異世界ファンタジー編 第20話
- 309 名前:1
[] 投稿日:2005/04/10(日) 00:15:31
- 第20話(前半)
「それにしても、どこまで続いているんでしょうねぇ」
深田が緊張感を微塵も感じさせない、お馴染みのもっさりとした口調で呟いた。
図書館の隠し扉をくぐり長い階段を下りた俺達は、地下通路を歩いている。通路は人一人が通れるくらいの幅なので、俺が先に歩き、
深田がその後ろにつく形になっている。
先に白状しておくと、実は俺達は既に生瀬を見失っている。と言うのも、勇んで扉をくぐった俺は、浅薄にもその先が段差などとは想
定しておらず、勢い余って階段から落下してしまったのだ。しかし、全く当てもなくあるいているわけでもない。通路の床は土砂が堆
積していて、そこに生瀬の靴跡がしっかりと残っている。それを深田が照明魔術で照らしながら、トボトボと追跡しているのである。
「生瀬は一体ここで何をしているのかな」
「さぁ、こっそりリアルドールでもコレクションしてるんですかね」
「リアルドール…」
俺は生瀬がリアルドールを愛でている姿を想像した……意外とあり得る。いやバッチリ所持していそうだ。深田が何故リアルドールな
んてて語句を知っているのかは、この際追求すまい。
気を取り直して尾行続行。しばらく暗い通路を進んでいくと、狭い路が途切れ開けた場所に出た。
「広っ!」
俺は立ち止まって前方を見回した。眼前に広がっているのは、ちょっとしたドーム球場くらいはある広大な空間だ。空間には結構な数
の石室が点在している。俺はその内の一つに近付き、ぐるりと周囲を歩いてみた。約3m四方の石室は扉を一つ備えており、ビッシリ
と文様や文字が刻まれている。
「これは…」
「玄室みたいですね。わたしの推測ですが、どうやらこの広大な空間はカタコンベに思えます」
「オノマトペ?」
いや、全然違うし>>俺。
「カタコンベです。一文字として一致していませんが」
そら指摘された。
「スマソ」
詫びながら、俺は期待通りのレスに快感を覚えた。
- 310 名前:1
[] 投稿日:2005/04/10(日) 00:15:53
- カタコンベとは地下墳墓のこと。文様には眠る人や降臨する天使が描かれていることから、あながち外れでもないらしい。すると、この
石室の向こう側には遺体が安置されているのだろうか。
「でも、何でこんな場所に?」
俺は首を捻った。しかしその答えは深田の口からではなく、
「ここはかつてのこの地域の王族が葬られている墓地」
不意に響いた声によってもたらされた。
「誰だ!?」
声がした方向に目をやる。暗がりから人影が徐々に浮かび、昼間出会った上原が姿を現した。
「上原…さん?」
「また会いましたね」
彼女は小さく笑った。俺はつい口元が緩んでしまう。
「奇遇だなぁ。でも、どうして上原さんがここに?」
「図書館で本を探していると、あなたの姿が見えて、つい追いかけてしまったの」
「あの、どちら様ですか?」
深田が俺に問う。ほんの一瞬だが、眉をひそめた気がした。
「上原さんって言って、治癒魔術を専攻している学生さんだよ」
「へぇ、とても仲がよろしそうですねぇ」
深田は微笑をたたえている。
「え、そうかな。今日会ったばかりなんだけど、そう見えるかな」
「そう見えます」
深田は依然として微笑をたたえている。
「参ったなぁ」
「何を参っているんですか……不ュ…ィです」
深田はまるで石膏で固めたように同じ微笑をたたえている。二言目が小さくて、よく聞き取れなかった。
「ふゅ……何?」
「何でもありません。そんなことより生瀬さんを追いましょう」
深田は微笑をたたえている……はずだ。”はずだ”という表現を使ったのは、言い捨てるや、彼女はさっさと俺の前に出て歩き出してしまっ
たからだ。ヤバイ。乏しい女性経験で培われた俺の第六感が警告した。さっきの微笑はいつもと違う。こんな深田を見るのは初めてだ。これ
以上彼女に話しかけるのは危険だ。
「生瀬さんって、副学園長のこと?」
上原が俺に問いかけた。
- 311 名前:1
[] 投稿日:2005/04/10(日) 00:16:22
- 「うん。話せば長くなるんだけど…」
「口軽過ぎですから」
迂闊に事情を説明しようとした俺を、深田が遮った。こちらを振り返ることなく。
「あの、私帰った方が…いいのかな」
上原が困ったように見つめる。
「そうだな。いや、別に上原さんを嫌ってるとかそんなことはないんだよ。でも、この先は危険そうだし…」
俺は言葉を選びながら上原を帰そうとする。魔族と遭遇する危険がある以上、少なくとも彼女はここにいないほうがいい。
