・・
    アシュレイの女を攫って来たが・・・構わねぇよな?

ヴェル:なんだと?
    ぁー・・・女かぁ、ま、ギルバートを誘き出すには悪くねぇか。
    だが、報酬はてめぇが盗んで来た物って話は聞いてるよなぁ?

汚れ鼠:勿論聞いてる。

ヴェル:なら、報酬はその攫って来た女になるが・・・構わねぇって事だな?

汚れ鼠:へへっ、問題ねぇよ。
    中々の別嬪(ベッピン)だしよ、俺も楽しめらぁな!
    飽きりゃあ売りに出しゃあ、高値が付く筈だしなぁ!

ヴェル:チッ・・・その辺の事は好きにしな!
    だが、宝を盗めって言ったのに女を攫って来やがって
    ギルバートを誘き出すまで付き合って貰う事になるが、構わねぇよな?

汚れ鼠:まぁ・・・・仕方ねぇかな・・・分かった。

ヴェル:で、その女ってのは何処だ?

汚れ鼠:今連れて来やすぜ。ちょっと待ってて下せぇよ・・・

レイラ:あんた・・・正気?

ヴェル:ぁ?何が?

レイラ:女を人質に取るのかって事!

グロム:拙者も其れには賛同しかねるぞ・・・ヴェルチェフ。

ヴェル:仕方ねぇだろ?
    盗賊の奴が勝手に攫って来たんだからよ!
    俺は、宝物を奪って来いって指示したんだぜ?

レイラ:だからって・・・

ヴェル:こっちも何を奪うか指定はしてなかったんだ。
    女を攫って来ちまったものを如何しようもねぇだろ!?

グロム:此の儘、女を餌にギルバートを誘き出すのか?

ヴェル:ま、餌になる事には違いねぇからな。

レイラ:悪いけど、私は抜けさせて貰うわよ?
    私だって傭兵なんて稼業やってて其処までの綺麗事は言わない。
    けどねぇ、人質を盾に敵の首を取る様な真似は御免だわ!

グロム:しかし、依頼を一度受けたからには
    何にせよ果たさねばなるまい?

レイラ:通常ならね?
    金だけ頂いて、命欲しさに戦場から逃げ出す様な真似は
    私だってしないわ!
    でも、今回のは違う・・・残念だけど、これ以上付き合えないわね。

ヴェル:あぁ、いいさ。
    まだ金を貰った訳じゃねぇからな。
    抜けるなら抜けな!グロム!お前は如何するよ?

グロム:・・・・拙者は・・・

レイラ:グロム、あんたもこんな外道に付き合う事ないよ?

グロム:拙者は・・・依頼は果たす。
    確かに女を攫って人質にする等、戦士のする事ではない。
    だが、金を受け取っていなかろうが、一度受けた依頼を反故(ホゴ)にする事は出来ぬ。

レイラ:そう。ま、私だけでも抜けさせて貰うわね。
    折角、南方のセルディア下(クンダ)り迄来た訳だし?
    当分はこのセルディアで仕事をする事になるでしょうけど・・・

ヴェル:じゃあ、その内また会う事もあるかもな。

レイラ:其れが戦場じゃない事を祈ってるわ。

ヴェル:へんっ、違げぇねぇ・・・

グロム:レイラよ・・・考え方は其々(ソレゾレ)だ。
    短い付き合いだったが達者でな。

レイラ:グロム、あんたもね・・・じゃあ、私は行くわ。
    後の事は頼んだよ?

グロム:ああ、心得た。



ヴェル:チッ・・・俺のせいじゃねぇっての!

グロム:拙者はヴェルチェフと共に行く。
    事情も分かっておる・・・これ以上責めはすまい。

ヴェル:ふぃ〜。ま、グロムに抜けられちゃあ・・・折角流した噂も無駄になっちまうからな。
    助かったぜ・・・相棒。

フィネ:きゃっ!

汚れ鼠:旦那待たせたな。

グロム:婦人に手荒な真似は止さぬか!

