三騎士英雄譚〜第五十二章〜

ランスフォード・シュタイン(29歳)男 愛称=ランス
セルディア王国の無名の騎士の家生まれる。第三紺碧騎士団副団長。
父アーデル・シュタインは国王命令無視の罪により
騎士資格剥奪という憂いに遇うが、当時14歳であったランスに
異例の騎士叙勲を与え御家断絶の危機を逃れる。
また、29歳で騎士団副団長の要職への出世も異例。

アルフレッド・ローランド(26歳)男 愛称=アル
セルディア王国第三紺碧騎士団中隊長。
ランスの部下。セルの同僚
弓術の名手でありガルニア要塞攻略参加を以って中隊長昇格
セルと対照的に真面目。

パウル・ホフマン(46歳)男
グリーゼンの街で鍛冶屋を営む武器職人。
聖剣『星の剣(ツルギ)』の修復を依頼された人物。

ミカエル・フォシュマン(27歳)男
エスティア王国からの亡命貴族、元辺境伯
クライセン侯からの庇護を受け
暗殺などの裏稼業の斡旋で財を成している。

シュティーナ・リンドホルム(23歳)女
エスティア人の暗殺者
聖剣探索行に赴くも失敗。
名誉挽回の機会を虎視眈々と狙っている。

舞台説明



ランスN:バルマ近海で引き揚げられ、
     ガルニア要塞へと持ち込まれた聖剣『星の剣(ツルギ)』は
     セルディア国で最も優秀な鍛冶師が集まるという工業都市グリーゼンで
     柄や鞘等の修復が行われていた。
     刀身と柄のバランスを取るにも、刀身の材質が見た目より軽かった為
     意外な難航を見せる事となってしまった。

シュティ:大きな街の割に・・・小汚い街ね・・・

ミカエル:規模は大きいとは言え、鍛冶師の街だ。
     閑静な住宅街を期待など出来まいよ。
     それよりシュティーナよ、ランスフォードの所在は押さえたのか?

シュティ:はっ、宿泊する宿も聖剣の修復を依頼した鍛冶師も判明しております。

ミカエル:そうか、相変わらず仕事が早いな。

シュティ:有難う御座います。

ミカエル:で、まだ聖剣の修復は終わってないのか?

シュティ:その様です。大方の修復は終了している様ですが・・・
     聖剣自体は、まだ工房の方に保管されている様です。

ミカエル:成らば、聖剣を先に押さえるとしよう。
     行くぞ!

【グリーゼンの宿場】

アル:あの・・・ランスフォード卿。いらっしゃいますか?

ランス:アルフレッドか・・・久しいな。

アル:お久し振りです。ランスフォード卿!

ランス:如何したんだ?こんな所まで・・・

アル:サーバルド卿が『ランスは女でも作って浮気してるに違いないから、
   様子を見に行って来い!』って・・・全く、サーバルド卿じゃないんですからねぇ。

ランス:ははっ、あいつが私の心配をするとはな・・・
    しかし、セルらしい言い様だな・・・全く。

アル:そう言えば、ここに来る途中、工房の方にも寄って来たんですが・・・

ランス:ん?何かあったのか?

アル:ランスフォード卿に、
   今日の昼には柄の調整が終わるとの事で、
   試し切りをお願いしたいと伝言を受け給って来ました。

ランス:分かった。
    しかし長く掛かったな。
    アスエルの聖剣ともなれば中途半端な仕事も出来ぬであろうが・・・

アル:そうですね・・・宝剣アディマイアを鍛え上げた名工
   ホフマン氏に修復依頼をしたのは年明け直ぐですからね。

ランス:何でも聖剣の材質は未知の合金で出来ているとか・・・
    聖剣と言うのも満更、伝説ではないのかも知れんな。

アル:長い年月を海水に晒しながら錆び一つ無いんですからね。
   普通の剣ではない事は確かですよ。

ランス:そうだったな。
    ま、其れ故に修復と言っても普通の武器の様にはいかんそうだ。

アル:でも、もう殆ど完成してるんでしょ?

ランス:ああ、刀身と柄の重量バランスと柄の耐久性を調整するだけらしい。

アル:お昼にはその調整も終わる訳ですね。

ランス:其れにしても、やけに機嫌が良いのだな。

アル:分かりますか?

ランス:アルフレッドとも長い付き合いになるからな。

アル:実は・・・ホフマン氏から試作の弓を頂ける事になったんです。
   新素材の複合弓に狙いを定める為の照準器が付いてまして・・・
   バランサーとして棒状の錘を装備する事により
   射撃時の安定性が増しましてですね〜・・・

ランス:分かった、分かった・・・
    パウル・ホフマンの作った弓なら余程高性能なのだろう。
    其れよりもそろそろ支度せねば、工房に着いた頃には昼を過ぎてしまうぞ。

アル:・・・そうですね。
   いや、私とした事がお恥ずかしい・・・直ぐ支度致します。

ランス:全く・・・アルフレッドが此れ程、蘊蓄好きだったとはな。

【ハウマン工房】

パウル:炉の温度が下がってるぞ!
    おぃ!何だ、この仕上げは!遣り直しやがれ!!

