33の作品 第三章 〜謀略〜 第1話
- 254 名前:33
[sage] 投稿日:2006/12/18(月) 20:02:42
- 「今だ!撃てー!」
密林に潜んでいた伏兵部隊は射程範囲に入った敵軍目掛けてクロスボウの一斉射撃を浴びせた。
不意を突かれて乱れた敵陣に切り込み部隊が突入する。おれもフォルディング・ブレイドを手に走り出した。
計画通りに敵との交戦を極力避けて敵陣を通り抜けることに専念する。
狙いは敵の指揮系統の崩壊と敗走。戦功より戦力の温存に苦心しなければならない。
なぜなら、おれは連隊参謀・兼・第三連隊ホーエングラム中隊副隊長・兼・モリスヒル守備作戦参謀として起用された。
階級も少尉に昇進した。もう少尉待遇というややこしい処置ともおさらばだ。
もう3ヶ月以上もモリスヒルの守備作戦を続行してきたにもかかわらず、
兵力増強はまったくなし。第二軍団の歩兵師団、弓兵師団各一個、尖塔騎士団第五大隊、
そして第三独立戦闘連隊のみで要塞修築が完成するまでモリスヒルを守りぬけるという困難な任務だ。
敵の前線基地を攻略したとはいえ、侵攻路線がまったくなくなったわけではない。
国力からいえばまだ帝国には絶対的な優勢がある。
拠点がなくなって流石に騎士団二個程度の大規模な遠征はできなくなったが、
真正面からガチで戦えば消耗戦に持ち込まれて要塞化ところではなくなる。
モリスヒルを確保するため、この3ヶ月の間に考案した作戦といえば、伏兵、奇襲、夜襲、暗殺、火計...
マキャベリも真っ青な鬼畜戦術を次々と実践した。それ以外の方法が思いつかない。
真の知将なら少ない兵力でも敵の主力を撃滅する奇策を「ムフフフ」といいながら部下に授けるものだが。
それでも芸、もとい策略が細かいので、軍部ではわりと好評のようだ。
確かに上層部から見れば少ない兵力で拠点維持できているからコストパフォーマンスがいいし、
一般兵にとって生還率を何よりも優先する作戦を立てる参謀はなんともありがたい。
- 255 名前:33
[sage] 投稿日:2006/12/18(月) 20:05:03
- 「よーし、敵は算を乱して逃げ出そうとしている。追撃はするな!適当にクロスボウでも2、3発ぶちこんでやれ。」
もっとも前線指揮までやってくれる参謀なんて数えるしかいないだろう。
敵が撤退すると見るやいなや、おれも伏兵部隊の後退を指示した。
兵力の損傷を最低限に抑えることができ、無事モリスヒルの陣地へ戻れた。
「お疲れ様、『鬼参謀』殿。」
「ん?おれのあだ名まだ更新されたんだ。」
同じ連隊の参謀として、イスミナもこのモリスヒルに駐在している。
独立戦闘連隊に入ってから、数えるしかいない前線に出る参謀の一人になった。
出撃しては敵陣の真っ只中にアシッドレインの魔法をかけ、正確な狙撃で狼狽える敵兵の目玉に矢を打ち込む。
普段のかわいらしい振る舞いからは想像もつかない虐殺を繰り広げる魔法戦士。
術の性質が基本的にえぐい火術を専門とするサラもその残虐さには遠く及ばない。
「そうみたいね。コルド谷の人斬りから、デーモン殺し、そして今は鬼参謀だよね。」
「中尉も武名を挙げているじゃないか。あだ名、おれのよりずっとかっこいい。」
「ひどい。」
と、『悪魔の令嬢』ことヤーデ公爵家令嬢イスミナがふくれて口を尖らせた。
いやらしい響きが気に入らないらしい。
「で、例の情報について聞きたいが...」
「...あれはもう確認済み。敵はこの地域の補給ラインをフル稼働させ、
兵員をモリスヒルより東南の平原に集結させている。要塞化は完成間近だから焦っているだろう。」
仕事の話になると口調が一変するイスミナ。
- 256 名前:33
[sage] 投稿日:2006/12/18(月) 20:06:14
