異世界ファンタジー編 第14話

 

124 名前:1 [] 投稿日:2005/03/25(金) 01:04:14
第14話(前半)
「とすると、深田の剣はその場の状況に応じて属性を変えられるオールマイティな剣ってことか」
ここはコクシ大陸の玄関口であり最大の港町マ・ツヤーマの酒場。
「そういうことですね」
平井は頷いて、コーヒーカップを口に運んだ。
「この剣にそんな凄い秘密があったんですねぇ」
と、深田は驚いているのかいないのか、相変わらずの天然ぶり。
「あったんですねぇって、今まで使ってきて気づかなかったのかよ」
「はぁ、剣の色が変わったりしたのは今回が初めてです」
どういうことだ。深田の腕が元に戻ったことが原因なのか。それとも別の原因があるのか。謎は深まるばかりだ。俺は首を捻った。
「ところで、これからどうしましょうか?」
そうだ。剣のことは今は置いておいて、これからの身の振り方を考えなければならない。深田の腕を取り戻したものの、俺の対と
なる魔王は一向に誕生の片鱗を見せないのだ。魔王が活動するのを待たなければ、行動を起こせないとは皮肉なものだ。
「魔王が現れる予兆とかないのかな?」
俺はこの世界に来てすぐに魔王と戦ったわけで、魔王の世間に対する影響がどの程度のものなのか今一ピンとこない。
「全開フィカブーが現れた時は、各地で魔物が異常発生していましたが、各地の魔物の絶対数は均衡を保っているようですね。エナ
リ(えなり)が動き出したという情報もない」
平井はやはり仇敵エナリが気になるようだ。
「やっぱとりあえずは様子見、ってことか」
俺は諦め顔で言い放って、ウィンナーを齧った。
「そうですねぇ。まぁ、また〜り行きましょう」
深田の緊張感のない一言。しかし実際そうするしかないのだから、どうしようもない。とりあえずは剣の稽古でもして……あ!!
「そういえば!」
俺は手を叩いた。重要なことを忘れていた。

125 名前:1 [] 投稿日:2005/03/25(金) 01:04:43
「甜歌、お前を送っていかないと」
全員が一斉に甜歌を見た。ビクッとする甜歌。彼女の同行は深田の腕を治癒するまでの約束。唯一魔王討伐の個人的理由がない彼女に、
これ以上一緒に旅をさせるのは気が引ける。
「甜歌ちゃんは魔王と戦う理由はないわけだし、それに僕達と一緒に居れば多大な危険が及ぶことになる」
と平井。もっともだ。続いて深田が深々(フカダガフカブカ)と頭を下げる。
「甜歌さん、本当にありがとうございました。何とお礼を言っていいやら」
「う、うん…」
甜歌は少し寂しそうに笑って、一度だけ頷いた。俺は違和感を覚えた。
「ごめん。甜歌もう部屋に戻るよ。今日は疲れちゃった。みんなおやすみなさい」
「おやすみ」
三人同時に返事を返した。しばらくは黙々と食事をとっていたのだが、俺はあくびを一つして立ち上がった。
「ふぁ〜、俺ももう寝るよ」
「ああ、時間も遅いしお開きにしますか。僕も刀の手入れしないといけないし」
「おやすみなさ〜い」
それぞれが宿屋の自室に戻っていく。俺は一人だけトイレに行く振りをして、自室とは逆の方向に歩き出した。

                                                             後半に続く

132 名前:1 [] 投稿日:2005/03/26(土) 01:27:03
第14話(後半)
俺は甜歌の部屋の扉を軽くノックした。
「甜歌、起きてるか?」
「誰?」
「俺だよ」
わずかな間を置いて扉が開かれ、甜歌が顔を見せる。
「入っていいか?」
「うん」
招かれるままに部屋に入り、彼女はベッドの上に座り俺は窓際に立った。
「短い間だったが、本当にありがとな」
「うん」
「甜歌がいてくれなければ、深田の腕は元に戻らなかった。やっぱ、お前は最高の魔術士だな!」
「うん」
気まずい。とにかく気まずいふいんき(何故か変換ry)だ。俺は話題を変えるべく、あれこれ記憶を辿った。
「あ!ってかさ、最初甜歌にゴーレム仕掛けられたときはマジ怯えたよwあれ、本気じゃなかったんだよな」
「本気だったよ」
「え……」
更に気まずい。「まっさかぁ」とか言って笑ってくれると思ったのだが。いや、まさか本気で殺そうとしてたとは…
「おにいちゃんの目を見ていると、パパやママを思い出したの」
「俺の目で?」
「うん。腐った魚みたいな目」
「うわぁ…」
うわぁ。これまたきつい一言。まぁ、確かに元の世界で家電屋をしていた時分には、上司から結構同様の言われたことがあるが(orz)。
甜歌にまで同じことを指摘されては、さすがの俺もへこんでしまう。だが、それだけで殺そうとしなくても。
重苦しい空気が流れる。俺は二の句がつげず、フリーズしたまま。そこに甜歌が口を開いた。
「実は甜歌は南の魔術士の本当の孫じゃないんだよ」

