異世界ファンタジー編 第15話

 

141 名前:1 [] 投稿日:2005/03/27(日) 01:29:02
第15話(前半)
船に揺られて一週間。俺達はシフィロマ大陸(最初の大陸。今日名前決定)に帰ってきた。とは言っても、今回訪れたのはレク村で
はなく、王都シ・フィーロにあるナジ港だ。人が集まる所に情報あり。魔王出現のしっぽでも掴めないかと、俺達は王都に足を踏み
入れた。
「人が多いなぁ」
俺は大通りを目の前にして呻いた。
人、人、人。今まで通過してきた村がのんびりとしていただけに、街は余計人口密度が高く感じられる。様々な商店が軒を連ね、矢
鱈と賑やかだ。
「ねぇねぇ、これだけいろんなものがあると、何だかウキウキしてくるね」
甜歌が明るく笑う。禿しく同意。こう活気があると、ついつい雰囲気につられて衝動買いに走ってしまうのが俺の悪い癖。俺は深田
に剣を返したので、自分用の武器がない。立ち寄った中古武器屋で破格のブロードソードを購入した。
「情報収集ってしたことないんだけど。とりあえず、そこら辺歩いている人に話でも聞いてみるのかな?」
俺は平井に問うた。RPG寄りの世界だけに、よくドラ○エとかで往来を歩く人々に、一人一人話しかけるシーンを思い浮かべたか
らだ。
「そんなことしていたら日が暮れてしまう。情報屋を当たりましょう」
冷静に切り捨てられた。もっともなご意見。どうやら彼にはなじみの情報屋がいるらしい。的中率は73%とやけに具体的な数値が
算出されている。ほどほどに当たるらしい。俺達は彼に付いて、細く入り組んだ路地を歩き回った。そうして着いた民家には「シ・
フィーロの母」という看板。中に入ると、紫色の絹衣を身に纏った中年のオバハン(希木樹林)が一人、テーブル越しに座っている。
「堅坊、よくきたねぇ」
シ・フィーロの母は平井の顔を見て不気味に笑った。
「堅坊はやめてくださいよ」
「うるせぇよ。簀巻にしてオタ川に流すぞ?」
こわっ。脈絡もなく急に切れた。このオバハンこわっ。長居は無用とばかりに、早速魔王について占ってもらう。
「ん?あれまぁ、魔王はこの世界に既に現出しておるわぃwアヒャヒャヒャ」
シ・フィーロの母はまるで祭りの報せを受けたかのように、邪悪かつ愉快痛快という風に笑った。

142 名前:1 [] 投稿日:2005/03/27(日) 01:29:27
「マジか!?で、どこに?」
シ・フィーロの母に駆け寄る俺。
「知るか、たわけた腐れ外道が。ワシでもどこに現れたかまではわからんわい」
「腐れ外道…」
居場所こそ分からないものの、魔王が現れていることは判った(的中率は7割方だが)。それだけでもよしとすべきか。そんなこと
より、腐れ外道と罵倒されたことの方がショッキングなわけで。言葉の意味が分からない甜歌が、俺の顔を見上げて言う。
「おにいちゃん腐れ外道なの?」
「いや、どうだろ。そうなのかな…ハハハ」
その時、何やら俄かに表が騒がしくなった。家を出ると、街の人々が皆一様に心配そうな顔をして、同じ方向を向いている。そちら
に目を移すと、王宮から火の手が上がっているのが目に入った。見過ごすわけにもいかず、俺達は王宮に急ぐ。城門をくぐり王宮内
に駆けつけると、兵士達が羽を生やした無数の魔物達と奮闘している。
「こいつは凄まじいな…」
俺は思わずこぼした。ところどころに兵の骸が横たわっている。とにかく敵の数が尋常ではない。こちらも、ぼやぼやしている暇は
ない。俺達に気付いた魔物の一群が、武器を構えて襲ってきた。

