<前書き> ・この作品はネギまのキャラのイメージを崩す恐れがあります。ご了承下さい。 ・この作品は他の作品に酷似している点があります、許してやってください。 ・この作品は作者の処女作です、文章力のなさに言及しないでやってください。 ・評判が悪かった場合は休止します(私よりも有望な作者氏が多々いるため)。 ・この作品は葉鍵ロワにインスパイアされて書いた作品です。 ・お楽しみいただけたら光栄です。 <研修旅行〜その一〜> 「早速カラオケ行くよ〜」 「こらこら、いきなり脱線しない」 釘宮円(出席番号11番)はいつもの二人と共に街に出ていた。 「今日は研修旅行で着る服を見に来たんでしょう?海が近いから水着を着る機会があるかもしれないし…」 研修旅行にいけるのは一クラスだけだった。私たちのクラスである3−Aがたまたま選ばれたのだ。しかも、急に決まったみたいで明日には出発。 もちろん、クラスで旅行に行けるのは嬉しいのだけれど、 (麻帆良学園に研修旅行なんてイベントあったっけ?) なにしろ、情報通の朝倉和美(出席番号3番)ですら知らなかったみたい。 「ねえ、美砂。……っていない?」 周りを見渡すと、 「ロイヤルクレープ二丁〜」 「私はチョコクレープで」 「って、いつもの様にいないし!」 椎名桜子(出席番号1番)と柿崎美砂は(出席番号7番)普通にクレープを注文していた。なんとも華麗なスルーっぷりである。 「円がボーとしてるから置いていかれるのよ」 今回ばかりは美砂の言い分が正しい。 「くぎみんはロイヤルクレープでいいよね?」 「…うん、ありがと」 「ゴーヤクレープとどっちにしようか迷ったんだけど」 「…………」 桜子の買ってくれたクレープを一口かじる。 (まあ、深く考えたってしょうがないしね) 気にしたってしょうがない。 一抹の不安は円の頭から抜けていった。 <研修旅行〜その二〜> 「海かぁ〜。えへへ」 佐々木まき絵(出席番号16番)ははっしゃいでいた。 「リゾート地だから、砂浜もきれいなんだろうなー」 一人、勝手に妄想を膨らましていく。 「一応言っておくけど遊びに行くわけじゃないんだよ、研修旅行は勉強の一環」 長い黒髪を梳かしながら大河内アキラ(出席番号6番)は言った。 「でも、リゾート地なんかでなにするん?研修旅行って体験学習とかあるんやろ?」 流暢な関西弁で和泉亜子(出席番号5番)は誰にというわけもなく質問した。 「確かによくわからないことが多いよね。朝倉でさえも研修旅行について知らなかったんだから。でも、行けるに越したことはないんじゃない?学園にいるよりは楽しそーだしね」 髪をタオルで拭きながら明石裕奈(出席番号2番)は答えた。 確かに楽しいことには違いない。今日の朝、ネギ君はとても嬉しそうに研修旅行のことを伝えた。そう、何一つとして“心配すること”などないのだ。 「私、ビーチボール持っていくよ。ネギ君たちと浜辺で遊ぶんだ。」 また、声を弾ませあわただしく動き出すまき絵。 「まき絵。持っていくのは別にいいけど、帰りの荷物が入らなくなったからといって私の鞄の中にまき絵の服入れようとするのは禁止ね」 誰が見ても、まき絵の鞄はもう荷物が入らないくらいに膨れている。 「だって」 「まあ、アキラが心配するのもしょうがないよ。だって、まき絵、おみあげたくさん買うんだもん」 「京都の時も、大変やったしね。まき絵のおみやげ、お菓子ばっかし!しかも、ほとんど一人で食べちゃうんやもん」 三人は声を上げて笑った。 「ううっ、ひどいよ、もう。ビーチボールするとき入れてあげないんだから!」 もちろん、このときのまき絵は知るはずもない。 この膨れた鞄の荷物が一つたりとも使われないことを…。 <研修旅行〜その三〜> 宮崎のどか(出席番号27番)は眠れずにいた。 「のどか、眠れないのですか?」 綾瀬夕映(出席番号4番)が独り言を言うように呟く。 「うん、なんだか緊張しちゃって」 「ネギ先生のこと、ですか?」 のどかの顔が見る見るうちに赤くなっていく。 「楽しい思い出ができるといいです。いえ、ネギ先生と3−Aのみんなが一緒ならきっと楽しい思い出ができるです。」 「……うん」 「…zzz」 二人が小声で話している中、早乙女ハルナ(出席番号14番)は熟睡もとい爆睡していた。 ハルナの方に目をやり夕映が話を切る。 「私たちも寝ましょう。明日も早起きしなくてはいけませんです」 そして、静寂が訪れた。 のどかは再び目を閉じる。 (……ネギ先生……おやすみなさい) そして深い眠りについた。 <出発前> 「マスター、乗らないのですか?」 「…………」 絡繰茶々丸(出席番号10番)の疑問にエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(出席番号26番)は答えなかった。 今日は研修旅行の当日。目の前にはバスが止まっている。乗車していないのはこの二人だけだ。 (またじじいがはんこを押しているのか?あのじじいが献身的になるとは思えんがな) ここだけの話、京都の時は手を使いすぎて炎症を起こしていたそうだ。 まあ、いい気味だが。 昨日、私の家にじじいの使いが尋ねてきた。私はじじいの私用だと思っていたので茶々丸に対応を任せていた。 「……マスター」 「んで、何の用だったんだ?どうせ、ろくなことではないと思うが」 「研修旅行の件です」 ……研修旅行?そういえば、ぼーやがそんな話をしていたな。 茶々丸が続けて話す。 「学園長から、出席するように、ということです」 「ふん……言うことを聞かないといろいろとめんどくさいからな。茶々丸、行き先はどこだ?」 特に興味はないが一応、聞いてみる。 「海のあるリゾート地だそうですが、くわしいことは聞いていません」 「どこに行くのか具体的に言ってないのか?」 「はい、すいませんマスター……」 茶々丸は申し訳なさそうに頭を下げる。 「お前には非はない。……じじいめ。何を考えているんだ?」 その後、茶々丸に連絡を取るように電話させたが、じじいは留守のようだ。 自分から尋ねるのも癪にさわるので気にせずに出席することにした。 「…………」 エヴァが難しい顔をしていると、また茶々丸が話しかけてくる。 「マスター、そんなに気にすることはないと思いますが……」 「べ、別に気になどしていない」 「このクラスに何かが起きても、これだけの人が集まっているので何も心配ないかと……」 ……確かに。私以外にも神楽坂明日菜(出席番号8番)や桜咲刹那(出席番号15番)、ぼーやなどの能力者がいるため、このクラスは高い自己解決能力を持っている。 「ふ、そうだな」 エヴァはくだらないことを考えていた自分に後悔しつつ目の前のバスに乗った。 <隠蔽> バスの中でクラスのみんなが騒いでいる中、朝倉はひとりで考え込んでいた。 ……何一つとして研修旅行の情報を掴めなかった。 (なぜ、わざわざ研修旅行の存在を隠す必要がある。驚かすため?いや、そんな安易なことじゃないと思う。では、なぜ?) なにしろ情報がほとんど入ってこなかったのだから考えたところでわかるはずもない。 昨日からあらゆる手段を用いて研修旅行について調べた。しかし、インタビューでは誰一人として知らなかったし、ネットにも手がかりとなるものがなかった。もちろん行事予定表にも載っていない。研修旅行なんて行事はないのでは……、しかし研修旅行は始まっている。 目の前にスクープがあるのに、何もできないことは“麻帆良のパパラッチ”と呼ばれる彼女にとって苦痛でしかなかった。 「朝倉さん、何をしていますの?ぼーとして。らしくありませんわよ」 隣に座っていた雪広あやか(出席番号29番)が話しかけてくる。彼女はこのクラスの委員長である。 「研修旅行のことについて、ね」 「わからないことについて考えても意味はないですわ」 いいんちょにもすでにインタビューしており、研修旅行について何も知らないということを朝倉は知っていた。 「割り切ってるねぇいいんちょは、でもスクープが目の前にあるのに諦めるような朝倉和美じゃないんでね。絶対に尻尾をつかんでやる、学園報道部として」 「でも、研修旅行は始まってますわ」 「うっ、いいんちょは手厳しいな。」 「出席番号17番、椎名桜子。歌いまーすッ!」 バスの中での楽しい時間は過ぎていく。 <退場者> 3−A一同のテンションは空港に着いてからも変わらなかった。 「うわ〜、ほんとに飛んでる〜」 「うん、飛んでるね」 鳴滝風香(出席番号22番)と鳴滝史伽(出席番号23番)は空を飛んでいる飛行機を見てご満悦だ。 (飛行機が飛ぶのくらい当たり前だろ!小学生か、お前らは) 長谷川千雨(出席番号25番)は心の中でツッコミを決める。 「やっぱり飛行機ってすごいわー」 近衛木乃香(出席番号13番)は頷くように言う。 「そう言えば、ネギはウェールズから飛行機で来たのよね?」 「そうですよ、アスナさん」 「なんか魔法でぱぱっと移動できる方法とかないの?」 「僕にはそんな上級魔法は使えません」 (魔法使い飛行機で日本に来るって、なんかイメージわかないわね) 「アスナー、いんちょ来たよ。魔法の話はせんほうがええよー」 木乃香が会話に水を差す。 「アスナさん!何ネギ先生と内緒話してますの?」 「研修旅行の話よ、ねえ、ネギ」 「そ、そうですよ。いいんちょさん」 あやかはなんとなくごまかされた気がした。 皆が研修旅行にさまざまな思いを持つ中、超 鈴音(出席番号19番)一人倉庫の近くで、佇んでいた。 「超、どうしたアルか?」 友人である古菲(出席番号12番)が話しかけてくる。 「超、なんだかいつもより楽しそうアル!」 「…………」 一瞬の時の凍結。 超は笑顔で答えた。 「研修旅行、ほんとに楽しみネ」 古菲は超の笑顔を見て安心した。……したはずだった。だけど、なぜだか震えが止まらない。 ―――寒い、寒い、サムイ、寒い、狂気、寒い、寒い、錯乱、さむい、怖い、寒い―― 勝手に体が震える。 目の前の超がこの震えの原因であることは嫌でもわかる。 古菲はおぼつかない足では超から離れようとするが、 「古、私の狂気に気づいちゃったネ。……ふふふ」 ―――逃ゲラレナイ? ―――――― 古菲は超を見ていた。いや、目を離すことができなかった。 足の指一つ動かない。 足の指一つ動かない。 目ノ前ニイルノハ本当ニ超カ? 超は優しく微笑んで宣告した。 「しょうがない……、古菲には早めに“退場”してもらうネ」 「……え?」 痛み、音すらない。 古菲は頭を撃ちぬかれて絶命した。 超は銃口からまだ熱くなっているサイレンサーPP7を懐にしまう。 そして、おもむろに携帯を取り出した。 「…………ああ、……処理しといてナ、………………しょうがないヨ」 ピッ。 「もう、我慢できないヨ」 ―――早ク惨劇ヲ始メタイ。 超はさっきまで溢れ出ていた狂気を押さえ込み3−Aの輪へ戻っていった。 親友であった古菲の亡骸を見ることなく。 【古菲 死亡 残り29人】 【超 すでにサイレンサーPP7所持】 <地獄への道> 「それではみなさん、昨日クラスで決めた席に座ってくださーい」 ネギが先生らしく指示を出す。飛行機は貸切で3−A以外の客はいない。 「ネギ坊主。古がいないでござるよ」 古菲の隣の席にいる長瀬楓(出席番号20番)がおもむろに言った。 もちろん、古菲が“この世”にいないことを超以外は知らない。 「あのー」 女のフライトアテンダントがネギに話しかける。 「古菲様とは黄色い髪で、褐色肌のお方でしょうか?」 「えっ、何で知ってるんですか?」 「いえ、そのお方が荷物を取りにいきたいとの連絡があったので、今は警備員とともに倉庫にいるかと」 「はい、わかりました」 ネギは楓にこのことを説明した。 ふと、アナウンスがかかる。 「皆様、本日は○○航空をご利用いただきまして誠にありがとうございます。この便はグアム行きでございます」 クラス内が盛り上がる。 「グアムなんか初めてだよ、ちづ姉」 村上夏美(出席番号28番)は素直に喜んでいる。それを見ていた那波千鶴は「あらあら」といつもの調子だった。 「まもなく出発いたしますので、シートベルトをしっかりお締めください」 「マスター、シートベルトくらい締めて下さい」 「わ、わかっている!」 「飛行時間は四時間半を予定しております。」 アナウンスの声のトーンが落ちる。 「では、“死出”の旅をお楽しみください」 飛行機内が騒がしかったためほとんどの人には聞こえていなかった。しかし、龍宮真名(出席番号18番)には確かに死出の旅と聞こえていた。 シートベルトを外そうとするが外れない。 「くっ!」 ガタン!     シュー 離陸とともに機内に甘い匂いが漂ってきた。 (催眠ガスか!) 一瞬でクラスのほとんどの人間が深い眠りについてしまっている。 (刹那は起きているのか?) 声を上げればガスが口から入ってくるため、確認すらできない。 龍宮は懐から銃を取り出し、留め金に躊躇なく打った。 キィン!! (な、……レジスト……された?) そこで、龍宮の意識は途絶えた。 静けさに包まれた機内。そこで一人、茶々丸は何もできずにいた。 「シートベルト解除不能。何か魔法の力がかかっている模様」 「室内、催眠ガス充満」 すると、いくらかの人が機内に入ってくる。ガスマスクをつけているために顔がわからない。茶々丸に近づいてくる人が三人、他の人間は機内の点検を行っている。 「…………」 誰かが茶々丸の右胸のスイッチを押した。 「機能……停止……」 これで、3−Aの中で活動できるものはいなくなった。 飛行機は本当の目的地へ飛行を続ける。 【残り29人】 <背信者> 「…………そうか、……わかった」 男は電話を切った。 男がいるのは麻帆良中等部の校長室。目の前には、教員であるタカミチ・T・高畑がいる。 「どうゆうつもりだい?」 タカミチは殺気のこもった目で男を見つめる。 「だから言ったでしょう?ただのお金儲けですよ。……そんなに怒らないで下さいよ、つい“間違い”が起こったら大変でしょう?」 男は仮面をしていた。わずかながら魔力を感じる。指先には何かのスイッチ。男が言うには麻帆良中等部のクラスに爆弾を仕掛けたらしい。 「だいたい、君の正体は掴めているよ。3−Aを外へ連れ出したのも君だね?」 「その通りです。3−Aには高い価値がありますからね。あー、そうそう、僕のことをむやみに話さないことですね。そんなことをすると高畑先生にも“退場”してもらわなくなりますからね」 仮面の男はククク、と微笑した。 タカミチは仮面の男を睨みつける。 タカミチの後ろにはさっきまで学園長であったもの。学園長は奴に自殺するように促された、断れば爆弾を爆破する。 ……最後まで教師の鏡であった。 ノックがしてから部下らしき男が入ってくる。 「ヘリの準備ができました」 「わかった。すぐ行く」 「3−Aのみんなをどこに連れて行ったんだ」 仮面の男はスイッチを部下に渡し、出口のドアを開けた。 「それは秘密です。秘密ってなんともいい響きですね。なんか優越感に浸れます」 仮面の男はドアを閉める前に一言残した。 「ヒントをあげましょう。 彼女達はただゲームに参加するだけですよ。そう、ただコロシアウダケ…………、ふふふ、ふはははははは!! あなたは元教え子が殺しあう姿をここでゆるりと見ててください!ははははは」 絶望の淵にいるタカミチを残して仮面の男は去って行った。 【残り29人】 <ジェノサイド〜ルール〜> 「…………うぅん、あれ?」 桜子は目を覚ました。 (私達って飛行機の中にいたんじゃなかったっけ?) どう見ても飛行機の中ではない。どこかの集会場のようだ。 なんだか体中がズキズキする。 桜子は体の痛みとは別の違和感に気付いた。 「何この腕輪!センスないよ。これ」 外そうとするが、ピッタリくっついていて外れない。 腕輪のことは一旦諦めてまた周りを見渡す。起きているのは私だけのようだ。 「くぎみん!くぎみん!」 隣にいた円を起こそうとした、するとこの部屋の唯一のドアが開いた。 出てきたのは、明細柄を着ていてまるで兵士のような格好の男二人と、ダンディな外国のおじさんだった。 「ふむ、起きたまえ、お嬢さん達」 おじさんが話始めるとみんなが起き始めた。誰一人として状況を把握していないみたいだ。 「うむ、起きたかい?」 あのおじさんを見て驚く人が何人書いた。その中の一人である神楽坂明日菜が、 「な、なんでエロジジイ、あんたがいるのよ!」 「ふははは、相変わらず元気なお嬢さんだ」 アスナとあのおじさんは知り合いみたいだ。 「私はヴィルヘルムヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。以後、お見知りおきを。私がなぜ消えていないか、だったかね。本当はあのまましばらく消える予定だったのだが、あの近くにいた者に呼び出されてしまってね。また、仕事を頼まれた訳だよ」 ヘルマンが続けて話す。 「では本題に入ろう。 お嬢さん達にはこれからあるゲームをしてもらうよ。 ゲーム名はジェノサイド(大量殺戮)。簡単に言えば、一人になるまで殺し合ってもらう」 「へっ?」 桜子は思う。あのおじさんは何を言っているのだろう、意味がよくわからない、 ――――――イミガヨクワカラナイヨ。 クラス内で殺し合う?例えば、隣の円と殺し合う? ありえない、そんなこと。なぜ?どうして? すると、あやかが立ち上がり質問する。 「すいません、言っている意味がよくわかりませんわ。どうして研修……」 パァン 乾いた音が響いた。目の前にいた男が天上に銃を発砲したのだ。 驚いたあやかはまばたきもせずにその場に尻餅をついてしまった。 その後は音一つしない。まるですべてが凍り付いてしまったように……。 「お嬢さん達に失礼だよ。君」 「はっ、すいません」 男は銃を懐に入れる。 「ルール説明が終わった後に質問の時間を設けよう。それでいいかい?」 あやかは全身を震わせながら首を縦に振る。 「では、続けよう。これから、一人になるまで殺し合ってもらう。その前に残念なお知らせをしなければならない。出席番号12番の古菲君が参加できなくなった。なにしろ、先に逝ってしまったものでね」 ……逝った。どこに? ……少なくともこの世にはいないってこと? 「大丈夫。君たちも不運な飛行機事故に巻き込まれ死んだことになっているから、死後のことは安心してくれたまえ」 理性が壊れていく。 そうだ、これは夢。悪い夢を見ているんだ。 (あは、あはははははは) 「桜子。しっかりして!」 「円、これって夢なんだよね?だって、昨日まで普通に暮らしてた私達がこんなことに巻き込まれるわけないもんね?あは、あははは〜」 「そこのお嬢さん、静かにしてくれ」 桜子は静かにする。静かにしなければ死ぬ、死ぬのはいやだから静かにする。 この世界では“現実逃避”すら許されない。 「生き残ったものを優勝者とし元の生活に戻れるよ」 ……戻れる?3−Aのみんなはいないのに?元の生活になんか戻れるはずないじゃん。 「いま君たちは無人島にいる。この島の地図は後で支給されるリュックに入っているので確認してくれたまえ この島は洞窟、医療施設、学校、高層建築物などいろいろものがある。探索すれば何かいいものがあるかもしれんよ」 ヘルマンは紙を見ながら話し続ける。 「お嬢さん達も気付いているだろうが、右手に腕輪が付いているだろう?むやみに衝撃を与えてはいけないよ。それ、爆発するのでね。腕がなくなってもいい人はそこに付いているスイッチを押してくれ」 ……腕がなくなったら、結局出血多量で死んじゃうから意味ないよ。 「あとこの島から離れようとしたり、この施設の1km以内に近づくと爆発するので、泳いで脱出する、特攻する等の無茶はしないように」 説明口調で話し続ける。 「この腕輪は軍事開発の試作品で特殊な能力がある。人を殺せばそれを実感できるだろう。 五人以上殺せば勝利者としてゲームから開放してあげよう。とにかく、誰かを殺せば自分にとって有利になるわけだよ。 死んだ人は定刻放送できっちり呼び出すから安心してくれたまえ」 桜子は周りを見渡す。 ……円や美砂は信じられるが、他の人はどうだろうか? 刹那ちゃんやエバちゃんは今にも、おじさんに襲いかかろうかという目をしている。 ……わたしにもあんな目をむけるのだろうか。 「このクラスには、非人間的な能力を持つものがいるだろうが、放出系のものを使うと腕輪が反応してしまうので控えてもらいたい」 おじさんが言っていることの意味がよくわからなかった、多大な不明情報が入りこみ脳もまともに作動していない。 放出系、手から炎でも出すのだろうか?そんなのは手品であって、仕掛けがなければできないに決まっている。 クラスのいくらかの人がなにか言いたそうな顔でヘンマンを睨みつけている。 「最後にリュックの件だが、リュックの中には地図と食料のほかに武器や役立つものが入っている。まあ当たりはずれがあるのではずれだった人は運命だと思ってくれ。お嬢さん達の荷物は、帰れるまで私が預かっておこう。 では、お嬢さん達の健闘を祈る」 悲劇の幕開けは桜子にも、誰にも止められない。 【残り29人】 <ネギ喪失> 「おっと、質問の時間をとるのを忘れてしまいそうだったよ。なにか質問はあるかい?お嬢さん達?」 ヘルマンがクラスのみんなに話しかける。 (ネギ先生は何処に?) 綾瀬夕映は質問しようとしたが、いち早く手を上げた人がいた。 私の親友である宮崎のどかだ。 「あ、あの!」 「なんだい、お嬢さん?」 皆がのどかの行動に驚く。 ヘルマンが含みを持った笑みでのどかに顔を向ける。 「ネギ先生は、どこにいるんですか?」 クラス内が一斉にのどかを見る。 ヘルマンははっはっは、と高笑いをしこう答えた。 「ネギ君は生きているよ」 どこからか安堵の声がこぼれてくる。 ガラッ 唯一の出入り口がおもむろに開いた。 入ってきたのは兵士のような服を着た男に連れられたネギだった。 なぜ? 夕映はネギを見て別人ではないかと思ってしまった。 目の前にいるのは確かにネギ・スプリングフィールドである。しかし、“ネギ先生”ではないような気がする。 彼を見てもまったく安心感がわかない。 これではしっかりした普通の十歳の少年と変わらない。 そんな印象だった。 ヘルマンはネギを見た。 「ネギ君、自己紹介してくれ」 ネギが珍しいものを見るような目で周りを見渡す。 「初めまして。ネギ・スプリングフィールドです」 佐々木まき絵が思わずネギに話しかける。 「何言ってるの、ネギ君?ネギ君は私達の先生でしょう?」 ネギは心底困った顔をした。 「な、僕は十歳ですよ?先生なんてしている訳ないじゃないですか」 誰もがあっけに取られている。 「自己紹介は終わったかな?」 ヘルマンの指示で兵士のような男はネギを連れて外へ出た。 教室内がまた音一つ無くなる。 「ネギ君の記憶は私が消した。依頼主は存在を消せと言っていたが、なんせ十歳の子を手にかけるのは大人気ないと思ってね。 他に質問はあるかい?」 クラスの内でいまだ平静を保っている人が少ないのは夕映が見ても明らかだ。 あやかは明らかに無理をしているし、亜子やまき絵は今にも泣きそうな目をしている。のどかにいたっては、意識がないかのような無表情になってしまった。 「質問はないみたいだね。では、始めようか」 兵士のような男が多数入ってくる。 これにて、ジェノサイドという殺戮ゲームが開幕した。 【残り29人】 <思考> 明石裕奈は人より早めに“配置”された。 もちろん、こんなゲームには乗る気はないが、もし誰かに襲われたらそのまま殺されるほどお人よしではない。だから、武器が必要だった。できれば、銃器……。 しかし、でてきたのは武器リストとデッキブラシだった。攻撃力で言えばはずれだ。 道具がはずれたのであまり動かないほうがいいと裕奈は思い、近くの岩陰に身を潜めた。 今後の方針について考えてみる。 まず信頼できる仲間を集めたい。信頼できそうな人なら誰でもよいが欲をいえば、アキラ、亜子、まき絵と合流したい。 ―――――誰ガ信頼デキルトイウノカ? あと、この腕輪を外す方法を考えなければならない。私には外す方法一つ見つからないから、やはり誰かと合流することは必須だ。腕輪の効果も知りたいところだ。腕輪が効果を発揮するには確か…………。 ―――――誰カヲ殺セバイイ。 「……うるさい」 頭の中の雑音を消すために、裕奈は武器リストを取り出した。危険なものを頭の中に入れておくことにするする。 武器にはバスケットボールやリボン、割り箸などのはずれ。ロケットランチャーやモスバーグ500(散弾銃)、ダブルデリンジャー、腕輪探索機などの当たりがあった。 (なるほど……) 武器リストを見ることに集中していたらしい。また、クラス内には積極的に人を殺す人はいないという甘い考えを裕奈は持っていた。 そのため、静かに近づいてきた者に気付くのが遅れてしまった。 ガザッ!! 「誰!」 裕奈が声を上げると草むらからグロッグG25(銃器)を持った村上夏美が現れた。 【残り29人】 【裕奈、武器リスト、デッキブラシ所持】 【夏美、グロッグG25所持】 <禁止> エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは海岸沿いを歩いていた。海岸沿いは障害物が何もなく格好の的となるが、エヴァは気にせずに歩いていた。 今、私は非常に機嫌が悪い。 あのヘルマンとかいったデーモンにも腹が立つが、このくだらないゲームを発案した奴をすぐにでも殺したい。 普通に考えればじじいの仕業だが、本当に黒幕はじじいか?孫の近衛木乃香まで巻き込むほど利があるというのか? 今のエヴァの能力は人並みだ。銃で撃たれれば死ぬ。 魔法も放出系統は使えば右腕が爆破する。しかし、度が過ぎなければ放出系以外の魔法は使えるということだ(いくらか魔力が制御されているが)。 リュックが重いので、武器:遠距離用狙撃ライフルを適当な場所に捨て海岸沿いを歩いていく。 砂浜にエヴァの足跡が残ることはない。 【残り29人】 【エヴァ、遠距離用狙撃ライフル放置】 <murderer> 超鈴音は島の中心付近にいた。 武器はハンドグレネード(手榴弾)、S&W 60(リボルバー式)、対腕輪探知機、スコーピオン(マシンガン)、手持ちのサイレンサーPP7、さらには“秘密兵器”なるものを所有している。 これだけの武器を持っているのは私だけだと断言できる。なにしろ、このゲームは私に有利に働くよう八百長が為されているからだ。 私はJOKERである。 JOKERとはこの殺人ゲームを円滑に進めるために用意されたサクラにあたる。クラスメイトを殺すことによって、参加者を疑心暗鬼にさせるのだ。 私はJOKERをするかわりに、ゲーム終了後には自分の研究所と研究の全面的支援が約束されている。 「後戻りは……できないヨ」 さあ、JOKERとして狩りを始めよう。 生きるために狩りは必要なことである、肉食獣が草食動物を殺すように。これが自然の理だ。 腕輪探知機に目を落とし、近くに獲物がいることを確認した。 殺人鬼は静かに笑う、その顔は肉食獣そのものだった。 【残り29人】 【超、ハンドグレネード、S&W 60、対腕輪探知機、スコーピオン、サイレンサーPP7、???所持】 <再会と疑問> 朝倉和美は岩場の頂上にいた。 ここからだと、放送局や百貨店、灯台などの位置がはっきりわかる。配られた地図との位置関係もおなじだ。この地図は使えるものである。 「さてと」 朝倉は懐から隠しておいたパーソナルモバイツールを取り出した。何とか没収されなかった彼女の情報源の一つだ。 ネットがつながるか確認する。 「なるほど、つながるのか」 つまり、ここは無線LANがつながる場所のようだ。 ネットが使えることは朝倉にとってかなり大きい。 本当は救援を求めたいのだが、完全に“シロ”である人が誰であるかわからなかった。 「とりあえず、ジェノサイドについで調べるかな……」 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。 「朝倉さーん」 声は幽霊生徒、相沢さよ(出席番号1番)のものだった。 「な、なんであんたがいるの?」 「わからないです。気付いたらここに……」 さよは麻帆良の敷地から遠くに行くことはできないはずだ。でも、今ここにいる。そして、私の無線LANがつながるということは? (ここは日本で、麻帆良の土地?携帯は多分、何らかの方法で妨害されている?