異世界ファンタジー編 第18話

 

253 名前:1 [] 投稿日:2005/04/06(水) 01:33:57
第18話(前半)
俺は俺専用異世界人専用聖剣を下ろして、リザードマンの死骸に眼をやった。
「ふぅ、これで全部だな」
「ご苦労様です」
深田が額の汗をぬぐう。甜歌と平井もほっと一息ついた。俺達4人の周囲には、倒した30体近い魔物の屍が散乱
している。
キタミの街を後にした俺達は、一路南東のガシヒロに向かっている。魔族軍が発生していると思われる場所だ。深
田がシ・フィーロの諜報係から得た情報によると、通常棲息していない先程のリザードマンのような魔物が出現し
始めているこの一帯が臭い。そして、都市ガシヒロを中心にして、円を描いて新しい魔物の出現地域が広がってい
る。まだ目立った動きは無いものの、ガシヒロの都市内部に魔族が巣食っている可能性は高い。
まるで解説でもするように、俺が頭を整理していると、石造りの壁が目に飛び込んできた。幅は街一つをそっくり
囲うほどの長さで、壁越しに尖塔の頭が何本か姿を見せている。
「あれが学園都市ガシヒロみたいですね」
平井はかなりの高さがある外壁を、物珍しそうに眺めている。
「平井はこの街は初めてなのか?」
「ええ、僕は魔術や学校には縁がなかったですから」
「学校?」
聞き返す俺に、平井に代わって深田が答える。
「はい。ガシヒロは学園都市なんですよ。東西3Kmの領内には、この大陸最大規模の魔術学園を擁しています」
「魔術学園……」
近づくに連れて外壁はその迫力を増し、訪れるものを圧迫する。まるでその中にあるものを隠しているかのようだ。
ゲートで簡単な入都審査を受けた後、俺達はガシヒロの都に入った。外観とは打って変わって、壁内は活気と喧騒
に満ちている。俺達はまず往来を歩いてみることにした。魔族に関する情報を得られるかもしれない。
しばらくして俺は奇妙なことに気付いた。あちこちに肖像画が描かれたポスターが貼られている。その中に、でか
でかと書いてある文字を解読すべく試みてみる。
「学園長…せ、せん…せんきょ……?」
学生時代、英語の成績はてんで駄目だった俺だが、今ではこの世界の言語に関しては大分判読できるようになって
きた。
「よくできましたぁ!」

254 名前:1 [] 投稿日:2005/04/06(水) 01:34:52
甜歌が誉めれくれた。大人気ないようだが、ちょっと嬉しい。
「近々魔術学園の学長選挙が開かれるようですね」
と平井。なるほど。学園都市だけに、学園長を決定するにも街を上げての選挙になるわけだ。
俺達は情報収集の為に酒場に立ち寄ちることにした。まだ昼間ということで、ほとんどが昼食を取りに来ている客
のようだ。飲んだくれて眠っている男が一人いるだけいる。とりあえず適当な席を見つけ、昼食を取ることにした。
「で、どうやって情報を?」
やたらと固い肉をナイフで苦心して切りながら、俺は深田と平井に問うた。
「どこの酒場にも情報屋は受注しているはずです」
深田は辺りを見回す。そして泥酔している男に目を留めると、やおら席を立ち彼の側に近づいていった。そして、
「情報屋さんですか?」
いつもながら彼女の怖いもの知らずには驚かされる。そんなに都合よく……
「はい、そうですが、何か?」
…いっちゃったよ。男は顔を上げて、酔っている割には明瞭な返答をした。俺達3人も急いで2人の元に駆けつける。
「魔族?さぁなぁ。確かにここいらに潜伏して軍の準備をしているってのは聞いてるが、それ以上はなぁ」
情報屋は意味ありげな笑みを浮かべた。深田は懐から巾着袋を取り出して、情報屋の前に差し出した。
「学園内部に不穏な動きがあるって噂だ」
再び情報屋は黙りこんでニヤニヤと笑う。更に情報料を要求しているのは目に見えて明らかだ。
「ちょっと財布を見せてもらえますか?」
深田は俺の方を向いて、ニコッと微笑んだ。嫌な予感を感じて、というか覚悟を決めて、俺は財布を彼女に渡した。
「ありがとうございます」
ああ、やっぱりort。俺のなけなしの全財産は情報屋の手に抱かれた。
「具体的には?」
「学園内で最高の地位に立てば、かなりの数の魔術士を掌握できる。つまり今回の学園長選挙に魔族が絡んでいるっ
て話だ。俺が持っている情報はここまでだ。学園内は教師と学生、用務員などの関係者を除いて、一切立ち入り禁止
になっているからな。じゃあなノシ」

