異世界ファンタジー編 第17話(深田)
- 197 名前:1
[] 投稿日:2005/03/31(木) 01:44:16
- 第17話(深田)
「深田さん、一緒に来てくれないか」
俺は深田の目を見詰めて頼んだ。
「はい、わたしでよろしければ」
深田は少し頬を赤く染めて、首を縦に振った。
「おにいちゃん、おねえちゃん、気をつけてね」
甜歌の心配を隠し切れない声に見送られて、俺達は山へと入っていった。
山道は木々が鬱蒼と茂り昼なお薄暗い。しかし登山道がある程度整備されているので足元は確かだ。魔物は特に棲んでいないよう
で、時折野鳥や動物の啼き声が響くだけ。ただしそれでも俺にとっては耳にしたことの無い不気味な音で、ともすれば魔物と勘違
いして、聞き知らぬ声が鳴る度に身体をビクッとさせてしまう。横を歩く深田は特に気にする様子も無いというのに。
「深田さんは強いなぁ。こういうところ一向に平気そうだけど」
「あなたはまだこの世界に来て日が経ってないから仕方ないです。わたしはもう5年間この世界にいて、色々なところに行きま
したから」
そう軽く答えた深田の横顔を見て、俺は複雑な気持ちになった。神妙な面持ちになる俺に、深田が問う。
「5年間であっちに変化はありましたか?」
「ん、そうだなぁ。別段大きく変わったところはないよ。あ、ドリフの長さんが亡くなったな。あと冷蔵庫やらTVやらの処分時
にリサイクル料金がかかるようになったよ。そんなに変わってないよ。相変わらず不景気は続いてるし、5年間じゃそうそうは世
界は変わらないよ。帰っても全然違和感覚えないだろう」
「そうですか。よかったです」
深田は安心したような、それでいて悲しみを湛えた表情。今度は俺が深田に質問をする。
「深田さんはさ、あっちに帰ってからやってみたい事とかあるの?」
「やりたい事…ですか?」
深田はしばらく考えて、
「素敵な恋愛をしてみたいですねぇ」
と乙女チックな回答。
「素敵な恋愛?」
「はい、王子様みたいな人と、素敵な恋愛をしてみたいです」
- 198 名前:1
[] 投稿日:2005/03/31(木) 01:44:50
- 王子様みたいな人…俺の頭に、金髪オカッパでカボチャパンツをはいた典型的かつ貧弱な王子様像が浮かんだ。
「そう…なんだ。王子様みたいな人がタイプなんだ…」
俺とは正反対のタイプだ。ススムちゃん大ショック。しかし深田はそれに気づく様子もなく続ける。
「でも、わたしには一生無理な話なんですけどね」
「え?」
「わたしに人を好きになる資格はないんです」
その言葉を最後に深田は黙り込んでしまった。どういうことだ。人を好きになる資格は無いとは。
「深田さん、一体…」
「あ!着きましたよ。あれが聖剣の洞穴みたいですよ」
はぐらかされてしまった。洞穴に到着した俺達は、冷たい空気が満たす穴に入っていく。さして大きな洞穴で
は無く、すぐに聖剣のある石室に辿り着いた。聖剣は思ったより小振りで、深田のロングソードより少し刃渡り
が長いくらいだ。
聖剣を手に取ろうと近づく。その時、俺は奇妙な気配に気付いた。すぐ横の暗がりを見てみると、居る。何か居る。
俺はその方向に目を凝らしてギョッとした。子供の背ほどの木乃伊が椅子に腰掛けているではないか。
「うゎ!」
「しっ!この木乃伊生きているみたいですよ」
深田が声を潜ませて言う。木乃伊なのに生きているとは、面白い冗談だ。
「ハハハ、そんな馬鹿な…息づいてる!脈々と息づいてる!?」
不用意に木乃伊に触れた俺はまたもや仰天して、慌ててそれから離れた。木乃伊の腕は確かに温かく、脈を打っていた。
ていうか、この木乃伊が山の主なのか。
(どど、どうするよ?)
(とりあえずこのまま通り過ぎましょう。幸いにも鈍感なようです)
そういえばさっき結構大きな悲鳴を上げても、起きなかった。どうやら大分深く眠り込んでいるようだ。
俺は少し安心して歩き出そうとした。と、足元で枯れ枝が折れる小さな音がした。
「あー、よく寝た」
しまった、木乃伊が起きちまった!!!!!!!!