ということは私のパーソナルモバイルツールは一つのイレギュラー?) また、朝倉が一人で考え込んでいるとさよが楽しそうに話しかけてくる。 「朝倉さん、何をしているんですか?これが研修旅行なのですか?」 朝倉は空気の読めないのさよを睨みつけた。 「あ……、ご、ごめんなさい!」 「さよちゃん、いま私達がしていることは……」 朝倉はさよにこのゲームの概要を説明した。 「そ、そんな……、殺し合いなんてダメです!死んだらみんな幽霊になっちゃうんですよ!」 「いや、あんたみたいになることはないと思うけど……」 そして、さよに私はこのゲームを止めたいことを話した。 「朝倉さん。私、何もできないかもしれないですけど、朝倉さんに協力したいです!」 「わかった。じゃあ、ちょっとここら辺の見回りしてくれないかな?私は調べたいことがあるから」 「わかりました、朝倉さん!」 さよは力強く返事すると岩をすり抜けていった。 (最初に会うのが幽霊とはね。幸か不幸か……) 【残り29人】 【朝倉、パーソナルモバイルツール、???所持】 【さよ、所持品なし】 <はずれ> このゲームでの心の持ちようはゲームに乗る、乗らないの二つである。しかし、どっちにも当てはまらない者もいた。 柿崎美砂がそれである。 「海がきれいだな」 美砂はあることを決めていた。武器が当たりならゲームに乗る、乗らないは別として生き残ろうとする。はずれなら、…………。 配られた武器は“はさみ”だった。何処からどう見てもはずれである。さらには、スタートが崖の近くであった。 運命とはこんなものである。 「円、桜子、ごめんね」 親友に謝る。そうすることで自分から絶つことの罪が軽くなるような気がした。 「さてと」 一歩前に進む。この先に足場はない。 「ごめんね、…………」 最後に彼氏であった人の名前を呼ぶと、美砂は一人静かに幕を閉じた。 【柿崎美砂 死亡 残り28人】 <迫る影と移る狂気> 「夕映……、ハルナ……」 宮崎のどかはコルト・ガバメントを構えながら歩いていた。 昨日まで仲のよいクラスメイトであったものが、自分を襲ってくると思うだけで吐き気がした。 (“あの本”は出るのかな?) のどかは試してみることにした。 「アデレット」 その言葉を発すると、当然のように本が出てきた。 「出てくるんだ……」 ネギが生きていることを実感できるこの本。 この本はのどかにとって役に立つものだったが、今はそれが災いとなってしまった。 「あっ、ふーちゃん」 何も持たず鳴滝風香は歩いていたがのどかに気付く。 ふと、本が反応した。 スウウ…… あ、いた。えものだ。ころすコロス。五人*せばわたしはじゆうになれる。おとなしいあのこならやさしくちかづけばかんたんに*せるはずだ。ころすコロス。 ころすコロスころすコロス。ころすコロスころすコロスころすコロス。 あはははははははははははははは。 「あ……、」 ガタガタ ガタガタ 体が隠せない悪意によって震える。 「今、そっちに行くねー」 少しずつこっちにくる。 「こ、来ないでください!」 風香は悲しそうな顔をする。 「どうして?仲良くしようと思っているだけなのに」 「嘘です!」 のどかが断言したことに風香は少しだけ驚いた。 「なーんだ。バレてたんだ」 一歩、二歩と踏み出す。 「こ、これ以上近づくと撃ちます!」 「へえ、私のこと殺すんだ。普段は大人しいくせに、あはは」 風香はポケットからダガーを取り出して、一気に接近してくる。 のどかの手は引き金にかかっていたが、指が動かなかった。 さくっ!! 脇腹が熱くなる。巧く避けたはずだったが、腹にかすったらしい。 彼女は本気で私を殺そうとしている。 ――――――そんなことはわかっていた。だって本に書いてあったから。 「私のために死んで、あはははははは」 風香がまた向かってくる。 怖い、怖い。 怖いから、引き金を引いた。 銃声が響く。 「ア、……い、痛い」 スウウ…… いたいいたい、いたいイタイ、たすけてたすけてタスケテ、タスケテ。 うたれたうたれた、ひどい、じゅうでウタレタ。 このままだとしんじゃう、タスケテ、イタイ、イタイ、イタ… …………………… 本の終わりが、鳴滝風香の終わりを告げた。 「ぁ、ぁ、…………」 「い、いやあああぁぁぁー!!!」 のどかは逃げた。怖くて怖くて、どこかへ逃げたかった、この場から離れたかった。 私は人を殺した。人を殺す人は狂っている。では私は……? 「あは、あははは…………私は狂ってる……あははは!!」 のどかの目から一筋の涙が流れた。 鳴滝風香の狂気は宮崎のどかへと移った。 【鳴滝風香 死亡 残り27人】 【のどか、コルト・ガバメント所持】 <不思議な相棒> 椎名桜子は湖の畔がスタート地点だった。3−Aの中でも1、2番を争うほどの明るい女の子であるが今はまったくの別人になってしまっている。 「あはは……」 湖に渇いた笑いが響く。 そう、クラスメイト五人を殺せば悪夢は終わるのだ。武器が当たりならそれは実に容易いことではないだろうか? (そんなの、駄目だよ) とりあえずリュックを探ってみようとするが、このリュックはおかしい。さっきから、動いているのだ。 恐る恐るバックをあけてみると、 「ぶはー、俺っちをこんなところに閉じ込めたのは何処のどいつだ」 “喋るオコジョ”がでてきた。 ―――――――やはり、私は夢を見ているらしい。 オコジョは桜子を見ている。 「もしや俺っちがしゃべっている所を見てしまったのか?」 「うん、というかネギ君のペットだよね?君」 オコジョため息を一つすると自己紹介をした。 「情報によると、出席番号17番の椎名桜子」 「うん、そだよ」 「今日は研修旅行って聞いてるが、俺っちは誰かに拉致られるし、こりゃどうなっているんだ?教えてくれないか、桜子姉さん」 桜子はカモにこのゲームと、ネギの記憶喪失について話した。 「…………ネギの兄貴が……、おそらくそのおっさんが兄貴の記憶を消したんだろう」 桜子はヘンマンの話の真偽について聞いてみる。 「ねえ、カモくん。魔法って存在するの?」 カモは諦めて話し始めた。 「ネギの兄貴は魔法使いだ。このクラスには他にも魔法使いがいる。人の概念が通用すると思わないほうがいいぜ。桜子姉さん」 「そんな!」 「でも桜子姉さん、少なくとも自分からこのゲームに参加する奴はいないと思うぜ。いや、エヴァンジェリンはどうだかわからないが…………」 桜子の頭の中は整理できてない。殺人ゲーム、古菲の死、ネギの記憶喪失、そして魔法使い…………。 降りかかる現実は過酷なものだ。 桜子はリュックの中に日本刀があることに気付いた。 「とりあえず、誰かと行動したほうがいいんじゃねえか?」 「うん……」 ――――――まだ死にたくない。 桜子とカモは街の方へと歩き出した。 【残り27人】 【桜子、カモ、日本刀所持】 <通信> 本部とペリコプターに乗っている仮面の男との通信履歴。 「そういえば、あれは……元にあるんだい」 「出…………番、な…………えでの元に」 「なるほど、…………ばらしい」 「本…………果があるのか……は不明です」 「それは…………明してくれるだろう。あれ……口…………だって殺人鬼になる。そういう薬だ」 「わ……した。ひき……監視をします。あと、…………着きそうで……」 「ああ、あと…………ほどだ」 「わか……した」 ブツン。 【残り27人】 <渇き> 川のせせらぎが聞こえる中、長瀬楓はそれにあわないソードブレイカーをもって歩いていた。楓の目的は二つ、最小限の被害でここから脱出することと、古の仇に復讐すること。 「古」 おもむろに口にするが、返事が帰ってくることはない。 この島にいる限り、能力の制限はうけることになる。楓も例外ではない。分身は一人しか出せないし、縮地も使えない。そんな状況でも、楓はゲームの回避方法を考えていた。 武器と一緒に入っていたドロップを口の中にいれる。 「拙者が何とかしなければ…………」 楓の感情に異変が起きるのにあまり時間はかからなかった。 【残り27人】 【楓、ソードブレイカー所持】 <一つの賭け> 「ちっ、なんで私が」 誰かに聞かせるわけでもなく長谷川千雨は呟いた。限りなく常識人である千雨は予想のつかない事象が嫌いであった。 しかし、現実にゲームは始まってしまっている。 「乗るべきか、それとも協力すべきか」 団体行動が嫌いな彼女であっても、乗らないなら協力者がほしい。 どっちの行動をとろうか考えようと思った時に、人の気配が思考を停止させる。 リュックの中の銃剣を取り出す。重くて扱いにくいものでも殺傷能力は十分だ。 ガサッ 「長谷川?」 気配は神楽坂明日菜のものだった。 「おい、こっちにくるなよ。撃つぞ!」 千雨が警戒しているので、明日菜は手荷物を放り投げ自分の武器を見せた。 「これ、私の武器……」 明日菜が持っていたのは単2電池(×3)。 何のコメントもしようがなかった。 千雨は銃を下げずに攻撃口調で話す。 「なぜ話しかけた?私はゲームに乗ってる人間かもしれないのに」 「それは、勘ってやつ。まあ、乗ってない人間だってことはわかったけど」 「なぜだ?」 「乗ってる人間なら、別の人間には先制攻撃を仕掛けるんじゃない?でも長谷川それをしなかった」 千雨は銃口を下げた。 「…………千雨だ」 「へっ」 「長谷川って呼ぶなよ、千雨って呼べ」 「…………ぷっ、あははは」 「な、……なんだよ!」 「はは、わかった。私もアスナでいいから。そのほうが慣れてるしね」 明日菜はリュックを拾い上げる。 二人は今後の方針を話しながら住宅街へ向かった。 【残り27人】 【千雨、銃剣所持】 【明日菜、単2電池所持】 <亡き姉を待つ> 「お姉ちゃん……」 薄暗い灯台の中で鳴滝史伽は姉を待っていた。 史伽に支給された武器は玩具の杖、武器としては役に立たない物だった。 ただでさえも“標的”にされやすいのに、武器すら持ってない。 隠れているしかなかった。 ――――――――――――体が腐食される。 ――――――――――――心が侵食される。 「お姉ちゃん」 史伽を支えているものは姉だった。本当は外に出て探したいが、持ち物が貧弱すぎた。 だから、ここで待っている。きっと、迎えに来てくれる。 史伽は待ち続ける。今は亡き姉を待ち続ける…………。 【残り27人】 【史伽、初心者用杖】 <冷たい殺意> 人一人いない商店街は、なんとも不気味なものであったが、絡繰茶々丸には関係ないことであった。 茶々丸の方針は決まっていた。マスターであるエヴァと合流すること、それが最優先事項である。 「……熱源体、接近」 自分の獲物であるデザートイーグルを構える。 茶々丸はある程度人の接近を感知することができるが、明確な位置は把握できない。 「……!!」 空から何かが飛んでくる!考えるより先に後ろへ跳んだ。 ズガガッ さっきまで自分がいた場所にクナイが刺さっていた。 「敵と認識、排除します」 茶々丸は姿を見せぬ敵に一礼した。 ある程度の能力制御がされていたが、運動能力は一般人の比ではない。 クナイの跳んできた方向に飛び、威嚇射撃をする。しかしながら、反応がない。 さっきまであった冷たい殺意はどこに? 「…………」 建物の屋根の上は誰もいなかった。人がいた形跡はある。 「敵、逃走」 屋根の上から下へ着地する。 茶々丸はこのゲームに乗ったクラスメイトがいることを確認した。 【残り27人】 【茶々丸、デザートイーグル所持】 <儚き命> 裕奈は夏美を見たまま動けなかった。状況があまりにも不利すぎた。むやみに動いたら、それこそ射殺される。 「銃、下ろしてくれないかな」 裕奈は決意して夏美に話しかけることにした。 「私、このゲームに乗る気もないし、誰も死んでほしくない。だから、銃を下ろして脱出法を考えよう!」 夏美は無表情だ。腕が若干震えているようにも見える。 「無理だよ。だって、腕輪もあるし、兵士みたいな人もいるし」 「でも、みんながあつまれば……」 「根拠のないことを言わないでほしいな」 裕奈の背筋が凍る。 「私は生き残りたい。まだ死にたくなんかない!だから、五人殺す。 別に恨みはないけれど、しょうがないの」 夏美にためらいはない。 そして、引き金を引いた。 裕奈は目を瞑った。 銃声が響く。しかしながら、特に痛いところはない。死ぬとはこういうことなのか? 裕奈は恐る恐る目を開けてみる。 目の前には夏美が倒れていた。 ―――どうして? 「……あっ、ああっ」 横から男の子のような声が聞こえる。 少し返り血を浴びた釘宮円がその場で呆然としていた。 手には拳銃。銃口から煙が出ている。 「わ、…私……助けようと……、違うの……殺したくなんか……」 「落ち着いて、ね?私を助けてくれたんだよね?」 顔から滴り落ちる血。それは、円が人を殺したことを証明していた。 【村上夏美 死亡 残り26人】 【円、ブローニング・ハイパワーmk-3所持】 <命取り> 「いやぁ、いやぁぁー」 脱兎のごとく佐々木まき絵は逃げていた。体はすでにボロボロで学校にいたころの面影はない。 「なかなか、しぶといネ」 超は笑いながらスコーピオンを構える。 そう、これは力を持つものだけに許される権利。強き者が弱き者を狩るのは当然のこと。 「あっ!」 まき絵は転んでしまった。後ろには、さっきから表情一つ変えない超の姿。 「……どうしてこんなことするの……」 「生き残るため、食事を取るのと同じネ」 まき絵は超の考えがわからない。わかりたくもない。 「……違うよ。これはただの殺戮」 「一般社会ではそう言うヨ」 「なら!」 「でもここは無法地帯。殺すのが当然ネ」 スコーピオンが火を噴く。とまらない銃声。 銃弾はまき絵の隣の老木を貫いた。 「ひっ」 超が死刑宣告をする。 「まき絵サン。腕輪のスイッチを押すネ」 「えっ?」 まき絵の顔が真っ青になる。 スイッチを押せば腕輪が爆発すると言っていた。押したら腕が飛んで……。 超は賢者のような神々しさを放って見下ろしている。 「…………」 「押さないなら、サヨナラヨ」 死にたくない、死にたくない。 「押します!押しますから」 「うん、聞き分けのいい子は好きネ」 超が距離をとる。十分射程範囲内だ。 まき絵は深呼吸をしてスイッチを押した。 その瞬間、爆音が響いた。 「アアアアアアアアアアァァァァァッ、腕が、右腕がないよ!痛い、痛い! すごくイタイ、あは、あははははははは…………」 まき絵はそのまま気絶した。おそらく、もう目を覚ますことはないだろう。 「ありがとう。腕輪爆弾の威力と正確さがわかったヨ」 超は状況を確認するとつまらなそうに腕輪探知機を見る。 「面白かったかい、そこにいることはわかっているネ」 後ろの木に向けてサイレンサーを撃つ。 葉加瀬聡美(出席番号24番)が手を上げたまま出てきた。 【佐々木まき絵 死亡 残り25人】 【聡美、???所持】 <守るべきもの> あやかは丘の上にいた。 ここは見晴らしがよく遠くまで眺めることができるが、クラスメイトの姿を確認することはできなかった。 時間が経てば経つほど、被害者は増えていくだろう。でも、このゲームを止める方法が思いつかない。 クラス委員長として自分自身に憤りを感じた。 なんて自分は無力なのだろうか? 思えば、この研修旅行なるもの自体が怪しいものだった。私がもっと調べていればこんなことにはならなかったのかもしれない。 そして、3−Aでの思い出を消されてしまったネギ先生。どうして守ることができなかったのか!とても、悔しかった。 自分の手が持っている物をみる。説明書にはモスバーグ500(散弾銃)と書いてある。 リュックにはロケットランチャーが入りきらずにはみ出ている。 これだけの戦力があれば、一対一なら負けないだろう。しかし、あの施設に接近するには腕輪を何とかしなければならない。 (外す方法さえ見つかれば) 今、必要なのは信頼できるクラスメイトだ。たとえ、腕輪がなくても、一人ではあの施設を制圧するのは難しい。 (アスナさんなら……) なんだかんだ言って、あやかは明日菜に信頼をおいているのだ。 あやかは丘を降りて薄暗い森へ入っていった。 【残り25人】 【あやか、ロケットランチャー(×3)、モスバーグ500所持】 <信じること> (いややぁー、せっちゃん) 近衛木乃香はコテージの片隅で一人うずくまっていた。 手にはFG−42(マシンガン)、腰にはダブルデリンジャー。身を守るには十分すぎる武器だ。 木乃香の精神状態はスタート時から不安定なままだった。 クラスの誰かが自分を殺そうとしている、クラスメイト同士で殺しあう、考えるだけで狂いそうなる。 ――――――イッソ狂ッテシマッタホウガ……。 そんなことを考えていると、外からかすかに足音が聞こえた。 相手が警戒をしていることは確かで、もしかしたら気付かれているのかもしれない。 木乃香は右手のFG−42を強く握り身を潜める。 (せっちゃんだったら……) 期待と不安が交じり合う。 自分の信頼できる人ならいいが、違う場合は敵か味方かもわからない。 ドアをゆっくり開けて入ってきたのは和泉亜子だ。几帳面なことに入るときに、 「お邪魔します……」 と小声で言っている。 手には何も持っていない。 普通、武器を持っているのなら、危険を伴う行動を行うときは手に持つだろう。 ―――そう、私のように。 木乃香は決意して話しかけることにした。 「亜子ちゃん」 「!!」 急に人の声が聞こえたためか、亜子は驚きで尻餅をついてしまった。 亜子は猫ににらまれた鼠のように怯えている。 目線の先には木乃香の持っているFG−42。 まともな話し合いをするには武装解除が先決だった。 「……亜子ちゃんは誰か殺そうなんて物騒なこと思わへんよね?」 右手のFG−42を床に置く。 「……うん、ウチ何も武器持っとらんし。殺されるより、クラスメイトを殺すことのほうが怖いよ」 その言葉は木乃香の心の中で思っていたこと代弁するにふさわしい言葉だった。   クラスメイトを殺すことのほうが怖い 今の木乃香の信頼を得るにはこの一言で十分だった。 腰にあるダブルデリンジャーを取り出し、亜子に渡す。 「あのな、うちにはこれあるから」 これとは、もちろんFG−42である。 「ウチ、亜子ちゃんなら信じられるわ。みんなを探して、この島からの脱出せな」 「ありがとう、このかさん。……あっ、ウチ、」 亜子がおもむろにリュックを漁り始める。 「こんなもんがあったんや」 亜子のリュックからは出てきたのは、看護セットと何かの説明書だった。 【残り25人】 【木乃香、FG−42所持】 【亜子、説明書、看護セット所持、ダブルデリンジャー入手】 <ペタンコ同盟> どれだけ走ったのだろうか。駆け出してからかなりの時間が経っている。 それでも桜咲刹那は走り続けていた。 「お穣様……」 刹那には探し、そして守るべき人がいる。 何らかの方法で能力を規制されているためか、体がとても重かった。 でも、木乃香を見つけるまでは走り続けなければならない。 「はあ、はあ……」 林道の隅で呼吸を整える。 と、その時に人の視線を感じた。 手にはシャムシール(剣)が握られている。刹那にとっては当たり武器だ。 (距離は30mほど、敵意は……おそらくない) 戦場で戦ってきた者の勘であった。 剣先を地面に向ける。 「私には殺意はありません。出てきてくれませんか?」 聞き覚えのある声が聞こえてくる。 「刹那さん……、ですか?」 ひょっこりと姿を現したのは、パチンコを持った綾瀬夕映だった。 「綾瀬さん、無事で何よりです」 「はい……」 夕映の表情は堅く、無理をしているのは一目瞭然だ。 「刹那さんは、やはりこのかさんを?」 「はい、でも人にあったのは綾瀬さんが初めてです」 刹那の荒い息づかいからずっと走っていたことがわかる。 「このかさんは自分から歩き回るより、どっかに隠れていると思います。焦っても、たぶん見つからないです」 刹那は自分自身が余裕を持っていないことを知る。 この言葉のおかげで、刹那はゲームが始まってから失っていた冷静さを取り戻した。 「綾瀬さん、私と一緒に行動しませんか?」 「でも、このかさんを…」 「焦ってもお嬢様は見つかりませんから」 (大丈夫、お嬢様は生きています) 根拠のないことだったが、その言葉を心に留めておくことで冷静さを保つ。 「はい、分かったです」 刹那はリュックの中にあるスタンガンを夕映に渡した。 「護身用に使ってください」 そして二人は街の方へ向かう。 皮肉にも、その向かう先に木乃香はいない。 【残り25人】 【刹那、シャムシール所持】 【夕映、パチンコ所持、スタンガン入手】 <冷静に> 店員がいないのに、陳列された商品がある。客がいないのに、店内の照明が付いている。 大河内アキラはこの大型百貨店の存在自体に疑問を持っていた。 ゲームがスタートしてすぐにこのデパートの中に入った。道具を探すのに良い場所であると思ったからだ。 アキラには自分から戦う気もないし、殺す気もなかった。 だいたい武器が発炎筒では殺す事もできないだろう。かといって、このまま死にたくもない。よって考え付いたことは、クラスメイトとこの島を脱出することだった。 「何かないのかな?」 一時間ほどの探索を終えて見つけたものは、包丁、ライター、懐中電灯、時計、日持ちする食料だった。 アキラはこれからのことを考えてみることにした。 私が置かれている現況は最悪だ。 まず、この腕輪だ。このゲームの主催者は腕輪を外されない限り、いつでも私達を殺す事ができる。 そして、クラスメイトの持っている武器。人を殺せるものを持っていると、黒い考えに染められてしまうのではないか?五人殺せば解放されるとなればなおさらである。 さらには、迷彩服を着ている人達。ゲームには参加していないが、銃器を装備しているため、本部への進行をより難しくしている。 「まず、仲間を探さないと」 アキラはデパートの裏口から出て、暗い森の方へと歩みを進めた。 【残り25人】 【アキラ、発炎筒所持、包丁、ライター、懐中電灯、時計入手】 <朝倉のジェノサイド説明> 「あった、やっと見つけた」 ジェノサイドの詳細を調べようとネットをさまよって約二時間。 朝倉はプロテクトのかかっていないサイトを見つけた。 「どれどれっと」 さっそくサイトを調べてみた。 ―――ジェノサイド、元の名はバトルロワイアル。 大富豪たちが考えついた人を使う最悪の娯楽である。ルールとしては死刑が決定している罪人などを数十人買い取り、富豪たちが用意した島で戦わせるというものだった。 参加者には最初に道具が支給され、最後まで生き残ったものが勝利者として釈放されるのだ。 ちなみに主催者側の施設は本部、管理塔、監視施設が別々になっていて、どこも近寄ると首輪が爆発する。 ゲームの主催者は自分の身の安全のために、参加者に首輪をつけた。 この首輪は主催者のスイッチ一つで爆発できるもので、回を追うごとに改良されていった。 最近では、管理塔から電波を発信して使用しているみたいだが、妨害波を出せば外せたという記録が残っている。 なぜ、首輪が簡単に外せるのか?それは、本部と管理塔が堅く守られているから首輪を外しても武器量で勝る主催者が負けることはないのである。 その証拠に、首輪が外れた例があっても、ゲーム自体が停止したことは今までで一度もない。 また、このゲームにはいろいろなことが試されている。 人が悪意に染まっていく経緯の心理学的研究、試作兵器の実用、覚醒剤の効果のテストなどの非人道的なことが行われてきた。 バトルロワイアルは数年前に摘発され、それ以来ゲームが開始されることはなくなった。しかし、金で物を言わす連中が逮捕されたところで何の意味もなく、すぐに保釈されている。奴らのことだから、また近いうちに始めるのではないか? 最後に私のことだが、私はバトルロワイアルの勝利者であり、それ以降は管理者としてバトルロワイアルの運営とバトルロワイアルを暗部に隠す仕事をしてきた。 このことに後悔しているが、私が生きるにはこの仕事しかなかった。つまり、勝利者となってもこのゲームから釈放されることはないのである。 (下には、首輪の外し方、勝利者を予想する賭博、数年前の摘発事件について書かれている) 「…………」 このサイトを一通り見てから朝倉は考え込んだ。 今起こっているジェノサイドと昔のジェノサイド(バトロワ)は微妙に違う。 まずは、参加者。昔は罪人、破産者、独り者が参加者の主を占めていたが、今回は一クラスである。おそらく5人殺せば解放されるシステムは仲の良いクラスの中で、殺し合いをより効率よく進めるために追加したのだろう。 次に、首輪から腕輪。これは魔法使いを抑制するために作られた特注品だろうが、首輪の外し方を見ると同じような方法で外せそうだ。 そして、雇い主。あの伯爵は誰かに雇われていると言っていた。サイトを見る限り、魔法のことは知らないと見て取れるが、今回は魔法を知っていてヘンマンを呼び出した奴が真の黒幕となるわけだ。 最後に主催者の施設。ヘンマンは管理塔、監視施設のことには触れなかった。理由は不明だ。 「うーん……」 「どうしたんですか?朝倉さん。なんか難しい顔してますよ」 気付くと、回りを監視していたさよが戻ってきた。 「さよちゃん」 「はい?」 「私はこのゲームを止める。そして、全世界にジェノサイドのことをバラす」 明確な目標ができたためか、朝倉は呟くように宣言した。 手には催涙スプレー、少し頼りない武器だが強い心を持って朝倉はさよとともに歩き出した。 【残り25人】 【朝倉、催涙スプレー(×5)、パーソナルモバイルツール所持】 <第一回定刻放送> ジ、ジジッ、 知らない男の声が響く。 「今から第一回定刻放送を行う。 亡くなった者は柿崎美砂(出席番号7番)、佐々木まき絵(出席番号16番)、鳴滝風香(出席番号22番)、村上夏美(出席番号28番)だ。 ちなみに自殺者一人、他殺三人でそれぞれ違う人が殺している。殺人鬼は最低三人いるということだ。 では、諸君の検討を期待する」 ブツッ、 【残り25人】 <恩人か狂人か?> 放送の中に村上夏美の名前があった。当然のことだ、目の前にいる円が殺したのだから。 今、裕奈は円の目の前にいる。会話はなく、殺伐とした空気が流れる。 その空気に耐えられなかったのか、裕奈は虚ろな目をした円に話しかける。 「助けて……くれたんだよね?」 円からの返事は意外なものだった。 「怖かった」 「えっ?」 「誰かが自分の私欲でクラスメイトを殺す瞬間を見るのが怖かった。だから引き金を引いたの。 裕奈を助けようとなんて思ってなかった。私、異常なのかな?」 「そんなことはないと思う」 裕奈は目の前にいる円がまだ狂っていないことを悟った。 「おかしくなっちゃった人はさ、自分が異常であることがわからないんじゃないかな。だからさ、自分のしている異常な行動も普通だと思っているんだよ。 でも、クギミーはそうじゃない。自分のこともよくわかっているし、怖いとか嫌とかの感情があるから異常なんかじゃないよ」 円は一呼吸、間を置いてから。 「ありがとう」 と涙ぐみながら言った。 「あとね……」 「……クギミーってよぶのは、やめてほしい」 裕奈は夏美の持っていたグロッグを回収した。 本当は埋葬してあげたいが、無防備な姿を曝け出すことになるのでやめておいた。 (ごめんね……) 裕奈は夏美を疎む気持ちを持っていなかった・ 夏美はこの島の瘴気を浴びてしまった被害者なのだから。 二人はとりあえずその場から離れた。 まき絵の円の親友である柿崎も死んでしまった。 この島の空気は確実に人の精神を蝕んでいる。 「円、このゲーム、私達の手で止めよう」 「うん」 二人の戦いは始まった。 【残り25人】 【裕奈、グロッグG25入手】 <アヴェンジャー> 「そんな、夏美」 村上夏美、私の妹のような存在であり一番守りたかったもの、それが失われた。 夏美が自分から誰かを殺すなんて考えられない、と言うことは、誰かが生き残るために夏美を手にかけたに違いない。 溢れ出る憎悪、底なき怨恨。 「許さない、夏美を殺した奴を許せない」 手には当たり武器であるコンバットマグナム、これがあれば“わたしのやるべきこと”を実行することができる。 「絶対に仇はとるから、夏美」 千鶴は正気のまま復讐鬼となった。 【残り25人】 【千鶴、コンバットマグナム所持】 <ナイトメア> ○月×日 大好きなネギ先生は私のことを忘れてしまいました。 そして、今はクラスメイト同士で殺し合いをしています。 私は生き残るためにも他のクラスメイトを さなければならないんです。 