一匹のエイを見た うちわよりもちいさい 水槽の名札には「アマゾンの珍魚」とある 珍しいのはその単調な泳ぎ方だ まるで重力に逆らってみることが 唯一の娯楽であるという風に 柔軟なまるいからだをひらひらさせ 蝶のように上昇するのだが 水槽には空のような無限の高さがない すぐ天井にぶつかるのだ ひらひらは停止 硬直したまま水槽の底に沈んでしまう だが新たな空間が 自分の上に生じたのを 生甲斐でも生じたと思い直すのか ひらひらが蘇って上昇運動を始める 水槽のちっぽけな空間は有限なのに その反復運動だけは無限に思われた 故郷のアマゾンも、狭い水槽の中も 彼にとっては死ぬに値しないのだ 「反復」先田督裕ない 希望さえ 言葉 持たない 彼は さえ 雨の日の 全身は ベルトで 被されたまま 車に 直腸に 押し出され 靴で 鬱血した 乗り上げて 道路脇の 全身 なぎ倒しながら 首を 奥に 刺さりながら 自転車を 顔 絞め上げながら パイロンは 笑われながら ビニール傘を 彼にとっては死ぬに値しないのだ それだけで 生きることができる