続く
- 214 名前:1
[] 投稿日:2005/04/01(金) 01:50:00
- 第17話(深田後半)
目一杯背伸びをする木乃伊を前にして、俺と深田は剣を抜き構える。
「ふぁー、あれ、お客さんですか?」
物腰柔らかそうな声。好青年といった感じだ。
「あなたが山の主さんですか?」
深田が尋ねた。
「はい、そうです。僕が山の主です」
どこかで聞いたことのあるイントネーションで山の主は自己紹介をした。俺達が剣を構えているのを見て、
「いやだなぁ。危害なんて加えませんよ。しかしお客さんだなんて嬉しいなぁ」
と、白い歯を見せた。中々話の分かる木乃伊らしい。
「あなたはとても素敵で綺麗なお嬢さんですね」
いきなり木乃伊は片言で深田を誉めた。
「ありがとうございます」
「深田さん、照れてるのか?」
俺は深田の顔を覗き込んだ。
「黙ってろ、タコスケ」
前言撤回。何だ。この態度の違いは。
「僕は木乃伊の国の王子なんですよ」
嘘だ。王子が何故にこんな場所で朽ちているのか。嘘に決まっている。98%くらの確率で。
「王子様なんですかぁ。わたし憧れちゃいます」
乙女の眼差しになる深田。いや、それ王子でも木乃伊だから。一見脈々と息づいているが、決して生きとし生けるものではないから。
「よかった。僕の妻になって下さい」
いきなりプロポーズしちゃったよ。木乃伊の分際で。
- 215 名前:1
[] 投稿日:2005/04/01(金) 01:50:30
- 「あら、どうしましょう」
笑っていやがる。どうしましょう、ではない。木乃伊の嫁になるつもりなのか。天然を通り越して、ドキドキしてしまう。
「深田さん、やめときなよ」
「だから黙ってろっつってんだろ、腐れた烏賊が。嫉妬してんじゃねぇよ」
しかし口が悪い木乃伊だ。
「嫉妬?」
さすがの俺も頭に来て、思わず睨み返した。
「おっし、わかった。それじゃあこうしよう。お嬢さんとの結婚を賭けて僕と決闘しよう」
木乃伊はどこから取り出したのか、巨大な戦斧をぶら下げた。
「な…!?」
いきなり俺と木乃伊が決闘開始。急展開にも程がある。これも棚卸後のハイテンションからか?
そんなこんなで、こっちの都合など一切お構い無しで繰り出された木乃伊の初撃。
「重っ!?」
重い。恐ろしく重い。ていうか痛い。手がビリビリする。か細い手足から繰り出される戦斧の一撃は紛うことなく重量級と言っていい。
「おらおら、どうしたよ?」
容赦なく斧を振り回す木乃伊。お前必死過ぎ。故に俺も超必死で防がざるを得ないわけだが。
「く…!」
防ぎそこなった斧の刃が俺の左腕をかすった。かすっただけだが、肉がえぐれて血が飛び散る。
「深田さん、待っててくださいね!今すぐこいつを殺して……え?」
唐突に木乃伊の身体が真っ二つ。いつの間にか深田がロングソードを抜いている。
「その人を傷つけないでください。わたしの……大事な人なんですから」
俺は耳を疑った。言った。今確かに言ったわたしの大事な人と。健康診断でも異常なかったし、まず間違いない。
「そんな…」
木乃伊は無念そうな声を上げて地面に崩れ落ちた。
- 216 名前:1
[] 投稿日:2005/04/01(金) 01:50:53
- 「いま、わたしの大事な人って…」
俺は深田に駆け寄って、先ほどの発言を指摘した。
「だって、あなたがいないと魔王を倒してあっちの世界に帰れないじゃないですか」
と、深田はあっさりした返答。
「あ、そういうことか…だよな」
大事の意味を履き違えた俺。とんだ醜態。
「はい。2人で一緒に帰りましょうね♪」
深田は笑った。俺もつられて笑った。笑うしかなかった。
とにもかくにも聖剣ゲット。岩から引き抜き、早速素振りをしてみると、重すぎず軽すぎず、長すぎず短すぎず。参ったかクソッタレと
言わんばかりに手に馴染む。まるで自分の身体の一部になったようだ。
俺が剣を愛でていると、それを側で微笑みながら見ていた深田が急に口を押さえた。一旦周囲を見渡して壁際に走ると、壁に寄り掛かっ
て激しく嘔吐した。彼女に駆け寄り、俺は背中をさすって声をかける。
「深田さん、大丈夫か?」
「え、ええ。ちょっと酔ったみたいです」
何に酔ったんだろう。木乃伊か?木乃伊に酔ったのか?あまり大丈夫そうには見えない。船酔いでもないのに、いきなりげぇげぇ吐かれ
れば、誰でも心配してしまう。何か悪い病気に感染したのでなければいいが。木乃伊って病気持ちっぽいし。
とにもかくにも俺専用異世界人専用聖剣を手に入れた俺達は、山を下った。
続く
甜歌ルート
平井ルート
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