でもしょうがないよね?私はどうしても生き残って、ネギ先生と帰らなければならないから。えへへ。 できれば、夕映とハルナと協力して15人 したいです。 のどかの悪夢は続く。 【残り25人】 <逃亡援助?> ヘルマンは部屋でコーヒーを飲んでいた。 「そこの君、そう君だよ」 「は、はい」 男を一人呼び出す。 「ネギ君はどうしている?」 「はい、部屋にいます。見張りがいるので逃げられることはないかと」 「開放したまえ」 「はっ?」 男は間の抜けた声を出してしまった。 「ネギ君をこの施設から外に出したまえ」 「な、なぜですか?」 「…………」 ヘルマンが無言で男を見続ける。 「……わ、わかりました」 「くれぐれも丁重にね。まだ、十歳なのだから」 男は慌てて部屋から出て行った。 (ネギ君、自分の運命は自分で切り開きたまえ。そう、教え子達と同じように) コーヒーカップを机の上に置きヘンマンは窓から外を見上げた。 綿雲が漂う夏の空だった。 <夢一つ> 最初は部屋の片隅にいるだけで精一杯だった。でも、定刻放送を聴いてそれは変わった。 疑心暗鬼になって凶行に走ってしまった人、誰かの助けを待っている人がいる。 この現実に必死に抗おうとする人もいるだろう。 私は現実から目をそらしているだけだ。そんなことしていても何も変わりはしない。 四葉五月(出席番号30番)は自分ができることが何かきっとあると思索する。そして思いついたのがみんなに食事を作ってあげることだ。簡単にいえば、レストランのようなものを作って、みんなが安心できる空間を作ってあげる。 こんなことしか思いつかなかったけど、誰かの救いになるかもしれないと思った。 五月はすぐに行動に移った。まずは住宅地から商店街のほうへ向かう。そして、本拠地となる場所を確保する。 商店街は人一人いなくてなんだか不気味に感じたけれど、五月は一人で探索を始める。 手始めにスーパーに入ってみると、そこには新品同様の商品がずらりと並んでいた。ここの食料を使えば何でも作ることができるだろう。 気を良くしてスーパーから出る。 それが、彼女の最後。 胸と頭にクナイが刺さり、即死だった。 ザジ・レニーデイ(出席番号31番)は屋根から下りてきて五月のリュックを確認する。 中に入っていたのは新体操で使うピンク色のリボンだった。 ザジは五月の死体を路地裏に隠し、何事もなかったように屋根に戻っていった。 【四葉五月 死亡 残り24人】 <大物> 「なんやろ、これ」 専門的な言葉が連なっていたが、腕輪について書かれていることくらいは木乃香にも理解できた。 「なんでこんなんが入っていたかうち知らんけど、もしかしたらこれって重要な手がかりになるやない?」 詳しく読むと腕輪の取り扱いについても書かれている。 「亜子ちゃんすごいわー!」 「うちは何もしてへんよ」 飛びついていた木乃香に亜子はツッコミをきめる。 「葉加瀬さんや超さんならなんとかなるんやないかな?腕輪を外す方法がわかったら殺し合うことなんかせえへんでもええし」 「……そうやな」 亜子の問いに木乃香は感慨深く頷いた。 「ちょっと、見てみようよ」 裕奈は木造のコテージを見つけてから、こう言った。 「……誰かいるかもしれない」 「なら、確認するべきだよ」 「もし、その誰かが敵だったら?」 円は乗り気ではなかったが、裕奈の意見を尊重した。 「じゃあ私が様子を見てくるから、裕奈はちょっと待ってて」 そう言うと、円はドア付近に息を潜めながら移動していく。 (話し声がする) この話し方は和泉亜子と近衛木乃香で間違いないだろう。 裕奈に報告しようと戻ろうとする。   パキッ 階段で音を立ててしまった。 (やばっ) とりあえず銃を取り出す。 「誰!?」 木乃香が外にでてきたため、円は思わず銃を向けた。 後から出てきた亜子が円にダブルデリンジャーを向ける。 まさしく一触即発!! その状況はすぐに崩れた。 「円〜、誰かいた〜?って、なっ、亜子!無事?って、何で銃向け合ってるの?」 裕奈はまったくその場の雰囲気が読めていなかった。 あまりの裕奈の大物ぶりに亜子と円の敵意はなくなった。 【残り24人】 <endless game> 深い森の中、龍宮真名はその場に留まっていた。 その理由はおもに二つ。 一つは、近くに水源(湖)があったこと。もう一つは、動いたところで人に会える確証がなかったことだった。 結局、いままで誰にも出会うことはなく、定刻放送を聴くことになった。 誰にも会わないまま誰かが殺されていく状況に真名は焦りを感じていた。 (自分から動くか) と行動を起こそう考えていた矢先、人影を見つけた。 「おまえは、宮……」 言葉を途中で遮断して、真名は木の陰に隠れた。その後すぐに響く銃声。 間一髪だった。 「ちッ!」 真名は武器として支給された改造モデルガンで応戦する。 威力は?と言うとかなりのものであり、武器として十分期待できるものだった。そう、普通なら銃撃戦で真名に敵うものはクラスにいないだろう。 でも、のどかは“普通”ではなかった。軽い身のこなしで弾丸の雨を避けながら距離を縮めていく。こんな動きができるのはクラスの中でも刹那や楓くらいだ。 さらに真名にはのどかを殺す気がなく、本によってのどかはそれを知っていたために真名は不利な状況に追い詰められていった。 (くっ、なんだあの運動能力は!まるで、魔力供給を受けているみたいに……) のどかは右手のコルト・ガバメントを真名のいる木に向けて乱射する。のどかは本気で真名を殺そうとしている。 モデルガンしかない真名にとって長期戦は不利だ。 (……仕方ないな) 真名の眼光が仕事をしているときと同じように鋭くなる。 その時、横からのどかに向かって誰かが向かってきた。 のどかは身を翻すが間に合わない。 手から発せられた激しい衝撃とともにのどかは吹き飛ばされた。 「楓!」 真名がその人の名前を呼ぶ。 「…………ッ!」 のどかはこの状況が不利であると判断したのか、常人では考えられない速度でこの場を離脱していった。 (もしかして、腕輪の力なのか?) 敵が去ったことを確認すると楓はいつもの表情で寄り添ってくる。 「ありがとう、楓。助か……」 真名は助かったよと言いたかったが、声が出なかった。なぜなら、楓のナイフが真名の喉を掻っ切ったためだ。 「…………ァ゙」 真名が声にならない音を上げる。体をよじらせて自分の苦しみを表現する。 出血は止まらずあたりは真っ赤な血飛沫で染められていく。 慈悲を持つことなく楓は胸にナイフを突き刺すと、二度と動かなくなった。 「……」 人の形をしているそれを見る。血で濡れた楓の口元は歪んでいた。 【龍宮真名 死亡 残り23人】 【楓、エアガン入手】 <目撃> 最初は助けるつもりだった。 のどかさんが銃を持っていなければ……。 自分が持っているのは、発炎筒やナイフ。これでは銃器に対抗できない。 そして、のどかさんと龍宮さんの戦いが始まった。 震えが止まらなかった、脳がおかしくなりそうだった。 あの二人が人の動きではないことぐらい誰でもわかる。 二人とも戦い慣れをしているように見えた。私の出る立場などまったくない。 しかし、この場から逃げることもできなかった。 逃げているところが見つかったら、殺害対象をこの場で一番弱い私に変更すると思ったからだ。 だから、隠れて嵐が終わるまで見ているしかなかった。本当に自分が情けなく感じた。 “勝負”は外部からの乱入によってあっけなくついた。撤退する宮崎さん。 これから私は本当の恐怖を知る。 ―――――アッ!! 長瀬さんが龍宮さんを刺した。いや、喉を切り裂いた。 その傷口からは夥しい量の血が流れ、口をパクパクさせる龍宮さん。 瀕死の彼女にとどめの一突き、心臓だった。 返り血がスプリンクラーのように長瀬さんに吹きかかる。シャワーが気持ちいいのか、長瀬さんは笑っていた。 ―――――赤い、紅い、目の前が真紅になっていく。 胃液が逆流してきたが、吐く事もできない。 声を上げて見つかったら私も……アレノヨウニナル。 長瀬さんは血を気にすることなく銃らしきものを回収しこの場から離れていった。 この光景を見てから初めてまともな呼吸をすると、 真後ろに人の気配を感じた。 体が動かないから首だけで振り向く。 そこには、当然のように誰もいなかった。 【残り23人】 <迷い子> 森の中はあやかが見た限りでは何の異常もなかった。 この殺人ゲームはあやかの見ぬところで着実に進行している。 本部の防御ラインの近くまで来た。この先の道には白いラインが引いてあり、そこを越えると爆発するのだろう。 あやかは舌打ちをした。 腕輪さえなければ一矢報いることができるかもしれないのに……。 あやかは引き返そうとしたが、本部の方向からこっちに来る人影を見つけた。 急いで近くの大木に隠れ様子を伺う。 敵か味方か判断するために隠れたのだが、その子は敵でもクラスメイトでもなく自分たちのクラス担任であった。 「な、ネギ先生!」 罠かもしれない。 悪い予感を振りきりあやかはネギの元に駆けつけた。 「あなたは……誰ですか?どうして僕の名を?」 ネギの言葉はヘルマンの言っていたことを証明していた。 「ネギ先生……」 「僕、記憶がないんですよ。たしか僕はウェールズに住んでいて……いたたっ!」 思い出そうとするたびにネギに頭痛が襲い掛かる。 「だ、大丈夫ですか?ネギ先生」 「は、はい。 あのっ、一つ質問をしていいですか?」 「なんなりと聞いてください」 あやかの背景がきらきらと輝く。 「僕って本当に……先生をしていたんですか?」 ネギが3−Aの思い出をすべてヘルマンに消されてしまった。 変えようもない事実としてあやかにのしかかる。 あやかは動揺を悟られないように、 「はい、ネギ先生は私達の担任です」 と答えた。 あやかは自己紹介をした後、ネギに今起こっている事実を隠すことなく伝えた。 10歳でかつ記憶喪失であるネギには重すぎることでも島の事を隠すわけにはいかなかった。 「どうして、そんなことに……、そんなこと駄目に決まってるじゃないですか!」 「だから、私は止めたいのです。 ネギ先生、私に力を貸してくれませんか?」 「ぼくで良かったら、あやかさん」 今までのネギとは違う呼び方にあやかは困惑することなく、この小さな命を守ることを心に誓った。 【残り23人】 <招かれざる者> 先行する超に聡美はついて行く。 支給された物が割り箸だった聡美に超は 「あとで新しい武器をあげるから、いらないものは捨てるネ」 と隣で呟き、結局捨てた。 超はレーダーがあるためか、警戒心なく歩き続ける。 薄暗い森から夏の日が当たる住宅街へ出ると超の軽快な足取りがピタリと止まった。 「…………見つけたヨ」 レーダーを見ている超の顔はなんとも楽しそうだ。 普通なら同じように笑みがこぼれる場面だが、聡美の表情は強張っていた。 「あそこの家に誰かが二人いるネ。だからこれ使って殺すといいヨ」 そう言って、聡美にS&W 60を渡す。 あまりに淡白な言い方に聡美の思考が追いつかない。 ―――――超サン?イマ“何”ッテ言ッタノ? 聡美が黙ったままでいたことを超は不思議と思ったのか、また宣告する。 「ハカセ、もう一度言うヨ。 あそこの家の二人をこれ使って殺す、いい?」 聡美は超がおかしいことくらいわかっていたが、会ったときから今まで逃げる方法がなかった。 だから、従うしかない。 聡美は銃を超から受け取り、無言で住宅街へ向かった。 【残り23人】 <呼び寄せる形> 史伽は灯台から動かなかった。いや、動けないでいたと言ったほうが正しい。   ガタガタ  ガタガタ ―――――オ姉チャンガ死ンダ。 史伽の震えは大きくなるばかりだ。   ガタガタ  ガタガタ ―――――デモ、カエデ姉ガキット来テクレル。 楓がおかしくなってしまったことを史伽は知らない。   ガタガタ  ガタガタ 震えに堪えながら階段を一段ずつ上がっていく。 気の遠くなるような長く続く螺旋階段だった。 最上階は海と島が一望できる絶景の場所だったが、史伽に外を見る心の余裕などこれっぽっちもない。 部屋の隅に移動しようとしたときに、めぼしい箱の存在が史伽の目をひいた。まるで、RPGゲームに出てくる装飾箱だ。 史伽は期待を胸にその箱を開けた。 中に入っていたのは一切れの紙と大きなライフル。紙には、 「ラッキーアイテム、これで君もこの島から脱出だよー♪」 と、何かの宣伝文句のように書いてある。 「脱出、これがあれば……脱出」 史伽はライフルを持って立ち上がる。 さっきまでの弱々しさは、邪悪な何かに染められていく。 「脱出。五人で……脱出」 史伽はひたすら自分に向けて呟いていた。 【残り19人】 <エヴァと朝倉> 人に会わないこと この島の中では幸運と言えるのか? それとも不運なのか? 朝倉は“生きている人”には誰にも会えずにいた。さよはもちろん幽霊だし、さっき見たのは鳴滝風香の死体だった。 あまりに非現実的な光景だったため、それを見ても何の感情も湧き出てくることはなかった。 (バックが残されていてナイフを手に握っていたってことは、誰かが殺そうとして襲った訳じゃないみたいね) あまりに冷静すぎる自分の思考が嫌になる。 殺人ゲームだから誰かが死ぬのは当然のことと考える冷酷な人格が宿る。 (私、もうおかしいのかな) 「朝倉さん!誰か来ますよ」 さよの声が無駄な思考をクリアにしてくれた。 朝倉は風香の持っていたダガーを取り出したがすぐにしまう。 その人影、エヴァンジェリンは無防備に歩いていた。 「おや、お前たちは?」 珍しいものを見たような目で朝倉達を見るエヴァ。 「エヴァちゃん、こりゃ元気そうで何より」 「ふん、こんなガキの遊びにつき合わされるとは思わなかったよ」 「なら、エヴァちゃんがパパーと本部を制圧しちゃえばいいじゃん?」 「やれるなら、もうやっている」 朝倉のほのかな期待はエヴァのそっけない答えに崩れる。 「おい、朝倉。茶々丸を見たか?」 「私が初めて会ったのがエヴァちゃん」 「そうか」 エヴァの目はいつもより鋭く、殺気立っている。見るからに機嫌が悪い。 「邪魔したな。お前も殺されないようにせいぜい頑張れ」 エヴァは手をひらひらさせて、その場を去った。 朝倉も追うことなく、エヴァの背中を見届けた。 【残り23人】 【朝倉、ダガー入手】 <新しい服> 四人はコテージの中で今の状況について話し合った。 「ん〜、さっぱりだね。周波数とかノイズとか」 裕奈が説明書を投げる。円ももこの数分前に挑戦したが、即ギブアップだった。 「だいたいこれ、日本語に見えないっつーの」 リュックのなかの乾パンをつまみながら裕奈が愚痴る。 「私達が持っていても役に立たないけど、持つべき人が持てば役に立つんじゃないかな」 円の言い分は正しい。 「でもさ、なんか負けた気分にならない?」 「何やこれ!」 亜子の驚きの声により裕奈と円の話は中断した。別の場所でクローゼット内を探っていた 木乃香も亜子の所に駆けつける。 部屋の片隅にあったのは、宝箱であった。妙に見た目が豪勢で胡散臭い気がする。 「開けたら爆発するとか……」 「ゆーな、その台詞はしゃれにならへんよ」 この後、開ける開けないの論議が数分続いたが、結局は知的好奇心が勝った。 亜子がおそるおそる箱を開けるとチョッキと紙が入っていた。 「ラッキーアイテム、命を守る防弾チョッキ二着☆」 と書いてあるが、もう一着が見つからない。 「……多分、これやな〜」 木乃香が取り出したのはどう見ても防弾チョッキではなかった。三人とも何も言うことなくそれを見る。 (“あれ”は、着たくない) と誰もが思ったが口にすることはなかった。 裕奈が着る人について提案する。 「……じゃあさ、ジャンケンで勝った二人が着ることにしよう」 この時点で誰かが“あれ”を着ることが確定した。 掛け声とともにジャンケンが始まる。 「ポイッ」 勝ったのは木乃香と円だった。負けた二人も複雑な心境だ。 「勝ったほうが、普通の奴……ね」 二人は本気で負けたくないと思っている。 天国と地獄を分ける勝負が始まった。 「ジャン、ケン……」 「どうしていつも私だけこんな役なの?」 思えば学ランを着たこともあったなあ、と思い出してみる。 「はぁー」 制服の下に“あれ”とはなんともマッチしないものだ。しかも、着ていて何だかむずむずする。 「いいじゃん、見えるわけでもないし」 「んじゃあ、裕奈。着る?」 円は裕奈に微笑んだ。目がまったく笑っていない。 「ご、ごめん」 勢いに負けて裕奈は謝る。 「はぁー」 死の気配漂う島の中でも、円の待遇が変わることはなかった。 【残り23人】 【木乃香、防弾チョッキ入手】 【円、防弾チョッキ(スク水type)入手】 <窮策> これで五軒目……。 千雨と明日菜は転々と住宅を調べていた。 この行動の意味は主に二つだ。 一つ目は物品の回収。何か脱出の手がかりとなるものがあるかもしれない。千雨にとって探すべきものはパソコンだった。 二つ目は人の保護。誰かがゲームに怯え、身を震わせているかもしれない。明日菜にとって探すべきものは木乃香だった。 先の四軒では二人の探し物は見つからなかった。 「なんとも芸が細かいな」 冷蔵庫の中の食料を見て千雨が呟く。住宅内は生活感こそ無いが生活用品だけはきっちり揃えられていた。 (ここにもパソコンは無いのか。意図的に設置しなかったんだろうな) 階段からパタパタと音を立てながら明日菜が降りてくる。 「千雨ちゃん!二階にもパソコンはなかったよ!」 半開きの扉から明日菜がリビングに入ってくる。 「おい、あんまり大きな声を出すな。いつ誰か……」 レース越しに誰かの人影が映る。 迷うことなく明日菜の肩を掴んでカウンターの後ろへ飛び込んだ。 「千雨ちゃ……ちょ」 直後に音とともにガラスが割れた。 「ち、誰だ!」 問いに答えられるほど、襲撃者は心身に余裕が無い。 「殺さなくちゃ……」 聡美のS&W が火を噴く。それに応戦する千雨だが連発できないこの銃剣では分が悪い。聡美は自分の有利を確信すると、じりじりと自分の射程へ縮めていく。 (まずいな) 焦りの色は否めない、死が少しずつ迫る。 「千雨ちゃん!」 いつの間にか明日菜はハリセンを持っていた。 「私が突撃するから援護して」 あまりに場違いな武器と言動に唖然とする。 「はぁっ?お前何言……」 明日菜は決意したら最後、危険を承知でカウンターを飛び越えまだ見ぬ敵を見つける。 「な、ハカセ!」 聡美は銃弾を補充に手こずっていた。加えて、敵の突拍子も無い行動に動揺し弾を落とす。 そのスキを見逃さない。 「ゴメン!」 ハリセンの一振りは右手のS&W 60を弾き飛ばした。銃は床を滑り聡美から離れていく。 明日菜はまっすぐに聡美を見ている。 銃という要を失ったために、聡美の目は潤み、立っているのがやっとといった様子だ。 「まったく。無茶しすぎだよ、アスナ」 千雨が場の制圧とともに出てくる。あまりの迅速さに千雨も舌を巻いていた。 「んで、お前。どーゆーつもり?」 床に落ちているS&W 60を拾い上げる。 千雨が見たところ、聡美に戦闘意欲は残っていない。 「私は……」 なかなか言葉が出てこない聡美を待つ二人。 「本当はこんなことしたくなかった……。でも、やらないと……私は超さんに殺されていた」 「つまり、超に脅されてやったと?」 聡美は答えない、そう、自分が生き残りたいから殺そうとした。この意思は悪意そのもの、罪であった。 罪を静粛するかのように乾いた銃声がリビングに響き渡る。 狙われたのは聡美のみ。弾は肺を貫いた。 外には場から離れていく超の姿。 「あいつ!」 時既に遅し、超は街の方へ溶けていった。 残ったのは今にも消えそうな命。 「……して」 口をパクパクさせながら言葉を振り絞る。千雨は聡美の言葉を聞き取った。 「そうか、楽になりたいのか?」 聡美は弱弱しく頷く。声はもう言葉とならない。 「わかった」 明日菜の言葉を聞くことなく破裂音がまた鳴る。 確実にそれは生命活動を停止した。 【葉加瀬聡美 死亡 残り22人】 【明日菜、S&W 60入手】 <真実> 楓とは逆の方向にアキラは走っていた。 楓の殺人現場を見てしまい、自身もおかしくなりそうだった。 あの人は楽しんでいる。この、狂った世界を楽しんでいる。 止めなきゃならない。            止メラレルハズガナイ。 あの人は狂ってしまった。            アレコソガ正常。 私には武器がないから。            元カラ止メル気ナドナカッタノダロウ? 脳がオーバーフローし、まともに考えることすらままならなかった。 心臓が五月蝿いくらい大きな音を立てている。髪は乱れ、手足は道なき道を走ったため切り傷が所々にあった。 「あそこ、誰かいるです」 夕映は草陰で呼吸を整える人の姿を見た。 「綾瀬さん。一応隠れててください」 どこか様子がおかしいと刹那は思った。 草陰にいるのに呼吸は乱れ、存在を露わにしている。もしかして、本人は隠れているつもりなのか? 「誰だ。そこにいるのは」 シャムシールを構えて刹那は告げる。出てきたのはあまりに痛々しい顔をしたアキラだった。 「ひっ!」 アキラはシャムシールを見て怯える、彼女の精神が追い詰められていることを察知するのに十分な行動だった。刹那は剣先を下ろし敵ではないことを示した。 「何があったのですか?大河内さん」 「長瀬さんが……ぅあっ!!」 アキラの脳にあの光景がフィードバックする。 「落ち着いてください、ここには敵はいませんから」 優しく話しかけ、アキラに深呼吸をするように促す。 刹那に敵意がないことが分かり、ある程度の冷静さを取り戻してきた。 「……実は……」 あの楓が真名を殺した?のどかさんが積極的に戦闘に参加し、真名と互角に戦っていた? 内心信じられなかった。 アキラが嘘を言っているようにも思えない。 「何の話をしているですか?」 夕映が最初からいたかのように木の裏から現れる。 二人とものどかが夕映の親友であることを知っている。 「いえ、別に……」 「私、聞きました。のどかが龍宮さんを殺そうとしたと大河内さんが言ったところを」 意地の悪い言い方、そう夕映は最初からここにいたのだ。 「……出鱈目、ですよね?」 アキラに向けて嘘でしたと言うように強制している、そんな雰囲気を夕映は持っていた。 「嘘なんかじゃ……ない」 それを否定するアキラ、今の精神状態ではこの言葉しかでてこなかった。 「…………そうですか。大河内さんはどうしてものどかを悪者にしたいみたいですね。 龍宮さんもあなたが油断させて殺したのですね? 悪いですけど今回の話には信憑性がなさすぎです。人を騙す才能はあなたにはないんじゃないですか?」 夕映の中にあった黒いものがアキラに向けて吐露された。      どうして?  嘘じゃないのに? 「私達の前から消えるです!」 刹那から護身用に貰ったスタンガンを取り出し、スイッチを入れる。電極部から出る火花はアキラにとって恐怖の対象でしかない。 「しまってください!大河内さんは敵では……」 アキラは脱兎のごとく再び森の中へ溶けていった。 「ふう、消えましたか。のどかを悪く言う奴は許さないです」 「綾瀬さん、どうしてこんなことを」 夕映はそんなことも分からないの?と言いたげに刹那を見る。 「木乃香さんが殺人鬼だ、と大河内さんが言っていたら刹那さんは信じますか?」 「そ、それは……」 さすがに言いよどむ刹那。 「そうゆうことです」 夕映はスタンガンのスイッチを切り歩き始めた。 (本当に彼女は嘘をついていたのか?) 喉に小骨が刺さったような感覚が刹那に残っていた。 【残り22人】 <優しき復讐鬼> 早乙女ハルナは南の海岸沿いにいた。 ここら辺は大きい岩が多く死角が多いため潜伏はしやすかった。しかし、逆を言えば自分自身にも死角が多く、人の接近にも気付きにくい場所だ。 「あら、誰かしら?」 ハルナは千鶴の存在に気付いたのは、千鶴のコンバットマグナムの射程圏内に入ってからだった。 「あ、あっ……」 「大丈夫よ。そんなに怖がらなくても」 銃を向けられて怖がらないほうがおかしい。つまり、ハルナの精神はまだ正常だった。 「これからあなたに質問するから“正直に”答えてね」 ハルナは首を精一杯縦に振る。 「あなたは夏美を殺した?」 千鶴の質問は何の曲がりもなかった。 「私は誰にも会っていない……です」 「あら、そうなの?残念だわ。あなただったらすぐに仇が討てたのに」 千鶴は微笑んだまま話し続けた。 「ならあなたに用はないわ」 あなたに用はない―――ハルナはここで死ぬんだと思った。 迫り来る恐怖に思わず目を瞑る、が千鶴は興味なくこの場から去ろうとしていた。 「……殺さないんですか?」 「あなた死にたくないのでしょう。なら殺さないわ、夏美の仇じゃないですから。 あら、それとも殺してほしいのかしら?」 悪戯に微笑む姿を見てハルナは一目散に逃げ出した。 「あら、意地悪し過ぎたかしら?」 自分の行動に反省している時にハルナの金切り声を耳にした。 【早乙女ハルナ 死亡 残り21人】 <鬼と死神> 距離はおよそ数十メートルほど。岩場なので銃器をもっている千鶴のほうが有利なはずだ。 しかし対峙する相手、長瀬楓は動じることなく次のターゲットを見据えている。 「楓さん、早乙女さんを殺したの?見かけによらず、酷い人なのね」 楓は耳を貸すことなく血塗れたソードブレイカーを出す。 (話でなんとかなる人ではなさそうね) ふと、夏風が吹く。 くしくもこれが開始のきっかけとなった。 最短距離で楓は疾走する。 千鶴にとって勝負は一瞬、引き金を引くだけで終わる。 指に力を込め、トリガーを引く、引く、引く? 引けない?力が入らない。 自分の体に起こっている違和感に気付く、右腕が焼けるように熱い。 実際に目で確認すると肩が赤で染まっていた。肉が抉り取られたような傷、それを見ることによって自分が斬られたことを認識する。 ありえない。 引き金を引くよりも腕を裂くほうが早かったというのか!? 指に力が入らないために、コンバットマグナムが右手から離れた。 音を立てることなく落ちた銃を拾い上げ、千鶴に突きつける。 「…………」 楓は相変わらずの無口、笑っているように見える顔。 “一般人”が相手にするには無理があった。 「……一つ、聞いていいかしら?」 どんな行動をとっても結果は同じだろうが、絶体絶命の場面で選択した行動は“正解”にはほど遠いものだった。 「……あなたは夏美を殺した?」 それは数分前、ハルナにしたこととまったく同じ。 楓は答えることなく引き金を引いた。 【那波千鶴 死亡 残り19人】 【楓、コンバットマグナム入手】 <とある施設> 春日美空(出席番号9番)は街の中心部にいた。 そもそも、人が住んでいないこの場所を“街”と呼ぶのには語弊を感じる。 ―――――暑い 高層建築物が並ぶ中心部に熱の逃げ場は無い。 美空は特に考えることなく近くの建物の中に入った。 (あ、クーラーが効いてる!) よく考えてみる。 無人なのに冷房が入っていることはあまりに不自然、なら前提が間違っているだけでここにはクラスメイト以外の“敵”がいるのではないか? 冷汗を滲ませながらも支給された木刀を取り出す。 バスケットボールも支給されていたが、リュックがかさばるので捨てた。 美空は生存することだけなら絶対的な逃げ足のアーティファクトを装備している。また、敵の基地であるかどうかを探るという好奇心があった。 (さあ、行こう) ロビーを後にし、二階への階段を見つける。 階段を音を立てないように上がっていく。 興味一心の行動は危険と隣り合わせだ。その状況を楽しむように上へと向かう。 二階に着くとすぐに美空は“それ”と鉢合わせになる。 「こいつは!」 知っている“奴”だったから判断を誤った。今はすぐ逃げるタイミングだが、美空はそれを失った。代償はあまりに大きい。 ジュッ 光線は美空を一瞬で焦がした。肌は溶けることなく炭化する。 ―――――熱い 侵入者を処分した“それ”は黒いものを一階へ捨ててから巡回をまた始める。 【春日美空 死亡 残り20人】 <desire> 本部の屋上に到着したヘリ、降りてくる仮面をつけていた男は素顔で島を見つめる。 (ま、せいぜい頑張ってくれ3−Aの生徒達) 汗をかかないうちに施設内へ入っていく。 「着きましたか、クライアント」 「ああ、状況はどうなんだ?」 ヘルマンに目もくれず特等席に座る。不遜な態度は本部で一番権力を持っている表れだ。 「まあ、順調とかいうやつではないですか」 「そうか」 男が上機嫌に返した。 