133 名前:1 [] 投稿日:2005/03/26(土) 01:28:04
「へ?」
「パパとママが死んでから、魔術士の御爺ちゃんに引き取られたの」
甜歌は訥々と語り始めた。彼女は身分の低い家の出で、両親は田園に雇われ、馬車馬のように朝から夜まで働かされた。彼女自身
も幼い頃から歌が得意で、6歳の時から、既に路上で観光客相手に唄を歌っては、わずかばかりの金を稼いでいた。
「パパもママも生きることに縛られていたわ。そして、いつか裕福になって楽になりたいって言ってた。努力をすれば、いつかは
楽になれるって。でも、そんなのウソ。人間は決して平等に造られてなんかないんだもの」
その通りだ。誰もが同じスタートラインにいるわけではない。手枷足枷を嵌められた人間は、いつまで経ってもゴールには付けない。
四六時中付き纏うのは無節操に襲ってくる焦燥感と、悠々と前を走る人間への嫉妬。
「努力してもムダだって分かったのかな。ある日を境にパパ達は変わっていった。あんまり働くなって、甜歌がお金を持って帰ら
ないと、すごく恐い顔で叱ったわ」
両親は甜歌を虐待し、その度に彼女はこう言って謝っていたという。いつか必ず、甜歌がパパとママを楽にしてあげるから、と。
「自分に他の子にない力があるって知ったのは、その頃だった。簡単な魔術なら誰に教えてもらわなくても使えるって気づいたの」
魔術士としての才能に目覚めた甜歌は家に走った。自分のこの能力があれば両親に富をもたらすことができる。沢山稼いで帰った時
より誉めてくれるに違いない。しかし家で彼女を迎えたのは、稼ぎを催促する手の平だった。そして、金がないと知ると彼らは異常
な剣幕で甜歌を打ち据えた。甜歌は必死に謝りながら身を丸くした。だが、彼らは手を緩めなかった。激しい痛みが全身に絡みつき、
吐き出した真赤な血が肌を染めていく。もう謝っても許してもらえない。魔術が使えるという証拠を見せれば喜んでくれるはず。い
や、それだけではだめだ。許してもらうには、今すぐにでも彼らを楽にしてあげなければならない。
「だから甜歌は、甜歌は…パパとママが楽になれるよう…もやして………あげたの」
今まで必死に抑えてきた感情が一気に露出したのか、夥しい数の涙の粒が次々と甜歌の頬を伝わっていく。

134 名前:1 [] 投稿日:2005/03/26(土) 01:28:31
「甜歌…」
「でもね。おにいちゃんは違ったの。パパやママとは違ったの。深田おねえちゃんを”助ける”って言った時、おにいちゃんの目か
ら優しさが伝わってきた。甜歌はおねえちゃんがすごく羨ましかったわ」
「俺は…」
「ねぇ、おにいちゃん。死んだら本当に楽になれるのかな?」
”死ぬことで幸せになれるはずがない”。喉まで出掛かったそんな台詞を、俺はどうしても吐くことが出来なかった。彼女の歩んで
きた、まだ人生と呼ぶには短すぎる11年を思うと、俺にそんな励ましをする権利はないように思えた。家電屋で無為に日々を過ご
してきた俺には。今できることといえば、ただ一つ。甜歌の隣に座って、彼女の肩を抱いてやることしかできない。
「あったかい…しばらくこのままでいてもいい?もう会えないかもしれない」
「ああ、いいよ」
せいぜい5分ほど、甜歌は俺の腕の中で静かに目をつぶっていた。揺り篭で眠るような、とても安らかな表情。俺がその顔に見とれ
ていると、甜歌は急に俺の腕を振りほどいた。
「よぉし!!ありがとう、おにいちゃん。短い間だったけど、おにいちゃんや深田おねえちゃんや堅といれて、甜歌とっても楽しか
ったよ♪」
精一杯の空元気。痛いほどに伝わってきた。己の悲しみを内に閉じ込めるため、これまで幾度となくこの少女がとってきた行動だ。
思えば彼女はあの広い屋敷で、ずっと独りで泣いていたのかもしれない。俺はそんな甜歌に次のような提案をしてみた。
「あのさ甜歌、ちょっと付き合ってくれないか?」
「何を?」
「いや、大したことじゃないんだけどな。俺達と一緒にさ……」
「……」
「ちょっくら魔王でも倒しに行ってくれないか?あの、その、なんだ。お前の力が必要なんだ」
先ほどと同じ大粒の涙が甜歌の頬を流れた。その涙の粒を服の袖で拭うと、
「うん!」
甜歌は小さいながらも、確かな強い声で返事をして頷いた。
                                                                 続く

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