ブレーキ



お義父さんは語り終えると白くなり、
背中に斜線が入った。

そろそろ出ようか。

僕たちは玄関で、
さみしがる猫を押し戻し 鍵をかけた。

はずが、
外に似たような猫を見かけたので、
念の為
もう一度
玄関を開けると
ちゃんといた。

いるじゃん。

車の中では、
お気に入りの音楽が流れている。

やなわらばー
君にサヨナラ

今のふたりにはお似合いだ と
意見が一致して
アルバムの曲名を確認してもらったのが
一年前。

いつも最後の日、
空港までの道のりは
ふたりで これを聴きながら
ビニールハウスの一帯を
ぐねっと走り抜ける。

信号待ちで
老人たちのアビィロードを見ながら、
ビートルズの話になる。

帰りにお義父さんと食べる
ケンタッキーに寄って
うさぎの餌のにおいがする高台で、
もうキスはしない
のキス
をしない。

スピード出過ぎてるよ
もう左寄っときな

踏み加減
より加減
それぞれのタイミング。
ちょっとずつ尊厳を損なわれてる。

ちょっとずつ
君に寄っていく
気がして
僕は、ブレーキを踏んだ。

結婚したら
どうなるんだろう と

しなかった結婚のことを思い出しながら、
道を走っていた。








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