異世界ファンタジー編 エピローグ(平井)
- 707 名前:1
[] 投稿日:2006/04/11(火) 01:30:31
- エピローグ(平井)
「平井はどうしてるかな……」
脳裏に平井の姿が過ぎった。
「あの世界に平和は訪れたんだろうか」
えなりがもう存在していないことは確かだ。魔王の死は、彼の魔力によって生かされていたえなりの死も意味するからだ。だが、それ以前に平井達は、
えなりや有田と交戦中だったのだ。皆、無事で戦いの終わりを迎えられたのだろうか。それとも……
せめて彼らの安否だけでも知りたい。俺は何かに憑かれたように井戸の木蓋をずらした。身を乗り出して覗き込むと、井戸の底でかすかに水面が揺れ
るのが見える。
「何も見えるわけないよな」
小さく嘆息して身を引こうとした時、背後から飛んできた何かが、俺の後頭部を直……
「なんの!!二度もかかるかよ!」
間一髪、両手でナイスキャッチ。ところがどっこい、飛んできた物体は想像以上に強い勢いで、結局俺は井戸に背中から落下してしまった。底には思った
よりも水が溜まっており、俺は大量の水を飲みそのまま気を失った。
どれくらい時間が経っただろうか。心地よい風に吹かれて俺は目を覚ました。しかしそこは井戸の底ではなく、見渡す限りの大平原。
「なんか……激しくデジャヴ」
この場所で目覚めたのは三度目。一度目は、最初にこの世界へやって来た時、次は現実世界に帰り再びこの世界に戻った時だ。変わっていない。いつも
優しい風が吹き抜けている始まりの場所。
辺りを見回すと、すぐ側に剣身を失ったtanasinnソードの束が転がっている。おかしい。束はアパートの机の引き出しにしまっておいたはずなのに。
(状況が把握できていないようだな)
不意に聴こえたのは、頭の芯に直接響く重く低い声。
「誰だ?」
もうちょっとやそっとのことでは驚かない。我ながら度胸が据わったものだ。
- 708 名前:1
[] 投稿日:2006/04/11(火) 01:31:08
- (我はtanasinn)
「あなたがtanasinn……」
この妄想世界を統べる神tansinn。Tanasinnソードを造りだした者。何ていうか、全てが終わってから現れるなんて、本当調子のいい神様だ。
(魔王討伐ご苦労であった。礼を言う)
改まって礼を告げられると、ついついかしこまってしまう。
「あ、いえ、どういたしまして。で、何で俺がここに?tanasinnソードが何故?」
(剣を現実世界に置いておく訳にはいかんのでな。遠隔操作で呼び寄せたのだ)
なるほど。その際に俺に直撃させたわけか。
「何も俺にぶつけなくても」
(我が剣を呼び寄せた時、たまたまお前があそこにいただけのことだ。お前が悪い)
全面的に俺のせいかよ。
「たまたまって、何ておっちょこちょいなんだ」
神様をおってょこちょい呼ばわりしてみた。もう何でもありだな。
(まぁまぁ、そう目くじらを立てるな。あ、それと再び現実世界への門を開くまでに時間がかかる。しばらく待っているんだな)
「え?」
(なに、せいぜい一週間程度だ。じゃノシ)
「おい!ちょ!待ってくれ!」
沈黙が訪れる。tanasinnは行ってしまった。無責任にも放置プレイ。
「一週間もどうしろっていうんだ」
早速、途方に暮れる。あるのは雄大な大自然のみ。建物はおろか文明の息吹がかかったものなど、視界には何一つ入ってこない。
いや、待て。遥か彼方から何かがこちらに向かってくる。
「馬車……?」
それが近寄るにつれ、予想は確信に変わった。中古馬車屋に売ろうとしても、買い手もつかないと思われるくらい貧相な馬車だった。
俺に気づいたのか、馬車はすぐ側で停止した。
- 709 名前:1
[] 投稿日:2006/04/11(火) 01:31:39
- 幌の中から、黒人の男(マービン・ベリー。バックトゥザフューチャー。マーティが1965年の学園祭に出た時、手を怪我したあのバンドマン)が顔を出した。
「よぉ、どうした?追いはぎにでもあったのか。魔物が出なくなったと言っても、この辺りは夜は野獣が出て物騒だぜ」
俺は宿のない現状を説明した。勿論、現実世界からやって来たことは伏せておいた。
「それは難儀だな。俺達近くの村まで行くんだが、一緒に馬車に乗るかい?」