255 名前:1 [] 投稿日:2005/04/06(水) 01:35:18
彼は再びカウンターにうつ伏せになり、すぐさま寝息を立て始めた。のび犬並に器用な男だ。
俺達は元の席に戻る。平井が思案顔で口を開いた。
「まさか選挙への魔族の介入を調査させて下さいとも言えませんし、どうやら学園に潜入するしかないようですね」
「でも一般人は入れないんだろ?」
先程の情報屋の言葉を思い出す俺。
「それなら学生として入学すればいいじゃないですか」
深田はいとも簡単そうに提案した。
「え?」
「入学試験を受けるんですよ。週一で募集かけてるはずですから」
「マジで言ってるのか!?」
「やったー!学校だー!!」
入学試験という言葉に慄く俺。それとは対照的に甜歌は危機感ゼロではしゃぐ。こうして俺達は急遽入学試験を受け
ることになった。
                                                                 続く

267 名前:1 [] 投稿日:2005/04/06(水) 23:01:00
第18話(後半)
一週間が経った。朝の冷たい空気が身も心も引き締めてくれる中、俺達は受験会場である魔術学園の大講堂に向かっ
ている。
魔術学園の入学試験は年齢制限が無く、誰でも受けることができる。試験は大まかに筆記と実技で構成されている。
筆記は全1,000nからなる魔術概論に沿って出題、実技は受験者が最も得意とする魔術を披露して、双方の合計点で
合否が判定される。今回受験するのは定員10名に対して70名弱。魔術の心得がある甜歌や深田はともかく、俺
はこれまで魔術などとは全く縁がなかった。この6日間で、実技面では風系魔術のごくごく初歩的な術を使えるよ
うになっただけ。筆記はもっと厳しい。元々この世界の言語をほとんど読み書きできない俺が、1,000nの参考書に
どう太刀打ちしろというのか。
最初はまだ平井がいるので安心していたのだが、実は彼は試験を受けることができないことが発覚した。というのも、
願書を提出する際に純戦士という理由で、適性検査に落ちてしまったのである。この世界には、先天的に魔力を体内
に蓄積させることができない人間がおり、彼はそれに当たるのだそうだ。俺は幸か不幸か中途半端な量の魔力を蓄え
られるらしい。
そんな状況での受験であるから、俺はいよいよもって緊張の色を隠せないわけで。
「緊張するなぁ。大学入試を思い出すよ」
「おにいちゃん、頑張って!」
甜歌は自分も受験することなど忘れたかのように俺を励ました。彼女は南の老魔術士の後継者であるから、実技オン
リー筆記0点でも合格できてしまうだろう。
「大丈夫ですよ。落ち着いて本来の力を出し切れば」
深田も俺を勇気付けてくれた。
「できるだけやってみるよ」
俺は覚悟を決めて、両頬を手の平で打った。試験会場に入ると、既にほとんどの受験生が席について、皆一様に参考書
に目を落としている。

268 名前:1 [] 投稿日:2005/04/06(水) 23:01:26
「受験番号69、69…69したくない、っと……お、ここか」
69というステッカーが貼ってある席に座る。ふと横を見ると、どこかで見たことがある青年(ニート 24歳)が座って
いる。ライバルではあるものの、隣に座ったのも何かの縁、俺は声をかけてみる。
「お互いに頑張りましょう」
すると彼はそのイガグリ頭をこちらに向けて、こうのたまった。
「いや、俺は別に受かろうなんて思ってないから。親が魔術学園出れば職があるってうるさくすすめるんで、仕方なく
受験してるんだ。そもそも働いたら負けかなと思ってる」
こいつにだけは負けたくないと思った。
俺が密かに闘争心に火を付けていると、試験官が試験の流れを説明し始めた。午前中は筆記試験。基礎魔術、発展魔術、
選択魔術(攻撃魔術、治癒魔術)、特殊魔術の4科目を順番に受けていく。問題用紙と答案用紙が配られて、緊迫した
空気の中でその時を待つ。
「はじめ!」
講堂内に試験管の低い声が響いた。
(えーい、ままよ!!)
俺は鉛筆を高く掲げ、鬼気迫る勢いで答案用紙を埋め始めた…
−−−−−−−−−−−−−−−−3時間後−−−−−−−−−−−−−−−−
見事玉砕した俺は、真っ白に燃え尽きて肩を落とした。大体この世界に来て一ヶ月と経っていないのに、専門用語満載の
テストを受けるという暴挙に出たのが無謀過ぎだったのだ。
しかし、終わった以上、思い悩んでも仕方がない。実技で挽回すれば良い。今から1時間ばかり休憩時間を挟み、午後の
実技試験に賭けるしかあるまい。解答用紙が回収されるのを待ち、俺が立ち上がろうとすると試験官が声を張り上げた。
「受験番号4、12、34、69番を除いて退室するように」
俺は腰を上げたまま固まった。周囲の学生が次々と退室していく。甜歌と深田がのん気に手を振っている。事態が把握で
きないでいる俺の前に、試験官が問題用紙と解答用紙を置いた。
「早く席につきなさい」
「は、はい!」