シュティ:あらまぁ〜忙しそうね?

パウル:小娘、何処から入った!?
    職人以外は立ち入り禁止だ!邪魔だから出てけ!

シュティ:あら、随分な言い様じゃない。

パウル:退けぇっ!!こちとら忙しいんだ!
    素人がうろついてると怪我すんぞ!!

シュティ:全く・・・あたしがそんなドジ踏むと思ってんのかい?
     ま、邪魔して欲しくないのはこっちなんだけどね・・・

パウル:ぬ?・・・・何の心算(ツモリ)だ?

シュティ:解らない?聖剣を貰いに来ただけなんだけど。

ミカエル:無駄話は此れ迄だ。
     こんな工房で無駄な時間を使う必要はない。

パウル:貴様等!聖剣に何をする!!

シュティ:貰いに来たって言ったろ?
     さ、あんたは大人しく寝てな!

パウル:ぐっ・・・!!

ミカエル:此れか・・・星の剣(ツルギ)は・・・
     目的は果たした、後はランスフォードの始末だ。

シュティ:そうですね、此処は暑くて・・・こんな季節に汗が止まらないわ。

ミカエル:そうだな。では引き揚げるとしよう。



アル:ハウマンさーん?ランスフォード卿をお連れしましたが・・・
   ・・・・あれ?返事がないなぁ・・・

ランス:留守という事もあるまい。

アル:そうですよね。中で待って居れば戻って来られるんじゃないでしょうか?

ランス:招待は受けている事だし、そうしようか・・・

アル:お邪魔致しますよ〜・・・っ!?
   ハウマンさんっ!!

ランス:如何した!?

アル:ハウマン氏が倒れられて・・・

パウル:ぅぅ・・・。

アル:気付かれましたか!?

パウル:くっ・・・ランスフォード卿か?
    大変じゃ!調整を終えた星の剣(ツルギ)が2人組の男女に奪われてしもた!

アル:聖剣が!?

ランス:どんな2人組でしたか?

パウル:男女共に二十代位だ・・・
    女の方は東方の思われる見た事のないサーベルを持っておったな。

アル:東方の珍しいサーベル?
   まさか、ギルバート殿が贈られたオオワザモノとか言う曲刀では・・・

ランス:知っているのか!?

アル:はい、例のマデリーネと名乗った女暗殺者ですよ。

ランス:矢張りクライセン侯爵の雇った暗殺者の連中か・・・

パウル:まだそう遠くには行ってない筈だ。
    お預かりした大切な聖剣を奪われてしまって・・・
    何と申し上げれば良いか・・・

ランス:いえ、そう気に召さらないで下さい。

アル:ええ、必ず取り返して見せますよ!

パウル:・・・頼む。

ランス:では、愚図愚図しては居られんな。

アル:そうですね。
   行きましょう!



ミカエル:奴め何処に行ったのだ・・・

シュティ:宿には居ないようですが、
     荷物は其の儘の様ですし、外出してるだけかと・・・

ミカエル:さては入れ違いになったか・・・
     街道だ。行くぞ!

シュティ:はっ。

【グリーゼンの街道】

アル:奴等何処に行ったのでしょう?

ランス:もしや、私を狙って居るのかも知れん・・・

アル:ランスフォード卿を!?

ランス:聖剣を持ち去られては問題だからな、街道から目を逸らす訳にはいかんが・・・
    暗殺者の仕事は盗みを働く事では無い筈だ。

アル:誰かを狙ってこのグリーゼンに来たとするなら
   十中八九ランスフォード卿を狙っているって事ですね?

ランス:以前、奴等に襲われた事もあるからな。
    私が彼らの暗殺リストに加えられている事は間違いない。
    今頃、私の借りた宿に踏み込んでいる頃かも知れんな。

アル:なら、私が行って参りましょうか?
   私なら女暗殺者の顔も知っていますし・・・

ランス:いや、此処で待っていれば、
    奴等から向かって来る筈だ。

ミカエル:ご名答。

ランス:貴様は!

ミカエル:ご機嫌麗しゅう・・・ランスフォード卿。
     今日は怖いご夫人とではなく、弓兵を従者にしての再会か?

シュティ:あやつはアルフレッド卿、バルマで聖剣を引き揚げた
     ガルニアの騎士の一人です。

アル:お前はマデリーネ!

