異世界ファンタジー編 第17話(甜歌)

 

222 名前:1 [] 投稿日:2005/04/02(土) 00:14:24
第17話(甜歌)前半
「甜歌、一緒に来てくれないか」
俺は甜歌の目を見詰めて頼んだ。
「うん、甜歌に任せてよ!」
甜歌は嬉々として、思い切り首を縦に振った。
「2人とも十分に注意してくださいね」
「ああ。ありがとう」」
深田の不安を隠し切れない声に見送られて、俺達は山へと入っていった。
山道は木々が鬱蒼と茂り昼なお薄暗い。しかし登山道がある程度整備されているので足元は確かだ。魔物は特に棲んでいないよう
で、時折野鳥や動物の啼き声が響くだけ。ただしそれでも俺にとっては耳にしたことの無い不気味な音で、ともすれば魔物と勘違
いして、聞き知らぬ声が鳴る度に身体をビクッとさせてしまう。一方、横を歩く甜歌はというと鼻歌混じりで余裕綽々。
「ピクニックみたいでなんか楽しいねー!ね?おにいちゃ…って、元気ないじゃん。恐いの?」
「な、何言ってんだよ。そんなわけないだろ。恐くなんかないよ」
「大丈夫だよ。甜歌がついてるから」
「そいつはどうも」
こんな少女に励まされている自分を情けなく思いつつ、甜歌の気持ちを嬉しく思った。そして気付いた。並んで歩いてどうする。
いざとなればこの子を守るのは俺の役目だというのに。気を取り直して、できるだけの虚勢を張って甜歌の前に出てみた。しばら
く歩いていると、後ろから甜歌の声。
「変なこと訊いていい?」
「ん、ああ。なんだ?」
「甜歌はおにいちゃんにとって何?」
「へ?」
余りにも唐突な質問。これまで深く考えたことは無かった。年下だが妹とは違う。実際の妹はこんなに可愛いらしいものではない。
ただの旅の仲間とも違う。何とも不思議な存在だ。俺は考えあぐねた末、
「シラネ」
「もう!真剣に答えてよ」

223 名前:1 [] 投稿日:2005/04/02(土) 00:14:48
「うーん、そうだな。甜歌は俺にとって、とても大事な人、だな」
とりあえず答えてみた。文才の無い俺には、これくらいしか表現が見つからない。実際そうなのだし。
「とても大事な人、か。そうなんだ。甜歌はおにいちゃんのとても大事な人なんだ♪」
思いの他気にいって頂けた模様。
「じゃあ、甜歌は俺のことどう思ってんだ?」
今度は仕返しとばかりに、意地悪な問いをそのまま返してみた。
「え、ええ!?わたし?わたしは…えっと、その、ああああ!!洞窟ってあれじゃない?ほら、見て見て!!」
彼女はひどい慌てようで、登山道の先を指差す。確かに洞穴がある。はぐらかされた格好だが、あまり困らせてもかわいそうなので、
それ以上は追求しないことにした。
洞穴に到着した俺達は、冷たい空気が満たす穴に入っていく。さして大きな洞穴では無く、すぐに聖剣のある石室に辿り着いた。聖剣
は思ったより小振りで、深田のロングソードより少し刃渡りが長いくらいだ。聖剣を手に取ろうと近づく。その時、俺は奇妙な気配に
気付いた。すぐ横の暗がりを見てみると、居る。何か居る。俺はその方向に目を凝らしてギョッとした。子供の背ほどの木乃伊が椅子
に腰掛けているではないか。
「うわぁ!」
珍しく驚いた甜歌が俺に抱き付いてきた。何だかんだいっても子供だ。
「あ、あはは。どうってことないよ。ただの木乃伊だよ」
と平静を装うが、内心は怯えまくり。だが、ここで頼りになるところを見せておかなければ。意を決して木乃伊に触れた俺は仰天して、
慌ててそれから離れた。木乃伊の腕は温かく脈を打っている。
「生きてる!」
木乃伊の癖に生きている。或いはこれが山の主なのか。
「とりあえずこのまま通り過ぎよう。幸いにも鈍感なようだし」
俺は甜歌の手を握った。さきほど甜歌が悲鳴を上げた際にも、目を覚まさなかった。どうやら大分深く眠り込んでいるようだ。慎重に
できるだけ物音を立てずに歩き出す俺達。と、足元で枯れ枝が折れる小さな音がした。椅子が軋んだ。木乃伊のが音を立てて、椅子か
ら立ち上がったではないか。そして欠伸をして一言。
「あー、よく寝た」
起こしちまった!!!
                                                                 続く

