三騎士英雄譚〜第五十六章〜

ランスフォード・シュタイン(29歳)男 愛称=ランス
セルディア王国の無名の騎士の家生まれる。第三紺碧騎士団副団長。
父アーデル・シュタインは国王命令無視の罪により
騎士資格剥奪という憂いに遇うが、当時14歳であったランスに
異例の騎士叙勲を与え御家断絶の危機を逃れる。
また、29歳で騎士団副団長の要職への出世も異例。

アンジェリカ・シュタイン(24歳)女 愛称=アン
セルの腹違いの妹。真紅騎士団の一員。
婚約者がいたが、今はランスと結婚しシュタイン家に入る。
剣術を学んでおり、細身の剣の試合での実力は兄にも勝っている。

シャルル・フォン・フランソワーズ(29歳)男 愛称=シャル
セルディア王国フランソワーズ子爵家の当主。
剣より学問に通じ、第一黄金騎士団に所属するも
自領の統治に尽力を尽くしている。
セディとは幼少からの付き合いがある。
学者肌の貴族。

マグナルーク・フォン・クライセン(31歳)男
セルディア王国、第一黄金騎士団中隊長。
ガルビア侯の甥にあたる。同クライセン家であるが爵位は子爵
ガルビアの懐刀として暗躍する。

クラウディア・セルジア伯爵夫人(28歳)女
セルディア王国ハウゼン・セルジア伯爵の未亡人。
恋多き情熱の女性。セディに執拗なアプローチをする。

カール・アイブリンガー(31歳)
セルディア王国、第四深緑騎士団、団長。
マグナルークと親交深く、同じ騎士家系で構成されながら
精鋭を集めたと言われる紺碧騎士団に対し、劣等感を抱いている。
とは言え、カール自身の実力は紺碧騎士団に決して劣るものではない。

舞台説明



シャルN:ランスフォード卿に任せた『星の剣』の修復も完了致し、
     ガルニア要塞に配属された歩兵団の錬兵も着々と錬度を上げています。
     しかし、気になるのはセルディアから姿を消したガルビア卿の所在と
     平衡錘投石機(ヘイコウスイトウセキキ)なる大型カタパルトを用いた、
     マグナルーク卿のミーティア計画の事でしょう。

ランス:フランソワーズ様、お呼びと聞き、参じましたが・・・
     
シャル:ランスフォード卿、お待ちしておりました。
    帰還早々ご苦労ですが、少しお話がありましてね。

ランス:して、話とは・・・

シャル:ガルビア勢のマグナルーク卿が進めているミーティア計画の事は
    既に、耳にしておいででしょうか?

ランス:全容はまだ・・・何でもマグナルークが計画する巨大カタパルトを用いた攻城作戦だとか?

シャル:はい、投石機による攻城・・・これは何も珍しい作戦ではありません。
    しかし、此度の大型カタパルト、トレビュシェットは我々の概念を大幅に
    凌駕した恐ろしい兵器です。

ランス:トレビュシェット・・・其れが、巨大カタパルトの名前ですか?

シャル:そうです。
    滑車の力を利用し、巨大な錘の位置エネルギーを動力に巨岩をも発射させる
    射程距離も命中精度も高い、危険な兵器です。
    此れを使用されれば、このガルニア要塞の城壁など一溜まりも無いでしょう。

ランス:其れ程の物とは・・・

シャル:その巨大さから、戦場まで運搬する事は不可能かと考えられていたのですが、
    マグナルーク卿は、此れを解体し、戦場で大工達に組み立てさせる事で
    運用する方法を考えたものと思われるのです。

ランス:この難攻不落と呼ばれたガルニア要塞を以ってしても、
    其のトレビュシェットの破壊力に絶えられない・・・

シャル:まず、使用されては、もたないでしょう。

ランス:では、手は無いと言われるのですか?

