異世界ファンタジー編 第10話
- 83 名前:1
[] 投稿日:2005/03/21 (月) 00:05:01
- 第10話
出発は明朝。その夜は甜歌の屋敷に宿泊させてもらうことにした。俺達は不自然な点に気づく。甜歌の祖父である12代目南の魔術士は
他界したと聞いたが、彼女の両親の姿が見当たらない。この家で目にしたのは、甜歌の他にメイド(片桐はいり)のみだ。
夕食の席。テーブルで久々にちゃんとした料理を囲む。俺は疑問を述べてみた。
「甜歌のお父さんやお母さんはどこに?一応、一緒に旅に出ること言っとかないと」
「それならいいよ。パパとママは半年前に死んじゃったから」
「あ……ごめん」
俺は自分の迂闊さを呪った。と同時に甜歌の今の言動に不審さを覚えずにはいられない。通常、半年というとまだ故人の死に慣れるには早
い。こんな年端のいかない子供なら尚更だ。ところが彼女は顔色一つ変えず、それどころか笑みを浮かべたまま食事の手を休めることもし
なかった。よほど逞しいのか、それとも……
この次の話をどう切り出していいか分からず、俺は萎縮してしまった。それを見兼ねた深田が助け舟を出してくれた。
「あ!そういえば、わたしの腕を治す材料って、どんなものなんですか?」
「うん。肉土って言って超珍しい土なの。甜歌もまだ見たことないけど、この近くではヤウタの沼でだけ採れるって、ジャランのすみっこ
に書いてあった」
「ジャラン?」
「旅行情報誌」
「へぇ…」
食事を終えた俺達はそれぞれの寝室に案内されて、疲れた身体を休めた。ベッドはやはり気持ちいい(アパートでは畳の上で万年床)。
翌朝、俺達は旅支度を整え、レク村内の船着場に向かった。昨日は無かった巨大な帆船が停泊している。1週間に一度、二つの大陸間を往復
する定期船とのこと。その他にも10数人の乗船客がいるようだ。船賃(深田に借金)を支払って乗船。ほどなく碇が上げられ、船は出航した。
「船旅なんて久しぶりでワクワクするなぁ。何年ぶりだろう。別府に行って以来だから10年ぶりか」
俺は潮風を全身に浴びるべく、大きく伸びをした。
「ふふふ、子供みたいですね」
と深田。笑い合う俺達。爽やか。
- 84 名前:1
[] 投稿日:2005/03/21 (月) 00:05:36
- ーーーーーーーーーーーーー2時間が経過ーーーーーーーーーーーーー
「暇すぎ……」
行けども行けども青海原のみ。船内TVはないし、お馴染みの船内ゲーセン(スティックを右に引いたら左に走る高橋名人の冒険島とか入ってる)
もない。とにかく娯楽がないので俺は暇を持て余した。ていうか酔ってきた。船酔い。ここまで揺れが激しいとは。俺ピンチ。乗り合わせた商人
から酔い止めを購入し、とりあえず船室に戻って横になるが思わしくない。少しでも力を抜くと、下の寝台で寝ている親父(店の前店長)の頭上に、
吐瀉物を撒き散らしそうな勢いだ。親父が嫌味たっぷりに言う。
「おいおい、兄さん大丈夫かよ。ここで吐かないでくれよw」
「はい…」
そこに深田が入ってきた。
「どうですか?」
「うーん、さっきよりちょっと良くなったかな。深田さんと甜歌は平気なのか?」
「わたしは船旅に慣れてますから。甜歌さんも特に船酔いの症状は出てないですねぇ」
「我ながらだらしねぇ…」
少し無理をして俺が身を起こそうとした時、今までにはない激しい衝撃が船を揺るがした。
「おわっと!?」
「きゃっ!」
船室が急激に傾斜し、俺は壁に叩きつけられ、更に深田のタックルを腹部に食らった。
「深田さん!どいてどいて!!」
「え!?あ、はい」
我慢しきれず、俺は胃の内容物を吐き出した。それは隣で失神していた親父(前店長)の顔面に満遍なく飛び散った。このまま起こさないほうがい
いだろう。とりあえず吐いて人心地がついた俺は、船が水平を取り戻すのを待ち、深田と共に船室を抜け出してデッキに立った。天候は快晴。嵐と言
うわけでもなさそうだ。銛を手にした船員達が欄干から海中を見下ろす中に、ちゃっかり甜歌も混ざっている。
「甜歌、無事か!何があったんだ?」
「ああ、クラーケンが襲ってきたみたいだよ」
「クラーケンって、確か馬鹿デカい烏賊だっけか?」
「50mくらいあるって。あ、今船の下に潜ったよ」
「マジか!?」
- 85 名前:1
[] 投稿日:2005/03/21 (月) 00:06:06
- 叫んだ途端に、ぶっちゃけあり得ないくらい長くて太い触手が10本、海中から飛び出した。その一本が不意をついて俺の隣に居た深田を捕らえ、宙
に持ち上げた。俺は彼女を助けるべく背中の剣を探るが、ない。ない。ない。慌てて船室に置いてきてしまった。不覚。舌打ちをする俺に甜歌が提言する。
「あれくらいだったら雷系術を使えば一発でやっつけられるけど」
「いいぞ、甜歌。それいってみよう!」
「でもおねえちゃんも一緒に黒焦げにしちゃう」
「却下」
そんな頭の悪い会話を繰り広げているうちに、深田は海中に引きずり込まれてしまった。
「深田ーーーーー!!」
「そこをどいてくれ!」
「え?」
背後から高めの女性を魅了するような声が響いた。振り返ると長身で彫りの深い顔をした侍風イケメン(平井堅)が、日本刀を手にして立っている。彼は
逡巡している俺の横をかすめてると、烏賊の触手の上を身軽に走り、一気に烏賊の頭部まで接近した。
「何かわからんけど、頑張れ!」
自分が主人公と言うことすら忘れ、思わず応援する俺。
「南無三!!」
イケメン(平井堅)は、日本刀で烏賊の頭部を刺突した。烏賊あっさり絶命。そして海中に飛び込み深田を救出、無事デッキに帰還した。カッコよすぎ。
深田は大量に水を飲み、呼吸をしていない。こんな時こそ人工呼吸なのだが、生憎俺はやり方をしらない(大学時代、運転教習所で一度習ったきり)。そ
んな俺をよそに、イケメンが深田の唇に自分の口を当てた。
「あ…」
俺は思わず小さな声を漏らした。が、今は見守るしかない。人工呼吸と心臓マッサージをしばらく繰り返すと、深田は呼吸を取り戻して水を吐き出した。
安心して顔を合わせる俺と甜歌。イケメン(平井堅)は深田に優しく語り掛ける。
「お嬢さん、もう大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます…」
見詰め合う2人を、俺は蚊帳の外で見守っているしかなかった。
続く
第11話へ→
←目次