グラスにワインを注がせて、足を組み、匂いを楽しむ。 「腕輪の効果はどうだ?」 「魔法使いのと契るパクテイオーとの同調率は約80%です」 機器をいじっていた男が答える。 「まずまずだな」 男はゲーム自体には興味がない。自分が主催者であることが大切なのだ。運営に成功すれば莫大な金が懐に入ってくる。 「フッ、フフフフフッ…」 笑いを押し殺し、未来を想像する。 (そう、僕は成り上がる!僕のいるべき場所はもっと、もっと高い!) 3−Aを揺るがす壮絶なサバイバル自体は、男にとって出世の通過点でしかない。 【残り19人】 <傷弓の鳥> 「ううっ」 アキラの頬は涙で濡れていた。 みんなおかしくなっている、みんなおかしくなっている。 ―――――本当はみんなが“正常”で、私が“異常”ではないのか?殺すのが“正常”なんだ。 頭も心も整理がつくことなく、ミキサーで回されているようにいろいろな考えがよぎる。 それを紛らわすためにアキラは走り続けた。 走っていないとおかしくなってしまいそうだったから無我霧中で走り続けた。 「あっ……」 また出会ってしまった。 肩にはネギ先生のペット、腰には刀、無垢な目で私を見ている。 「見ないで……嫌、いや…」 小動物のような怯えを見せるアキラ。 環境が変わるだけで人がこんなにも変わってしまうことが考えられなかった。 彼女を救いたい、と思った。 私が手を差し伸べないと壊れてしまうから。 彼女は助けを求めている。私は勇気を出さなくてはならない。 少しずつ少しずつアキラに寄っていく 「来ないで……」 アキラは恐怖のあまり、手に持っていたナイフで横に払う。右肩から鮮血が飛び散った。 痛くないと言えば嘘になるが、こんな痛みはきっと彼女の比ではないはずだ。だから、          そのまま彼女を抱きしめた 「あ……」 「うん、もう大丈夫だから。アキラちゃん」 暖かい抱擁は確かに彼女が求めていたものだった。 当たり前だったものがこの島で失われてしまったと思っていた。けれど、温もりはこんなところにあった。 「桜子さん……、うわああああぁー」 安心できる場所を得たアキラは桜子の胸の中で泣きじゃくった。今までの出来事で貯積されていた感情が爆発した。 アキラの慟哭が止むまで桜子はアキラの頭を撫ぜ続けた。 「あ…、うっ…」 泣くだけ泣いたアキラの顔は紅潮していた。 無防備な姿を晒してさすがに恥ずかしかったらしい。俯くアキラに優しく問いかける。 「アキラちゃん、何があったのか教えてくれないかな?辛いことだったら無理に言わなくてもいいから」 アキラはいつもの顔に戻り、今までの自分のいきさつを簡略に教えた。 殺人現場の目撃、自分に対するクラスメイトの不信。信頼こそが正常でいられる条件であるのに、アキラ受けた仕打ちは人への信頼感を完全に崩しパニック障害を起こすまでになっていた。 それでも、アキラは心の奥底で人を求め、桜子と出会ったわけである。 「……アキラちゃん」 暫時の静寂を経て桜子が話しを切り出す。 「私はアキラちゃんのことを信じるから、私のことも信じてほしいな」 アキラは間髪入れずに頷いた。 心の中で崩れた信頼感は桜子によって、少しずつ新しいものに変わっていく。 【残り19人】 <ねじれ> 今、私の頭の中を支配しているものは二つ。お嬢様のことと、さっきの出来事だ。 どうしても引っかかる。 あの様子で演技をするのは難しい。 龍宮とのどかさんが銃撃戦を繰り広げていた場面も不透明な説明はなかった。作り話にしては出来が良すぎている。大河内さんは事実を言っていたのでは……? いや、話の中で引っかかることがあった。 龍宮とのどかさんの銃撃戦という部分そのものだ。龍宮は射撃のプロで素人相手に苦戦するはずが無い。 となると、この話の前提が崩れることになる。 よって、嘘だったという結果になる……。 だとしたらなぜ、バイアスロン部の龍宮を話の引き合いに出す必要があったんだ?誰だって龍宮のほうに分があると考えるはずだ……。 「刹那さん、聞いていますか?」 どうやらまた、深く考えてしまったらしい。注意力緩慢では命取りになるというのに。 「すいません、ちょっと考え事をしていて」 刹那の頭の中ではまだ“なぜ”と“どうして”がぐるぐる回っている。 「さっきのことですか?」 夕映の口調が早口になる。 「あれは狂人の戯言です。気にすることないです」 どうしても讒言の一言で済ますことができなかった刹那は問いかけた。 「本当に大河内さんが嘘を言ったように思いますか?」 二人の間に亀裂が入った瞬間だった。 「刹那さんは私のことを信じてくれていないのですね? そうですよね?私とこのかさんなら迷わずこのかさんを取りますもんね」 「お嬢様は関係ないです!!」 木乃香を比較対象に出されてつい大声を出してしまう。 「……このことを話すのは止めましょう。人を信じるかどうかはその人の自由ですし」 「…………」 それ以後二人は話すことなく街の方へ進む。 聞こえる音は二人の足音と蝉の鳴き声。わずかな音も五月蠅く感じた。 【残り19人】 【夕映、情緒不安定】 <夕日> 空は茜色に染まり、カラスの鳴き声が聞こえる。私達の顔もビルの窓で反射した夕日に照らされ紅く染まる。 「なあ、アスナ。ここには何もないな」 「えっ」 「街の形はしていても中身は空っぽ。 ここでは楽しいこともなくてさ、だた生きているだけの人間になっちまう。 私はそんなのいやだ」 「……」 「だから戻ろうな。元の世界に」 「……うん」 感慨深く明日菜は返事した。 二人の影法師はやがて闇に溶ける。残映は後に闇を導く。 【残り19人】 <第二回定刻放送> ジ、ジジッ、 「あーあー、聞こえているかい諸君。これから第二回定刻放送を行う。 亡くなったのは春日美空(出席番号9番)、早乙女ハルナ(出席番号14番)、龍宮真名(出席番号18番)、那波千鶴(出席番号21番)、葉加瀬聡美(出席番号24番)、四葉五月(出席番号30番)だ。 ヒントとしては、自殺者は一人もいない。 むやみに人を信じないことだな。 では、諸君の検討を期待する」 ブツッ、 【残り19人】 <黒か白か> 朝倉は樹海の中を移動しながら定刻放送を聴いていた。 「クッ……」 唇を噛む。このゲームに乗っている人間が3−Aにいると思うだけで反吐がでる。 「朝倉さん……」 さよも朝倉と同じ痛みを共有していた。 このゲームを推進させているものの一つが腕輪であることに間違いない。 何とか外すことはできないだろうか?これを外さなければ本部に進行するのも無理だ。 今までのゲームで首輪を外すことに成功した人が幾らかいたことはわかっている。そこで、朝倉は今まで首輪を外す方法をアレンジして腕輪はずしを試みることにした。 分の悪い博打だ。賭けるものは私の命、負けは許されない。 目指していた場所に着いた頃には空からの光が日光から月光へと変わっていた。 放送塔、島のいたるところに呼びかけることができる施設、の中に入っていく。 もちろん、ここで島全体に放送をかける気などない。そんなことしたら、瞬時に右腕が吹き飛ぶだろう。 室内で着々と準備をする。 (あ、これも置いてあるのか) 意外なことに自分が使おうと思っていた道具がほとんどあった。これなら成功率が上がるはずだ。 予想より早く腕輪を外す装置を作り上げた。我ながら見事な集中力だ。 あまり長く装置を起動させておくと本部の連中に電磁波をキャッチされる恐れがある。できるだけ短い時間で行いたい。 朝倉は深呼吸をし、間を置いた。緊張が体内を駆け巡っていく。 「本当にするんですか?」 ずっと無言で傍にいたさよが重い口をあける。 私の思いついた最善の方法、いまさら引けない。 「する。自分で決めたことだからね」 穏やかな声で答える朝倉。内に秘める思いは強く燃える。 あえて茨の道を進む。その先に待つものを知るため、いや、その先を自分の手で切り開くために……。 手早く装置を起動させ、腕輪解除のスイッチを強く押した。 【残り19人】 <集まる者たち> 夜の帳に包まれた街、夜になることで生気のない場所だとわかる。 頼りとなる光は月明かりと街灯だけ、建物からこぼれる光はない。 そこに足を踏み入れているのが明日菜と千雨だ。 「なんだ、あの建物は?」 学校の体育館をさらに大きくした形、街の中ではなんとも異質な建物は二人の目を引いた。 「千雨ちゃん…気になるの?」 「な、べっ、別に」 図星を付かれて顔を赤くしながら否定する千雨、明日菜にとって初々しい光景だったため笑ってしまう。 「じゃあ、行ってみよっか!」 「おいアスナ!人の話を聞いてるのか?」 「まあまあ」 明日菜の手に引っ張られ、その倉庫の中へ消えていく。 すでに先客がいることも知らずに。 確かにあの中へ人が入っていった。 様子を影から視察していた楓が出てくる。向かう所は倉庫。 楓は二人とは別の場所から建物内へ入っていった。 楓のクラスメイト狩りに終わりはない。 新しい玩具を手に入れた気分だ。今度は簡単に壊れないものがいい。 ―――――大丈夫、お楽しみはこれから、まだ夜は始まったばかり。 【残り19人】 <倉庫探索> アキラの持つ懐中電灯を頼りに暗い中を進んでいく。前を行くのがアキラ、後ろに桜子だった。 もしこれが学校の行事の肝試しだったりしたら怖いとか思うところ、でも暗闇に対する恐怖心はまったくない。 そんな実在しないものより、今実在する殺人鬼の方がよっぽど怖かった。 足音を消しながら歩いていくと吹き抜けた広い空間に出る。地面には木箱、段ボール箱が幾許も置かれている。 「ここって……」 桜子は密封されていない段ボールを上から覗いてみる。 入っていたものは爆弾だった。 アキラの調べた箱にはマシンガン、隣の箱にも爆弾、その隣には拳銃、マシンガン、爆弾、爆弾、ナイフ、拳銃、etc……。 ここはおそらく、 「武器庫ですね」 第三者の声に箱のアサルトマシンガンを手に取り、声の主へ向ける。 「私に敵意はありません、下げてください」 闇から出てきたのはデザートイーグルを装備したロボ、絡繰茶々丸だった。 「武器庫……」 その意味くらい桜子にだって解る。だた、今まで私達がいた世界とはかけ離れていた。 「おそらく私たちの武器はここから……」 茶々丸は話を中断し、警戒を強める。 「他にも、誰かがいます」 デザートイーグルを利き腕に持ち替える。 闇に紛れるものの先制攻撃によって開戦した。 【残り19人】 【アキラ、桜子、アサルトマシンガン(×2)入手】 <見張り制> 円、裕奈、亜子、木乃香の四人はここで一夜を明かすことに決めた。 理由としては、夜は視界が狭いために何かしらの“間違い”が起こりやすいからだ。奇襲を受けることもあるかもしれない。 そしてなにより、精神的疲労が激しいので移動する気にはなれなかった。 ここでより安全に過ごすために出てきた案が見張り制だ。 一時間ごとにドアの外に立つ見張りを交代していく。 武器は皆、銃器を一つずつ持っていたので困ることは何もなかった。 始めに円が部屋の外へ出る。森へ入ってくる夜風だけが島の過酷さを少しだけ忘れさせてくれた。 「はぁー」 今日一日分の溜め息をつき、上を向く。見上げた空には枝の隙間から見える星空、そして欠けた月。 昔、人が死ぬと星になると信じていたことがあった。美しい夜空を見ているとまんざらでもない気がする。 美砂はもう地上にはいない。もしかしたらこの空のどこかで輝いているのかもしれない。 円の目から一筋の“それ”が流れた。 激動の一日で親友の死を悲しむ時間さえ円には無かった。 (今だけ泣いてもいいよね?) 円は一人、静かに美砂を偲んでいた。 【残り19人】 <決意の委員長> ネギとあやかは森の中を彷徨っているうちに暗くなってしまった。 途中で何度か視線を感じたが多分気のせいだろう。 結局、クラスの誰にも合うことなく大樹の下で休んでいる今に至る。 リュックにあったパンと水筒を取り出す。 「ネギ先生、飲んでくださいね」 遠慮がちのネギに半強制的に水を飲ませる。パンも半分にちぎって手渡しした。 手に残ったパンを頬張りながら今後について考える。 辺りが暗くなった今、無闇に行動するのは憚られる。 もしゲームに乗った誰かが闇に乗じて襲ってきたら? そう考えると近くにある安全な場所、できれば建物内を確保したい。 (野宿は避けたいですわね) 私はいいとしても、隣にはネギ先生がいる。せめて睡眠くらい遠慮することなくとってほしい。 ネギが最後の一切れを食べ終わったので、あやかは立ち上がる。 「もう少しだけ頑張りましょう」 「ええ、僕は大丈夫ですから」 あやかの足でも棒になってしまっている。なら、ネギの足は当然……。 長い距離を歩くことなく良い場所を陣取るため、とにかく明るいほうへと向かった。結果として大して歩くことなく灯りのついた小屋を見つける。 安全か危険かもわからないパンドラの箱へネギを連れて行くわけにはいかない。 「ちょっとだけ待っていて下さい。すぐ戻ってきますから」 「ぼ、僕も行きます!あやかさんだけでは危険です!」 さすがはイギリス紳士、女性を守るのが義務であるといったところか。 簡単に引き下がってはくれなそうなので強く言う。 「先生は武器を持っていません。私は武器を持っていますから自分の身くらいなら守れます」 婉曲な言い回しをしたつもりだった。 「……はい、わかりました」 ネギは自分が足手まといであることを言葉から察した。 あやかは死角を利用して建物の傍までくる。聞こえてきたのは男たちの話し声だった。 【残り19人】 <不完全> 材料になりそうなものを集めスタート位置の海の家に戻ってきた。 エヴァは自分の家と同じく入っていく。空気の逃げ場がなかったために熱気が外へと出ようと肌に張り付いてくる。なんとも不快な気分だ。 (人間の体は不便なものだな) エヴァは一通り窓を開けて空気の入れ替えをした。 畳が広がる部屋から出て、台所へ向かう。 埃を被っていたが食器があり、ガスなども通っていて使用することもできるだろう。 集めたものを鍋の中に放り込み、コンロに火をかける。手元の包丁で自分の指を少し切って鍋の中へ数滴垂らした。後は待つだけだ。 いつもとは違う精製法で不完全、しかたないことだ。 ナギに魔力を抑制されてから私は真祖でも人間でもない“不完全”となった。 大人の精神と子供の身体、不釣合い極まりない。 異端はこの世から排除されるのが世界の規則だがじじいはそうしなかった。 私は麻帆良の中等部に編入された。 能天気な中学生たちを見ていると時々、人間にも吸血鬼にもなりきれなかった自分が嫌になる。 ―――――私はただ気に入らなかった。 奴らには未来があっても、不死身で時間概念の薄い私には未来とは無味乾燥な世界に過ぎない。 私が人間でなくなった時から冷たい世界へとなった。 昔の私にはそんな事はどうでもよかった。 私の傍にはナギがいた、それだけでよかった。 だが、奴は私の前から消えていった。 よりどころをなくし、冷たい世界を実感する。そして、私は目的もなくただ生きる存在となった。 今の私にとって生きていることも死んでいるのも大した変わりはない。 「……」 靄のかかった思い出は台所の光景に変わっていく。 少々寝てしまったらしい、こんなときでも私の体は睡眠を要求する。 エヴァはコンロの火を止める。 出来た魔法薬品を容器の中へ入れ、この場を後にした。 【残り19人】 【エヴァ、魔法薬品生成】 <急襲> 敵との距離は30mほど、小屋の大きさから多くても三人くらい。見張りの者に警戒心はまったくと言っていいほど見られない。 「おい、俺の分のカップめんもよろしくな」 距離を縮めていっても見張りは中の奴と話しているだけだ。 あそこにいる男は見張りの役割をまったく果たしていない。 あやかは散弾銃を取り出し、死角から飛び出す。見張りにとってはまったくの不意打ちとなる。 「な!」 いや、銃など要らなかった。右手を掴み、護身用の合気道で相手を投げ飛ばした。 「がっ……」 何もできないまま見張りは意識を失った。 次に中の様子を窺うためドア付近で待機する。 「おい、お湯が入ったぞ」 中からカップラーメンを持った男が出てきた。 なんと不用心、男は身の危険などまったく感じていなかったのだろう。 ドアノブを掴んでいた男の手を引っ張り、前のめりになった男の頭に一撃。 それだけで戦闘は終わった。 倒れている男たちから武器を回収する。持っていたのはナイフと拳銃だった。あまりにショボイ武器、何故? どうでもいい考え事は油断となった。 「誰だ!!お前」 頭に拳銃を突きつけられる。 その男はたまたま小屋の裏にいて、不信な音を聞きつけ様子を見ていた。 「何で“参加者”がいるんだよ!ここは危険区域で近寄れないはずだ」 男の言っている意味がよくわからない。危険区域は本部付近だけでは…。 「まあいい、死ね!」 避けること、抵抗することもできない状況にあやかは死を確信した。 一秒後には見るも無残な姿と成り果てるだろう。 「あ、あれ?」 なのに、死ぬことはなかった。男は完全装置を外しきれていなかったので弾丸は発射されない。 振り向き、迷うことなく投げ捨てた。 迷彩服の連中が戦闘に関してまったくの素人であることをあやかは身をもって感じるのだった。 【残り19人】 【あやか、詰所制圧。サコー、ファイブセブン(ともに拳銃)、果物ナイフ入手】 <偽りの友> 話一つ無く歩く二人、刹那と夕映がそれである。闇雲に先行する夕映、刹那はそれに連れられていく。 もう、一緒にいる理由はなかった。離れる理由もない。 理由もなく一緒にいることは苦痛でしかない。 亀裂というものは一度入ってしまうと元に戻すことは不可能だ。それは次第に悪化していき最後には崩れ去るのみ。 “崩壊のきっかけ”は街灯の光が森に差し込み始めたときに起こった。 やっと住宅街が見えてきた。 刹那といえども疲労はたまっていた。休みたいのもやまやまだが、木乃香の安全を確認できるまでは自分の欲を封印する。 (誰か来る) 街灯に照らされ、二人とは反対方向から誰かが来る。夕映はすぐに駈け出した。 「のどか!」 のどかの弾ける笑顔を見て刹那の心臓の鼓動は早くなった。 のどかは笑顔で夕映との再会を祝っている。取り残された刹那は正直に心中の疑問をぶつけることにした。 「のどかさん」 二人とも刹那のほうへ顔を向ける―――――少しだけ、寒気がした。 「せつなさんも無事で何よりです」 「はい……。ところで……」 迂言なく本題に入る。刹那の声のトーンが一つ落ちた。 「のどかさんは真名を襲いましたか?」 のどかはいつもと変わるような様子はない。逆に怖かった。 「はい、襲いました」 抑揚もない声、ただ言葉にされただけ。そんな印象を刹那は持った。 「どうして襲ったんだ」 刹那が口調を変えてものどかは動じない。 「ルールですから」 ルールだから仕方なく?普通の考え方じゃない! 大河内さんの情報が真であることが克明となった。 刹那の体が沈み、いつでも踏み込める体勢になる。 「せつなさん、私のこと殺すんですか?私は龍宮さんを殺していません。そんな私を殺すんですか?」 確かに真名を殺したのは楓だ。のどかさんを切る必要などはない、いや、本当にそうなのか? 今の刹那には決断力が足りない。 「あまいですね、せつなさん」 のどかの後ろからコルト・ガバメントを持った夕映が姿を現す。さっきまで一緒にいた人が自分に銃を向ける。 それでも斬れなかった。 あんなに優しかった人たちがこんな姿になってしまうことが信じられなかった。 「私は……のどかの味方です!」 狂った友情を取った夕映。 ―――――撃つ、のどかの敵を撃つ。 引き金を引くのに力はいらなかった。 「くっ!」 一発撃ってから、夕映の攻撃は激しくなっていく。 結局斬れなかった、刹那は被弾することなくこの場から逃げた。 「はぁっ、はぁっ」 自分自身に不安が残った。 たとえ銃を持っていたとしてもあの二人なら殺すことができたはずだ。こんなことでお穣様を守れるというのか? 「私は……あまいのか?」 のどかが告げた言葉を口に出してみる。疑問に答えるものは誰もいない。 刹那は明日菜たちといることで、お嬢様を守るために斬ることができなくなってしまった。 【残り19人】 【夕映、精神崩壊】 【刹那、精神的疲労】 <影との戦い 前> 「千雨ちゃん、今の……」 「ああ、銃声だな。ちょっと急ぐぞ」 倉庫に入ってすぐに銃声が聞こえた。ここで誰かが襲われているのかもしれない。 全速の明日菜についていく千雨、体は運動部に見違えるほど軽い。 互いに銃器を持って倉庫らしい空間へ出てくる。目にしたものは闇に襲われる三人の姿だった。 (誰なの?わからない) 明日菜の目には複数の人が三人を襲っているように写る。どんなに目が良くても、暗くてそこまでしか見えない。 隣にいた千雨が声を上げる。 「おい!お前、長瀬楓だろ?」 腕輪は動体視力をも向上させていた。 五つの影は動くのを止める。それらはすべて長瀬楓だった。 「どうして!楓ちゃん」 明日菜には楓がゲームに乗る意味がわからない。 「…………」 楓の口元が薄く切れ込む、血が凍る笑み―――戦慄が走る。 「アスナ!あいつはダメだ。もう狂っている」 千雨の言っていることは紛れもない真実、クラスメイトを危険に晒すなら容赦はできない。 三人の所へ向かうために突撃する。千雨は銃剣、明日菜はハマノツルギに持ち替えた。迎え撃つ楓の分身に応戦し、合流に成功した。 「茶々丸さん、桜子、大河内さん!」 三人とも明日菜に返答する。何とか無事のようだ。 桜子の肩にはネギの相棒、カモの姿があった。 (妲さん、無事でなにより) (ええ) 二人の間だけでコミュニケーションをとる。 「再会を喜んでいる暇は……なさそうね」 楓は素手でありながら互角に戦っていた。 皆は敵を見据える。目を逸らしただけで狩られそうだ。 獣は五人に襲いかかった。 【残り19人】 <影との戦い 中> 楓の攻撃は嵐と呼ぶに相応しい。 ただでさえ抜群の運動能力を誇る楓が五人もいるのだ。プラス腕輪により、能力は倍増されている。 こっちには五人いるといっても、白兵戦慣れしているのは明日菜と茶々丸しかいない。劣勢であることは目に見えていた。 「アスナさん!分身の攻撃は大した威力はありません」 「わかってる!けど」 ハマノツルギは霊体にはめっぽう強いが、人にはただのハリセンでしかない。また、明日菜の攻撃は楓に当たることなく防戦一方だ。 (まずっ) 明日菜の一閃をさばきながら放たれたカウンターを受けて壁に叩きつけられる。 「アスナ!」 明日菜の防御が開き、数人の楓が戦えない三人へ向かう。アキラは向かってくる狂気へ弾丸を撃つが止まることはない。 「桜子さん、危ない!」 アキラは無心で桜子のカバーに入る。桜子に直撃するはずだった蹴りはアキラの脇腹を捉えた。アキラは後ろに数メートル飛ばされた。 格闘大会のときからこのクラスには人外じみた能力を持つ奴がいることを千雨はある程度察知していた。 (思っていた以上にバケモンとはな) 銃は当たらない、分身はする、なんかの体術を心得ている……勝ち目など最初から無い。 だったら全員でどうにか逃げるしか……そんな都合のいい話は……。 「長谷川さん、皆さんを連れて逃げてください」 誰かが残って囮になる……それしかない。 茶々丸の一言は千雨を困惑させた。 「茶々丸さん、……あんたはどうするんだ」 「私は単独で離脱します」 そうか、死ぬのか。 私を贄にしてあなたたちは助かれと、このロボットは言っているのか。 「……すまないな」 千雨は気絶している明日菜を背負った。次に桜子達の所へ向かう。 「お前ら!逃げるぞ!」 「ちょ、茶々丸さんは?」 「今は説明している暇は無い。行くぞ!」 千雨は聞かれたことをはぶらかし、行動を急がせた。 緑色に光る所、非常口を見つけて四人は外へ出た。 楓は追従しなかった。気が変わったからだ。 今逃げた奴らはいつでも抹消できるだろう。 それに比べてすぐ前には一番歯ごたえのある標的が残っている。 獲物はデザートイーグル。一撃必殺の威力。相手に不足はない。 楓は分身を消して一人になった。 「長瀬さん、なぜ貴方ほどの人がゲームに乗ったのですか?」 音一つしない黒の世界。静寂が続いた。 「答えてくれないのですね?わかりました。 失礼します」 楓はナイフを持ち出す。漂う雰囲気はアサシンそのものだ。 闇の中で二つの影が交差した。 【残り19人】 <影との戦い 後> 茶々丸の装甲が薄い所、関節、顔を狙う楓。 それを持ち前の体捌きで避ける。ブーストを点火し威力の高いパンチ、身を翻すも楓の肩に直撃し段ボールの山へ突っ込んだ。 ここぞとばかりにデザートイーグルを発砲する。弾丸は埃が舞う段ボールの山めがけて兆速で飛んでいく。 「…………」 茶々丸は埃の中を見ている。まだ、楓が出てこない。 (敵熱源、察知不能) 茶々丸が一歩だけ前に出る、それを楓は狙っていた。埃の中から飛んでくる血色のナイフ。 空気を裂く刃は見事に茶々丸の胸に刺さった。 「軽傷、行動に支障なし」 楓は勇敢(無謀)にも最短距離で突進してくる。 八発のうち七発はもうない――――それで十分。 ナイフが胸に刺さったまま残りの一発を撃った。 銃弾は防御に差し出した左腕を貫通し、止まった。 胸にしまってあったエアガンが銃弾を止めたのだ。 楓は懐に入り込み、刺さったナイフに掌底を打ち込んだ。 「あっ」 刃が見えなくなるくらい深々と刺さったナイフは装甲を貫いた。 それでも茶々丸は機能を停止せずにデザートイーグルを捨て楓の右手を掴んだ。 「あなたを……生かしておくわけには、いきません」 「…………」 楓は相変わらず無口で無表情だ。 「コード、Self-destruction(自爆)」 「……!!」 さすがに楓の表情も険しくなる。死を顧みずに向かってくる相手ほど恐ろしいものはないだろう。 「長瀬さん、私と共に消えてください!」 「……」 余裕があるのか、また楓は無表情になった。 (マスター……、すいません) そして、建物を揺るがすほどの爆音が響いた。 爆破は段ボール内の爆弾に着火し誘爆を生んだ。 建物の外で佇む姿が一人。長瀬楓本人だった。 左腕は重力に負けてブラブラと揺れている。さらに、左半身が重度の火傷のためか痛みがない。 死ななかっただけマシといえるだろう。 少し休息が欲しい 楓は右足をフル稼動で動かし、この焼跡から去った。 【絡繰茶々丸 死亡 残り18人】 <真の教師> 三人の男をロープで縛り付けて物置へブチ込んだ。命があるだけ運がいいと思ってもらいたい。 安全となった小屋へネギを引き連れていった。敵の施設だけあって、食べ物、照明、ベッドまで常備されていた。ネギ先生も安睡することができるだろう。 パンだけでは食べ足りなかったので手始めに食事を作る。世の中にはカップラーメンという便利な保存食があるが、私は作り方を知らない。 パッケージを読み手順通りに作る。手間のかからない料理だった。 先生と共にラーメンを食べる。美味しい物でなくても、ネギ先生は笑顔で食べてくれた。 とても嬉しかった。 食事が終わってからは特にやることが無い。 「ネギ先生はここで寝ていてください」 「あやかさんは?」 「私は見張りをしていますので、何かあったら呼んでください」 ネギは納得がいかなかった。 これ以上あやかさんに迷惑をかけたくない。 「僕も見張りをします!」 あやかはもう一度ネギを説き伏せようとする。 「先生は武器を持っていません」 「だから、あやかさんの武器を僕に下さい!」 「それはできません。先生には危険です」 あやかの厳しい表情に狼狽することなくネギは話す。 「僕は記憶がありません。だけど、記憶が無くても僕は3−Aの先生です! 先生は生徒を助けるのが務めですから。 このまま守られているだけなら僕は先生なんかじゃない、ただのお荷物です! あやかさん、僕も戦わせてください!僕は自分の手でクラスを守りたいんです!」 見つめ合う目と目、あやかはネギの決意を受け取った。 「わかりました」 部屋に落ちていた防弾チョッキとさっき奪ったサコーを手渡しする。 ネギは記憶が無くてもネギのままであった。 【残り18人】 【ネギ、防弾チョッキ、サコー入手】 <爆破?> 監視施設にて、 「腕輪の反応が消えました。死亡したのは出席番号3番朝倉和美です」 「一人でいたみたいだな、自殺だろう」 「場所はC−3です」 「放送塔の所か……」 施設責任者の男は島のあらゆる場所が写る画面をまじまじと見ていた。 