三騎士英雄譚〜第六章〜

セドリック・フォン・ラグワルト(32歳)男 愛称=セディ
セルディア王国ラグワルト伯爵家の次男。第二白銀騎士団中隊長。
貴族の名家の生まれだが華やかな社交界を嫌う変わり者。
いまだ独身を通しており、剣の道に進むが
うらはらに婦人からの人気は高い。
物腰は柔らかく、文才に長けるが剣の腕は白銀騎士団随一の腕を持つ

バーナード・オズワルド(37歳)男 愛称=バーニィ
ラグワルト家に代々仕えるオズワルド家に生まれ。
セディが生まれた時から従者として仕えている。
騎士の武装を禁じられている為、戦斧を愛用している。

ティナ(15歳)女
ラグワルト家に盗みに入った泥棒。
セディに一目惚れして付き纏う。

クラウディア・セルジア伯爵夫人(28歳)女
セルディア王国ハウゼン・セルジア伯爵の未亡人。
恋多き情熱の女性。セディに執拗なアプローチをする。

サナウジャール(54歳)男
セルジア伯爵領の山地に住む野盗の頭。
元、宮廷占星学者であり、隠居の身にあった。
伯爵夫人の横暴から領民を守る為、現在野盗に身を落としている。

舞台説明



クラウM:愛しのセドリック様が・・・まさかガルビア様と
     敵対する関係になるとは・・・
     まぁ良いわ・・セドリック様が失墜する事があれば・・・
     わたくしが手を差し伸べてあげれば済むこと・・・
     そもそも、あの憎たらしい小娘を始末しない事にはね・・・

バーニィ:セドリック様、この峠を越えればセルジアの街です。

セディ:セルディアの南岸東側の領土とはいえ・・・暑いですね・・・

ティナ:でも、セルジアのオレンジは美味しいって有名じゃない?

セディ:ええ、皮が厚いですが甘みと香りはセルディア一と聞きますね

バーニィ:お茶も特産と聞き及んでおります。

セディ:では、街に着いたらお茶と果物でティータイムとしますか。

ティナ:いいねぇ!

バーニィ:ティナ、街での情報収集は忘れるでないぞ?

ティナ:わかってるって。

【セルジアの街】

セディ:郊外の人々の暮らしぶりは貧しげに見えましたが・・・
    中心部となると賑やかな街並みですね。

バーニィ:どうも貧富の差が激しいようです。
     伯爵夫人の為政に代わってからの状況のようですが・・・

ティナ:それでヤケに成金クサイ連中が多いのね・・・

セディ:とにかく、今回の目的はこの街を襲う野盗の討伐です。
    野盗についての情報を集めておきましょう。

バーニィ:心得ております。
     ティナ、お前は貧民街での情報収集にあたってくれ。

ティナ:はいはい、・・・でもその前に・・・
    おじさ〜ん、オレンジペコおかわりねぇ〜♪

バーニィ:まったく・・・・

セディ:まぁ、いいじゃないか・・・
    このところお茶を嗜む時間もなかったのだから

ティナ:そうそう♪
    人間、いい仕事するには心の余裕も重要なのよ?

バーニィ:わかったから大人しく飲め!

セディ:不可思議な術を使う野盗ですか・・・
    いったいどんな術を使うというのだろう・・・

【ガルニア要塞】

クラウ:これはごきげんよう・・・セドリック様
    前線にての任務、本国より心配しておりましたわ。

セディ:これはこれは、セルジア伯爵夫人・・・
    このような前線の要塞まで来られようとは
    いかな御用でございましょう?

クラウ:もちろんセドリック様のお顔を伺いたく・・・
    と申し上げたいところですけども
    この度は折り入ってお願いがございますの

セディ:お願い・・・ですか?

クラウ:えぇ、実は最近・・・
    私の領地で野盗が出没するようになりまして
    手を拱(コマネ)いていますの・・・

セディ:それはお困りですね・・・
    しかし、伯爵領ともなれば自治の衛士隊もかなりの数
    野盗討伐ごとき雑作もない事では?

クラウ:それが・・・野盗の首領は不可思議な術を使うそうですの
    討伐隊を組んでも失態を見せるばかりですわ・・・

セディ:不可思議な術・・・ですか・・・

クラウ:兵の話には風を操り、奇怪な魔物を従えるそうですわ
    
セディ:風に魔物・・・ですか・・・
    魔術、妖術の類・・・そんなモノが本当に存在するのですか?