シャル:いえ、ミーティア計画の発動は雪解けの春の季節、
    使用されては厄介ですが、使用させないようにする方法はありそうですね。
    しかし、この作戦にはガルビア勢の命運がかかっているとも言えるでしょう。
    必ず、デミドーラ軍との挟撃を講じて来る筈です。

ランス:ガルビア卿の出奔の件ですな。

シャル:ええ、ガルビア卿の足取りは、十中八九、デミドーラ王国の武闘派貴族の元でしょう。

ランス:デミドーラ王国の古参の貴族には
    軍事国家であった頃の名残で武闘派の貴族が多いのでしたね。
    矢張り、ボドワン・アンデルソン侯は此度は動きませんか・・・

シャル:まだ、確証はありませんが・・・恐らくは動かないでしょう。
    そこで、ランスフォード卿には、このガルニア要塞に駐留する紺碧騎士団と
    錬兵して頂いた、歩兵団を率いて、デミドーラ軍の牽制をお願いしたいのです。

ランス:先にデミドーラ軍を叩いて、挟撃を封じると言うのですね。

シャル:ご明察。此度のデミドーラ軍の出兵は、各武闘派貴族による独断的なもの・・・
    デミドーラ王家が承認したものではないでしょうから・・・

ランス:仮に戦いが起こっても、非公式なものと?

シャル:其の通りです。
    ですので、後の外交には禍根は残さないでしょう。

ランス:心得ました。
    早急に軍を纏め、デミドーラの牽制に当たります。



マグナ:如何だ?深緑騎士団の士気の程は・・・

カール:可も無く、不可も無く・・・。
    流石に自国の騎士を相手に戦となれば、其れ也に動揺も出るものだ。

マグナ:相手は、たった五百の兵力だ。
    深緑騎士2千にデミドーラ軍との挟撃作戦となれば、動揺など大した意味も持つまい?

カール:そういう問題でもあるまい。
    確かに戦力差に措いては我々の優位は崩しようが無いだろうが・・・
    ガルニアの特編隊には我が深緑騎士団からも少数ながら参加しているのだ。
    彼らを只、逆賊と銘打つだけでは納得出来ぬ者もいる。

クラウ:そうですわね・・・
    其れこそが、洗脳の恐ろしい処ですわ。

カール:・・・洗脳、ですか?

クラウ:ええ、忠誠心高き深緑騎士団員だったからこそ
    ルーク皇太子派の洗脳に、彼らも嵌まってしまったのでしょう?

カール:マグナルーク卿・・・此れは如何いう事だ?

マグナ:いや、それは・・・

クラウ:あら、カール・アイブリンガー卿はご存知でなかったの?

カール:はぁ、

クラウ:子爵に過ぎないシャルル卿が、ガルニア要塞の要塞司令官などという要職に就いたのも、
    彼が、皇太子派の中でも洗脳を得意とするからですのよ?

カール:何と!?シャルル司令が皆を洗脳していると?
    では、我が深緑騎士から参加した騎士達も・・・

クラウ:ええ、恐らくは・・・

カール:何と言う事だ!

マグナ:そういう事だ。
    君の元部下達も、残念だがルーク皇太子派の術中に嵌まっておるのだろう・・・
    君には、出来れば知られたくなかったのだがな。

カール:マグナルーク卿・・・心遣い、感謝します。

マグナ:分ってくれるか・・・
    それに、遣いっ走りにされておるのを、勝手に勘違いし
    エリート面しておる紺碧騎士団の連中に一泡吹かせる良いチャンスではないか。
    此度の戦いで、ガルニア要塞に立て篭もる連中を討伐すれば、
    カール、君の勲功は計り知れないものとなる。

カール:勲功などは如何でも良い。
    しかし、紺碧の奴等めに一泡吹かせるのは面白いかも知れぬ。
    それに、何より我が深緑騎士団員迄も誑(タブラ)かされておるのでは、
    私とて、黙って見過ごす訳には参らん。

マグナ:其の通りだ。
    もう少し早く、君に此の事を伝えるべきだったかも知れんな。

カール:気遣いは有難いが、マグナルーク卿、それは水臭いというもの
    話して頂ければ、我等とて戦う意味を理解できる。

マグナ:そうか。
    其れは要らぬ気を回してしまったな・・・

クラウ:其れで・・・作戦の日時はもうお決まりですの?