269 名前:1 [] 投稿日:2005/04/06(水) 23:01:59
言われるがままに再度席につく俺。問題用紙に目を通すと、簡単な一般常識の問題のようだ。とりあえず問題を解くしか
あるまい。平生、深田や平井からこの世界の情勢については色々教えてもらっていたから魔術の問題よりは大分楽だ。30
分もすると俺は筆記用具を置いた。釈然としない俺を他所に、試験官が答案を回収していった。
ほとんど休憩時間を取る間もなく、2時間目の実技試験に突入。受験者は順番に教壇の前に呼ばれて、得意の魔術を採点
される。深田達は苦労なく術を成功させて、試験官達を唸らせた。段々と自分の番が近づいてくる。
「ニート・ローエンシュタット」
俺より先にイガグリ男が名を呼ばれた。ニートという名前らしい。それにしてもローエンシュタットとはまた厳かな苗字
だ。ああ見えて良家の出なのだろうか。彼は可もなく不可もなく実技をこなした。そして、ついに俺の名が呼ばれる。俺
は講堂内の脇の緩やかな階段を下りて行く。ニートがすれ違いざまに、俺の耳に囁いた。
「今の自分は勝っていると思う、少なくともお前には」
「何!?」
どこまでも嫌味な奴だ。
壇上に仁王立ちした俺は、彼奴にだけは負けてなるものかと杖を胸の前に突き出し、あらん限りの魔力を集める。するとど
うだろう。昨日までは直径1mほどだった真空の刃が、今日は2mもの大きさの刃を発生させることに成功したではないか。
「やった!」
と、油断した瞬間、刃がコントロール不能に陥り、勝手に飛び出した。真空の刃は真向かいに座っている試験官のコメカミ
を掠めて窓にはめてあるステンドグラスを粉砕した。
水を打ったように静まり返る試験会場。
(やっちゃったよ……)
顔面蒼白の俺に、試験官は無言でハンカチを取り出し、血を拭いて一言。
「殺すよ?」
「すみません…」
俺はおずおずと退散した。落胆のあまり、隣でニートがニヤリと笑ったのも、もう気にはならなかった。これで合格の可能
性は限りなく低くなった。

270 名前:1 [] 投稿日:2005/04/06(水) 23:02:22
講堂から出た俺は、深田達と一緒に合格発表を待つ。ガシヒロ魔術学園の合否発表は運転免許試験並に早い。1時間ほどで
敷地内の掲示板に結果が張り出された。
…67、68、70…
案の定、俺の番号69は記されていない。深田と甜歌達は当然のことながら、腹立たしいことに、受かる気がないニートま
でが合格しているというのに。
「おにいちゃん。元気出して」
「……」
甜歌の慰めも効をなさないほど、すっかりしめやかモードの俺。そこに深田が口を挟んだ。
「あの〜、もっとよく見てください」
「…?」
深田が指差す方向を見ると4という番号に続いて………69!!??掲示板の隅のほうに、まるで俺自身の存在意義を表現す
るかのように、ひっそりと自分の受験番号があるではないか。それにしても何故こんな外れにポツンと。よく見ると番号の
上に小さく文字が書いてある。
「よ、ようむ…用務員……試験…?」
何かの見間違いだろうか。俺は読み書きの師である甜歌に確認を求めた。
「うん、そうだよ。用務員って書いてあるね」
「つまり、俺は用務員の試験に合格したってことなのか?」
「はい。早い話が住み込み雑用係としての採用ですね」
深田は何もかも知っていると言う風。
「深田さん、何か仕組んだろ?」
「仕組んだなんて。こんなこともあろうかと思って、あなたの名前で用務員試験も同時に申し込んでおいたんです、ハイ!」
ハイ!ってあんた……やられた。そういうことか。俺が筆記試験の最後に受けた一般常識試験は、用務員試験の追加科目だっ
たというわけか。
「先に言っておいてくれればよかったのに」
「すみません。傷つけちゃ悪いと思ったんです。まるで受かるとは思ってないみたいだし」
いや、十分に傷ついています。まぁ、実際問題として深田の予想は的中したのだが。
とにもかくにも、そんなこんなで俺達の学園生活が幕を開けるのであった。
                                                                 続く

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