ミカエル:ほぉ、顔見知りか・・・
     如何やら二対二、しかも其々(ソレゾレ)因縁があると見える。

アル:ランスフォード卿、この女・・・油断しないで下さい。
   かなりの腕です。

ランス:ああ、だが男の方が実力者の様だ。
    今度は名を聞いておこう。
    前回は聞きそびれたからな。

ミカエル:ミカエル・フォシュマン。
     冥土の土産に覚えておくがいい。

シュティ:あたしもマデリーネなんて名じゃないよ・・・
     シュティーナ・リンドホルムっていうのさ。

アル:シュティーナさんか。其れが本名なのか?
   マデリーネという名が偽名なのは既に知っていましたけどね!

ランス:フォシュマン・・・フォシュマン辺境伯の家系の者か!?

ミカエル:当家をご存じとは痛みいるねぇ〜
     私こそフォシュマン元辺境伯家、当主。
     ミカエル・フォシュマンさ

ランス:・・・元だと?

ミカエル:その辺の諸事情を語る状況ではあるまい?
     さぁ、預けた勝負に決着をつけようか!

ランス:望むところ!

アル:此方も始めましょうか・・・

シュティ:大した余裕だねぇ?

アル:一度勝たせて貰ってますからね。

シュティ:調子に乗ってんじゃないよ!!

ミカエル:此方から行かせて貰う!ハァアッ!!

ランス:むんっ!

ミカエル:セェイ・・ヤァ!!

ランス:その手には乗らん!でぇりゃぁぁ!!

アル:なんて変則的な攻撃だ・・・副団長も其れを読み切るなんて・・・

シュティ:ぼーっとしてるんじゃないよ!ヤァ!!

アル:うゎっと・・・そうですね。
   気を抜ける相手ではありませんでした。

ランスM:両手に二振り、流石に隙のない構えだ・・・無ければ作るしかないか。

ミカエル:そんな大振り・・・自棄(ヤケ)でも起こしたか!

ランス:掛かった!うぉおりゃ!!!

ミカエル:しまったっ!!最初から武器落とし狙いか!?

シュティ:ミカエル様!!

ミカエル:気を散らすな!お前の相手も倒れていないだろう!
     ・・・・流石はランスフォード卿、強打に見せかけて武器狙いとは
     キレイに嵌められたわ・・・
     
ランス:片手持ちの剣では強打は避けるのが常套、
    振り下ろしの後の隙を・・・狙っていたのだろうが、

ミカエル:武器を失っては隙も付けぬか・・・?
     だが今日はもう一振り剣を持っていてな・・・

ランス:其れは!!

ミカエル:その通り、アスエルの三聖剣『星の剣(ツルギ)』だ。

アル:今だっ!

ミカエル:何っ!?グッ・・・矢だと?

アル:ランスフォード卿!今のうちに聖剣をっ!!

ランス:アルフレッドでかしたぞ!

アル:聖剣さえ取り戻せば・・・これで終わりだ!やぁっ!

シュティ:空に矢を打ち上げただと?貴様何処を狙っている!?

アル:私がランスフォード卿の傍に居るのに、
   他の騎士達が居ないとでも思ったのですか?

ミカエル:出任(デマカ)せで惑わす気だな?

アル:ランスフォード卿!副団長貴下の紺碧騎士、二十名程ではありますが
   街道近くに待機しております。
   今の合図で間も無く此処に到着する筈です。

ランス:武器を失ったミカエル卿に、増援の到着を待つ必要もない。
    此の儘、捕縛するぞ!

ミカエル:チィッ・・・万が一でも退路を失っては拙(マズ)い。
     今回は弓兵の狂言に付き合ってやる。
     シュティーナ!ここは一旦退くぞ!

シュティ:ハッ!・・・アルフレッドめ、小賢しい真似を・・・

アル:逃がすものか!

ミカエル:ぅぐっ!

シュティ:ミカエル様っ!!

ミカエル:大丈夫だっ・・・急所には当たっておらん!

ランス:ミカエル卿!決着を付けるのでは無かったかぁっ!!

シュティ:ミカエル様、危ない!

ランス:セィヤァァ!!

シュティ:んん!・・・っ!?・・・きゃあ!!

ランス:この聖剣、女の小剣(ショウケン)を折った・・・いや斬ったのか・・・

シュティM:ミカエル様・・・無事お逃げになられたか・・・

アル:シュティーナさん、無駄な抵抗は止めて大人しくして貰いますよ。

シュティ:抵抗しても逃がして貰えそうにないね・・・

アル:聞き入れて貰えて助かります。



ランス:暗殺者の将ミカエル卿を討ち洩らしたが・・・聖剣を無事取り戻し、
    女暗殺者、シュティーナ・リンドホルムの捕縛に成功した。
    精鋭である紺碧騎士、二十名との合流を果たせば
    逃亡したミカエル卿の追跡も難なく行えるだろう。
    それにしても恐ろしいのは聖剣の力である。
    鋼をも斬り裂くその切れ味は、今まで目にしたどの様な名剣とも
    比較等出来ぬ程に鋭いモノであった。





                  五十三章へつづく・・・
                           次回に続く。