BLR


 BLR

 

BLR、BLR、BLR

ママは、ぼくに言っていた。

「ペドリート、いつか、あなたのBLRを探しに行かないといけないのよ。」

ぼくのBLR、いったいどこにあるのだろう。

 

月もない夜、紺色の空に星だけが輝いている。今までぼくは太陽の光に照らされている間しか外に出たことがなかった。

 光がないっていうことが、こんなにも心細く怖いものだとは、思わなかった。

「BLRは暗闇でこそ輝くのよ。ペドリート、今夜は、まさに光のない夜。あなたのBLRを探しに出かけなさい。」

いつしかぼくも大きくなり、一人で町も歩けるようになった。そしてママの言葉にしたがってBLRを探しに出かけたんだ。

 

本当に真っ暗、どっちへ行けばいいのかも解らない。

「すみません、BLRをさがしてるんですけど。」通りがかりの人に聞いてみた。

「BLR?何、それ?知らないよ。」知らなかった。

「あのー、あなたはBLRをどこでさがしたのですか?」他の人に聞いてみた。

「BLR、なんて知らないし、探したこともないね。」

また、他の人は、「BLR?興味ないね。BLRを探しに暗闇を歩くなんてごめんだね。俺は灯りの下にいる方がいいのさ。」

変だな、ママはぼくにBLRを探しに行かないといけない。と言ったのに。

そして、ついに、外にいる人は誰もいなくなった。まったく独りぼっちだ。なんとなく歩いていると、いつしか足はおじいちゃんの家の方に向かっていたんだ。おじいちゃんは、物知りでぼくにいろんな事を教えてくれた。きっとおじいちゃんならBLRのあるところも、どうしたらいいかも教えてくれるにちがいない。ぼくはそう思ったんだろう。

行く方向は決まっても、あいかわらず暗くて心細いのには変わりない。時々道を照らす街灯にうつる自分の影や足音にどきどきしながら、くじけそうになる気持ちを強く持って前に進んだ。

BLR、BLR、BLR

しばらく行くと犬がいた。「うーーー。」唸っている。

どうやら、とうせんぼして通してくれそうにない。凶暴な犬め、石でも投げつけてやろうかと思ったけど、よく見ると首輪をしていない。噛みつかれたりしたら大変だ。この道は近道なんだけど、仕方ない、別の道へ行こう。

 別の道は、もっと暗い。なぜなら、森を通るから。

「あー、やだな。」夜見る森はまったく別のものに見えた。

「えー、こんなんだったっけー。道に迷ったのかな?」ぼくは別の世界に迷い込んだような気がした。右に木、左にも木、前も後ろも木ばっかり、足下にはごろごろ石がころがっている。

空には木の間から星だけは、ちかちかと輝いているけど、道をてらすほどの光は届かない。勇気を出さなくっちゃ。

BLR、BLR、BLR

風の音が大きくなってきた。葉っぱの騒ぐ音、枝のこすれる音。

カサカサカサ、

ガサ、ガサ、ガサ、

ザザーッ。

なんか、木が動いてるみたい、枝がのびてる。

「うそだーっ!」

気のせいじゃない、本当に木が動きだした。あー、木の腕もある、目もあるよー。

ぼくをにらんでいる。

木の腕はぼくの行く道をふさぐように、暴れ出した。

「っわー!助けてー。」

ぼくは、走り出した。

「おじいーちゃーん!助けてー」

ぼくは、もう何がなんだかわからない。ただ恐ろしかった。

BLR、BLR、BLR

「ペドリート、いつも落ち着いていないといけないよ、惑わされないように、何が起こっているのか、何が正しいのか。よく見て感じなさい。」

「おじいちゃん?」

ぼくは、立ち止まってあたりを見回した。おじいちゃんの姿はなかったけど、確かにおじいちゃんの声がしたみたいだった。

ぼくは、おじいちゃんの言葉をつぶやくことで落ち着くことができた。静かにもう一度周りを見渡すと風は止み、森自体もなくなっていた。

ここは、どこなんだろう。もうぼくの知っている場所じゃない。

とにかく、道のあるほうへ歩くしかないみたいだ。

道は細く、橋の上を歩いているような感じがしたけど、暗さのため、道以外はよくわからない。

ときどき、バランスを崩してよろめいたけど、しっかり、足をつけて、バランスをとりながら歩いた。

道の先には、川が流れていた。もう歩いては進めない。

泳ぐにしても川幅は広く深そうで流れもあるし、とても冷たそうだ。

 どうやってこの川を渡れと言うのだろう?

もうあの森へ後戻りするのも嫌だ。いろいろ考えてみたけど舟を作るしかなさそうだ。

ぼくは、使えそうな大きな木ぎれや丸太を探してきて舟を作ることにした。

どうにか、できあがったのは舟というより、いかだ?いやそれほどいい物じゃない。丸木舟のような木の塊だ。

でも、それでなんとか水の上を浮かぶことができ、櫓をつくってこぎ出すこともできた。

図鑑で見た原始人の航海を思い出した。

舟を漕ぐのは初めての経験、櫓をこいで前に進もうとするけど、あんがい難しいや。

あれれ、ゆれる、ゆれる。ぶきっちょに櫓をあやつりながら必死にもがいていると、だんだん馴れてきた。

どうにか進めるぞ。よしよし、うまいぞ!

