異世界ファンタジー編 エピローグ(深田)
- 26 名前:1
[] 投稿日:2007/05/20(日) 00:10:19
- エピローグ(深田1)
(深田さんに電話してみるか)
声を聴きたい。そんな衝動に駆られて、俺はアドレス帳から深田の番号を呼び出した。しかし、発信キーに触れ、いざ押し込む段になって人差し指が躊躇する。
(いや、返事だけだし、やっぱりメールで済ませた方がいいだろうか。あんまり気安く電話するのもなぁ)
気恥ずかしい。電話を掛けても何を話していいか分からず、どぎまぎしてしまいそうで。俺はとりあえず返事メールだけ返しておいた。
送信キーを押した時、脳裏に深田の笑顔が過ぎった。のほほんとして、どこか人に安堵感を与える笑顔。
そして、彼女と旅をした世界を思う。
「あの世界に平和は訪れたんだろうか」
えなりがもう存在していないことは確かだ。魔王の死は、彼の魔力によって生かされていたえなりの死も意味するからだ。だが、それより前に甜歌達は、
えなりや有田と交戦中だったのだ。皆、無事で戦いの終わりを迎えられたのだろうか。それとも……
せめて彼らの安否だけでも知りたい。俺は何かに憑かれたように井戸の木蓋をずらした。身を乗り出して 覗き込むと、井戸の底でかすかに水面が揺れるのが見える。
「何も見えるわけないよな」
小さく嘆息して身を引こうとした。その時である。静寂を割って“ハレ晴れユカイ”のサビが鳴り響いた。
「あ、メール来た」
メールを確認しようと俺は前傾姿勢になる。瞬間、何かが頭上をかすめた気がした。次いで井戸の底で水を叩く音。俺は少し驚いて恐る恐る井戸を覗き込む。
水面が少し揺れているが、別段変わったこところはない。
「気のせいかな。多分石でも落ちたんだろう」
怪訝に思いながら、俺は再び井戸の蓋を閉めた。
- 27 名前:1
[] 投稿日:2007/05/20(日) 00:11:43
- 最早あちらの世界の状況を知る術はない。共に旅をした人達のことを思うと胸が苦しくなる。だが人間は過去と訣別することなしには生きていけないものだ。
(そろそろ忘れないとな。いつまでも未練持っててもどうなるわけでもないし。あいつらのことだからきっと元気にご存命してることだろう)
そう自分に言い聞かせて、俺は井戸屋敷を後にすべく軽トラに向かう。途中メールを確認すると、やはり返事に対する返事だった。
From 深田さん
Sub Re.Re
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はい!近くなったらまたご連絡しま〜す
お土産用意して待っててくださいね♪
「それ逆じゃん……」
彼女らしい。だがそれがいい。
(乳団子でも買っておくか。あ、でもあれじゃ卑猥な意味だと誤解されるかな)
なんて馬鹿馬鹿しくも心躍る悩みを抱きながら、俺は軽トラに乗り込んだ。
続 く
- 21 名前:1
[] 投稿日:2007/11/05(月) 03:06:41
- 深田(エピローグ2)
あれからまた半年が経った。
2月に広島に来るはずだった深田は、急遽予定が入って結局延期になってしまった。密かに楽しみにしていた俺は落ち込んだが、
その後、すぐに朗報が入った。彼女、大検に合格したらしい。夢の女子大生生活に一歩近づいたというわけだ。喪われた時を取り
戻そうと、深田は必死に努力している。再会は延期になったが、それは彼女の大学合格後でもいいかもしれない。その方が喜びも
一塩というものだろう。って、これではまるで遠距離恋愛をしている人間の心境だ。恋人でも何でもないわけだが。
「おっし!あとはガムテープでこいつを閉じてっと」
さて、俺の生活にも少しばかり変化が起きようとしている。今月末、俺は転勤でこの三次の町を去ることになっているのだ。
5年間。長いようで短い時を過ごしたこのアパートとも数日でお別れだ。
「ガムテープは・・・・・・あら、もうないわ。買いにいかないと」
俺はアパートを出て、フレスタ(広島ローカルスーパー。入社試験受けたがばっくれた思い出有り)に向かった。
夕刻ということもあり、駐車場は買物客の車でごった返している。徒歩3分でいつでも来れる自分は恵まれていたな、としみじみ思う。
店内に入ると、やはり混雑している。一路、文具売り場を目指して、足早に歩いていると、
(私だ)
「ん?」
(私だ)
「ど、どこ?」
俺は辺りをキョロキョロ見回した。が、声の主の姿はない。っていうか、これ頭の中に直接響いてる。しかも何だか聞き覚えのある無責任そうな声。
「私だって・・・・・・た、tanasinn!?」
そう、妄想世界の神tanasinnだ。
(元気そうで何よりだ)
