異世界ファンタジー編 第21話

 

331 名前:1 [] 投稿日:2005/04/12(火) 01:14:34
第21話(前半)
玄室の中の空気は冷たい。深田が照明魔術で辺りを照らしてくれているので、室内はほのかに明るい。正方形をした空間の中央に王の石棺が
安置されており、その周りには様々な装飾品や古い貨幣などが備えられている。
一体どれくらいの時が経っただろうか。俺と深田は、ここに閉じ込められた当初は脱出の方法を探ってみたが、扉はまるで溶接でもされたか
のように密閉されていて、壁も頑丈で崩しようがない。完全に閉じ込められたと気付いた今となっては、脱出方法を考え付くまでは、無駄な
体力と魔力を使わないようにと、壁によりかかって地面に座っている。
「そろそろ明かりがきれそうです」
深田が申し訳なさそうに呟いた。照明魔術を、さきほど唱えたのを最後に一時控えることで、彼女の魔力を節約することにしたのだ。
「うん。ありがとう」
俺は不安を押し殺して笑みを浮かべた。
ここに閉じ込められてから、俺達は今分かっていることについて整理してみた。上原は魔族で、俺達が学園内に侵入したことを察知していた。
そして俺に近付き取り入ることで、俺達を抹殺しようとした。しかし、このカタコンベのガーディアンである木乃伊は彼女を魔族だと見破り排
除しようとした。木乃伊が上原をイキョウの者と呼んだは、恐らく異境よりも異教という意味合いだろう。そして、彼らを一網打尽にしたこと
で馬脚を現したというわけだ。実力から見て、彼女がこの地域に棲息する魔族の長と見ていいだろう。
だが、まだ解らない事も多い。上原がこの学園に潜んだ真意は何なのか。俺達が街の情報屋の情報から推測していたのは、学園長選挙で立候補
者と結託することで、この大陸の魔術士を掌握するというものだった。仮にそうだとすれば、上原は岸部、生瀬、そして陣内の誰かと契約を結
んでいるのだろうか。最も怪しいのは俺達がここに来る発端になった生瀬であるが、確証はない。それに、上原は去り際に”コトが終わるまで”
と言っていた。コトとは一体何を指しているのか。俺達を敢えて殺さずに閉じ込めた理由も気になる。幾ら急いでいたとはいえ、丸腰の人間を
葬ることなど容易なはず。

332 名前:1 [] 投稿日:2005/04/12(火) 01:15:15
「頭が痛くなってきたよ。伏線も無く、飛び飛びに事実だけが提示されていく。こんな滅茶苦茶で強引なストーリー書いてる奴がいたら、謝罪
と賠償を請求してやりたいニダ」
「同感ニダ」
深田が俺の真似をしてふざけた。こんな状況なのに思わず笑い出してしまう俺達。こんなに笑ったのは久しぶりだ。2人して大笑いしていると、
明かりが徐々に弱くなり、ついには完全に絶えて暗闇が訪れた。俺たちの笑みも消え、沈黙が玄室を満たす。
「…寝ますか」
「…そうしようか」
地面に横になって、目をつぶる。深田がすぐ側にいるとは言っても、墓の中で死者を横にして眠るだなんて、あまりいい気持ちがするものでは
ない。俺はうまく寝付けず、できるだけ楽しい妄想をしてイメージランドに入ろうと試みていた。
すると、
「日本ではどんな生活をしていたんですか?」
深田が質問をぶつけてきた。
「ん…そうだな。普通に朝起きて会社行って帰って飯食って寝て、でまた朝起きて会社行って…この繰り返しだったよ」
「楽しかったですか?」
「それなりに楽しかった…」
一度は適当に答えてみた。が、しかし、
「…ゴメン、ウソ。決して楽しいものじゃない。何となく就職して何となく仕事をして、何となく歳を取ってる感じ」
何故か本音を吐いてしまう俺。彼女の平常とは違うトーンの声を聞いていると、ごまかしてはいけない気がした。
「今は楽しいですか?」
つっこんでくるなぁ。
「うん。おかしな話だけど今は楽しい。勿論、日本に帰りたいってのが一番の願いだよ。でも、なんていうか、その過程としての今がとてもかけ
がえのない時間に思える」
まるでゲームか妄想の産物にも見える世界に入り込み、深田や甜歌、平井と一緒に旅をしている。この異常な現状が、至上の幸いに思える自分がいる。
深田が口を閉じたので、質問攻めは終わりと判断する俺。