143 名前:1 [] 投稿日:2005/03/27(日) 01:30:32
「皆さん、応戦してください」
落ち着いてロングソードを構える深田。
「応!」
勇猛に応えて刀を抜く平井。
「わかってるよ!おにいちゃんはおk?」
杖を顔の前で水平にする甜歌。
「待て!おkじゃない、剣が抜けない!!」
そして、うろたえる俺。
さきほど購入したばかりの剣を鞘から抜こうとするが、抜けない。どうやら初期不良品を掴まされたようだ。四苦八苦してようやく抜
けた時には、深田達が敵を一掃した後だった。俺冴えなさ杉orz俺が落ち込んでいると、すぐ傍に倒れている兵士(香山。小学校時代。
ドッジボールがとにかく好き)が、何かを伝えようと口を動かす。
「加勢か…早く王を………あの二つの塔のどちらかに……」
兵士(香山)は息絶えた。俺は手の平で彼の目を閉じてやった(あれ一度やってみたい)。
「二つに一つ。二手に別れましょうか」
平井が眉をしかめて、東西二本そびえ立つ尖塔を、交互に見上げた。
「じゃあ、甜歌はおにいちゃんと行く!」
「そうですね。敵は多勢ですから複数攻撃魔術を使えるわたしと甜歌さんがそれぞれ、あなた達についた方がいいと思います」
俺は甜歌を見た。まるでピクニックにでも行くような瞳をしている。こちらは今にも腰が砕けそうだというのに。いや、こんなことで
はいけない。俺は自らを奮わすべく両手で頬を張った。
「よし、行くぞ!甜歌」
「うん♪」
二組に別れた俺達は、それぞれの塔に向かった。
                                                                 続く

153 名前:1 [] 投稿日:2005/03/28(月) 00:58:36
第15話(後半)
「ハァハァ、ちょっと休憩」
倒れた使い魔から剣を抜いた俺は、たまらず階段にどっと腰を落とした。入る前の威勢はどこへやら。上を見上げると、螺旋状の階段が、
めまいを催すような長さで遥か頂上に向かって渦を巻いている。その上、各種使い魔がひっきりなしに襲ってくる。甜歌が魔術でカバー
してくるものの、いかんせん持久力がついていかない。この世界にきて大分鍛えられたが、やはり長年の運動不足がたたっているようだ。
「おにいちゃん、しっかりしてよぉ」
甜歌はと言うと至って疲れ知らずに、何百段あるのか知れないこの螺旋階段をものともしていないようだ。ご立派。若さ万歳。本当に
純魔術士なのかと。問いry)
「深田さんと堅はもう頂上に辿り着いただろうか」
「どうかなぁ。でも、おにいちゃんがモタモタしてると、先にゴールされちゃうよ、ほら、立って!」
「いや、競争しているわけじゃないんだから……わかった、わかったよ。急ごう」
少しずれている気がするが、甜歌が言うことは正しい。もしこちらが王のいないハズレの塔なら、早急に向こう側に加勢に向かわなくて
はならない。俺達は再び螺旋階段を上っていく。さきほどから比べて魔物の数が減ってきた。再びばててきた俺は、甜歌に怒られない程
度に走る速度を落とした。そうして黙々と走っているうち、ふと疑問を抱いた。
「あのさ、甜歌、思ったんだけどさ」
「なに?」
「甜歌は飛行魔術とか使えないの?飛べたら楽に上を目指せる」
「えぇ、そんな魔術あるわけないよ。ファンタジーの本読みすぎなんじゃないの?」
「そうですか…」
笑われてしまった。俺からすると十二分にファンタジックワールドなのだが。ここは。
「今度は甜歌が質問する番ね」
「ん?ああ、どうぞ」
「おにいちゃんは恭子おねえちゃんのことが好きなの?」
「おぅわっ!?」

154 名前:1 [] 投稿日:2005/03/28(月) 00:58:59
俺は危うく躓きそうになって、間一髪で体勢を整えた。こうも唐突な質問を浴びせかけられると、言葉を失ってしまう。コクシ大陸に向
かう船の中で、自分が深田に恋心を抱いていることを知った。平井に深田を奪われる気がして、ひどくうろたえた。彼女は自分のもので
ないのに。やはり俺は深田に片思いをしているのだろう。だが、ここで好きだとか言うのは気恥ずかしい。
「うーん、どうだろう。多分違うんじゃないか」
俺はついそう答えた。小学校時、3組の宮城さんが好きなのかと質問をされて、さも興味がないという顔で答えた時のように。
「そうなんだ、よかった…」
「え?」
「なんでもないよー、あ!頂上が見えたよ」
確かにすぐ先で螺旋階段は終わっており、壁と、かつて扉であったろうものが見える。かつて、と付けたのはそれが粉々に崩れ落ちてい
たからだ。かすかにだが砂埃が舞っている。まだ壊されてから大して時間は経っていないようだ。
俺は確信した。王はこちらの塔に逃げ込んだのだ。そしてそれを追う魔物も……
「甜歌、頼む」
「うん」
杖の先を、扉を塞いでいる石塊に向けて、甜歌は呪文を唱える。小爆発が巻き起こり、岩を粉々に砕いた。部屋の中に乗り込む俺。その
目に飛び込んできたのは、4本の腕を持つ黒い腰巻を巻いた悪魔。王らしき人物に、今まさに斬りかからんとしている。ヤバイ。
「ちょい待て!」
俺は声に反応して振り向いた魔物に、不意打ち御免とばかりに、ブロードソードで渾身の一撃を食らわせた…つもりだった。しかし、剣
は2本の腕に白刃取りされ、次の瞬間には俺は弾き飛ばされて、床に叩きつけられた。魔物は俺を見下ろす。
「愚かな者達よ。我が名はトライアス。ここまで来た褒美に、先に汝らに死を与えようぞ」
3本の剣撃が同時に俺を襲う。下2本の腕には片手剣。上2本の腕で両手剣を操っている。3人を相手にするようなもので、俺は捌くの
がやっと。目に見えて劣勢に陥っていくのがわかる。