【残り18人】 <追い討ち> 倉庫からの爆音が聞こえたとき明日菜たちは500mくらい離れたところにいた。 「いまのって……」 「倉庫からの爆音だな」 千雨が冷静に言い放つ。 「それじゃ、茶々丸さんは……私、行ってくる!」 桜子が来た道を戻ろうとする。 「おい、やめとけよ」 しかし、千雨がそれを阻んだ。 「どうして!」 「あいつは私達を生かすために囮になったんだ。それなのに戻ったら本末転倒だろうが」 「でも、ほっとけないよ!」 千雨は黙っていたが、 「勝手にしろ、私は行かない」 と言い、逆方向を向いた。それを聞いて桜子とアキラは武器倉庫に向かった。 明日菜の傷は軽傷で済んでいた。 「行かないのか、アスナ」 「うん。楓ちゃんの力は異常だよ」 千雨は考えてから、 「ちっ、やっぱり倉庫に行く。あいつが生きていて、その場にいるかもしれないからな。 もし生きていたら、私らであいつに奇襲を仕掛ける。勝つにはこの方法しか無い」 結論を出した。 「なんだかんだで優しいんだよね、千雨ちゃん」 「うるさいぞ」 二人が倉庫に向けて駆け出そうとした時、森の方から聞きなれた声がした。 「アスナさん!」 振り向くと、息を切らしているのどかと夕映がこっちに向かって来ていた。 「二人とも、無事?」 二人に手を振る。それに応じるように手を上げるのどかと夕映。 「は、はい」 「大丈夫です」 明日菜はこの二人が危険人物であることなど想像だにしていなかった。 【残り18人】 <馬鹿ね……> 明日菜たちはいろいろ話しているのに、千雨だけが一人取り残されていた。 おかしい、こいつらの何かがおかしい。 なんで宮崎はブレザーを着ていないんだ? ―――――汚レタカラ処分シタンジャナイノカ? なんで右手を隠しているんだ? ―――――アレヲ持ッテイルカラジャナイノカ? 悪い予感は不安となり着実に千雨の精神を蝕んでいく。 我慢できなくなり千雨は自分の直感を口にした。 「アスナ、そいつから離れるんだ」 千雨はのどかに向けて銃を構える。 「え、千雨ちゃん、何してるの?」 千雨は問いかけに答えることなくのどかから目を離さないでいる。 「本屋ちゃんのこと疑ってるの?あははは、ないない、絶対無いよ」 千雨の真剣な眼差しを見ても明日菜にはまったく危機感がないままである。 「おい、右手に隠し持っているものはなんだ?」 のどかを敵意を持って睨むが、笑顔のまま動じない。 のどかは注文通り右手を前に出す、そこにはしっかりとコルト・ガバメントが握られていた。 手は何かで赤く染まっている。 「えっ?うそ……」 じゃあ本屋ちゃんはもう誰かを……? 近距離から撃たれた二発の弾丸は確実に明日菜を捉えた。 「……ぐ……ふっ」 内臓に穴か開き、血が喉から口へ逆流する。堰き止められることなく外部へ排出された。 あまりの光景に千雨の時間が少しだけ止まった。 「てめえ!」 引き金を引いたが敵はなぜか離脱、追うこともできたが怪我人を置いていくわけにもいけない。 「おい、アスナ!」 大量の赤いペンキが流出している、それは絶望的な光景だった。 鼻腔から入る血の匂いはあまりに現実的だ。 手を傷に置いても血は止まらない。暖かい血は空気に触れ少しずつ冷めていく。 「ははは、ごめんね千雨ちゃん…。迷惑かけて」 「ああ、まったくだ」 「……私…馬鹿ね……。簡単に信じて、裏切られて…」 「ああ、お前は馬鹿だ。 でもさ、お前の良いところでもあるな」 そう、短い付き合いでも明日菜のことはよくわかっているつもりだった。 クラスに馴染まなかった私を信頼した明日菜、最初からこいつは馬鹿だった。でも千雨は自分にはない性格に惹かれていた。 「泣いてるの…、千雨ちゃん?」 「そんなことどうでもいいだろ?些細なことだ」 出血の量は減っている、体内の血が出すぎたのだろう。 「あり……がと」 顔は笑顔から眠ったような顔に変わった。 さっきまで手にあった温もりはもうない、あるのは一つの冷たい体。 【神楽坂明日菜 死亡 残り17人】 <シャドードール 前> 刹那はのどかと夕映を仕留めること、戦うことすらできなかった。 自分は本当に大切な人を守ることができるというのか?甘い自分を捨てなければならなかった。 それは必須、必然といえる。 「私は……」 刹那の気分は優れない。夕映の件で受けた精神的なダメージが大きかった。 それは注意力欠如となって表れることになる。 住宅地から商店街へ入っていく。刹那は相手のテリトリーに入ってしまっていることを知るわけもない。 商店街の中間にさしかかったときに異変は起こった。閑散とした場所に突如降りかかる天空の槍、呆けていた刹那は反応が一瞬遅れた。 刹那の腕に掠ったのは柳刃包丁、血が滲んでくる。 敵は攻撃の手を緩めずマシンガンさながらに飛んでくる。 弾となるのは鑿、鋸、釘、クナイ、出刃包丁といった鋭利な凶器。それらが際限なく刹那へ襲い掛かる。 ―――ヤレヨ。 速いスピードと弾丸が多すぎるためすべてを斬ることができない。刹那は体の重要な部分を狙うものを優先的に打ち落とす。 ―――コンナ奴楽勝ダロ? 避けきれなかった凶器が刹那の体を削っていく。このままではジリ貧だ。 ―――ヤレヨ! 誰だか知らないが本気でいけば敵ではない。 二秒あれば勝負はつくだろう。 それでもお前はやらないのか? 臆病者め!クラスメイトを殺すことが怖いのか? いいや、そんなはずはないだろ? お嬢様を守るためには何だってするんだろ? 殺人鬼にでもなれるだろ? 昔、お前はそう誓ったはずだ! 不甲斐ない昔のままでいいのか? また後悔してもいいのか? 愛しのお嬢様が今襲っているこいつに殺されてもいいのか!! ―――――“お嬢様”ガ殺サレテモイイノカ? 脳の回路に電撃が走る。ハンマーで殴られた衝撃にそれは近い。 守るために奪う、仕方がないことではないか。 「そうですね……、少しばかり戯れましょう……」 一人、誰にも聞かれることなく表明する。 刹那は覚醒した。 【残り17人】 【ザジ、クナイ、大工道具等所持】 <シャドードール 後> 敵の陣地では不利だ。けれど、闇の中で蠢く狙撃者を倒せと脳内が命令を下す。よって、刹那に退却の選択肢はない(だいたい、相手が退却を許さないだろう)。 血で汚れた制服を動きやすくなるように破く。 普段なら見た目なども気にするところだが、ここは戦場の地、世間体など存在しない、あるのは己と相手のみから成る命のやりとりのみ! 刹那は目を閉じる。無の境地と言えるだろうか、風に舞う木の葉のように襲い掛かる牙を避けていく。 相手の運動能力がいかに向上していようとも、その獣染みた殺意を読み取るのは容易だった。 もう迷いは……ない。 敵へ向けて跳躍、いや飛んだ、というほうが正しいだろう。 ザジは急に視界に飛び込んできたものをどうして理解できようか?身の安全を置ける距離を保っていたはずなのに、なぜ? この暗黒空間に刹那の凛とした声が通る、 「許せ……、罪は地獄で償おう」 刹那がザジの体をすり抜ける。その際に放たれたその刃は美しいの一言だった。 刹那だからこそできる芸当、ザジの体を捉えた。 一滴の血も出ることなくザジはその場に倒れる。 刹那は自分の意思で他人の命を奪った。 沸騰していた血がクールダウンしていく、つれて頭の中も冷めていく。 刹那の足元にはザジと言う名だったマリオネットが放置されている。 「私は……殺してしまったのか……」 自分の意思で相手を殺すこと、それがいかに辛いかが身に染みて分かる。 私は最善の方法をとった(本当にそうか?)。 殺さなければ、新たな被害者が出ていたかもしれない(ただの私欲じゃないのか?)。 後悔なんかしていない(それならなぜふりかえる?) 自分自身の手を見る。相手の血も付いてなく、いつもと何ら変わることはない。 クラスメイトを殺すことで、力の抑制は緩んだ。それでも、刹那は自分の体が重くなったと感じるのだった。 【ザジ・レニーデイ 死亡 残り16人】 【刹那、多数の切り傷、疲労 クナイ(×2)入手】 <つぐない> 倉庫は跡形もなく吹き飛んでいた。 おそらく二人とも無事ではないだろう。 「茶々丸さん……」 「戻ろう、桜子さん。二人とも心配しているかもしれない」 「うん……」 そして、二人は来た道を戻っていった。 桜子は目を疑った。 目の前には呆然と立ち尽くす千雨と横になっている明日菜がいた。千雨の右手には銃剣。 「ち、千雨ちゃん?どうしたの?」 「アスナは宮崎のどかと綾瀬夕映に殺された」 千雨は冷たい声で答えた。 「また宮崎さんが……」 アキラのこの一言は失言だった。ピリピリした空気が森を走る。 「“また”だと! おい、宮崎のどかが狂っていたことを知ってたって言うのか!」 千雨の表情は一変し、アキラを睨みつける。 「知ってた。……ごめん」 「はっ、ごめん?それを私達に伝えていれば、アスナは死ななかったかもしれないんだぞ! それをごめんの一言で済ませるのか!!」 千雨は凄い剣幕でアキラに迫る。 「千雨ちゃん、落ち着いてよ! 今までに私達が話す時間なんてあった?ないでしょう! 私達は楓さんから逃げるので精一杯だったよ!」 桜子が止めに入る。 「……ちっ、」 それからしばらく会話がなかった。 「おい、おまえら」 その沈黙を破ったのは千雨だった。 「これからアスナを埋めてやるから手伝ってくれ。こんなところに放置もできない」 二人は静かにうなずいた。 【残り16人】 【千雨、S&W、単3電池入手】 <月夜> 「お嬢様……、お嬢様……」 足を引きずりながらも前に進む刹那。 目指す場所も分からないまま、ただ前に進む。 ザジ戦での負傷は深刻だった。 足から手からは血が滴り落ち、量は自分の歩いた道が判るほど。身体の所々にはまだ釘が刺さっている。 それを気にすることなく刹那は歩き続ける。 「お嬢様……、お嬢様……」 森の中に入り、足場が悪くなる。蔓に脚を引っ掛け転んでも、すぐに立ち上がり歩き出す。 頭の中は木乃香のことしかなかった。他の事を考えられるほど血の量は多くない。目は開いていても何も見えていない。 「お嬢様……、お嬢……さま……」 足が前に進むことなく、その場に倒れる。 真上にある綺麗すぎた月。その金色の光は島を妖しく照らし出す。 【残り16人】 <スナイパー> 「ゆーな、交代」 亜子がコテージから出てくる。入れ替わりで裕奈は中へ入っていった。 浅くながら寝ていたので、目が暗闇に順応しない。目を擦って眠気を覚まそうとする。 (眠いわ〜) 中途半端な睡眠をとったのがいけなかった。時の経過が意識できないほど睡魔に襲われている。どうにも頭が冴えなくて自分たちが殺し合いの中にいることを忘れてしまっている。 パンッ 遠くで銃声が聞こえた。またどこかで一つの命が失われたのかもしれない。   パンッ さっきより近くでまた聞こえた。 (あれっ?) なんだかお腹が温かい、どうしてだろう。 (私、撃たれたん?) 音の距離感がわからなかった。 倒れながらも顔を上げると、遠くに逃げる誰かが見えた。 画面が白くなり、上げた顔は力なく地面に落ちた。 大きな銃声で目が覚めた。すぐそこでした音に悪い予感ばかり頭につく。 円と木乃香を起こしてドアを開放した。 「亜子!?」 残されていたのは目を瞑っている亜子と家に刺さったライフル弾。通常よりも鋭く尖っているライフル弾は亜子の体を突き抜けていた。 「亜子ちゃん、どうして!こんな酷いこと誰が!」 木乃香は看護セットを広げ、使えそうなものを急いで探し出す。円も看護セットを漁る。 「あっ…」 裕奈は手をとるがすでに人のものではなくなっていた。 冷たい手、医者でなくて人の生死が見て取れることを知ってしまった。 案の上、鼓動はもうなかった。 「亜子……逝っちゃったんだね」 亜子が生き返るなら何でもしようと思った。 それは叶わない願い。 人はいつだって無力だ。 【和泉亜子 死亡 残り15人】 <猿猴捉月> ハアッ、ハア、ハア……はは、あははは! 殺した。私でも殺せた!私は強くなった! 武器の強さが生き残れるかどうかを決める。このライフルさえあれば四人くらい……。 史伽の心は黒い何かで染め尽くされていた。 「あと四人、……四人殺せば」 「四人殺せばどうなるんだ?」 不意に後ろから声が聞こえる。そこには岩に座しているエヴァがいた。 ―――――いつからいたのか? 「ふん。いつの時代も人間は愚かなものだな」 面倒くさそうに立ち上がり岩から降りる。 先ほど作成した薬品を適当にばら撒くと辺りが凍結し、氷が発生する。 仕組みがわからない現象は知らない者にとって恐怖の対象となりうる。 マズイ、アノ人ハ危険、危険、キケン! ダカラコロス。イチハヤクコロス。スグニコロス。 ライフルをむけて撃った。 発射された三発の弾丸はエヴァの胸を、貫かなかった。弾はエヴァによって操作された氷に阻まれ止まっている。 薬品を撒いた時点でエヴァが先手を取っていた。 氷は槍と化し、史伽の胸へと伸びていく。ライフルを持っている史伽に機動力はなく槍から逃れることはできない。 刺さった、深く刺さった。異物が体へ進入してきた。 「あ……、」 鋭利な物に貫かれ、何も考えられない。自分を支える力も無くなり史伽はうつ伏せになった。 朦朧となりながら亜子を撃ったことを思い出す。 (どうして私、亜子さんを殺したんだろう?) 私は自分に負けたんだ。弱い自分にも勝てなかった。自分のことしか考えられなかった。だから銃を見つけた時、黒い考えに染まった。 死が迫る中で自分が道を踏み外したことを知る。 もし別の道を進んでいれば……? そこで、思考は止まった。 氷は溶け凶器はなくなった。水は血と混ざり体から流れ出る。 「…………」 エヴァは人を殺すのは初めてではなかった。 なぜ私はこいつを殺した?こいつが私のことを殺そうとしたから?違う。 ―――――苛々していたから。 私は大した理由もなく目の前にいた奴を殺したのだ。見境ない殺人は殺戮と呼ぶ。 「……馬鹿馬鹿しい」 居心地悪い場所からエヴァは離れていった。 【鳴滝史伽 死亡 残り14人】 <切り札> 腕輪は床に落ち、ゴトリと音を立てた。 「この勝負、私の勝ちみたいね」 「朝倉さん、すごいです!腕輪が取れましたよ!」 もしさよに実体があったなら、二人は抱き合って喜んでいたことだろう。 「さて、作業も終わったことだし、チャッチャと出よっか」 潜伏する場所としてはそこに見える教会でいい。 ただの小型爆弾となった腕輪を捨て階段を下がっていく。 知らない場所で迎えた夜は、ただ夜が“ある”だけで人々に恐怖を与える。 加えてここは殺人が法的に許容された場所、闇を見れば複数の視線を感じる(それは妄覚でしかないが)。 朝倉は裏口からその夜の森へ再び入っていく。 注意深く進んでいくとさよが朝倉の所へ戻ってきた。 「人が倒れています!」 先を行くさよは倒れている人を発見していた。朝倉が駆けつける。 「桜咲か!おい!」 さらされている素肌は痕跡が目立ち、所々は何かで抉られている。 衰弱しているものの息はしている。顔は悪夢を見ているのか苦痛の表情を浮かべている。 刹那ほどの戦闘能力でもやられてしまう、想像を絶することが島で起こっている。 「さよちゃん、また先を見てきてくれるかな」 「はい!」 気絶している刹那の肩を抱き運ぶ。 月光を浴び眩惑的に輝くステンドグラスが朝倉を手招きをしていた。 【残り14人】 <間接的な死> みすぼらしい教会は大聖堂の他に三つの部屋があった。食料のある部屋、寝室、私用の部屋である。 ベッドに刹那を寝かせて朝倉は冷蔵庫のある部屋に行く。 「なんか食べ物は?っと」 部屋に入るとドアがひとりでにゆっくりと閉まった。 (風が吹いている?) 僅かながら隙間風がある。ここには窓がない、ということは? (隠し部屋がある?もしかしたら監視施設、管理塔のどちらか?) 隠し部屋はやましい理由がなければ作るわけがない。壁を叩いてみるとコンコンと音が聞こえる場所があった、この先は空洞になっている。 近辺を探ると朝倉の考えた通り仕掛けがあった。 この先は危険が伴うだろう。できれば刹那を味方にしていきたい。 「朝倉さん!桜咲さんが起きました!」 さよが走ってもいないのにハアハアと息を切らせて部屋に入ってくる。 冷蔵庫で食べ物を探していた朝倉は“戦利品”を持って隣の部屋に戻ることにした。 「……うっ」 上を見ているのに空ではなく天井が見える。 「…………」 刹那の体は至るところが治療されていた。おかげで出血は止まっている。 (私は助けてもらった……のか?) そう考えるのが妥当だろう。 横に置いてあったシャムシールを手に取ると同時に部屋のドアが開く。 「よっ、元気か?桜咲」 「あ、朝倉さん」 飄々とした様子で机に座り、インスタント食品とにらめっこをしている。 ジ、ジジッ、 いつもの通信音が聞こえてくる。さすがに三回目なので何の放送かは聴くまでもなくわかる。 「諸君、これからは夜だ。不意打ちや裏切りに気をつけることが勝利に繋がるだろう。殺すなら早めに…な。 死亡者は6人だ。朝倉和美(出席番号3番)、和泉亜子(出席番号5番)、神楽坂明日菜(出席番号8番)、絡繰茶々丸(出席番号10番)、鳴滝史伽(出席番号23番)、ザジ・レニーデイ(出席番号31番)だ。 これからも順調に殺しあってくれよ。以上だ」 世にも奇妙な放送だった。 朝倉和美が死んだ? では、私の前にいるのは……?もしかしてこれは夢、幻? いや、私はすでに……死んでいるのか? ベッドから起き上がり、朝倉を疑いの目で睨む。 「貴様は……誰だ!」 朝倉は顔を合わすことなくインスタントのお粥を用意する。 「私は正真正銘、朝倉和美だよ。何故名前が呼ばれたのかは私を良く見れば判ると思う」 そう言われたので刹那は朝倉の全身を見渡す。特に変わった点は……。 「ない……、腕輪が」 「そーゆーこと。だから、私は死んだ扱いになっているってこと。 うまく外すことができたみたいね。本部も気付いていないみたいだしね」 刹那の頭に浮かんだ疑問符は消え去った。 「アスナも……死んじゃったのか……」 いつもよりも低い朝倉の声に刹那が戸惑いを見せる。 刹那は朝倉のことを気にかけすぎて他の被害者が誰か聞き逃していた。 「いま、何と……?」 「アスナが死んだ」 抑揚のない棒読みにされた言葉が刹那の頭に強い衝撃を与えた。 私を救ってくれた人。私を温かく照らしてくれた人。お嬢様との仲を戻してくれたかけがえのない人。 その命はこの島の誰かに奪われた。 一通りの会話を終えて、朝倉は刹那に食事を勧めた。 「桜咲。ちょっといいか?」 食が進まない刹那に提案を持ちかける。 「私さ、隠し施設を見つけたんだ。私だけだと制圧はちょっとつらいと思う。 だからさ、手伝ってもらいたい」 明日菜は見ることなく死んでしまった。早く木乃香に会わないと、手遅れになってしまう。 刹那は戸惑いを見せている。 「敵の施設を潰せれば大きなダメージを与えられる。 それってさ、みんなで脱出することに繋がるし、このかを守ることにもなると私は思ってる」 思い出せ、桜咲刹那。  敵施設を無効化する     ↓  木乃香を守ること ではないのか? 私の力が求められている、ならば助けてあげよう。明日菜の遺訓だ。 「……わかりました、行きましょう」 そうと決まり刹那は体を少し動かす。さっきよりは気だるい感じはしない。 食べ終わったお粥の容器を机に置き、食料倉庫へ歩みを進めた。 敵の巣窟はすぐそこだ。 【残り14人】 【朝倉、さよ、刹那、隠し部屋へ】 <無関心> 明日菜に撃った分で銃の弾が少なくなった。予備マガジンはあと二つ。 「武器がないと困るよ」 「そうですね、のどか」 ハルナがいればもっと楽しかったのにと思う二人。 でもハルナは殺されちゃっている。 殺人者に怒りが沸き上がることもない、なぜってこれはデス・ゲームなのだから。 殺人者のやっていることはルール上正しく、力がなかったハルナはルールに則って誰かに消されただけだ。 「のどか!見るです」 夕映の指の先には鳴滝史伽だったものがある。 「ライフルです!」 「ほんとだー」 視界に入らない孤独な人形、二人には肉塊となってしまったクラスメイトを悼む気持などまったくなかった。 「これは夕映が持ってね」 「はい、持つべきものは信頼できる友達ですね」 二人の笑い声(奇声)が岩壁に跳ね返り辺りに反響する。 【残り14人】 【夕映、ポインターライフル入手】 <薄い守り> 「廊下には四人しかいないです」 妙に金属的な壁、ビルを思わせる清潔な匂い、教会とは似つかわない空間があった。 いつものようにさよに任せて中の様子を伺うと、敵の低い戦力が明白になる。 「持っていたのは拳銃、だと思います」 「ありがと、さよちゃん」 照れているさよをよそにして、刹那はウォーミングアップをしている。 敵地では迅速な行動と判断が要求される。 「正面突破を試みます。朝倉さんは私が合図してからついてきてください」 「暇だな」 「まあな」 安全を確保された場所を守る、撞着が生じている。 「なんかさ、こうやって銃を持たされると試しに撃ってみたくなるよな!」 「俺には撃つなよ」 「お前を殺しても面白そうじゃないからやらねーよ」 「じゃあ壁でも撃つか?」 「やめとけ、バイト代でなくなるぞ」 限りない談笑の中、そのうちの一人が何かを聞きつけた。 「……」 「なんだよ、さっきから黙っててよー」 「いや、なんか風が吹いていないか?」 「風?んなもん吹いている訳ねーじゃん」 地下にあるこの施設内で風が吹くということは普通ない。空気口の大きさはわずかなもので風は入ってこれない。あるとすれば入り口からしかない。 「……あれ」 通路内に風が通る。それは男達四人を突き通っていった。 動く間もなく倒れる男達。強い打撃で失神していた。 「来ていいですよ。朝倉さん」 角に身を隠していた朝倉とさよがそこに現れる。 「これさ……、死んでるの?」 「いえ、峰打ちです。骨折しているかもしれませんが」 (はははっ、合掌) 三人は階段を下りて中枢部へ入り込んでいく。 【残り14人】 <それぞれのできること> アスナの遺体を土に還してから、三人はお互いの持っている情報を交換した。 「これからのことなんだが、私はいろいろ調べたいことがあるから別行動をしたい」 千雨が話を切り出してから自分の行き先を伝えた。 「私達も千雨ちゃんと…」 「それはだめだ。今、私自身も頭を冷やさないといけない。アスナのこともあるしな」 千雨がアキラの方を見遣る。 桜子もそれを見てからは何も言わなかった。 「んで、おまえらはどうするんだ?」 「私達は……」 桜子はアキラのことを横目でみてから、 「信じられる仲間を探したい。そうすればいろいろなことがわかるし、この島から出れる可能性も増えると思うから」 「うん、それでいいと思う」 アキラも桜子の考えに同意した。 「わかった」 千雨は立ち上がると、 「んじゃ、私は先に行く」 後ろを振り返ることなく歩き出した。 【残り14人】 <活動再開> 亜子の遺体を埋葬してからは誰も眠ることができなかった。話し声一つかけることなく時間が過ぎていった。 外が少しずつ明るくなってきた時に、裕奈が沈黙を破った。 「ちょっと、聞いてほしいんだけど」 二人が裕奈の方を向く。 「外が明るくなる前に活動したほうがいいと思うの。 できるだけの仲間を集めて説明書を解読する。これだけの明確な方針を持っているんだったらやっぱり行動したほうがいいと思う」 円と木乃香は裕奈の意見に意思を持って頷いた。 「んじゃあ、とりあえず人がいそうな住宅街のほうに行こう」 裕奈、木乃香、円の順にコテージを後にする。ふと三人の目の中に亜子の墓(もちろん立派なものではない)が入る。 (亜子、私、頑張るから) 裕奈は心の中で呟くと、しっかり前を向いて歩き出した。 これから向かうのは人のいるところ、学校なんてどうだろうか? 【残り14人】 <木の上> ハンモックがほしい、木の上に上がってから思った。 安全は確保できる。ところが、自由な空きスペースがなくラクな姿勢で寝ることができない。 まあ、仕方のないことなので我慢しよう。 茶々丸に瀕死まで追い込まれた。 分身を使って戦えばもっと楽に勝てた相手、敢えて使わなかったのはそのほうが楽しめると思ったからだ。 結果、左太腿と左手が重度の火傷、左肩の脱臼、左腕の弾丸による傷痍。もしかしたら左腕は一生まともに動かない、なんてこともありえる。 ―――――ウレシクテタマラナイ。 焼け爛れた皮膚、未だ止まらない血が興奮を与えてくれる。 いつからこんなにもマゾになってしまったのか? 傷から目を逸らし滾る血を抑える。 ―――――明日。明日ニハモットイイ獲物ガミツカル。 何をするにも休息が必要だ。 ダルい体を休ませてから再びゲームを始めようではないか。 【残り14人】 <優しさ> 千雨別れてからしばらくして、アキラの足取りがおぼつかないことに桜子は気付いた。 「あ、アキラちゃん!?」 桜子はアキラを気遣うが、アキラは大丈夫としか言わない。 息遣いは荒く、風邪を引いたときのように大量の汗を掻いている。 (桜子姉さん、あの時じゃないか?) カモは倉庫で蹴られたときに負傷したのだと言った。 アキラは苦しいのを必死で隠す。アキラの性格からして弱音を吐くとは思えない。 今、私たちに必要なのは休養だ。 「アキラちゃん、もうちょっと頑張って」 目の前に学校があるので、保健室に寄ることにした。 桜子はある程度の看護能力を持っていたが、アキラの脇腹をみて唖然とした。 脇腹は何かが寄生しているみたいに青黒くなっていた。おそらく、肋骨が何本かイッてし まっているのだろう。 「大丈夫だよ。これくらいは我慢できる」 アキラは乱れた呼吸を整えながら返事をする。無理をしているのは明らかだった。 包帯をアキラの腹に巻いていく。気休めにしかならないことはわかっていた。 なのにアキラは、 「ありがとう。だいぶ痛くなくなったよ」 笑顔で答えてくれた。 アキラの優しい思いが桜子に伝わった。 「桜子さん、なんで泣いているの?」 自分が泣いていることを認識する。 「ごめん。なんでもないから」 涙を腕で拭く。怪我人に慰められる自分が情けない。 「ちょっと、カモくんと一緒に見回りに行ってくるよ」 「……一人だと危ないよ」 「大丈夫!自分の身ぐらい守れるから、カモくんもいるしね」 アサルトマシンガンを一丁持っていく。腰には日本刀。なんともアンバランスな武装だ。 「うん、わかった。気をつけてね」 桜子は部屋から出た。 ひんやりとした空気が気分をリフレッシュしてくれる。 「アキラの姉さん、よくなるといいな」 カモが独り言を呟く。 外をみると東の空が明るくなりかけていた。 夜明けが近い。 【残り14人】 <末路> 隠し施設は地下三階まである。 二階までは見張りすらほとんどいなかった。よって苦労もなく三階に行き着く。 「何だ!お前は!」 三階廊下には四人の兵士と責任者の男、それだけしかいなかった。 兵士は刹那を囲みこむ。絶体絶命と呼ばれる状況だ。 「こいつはうまそうだ!」 「監督ぅ〜、この子可愛いから、俺らが“もらっちゃって”いいですかぁ〜?」 四人は涎を垂らす肉食獣のように醜い。 「所詮ただのガキだ。何をしてもかまわん。最後には殺せよ」 「やりぃ〜、監督は融通が利くなあ〜」 男たちから歓声が上がる。 「久しぶりの餌だ。どうやっていたぶろうか?」 ああ、こいつらは殺してかまわない。 いや、殺す。脳内で決定された。何があっても覆らない。生かしておけばこいつらはハイエナのように獲物を食い尽くすだろう。 四人は拳銃を出し即、引いた。狙うは手足、体さえあれば“こと”はできる。 ―――――自分でも驚くほど冷静だった。 思考回路が弾丸の方向、速度を換算し、適切な方法を身体に指示する。 刹那に視覚などいらない。もう弾丸がどう動くかわかっていたから。 剣から成される風圧で軌道を逸らす。 手、目、胸、眉間。二人は即死だった。 「あへ?」 「ぎぃやああああー」 片方は眼球が潰され、もう一人は銃を落とし攻撃手段を失った。 叫喚が耳に障ったから残った二人も切り捨てることにした。 力を使わずにシャムシールを振るう。 トマトを切ると液体が飛び出してくる、そんな感じだった。 「な!」 凄惨な舞台となった廊下、男はむせかえる血の臭いに頭が働かない。 「た、助けてくれ。死にたくないんだ」 大の大人が失禁しなんとも情けない。 人の大切なものを奪って喜び、自分が奪われたら泣き言を喚く。なんて…… 「空っぽ、だな」 「へっ?」 弧を描きながら飛ぶカマイタチ、離れゆく下半身を見ながら施設責任者の男の意識は途絶えた。 