クラウ:私も最初は疑わしく思ってましたけど・・・
    度重なる討伐失敗の事実を見せられると
    魔法使いでも居るとしか考えようがないですわ

セディ:ふむ、つまりその討伐を私にと?

クラウ:えぇ、アスター殿下からの正式な任命書もありますわ

セディ:そうですか、わかりました・・・・

【セルジア】

バーニィ:セドリック様、ただいま戻りました。

セディ:ご苦労様。
    何か有益な情報はありましたか?

バーニィ:はい、セルジア領北部に広がるベクトリア山中に
     野盗のアジトがあるらしく
     野盗の数については二百とも五百とも言われて
     特定できるものではありませんでした。

セディ:そうか・・・

バーニィ:ただ、野盗の頭は魔物を操る魔道士だと噂されてまして
     身の丈12フィートを越える魔人や
     獅子の頭を持つ魔物など
     この世のモノと思えぬ怪物ばかりとか・・・
     セドリック様・・・この噂が真実であれば
     我々の手に負える戦いではないかも知れませぬぞ

セディ:身の丈12フィートの魔人に獅子の頭の持つ魔物ですか・・・
    風を自由に操るとの話も聞いていますが・・・
    バーニィは本当にそんなモノがあると思うかい?

バーニィ:いぇ、・・・普通ならば鼻で笑うところですが・・・
     ここまで真実であるかのように噂され
     実際に見たとの証言まで聞くと・・・
     討伐に出た衛士隊が返り討ちにあってる事を考えると・・・

セディ:確かにそう思ってしまうかも知れませんね・・・

バーニィ:では、噂は偽りだという事ですか?

セディ:いえ、その審議は実際に刃を交わしてからと致しましょう。
    しかし・・・私もその魔道を操る術を知っているやもしれません

バーニィ:セドリック様も魔道をお使いになられる!?

セディ:使った事はないが、見当はつくという事だよ。

ティナ:セディさまぁ〜ただいま〜
     
セディ:ティナ、おかえりなさい。
    どうでした?貧民街での情報は・・・

ティナ:それが、野盗は貧民街じゃ人気が高くてさ、
    実際、貧民街では野盗から襲われるどころか
    飢饉の際には食料の施しや救済活動もあったらしいよ

バーニィ:民衆の味方という訳か・・・

ティナ:そうだね、逆に伯爵夫人に対する批判的意見が多いね
    今セルジアの税率は国税、地方税を合わせると
    収穫の8割を超える状態だし、
    貧民街では野盗はレジスタンス的な扱いをされているよ

セディ:どうも野盗の指導者には頭の良い人間がいるようですね

バーニィ:どうされるおつもりですか?

セディ:とにかく・・・ベクトリア山中に乗り込みましょう
    こちらは兵を率いて行く訳じゃない。
    上手くすれば話し合いの場をもてるかも知れませんし。

バーニィ:しかし危険ではないですか?
     万が一、囲まれて襲われでもしたら・・・

ティナ:大丈夫だよ。
    野盗の連中は相手を選んで襲うみたいだし
    手荒なマネをする連中には思えないね

セディ:そういう事ですね。

【ベクトリア山道】

ティナ:ねぇ、さっきから変な啼き声が聞こえない?

バーニィ:噂の魔物・・・などという事はないでしょうな?

セディ:たぶん、この声こそ噂の魔物の一つだと思いますよ。

バーニィ:な!?

セディ:はは、大丈夫です。
    この啼き声・・・いえ、この音は風の音ですよ。

ティナ:風の音?

セディ:ええ、風がこのあたりの岩に穿(ウガ)う穴に吹き込む時に
    音を発生させているんです。
    丁度、笛の原理と同じですね

ティナ:へぇ〜

セディ:山道は両側に岩が聳(ソビ)え、その風の音が反響して
    魔物の啼き声に聞こえているのでしょう。

バーニィ:しかし、魔物の姿を見た者もいるとの情報もありましたが・・・

サナウM:あの者達・・・何者じゃ・・・

セディ:とにかく進んでみましょう。
    魔物を操る野盗であれ、レジスタンスであれ、出会えない事には
    何も始まりませんからね。

ティナ:どうやら、もう出会ってるみたいだよ?
    人の気配がするもの・・・

バーニィ:魔物でない事を祈りますな。

セディ:この山に住まわう御仁よ
    私はラグワルト伯爵家、セドリック・フォン・ラグワルト
    どうか姿を現してはくれまいか!