「何よりって、何でここに?あっちの世界はどうしたんです?」
(消滅した)
「ああ、消滅したのか、っっってえええ、おい!?」
文具売り場に俺の絶叫がこだました。
- 77 名前:1
[] 投稿日:2008/01/31(木) 19:05:42
- 深田(エピローグ3)
周囲の買い物客が一斉にこちらを見る。俺は口を抑えて、店外に走り出た。人気のない建物裏に潜み、再びtanasinnとの会話に戻る。
「消滅したってどういうことですか?」
(私が神を務めるあちらの世界は現実世界で発生した妄想によって構成されている。これは以前も説明したな)
「ええ。そして負の妄想が堆積した結果、魔物が現れ魔王が生まれたんですよね」
(魔王は滅び、私の世界に完全なる平和、Perfect peaceが訪れた)
英語にする必要は無いと思う。
(ところが、時を同じくして世界を形作る根源なるものが徐々に減少、decreaseし始めたのだ)
また英語にした。新しい癖なのか。
「どういうことですか?」
(I don’t know…but、確かなのは現実世界から供給される妄想力が減少していることだ)
現実世界の人々が妄想、想像することをやめてしまった……っていうか、待てよ。
「俺もだ」
そう。今、気づかされた。俺自身が妄想することをやめていたことに。寝る前にいつも脳内で繰り広げられていた活劇。
自分を主人公に見立てて、中二病?なにそれとばかりに想像の翼を羽ばたかせまくる。そんなかつては当たり前だったことを、
俺はいつの間にかやめていたのだ。
何故俺は妄想をやめたのか。リア充?滅相も無い。俺の人生は依然として鬱屈に支配されており、充実という言葉などまかり
間違っても吐ける代物ではない。では、どうして?何故、俺は妄想をやめたのか。
「諦念…・・・」
そうだ。俺は足元を見た。するとどうだろう。足首から先が見えない。諦念の泥沼だ。俺はこの黒くねっとりとまとわりつく泥沼に、
両足を埋没させてしまっている。お世辞にも明るいとは言えない現状と、その先にある未来。諦めに支配された俺は、最早妄想という
逃げ道を作ることすらやめていた。目の前に広がる暗く細い現実しか見ようとせずに、死んだ魚の眼でそこを泳ぐことに、抵抗すること
すらしなくなっていたのだ。
それが間違っているとは思わない。現実世界で生きていくには、現実に捉われるしかないのだ。魔王を倒した時、俺はリアルを選んだ。
大人になるのはそういうことなのだ。
しかし、その結果としての妄想世界の消滅。非情な事実は俺に重く圧し掛かった。
- 78 名前:1
[] 投稿日:2008/01/31(木) 19:06:34
- あの世界を消してしまったのは俺だったのか」
妄想世界が消えた。それは甜歌や平井、そしてカエラ。あの世界の住人も消滅したことを意味している。いきなり知らされた衝撃的な事実に、
俺は立ちくらみを覚えた。確かに彼らは妄想世界の住人。現実の存在ではなかった。しかし、共に過ごした時間は俺にとっては間違いなく現実だった。
俺は天を仰ぐ。茜色の空がうざったいくらいに鮮やかで、堪えたはずのそれが余計に溢れ出てきてしまう。
tanassinは話を続ける。
「とにかくそういうわけだから、私達は行く場所がなくなってしまった」
この人は自分の世界が無くなってしまったと言うのにどこまでもクールな口調で・・・・・・って、今ちょっと気になること言ったような。
「それでこの現実世界に、あちらの世界の住人達を連れてきた」
tanassinは平然と宣った。
「え・・・・・・」
唖然とする俺。あっちの人間をこっちに連れてきた?一体何処へ?Tanassinに尋ねようとした、まさにその瞬間である。
「どいてどいてえええ!!」
「へ?」
大絶叫に俺は振り返る。ゆらゆらのろのろと自転車がこちらに接近してくる。かわすタイミングを失い、俺は暴走自転車を受け止める。
大して速度が出てなかったのが幸いした。お互いに怪我もなく、俺は自転車の乗り手に眼を移す。
中学生くらいのその少女は、おずおずと顔を上げる。
「ごめんなさい。急にブレーキが効かなくなって」
「ああ、大丈夫だよ。君は怪我ない?・・・・・・って、あれ、て、甜歌!?」
そう。その姿は大魔術師を祖父に持ち、南の魔術師の名を冠する天才少女甜歌だった。
「え?何でうちの名前を?」
「あ、いや、その・・・・・・」
俺は彼女の姿をまじまじと見る。彼女が身につけているのはお馴染みの赤い魔術師服ではなく、ごく普通の中学生用学生服。どう見ても
現実世界で作られたものだ。驚く俺を見て、怪訝そうに眉を顰める甜歌。容姿はそっくりで、名前も同じなのに、やはり別人なのか?