「うわ……」 さよは目を覆っている。 それもそのはず、広がっている光景は健康によろしくない。大人びている朝倉にもショックが大きかった。 「この先が制御室です。中に人はいませんでした。私はここを掃除してから合流します」 (掃除って……) ここにいる必要もないし、いたくもなかったので、先の制御室へ歩を進めた。 【残り14人】 【施設 制圧】 <生きている証> 「こいつは……なるほど」 モニターには島のあらゆる場所が映し出されている(夜のため映像は不鮮明)。 「監視施設ってやつだね」 ネット情報は真実と言えるだろう。 (なら、管理塔もどこかに?) あるのだろう。 そこを壊せば腕輪は無効化され、殺し合いの意義はなくなる。 自動ドアが開き刹那が入室してきた。血塗れたシャムシールが壮絶な光景を思い返させる。 「あのさ……、桜咲」 「はい?」 「狂ってないよな?」 朝倉の愚直な質問にも刹那は真剣に答えた。 「私はお嬢様を無事に帰すまで狂うわけにはいきません。さっきの人達は危険なので排除しました」 「だよね…。変な質問して悪かった」 「いえ、特に気にしてないですから」 「一通り落ち着いたし。そうだ桜咲、腕輪さ、外さないか?成功率100%じゃないかもしれないけどさ私も外せたし」 「いえ、私は外すことはできません」 即座に刹那は拒否した。 「この腕輪を外したら、私は間接的に死ぬことになります。お嬢様に死んだと思われて心配させたくありません」 これが刹那の拒んだ理由だった。 「そっか……、生きている証だもんね、これ」 生きているのにみんなから私は死んだと思われている、複雑な気持ちになった。 「私は行きます。こうしているうちにお嬢様へ禍が降りかかってくるかもしれませんから」 「ちょい待ち」 朝倉は映像関連機械をいじりだす。 「なんとかこのかの居場所を探ってみるから」 そこまで複雑な作りの機械ではない。きっと何とかなる。 一分後。 「きっとこれだ」 格闘を終えて木乃香の場所を突き止めた。 「E−2、学校のあたりにいる。六人が集中してる」 なおさら急がなくてはならない。六人いれば中に殺戮者がいないとも限らない。 「桜咲!私はしばらくここに留まる。このか、ちゃんと連れ帰ってこいよ!」 「はい!」 刹那の疾走がまた始まった。 【残り14人】 <トラップ> 郊外に出た千雨のある施設の中にいた。 (不気味だな、おい) 夜にマッチしたフォルム。非常灯だけが付いていて中途半端に写し出される光景。特有の清潔そうな臭いも鼻につく。 千雨は病院内を探っていた。 (お!あそこか?) ナースステーションを発見する。 病院らしくない埃が漂うその場所には千雨の探していたものがあった。パソコンだ。 早速、電源を入れてみると何の問題もなく起動した。旧型のものだが戦力にはなるだろう。 (始めるかな) 深夜の病院に小気味好いタイプ音が鳴る。このまま順調に行けばハッキングの準備が整うだろう。 「ん?」 パソコンが急に動かなくなり、画面が真っ暗になる。 「ウイルス入りか!」 黒い画面に血文字で はずれ と表示される。“はずれ”の文字はどんどん増殖していく。 はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、 はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、 はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、 見ているだけで不快になったので電源を切った。 「くそ!!」 ディスプレイを床に落とす。画面は割れジャンク品となった。 正常なパソコンが一台あればウイルスくらいたいしたことはない。それを予想してか主催者はこの島のパソコンすべてにウイルスを入れてあるのだろう。 このウイルスは起動してすぐに発病しなかった。なら何とか駆除できるかも。発病したら止めるすべはなく、ただのガラクタと化す。 わかっていたことだが、主催側のガードは厚い。 (上等じゃねえか……) 千雨のハッカー魂に火がついた。 部屋の中にはもうパソコンがなかった。ドアノブを回し廊下に出る。    フワッ 身体が浮いた。 とたんに世界が反転し、冷たい地面に叩きつけられる。 一瞬の事で千雨は自分が投げられたこともわからない。 「……だ…れだ…」 「…………」 薄れゆく意識の中で相手の姿を見ようと目を開ける。闇に慣れた目が捉えたのは敵の炯眼のみだった。 【残り14人】 <懐かしい教室> 真夜中の学校、それは恐ろしくもあり不思議な空間。 しかし、円、裕奈、木乃香の三人には懐かしく感じた。 今まではなんとも思わなかった日常生活、それがこんなにも脆く崩れてしまうとは誰一人として思わなかった。 窓からは今の状況を忘れさせてくれるような満天の星空。麻帆良では見えない星もたくさんあるだろう。 でも、三人とも夜空を見ることはなかった。その空は私達の直面している“現実”とはかけ離れたものだ。 この島自体が殺し合いとは相反するもの、いわば矛盾した空間だった。 「ねえ、教室に入ってみない?」 夜の廊下は声が響く。 「裕奈?急にどうしたん?」 「うん、なんかね、懐かしくなっちゃってさ」 教室の作りは麻帆良とは違い、一人一つの机の造りだった。そうであっても、三人が3−Aの生活を振り返るのには十分なものだった。 木乃香は椅子を引き座ってみた。目を瞑れば一人も欠けることなく過ごした3−Aの記憶に遡れる それは遠き国まで来た者が持つ望郷の念と同じだ。 「アスナぁ〜、どうして死んでしまったん……」 木乃香の隣にいつもいた存在、明日菜が頭から離れない。 明日菜にしても刹那にしても私は守られたばかりだった。 もっと強くなりたい。でも、守るべき人はこの世にいない。 (うちに人を守るだけの力があったなら……アスナは…) 自己嫌悪だけが木乃香に募る。 「3−Aみんなで授業を受けること、もうできないんだね」 円の独り言に二人が耳を傾ける。 「まだ信じられないよ。ううん、ただ信じたくないだけ」 幸せは失って解るもの。 あんなに近くにあった日常生活という名の幸せが手の届かない位置にまで離れてしまった。 どんなに手を伸ばそうとも、二度と届くことはない。      トオイセカイ 惨況の中、教室にいることは辛かった。 「行こっか」 「……うん」 ドアを開けてこの場を後にする。 絶望の饗筵が―――まさに始まろうとしていた。 【残り14人】 <暁の死闘 前> 廊下には誰もいない。その中を桜子はカモと一緒に歩いていた。 静か過ぎるためか自分の感覚が鋭くなっていくのを桜子は感じていた。 (誰も……いない?いや、人の気配がする) 上の階を歩く足音が複数聞こえる。   コツッ…  コツッ… 特に警戒心を持っていない足音だ。 「俺っちが様子を見てこようか?」 「たぶん上の人は大丈夫。乗っていない人だと思う」 「桜子姉さん、どこからそんな根拠が出てくるんだ?」 「まず音から複数人いると思うの。そして警戒心が緩んでいる。 カモ君、もし敵だとしたら音を立てて歩くと思う? それだけじゃなく、今は夜だから不意打ちがしやすい。危険な人たちだったらなおさら姿を隠すよ」 カモは桜子の意外な一面を垣間見た。 「なるほど……なにも考えないで言ったのかと思ってたぜ」 「失礼な」 チョップでツッコミを入れておいた。 「じゃあカモ君、行こう」 カモを肩に乗せた時、 「おい、桜子姉さん…、あれ」 「え、何?」 校舎内を用心しすぎていた。 窓の外には別の校舎がある。本館と別館をつなぐ移動手段、渡り廊下に奴は居た。 この校舎は二つが向かい合っているため違う階からの射撃が可能なのだ。 狙撃主はマシンガンを連射する、無数の銃弾が加速していく。     ”カイヒ”は”フノウ” 【残り14人】 <暁の死闘 中> 火を吹くような音の連続、窓ガラスが粉々になって宙を舞う。 完全に不意をつかれたため、桜子に迫り来る死の銃弾を避ける術はない。 ない、はずだった。 背中に強い衝撃。 誰かが桜子を弾き飛ばした。 銃声の後、戻り来る静寂の中で桜子は自分を助けた人を認識した。 「…………うそ…」 「ごめんね、桜子さん。突き飛ばしたりして……」 「どうして! ……アキラちゃん!」 アキラは冷たい廊下の壁にもたれかかっている。腹や胸からの出血が激しく、助からない傷であることは誰でもわかる。 「だって、桜子さんが危なかったから」 「そんなの、……まずは自分のことでしょ!」 さっきの場所にはもう狙撃手はいない。こちらに向かって来ているのだろう。 桜子はアキラを教室に運び入れた。 銃声が断続的に聞こえる。 まだ見ぬ敵は警戒しているのか、教室には入ってこない。 「……大切な人が殺されるのはイヤだった…… 桜子さんは……怪我とか……してない?」 桜子が助けられたのは、これで二度目。いや、アキラの優しさがなければ自分を保てなかった。 涙の雫がアキラの頬に滴り落ちる。 「うん、……グスッ、……大丈夫、…元気だよ」 「……良かった。……桜子さんはいつも笑顔でいてほしい。……そのほうが似合ってるし……周りも元気になれる……から」 「うん、わかった。約束する」 泣きながらも笑顔で返事をする。 「……ありが…と……う…」 アキラは安心した表情のまま――――途切れた。 「アキラちゃん!?」 「ねえ、起きてよ!私、笑顔でいるから!」 もう再び目が開けられることはない。 桜子の信頼できる親友が今、目の前で息絶えた。 「アキラーーー!!!」 「……桜子姉さん、どうするんだ?」 言うまでもない。 桜子はアキラの持っていた発炎筒と包丁を回収し、マシンガン片手に低い姿勢で教室のドアの近くで待機する。 驚くほど冷静だった。 もう何もためらうことなんてない、完全に頭の“スイッチ”が入ってしまった。 許さない。誰であろうと、アキラを撃った奴は私の手で、 殺す。 「!!」 ドアを開けて素早く両方向にマシンガンを向けるが、ここには誰もいなかった。 踊り場を通って聞こえる戦闘の旋律。向かうべきは三階だ。 (アキラちゃん。今だけは約束、守れそうにないや) アキラのアサルトマシンガンを拾い上げて、自分から危険へと足を踏み入れる。 桜子に笑顔はなかった。 【大河内アキラ 死亡 残り13人】 <暁の死闘 後> 踏み入れた場所は死地に相応しい。 硝煙の匂いが漂い、壁には風穴が空き、戦闘がここで行われていたことは言うまでもない。 確認できた人影は三つ。教室のドアから顔を出す円と木乃香。対峙しているのは廊下にいる超だった。 円に銃を向けられているのに隠れず、余裕の笑みを浮かべている。状況が掴めなくても円たちが窮地に追い込まれていることが見てとれた。 「新しい客が来たヨ」 「さ、桜子!?」 円の無事は何よりだったが、今はもっと大切なことがある。 桜子の興味は一つ、この中の誰がアキラを殺したのか、だけだった。 「アキラちゃんを殺したのは誰?」 円も聞いたことがないくらいの桜子の凛とした声が三階に広がる。 最初に反応したのが教室の中にいた裕奈だ。裕奈は足を撃たれていた。 「アキラが……嘘?」 桜子は超のみに神経を集中していた。桜子の目に促がされて超が答える。 「ああ、私がさっき撃ったのは大河内さんだったのネ」 右手のスコーピオンが標的を教室から桜子に変える。 匙は投げられた。 奴は私欲でアキラを殺した。 ならばやることは一つ。 桜子がいた場所は蜂の巣になっていた。 超とは距離があったが、銃器主体の戦闘には関係ない。 桜子は初めてマシンガンの引き金を引いた。映画で聞く音とともに弾丸が超に向かっていく、 「えっ!」 向かっていく途中で止まった。弾丸は宙に浮いたまま止まっている。不可解すぎる現象だ。 「ここにいる人たちには説明したけど、私に銃は効かないヨ」 超は自分の発明したコロイドフィールドというバリアに守られている。 反則的な道具だ。 銃撃戦では勝てない。接近戦にも距離がありすぎて詰める間に体に穴が開く。 ―――――ナラ、逃ゲルノカ? 階段の近くにいるから逃げるのは容易だ、それが最善策。 しかしながら桜子は最善を取ることはなかった。円たちを置いて逃げることもできなかったし、私の敵はすぐそこにいる。 勝算があるとすればこちらから仕掛けること。 「アキラちゃん、私は……逃げない!」 アサルトマシンガンを床に置く。 代わりにアキラの持っていた発煙筒を取り出し、思いっきり投げた。 (む、爆弾ネ!) 爆発物と勘違いした超にわずかな戸惑いが見え、超は回避する。 爆発が起こることなく、発炎筒によって周りが煙に包まれる。   シュウウー…… (煙幕だったヨ。逃したネ) 不利と読みこの場から離脱した、と超は思った。バリアを展開しながら一応敵襲に備える。 煙が徐々に薄れていく時、超は妙な音を聞いた。 その風を切る音はだんだんと大きくなっていく。      ヒュンヒュン 「……!?」 白い視界から表れたものはコロイドフィールドを切り裂いた。 勢いはとまらず超の右肩を削っていく。 「ぎゃああああー!!」 超は叫喚し、スコーピオンを落とす。 自分の右肩を裂いたものを確認することなく非常階段から“敗走”した。 廊下には刃が直線でなくなり、血に染まった日本刀が転がっている。“投げた”のはもちろん桜子だ。 日本刀は縦に回転していき、速度が衰えることなく敵を絶った。 (逃がした) 仕留めるまでにはいかなかったけれど、武力差がありながら敵に傷を負わせた。       次こそは… 気持ちを切り替えて桜子は円たちの所へ走っていく。 長い夜は終わり、外の景色は暁色に染まっていた。 【残り13人】 <悪夢からの目覚め> ジ、ジジッ、 声の主がヘンマンに変わっていた。 「おはよう諸君、今から朝の定刻放送を始める。大河内アキラ(出席番号6番)だ。では、諸君の検討を期待する」 ブツッ、 大音量の放送で目が覚めると木の上だった。 (拙者は?) 確か川岸を歩いていたところまでは記憶がある。 それからどうした? 自分の今の状態を確認する、持っているわけがない武器、血の付いた制服、左半身の不自由、不審点は留まることを知らない。 その原因をある程度知っていた。 (夢じゃ……ない?) 夢を見ていた。 クラスメイトを大量に殺害し、楽しむ自分がいた夢。夢だから自分というものは映画と同じようにその光景を見ているだけだった。 他人の記憶が自分の中に入り込んでくる感覚。自覚症状がないために余計に信じられない。 「あれは…拙者がした?」 その通りだ。 真名もハルナ殿も千鶴殿、茶々丸殿もこの手で殺した。信じられなくてもそれが現実、逃避は許されない。 「……拙者はこれからどうすればいい?」 "長瀬楓"としてのゲームは始まったばかりだ。 【残り13人】 【楓、正気に戻る.自分が人を殺したことを自覚】 <果てない悲しみ> 学校の四人は超を追うことなく円と木乃香と裕奈は保健室、桜子はアキラのいる教室にそれぞれ向かった。 裕奈は足に銃弾を受けて、足を引きずって歩いている。 見たところ体内に銃弾は入っていない。不幸中の幸いと言ったところか。 保健室の器具と看護セットを用いてできるだけの治療を行う。たかが知れていた。 円が裕奈に肩を貸し、三人は話すことなく桜子のいる教室に向かう。 「…………」 桜子に言葉はなかった。いくら泣き言を言ったとしてもアキラが帰ってくることはない。 痛いくらい良くわかっていた。 三人がこの場に到着する。 「アキラ…………」 裕奈は目の前の事実から目を背けたかった。まき絵、亜子に続いてアキラも死んだ。もし一人でいたなら自殺していたかもしれない。 木乃香は保健室から持ってきたシーツを桜子に渡す。 「……………………」 桜子は何も言うことなく優しくシーツをかける。 アキラの顔が笑っているように見えた。だから、桜子も笑った。 壊れそうな作り笑顔で涙を流しながら笑った。 【残り13人】 <調査> もしさよが幽霊でなかったなら、お茶でも用意してもらいたい。 そんなことを思いながら監視施設のコンピューターの解析をしていた。 「朝倉さーん、医務室は隣で倉庫は地下二階にありましたー。キャッ」 くぼみもないところでこけてみせるさよを見て笑った。 「笑わないでくださいよ」 こけて痛かったのか、笑われたのが気に入らなかったのか、さよは半べそをかいている。 「悪い悪い。んで医務室って、そこ?」 この部屋には扉が二つある。 廊下に出るのは背後にあるドアだ。 朝倉は立ち上がりもうひとつのドアを開けた。そこにはなんとも狭い部屋があった。 「あっちゃー、行き止まりじゃん」 医務室には扉は一つしかない。ここが攻められたときは袋小路となるため逃げ場はない。 「仕方がないか」 コンピューター室へ戻り、再び画面との孤独な戦いを始めた。 【残り13人】 <お姉ちゃん 前> 夜は先生と交代しながらの見張り、正直一睡もしていない。 ネギ先生に任せて自分が寝るなんてことはできない。右手に散弾銃を持って寝たふりをしていた。 そのまま迎えた朝の定刻放送、新たなクラスメイトの名を聞いてあやかは本格的に動くことを決めた。 いつものようなゆったりとした朝食はない。活動用のエネルギー摂取を行うだけだから。それでもあやかは幸せだった。 ネギがスープを冷まそうと口で吹くしぐさ、味気もないインスタント品を美味しそうに食べる姿、あやかには斬新だった。 「ごちそうさまでした」 食事を終えたネギの口を拭うあやか、姉と弟の関係に見える。 軽い支度を済ますと、半日世話になった小屋に別れを告げた。 昨日みたいに意味もなくフラフラする訳にはいかないので、夜のうちに計画を立てた。みんなは寝床を探して宅地にいると読んだ。 よって住宅地に行けば誰かにきっと会える。 (先に逝ってしまいましたのね……) あやか会いたかった相手、明日菜はもう死んでしまった。 悔しい、憎い、泣きたい、さまざまな感情が行き交った。 仇をとろうとは思わなかったが、許すことはできないだろう。たとえ、死のゲーム内にいたとしてもだ。 がさ。 物音のおかげで注意がそれていた自分に感付く。 「誰、ですの?」 優しく、細心の注意を払って草むらに話し掛けた。 「ネギ先生?」 あやかの言葉に頓着せずにのどかが現れた。 「のどかさん、無事……」 「先生、ほんとに先生だ!!」 のどかの目にあやかはまったく映っていない。彼女は一人の少年しか見ていない。 「のどかさ…」 のどかが不必要とばかりにあやかを凄んだ目で睨む。 その目にあやかは慄然とした。 のどかさんがあんな目をするなんて考えられない。彼女に何かがあったのか?彼女を信じていいのか?本当にあれは宮崎のどかなのか? 走る不和感、不安は蟲となり胸の中で膨れ上がっていく。 ネギの元へ駆け寄ろうとするのどかに訊ねた。 「のどかさん、失礼ですがあなたは本物ののどかさんですか?」 自分で言いながらくだらない台詞だった。 どう見てもあそこにいるのは宮崎のどか、疑いようもないこと。 それでも、質問しろと脳が下した。 きょとんとした表情になり止まるのどか、みるみるうちに邪険な笑顔に変わっていく。 「私が私でないと?そういうあなたこそ誰なんですか?」 のどかは悪態をつく。信じられない光景にあやかは言葉を失った。 「なるほど、そうなんだ。そういうことだったんだ」 のどかが一人納得し、コルト・ガバメントを向けた。 「このゲームを企画したの、いいんちょさんでしょう? 大好きなネギ先生を独り占めするために!!」 「何を言ってますの?のどかさん。そんなこと……」 「嘘だ!!そう、ネギ先生の記憶まで消して……かわいそうなネギ先生。今、助けてあげますから…………ふふふふふ……」 ―――――のどかにあやかの声が届くことはないけれど、 あやかに向けられた銃の前にネギが立つ。 ―――――ネギの声は別だった。 「やめてください!僕はあなたのことを覚えていないけれど、あやかさんはそんなことする人ではありません!」 「どいてください。先生はいいんちょさんに騙されています」 ネギは首を横に振った。 「あやかさんは何もわからなかった僕を助けて、そして守ってくれました。 それは僕の唯一信じられる記憶です。だから、あやかさんを守る為にもどきません!」 のどかは銃の安全装置を外す。あやかもファイブセブンを構える。 「先生、お願いですから」 「イヤです!」 最終宣告をネギは拒否した。   ドン!ドン! 続けざまに銃声が二発。 【残り13人】 <リベンジ> 腕輪の効果により傷の治る時間も早くなっていたが、あまりに傷が深い。 「椎名桜子、私が殺してやるネ」 超は始めてこのゲームでターゲットを絞った。 殺そうと思えばあんな奴いつでも殺せたはずだ。 油断さえなければ腕輪による身体能力の強化と高い殺傷能力の武器を持つ私があの能天気女に負ける要素などない。 手元にはまだバリア、サイレンサー、ハンドグレネードがある。 今度は遊び心もない、迂闊な行動も取ることなく私に創傷を負わせた奴を消す。 私の沽券にかかわることだ。 だから借りはきっちり返す。 肩の痛みはあったが、気にすることなく超はレーダーを見て再開する。 【残り13人】 <お姉ちゃん 後> 硝煙が上がっている。あやかとのどかの拳銃から。 倒れているものが二人いる。ネギと…………夕映だ。 撃った二人は後悔の念しか残っていない。 最初に動いたのはネギだ。 衝撃はあったもののネギは防弾チョッキを着ていたために無傷に等しかった。 「…あやかさん……逃げましょう…」 茫然自失としていたあやかに生気が戻る。 「……はい、行きましょう」 自分と同じように立ち尽くしているのどかを一目して立ち去った。 のどかの目にやっと光が戻ってきた。 「夕映?」 口元から血を流し、     まるで 胸には穴が空いてしまい、     死んだ人の 顔面は蒼白である。     顔みたい 「どうして出てきたの!?隠れていてって私、言ったよ!!」 さっきまであんなに元気だったのに、呼びかけても揺すっても何も返事をしてくれない。 「夕映、ねえ起きてよ!夕映ぇ……」 そう、私の目の前でいいんちょさん、いや雪広あやかが夕映を殺した。 「…………ふふ、ふふふふっ」 何が楽しいのかのどかは笑い始める。 宮崎のどかとは似つかわないものに変容していく。 「…夕映、わたしがあいつを地獄に送ってやるから……待っててね。 あはは……、あははははははは」 見えるものすべてが憤怒の赤に染まる。赤いものを見ていると攻撃的な気分になるが今ののどかにとっては悪い気分ではなかった。 あいつに私の大切なものを三つも奪われた、 ネギ先生、夕映、大好きだったクラス。 おとなしく、控えめであったのどかの姿はどこにもない。そこにいたのは、怨恨と復讐の渦に飲まれた真の殺人鬼。 仇怨を胸に雪○あや○を***ことを自身に誓う。 【綾瀬夕映 死亡 残り12人】 【のどか、ポインターライフル入手。ターゲット:雪広あやか】 <エヴァの苦悩> 目が覚める、ここは……病院だ。 あれ、手が後ろで縛られている。いったい誰が? すると、フランス人形のような姿をした少女、エヴァンジェリンがこちらに来た。 「おい、起きたか」 「見て判るだろ?」 どちらも自分が不機嫌であることを隠さない。 「殺すならさっさと殺せよ」 「捕虜の癖にずいぶんと大きな態度だな」 (ちぃ、いやな笑い方しやがって) 「性分なんだ、仕方ないだろ?」 心が読まれたことで千雨に動揺が広がる。 「それでだ。長谷川千雨、お前は殺したのか?」 「ああ」 ばれる嘘をつくほど千雨は愚かではない。先ほどの一件を念頭に置いて質問に答えた。 「誰を?」 「ハカセだ」 「そうか……」 エヴァはリュックからロープ、メス、カプセルを取り出し床に並べ始める。 「どれがいい?最後くらい選ばせてやる」 自嘲の笑いを浮かべるしかない。 千雨の死はすでに確定事項になっている。 歯軋りをし、口から血が出た。 明日菜の意思を継ぐことなく死ぬ自分自身が許せない。 命ある限り抵抗する、醜態を晒してでも生き延びる。明日菜が死んだときに自分に科した誓約だ。 「薬がいいんじゃないか?痛みなくあの世へいけるんだろう?」 「んなもん、使ったことないから知らねーよ」 千雨は鋭い目差しをエヴァに向けたままで床を見ようとしない。 「選ばないなら勝手に選ばせてもらう」 開けられた口には二つの牙。 エヴァの目が見開くと、千雨は金縛りに遭ったように動けなくなった。 「死ぬまで吸わせてもらうぞ」 熱い吐息が曝け出された肌に吹きかかる。 ここで終焉をむかえるのか……。 「千雨ちゃーん、居るー?居るなら返事してー」 どこかで聞いたお気楽な声、間違いない、椎名桜子だ。 意識を確かにもって返答した。 「いるぞ!」 複数の足音が通路に響き渡り、それはだんだん大きくなっていく。 「なるほどな」 何故かエヴァは千雨の体から顔を遠ざけた。 「ここはひとまず撤退するとしよう。人を手にかけてない奴を殺すわけにもいかないのでな」 エヴァは音とは逆の方向へ歩き去っていった。 まもなく、桜子ら四人が到着する。 「あれ?何で縛られてるの。誰かいたの?」 「いたがもう逃げた。とりあえず縄を解いてくれ」 お互いに報告をしあうことで千雨はアキラの死を、桜子達は新たな危険人物を知った。 「でも、ほんとにあいつは危険人物なのか?」 千雨が言うあいつとはエヴァのことである。 (機会はあったのになぜあいつは私を殺さなかったんだ?) エヴァの苦悩は誰にも見抜けない。 【残り12人】 【千雨、再合流】 <安全な場所> 私とネギ先生は逃走していた。 しっかりと握られた手、この温かみが私自身を安心させた。 「ネギ先生、大丈夫ですか?」 「はい!」 ネギ先生は息を切らしていたが、私の問いにしっかりと答えてくれた。 この子は記憶を失っても強いままだった。 目の前の事実を受け入れて、それに負けずに乗り切ろうとする姿はかつての先生をしていた頃のネギ先生と変わりなかった。 私はそのネギ先生を守るために綾瀬夕映を殺してしまった。いや、本当にそうなのだろうか?      自分の身を守るために?                  自分から進んで? やむなく? 原因なんかなかった。何も考えずに銃を撃つ自分がいた。 守護兵にも撃たなかったのにどうしてなのだろう。 今頭にあることは殺そうと思ったら躊躇しない自分がいるということだ はあ、ハア、はあ、ハア。 頭を動かすのにはどうも酸素が足りない。思考を停止させるか、走るのを止めるかのどちらかを迫られたので前者を選択した。 「あやかさん、誰かが来ます」 道の横から草を踏む音がする。あやかは殺傷力の高いモスバーグ500を取り出した。 邪魔な枝を手で折りながら、主が姿を現す。 「あなたは、桜咲……さん?」 刹那はぺこりと頭を下げる。顔を上げたときに隣にいる見慣れた顔に目が行った。 「ネギ先生!無事で何よりです。いいんちょさん、本部に攻めこんだのですか?」 「いえ……」 あやかはネギと出会ったいきさつから今までを説明する。 「今はのどかさんに追われているのですね」 「そうですわ、どこか安全な所があれば…」 「それなら教会に向かって下さい。そこの食料庫に隠し施設があって、朝倉さんがいますから」 「朝倉さんは放送で」 「いえ、朝倉さんは生きています」 あやかは地図を取り出す。教会までは遠いが背に腹は変えられない。 「桜咲さん、ありがとうございます」 刹那は左手を上げだ。 ttp://www.imgup.org/iup153147.jpg 「いいんちょさん、先生をよろしくお願いします」 二人は教会へ走り出す。 それを見送ってから刹那は目的地へ足を速めた。 【残り12人】 <倉庫> 朝倉は一通りの作業を終えると、制御室から外に出る。 自分の武器が催涙スプレーでは貧弱すぎる、何とか戦えるものが欲しかった。 というわけで、朝倉は倉庫にやってくる。 (堅そうな扉なこと) さよがもう確認したため中には誰もいないのはわかっている。 ロックは制御室で外していたのでボタン一つで扉は開いた。 「こいつは予想以上……」 人が持てる軽火器が少しでもあればいいだろう……予想はいい意味で覆された。 軽火器が山のようにある。これほどの武器があるのに施設を守れなかった連中の思考が理解できない。 本部が信頼を置いていないチンピラ達だったから、良い武器を渡さなかったのだろうか? 朝倉は武器の選択を開始した。 「これなんてどう?さよちゃん」 「なんか兵士みたいでかっこいいです」 さよがいるとついほのぼのした空気になってしまう。 