サナウ:ようこそ・・・お初にお目にかかる。セドリック卿
    して、このような山中にまで何の御用じゃろう・・・?

セディ:そなたと話がしたいと思う。
    魔物を操る野盗と聞き及び、討伐の命を受けて参ったが・・・
    どうやらそなたはセルジアの民を想い野に下った
    知識者と見受ける。違いますか?

サナウ:ほぉ・・・なかなかの見識・・・
    何故そう思う?

セディ:セルジアは伯爵夫人の為政に変わり
    重税を科せる様になった。
    そんな中、あなたは飢饉には食料の施しを行い
    救済に尽力されている。
    また、部下の数の少なさを補う為に
    この山に潜み、風を味方にする事で
    自治衛士隊に対抗する術を行使されている。

サナウ:ほぉ・・・

セディ:流言の扱いや、物理学、気象学に精通しておられる・・・
    学識の無い者に出来る事ではありませんからね。

サナウ:どうも手の内をすべて読まれておる様じゃな・・・

セディ:すべて読んでいるとは言いませんが、
    同じ効果をあらわす術なら心得があります。

サナウ:ふむ、して・・・ワシ等をどうするおつもりか?
    ワシ等はあの伯爵夫人の横暴がある限り
    この山に潜み、民衆を守らねばならん

セディ:ですが・・・このような事を続けていても
    セルジア領の暮らしぶりが根本から変わる事はありませんよ?

サナウ:それはわかっておる。
    しかし、かと言ってワシ等に何が出来る?
    まさか伯爵夫人を、ひいては王国を相手取って
    戦争を始めよ、と言うのではあるまいな?

セディ:まさか、税を下げるのに戦争など要りません。
    そうですね・・・この山の魔物に働いてもらいましょうか・・・

サナウ:どういう事じゃ?

【伯爵夫人宮殿】

クラウ:地方税を下げろ・・・とおっしゃいますの?

セディ:はい、魔物の正体とは先程話した通り
    この領地に住む貧しい人々の餓えや苦しみ・・・
    それらが怨念となり現れたものでした。

クラウ:そんな事がありえますの?

セディ:人の念とは実に恐ろしいモノ・・・
    ここにいるサナウジャール殿に助けて貰えねば
    私もその怨念という魔物に呪い殺されるところでした・・・

サナウ:税を下げ、民の餓えが消えれば
    魔物はその力を奪われワシの施した封印により
    悪さは出来なくなりますわい

セディ:魔物の正体が領民の怨念である事は
    税を下げ魔物が姿を消す事によって
    証明できる事・・・

サナウ:もし、このまま怨念が積み重なれば
    魔物は更なる魔力を得て
    セルジア伯爵夫人様を襲うことになりましょう。

セディ:その時は相手は魔物・・・剣の力では貴女をお守りする事は
    出来そうもございませんよ。

クラウ:・・・・わかりましたわ・・・

サナウ:それは良ろしゅうございます。
    伯爵夫人様の御身も安心でございます。

クラウ:誰か!徴税官をここにすぐお呼びなさい!

【セルジア貧民街の酒場】

サナウ:ふぉっふぉっふぉ・・・
    あの伯爵夫人の慌てた顔といったら無かったわい
    しかし、あのような交渉術があったとは・・・
    この老いぼれにも気付かなかった・・・

ティナ:やっぱり貴族って盗賊より抜け目無いのよね

セディ:結果、多くの民衆が幸せになるんです。
    良いことじゃありませんか?

ティナ:どこかの子爵様よりはマシだけどね・・・

バーニィ:言葉を慎め、ティナ!

サナウ:これで暴利な重税から開放されるじゃろう
    これもセドリック卿のおかげじゃ

セディ:サナウジャール殿、
    これからはどうするおつもりですか?

サナウ:元々隠居の身、また隠居生活に戻るだけですわい。

セディ:あなた程の知識がありながら隠居とは・・・
    良ければこれからは我々に手を貸して頂けませんか?

サナウ:今回の借りもありますからの・・・
    わかりもうした。
    この老いぼれの知識で良ければお貸し致しましょうぞ

ティナ:一件落着ね♪じゃあ早いとこみんなの所に帰りましょ
    あのオバサンちょっと苦手なんだよね・・・

セディ:ふふ、私もです。



サナウN:若い新たな力が芽吹き始めておる。
     この腐敗の進む王国にも希望は残されておるようじゃ
     この老いぼれに出来る事など限られようが・・・
     明日からの日々が楽しみじゃわ


     


                       〜第七章につづく。
                           次回に続く。