その時、背後でゴリゴリと石が擦れる音がした。後ろを振り返った俺は言葉を無くした。玄室の扉が少しずつ開いていく。
続く
- 320 名前:1
[] 投稿日:2005/04/10(日) 23:45:21
- 20話(後半)
玄室から現れたのは一体の木乃伊だ(キャラ設定は前に出た奴の色違い。今度は緑色。別にハムナプトラ見ているからでは
ない)。どこか日本の戦国時代を彷彿とさせる甲冑に身を包んでいる。木乃伊は目深にかぶった兜から漆黒に塗りつぶされ
た眼をのぞかせた。痩せ細った身体に反して、身がすくむほどの威圧感を感じずにはいられない。
「我が主の安眠を妨げる者に……」
君主を守るべく共に埋葬された兵なのだろうか。ゆっくりとした動作で鞘から刀を引き抜いていく。
「ひょっとするとかなりまずい展開なんじゃないか?」
急な追跡劇だった為、俺は俺専用異世界人専用聖剣を持ってきていない。深田も同じだ。
「ですね。生前は王の近衛兵だったでしょうから、相当な実力の持ち主だと思います」
深田が冷静に分析した。俺達は顔を見合わせて、再び木乃伊に目を移した。鞘から現れた刀は錆一つ無く、とても長い年月
を経ているとは思えない。
木乃伊剣士が口を大きく開いた。
「…死を与えん!!!」
怒号一声、猛ダッシュで俺達に突進してくる。かなりの勢いで。
「キターーーーーーーーー!!」
「逃げましょう!」
俺達2人は回れ右すると、脱兎の如く逃げ出した。敵は鎧で重武装しているので、何とか逃げ切れるだろう。このまま出口へ
まっしぐら。と思いきや妙な違和感……さっき確か”俺達2人”と書いたな。………あ。上原!俺達、上原のことをすっかり
さっぱり忘れてる!!
「くそ!」
急停止して振り返ると、案の定逃げ遅れた上原の前に木乃伊剣士が立ちはだかっている。俺は彼女を守ろうと駆け出す。
「間に合いません、どいてください!!」
駆け出した俺の背後から深田が叫んだ。振り返るより先に、魔力の集中を感じた俺は身を翻す。それを確認した深田が、木乃伊
に向けて爆炎魔術を放つ。こちらに大して無防備だった木乃伊は頭部に直撃を喰らった。
「上原さん!」
しかし、木乃伊は一度は身をのけぞらせたものの、すぐに体勢を立て直した。全く効いていないようだ。刀の切っ先が上原の胸
につきつけられる。
- 321 名前:1
[] 投稿日:2005/04/10(日) 23:45:53
- 「我が王とその領土を脅かすイキョウの者よ……貴様の侵略を許すわけにはいかぬ」
イキョウとはどういう意味だろうか。と、考えている間に木乃伊の刀は上原の胸に徐々に刺さっていく。俺は無意識の内に目を
覆った。そして、次に目を開けた時に飛び込んできた光景は、驚くべきものだった。
「く…さすがはマ…ゾ…」
胸を刺し貫かれながら、上原が木乃伊の顔面を鷲づかみにしている(アイアンクロー状態)。
「私Mっ気なんかないわよ」
上原は冗談のように言うと、まるで土くれでも握りつぶすように木乃伊の顔面を粉砕した。途端に木乃伊の身体は塵と化して散
った。上原は恍惚とした表情を浮かべている。唖然として彼女に見入る俺と深田。我に返た上原は、こちらを見て笑う。
「まぐれまぐれ♪」
「まぐれって…」
と、今度は他の玄室の扉が次々と開き、先ほどと同タイプの木乃伊戦士が十数体飛び出してきた。それらが同胞の弔いとばかりに、
一気に上原に襲い掛かった。あっという間に屍の群れに覆い隠される上原。しかし、一瞬閃光が走ったと思ったら、木乃伊達は木
っ端微塵に弾け飛んだ。またもや上原はこちらを見て笑う。
「まぐれまぐれ♪」
「いや、まぐれじゃないから。絶対ありえないから」
そう易々と騙されてたまるものか。
「やっぱり駄目か…」
上原は、主を無くしてまだ動いている木乃伊の腕を踏み潰すと、苦々しく吐き捨てた。
「余計な邪魔を。せっかく学園を舞台に謀略にはまる勇者様一行って設定まで作ったのに」
話が全く見えてこない。
「設定…どいうことだ?」
「鈍いわねぇ。私は魔族なの。魔族。わかる?マ・ゾ・ク」
上原が指を鳴らした。するといつの間にか俺達を取り囲んでいたガーゴイルが輪を狭めてくる。そのまま扉の開いた玄室に追い詰
められてしまった。
「経緯を説明している暇はないから、とりあえずコトが終わるまでそこに入っていてちょうだい」
決して話を膨らませようとして面倒になって急遽変更したわけではない急展開に戸惑いながら、俺と深田は光のない石室に閉じ込
められた。
続く
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