333 名前:1 [] 投稿日:2005/04/12(火) 01:15:59
ところが、
「あっちの世界に付き合っている人はいるんですか?」
油断していた所に、いきなり強烈な右ストレートを喰らった。
「え!!……い、いないけど…」
「そうですか」
再び静けさが戻った。胸を手の平で押さえると、鼓動はドクドクと鐘を打っている。
そこに深田が一言。
「くっついて寝ませんか?」
俺は止めの一撃を喰らった気分。
「あ…お…」
言葉が出てこない。胸が心臓マッサージでもされたように圧迫され、身体が凍りつき、続いて自分でも驚くほどに、大量の汗が噴き出してきた。
「別々に寝てたら寒さで体力を奪われてしまいます。温め合えば少しでも違うはず。まぁ、お互いに肉布団になるって要領ですね」
「温め合う…肉布団…」
俺は暗闇をいいことに、手で股間を確認した。果たしてシメジ(1パック168円)が松茸(一本5千円)にクラスチェンジを遂げている。
そうしている間にも、深田がこちらに身体を寄せてくる。微かな吐息が首筋にかかり、衣服越しではあるものの確かに彼女の体温が伝わってくる。
「別にやましいことを考えているわけじゃないですから、安心してください」
深田は眠そうな声で呟いた。いや、そちらにその気なくても、こちらとしてはやましい行為に走らないでいられるかどうか。っていうか、誘ってい
るようにしか見えないんですけど。
(やばい…理性が……)
すぐ側で仏さんが見ていようといまいと、髭の中年配管工が主人公のゲームで4−2からいきなり8−1にワープするくらい間の行程を飛ばした
行為であろうと、そんなことはこの際スルーの方向で。俺は努めて自然な動作で、深田の肩に手をやった。彼女もそれを拒もうとしない。
(いざ出陣!!!)
俺が息を大きく吸い込んだ、まさにその時、今は懐かしスタードッキリ丸秘報告のタイミングで扉が爆破された(多分5回くらい角度を変えてリプレイ
されてスタジオで大爆笑が巻き起こってる)。
「おにいちゃん、恭子おねえちゃん、助けに来たよーーーー!!」
慌てて身体を離した俺達の前に、甜歌が飛び込んできた。
                                                                 続く