マービンと名乗った黒人は、一見して悪い人物ではなさそうだ。仮にそうでないとしても、身体能力ではこちらの方が格段に上なのだから、そう心配はあるまい。
「すみません。助かります」
厚意に甘えて馬車に乗せてもらうことにした。乗り込んでみると、意外と広い。椅子すらない幌内は楽器など旅の荷物が積載されており、数人の人影が
目に入った。皆黒人で、マービンと御者を含めて、5人で旅をしているようだ。
(……って、おい)
彼らは慣れた手つきで謎の粉を紙で巻いて、それをスパスパとタバコのように吸っている。
(マ、マリファナですか……)
硬直する俺。
「あんたもやるかい?」
振られた。
「い、いいえ。遠慮しときます」
乗る馬車を間違えたかもしれない。後悔先に立たず、俺は隅に小さく腰を下ろした。
「ところで、近くの村ってどこですか?」
俺は恐る恐るマービンに、目的地を問うてみた。マリファナの名産地なんて答えようものなら、即刻馬車から飛び降りよう。
彼はぼんやりとした目つきのままで、
「ああ、ノマクって村だ。俺達は楽団をしててな、今度の祭りで演奏することになった」
「ノマク村……」
平井の住んでいた村だ。これは幸運かもしれない。ひょっとすれば、平井に会えるかもしれない。思いも寄らなかった幸運で、俺は神に感謝……しようとして
思いとどまった。この世界の神は、あのいい加減で当てにならないtanasinnだからである。
続 く
- 52 名前:1
[] 投稿日:2006/05/16(火) 01:24:23
- エピローグ(平井2)
そんなこんなでノマク村に到着。マービン達は馬車を預ける為、村営厩舎へと向かった。俺は彼らと別れて、一人で村の入り口に立つ。
「懐かしいなぁ」
決戦前に平井と一緒に訪れて以来だ。かつてはえなりの手で壊滅寸前まで追いやられたのだが、今では完全に復興し村は活気に溢れ……
「いや、活気って言う以前に何これ!?」
俺は思わず絶句した。村の広場に足を踏み入れて、まず目に飛び込んできたのはご立派なブロンズ像。それだけなら驚かない。問題は、像の頭部には
見覚えある彫りの深い顔が刻まれていること。
「平井さんじゃありませんか……」
左様、ブロンズ像のモデルはあの平井なのだ。刀を腰に差して凛々しい表情で明後日の方向を見詰めている。俺はこのあまりにも風変わりな再会に、
思わず顔をひきつらせた。
そうして立ち尽くしていると、村の奥が何やら騒がしい。
「ん?」
その方向、村の奥に以前は無かった建造物が鎮座している。建物全体を魔力で発光する電飾が彩っている。入口付近には黒山の人だかり。俺が何事か
と観察していると、そこに駐馬車手続きを終えたマービン達が現れた。
「どうだ。立派なもんだろう?あの建物こそ、今夜、俺達マービンバンドがプレイするライブハウスだ」
「ライブハウス?」
マービンは自慢げに続ける。
「ああ、通称ヒライハウス。“平井堅LIVE’06平井祭り”の公演が行われる場所だ」
ヒライハウス。平井祭り。相次いで飛び出すNGワードに、俺は魔王と対峙した時に匹敵するほどの戦慄を覚えた。平井は歌手として復帰したのか。
それも結構成功しているっぽい。
と、そこに、
「キャアアアアアア!!!!」
突如起こった野獣の咆哮。俺は本能的に身の危険を感じた。この感覚は甜歌の握手会で感じたのと似ている。
「何か来る!?」
はっとして振り返ると、3人の少女が……もとい、3機編成のドムが突進をしかけてきたではないか。俺はそうそう食らってなるものかと、咄嗟に
地面を蹴り、先頭のドムの頭部を踏む。
「あ、あたいを踏み台にしたああああ!?」
- 53 名前:1
[] 投稿日:2006/05/16(火) 01:25:01
- そのまま彼女らの後方に、見事な着地を決める。我ながら軽やかな身のこなし。とアドレナリンを噴出させたのも束の間、背後のドム(オルテガ)が、
俺の延髄に強烈なラリアートを食らわせた。回転する視界。
「ぐふぅっ」
容姿×ウエイト=破壊力。俺は地面に背中をしたたかに打ち付けられた。
ドム(ガイア)が忌々しげに、痙攣している俺の顔に唾を吐く。
「ったく、殺してやろうか」
もう殺してる。
「あ、こんなことしてる場合じゃないわ!!」
ドム(マッシュ)が矯正を上げ、ヒライハウス目指してダッシュした。続いて、他のドムも我先にと人だかりの方へと走り去っていった。
