異世界ファンタジー編 第17話(平井)

 

236 名前:1 [] 投稿日:2005/04/03(日) 23:37:18
第17話(平井)前半
「平井、一緒に来てくれないか」
俺は平井の目を見詰めて頼んだ。
「はい」
平井は快く了解してくれた。
「2人とも十分に注意してください」
「おにいちゃん、堅、気をつけてね」
「ああ。ありがとう」
深田と甜歌の不安を隠し切れない声に見送られて、俺達は山へと入っていった。
山道は木々が鬱蒼と茂り昼なお薄暗い。しかし登山道がある程度整備されているので足元は確かだ。魔物は特に棲んでいないよう
で、時折野鳥や動物の啼き声が響くだけ。ただしそれでも俺にとっては耳にしたことの無い不気味な音で、ともすれば魔物と勘違
いして、聞き知らぬ声が鳴る度に身体をビクッとさせてしまう。一方、横を歩く平井はというと、全く動じている様子はない。
それにしても、イケメンと2人きりで歩いていると、どうにも表現しがたい気分になってくる。
苦心して話題を探している内、俺は平井の刀に目を留めた。
「いつもその刀を肌身離さず携えてるね。何か理由があるのか?」
「ええ…これは死んだ恋人の形見なんです。彼女が護身用にと僕に買ってくれた、初めての贈り物でした」(ここで”ひとみを閉ry)
平井はそっと腰の鞘に触れた。歌い手として酒場で働いていた当時の平井は武術などとは無縁で、そんな彼を鍛えようと彼女がプ
レゼントしてくれたのだという。
「ごめん。悪いこと訊いちゃったな」
まったくどうして俺はこうも軽はずみな発言が多いのだろう。
「いいえ、もう10年も前の話ですから」
10年間。彼は10年も仇敵エナリを追跡していたのか。その年月の長さには眩暈すら覚える。平井は特に表情を変えることなく、
訥々と話す。
「でもね。僕は最近不安に思うことがあるんですよ」
「え?」
「もしエナリを倒せたとして、その後僕はどうなるんだろうって。この10年間それだけに人生を費やしてきた。それ以外に何も
ないんです」

237 名前:1 [] 投稿日:2005/04/03(日) 23:37:38
彼が垣間見せたのは、長い時を孤独の内に生きてきた者が見せる眼差し。俺は平井に自分と通じるものを感じた。
「でも僕は仇討ちをやめることはできない。今でも彼女が夢の歌で僕に無念さを叫ぶんです。仇を討ってくれ、と。だから僕が復
讐を止めることは絶対に許されないんです」
呪縛。ふと俺の頭にそんな言葉が浮かんだ。
「すみません。変な話をしちゃって。あ、着いたようですよ」
平井は登山道の先を指差した。洞穴に到着した俺達は、冷たい空気が満たす穴に入っていく。さして大きな洞穴では無く、すぐに聖
剣のある石室に辿り着いた。聖剣は思ったより小振りで、深田のロングソードより少し刃渡りが長いくらいだ。聖剣を手に取ろうと
近づく。その時、俺は奇妙な気配に気付いた。すぐ横の暗がりを見てみると、居る。何か居る。俺はその方向に目を凝らしてギョッ
とした。子供の背ほどの木乃伊が椅子に腰掛けているではないか。
「木乃伊ですね」
「そうだな」
と俺は平静を装って返答するが、内心は怯えまくり。だが、同じ男としてここで弱みは見せられない。意を決して木乃伊に触れた俺。
しかし次の瞬間には仰天して、慌ててそれから身を離した。木乃伊の腕は温かく脈を打っていたのだ。
「生きてる!」
木乃伊の癖に生きている。或いはこれが山の主なのか。
「とりあえずこのまま通り過ぎよう。幸いにも鈍感なようだし」
「そのようですね」
俺と平井はこっそりと木乃伊の前を通過しようとする。さきほど触った際に目を覚まさなかったことが示すように、どうやら大分深く
眠り込んでいるようだ。と、足元で枯れ枝が折れるごくごく小さな音がした。それに呼応したように椅子が軋んだ。木乃伊が音を立
てて、椅子から立ち上がったではないか。そして欠伸をして一言。
「あー、よく寝た」
起こしちまった!!!
                                                                 続く

242 名前:1 [] 投稿日:2005/04/04(月) 22:29:47
第17話(平井後半)
目一杯背伸びをする木乃伊を前にして、俺と平井は剣を抜いて構える。
「ふぁー、あれ、お客さんですか?」
意外にも物腰柔らかそうな声。好青年といった雰囲気だ。
「あなたが山の主ですか?」
平井が尋ねた。
「はい、そうです。僕が山の主です」
山の主はうやうやしく自己紹介をした。そして、俺が向ける切っ先に目を合わせて、
「いやだなぁ。危害なんて加えませんよ。しかしお客さんだなんて嬉しいなぁ」
と、黄色い所々抜け落ちた歯を見せた。中々話の分かる木乃伊らしい。
「ところで、あなたの音封銀盤(この世界のCD)持ってますよ。っていうかファンです」
いきなり木乃伊のファン宣言。平井はCDを出していたのか。
「あ、どうも」
調子を狂わされて、照れて頭をかく平井。
「平井、相手は木乃伊だぞ」
「黙ってろ、カマドウマ野郎」
木乃伊がいまにも食いかからん剣幕で俺を威嚇した。前言撤回。何だ。この態度の違いは。ムッとする俺をよそに、木乃伊は平井に
提案を持ちかける。
「実は僕も木乃伊の国では売れっ子R&Bシンガーなんですよ」
嘘だ。売れっ子R&Bシンガーが何故にこんな場所で朽ちているのか。嘘に決まっている。85%くらいの確率で(残り15%は木乃伊
が作った曲を聴いてみたい好奇心)。