342 名前:1 [] 投稿日:2005/04/13(水) 01:26:16
第21話(後半)
「て、甜歌、俺達がここに閉じ込められてると、よくわかったな」
そう言う俺の眼は、禿しくキョドっている。
「メチャクチャ心配したんだからね!ウチが方々探してたら、稲垣さんが、おにいちゃん達が地下室に入っていくの見たって教えてくれたの」
稲垣に感謝しながら、もうちょっと時間を稼いでくれていればよかったものを、と恨めしく思ったりもする。
「深田さん、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
深田は、先ほどの大胆な行動など、まるで夢の出来事だったとでも言うように、一切そんな素振りを見せない。一体彼女の真意はどうなのだろうか。
ようやく立ち上がった俺達に、甜歌が布に巻かれた棒状のものを差し出す。布を剥いでいると、俺専用異世界人専用聖剣と異世界人専用ロングソードが
姿を現した。
「甜歌…」
「やっぱ2人はこれがなくちゃ決まらないでしょ」
「ありがとう」
俺は礼を言うと、甜歌の手から剣を受け取った。ここしばらく感じていなかった感触。彼女が言うとおり、やはり俺はこいつがないと始まらない。深田
に目をやる。同じく剣を手に取った彼女も同様の気持ちらしい。
剣を鞘に収めると、俺は、深田と甜歌に向き直る。
「上原を止めないと」
「上原って、おにいちゃんを助けてくれた、あの?」
「そうだ。上原がこの学園に異変をを起こそうとしている」
「どういうこと??何が何だかさっぱりわからないよ!」
甜歌は混乱して目を回しそうな勢い。だが、それはこちらも同じ。俺達も状況を完全に把握しているわけではない。ただし、やるべきことは定まっている。
「事情は後で説明するから。今は上原を探すのが先決だ」
「おにいちゃんに任せるよ…」
「よし、行こう!!」
勢いよく玄室から駆け出す俺。
「おうわっ!!」
その途端、何者かと思いきり衝突した。俺は転んで、腰を地面にしたたかに打ちつけた。
343 名前:1 [] 投稿日:2005/04/13(水) 01:28:06
「いてて…こんな場所に一体誰……あああ!!生瀬!?」
「何だね、君は急に飛び出してきて。しかも何で呼び捨てなんや。まぁいい。失敬するよ」
生瀬だ。俺は深田と顔を見合わせた。自分達がこの地下墓地に入る発端となった男が目の前に立っている。っていうか、このまま見逃すわけにはいかない。
「ちょっと待ってください、副学園長。こんな所で何をしていらっしゃるんですか?」
「何って…君らの知ったことじゃない」
「上原と関係あるんじゃないですか?魔族の上原と」
「な、そ、んなことあるかいな!上原って誰やねん。聞いたことも無いわ!」
怪しい。語尾にビックラメーションマークを付けて必死に否定するあたり、実に怪しい。俺が訝しげな表情をしていると、甜歌が、生瀬が来た方向を指差して、
「ひょっとしてこっちに何か隠してあるんじゃない?」
「何もない。断じて何もないよ」
と生瀬。
「え〜、本当にぃい?」
「ないってゆうとんのじゃぁあ、われ糞ガキがぁぁあああ!!」
絶対何か隠している。生瀬の過剰な反応から判断して、何も無い方がおかしい。
「うわ〜ん、このおじちゃん怖いよ〜」
泣きついてきた甜歌の手を取り、生瀬を横にかわすと、俺はその先にあるものを見定めるべく進んでいく。
「ちょっと待てや!!」
ズカズカと歩いていく俺達の背後から、生瀬は攻撃魔術を繰り出そうと魔力を練る。副学園長の地位にあるだけあって、腐っても高位魔術士の肩書きは伊
達でないわけだ。しかし僅かな隙をついて、生瀬の首筋に剣の刃が当てられる。
「案内してもらえますよね♪」
生瀬に剣を突きつけながら、深田がにっこり笑った。
「…わ、わかった。わかったから、はよ剣下ろせ…」
彼は神妙な態度になって、俺達をカタコンベの深部へと導いていく。
344 名前:1 [] 投稿日:2005/04/13(水) 01:28:49
しばらく進んでいくと、整備された通路は終りを告げ、天然の洞窟に変わってきた。曲がりくねった道を抜けた先に明かりが見えてきた。近付いていくと、
そこは10畳ほどで天井が高い空間になってるのが確認できた。空間に入り、数本の燭台の明かりによって浮かび上がる光景を前にして、俺は愕然とした。
濃い紫色をした楕円形の物体が5本、地面から僅かに浮いて存在している。その中でも中央に位置する物体は、ゆうに5mはあろうかという高さだ。深田
と甜歌も俺の側に並んで、揃って物体を見上げる。
「これは…」
俺は後ろに佇む生瀬の顔を見た。しかし、彼はさきほどのもの凄い剣幕とは打って変わって、人形のように無表情。
「異空間転送ゲート」
答えは生瀬の肩越しに響いた。姿を現したのは上原。その両翼を固めるように、岸部と陣内が、生瀬と同じ感情を感じさせない表情で付き従っているでは
ないか。
「あなた達に記念すべき魔族召喚ゲートの開通式を見せてあげるわ」
上原は端正な顔を崩すことなく、冷ややかな笑みを浮かべた。
                                                                 続く

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