「くそ、何なんだ一体」
朦朧とする意識を何とか保って、俺はふらふらと立ち上がった。
「ありゃ追っかけだな」
と自分達だけ高みの見物をしていたマービン。
「追っかけ?」
「ああ、平井の追っかけだ。あそこまで熱狂的になってくるとほんと手に負えんな。俺も気をつけないと」
幸か不幸か、マービンバンドには追っかけなんて誰一人いないようなのだが、そこは突っ込まないでおいた。俺なりの優しさだ。それにしても、平井の
人気はかなりのものらしい。
ドムの視界に入らないよう気を配りながら、マービン達は楽器を携えてライブハウスの裏口に向かった。裏口では、小太りのガードマン(橋本。中学時代。
初代スパロボを借りパクされた)が立ち入り検査をしている。
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止です」
と事務的に告げる。
「今日ここで演奏するマービンバンドだ」
マービンが依頼状らしき羊皮紙を掲げた。
「これは失礼致しました。係の者が楽屋にご案内致します」
- 54 名前:1
[] 投稿日:2006/05/16(火) 01:25:52
- ガードマンはうやうやしく、彼らを招き入れた。だがバンドに属さない俺は部外者なわけで、ここで通行止め。
仕方なくホールから離れた。村の広場に戻り、井戸の周りを思案しながら歩き回る。
「さて、どうしたものか」
以前、魔封銀盤で曲を出しているというのは、聞いたことがある。それがどういうわけか、相当な売れっ子ミュージシャンになってしまっているようだ。
この調子だと平井には会うのは難しいだろう。だが、それでもここまで来たからには何とか彼と会って話がしたい。俺は広場の脇に設えてあるベンチに腰
を下ろした。そして溜め息。
「はぁ……」
「ふぅ……」
まるで息を合わせたかのように、すぐ隣からも溜め息が漏れた。ゆっくりとそちらに顔を向ける。そこには平井の妹、あいの姿があった。
「あいさん」
彼女はびくりとして、こちらを向いた。
「あなたは確か……」
覚えていてくれた。驚く彼女に、俺は魔王との決戦以後を簡単に説明した。
「そうですか。やっぱりあなたを信じて良かった」
そう言って笑ったあいの顔は、どこか憂いを湛えている。
「あの、平井には会えますか?」
「それが……兄は変わってしまいました」
「変わった?どういうことですか?」
答える代わりに、あいはすぐ側の木に貼ってある紙切れに目を移した。紙切れというよりは、平井の肖像が描かれたポスターのようだ。その肖像の顔は確か
に平井なのだが、赤いツナギを着て、これまた赤いマイクを握り締めてポーズを決めているのは、どこか平井ではないような。
その姿を一言で言い表すとしたら、
「ポップスター……」
続 く
- 142 名前:1
[] 投稿日:2006/10/11(水) 23:20:43
- エピローグ(平井3)
「なるほど」
あいから聞いた経緯はこうだ。
えなりとの最終決戦の後、平井は故郷に戻った。恋人の仇を討つことはできた。しかし、それは同時に
長らく平井を導いていた指針を失うことも意味した。目標を失くした平井は、再び酒場で弾き語りをして暮らした。
そんな時、以前平井と付き合いのあった敏腕プロデューサーが再び彼に目を付け、復帰を提案した。
平井は迷った末に承諾し、新作魔封銀盤を発売。曲は大ヒット。ファンタジー世界のオリハルコンシン
グルチャート首位を、数週間に渡って占拠した。調子に乗って行った大陸を股に掛けるツアーは、満員御礼大盛況。
そこまでは良かった。問題は、その並外れた人気が平井を変えてしまったことだ。
「天狗になってしまった、と」
「はい」
嘆息するあい。
「名声を得たが、大事な心を失ってしまったわけだ」
名声などというものとは無縁の俺だが、何となく偉そうに言ってみた。
「何とか、兄を以前の兄に戻していただけないでしょうか?」
「と、言われてもなぁ。俺が言って聞いてもらえるだろうか?妹のあいさんでも無理だったのに」
「兄はあなたの力を認めています。きっと耳を傾けてくれます」
真摯な眼差しで頼み込まれると、断りにくい。
「じゃあ、駄目もとで行ってみようか」
- 143 名前:1
[] 投稿日:2006/10/11(水) 23:21:29