243 名前:1 [] 投稿日:2005/04/04(月) 22:30:16
「よかったら僕とコラボレートしてください。Ken Hirai featuring Mi→Raなんてどうでしょう」
いきなりを楽曲提供を申し出る木乃伊。何でもfeaturingを付ければいいと思っていやがる。大体Mi→Raの→は何なんだ。→は。
「僕は今、歌を歌うわけにはいかないんです」
戸惑う平井。木乃伊は全てお見通しとばかりに鼻で笑って、首を左右に振った。そして左足でリズムを取ると、
「♪仕事に負けた 夢に負けた 生きることに負けた 俺は人生の敗残者」
唐突に歌い始めた。歌詞は極めてネガティブだが、木乃伊の声はパワーのある痩身からは想像がつかない重低音ボイスだ。ヴィヴラー
トもしっかりしている。
「♪朝起きるたびに 俺は生まれてきたことを恨み 涙する(ハモリ)」
うわぁ…平井が誘われるように、合わせて高音部を歌い出した。ついつい聞き惚れてしまうようなナイスハーモニー。
「♪ああ あの頃は良かった あの頃に戻りたい あの頃に戻りたい Forever young Sha lala...(フェードアウト)」
どこまでも後ろ向きな曲を2人は歌いきった。
「…初期ミニアルバムの中で一番のフェイバリットナンバーをよく知ってましたね」
と平井。
「ファンであり、同じアーティストですから」
と木乃伊。
音楽を通して2人が解りあった瞬間。俺はというと見事に孤立。彼らに嫉妬の念を抱かずにはいられない。音痴なのでなおさらのこと。
「お前らなぁ、いい加減に…」
「何?その眼。あ、わかった!てめぇ、僕らがユニット組むの妬いてんだろ?このオンチが。おっし、わかった。それじゃあこうし
よう。甜歌タソとの結婚を賭けて僕と決闘しよう」
木乃伊はどこから取り出したのか、巨大な戦斧をぶら下げた。
「な!?」

244 名前:1 [] 投稿日:2005/04/04(月) 22:30:36
俺と木乃伊の決闘開始。急展開にも程がある。そんなこんなで、こっちの都合など一切お構い無しで繰り出された木乃伊の初撃。
「重っ!?」
重い。吉本のオーディションを受けたくなるくらい重い。ていうか痛い。手がビリビリする。か細い手足から繰り出される戦斧の
一撃は紛うことなく重量級と言っていい。
「おらおら、どうしたよ?」
容赦なく斧を振り回す木乃伊。お前必死過ぎ。故に俺も超必死で防がざるを得ないわけだが。
「く…!」
防ぎそこなった斧の刃が俺の左腕をかすった。かすっただけだが、肉がえぐれて血が飛び散る。
「平井さん、待っててくれ!今すぐこいつを葬り去って………ひぎぃ!?」
不意に萌えな悲鳴を上げて、木乃伊が苦悶の表情を浮かべた。俺と木乃伊の間には、いつの間にか刀を持った平井が入り込んでいる。
平井が鞘に刀を収めると同時に、木乃伊の上半身と下半身が真っ二つに分離した。
「やはり僕はまだ歌を歌うわけにはいきません。エナリを倒すまでは」
「平井…」
とにもかくにも聖剣ゲット。岩から引き抜き、早速素振りをしてみると、重すぎず軽すぎず、長すぎず短すぎず。参ったかクソッタレ
と言わんばかりに手に馴染む。まるで自分の身体の一部になったようだ。俺が剣を愛でていると、平井はいつになく晴れた顔で俺に言った。
「見つかりました。エナリを倒した後にやりたいことが」
「そうか。よかったな!」
俺は、彼が何をやりたいのか、訊かないでおいた。それが何なのか、痛いほどにわかったから。
                                                                 続く

246 名前:1 [] 投稿日:2005/04/04(月) 22:52:30
>>245
スマトン。
甜歌の分を消し忘れていた。
×「何?その眼。あ、わかった!てめぇ、僕らがユニット組むの妬いてんだろ?このオンチが。おっし、わかった。それじゃあこうし
よう。僕と決闘しよう」
○「何?その眼。あ、わかった!てめぇ、僕らがユニット組むの妬いてんだろ?このオンチが。おっし、わかった。それじゃあこうし
よう。コラボレート権を賭けて僕と決闘しよう」
いや、俺はコラボレートなんて望んでいないのだが。

深田ルート

甜歌ルート

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