慣れれば、舟を乗るのも簡単さ。

「ふー、やっと着いたぞ。」

向こう岸からは、こちらの様子はよく見えなかったけど。

驚いたことに、こっちは、白夜というのを聞いたことがあるけど、こんな感じなんだろうか。空全体が白く輝いてるようだ。

   BLR、BLR、BLR

静かでなだらかな平原のあちこちに大きな樹が何本も生えている。なんだかはじめてなのに懐かしい気がする。

その中の一本の樹の下でぼくは、腰をおろし少し体を休めることにした。

なんて、大きくて立派な樹なんだ。この樹は、ぼくの生まれるずっとずっと前からここに立っていたんだろうな。ぼくのように何人もの人がこの樹の根本に座って休んでいったんだろうな。優しくて大きな樹。

 人は、何度も生まれかわりここを通っていった、でもこの樹はいつもここにいて人々を見守ってきたんだろうな。

 ぼくのようにBLRを探してきた人もいるのだろうか。BLRを求めてたどり着いた大きな樹のある平原。

でもBLRってなんなんだろう。

BLRを探しに行く。行かない人もいる。BLRの事を知らない人もいた。

BLRを探しに暗闇を歩いた。怖かった。自分の影におびえて。恐ろしい動物に襲われ、いつもはなんでもない森とか、ぼくの周りにあるものまでが襲ってきた。そんなにBLRを探すのは難しいの?みんなで邪魔してるみたいじゃないか。

どうかすると足をはずしそうになるほど細い道を歩き、そこから先は舟に乗らなければならなかった。あれからどれくらいの時間が経ったんだろう。おそらく数時間か?でももう何年も旅をしているみたいだ。

なんだか、すこし眠くなってきたな。うん?あれ?あの枝に明かりがついてるぞ、ぼくは今、目にしていることが、夢か現実化か幻かわからなくなっていた。

いったいなんの明かりだろう。じっと目をこらすとそれは、まるで花が咲くよう枝に結ばれている小さな青い光の輪だった。

不思議な青い光だった。その光をぼおーっと眺めていると、とても幸せな気がして心が満たされた。青い、ブルー。光、ライト。結ばれている、リング…

「あー、ブルーライトリング、BLRだ。」ぼくはこの時、気がついた。

「そうだよ、ペドリートよくここまで来たね。あれが君のBLRだよ。」

だれかの声がした。その声の方向に顔を向けると、ぼくの頭の上、枝に腰掛けた子供がいた。女の子にみえるけど驚いたのはぼくそっくりの姿をしていたからだ。

「わたしは、アルマ。ペドリートえらいよ、きみは。この樹にたどり着くなんて滅多にできないんだから。これが私たちの樹さ。」

私たちの樹ってなんだろう。「どういう意味?」

「私たちは一番最初、この樹から生まれたんだよ。そして私はここにいて。君は知ってのとおり、ペドリートとして生活していたんだ。そして私たちとこの樹を結ぶ輪がBLRなんだ。」

「いいかい、ペドリート。人は来たところに戻らないといけない。でも一人では戻れないだ。結ぶ光の輪が必要なんだよ。」

「でも、どうして、戻らないといけないの?」

「おや、君は故郷へ戻りたくはないの?君は永い旅に出かけ、いろいろな経験をし、どんな闇の中でも光を持つことができたんだよ。見てごらんこの樹、輝いてるだろう。」

ほんとだー。どうして今まで気づかなかったんだろう。いつの間にか樹自体が輝きをはなちぼくの体を照らしていた。

「私たちはこの光とともに生きてるんだよ。この樹の光といつでもつながっているんだよ。この自由に気づかない?だって闇の中でも困らないんだよ。きみは、ここに来るまで暗闇の中を大変だったじゃないか。」

光は暗闇の中でこそ輝く、あの暗闇の中を歩いたからこそ、光を見つけることができたんだ。

人工の灯りに満足して本当の光を探そうとしない人がいる。常に太陽の下に、光の下にいて、光の存在を意識できない人もいる。光の存在さえ知らない人もいる。ぼくは闇に生きることの淋しさ悲しさを理解し、本当の光りの力にふれた時、言い表すことの出来ない感動と感謝のために頬をつたう涙をぬぐう事も忘れていた。

「ありがとう、アルマ。こんな気持ち初めてだ。でもBLRのこと知らない人たくさんいるんだ。ぼくはこれから帰ってみんなにもこのこと教えてくるよ。みんなに伝えなきゃ。みんなが自分のBLRを探し、光に触れられるように。そしたら、世界も光に溢れるね。世界が変わるんだ素晴らしい!」

アルマはただにっこりと微笑み「私たちはいつでも一緒だよ」と言って、ぼくを送り出してくれた。

 

 気がつくとおじいちゃんの家に向かう途中の森の前にいた。今までの冒険は幻だったんだろうか?

 「私たちはいつでも一緒だよ」夢でも幻でもない。たしかにアルマの声がした。

もう、朝日も昇ってきた。こんなに太陽が大きくあたたかに感じるなんて。いつまでも光が心にそそぎ込んでるような気がする。世界はなんて美しいんだろう。

また、いつもの朝を迎え、いつもの生活がはじまるのだろう。でも、昨日までのぼくとは違うんだ。だって君も知ってるでしょう? BLR。

                             おわり