汚れ鼠:此れは失敬・・・へへっ

ヴェル:成る程、こいつがアシュレイの所から掻っ攫って来た女か・・・確かに上玉だ。
    おい、女!お前とギルバートは如何いう関係だ?

フィネ:ギルバート様との関係?私は只の使用人で・・・

ヴェル:ぁ?顔見知りなら問題ねぇさ。
    鼠はこの女を見張ってな!目的が済む迄、手を出すんじゃねぇぞ?

汚れ鼠:分かりましたょ・・・オラ!大人しくしてな!

グロム:さて、如何する?

ヴェル:後はギルバートの野郎を誘き出すだけだ・・・
    
汚れ鼠:付かぬ事を申しますがね?
    旦那達はアシュレイ海運商会を相手に喧嘩を売る心算(ツモリ)で?

グロム:その通りだが、それが如何かしたのか?

汚れ鼠:いやね、旦那達はこの街の人間じゃないから知らんでしょうが・・・
    アシュレイ海運商会の裏の顔つったら
    この街・・・いや、この国でも有数の海賊組織ですぜ?

グロム:それで?

汚れ鼠:旦那達だけで大丈夫なのか?って事でさぁ!
    旦那方が滅法強いってのは知ってやすぜ?
    それでも多勢に無勢って事もありやすし・・・
    何より、ギルバードの旦那も恐ろしい海賊だって聞きやすからね。

ヴェル:なぁに、こっちには人質が居るんだ。
    その点においてはラッキーだったぜ・・・
    一人で来なけりゃ人質を殺すって言やぁ、従うしかあるまいよ。

グロム:相手も一人ならば拙者がお相手致そう。

ヴェル:構わねぇぜ?なら俺は退路を塞ぐ役目に当たるとしよう。

グロム:其れで、如何やって誘き出す?

ヴェル:俺が今から脅迫状を出してくらぁ
    其の侭、奴を見張って跡をつける。

グロム:了解した。



フィネ:いやっ!

グロム:何をしている!盗賊!

汚れ鼠:いや、何でもありやせん・・・
    チッ・・ちっと掴んだぐれぇで大袈裟な声上げやがって・・・

グロム:お主は大人しく見張っておれ。

汚れ鼠:へいへぃ・・・

グロム:お嬢ちゃんも逃げ出そう等思わぬ様にな・・・

フィネ:貴方達なんて、きっとギルバート様にヤラレちゃうんだから!

グロム:お主はそうなる様に願っておれ・・・
    拙者達もタダでヤラレる心算(ツモリ)は無いがな・・・

フィネ:貴方って・・・本当は悪い人じゃないみたいね・・・

グロム:少なくとも善人では無いと思っておるよ。
    しかし、拙者達にも道義というモノはある。

フィネ:貴方の道義では、人質を盾にするをよしとするの?

グロム:よしとはしておらぬ。
    しかし、拙者等にも事情というモノはある。
    婦人を人質にする等は不本意ではあるが・・・
    一度受けた依頼は果たさねばならぬのでな。

フィネ:・・・・・

グロム:拙者達がギルバート殿の命を奪う事に成功すれば
    お主はそこの盗賊めに連れられ、不運な運命を受け入れる事になろう・・・
    故に、そなたは自らの命運を願えば良い。
    拙者は自らの道義の為、ギルバート殿を討つ。

フィネ:そう・・・私は貴方に勝ってもらう訳にはいかないけど・・・
    負けを悟ったのならお逃げになられて?
    そうなる事を願っているわ。

グロム:ふむ、悪い願いではない・・・
    そう願っていると良い。



フィネ:ギルバート様・・・お助け下さい。
    フィネは此の侭では・・・・
    冬の木枯らしが吹き込む裏路地の酒場に囚われの身となった私の命運は
    此れから如何なってしまうのでしょう?
    とは言え、不思議と恐怖に思いませんでした・・・





                  五十一章へつづく・・・
                           次回に続く。