「これなんか実用的かな」 手に取ったのは爆弾とサブマシンガン。内心、爆弾を持ち運ぶことは嫌だった。 「でも使えるかもしれないし……」 考えた末、二つともバッグにしまった。 制御室へ戻っても一息つくことができなかった。 「とうとう来たね」 教会近くで映し出されているのは三人の武装した男達。連絡がつかない監視施設を本部側が不審に思い調査団を派遣したのだろう。今まで見てきた奴より武器の性能が上がっている。 (まだ死ねない、だから迎え撃つ!) 朝倉は医務室から台車を持ち出し戦闘に備える。 【残り12人】 【朝倉、爆弾(導火線付き)(×3)、UZI(サブマシンガン)(×2)、台車入手】 <殺人快楽> のどかさんに会うと思っていた。 いいんちょさんとネギ先生を追ってきている。激突必死だ。 しかしながら、刹那の前に現れたのは一人の怪我人だった。 「せつなサン、久しぶりネ」 右肩がぱっくりといってしまって、見てるこっちが痛々しい。 「その傷は?」 「椎名桜子に斬られた。きっと狂ってしまったんだヨ」 超は笑顔で言い放つ―――――刹那は背中にもぞもぞと何かが動くような嫌悪感に満たされた。 違う、と刹那の中の感覚が警鐘を鳴らす。幾多の災禍を乗り越えてきた直感だ。 私とは何カガ違ウ。 「なんとかみんなで助かる方法を探すヨ!」 超が笑顔で一歩前に出る。        あいつは敵だ。 刹那は思わず飛び退いた。 「…………ふふ」 超がしばらく無言でいたが、さっきとは違う笑顔を刹那に向けた。 背筋が凍るような笑顔だった。 そして懐からサイレンサーを取り出し、躊躇いなく撃ってきた。 動きは前に戦った兵士たちより手馴れていて速い。 豹変にうろたえることなく刹那はシャムシールで弾道を変えていく。刹那には造作もないことだったが剣の刃はそうもいかない。 超の弾切れを察知した刹那は間合いをつめる。刃のことを考えると短期勝負しかなかった。距離は20mほどなら刹那は問題にしない。 「あまいヨ」 超の左手にはハンドグレネード。 素早くピンを抜いて、投げつける。 (まずい!) 刹那は横に回避するしか術がない。受身を取ることなく草むらへ転がった。 超は刹那のほうを見ながら弾を装填する。 「常人では考えられない運動能力、そして鋭い機転、せつなサン……おもしろいよ」 超は気持ちの高揚を感じていた。 超は人を殺すだけでは楽しめないようになっていた。互いに極限の状態で殺し合うほうがただ殺すのよりもはるかに楽しい、刹那はその条件を満たしている。 直りきっていない肩からまた血が流れ出していたが、超にとっては些細なことだった。 刹那は隠れることなく立ち上がる。 ところどころから傷が開き血が流れ出ているが行動に支障はない。 「また、銃弾をはじいて間合いをつめる気かい。 芸がないよ、せつなサン」 超は刹那に銃口を向ける。完全に射程距離に入っていた。 剣が折れれば、チェックメイトだ。むやみに距離をつめることもできない。 (く、どうすれば!) 「困っているようだな、刹那。そんなことでお嬢様を守れるのか?」 急な来訪者、それは真祖の吸血鬼エヴァンジェリンだった。 【残り12人】 <運の尽き> 「また何かの悪巧みか。超? 体から血の匂いがするぞ?」 ゆとりあるエヴァの態度が超の癪に障った。 「魔法が使えない割にはまだ生きていたみたいネ。つい忘れていたヨ」 超の挑発的な言葉にもエヴァの態度に変わりはない。 「魔法が使えない?使ってはいけない、の間違いだろう?」 右手には魔力の塊、それは氷へと変化していく。 「ふん、ハッタリネ。できるわけないヨ」 「本当にそうかな?」 刹那の前に立ったエヴァは詠唱を始める。止める間もなく短い詠唱はすぐ終わる。 「氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!」 突如上空に現れた氷球。 エヴァは魔法を使った。 超が最後の顔は驚駭だった。 大きな氷の球体はコロイドフィールドをもろともせずに超を地面へ押し潰した。 「…腕輪は?」 「そういえばこれ、爆発するんだったな」 エヴァは腕輪のことは他人事だ。 クールな態度を他所に上級魔法を使った報いとして腕輪から不吉な電子音が鳴り、 「エヴァンジェリンさん!」 腕輪が爆発した。右肩と身体が別離する。 「ク、クックック……本当に爆発するとはよくできているものだな!これもハイテクとか言うやつなのか?」 何が愉快なのかエヴァンジェリンは笑っていた。 「再生は……さすがにできないか。まあ、する気も出ないが」 エヴァは立ったまま固まっている刹那に目を向ける。 「刹那、お前は最愛のお嬢様のところにでも行け」 「し、しかし」 「なら、魔力も使えない状態のお前が私を救えるというのか?」 「…………」 魔力が使えたとしても、刹那に今のエヴァンジェリンの傷を治すことはできない。 「私は長く生き過ぎた。疲れたんだよ……少しは休ませろ」 「……」 「さっさと、行け」 「……御免」 刹那は足早にその場から去った。 ただ一人残されるエヴァンジェリン。思い出すのはアイツのことばかりだった。 「……サウザウントマスター、嘘つき……」 エヴァンジェリンは静かに瞳を閉じ、長かった一生を終えた。 【超鈴音 死亡】 【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル 死亡 残り10人】 <光の射す方へ> 私は森の中を歩いていた。血でべたべたになった包帯が張り付き、なんとも気持ち悪い。 そういえば、私はリュックの中にある食料に一度も手をつけていなかった。最初はお嬢様を探すことを優先していたから、今は口にする気にならなかったから。 まともに考えることができない。 風景も良く覚えてなく、同じところをぐるぐる回っているような感覚に陥る。 そして私はまた、その場に倒れこんだ。今度は意識がまだあった。 ここは昼間でも薄暗い森だったが、私の顔に木漏れ日が当たる。 「……」 なんだか暖かい。このまま眠ってしまいそうだ。 不意に顔に当たっていた光が何かに阻まれる。 「……」 目を凝らして見ると、それは目を涙で濡らす私のずっと探していた人だった。 【残り10人】 【刹那、木乃香達と合流へ】 <スパーク> 「おい、誰もいねえじゃねーか」 「まあな」 三人はかったるそうに歩く。 本部から受けた指令は「施設の状況確認。参加者が施設内にいた場合は抹殺許可」だ。手始めに進んでみるが誰もいない。 「おい、こっちこい!」 一人が呼びかけて集まってくる。 「何だこれは?」 その部屋には縛られて失神している男達が数十名いた。 こんなこと素人にはできない技だ。この施設には戦闘のプロがいる。 「まじか?なんっつー貧乏くじを引いちまったんだ」 一階の捜査を終えて通路の曲がり角に達する。 「誰かいるか?」 一人が壁から顔をのぞかせた時、サブマシンガンが破壊の旋律を奏でた。 出てくるのがまるでわかっていたようなタイミング。 頭を弾が複数貫いた。脳漿と血が混ざったものが流れ出ていた。 「くそ!」 アサルトマシンガンで応戦すると音がぴたっと止まった。 「やったのか?」 無闇に顔を出せばさっきの二の舞になるために様子を見れない。 「お前さ、様子見てくれ」 「は!お前が見ろよ!」 「へ、てめえみたいな臆病者に頼んだ俺が馬鹿だったよ」 イヤな予感を振り払うようにうかがう。 ゴロゴロ     ゴロゴロ 「なんだよ、あれは」 台車がこっちに向かってくる。 人が乗れるほど大きくはない。乗っかっているものは……スプレー? 「逃げろ!」 「は?」 破壊の旋律が再開する。狙われたのはスプレー缶。着弾した瞬間に一帯が閃光と豪炎に包まれた。反応の遅れた一人が業火に呑まれた。 「畜生っ!!」 辺りは刺激臭と煙に包まれている。今のうちに逃げるしかない。分が悪すぎる! 後ろを向いて、 目に止まる金色、 ドウンッ! 射殺された。 「朝倉さん!ネギ先生が来ました!」 「は?……あんた、おかしくなっちゃったの?」 「でもー本当ですよ、ほら」 へたれ込んだ身体を再度入り口方面へ向ける。 「いいんちょ…、マジで!」 たしかに手を繋いで歩いてくる二人がそこに居た。 「いいんちょ、どうしてここがわかったんだ?」 「桜咲さんから聞きました」 「ふーん、そっか」 何だか疲れた、詳しい話は後で聞くことにしようと朝倉は思うのだった。 【残り10人】 <組分け> あやかとネギが施設に来てからまもなく、木乃香一行が刹那を先頭にして戻ってきた。特に接点がなかったメンバー、烏合の衆というやつだ。 朝倉は早速、新たなコンピューター解析のために千雨をスカウトした。 「残ってるのは十人、ここにいる八人と宮崎のどか、長瀬楓だ。両方とも危険人物だな」 千雨は悲運にも二人に襲われている。 「話をすれば何とかなるんじゃないの?」 朝倉は両方とも会っていないので二人の狂愚を知らない。 「私は両方とも手遅れだと思う」 「でも話し合ってみなきゃ…」 「先に鉛弾が飛んできたらどうするんだ?」 木乃香の甘い考えを千雨が切り捨てる。 「私は話したい」 「お前、正気か?長瀬楓の狂いっぷりを間近で見ただろ!」 「でも、クラスメイト……だから…」 甘いことはわかっていても桜子は自分のクラス、3−Aを信じたいと主張した。 「キリがないのでその件は現場判断、ということにしましょう」 珍しく刹那がまとめた。 「次に、腕輪を管理している施設が見つかった。E−5、つまり街の中心部だ」 千雨はデータベースにアクセスしながら話を続ける。 「街の中心部?ありえないよ。普通、重要な拠点はこの施設みたいに隠すはずじゃない?」 パンを口にしながら円が口をはさむ。 「おそらく、隠さなくていいくらいの理由があるんだろう。罠が仕掛けてあるとか、武力が十分に整っているとかな」 画面に管理塔が映し出される。 「ちうちゃん、本部にクラッキングとかできないの?」 「そいつはやめておいたほうがいい。パソコンと要領が違いすぎるし、敵もなんかのウイルスを持ってるみたいだからな」 話がまとまったところで朝倉が今後の行動について考える。 「じゃあこれから管理塔制圧班と待機班に分けたいと思う」 「私は外に出ますわ。怪我人を制圧班に連れて行くわけにも行きませんし」 あやかが立候補すると円と桜子もそれに続いた。 「ちうちゃんにはまだ調べてもらいたいことがあるし、私が」 「いえ、私が行きます」 朝倉を制して刹那が言った。 「でも桜咲、あんた傷だらけだし、このかの隣にいなくていいのか?」 「これくらいの傷なら平気です。あと、私はお嬢様を守るために制圧班として行くのですから」 「せっちゃん……」 木乃香は恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。 よって制圧班があやか、円、桜子、刹那。待機班が朝倉、木乃香、裕奈、千雨、ネギ、(さよ)に決まった。 制圧班に武器の受け渡しを行う。 「せっちゃん、無理せんといて……」 「はい、みなさんと一緒に無事で帰ってきます」 一筋の希望の光を胸に制圧班は歩き出した。 【残り10人】 【円 ブローニング・ハイパワーmk-3、UZI、防弾チョッキ(スクール水着)】 【刹那 アサルトマシンガン、シャムシール、クナイ(×2)】 【あやか ロケットランチャー(×3)、モスバーグ500、ファイブセブン】 【桜子 アサルトマシンガン、包丁、カモ】 【木乃香 FG−42、看護セット】 【裕奈 ダブルデリンジャー、グロッグG25、説明書、武器リスト】 【朝倉 爆弾、UZI、パーソナルモバイルツール、ダガー】 【千雨 S&W 60、銃剣、単2電池】 <行き先> 雪広あやかを完全に見失ったが思わぬ収穫があった。 のどかの近くには上から押し潰されたのか手足の区別がつかないものと右腕のないエヴァの死体があった。 この二人に何があったのかは知らないので大して興味はなかった。 周りを見ると目に入るとこにリュックが放置されている。 ためしに持ってみると空ではない、もしかしたら使える何かが……。 のどかはリュックを漁る。 「これは……?」 なにやら小型のレーダーが入っていた。 画面には点が中心に一つと遠くに三つが固まっている。 機械に疎くてもこれが探知機であることくらいわかった。 ―――私はツイている。 きっと神様は私の行為を肯定してくれているのだろう。ならば、神の使者として奴に断罪を……。 (これで……。ふふふふ) のどかはその場から離れ、歩き出した。 向かうべき場所は三つの首輪が反応している地点だ。 【残り10人】 <底深い憎悪> 「なんであいつが!!」 千雨が声を荒げるのも無理はない。メインディスプレイにはなんとも楽しそうな笑顔を浮かべる女の子、宮崎のどかが映っていた。 のどかは教会の大きな扉を開け、画面端へと消えていった。 「どうして本屋がこの場所を知ってるの!?」 「そんなの宮崎に聞かないとわからんよ」 動揺する二人をよそに千雨はやる気だ。 「まあ、なんにしてもここに来るんだったら迎え撃つ。あいつは仇敵だからな。 朝倉、私は出るぞ」 「わかった。私も行く」 怪我をしている裕奈、戦力に乏しそうな木乃香より私が出たほうがいいだろう、即座に脳が決断した。 この施設は最下層の制御室までは一本道。どう考えたってここを通るはずだ。 なのにのどかは一向に現れない。 「……ちッ」 千雨の舌打ちはこれで五度目。 相手のじらしに耐えられないのか千雨は明らかに焦っていた。 (……こんなことになるなら) 敵の施設を本拠地にする気などさらさらなかった。至る所についていた固定カメラを一つ残らず刹那に破壊してもらったのがその表れだ。 (壊さなきゃよかった……) 「……ああ、もう無理。先にこっちから仕掛けてやる!!」 「おい、ちうちゃ…」 朝倉も追いかけようとした時に偵察に行っていたさよがやっと帰ってきた。 「遅いよ」 「すいません」 曲がり角を一つ曲がると目的の人はそこにいた。 「ずいぶんと遅かったな」 千雨の文句などのどかの耳に入らない。のどかの興味は唯一つ、 「雪広あやかは?」 「……生憎、ここにはいない」 「どこに行ったの?」 「その質問には答えられないな」 ―――なんだ、いないんだ。 のどかはさぞかし残念そうな顔をして“新しい武器”を向けた。 銃には見えないその形。 なんだ?この匂いは?ガス漏れか? 匂いが何であるか解った頃には灼熱がすぐそこまで迫っていた。 豪炎の波は邪魔となるものをすべて焼き尽くす。 千雨は呑まれた。 「ックアァァァーー!!」 皮膚が爛れ、焦げながらも前進していく、 ―――――せめて相撃ちにでも! 希望は銃声と共に絶たれた。 朝倉が来た時には人は一人しかいなかった。床にあるのは千雨のようなモノ。 ひどい光景に五感がまともに働かなかった。 「火炎放射器……武器庫に寄っていたわけだ。それともある部屋全部見てまわっていたのかな」?」 のどかは答えることない。 代わりに倉庫からの収穫をもう一つ、取り出した。 筒が三つ束ねられ、その上に取り付けられた機械にはデジタルな文字で00:59、58……そう、ダイナマイトだ。 「…………マジ?」 のどかは笑顔という言葉を返す。 まずい、マずい、マズい、マズイ!!”あれ”は危険すぎる! 最速で来た道を戻る。一刻でも早く! 朝倉は曲がり角を素早く曲がる。そこには隠れて様子を見に来た裕奈と木乃香がいた。 ―――――はは、こいつは最悪だ。 二人とも状況を理解できていないらしく、 「長谷川は?」「のどかは?」 などと言っている。 「制御室に逃げろ!!早く!!」 必死さが伝わったのか二人ともすぐに方向転換してくれた。 でも、裕奈は足を……? 爆音が響いた。もうここには用はない。 「あやか……、雪広あやか……」 のどかの足は既に外に向いていた。 【長谷川千雨 死亡 残り9人】 <ドアの正しい開け方> 一見どこにでもありそうな普通のビル、千雨が映し出したものと同じだ。 四人はビルを目の当たりにしている。 「でなんだけどさ、この扉、閉まってるよ」 このビルはよく見ると不審点がいくらか見つかる。頑丈な扉、一階に窓がない、すなわち外部からの侵入を許さない造りになっていた。 「みなさん、少し下がってくれませんか?」 刹那が扉の前に立つ。 目を閉じ右手のシャムシールに気を注入していく。 そして、目を開いて、 「ぃやあ!!」 刹那の気迫の一撃で扉は見事に、 「斬れてないね」 「斬れてないよ」 「斬れていませんわね」 …………………… 穴があったら中に入りたかった。 「どうしよう。長谷川にロックの解除をしてもらうとか?」 「それじゃあ時間がかかるよ。裏口とかないのかな?」 「どいてくださいまし」 二人が振り向くとはロケットランチャーを片手に持つあやか、頼もしい姿だ。 ttp://www.imgup.org/iup154073.jpg 「いんちょ、マジでやるの?中の奴に気付かれるよ」 「ほかに方法がないのですから仕方ありませんわ」 そして、扉に向けて構える。 「いきますわよ」 鈍い音が響いた。 「きゃあ!」 強烈な反動が身体にきた。あやかはその衝撃で尻餅をつく。 「大丈夫ですか?いいんちょさん」 「……ええ、これくらいなら」 煙が少しずつ薄くなっていく中で、見事に穴が開いていることが見てとれた。 (いいんちょさん、思っていたより過激なんですね……) これにはさすがに刹那も驚いた。 【残り9人】 <亡霊の意思 前> どこかの一流会社を感じさせるロビー、クーラーが入っているのか肌寒く感じる。部屋には観葉植物が飾られており、見るものを癒す。 その片隅に“人の形をした焼死体”。 「うっ」 桜子は異質な匂いと光景に目を瞑る。 焼け焦げてしまい誰であるか確認できない、その首には十字架を模したアクセサリーが掛けられていた。 「これは、春日さんの……」 あまりに無残な光景。それに、円と桜子でカーテンを持ってきて被せる。今できる死者への餞だった。 (ごめんね、埋葬もしてあげられなくて) 三階に来ても誰一人いない。これでは管理施設よりも守備が手薄だ。 その中をアサルトマシンガンとシャムシールを持つ刹那が先頭を行く。 (何かがおかしい) 建物は高さからして三、四階ほどであろう。それなのに今までどこにも防衛網となる人、仕掛けがない。 (どこかに敵はいるはずだ) 刹那の予感は的中する。 三階のホールにそれはいた。筋肉質なフォルムにサングラス、高い身長、この姿を見るのは初めてではなかった。 「何、あの人?」 「あれは超の生産したロボットです!」 田中が口を大きく開ける。 「横に跳んで!!」 向かってくる光弾からそれぞれが別々の方向へ避けた。今までいた場所は地面が砕け焼け焦げている。 「うおおお!!」 マシンガンを捨て、刹那が距離を一気に詰める、そのスピードは常人では見ることができないほど。     ガキィン! 「!?」 鉄をも斬るその一撃で砕けたのはシャムシールだった。超の弾丸を弾いたことにより強度が著しく落ちていた。 田中は攻撃に怯むことなく刹那に太い腕を向ける。 「進入者ノ排除ヲ開始シマス」 腕が分離し高速で獲物を追跡する。 「桜咲さん!ロボット離れてくださいまし!」 刹那はロケットパンチをバックステップでかわす。自分のマシンガンを拾い、迷うことなく撃つ。 アサルトマシンガンでの機銃掃射、最後にあやかのショットガンが田中を吹き飛ばし後方のガラスが派手に割れた。 大の字に倒れる守護者、機能が停止したと思われた。 「まだだ!」 田中は急ぐことなく立ち上がった。 【残り9人】 <亡霊の意思 後> 「嘘……、何でできてんのよ!これ」 銃が効かなかった事実を目の当たりにした円は嘆く。 銃が効かないならそれ以上の火力で当たるのみ! 「皆さん!何とか時間を稼いでください!」 あやかは皆と距離を置き、ロケットランチャーの準備をし始める。 「引き受けました!」 戦闘能力の高い刹那が囮となり、田中の前へ出る。 「目標、捕捉。発射」 その化物は標的をロックしている。ミドルレンジではかなりの武力を発揮するが攻撃はあまりに正確なため、刹那に当たることはない。避けるだけなら容易だった。 刹那が中断蹴りを腹に入れ、田中はピンボールのように弾き飛ばされる。 「これでも無傷か」 壁には大きな穴が開いた、そこから田中が再び姿を現す。 「桜咲さん!離れてください!」 堂々とした振る舞いのあやか、その手に掲げているものはロケットランチャー、不自然な光景だ。 桜子と円があやかの背中を支えることによってブレによる目標のズレが少なくなる。狙うはあの殺人マシン。 「撃ちます!!」 支えがあったから今度は尻餅をつくことはなかった。 力強く発射した弾は最高速でターゲットへ向かう。 閃光と爆音がフロア内を駆け巡る。爆風をできるだけ避けるために地面に伏せる。あまりの威力に前も見ていられなかった。 嵐は去り静けさが舞い戻る。 刹那はいち早く顔を上げる。足元には機械でできた腕のようなもの。 「た、倒した……の?」 続いて皆が立ち上がる。煙が徐々に薄くなり視界がクリアになっていく。 田中の姿はなかった。代わりに床には鉄屑があちらこちらに散乱している。 「何とかなったみたいだね」 みんなで戦い、誰一人欠けることなく勝利した。誰かがいなかったら結果は変わっていたのかもしれない。 【残り9人】 <屍を越える> 「……、ううっ、痛っつぅー」 朝倉は自分が軽傷であることを確認し、状況を把握しようとした。 ネギ先生は……無事だ。 裕奈はドアの近くにいる。どうやら無事のようだ。 さよは幽霊だからなんら問題ない。 ―――――木乃香は? 裕奈はドアの近くで泣いている。何故泣いている?ワカラナイ。 ―――――このかは? 朝倉は裕奈の方に歩いていく。裕奈は、 「このかぁ……、このかぁ……」 とかすれた声で泣いている。 ―――――コノカは? そう、木乃香は爆風で崩れたドア付近の瓦礫の下にいた。生きていることは確かだ。 「私のせいで!私が外に出たりしなかったら!」 「違うんよ。裕奈のせいやない…」 「私を置いていけば!」 「怪我人を置いて逃げることなんて…できへん……」 ネギも皆の下へ駆けつける。 「このかさん!」 「ネギ君。無事で何よりや…」 「ちょ、このか!今、助けるから」 朝倉は瓦礫をどかそうとするが、一つ一つの塊が大きすぎるために持つこともできない。 「……アカンよ」 「……そんなんしてたら、先にこの施設が崩れるわ…」 さっきの爆発で、この施設の屋台骨がやられてしまってもおかしくはなかった。 室内に重苦しい空気が流れる、その雰囲気を断ち切ったのは木乃香だった。 「みんな、ちょっと聞いてほしいんやけど」 「ええとな、この部屋の出口はここしかない。だから……」 ―――――ダカラ? 「……この瓦礫のところに爆弾を置いて爆発させれば外に出られると思うんや」 三人の思考が固まる。 「え、何を言ってるの?このか。そんなことしたら、このかはどうするの?」 「ウチは……だめやな」 あはは、と笑いながら木乃香が答える。 ―――――だめ?駄目って何!私たちだけ助かって、木乃香は死ぬの?私のせいで木乃香はこんなことになったのに!そんなの!! 「そんなことできるわけないじゃない!なんで私達がこのかを殺さなきゃならないの!そんなの無理だよ!!」 裕奈の叫喚が痛々しく響いた。 「なら、他の方法があるの?言うてみ?」 木乃香がかなり強い口調で問いかける。 「やだよ、それだったら私もここでこのかと一緒に死」 「ふざけないで!!」 初めて見る木乃香の怒りの表情だった。 「ウチだって生き残りたい!まだ、死にたくなんかない!でも、もう私には助かる方法がないんや」 「…………」 「だけど、みんなには助かる方法があるから」 木乃香はいつもの表情に戻り、 「ここを爆破するんよ」 強く、強く皆に語りかけた。 「ええ、わかった」 朝倉は木乃香の曇りのない目を見て意見を受け入れる。 「な、朝倉?本気じゃない……よね?」 「もちろん本気。みんなは隣の医務室に避難して。私は導火線に火をつけてから行くから」 「クラスメイトを殺すっていうの!」 裕奈が朝倉の肩を掴む。振り向いた朝倉の目は赤くなっていたが涙はなかった。 「このかは私達を生かすために勇気を出してくれたから、それを無駄にはできない。もう一度だけ言う。裕奈は避難して」 「……朝倉」 裕奈は涙を止めて、泣きじゃくるネギの手を握り医務室へ行った。 震える手をもう片方の手で押さえながら朝倉は爆弾を取り出す。 木乃香の顔などもう見ることはできない。見てしまうと決意が鈍ってしまうから。 感情も奥へと留める。出したら溢れる感情で自分を制御できなくなるから。 辛いなんて思わない、本当に辛いのは…………。 自分に嘘を吐く自分。 「朝倉さん」 「……さよちゃんか」 「私幽霊ですけど、今、とても悲しいです。」 朝倉はさよが泣いていることに気付く。 「朝倉さんは今泣くことができない立場だから、私が朝倉さんの分も泣きます」 さよが音もなく泣き続ける中、朝倉は作業を続ける。 手の震えは押さえても止まらない。もう一方の手も震えていたから。 「このか、本当にいいのか?」 朝倉が最後に問いかける。 「うん、ええよ。……ウチの分も生きてな」 木乃香は最後まで笑顔だった。作り物ではなく本物の笑顔。決心がついていないのは朝倉自身だった。 「……分かった」 長い導火線に火をつけ、朝倉は去った。 導火線は着実に時を刻む、タイムリミットは近い。 (うち、死ぬんやな……) あの火が消えたとき、私は死ぬ。恐怖は無かった。 私はみんなに会えなければもっと早く死んでいただろう。 思い出すのはせっちゃんのこと、アスナのこと、亜子ちゃんのこと。 (アスナ、亜子ちゃん、今からそっちに行くよえ) (せっちゃん、約束守れなくてごめんな。堪忍して) 爆音からしばらくしてから、朝倉はドアを開けた。 そこには木乃香の面影もなく、あるのは廊下に続く大きな穴だけだった。 【近衛木乃香 死亡 残り8人】 <無効化> 本部内にて、 「大変です!腕輪の反応がすべて同時に消えました!」 「なんだと!!」 どうしてだ!?監視施設や管理塔は危険区域指定をしているはずだ! 「クライアント、監視施設と管理塔の危険区域指定は解除しときましたよ」 「は?」 間の抜けた返事をしてしまった。 「あまり厳しいルールではお嬢さんたちは八方塞がりじゃあないですか」 「それの何が悪い!!」 ヘルマンの言っていることが男には理解できない。 「少しくらいスリルがないと面白くないのでね。はっはっは!」 男に以前まであった余裕はない。 【残り8人】 <雨の中> 外はにわか雨、この季節特有のスコールだ。その豪雨の中に修羅はいた。 たかが自然現象ごときでは彼女の歩みは止まらない。 レーダーに目を向けると四つの点が光っている。 ―――――いる、きっといる。雪広あやかがいる。 嬉しくて目から涙が出てきた。 さあ、行こう。 「のどか殿!」 私の邪魔する奴も同罪だと言っているのに横から手負いの者が声をかけてきた。 ―――――冷めるよね。こういうの、 「ああ、あなたは楓さんね。そういえば私に掌底を打ち込みましたよね?あれ、すっっっっっごく痛かったんですから」 「済まないでござる」 素直に謝る楓を見てのどかはさぞかし愉快そうに笑った。 「別に謝らなくてもいいです。責任は今、取ってもらいますから」 パァン!パァン!パァン! 死なないだろう所に銃弾を見舞ってあげた。 前座を終えて立ち去ろうとするが楓がまた声をかける。 「なんと悲しい目、をしてるでござるか」 「あなたに同情される筋合いはありません」 パァン! 撃たれても楓は足を前に出す。 「のどか殿はわかっているでござる」 「何がわかってるの?」 「自分の愚かさを」 パァン! 一歩前に、 「拙者もそうだった。クラスメイトを四人、殺したでござる」 「ならなぜ、ぬけぬけと善人ぶったふりをする!!」 「拙者ものどか殿と同じだったから。狂人にも悪人にもなりきれなかった」 っ、この人は何を話してるんだ? よくわからない、聞きたくない。 「きっとのどか殿は誰よりもこのクラスを好きだった。だから、守れない自分を許せなかった!」 「……うるさい」 一言一言が耳につき離れない。 「自分に嘘をつくのはもう止めるでござる。傷つくのはのどか殿自身でござるよ」 「私は傷ついてなんか……ない!」 パァン! もう一歩……のどかはすぐそこだ。 「来るな、来ないで、来ないでよ!死んでもいいの!?」 「のどか殿が戻るなら…拙者の汚れた命くらい……くれてやる!!」 