と、甜歌は眉間の皺を深くした。
「あれ?お兄さん、どっかで会ったことあるような。何だか結構長いこと一緒にいたような気がするなぁ」
お互いに腑に落ちないといった表情で固まる俺達。と、そこへ、
- 79 名前:1
[] 投稿日:2008/01/31(木) 19:07:06
- 「大丈夫ですか?」
激突事故を目撃した若い男が、心配そうに声を掛けてきた。
「あ、はい。すみません。特に怪我は・・・・・・」
男に顔を向けた俺は絶句した。そこにいるのは紛れもない“平井”。が、彼も侍風冒険者服ではなく、ポロシャツなんぞ着ている。肩には
皮製のギターケースを担いでおり、音楽関係の活動をしているのが一目瞭然だ。
平井によく似た男は、さきほどの衝撃で、これまた甜歌に似た少女が落とした鞄を拾ってくれようと、屈んで手を伸ばした。その時、彼の
提げている鞄から数枚のプラスチックケースが落ちた。俺はそれを拾い上げる。インクジェットプリンターで印刷したとすぐに判るチープなジャケット。
「自主制作CD?」
「駅前で路上弾き語りさせてもらっているんですが、今日も1枚しか売れなくて」
恥ずかしそうにそう言って、平井は白い歯を見せた。
「良かったら聴いてみて頂けませんか?」
平井はCDの中から一枚を俺に差し出した。
「え?いいんですか?」
「不思議なことなんですが、どうもあなたは他人のような気がしない。旧知の仲のような」
「ありがとう。ぜひとも聞かせてもらい・・・・・・」
「ずるーい。それ私さっきお金出して買ったのにっ!」
脳天に響く女の怒声。三度仰天する俺。そろそろと声の主を探す。
「やっぱり・・・・・・」
予想通り声の主は“カエラ”だった。いかにも納得がいかないと言う表情で俺と平井を睨み付ける。彼のCDを買った唯一の客って
彼女のことだったのか。ブラックのスーツで、キャリアウーマンよろしくビシッときめている。
「あ、木村先生」
と甜歌。
「ん?あ、橋本さんじゃないの。どうしたの?こんなところで」
カエラはこちらでも甜歌と知り合いのようだ。ん?ちょっと待てよ。苗字の後ろに、そこに配してはならない単語が
組み合わさっていたような。確か・・・・・・
- 80 名前:1
[] 投稿日:2008/01/31(木) 19:07:34
- 「先生?」
「うん。うちの担任の先生」
うわぁ……カエラが先生なのか。あまりにそぐわない。っていうか、まずいだろ。鉄拳制裁満載の暴力教師っぷりがありありと
想像できてしまうから恐ろしい。
「お?ん?あれ?」
カエラは俺の顔をじぃっと見つめる。
「・・・・・・」
何ともばつが悪いが、眼を背けるのも何だか癪なので、こちらもじじぃっと見つめ返す。
「おっかしいなぁ。職業柄、親しい間柄の人の顔と名前は忘れないはずなんだけど」
「え?」
「いや、私あなたのこと知ってるっぽいんだけど、何故だか素性はおろか名前すらも思い出せないの」
合点がいかずにカエラは腕組みをして額に人差し指を当てる。必死に記憶を掘り返しているようだ。
「うちもこのお兄さん知ってるような気がしてならないんだけどなぁ」
「僕もです」
三人がサークルを組んで腕組みをしてしまった。
そこにtanassinの声が再び響いた。in俺の脳内
(というわけだ。あの世界で生きていた者達は皆こちらに生まれ変わらせることにしたのだ。無論、妄想世界での記憶はdeleteしてからな。
僅かながらお前のmemoryを維持しているのは、急なことだったので彼らの中からお前の存在を完全にdeleteできなかったからだが、
まぁ、支障はないだろう)
わざとか。わざと消さなかったのか。tanassinあんたって人は・・・・・・orz。人じゃなくて神だけど。
「で、tanassin。あなた自身は?」
(うむ。私もこの世界に興味があるので、しばらく仮の姿で滞在してみようと思う)
「仮の姿?」
俺の足元に猫が一匹、歩み寄ってきた。
(というわけで厄介になるぞ)
- 81 名前:1
[] 投稿日:2008/01/31(木) 19:08:11