227 名前:1 [] 投稿日:2005/04/03(日) 00:40:21
第17話(甜歌後半)
目一杯背伸びをする木乃伊を前にして、俺は剣を抜き構える。
「ふぁー、あれ、お客さんですか?」
意外にも物腰柔らかそうな声。好青年といった雰囲気だ。
「あなたが山の主さん?」
甜歌が尋ねた。
「はい、そうです。僕が山の主です」
山の主はうやうやしく自己紹介をした。俺達が剣を向けているのを見て、
「いやだなぁ。危害なんて加えませんよ。しかしお客さんだなんて嬉しいなぁ」
と、黄色い所々抜け落ちた歯を見せた。中々話の分かる木乃伊らしい。
「あなたはとても素敵で可愛らしいお嬢さんですね」
いきなり木乃伊は片言で甜歌を誉めた。
「そんなぁ、甜歌照れちゃうなぁ」
まんざらでもないという顔で照れる甜歌。
「甜歌…相手は木乃伊だぞ」
「黙ってろ、ゴキブリ野郎」
木乃伊がいまにも食いかからん剣幕で俺を威嚇した。前言撤回。何だ。この態度の違いは。ムッとする俺をよそに、木乃伊は甜歌を
くどき続ける。
「僕は木乃伊の国の王子なんですよ」
嘘だ。王子が何故にこんな場所で朽ちているのか。嘘に決まっている。96%くらいの確率で(残り4%はちょっと木乃伊の国を見
てみたい好奇心)。
「よかったら僕の妻になって下さい」
いきなりプロポーズしやがった。

228 名前:1 [] 投稿日:2005/04/03(日) 00:40:52
「何を馬鹿なこと言ってんだ。お前木乃伊だろ。それに甜歌はまだ11歳だ」
「寧ろ適齢期。木乃伊の国では10歳になりゃ結婚できるんだよ、ピンボケ頭」
さも当然のように木乃伊は言い捨てた。文末の罵倒が一々頭に来る。
「だからその木乃伊の国っていうのはどこにあるんだ?」
「俺の心の中だよ、ボケが。タコス食って寝てろ」
やはりこいつの妄想だったか。さすがの俺も頭に来て、思わず睨み返した。
「何?その眼。あ、わかった!てめぇ、妬いてんだろ?このロリが」
「なな、何言ってんだ!俺はただ」
取り乱して否定する俺を、下から甜歌の顔がのぞき込む。時が止まる。そして、
「おにいちゃん……ロリコンなの?」
「!!」
はい!!立派なロリコンであります!!ロリコンといっても10歳から30歳まで、幅広くカバーするオールラウンドプレイヤーであ
ります!でもやっぱり少女には特別興味津々!!イェス!んなこと暴露できるわけないだろ!!!!と、ついついイェスマンを模倣し
てしまうほど焦る俺。
「何言ってんだ。俺はただ甜歌をこんな木乃伊の嫁さんにするわけにはいかないから」
できるだけ平静を保って言い訳をしてみた。甜歌はまだ訝しげな表情。
「おっし、わかった。それじゃあこうしよう。甜歌タソとの結婚を賭けて僕と決闘しよう」
木乃伊はどこから取り出したのか、巨大な戦斧をぶら下げた。
「な…!?」

229 名前:1 [] 投稿日:2005/04/03(日) 00:41:31
俺と木乃伊の決闘開始。急展開にも程がある。そんなこんなで、こっちの都合など一切お構い無しで繰り出された木乃伊の初撃。 
「重っ!?」 
重い。嫌になるくらい重い。ていうか痛い。手がビリビリする。か細い手足から繰り出される戦斧の一撃は紛うことなく重量級と言っていい。 
「おらおら、どうしたよ?」 
容赦なく斧を振り回す木乃伊。お前必死過ぎ。故に俺も超必死で防がざるを得ないわけだが。 
「く…!」 
防ぎそこなった斧の刃が俺の左腕をかすった。かすっただけだが、肉がえぐれて血が飛び散る。 
「甜歌タソ、待っててくれ!今すぐこいつを葬り去って………ぐぉわ!!」 
唐突に木乃伊の頭が爆発して弾けとんだ。哀れ木っ端微塵。甜歌が杖を木乃伊のこちらに向けている。呆気にとられた俺に、甜歌は笑いかける。 
「甜歌、木乃伊に興味ないもん」 
「ハハハ…ナイス甜歌。よし!聖剣を…」 
「待って、おにいちゃん」 
「な、何?」 
さきほどの話題をぶり返されるのでは。俺は不安に胸を詰まらせた。しかし、甜歌は至って神妙な表情で一言。 
「わたしにとっても、おにいちゃんは大事な人だよ」 
「甜歌………」 
俺は彼女の肩に手を置いた。 
「ありがとな」 
とにもかくにも聖剣ゲット。岩から引き抜き、早速素振りをしてみると、重すぎず軽すぎず、長すぎず短すぎず。参ったかクソッタレと言わんば 
かりに手に馴染む。まるで自分の身体の一部になったようだ。俺が剣を愛でていると、それを側で微笑みながら見ていた甜歌が急に服の袖口を引 
っ張ってきた。 
「おにいちゃん、魔王をやっつけて早く帰られるといいね…」 
「ああ、まかせとけって」 
愚かな俺は、その時の甜歌の淋しげな表情に潜む本心を、汲み取ってやることができなかった。 

                                                                 続く

深田ルート

平井ルート

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