- 「蛮族平定戦線からわざわざ鬼宿騎士団を引っ張ってきたって情報も確かか?」
「鬼宿騎士団全軍のお出まし。我が王国の実力から見ればもったいないぐらいの陣容じゃないかな。」
「おれらが頑張って勝ち続けたご褒美ってわけさ。セックール王国軍も買いかぶられたものだ。」
「迎撃には第二軍団と銀杯騎士団。サポートにはもちろん我が連隊、それに第一連隊も加える。」
「はっきり言うと、数ではこっちが上だが、質がな。」
「そこでエルラン将軍からのある案が採用されたが、それが...」
「いや、あの御仁のことだ、どういう案なのか察しがつく。要はおれに無茶しろとのことだろう。」
「基本的な防御施設が完成した出丸を第二軍団が固守し、銀杯騎士団は野戦を挑み機を見て敵の側面を突く。
そしてサポートの二個連隊は...敵の本陣を強襲する。」
「やはりな。その死ね死ね作戦の前線指揮はおれがやれと。」
「簡単に言えばそう。他の連隊作戦本部要員の参加は自由だが、私は行く。」
「そうか。レナに衛生兵を指揮してもらった方がいい。一人でも生還者を増やすために。」
ゲリラ戦を得意とする独立戦闘連隊だが、その特殊な編成は強襲作戦においても一般の師団よりは向いている。
しかし、相手は精強を謳われる鬼宿騎士団。ただ突っ込んで行くだけでは華々しく散り去るのみだ。
さて、どう仕掛けるべきか。
- 257 名前:33
[sage] 投稿日:2006/12/18(月) 20:08:08
- 「セックール王国軍の布陣はやはり『?角の勢』だな。エルランの老狐め。」
「一方を攻めればもう一方に背後を襲われる、という寸法でございますね。私の提案、ご覧になられましたか?」
「必要最低の兵力で野戦軍を防ぎ、主力で守備隊を集中攻撃するあれか。
着眼点はいいが、時間的にはかなりきつい作戦だ。それに味方に酷い損傷が出る恐れがある。」
「もうしわけございません。」
「少ない兵力で野戦軍を引き付けるアイデアはいいが、何も防戦に回る必要がない。」
「寡兵で敵を攻撃するとのことでしょうか?」
「そう、ちゃんと段取りを組んでやればかなりの時間を稼げる。
おれの考えでは、まず中央突破を狙うかの如く突撃をかます。?角の勢の趣旨に沿って敵は必ず退く。
やつらが態勢を立て直そうとする間に適当に暴れてから近くの密林へ逃げる。
追撃してくるなら密林に引き込んで数の優勢を削る。無視するなら背後に回って叩く。
時間稼いでいる間に本陣を守るための陣地を工兵が築き、ゲリラ戦が維持できなくなったらそこで防衛ラインを敷く。
主力はただ全力で砦を攻めればいい。」
「作戦内容から見れば、閣下がゲリラ戦をご采配なさる貴慮でしょうか?」
「おれ以外にそんな芸当ができる指揮官は少なくともこの騎士団にはいない。
副将のお前は堅実な城攻め作戦には向いているから、主力部隊の方は頼んだぞ。」
「承りました。ところで、ずっと駐在していた敵の独立戦闘部隊とその増援は所在が判明できませんが。」
「部隊の性質から考えれば野戦軍と連携した伏兵作戦だろう。
最初の突撃では別働隊を二陣にわけて後詰めが伏兵の警戒に当たらせる。ゲリラ戦に移行してからは鬼ごっこになるな。」
「しかし敵には地の利を占めておりますが。」
「やばくなったら素早く防衛ラインの配置に入るだけさ。そうなると最初の猫だまし以外卿の作戦と同じものになるが。
拠点がなくなったまま戦うという大本営の愚策を我々が最善を尽くしなんとかするしかない。」
「あの部隊には確か、モリスヒルを守る奇策を次々と立てた異世界人がいます。やはり探った方がいいのでは?」
「別にいい。今回の作戦はエルランが取り仕切っている。異世界人の出る幕がなさそうだ。」
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