カール:もう直ぐ訪れる春の雪解けには準備が終わる予定ですが、
    何分、天候のこと故・・・時期迄は・・・、

クラウ:そう・・・。
    期待してましてよ・・・カール卿。

カール:ハッ、期待に副(ソ)えるよう、全力を尽くしましょう。



ランス:アン、いるか?

アン:はい?

ランス:また暫らく留守にしなくてはならない様だ。

アン:例のフランソワーズ子爵様の?

ランス:ああ、駐在する紺碧騎士団と練兵済みの歩兵団を率いて
    対デミドーラとして、挟撃阻止作戦に出る。

アン:春に予測される要塞防衛戦に合わせての作戦にしては
   時期が早いんじゃなくて・・・?
   余り長く要塞の守備を割くのは得策では無いと思うのだけど・・・

ランス:確かにそうだが、デミドーラ軍の戦力が未知数な上、
    歩兵を率いての行軍では進軍速度が問題になる。
    マグナルーク卿から挟撃を気にしながらでは、
    兵の士気を維持するのは難しいだろう。

アン:そうね、練兵済みと言っても、編隊行動の基礎から短期間で訓練した訳だし
   騎士団を率いるのとは勝手が違いそうだものね。

ランス:ああ、まぁ、セルの奴等が鍛えたなら戦力にはなるだろうがな。
    集団行動に向いているとは思えんな・・・。

アン:お兄様・・・長槍(パイク)での密集方陣ばかり指導してたもの・・・

ランス:其れでは機動力は皆無と思って間違いないな。

アン:アルフレッド卿の訓練した弓兵隊は練度が高そうでしたけど?

ランス:あいつは基礎を大事にしているからな。
    教官には向いているのかも知れん。

アン:アルフレッド卿は真面目ですものね。

ランス:兎に角、斥候を出して敵勢力との遭遇を警戒し、
    行軍中は陣形を解いて移動するしかない。

アン:其れはそうです。
   陣形を維持したまま、行軍する心算だったのですか?

ランス:いや、勿論、槍兵部隊に方陣を組んだまま行軍させるなんて馬鹿な事は考えていないさ。
    だが、出会い頭で敵と遭遇した時に、即座に陣形が組める程、練度が上がっているかが心配でね。

アン:陣を組みやすい隊列で行軍するという事?

ランス:そう。だが、其れも難しい様だと、言いたかったんだ。

アン:なるほどね。

ランス:そういう訳で、対デミドーラ戦に用いる時間は余裕を持って長くみるに越した事はない。
    留守中の要塞警備は疎かになるが、フランソワーズ様もお考えの末の事だろう。

アン:そうね。
   でも、貴方も気をつけて下さいましね。

ランス:分っている。

アン:もう、一人の身ではないんですから・・・

ランス:そうだな。
    生まれるのはいつ頃だ?

アン:夏になる前ぐらいかしら?
   もうこの子、私のお腹、蹴って来るのよ?

ランス:どれ。・・・・本当だ。今蹴ったな!

アン:こんなに元気が良いのだから男の子かしら?

ランス:なに、アンに似た女の子かも知れんじゃないか。

アン:貴方・・・其れ如何言う意味かしら??

ランス:冗談だよ。
    ま、元気なら其れで良い。

アン:そうね。
   ・・・今度の作戦にはお兄様達も連れて行くの?

ランス:ああ、セルには槍兵部隊を、アルには弓兵部隊を指揮して貰わねばならんからな。

アン:また、あの時の様に無茶しなければ良いのだけど・・・

ランス:心配ない。今度はあいつの首根っこを掴んででも連れて帰るさ。
    其れに、あいつ等が探し出して来てくれた、この聖剣もある。
    今度は、俺が守ってやる番だ。
    ・・・勿論、俺も無事に帰ってくるからな。

アン:信じてます。



シャル:ガルニア要塞の裏門から、青き騎士達と其れを追う兵達が出陣していく。
    ・・・留守中はお任せ下さい。
    頬にはまだ冷たい風を感じながら、要塞司令室の窓に手をかける。
    敵勢力の大きさが分らぬ不安は、私の胸の中に深い霧が漂っていました。
    ランスフォード卿、御武運を・・・
    新たなる敵勢力との戦いはこの時、幕を開けたのでした。





                  五十七章へつづく・・・
                           次回に続く。