- 「厄介って・・・・・・あああわwlぱ!?」
猫、の姿を借りたtanassinは俺の胸に飛びついてきた。俺はあわやというところで、それを受け止める。ってか、俺が引っ越すアパートは
ペット禁止なんですけど。じゃれるtanassin猫を俺は仕方なく抱く。一生分の驚きを堪能した気分。もうこの先、何事が起きても簡単には
動じない自信がある。
「あら〜。かわいらしい猫さんですねぇ」
緊張感0%の、のほほんとした声。その声は、つい0.5秒前に芽生えた俺の自信を、粉々に粉砕してしまった。
「深田・・・・・・さん?」
「何となく来ちゃいました〜」
今日起こった何度かのサプライズ。その中でもとびきりのやつが訪れた。鼓動が速くなり、胸が苦しい。俺はこのままショックで
死ぬんじゃないだろうか。
「どうしてここに?」
「広島の大学を受けることにしたんで、下見に」
「ああ、そうなのか。でも何ゆえ広島の大学を?」
どうしても行きたい学科でもあるのか。それとも偏差値的におkだったから?
「何ゆえって・・・・・・ど、どうでもいいじゃないですかぁ。何となくですよ。何となく」
「何となくで志望大学決めるのってちょっとまずくないか?」
普通じゃないよな。
「もう、いいじゃないですかぁ!怒りますよぉっ!!」
焦って、頬を紅潮させる深田。いつものほほんとしている彼女が、こんな顔も見せるようになったのか。
「ごめんごめん」
という具合に、微妙なやりとりをする俺と深田の間に、カエラが割って入る。そして深田の顔を凝視する。
「あなたも何だか初対面って気がしないのよねぁ・・・・・・よし!ここで会ったのも何かの縁。みんなで呑みに行きましょう!」
強引だなぁ。自分が呑みたいだけじゃないのか。ご父兄からのクレームでしこたま叩かれたのでそのうさ晴らしとか。
- 82 名前:1
[] 投稿日:2008/01/31(木) 19:08:37
- 深田が俺の袖口を引く。
「どうしますかぁ?」
「うん。断ったら足刀が飛んできそうだし、行ってみようか」
「やたー!飲み会だー!」
甜歌がはしゃぐ。
「あんたは駄目。中学生でしょうが」
釘を刺す担任。そこらへんはしっかりしているんだな。
「ええええ!?」
残念がる甜歌。俺は深田と顔を見合わせて笑った。
とにもかくにも、何とも変わった形で俺達は再会を果たした。一人孤独に冒険していたRPGの序盤が終わり、旅の仲間を手に入れた気分。
「では行きますか」
平井がたまに演奏する飲み屋があるという。一同、そこに向かうべく歩き出した。俺も彼らに続いて歩を踏み出す。足元に絡み付いていた
諦念が振りほどけた気がした。
と、深田は、ハッと眼を開けて、ぽんっと手を合わせた。
「あ!そう言えば、今思ったんですけどぉ・・・・・・あの人達甜歌さん達に気味悪いくらいそっくりですねぇ」
い、今頃気づいたのか!?
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飲み会の帰途。皆と別れた俺は独り夜道を歩く。
街頭の下。小学生中学年くらいだろうか。一人の少年が佇んでいる。よく見ると少年時代の俺によく似ている。俺は引き寄せられるように、
彼の側に立った。俺には彼がどういう人間かが瞬時に解ったからだ。
「一緒に来ないか?」
暗い表情のまま少年は返す。
「そこにあるのは凡庸な日常じゃないの?」
「ああ。凡庸な日常だ。でもさ。意外と悪く無いもんだ」
しばらく考えた後、少年は小さく笑みを浮かべ、俺の手をぎゅっと握った。純粋な子供の安堵の表情。傍から見るとそれだけのものだった
かもしれない。だが、俺にはそれがあの男からの挑戦にも思えた。お前の言葉の先を見届けてやる、と。
終わり
- 83 名前:1
[] 投稿日:2008/01/31(木) 19:11:40
- ここでエンディング
ファンタジー編エンディングテーマ
東京事変「夢のあと」
監督・脚本・声の出演 俺
スペシャルサンクス お前ら
甜花ルート
平井ルート
カエラルート
←目次