「来ないで……嫌あああぁー!!」 楓は手を伸ばす。 最後の銃声を聞いて楓は地に伏した。 【長瀬楓 死亡 残り7人】 <懺悔> 「私は…………」 また殺してしまった。自分を救おうとしてくれた人を殺してしまった。 私はいつから狂ってしまったのだろう?ふーちゃんを殺してから? 違うよね。ネギ先生が記憶を失ったことを知った時、私は元の日常を取り返すことを諦めてしまったんだ。 あはは、歯車は最初から狂っていたんだ。自分の手で歯車を狂わせたんだ。 なんて弱い自分……。 今まで溜まっていた感情が一筋の涙となって目からこぼれ落ちた。 「うああああぁぁぁぁあああー!」 言葉でなく嗚咽だった。一度出た涙は堰をきったように流れ出る。 この島で私がしてきたことは何? アスナさん。彼女は島に着いてからも彼女のままだった。必死に酷な運命に抗おうとした。比べて私は異常者という他人の殻を被って現実を見ようとしなかった!! 夕映。私のせいで狂ってしまった!私が現実を直視できる強い心を持っていたならば夕映は死ななかったかもしれない。 いいんちょさん。自分の狂った精神を保つために私は利用していた!いいんちょさんが正常なことくらい本で見ればわかるのにそれを憚った! 楓さん。私の殻を外から壊してくれた。その人は私の手で……。 最低だよね……私。 「あああ……ク、ヒックッ……。あああ…ううぅ」 暖かい豪雨はのどかを包んでいた黒いものを流していく。 四人が音を聞きつけてこの場に来たときにはことは既に終わっていた。 濡れた地面にうつ伏せになる楓と出すものをすべて出して抜け殻となったのどか。 足に力を入れて立ち上がる。 のどかの右手には残り一発しかないコルト・ガバメント―――それで十分、銃口を自分のこめかみに突きつける。 「のどかさん!」 「来ないで……ください」 のどかは嗄れた声で皆を制止させた。 「私の懺悔を聞いてくれますか?」 誰も声を上げなかったのでのどかは続けた。 「最初に襲ってくるふーちゃんを殺しました。 次に龍宮さんを襲いました。 夕映を仲間に呼び込み結果的に狂わせました。 アスナさんを騙して殺しました。 いいんちょさんにありもしない罪を着せて責任転嫁をしようとしました。 千雨さんを焼き殺し、施設を爆破しました」 四人に衝撃が走る。 (お嬢様は……) (そんな、ネギ先生……) (嘘!千雨ちゃんが……) (木乃香、裕奈……) 「私に救いの手を差し出してくれた楓さんを……撃ち殺しました。 最後に今、犯した罪に耐えられずに自分の手で自分の命を絶ちます」 のどかは笑顔で、泣いていた。 「本当に…………ごめんなさい」 四人はこの島で聞く最後のコルト・ガバメントの発砲音を聞いた。 雨は止んだ。 【宮崎のどか 死亡 残り6人】 <激昴> 視界から木が消えていく。その視線の先に教会はあった。 閑静とした佇まいは皆をさらに不安にさせる。 刹那が大きなドアを開ける。眼前に広がる大聖堂にはまだ泣いているネギ、下を向く朝倉と裕奈。 三人しかいない。 「……お嬢様は……」 聞きたくもなかったが口にしていた、するしかなかった。 「長谷川千雨、近衛木乃香は死んだ」 定刻放送と大して変わらない、感情のこもっていない朝倉の声だった。 私の守るべき人は、もうこの世にいない? 「お嬢様が……死んだ?」 「ああ、私が殺した」 明らかに説明不足な朝倉の言葉は火に油を注いだ。 「貴様、どうゆうことだ……」 鷹のように鋭くなった目は朝倉に向けられる。朝倉も刹那から目を離さない。 「やめて、私が説明するから!」 割って入る裕奈、朝倉と刹那の距離を開けてから説明を始めた。 「施設はもう崩れて階段を下りた先は瓦礫で埋まっているの……」 「そんな……」 木乃香の凄絶な最後を刹那たちは知った。 ほかに手段はなかったのか?どうして朝倉はそんなことができるんだ? 「このかへの同情心もあったけど最善だと思ったから実行した!それしかなかった。 でも、こんなことできるの普通じゃない……。そうだよ、普通はできない。 私さ、もう狂ってるのかな……。ねえ、誰か答えてよ……ははは」 自嘲気味に笑う朝倉の態度が刹那には許せなかった。 「私も死ねばよかった、なんて思っていませんよね?」 攻撃的ではないが真剣な眼差しを朝倉に向ける。 「もしあなたがお嬢様の命でもある自分自身を粗末に扱うのなら、私はあなたを許さない」 「木乃香の……命……」 「……自分の命、お嬢様が守りたかった命を大事にして下さい」 言いたいことを口にした後、そのまま教会の扉を開けて出て行った。 「刹那さん!」 追いかけようとする桜子を円は止めた。 「今は一人にしてあげよう。きっとすぐ戻ってくるよ」 刹那は空を見上げる。 さっきまでの黒い空はどこへ行ってしまったのか?日差しが照りつける夏の空へ戻っていた。 スコールの名残は雨上がり独特の空気が肌に張り付くことくらいか。 (…………) 涙は無かった。 ゲームを終了させるまでは弱い自分になるわけにはいかない。 (お嬢様のために泣くのはもう少し先になりそうです) 【残り6人】 <侵入> 六人の腕に腕輪はもうない。それでも、乙女たちの戦いは終わらない。 こんなくだらないゲームのせいで死んでいったクラスメイトの無念を晴らすまでは戦いを止めることはできない。 「私達で終わらせましょう」 あやかの号令とともに本当の敵との戦闘が始まった。 刹那、円、朝倉が先行していき道を作っていく。まばらな守りではこの島での戦い方を熟知している三人を止めることはできない。 後から桜子、あやか、ネギ、裕奈が安全を確認しながらゆっくり歩みを進めていった。 先発隊は本部に到着する。 本部は静まり返っている。そこは廃屋を思わせるほど人の気配がない。 最後の砦も他の施設と大して変わらなかった。 「開けますから少し待っていてください」 刹那が本部の扉を開けて一歩先を行く。いつもの構図だ。 建物内部も人の気配を感じない。 どこか他の施設に逃げたのか?それとも、もうこの島にはいないのか? 試しに近くの部屋のドアを開けてみるが案の定誰もいない。 (どうなっている?) 突き当りを右に曲がり広い通路を進んでいく。 【残り6人】 <後始末> 考えもしなかった。なぜ奴らは本部に進行してきている。 想定外、予想外、ありえない、アリエナイ、こんなことがあってはならない。 男はヘルマンに怒号を浴びせる。 「残っている兵士はどうした!」 「待ち伏せですよ。まあ、ちょっとした運試しも含まれてますがね」 嫌な予感がしたのでこの先は聞きたくなかったが、ヘルマンはわざわざ丁寧に説明してくれた。 「一階はT字路になっていますよね。その片方のみに待ち伏せをするように指示しといたのですよ。 運がよければ戦闘なくここに来れる、というわけですな」 男にとって生命の危機を感じるこの場に留まる必要はなくなった。 「僕はここから屋上のヘリで脱出する。お前は責任を取ってここで足止めをしろ!」 ヘルマンの答えはすぐに返ってきた。 「それはできないな、クライアント。あなたにはゲームの終焉を見守る義務がある。 あと言い忘れましたが屋上のヘリはもう“処分”しましたよ」 男がすぐに島から脱出する方法は自らの部下によって消された。 「……なぜ、なぜ僕の邪魔をするんだ!」 「なんとなくこのゲームが面白くないから、ですかねぇ」 ヘルマンは床に溶けて消えた。 「くそ!くそ!」 あのデーモンがすべて悪いんだ。 あいつが当初の予定通りに動けばこんなことにはならなかった。あいつに手落ちがなければ……。 「僕は死ぬわけにはいかない。ゲームを成功させて富と名声を得るんだ!」 「桜咲、この部屋は?」 今までの部屋のドアよりも立派な作りをしていた。 「おそらく誰かがいます」 刹那の感覚が一段と鋭くなる。トラップはない……だろう。 三人はそれぞれ武器を構えて中へ突入する。 視界に入ってきたのは床をじっと見つめる優顔の青年だった。 「瀬流彦……先生?」 「やあ、まだ生き残っていたんだね」 瀬流彦が顔を上げ侵入者の顔を確認する。 「あなたが、黒幕…ですか?」 「まあ、そうゆうことになるね」 あまりに淡々とした態度に、刹那は警戒心を強める。 「なんでこんなことをしたんですか!」 円が怒りを露わにする。 目の前の奴のせいでクラスメイトのほとんどが死んだ。許すことはできないが、理由だけは知りたかった。 「簡単なことだよ、お金と地位さ」 あまりに自己中心的な回答、罪滅ぼしすらしない。いや、瀬流彦は罪だとすら思っていない。 「僕は魔法使い。でも、半人前の実力しかないんだ。だから、こんなことをしないと人の上に立つことができないんだ。 ほんと世の中って不公平だよね」 刹那に一つの疑問が浮かんだ。 「瀬流彦先生。あなたには高畑先生という見本が目の前にあった!どうして見習うことができなかった!」 「高畑先生?ああ、あの馬鹿な男ね。才能もないのに努力して、結局先生止まり。いい失敗例。 あんな生き方、僕はしない!」 瀬流彦は狂ってなどいない、……ただ“人”として壊れていた。 「可哀想な人……」 円の口からはこの言葉しか出てこなかった。 「こんな奴に私達の運命が左右されてたなんて……」 朝倉は哀れな男から視線を逸らした。 「お話はここまでだ」 「はい。さようなら、瀬流彦先生」 声が後ろから聞こえる。 「なっ?」 瀬流彦の目に刹那は映っていない。刹那は既に背後にいた。     浮雲・旋一閃 受身も取れずに頭から床に叩きつけられる。 瀬流彦の視界が180度回転し、何も見えなくなった。 主催者の最後はあまりにもあっけないものだった。 【残り6人】 【ゲーム主催者:瀬流彦 死亡】 <みんなの勇気> 先発隊がうまく仕事をしてくれたのか、兵士に会うことなく施設内に入ることができた。 抜け殻となった本部を桜子、裕奈、ネギ、あやかの順で歩いていく。 別れ道に行き着いたので適当に左を選んだ。 さきほどとは違い、片側に部屋、もう片方は窓となっていてそこから光が差し込む。 長い直線廊下となっているので死角からの攻撃はできない―――桜子に少しの怠りがあった。 また右側にあるドアばかりに気をとられ窓側への注意が欠けていた。    ガシャ!! 桜子が外での異変を悟った時にはガラスが宙を舞っていた。 いくらかの銃弾は桜子の体内を通過して壁に突き刺さっていく。 「あ……れ?」 足から力が抜けてその場に崩れ落ちた。 いち早く状況を理解したあやか。割れた窓に向かって最後のロケット弾を発射した。 スタントのような爆発が外で起こる。これで無力化したはずだ。 「いいんちょ!後ろからも!」 裕奈の声に反応し振り向く。 入口方向から兵士が五人ほど向かってきていた。私たちを挟み撃ちにする作戦だったのだろう。 まだ距離がある。 不必要になったロケットランチャーを捨て、代わり腰に忍ばせていたファイブセブンを取り出し後方に乱射する。 怯んだ隙に桜子を抱えて曲がり角に滑り込んだ。そこには一足先に避難していた裕奈とネギ。 裕奈は通路に腕と顔を出し、威嚇射撃を続ける。 敵は作戦通りにいっていないことを考慮しているのか慎重だ。 その間にあやかが傷の確認をする。 桜子は胸など数ヶ所撃たれていた。意識はあるようで虚ろな目でこっちを見ている。 「桜子さん!」 あやかの応答に桜子は答えずに、別のことをいつもの調子で話す。 「いんちょ、裕奈、ネギ先生をよろしくね。私がここを食い止めるから」 「何を言っているの、桜子さん!怪我人を置いていくわけには行きません!」 あやかが桜子に手を伸ばす。 「だめ……だよ」 桜子はそれを拒絶した。 「みんなは生きてここを出ないといけないから……」 「だから、桜子さん。あなたも生きてこの島から出ないといけません!」 「いいんちょの言う通りだよ!桜子!」 「そうです。桜子さん!」 あやかが再び手を差し出す。その手を桜子は掴み立ち上がった。 桜子の目はしっかりしたものに戻っていた。 「ありがとう。みんなの勇気、確かに貰ったから」 「えっ?」 桜子は意を決してみんなと逆の方向、曲がり角のほうに走り出した。 迷ってなんかいられない。 左手には朝倉からもらった爆弾。 どうせ助かる傷じゃない、だから死ぬまで暴れてやるんだ。 でもその前にお別れを…………。 「みんなー、ごめんね!私、帰れそうもないや」 桜子はみんなのいる方向に手を振った。 笑顔……だった。 仲間の顔を脳裏に焼きつけてから前を向いた。 さっき落としてしまったアキラの持っていたアサルトマシンガンを拾い上げる。 しっくりとくる重み、こんなにも馴染んでしまった。 (アキラちゃん、私もそっちに行くことになるみたい) 胸元から、口から血が滴り落ちながらも、桜子は走ることをやめない。 「桜子姉さん。たいした根性だな」 「うん、強くなれたのはアキラのおかげ……かな」 「そうかもな……」 カモはいつの間にか桜子の肩にいた。 「カモくん。きみはネギ君のところに……」 「釣れねえな、桜子姉さん。ずっと一緒にいた仲だろ。最後くらい付き合うさ」 「……うん。ありがとね」 みんなには見せなかった涙がこぼれた。 正面には掩撃にうろたえる兵士達がいる。もう、泣いてはいられない。 「……じゃあ、ひと暴れするよ!」 雨の様なマシンガンの音の後に爆音が響いた。 【アルベール・カモミール 死亡】 【椎名桜子 死亡 残り5人】 <奇跡 前> その後先発隊と後発隊は合流した。 本部のいたるところを調べたがヘルマンはいなかった。残るは屋上のみである。 刹那を先頭に重いドアを開けると、そこには眩しい太陽とそれに似合わない黒い外套を纏った男、ヘルマンが待ち構えていた。 「ついに来たね」 愉快そうな顔を浮かべ侵入者を歓迎する。 「きっと君たちならゲームを乗り越えここまで来てくれると思っていたよ」 帽子に手を当てながら皆を見据える。 「そのことで私、あんたに聞きたかったことがあるんだ」 朝倉はヘルマンのほうへ首を向けた。 「何で私達が有利になるような行動をとったりしたんだ?監視施設と管理塔を危険域にしなかったり、ネギ先生を逃がしたり、瀬流彦の言うことをきかなかったりさ」 ヘルマンは困った表情を見せたが、 「なに、ただの気まぐれだよ」 誤魔化した。 「ゲームは終了した。おそらく数時間後には君たちの元へ助けが来るだろう。だが、その前に私の相手をしてもらおうか」 ヘルマンは黒いグローブを両手に装着する。 「なっ!ゲームが終わっているなら、そんな戦いは無意味ですわ!」 「私にとって無意味な戦いなどないのだよ。戦いそのものから意味を見い出すのだからね」 「だとしても!」 あやかの発言を刹那が制した。 「いいんちょさん。これ以上の話し合っても無駄でしょう」 そして一歩前に出た。 「みなさんでは手に負えない相手です。あの人とは私が戦います」 「はっはっは。物分りのいいお嬢さんだ」 「あなたが何お考えているかは知りませんが、ゲーム監視者として責任は取ってもらう」 ヘルマンの余裕な態度を流し、素手で敵を見据える。 「その前に神鳴流お嬢さん、お返ししよう」 ヘルマンは左手に何かを持っていた。それを刹那に投げる。 「これは…」 間違いない。私の愛刀、夕凪。 「どうゆうつもりだ?」 「はっはっは、私はただ戦いたいだけだよ。ハンデはなしでいきたいものでね」 「そうですか、ならば私も本気で戦いましょう」 腰の重心を少しばかり下げて、刀身を対峙する敵へと傾ける。 「では、始めようか!!」 この島での最後の戦いの火蓋が……切られた。 【残り5人】 <奇跡 中> 「ぬんっ!」 ヘルマンは力を込めた腕を前方に突き出す。 そこにはもう刹那はいない。腕が来るのを確認してから、刹那は腕がその場に到達するより早く懐に飛び込み、すり抜けた。 閃光となって放たれた一撃、居合いは確実に敵を捉えた。 飛燕の早技もヘルマンはよけることなく正面から受け止める。 「攻撃が軽いぞ」 (ちっ、強い) 左足に全体重をのせて方向転換を行う。 その一瞬、刹那は無防備になる。 打ち出された最速の拳を避ける術はない―――――ならば迎え撃て! 低く重心を保った体勢のまま悪魔の拳に向かっていく。 拳が当たり身体が悲鳴を上げたが無視した。 すべてを霧散させるべく両腕を跳ね上げる。 「はああぁー!!」 上段に掲げられた刀はこれ以上ない速度で振り下ろされた。 ヘルマンは後方に跳び退く。 無駄だった。 “斬られた”後に避けることなど意味がなかった。 ヘルマンの左肩は紙一重で繋がっている、もう動くことはない。 「これは……」 前方には唇から血を溢しながらも佇んでいる。肋骨と内臓が破壊されてしまっていれも己の傷には目もくれずただヘンマンを見ている。 「素晴らしい!!」 最高の相手ではないか!なら、私も本気を見せよう! 刹那に真ッ直線に向かって来る悪魔、それを容赦なく穿つ。   ズシュ!! 串刺しになったのはヘルマンの左腕だ。 ヘルマンは自分で自分の腕を剥ぎ取りそれを盾とした。 悪魔化したヘルマンの口が光に満たされる。これこそが切り札。 こことないタイミングでこれを使う。 対する刹那にはこの距離では致命的! 避ける以外に生きる方法はない、でも避ける方法がない。 なら? 「えっ!」 閃光は刹那に届くことはなかった。 「朝倉……さん?」 刹那が驚きの声を上げる。受けるはずだった攻撃は朝倉に当たった。 予想外の横槍が入る。 「ははは……最後の最後でやっちまったね……」 朝倉の手足はすでに石化している。 「なんで……どうして出てきたんですか!」 「言うまでもないよ……この方法が最善だと思ったから」 石化の進行は目に見えるほど早い。 「桜咲……、こいつを倒せるのはあんたしかいない……。後は頼むよ……。 あとさ、このかのこと……」 朝倉は最後のメッセージを刹那に伝えることなく彫刻と化した。 「ふはははは!!たいしたお嬢さんだ!」 バランスの悪いその彫刻はそのまま倒れ、ばらばらになった。 誰もこの彫刻を直すことはできない。 「……わ、私は……あああっ!!!」 刹那は叫ぶ。仲間を守れなかった咎を自身に刻み付けるために。 刹那は咆える。敵を倒す、一心を胸に。 【朝倉和美 死亡 残り4人】 【朝倉の死亡により、さよ行方不明】 <奇跡 後> 「ああああー!!!」 暴風と化した刹那が襲い掛かる。 「怒りは力にならんよ!」 精彩を欠いた攻撃はどれも空気を切るだけである。 ヘルマンの回し蹴りが刹那の脇に直撃しゴムボールのように吹き飛んでいった。 その勢いのまま手摺りに衝突する。 「こんなものなのか?幻滅だよ」 駆け寄ろうとする仲間たちを止めて、また刀を構える。怒りの目で相手を凝視する。 ………… その声を聞いて怒りは消えた。 「ネギ先生?」 あやかの問いかけにも応じずに続ける。 ………… 刹那はそれに何度助けられただろうか? 「………ラ…ス・テル…マ・スキル…マギステル」 風向きが変わった。 「来れ雷精(ウェニアント・スピーリトゥス) 風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)!!  雷を纏いて(クム・フルグラティオーニ) 吹きすさべ(フレット・テンペスタース) 南洋の嵐(アウストリーナ)雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!」 それは守りたい気持ち、ひとかけらの奇跡。 「ぬぅうう……」 テンペストがヘルマンを呑み込む――――今しかない。 「神鳴流決戦奥義……」 刹那の切り札。切先がまばゆい光に包まれる。 「真・雷光剣!!」 リミッターを解除した一撃は阻むものを破壊する。ヘルマンの対象の一部だ。 目の前の膨大なエネルギーを前にして完全に防御へ回った。 「がああああー!!」 大の字になって倒れているヘルマン、もう一歩たりとも動く力も気力もない。 「また負けてしまったか……」 ヘルマン目に入っているのは刹那ではなくネギだった。 「はっはっは。ネギ君、また君にしてやられたよ」 自分を消す相手の前でもヘルマンは笑っていた。 「まあ、楽しめたから良しとしよう」 そして悪魔は塵となり消えていった。 【ヘルマン消滅】 <戦跡(いくさあと)> 表記事(某新聞の一面) 20○○年△月□□日、グアム行きの旅客機が海上に墜落した。この事故で乗客26人を含む○○人が死亡した。 懸命な救助活動もあり奇跡的に5人の生存が確認され、至急病院に搬送された。 この旅客機は麻帆良学園緒中等部クラス3−Aの貸切で、研修旅行でグアムを訪れる途中だったとのこと。 現場検証は取材陣を完全にシャットアウトした状態で行われた。事故原因はいまだ不明のままで解明が急がれる。 裏記事(機密書類 持ち出し厳禁) 20○○年△月□□日、アメリカを最後に撲滅したはずだったバトルロワイアル法が日本で適応。参加者(被害者)は麻帆良学園緒中等部クラス3−A。 参加者の生き残りは教員含む五名。 外傷等がひどい生徒(全治3日ほど)有り→至急国立病院に機密に搬送。 精神的に疲弊している生徒有り→早急に全員にカウンセリングを要する。 事件の首謀者と思われる男:麻帆良学園緒中等部教師、瀬流彦(本名△△□□)は参加者によって殺害。 現場検証はマスコミをシャットアウトすること。 参加者の口止めを強要しておくこと。 <親友> 半年後……、 「ぷはぁ、やっぱ試合の後はアク○リアスだね」 「裕奈、なんか仕事帰りのおじさんがビールを飲んでるみたいだよ」 ttp://www.imgup.org/iup158605.jpg 「あそこの3Pが入ってたら……」 「うぅ〜、私結構気にしてるんだよ」 「ごめんごめん」 私達の学校は進級がエスカレーターなので部活の引退は春になる。今日はその引退試合を私的に見に来たわけだ。相変わらず弱小のままで、今日も負けてしまったのはいうまでもない。 「あのさ」 「…………もう半年……、早いよね」 「…………」 何のことか?など言う必要はない。それくらい重く辛い出来事。 島を脱出してから、国の対応は早かった。 島で起きたことの隠蔽と後処理、私達への口止め、カウンセリングの強制。 臭いものにはすぐ蓋を、と言ったところだ。 このまま3−Aで授業を受けるわけにはいかないので私達は他のクラスに編入することになった。 私といんちょはすぐに馴染むことができたが裕奈はそうもうまくいかず、時々に島の記憶が思い起こされ癇癪を起こすこともあった。 今はカウンセリングあってか、明るい裕奈を取り戻しつつある。 刻み付けられた記憶という名の傷はあまりに深い。そんな辛い記憶でも忘れてはいけなかった。 「島に行く前まで私と裕奈には特に接点はなかった」 「もし、島のことがなかったら私が裕奈とこんなに仲良くなれなかったと思う」 「うん……」 「……それだけ、良かったことはそれくらい……」 円の髪が風になびく。顔は髪で隠れていた。 「私さ、時々どうして生き残っちゃったのかな?って思うんだ」 「円?」 「…………26人分の命なんて、私には重くて背負えないよ」 「…………」 裕奈の出した答えは単純なものだった。 「だったらさ、分けようよ」 「えっ?」 「私も一緒に背負ってあげる。きっといんちょも桜咲さんも手伝ってくれるよ!」 裕奈らしい明るい考え方だ。私が思っていた以上に、強い。 「うん、そうだね」 ―――――ありがとう、裕奈。 <思い出すモノ> 窓の外は森、市街地、田舎etc…と色々な風景の断片を映し出しては消えていく。 電車はただ東へ走っている。その中に刹那はいた。 お嬢様はもういないので東にいる意味などなかった。ゆえに私はあんなにも嫌がっていた西に戻ることを決意した。皮肉なことだ。 戻ってからはただひたすらに剣を振っていた気がする。剣を持っているだけで安心できたから?いや、剣を振ることにより現実から目を逸らしていた。 守るものを失っても剣を持ち続ける。本当に皮肉なことだ。 ネギ先生の記憶は戻ることなくウェールズに帰った。 ネギ先生本人は故郷の帰郷を拒否していた。 彼が帰っていくときにこんな言葉を残している。 「皆さんの教師であった僕は……無力で3−Aを守ることができませんでした。それは教師としての僕の罪。罪が消えるまで僕は教師を辞めることはできないんです」 それにしても魔法関連の記憶が消されているのにあの時に魔法が使えたのだろうか? 私やあの伯爵から多大な魔力が蔓延っていたから? 知る者は誰もいない。 「次は―――麻帆良学園中央駅―――」 (さてと) 刹那は座席から立ち上がる。 窓には見慣れた風景が見受けられた。 <責任>      20○○年△月□□日 飛行機墜落事故 3−A26人の命、眠る 碑面にここまで堂々と嘘を書かれると怒りを通り越して呆れてしまう。 お偉いさん曰く、生き残った人に殺人者としてのレッテルを貼らせないため、だとか。どう見ても出来事を隠蔽しようとしている。 そんなことを頭に過らせながらあやかは3−Aの石碑と称されるものを掃除していた。 「いいんちょさん。久しぶりです」 ふと懐かしい声が聞こえたので後ろを振り向く。そこには綺麗な花束を抱えた刹那が立っていた。半年ぶりの再会だ。 「刹那さん。ずいぶん見ないうちに大人になって」 「……あはは」 発言がおばさんっぽいですよ、なんて刹那に言えるわけがない。 「でも刹那さん、私はもう委員長ではありません。 クラスも守れないのに自分だけぬけぬけと生きている。委員長失格ですわ」 あやかは俯きながら話す。 「いいんちょさん、あなたは誰だ何を言おうが3−Aの委員長だ。 否定することも逃げることもできない。 ……それがあなたの責任、だと思います」 「責任…………、重い言葉ですわね……」 重い空気を打ち破る声が聞こえてくる。 「いいんちょ、来たよ!」 「えっ、あれって桜咲さんじゃ……」 「ほんとだ!」 駆け寄ってくる二人を笑顔で迎えた。 「何で連絡くれなかったの?水くさいなぁ」 「連絡があったなら裕奈は何か気の聞いたおもてなしをしてくれたの?」 「うッ…」 円の厳しい指摘が入る。 「ええと…、粗茶くらいならお出しします……」 墓参りを終えて四人は帰路に着く。 「桜咲さんはこれからどうするのですか?」 あやかが話題を振る。 「少し職員室に顔を出したらそのまま帰ろうと思っています」 「えー!今日帰っちゃうの?」 「はい、ホテルも取ってないので」 自然な流れで円が提案した。 「それなら私達の部屋のベッドが一個余ってるからさ、それ使いなよ」 「円、私達の部屋のベッド……」 円が笑顔を向けてくる、目が笑ってないので裕奈は黙っておくことにした。 「それなら、私の家で夕食を用意しましょう」 あやかも円を援護する。 「しかし……そこまで迷惑をかけるわけには」 「いいからいいから。こっちが好きでやってるんだしね」 相変わらず押しの強い善意を断れない刹那。 「……わかりました。今夜だけお世話になることにします」 「やったー!そしていいんちょ家の夕食ゲットーーーー!!」 さぞかし嬉しそうな裕奈にあやかが釘を刺す。 「あら、裕奈さんもくるのですか?」 「……え?」 「…………冗談、ですわよ」 「う〜、桜咲さん。みんながいじめる〜」 嫌なことがあった分だけ良いことがある 。だからきっと、とびっきりに幸せになれるよ。笑顔でいられるよ。 だって私達は“辛”いを横棒一本加えて“幸”せにできる強さを得たから。 でもどんなに幸せでも忘れないでね、あの日のことを忘れないで。 嫌なことでも忘れちゃ駄目なの、それが生き残った人の責任。 <次の戯れ 〜another episode〜> 「どうでしたか、Bさん?」 「今回も駄目でしたよ、銃の使い方には慣れているからいけると思っていたのですけどね。序盤で消えてしまいましたよ」 「私のほうは一応生き残ったみたいですけど、それだけではね」 「“本部が負ける”になんて賭けていた人がいるんですか?Aさん」 「それがいるんですよ。今回はFさんの一人勝ちですよ」 「なるほど。それにしても人間を戦わせるのは本当に面白い!いつも違う結果になりますからね」 「その通りですよ。ほんと、これだからやめられません。タチの悪いドラックみたいなもんですからね」 「いや、まったくまったく」 「「はっはっは」」 「さて次はどうしましょうか。Bさん」 「そのことなんですけど、もう思いついてるんですよ。これが」 「それは興味深い」 「今度は会社内でやらせてみましょう。きっと、血生臭い争いが見れることでしょう」 「なるほど、それでは早速手配しましょうか」                                The Fin