155 名前:1 [] 投稿日:2005/03/28(月) 00:59:23
「くっ…」
「ククク、愚かよのぅ」
3本の剣に気を取られていた俺のみぞおちに、強烈な足蹴りがめり込んだ。
「うげっ!」
「逝くがいい」
やられる!…そう思った瞬間、トライアスの振り下ろそうとする腕が一瞬にして凍りついた。
「おにいちゃん、一旦退いて!」
甜歌が叫んだ。氷系魔術で援護してくれたのだ。
「女児が余計な真似を…仕置きをせねば」
「て、甜歌…」
まずい。敵のターゲットが俺から甜歌に移った。トライアスが手を掲げ、その先から邪気の炎が走り甜歌の足元を直撃した。彼女の華奢な
身体が、壁に叩きつけられた。
「甜歌!」
俺は彼女に駆け寄ろうと立ち上がる。
「これ、まだ戦いの只中ぞ。疾く掛かって来ぬか」
そんな挑発に乗ることなく、俺は甜歌に向けて歩を進める。
「我を無視するとはいい度胸だ!!」
トライアスが吼え、手にした剣の一本をこちらに投げ放った。だが、俺は神反応で振り返って、それを斬り落とす。
「なんと」
「われさっきから舐めた口きぃてくれとるのう…」
怒り心頭の為、地の広島弁が出る。口汚く罵ってこそいるが、不思議と心は澄みきっている。俺は確信した。次で決着をつける。

156 名前:1 [] 投稿日:2005/03/28(月) 00:59:48
「人間よ、参るぞ!」
「こいやぁ!」
トライアスが凍っていない下2本の腕で剣を構えて、速攻を掛けてくる。見える。どいうわけか、次の奴の手が予見できた。左右双方向
からの袈裟斬り。俺はナイスタイミングで受けて流す。そして、トライアスの右肩からばっさりと胴体を斬り裂いた。
「貴様…」
最初で最後の苦痛に歪んだ表情を浮かべ、呻き声を挙げるトライアス。剣を引き抜くと、血を撒き散らしながら地に倒れ伏した。俺は甜
歌の身体を抱え起こす。幸いにも大した怪我はなく、すぐに目を覚ました。
「おにいちゃん・・・」
「もう安心だぞ。悪い奴は倒したから」
そこに深田と平井が駆け入ってきた。
「大丈夫ですか?」
深田が声をかける。
「ああ。見ての通りだ」
瀕死のトライアスを一瞥る俺。
「…わ、我ごとき倒すのにここまで苦労しておってはなぁ。ククク、エナリ様の足元にも及ばんわ。我は魔王様を探すための尖兵に過ぎん。
そこの王がそうかと思ったのだが…見当違いだったようだ…」
「お前今エナリと言ったな!?」
トライアスの肩を激しく揺らして、平井はエナリの居場所を必死に聞き出そうとする。しかし彼はすでに虫の息で、声は届いていないようだ。
嘲笑を浮かべながら、消え入りそうな声で呟く。
「この近くでかすかに魔王様の匂いがしたんだがなぁ…まぁいい。人間達よ。せいぜい楽しんでおくんだな。我ら魔族の時代が到来するまでの
短い時間を……んん?……また匂いが………にお………」
トライアスは居並ぶ俺達を舐めるように見た。そして一際大きな笑いを浮かべて絶命した。
「くそっ!!」
平井は魔物の身体を、床に叩き付けた。黒い煙を上げながらその身体は塵に帰った。
「エナリが魔王を見つけて合流すれば厄介なことになる。俺達は奴より先に魔王を探し出して倒さなければ」
怒りモードが解けて、俺は通常の話し方に戻っている。緊張をたたえた表情で、深田と平井が頷いた。王は完全に存在を忘れ去られていた。
                                                                 続く

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