- そんなこんなで平井の楽屋。さすが妹だけあって、係員もすんなりと通用口を開け、中に案内してくれた。
「妹さんです」
「どうぞ」
平井の声だ。この一言だけなのに、以前とは何かが違うのが分かる。緊張が、俺の鼓動を早める。
「兄さん」
楽屋に入ると、そこにはさきほどのポスター同様赤いツナギに身をつつんだ平井が、椅子に座っている。
「なんだ、あいか。って、あなたはっーーーー!?」
俺の姿を認めた平井は予想外の驚きっぷり。ガタッと、椅子から立ち上がった。
「やぁ、お久しぶり」
照れ笑いを浮かべて頭をかく俺。何だか数年来で従兄弟にでも再会したような、むず痒い心持ちだ。
「無事だったんですね!深田さんは無事なんですか?」
「あ、ああ。彼女もしっかりと生きてるよ」
「そうか。良かった。魔王をどうやって倒したんです?一体どこに連れて行かれたんですか?」
矢継ぎ早に質問を繰り出す平井。俺は気圧されてしまって、思わず身を退いた。
「あ、失礼!どうぞ座ってください。あなたには聞かなきゃならないことが沢山あるんだ」
椅子に座らされ俺は、平井達と別れた後の出来事を語り聞かせた。真剣に耳を傾ける彼の姿は、
以前と変わらないように思えた。
ふと、俺は結構な時間が過ぎている事に気付いた。
「平井、そろそろライブの開演時間はじゃないのか?」
すると平井は、打って変わって不敵な笑顔を浮かべて、
「え?ああ、大丈夫ですよ。何度もこなしてきたコンサートです。余裕です」
「そんなものなのか」
「そんなもんです」
- 144 名前:1
[] 投稿日:2006/10/11(水) 23:22:20
- あいが言っていたことは本当だった。成功は平井の音楽にかける心を変えてしまったようだ。
俺は真剣な面持ちで、平井に問う。
「俺が言うのも何だが、せっかくお客さんが来てくれるんだし、リハーサルくらいはした方がいいんじゃないか?」
「リハなんて今更必要ありませんよ。僕が歌い、バンドがそれに合わせる。それだけなんです。客だって、僕の歌を
聞きたいだけなんだ。バックバンドは飾りに過ぎない」
正直、俺は驚いた。彼の口からこんな台詞が出てくるとは。しかし、音楽に関しては門外漢のこちらとしては、何も
言うことができない。
口をつぐんていると、勢いよくドアが開いた。
「おいおい、そいつは聞き捨てならないな」
マービンだ。何というバッドタイミング。マービンバンドの面々に、平井の暴言を聞かれてしまった。
「だったら俺達は降ろさせてもらうぜ。こちとら音楽に命張ってんだ。売れっ子だろうが何だろうが、そんな気持ちで
歌う奴とプレイできないね」
マービンが大見得を切る。平井も平井で彼らを嘲笑する。
「アッハハハ。ならいいですよ。僕はアカペラでも十分歌えますから」
険悪な雰囲気。この上なくまずい状況。しかし、仲裁しようにもどうしていいものなのか。常々、厄介事から逃げいている
俺では対処しようがない。こういう時、経験がものをいうのだと実感してしまう。
「兄さん!言い過ぎよ」
あいが叫ぶ。さすがしっかりしてる。
「あなたからも何とか言ってやってください!」
ええええ!?ここで俺に振るの!?いや、そりゃ確かに引き受けたけど、こんな事になるなんて想像もしなかったし
どうする、俺!?続きはホームページで!!などと逃げてみたい状況。
- 145 名前:1
[] 投稿日:2006/10/11(水) 23:23:02
- とりあえず、
「バカヤローーー!!」
殴ってみた。オリエンタルラジオチックに、平井を殴ってみた。平井驚嘆の表情。殴った俺も驚嘆。
こうなれば、流れに身を任せるしかない。
「平井。確かにお前の才能は類稀なものだ。今日ライブに来てくれたお客さんの数を見れば分かる。みんなお前のファンだ。
マービンバンドの追っかけなんて一人もいなかった」
口が滑った。マービンがキッとこちらを睨んだ。気付いていない振りをした。
「で、でもな、だからといって、何でも一人で出来るなんてのは思い上がりなんだよ。お前の才能を認め支えてくれる人達、
今日この会場をセッティングしてくれた人達、そしてあいさん。彼らはお前の……」
またもやマービンが俺を睨んだ。目が合った。俺はばつが悪そうに咳をして、言い直す。
「あ、あとマービンバンド。みんなお前の仲間じゃないか!!」
