ホワイトやデー

 

「ケンちゃん、これあげる。」

「なんや、これチョコやないか?ワイ、チョコ食わんのチエ知ってるやろ。ワイはプロ野球スナックしか食わへん。ワイも田淵みたいな、ホームランバッターになるんや。」

「でも、今日、バレンタインデーやから。」

 

チエちゃんはドキドキしながら、けんちゃんにチョコを渡そうと必死でした。

「バレたらええで。なんやそれ?なにがばれたらええんや。ばらえたらやばいやろ。

チエ、今日どっか変やで。一緒にあそんでてもおかしいわ。何、かんがえてるんや。」

「いいの、ケンちゃん。これもらって。」

チエちゃんは、強引にケンちゃんの手にチョコを渡して走っていきました。

 

ケンちゃんとチエちゃんは、いとこ同士。お母さん同士が姉妹なのです。そして、家も近いことから、よく二人で遊びました。

ケンちゃんは、チエちゃんより2歳年上の小学校4年生です。

 

チエちゃんは、いつも面倒をみてくれる、頼りになるケンちゃんが大好きでした。

そして、バレンタインデーの日に、お菓子屋で買った小さなチロルチョコレートにたどたどしい字で、

  ケンちゃん、おおきくなったら、チエをおよめさんにしてね。

と書いて渡しました。チエちゃんにとっては、精一杯の好意なのです。

 

でも、ケンちゃんは、訳がわかっていません。

その後、チエちゃんは、お父さんの仕事の関係で隣町へ引越した為、ケンちゃんとも会っていません。

 

それから、1ヶ月が経ち。

 

「おーい、チエいるかー?」

ケンちゃんでした。チエちゃんの新しい家にケンちゃんが遊びにきました。

「今日は、ホワイトやで。チョコのお返しする日なんや。ホワイトゆうたら白いう意味や。

 チエこれあげるわ。」

ケンちゃんの手には、頭くらいの穴の空いた純白のレースのカーテンが握られていました。

「これは、ウエジンドレスや。チエ、ワイのお嫁さんにして欲しい、言うてたやろ。これ、お嫁さんが着るんやで。ちょっと着てみ。」

チエちゃんは、それを、真中の穴からすっぽりかぶりました。

なんだか、オバQみたいと思ったけど、びっくりしたのと嬉しさとで、泣いてしまいました。だって、初めてのホワイトデーに大好きなケンちゃんから、ウエディングドレスを貰ったんですから。

 

 

「チエコ。どないしたんや?ぼーとして。」

「ああ、秀一さん。何でもないの。ちょっと昔のこと思い出してたん。おかしな従兄弟のお兄ちゃんのこと。ホワイトデーになると思い出すの。」

 

あれから、随分と歳月もながれ、チエコも結婚し10年が過ぎた。

今では、秀一という、優しい夫にめぐり合い幸せに暮らしている。

従兄弟のケンジは、あの日の約束もどこかへ、高校を卒業した後、ギターを作りにスペインへ留学した。今では、腕のいいギター職人となりスペインで一人暮らしている。

 

「はい、チエコ、今年のホワイトデー。プレゼントや。」

秀一の手には、真っ白な置物の像が握られていた。

秀一は、毎年、ホワイトデーには、白いプレゼントを贈ることにしている。

理由はわからないが、チエコが喜ぶからである。

 

「ありがとう。いつもの白いプレゼントね・・・・。

 そう、今年もホワイトやね。秀一さん。」

チエコはニッコリ微笑んだ。

「うん。ホワイトやデ。チエコ」