などと偉そうに言ってみたが、こんな使い古された説得が功を奏す程、現実は甘くないはず。
「仲間……そうですね。僕は大切なものを忘れていたようです……」
あっさり改心しちゃった!!ファンタジー世界マンセー。
「全く馬鹿だな。えなりとの戦いでそれを知ったはずなのに……本当に僕は大馬鹿者だ」
と自身の愚かさを責めながら、平井は彫りの深い顔に、更に深く、それこそマリワナ海溝のような彫りを刻む。彼の目尻から、
一筋の塩辛い水が伝った。
マービンは平井の側に寄り、彼に手を差し出す。
「歌、好きなんだろ?演ろうぜ。お前のライブ、盛り上げてやるからよ」
薬中の癖に、決めるところでしっかり決めてくれる。平井は彼の手を握り、力強く立ち上がる。
と、その時(C世界まる見え!テレビ特捜部)、
「ハッハアアアア!!素晴らしい!!」
- 151 名前:1
[] 投稿日:2006/10/12(木) 10:18:52
- 抜けてた。>>145と>>146の間。
突如響く重低音の笑い声。その場の者が一斉に声の主を探す。
「ドム・キング!」
平井が叫んだ。
またもやドム体型!追っかけ三連星といい、とにかくドムネタにはこと欠かない世界だ。タキシードを着て、髪をトロール人形の
ように逆立たせている姿は、一種奇怪に見える。
「ドム・キング?」
その胡散臭い風体に、俺は怪訝そうに平井に耳打ちして訊ねた。
「今回のライブのプロモーターだよ。この世界にその人ありと言われるビッグネームだ」
ドム・キングは葉巻をスパスパ吸いながら、平井の胸を叩いた。
「素晴らしい。平井よ。いい仲間を手に入れたな。今日のライブは間違いなく成功する」
ビッグネームのお墨付きに、皆の顔がほころんだ。
何とか一件落着して、俺は胸を撫で下ろした。
「景気づけに一杯やってステージだ!」
マービンが傍の机にあったシャンパンを手に取り、蓋に栓抜きを引っ掛けた。
ところがどっこい、
「痛ぅわっつ!」
突然マービンが左手を抱えて、苦痛に顔を歪めた。手からは血が滴り落ちている。
「どうした!?」
メンバーが駆け寄り、出血している箇所にハンカチを当てた。どうやら栓を抜き損なって、怪我をしてしまったらしい。器用過ぎだろ、
常識的に考えて……。
- 146 名前:1
[] 投稿日:2006/10/11(水) 23:23:43
- 「これじゃギターは弾けないな……」
「そ、それは困るよ。お客さんが待ってるんだ」
平井がマービン達に詰め寄る。
「悪いがパーティはお開きだ。ギター弾ける奴がいれば別だがな」
一転して意気消沈する楽屋。と、平井が何かを思い立って顔を上げ、俺を見た。
「そう言えば、以前ギターを弾いてたことあるって言ってましたよね?」
一同つられてこちらに注目。
「え、そんなこと言ったっけか」
そう言えば、以前話のネタが無くなった時に、何と無しに平井に話したことがあるような。
「ちょ、ま、まさか俺が弾くのか!?」
皆の期待の眼差しが俺に突き刺さる。言えやしない。いよいよもって言えやしない。先輩から5千円で買ったヤマハのギターで、
コードジャカ弾きしかできないレベルなんて……。
「ハッハアアアア!!やってくれるな?」
ドムキングが射殺さんばかりに、俺を指差した。そのままうむを言わさず、ギターを持たされる。
「なかなか様になってるな。ん!見えた!!新ユニットのビジョンが!!」
あんたはプロデューサーまでやる気なのか……。
「行きましょう!マービンがコーラスで出て、指示してくれますから」
平井が俺の肩を押す。楽屋を出た俺達は、そのままステージへ直行。
「こ、これが……!!」
幕が上がった。耳をつんざく歓声。ライブ会場の熱気。それらと共に、得も言えぬ高揚感が、ついさっきドム・キングが命名した
新ユニット「アルケミストリ」を包み込んだ。
6日後。
「あいつ帰る気ないんかのぅ……」
ゲートを開いて俺を待つtanasinn。そんな彼の心配をよそに、俺は全国ツアーに臨むのであった。
おわり
- 147 名前:1
[] 投稿日:2006/10/11(水) 23:25:16
- ここでエンディング
エンディングテーマ
平井堅 「Precious Junk」
アルケミストリのツアー映像の後にお馴染のスタッフロール
監督・脚本・声の出演 俺
スペシャルサンクス お前ら
甜花ルート
カエラルート
深田ルート
←目次