異世界ファンタジー編 第22話

 

355 名前:1 [] 投稿日:2005/04/14(木) 02:14:34
第22話(前半)
「そもそも私がこの学園に入り込んだのは、高い魔力を持つ者が一同に会しているから」
上原は、直立不動で立つ岸部達3人を手で示した。
「特に彼らはこの学園の頂点に立つだけあって、体内にかなりの魔力を蓄えている。彼らに取り入るのは簡単だったわ。人間の、特に
男ほど懐柔し易い生き物はないわね」
そう言う彼女の表情は、不気味な色気を含んでおり、俺は戦慄した。ともすれば、自分が彼らと同様に操られる羽目に陥っていたからだ。
「じゃあ、何故私がこの3バカの魔力を必要としたのでしょうか?」
上原は指を鳴らした。それに呼応して、岸部達3人は意思のない人形のごとく、上原の指示に従い中央に設えてあるゲートを取り囲んだ。
そして、一斉に両腕を胸の前に突き出し、魔力をそれに注ぎ始める。
「魔族召喚ゲートを開く為に莫大な魔力が必要だった…」
俺は眉をしかめて、上原の問いに答えた。
「うーん、85点ってところね」
再び上原が指を鳴らす。すると中央を除く4つのゲートが光り、中から4体のレッサーデーモンが現れた。茶褐色の身体に蝙蝠の羽を背
負い、狼を凶悪にしたような顔つきをしている。
俺はうんざしてい、もう一度答える。
「中央の馬鹿でかいゲートだけを開く為に莫大な魔力が必要だった、ってことか」
「正解!」
この街の周辺には、以前から中級程度の魔物が跋扈していたので、小型のゲートは早い内から完成していたのだろう。問題は真ん中に鎮
座ましましている冗談のような大きさをしたゲートだ。学園のトップ3の力を持ってようやくこじ開けられるこの扉。どれほどの魔物を
呼び寄せる能力を持っているのか。想像しただけでオラ何だかワクワクして、いる場合ではない。
「悪いけど、そうはいかない。君を止めてみせる」

356 名前:1 [] 投稿日:2005/04/14(木) 02:14:57
鞘から抜いた俺専用異世界人専用聖剣を構え、俺は上原を見据えた。深田と甜歌も臨戦態勢を取る。
「ダメダメ。あなたとオチビさんの相手をするのは、この子達よ」
レッサーデーモンが2体ずつ、俺と甜歌の前に立ちはだかる。
「甜歌、落ち着いて対処しようぜ」
「おにいちゃんこそ震えてるよ。2匹ずつだし、何とかなるんじゃない?」
甜歌は強いなぁ。全然物怖じしていない。俺は人見知りが激しいので、初見の相手はどうも苦手だ。
肝心の上原はというと、深田に歩み寄っていく。
「最初会った時から、あなたとやってみたかったの」
「わたしと?」
深田は怪訝な顔。
「…少し語弊があるわね。兼ねてから噂で聞いていたあなたとやってみたかった。有田と関係を持ったあなたとね」
深田の動きが止まった。それに反応するかのように、異世界人専用ロングソードの刃色が瞬時に漆黒へと変化した。思い返すとフィカブ
ーと戦った時も剣はこの色だった。剣が備えている属性変化能力により、対魔特攻武器に変貌したと見て間違いあるまい。それにしても
有田とは何者だろうか。
上原は俺がいる方向に視線をやり、微笑を浮かべる。
「あら、ひょっとして彼には知られなくなかったのかしら?」
問い掛けに対する深田の回答は神速の剣撃。一瞬にして間合いを詰めると、上原の胸めがけて剣を振り下ろした。しかし、そこは魔族。
紙一重で身を翻してかわし、深田の腹部に拳打を連続で叩き込む。
「くぅ…」
か細い腕から放たれた打撃は、見た目に反して強烈な威力。大きく吹き飛ばされた深田は、辛うじて踏みとどまった。しかし、ダメージ
は大きく、彼女の口から吐き出された血が床を濡らす。
「図星だったようね」
「深田さん!」
深田に向かって叫ぶ俺。
「よそ見は禁物よ」

357 名前:1 [] 投稿日:2005/04/14(木) 02:15:17
気を取られている俺の鼻の先を、レッサーデーモンの図太い爪がかすめた。2体のレッサーデーモンは素早い動きで俺に続けざまに攻撃
をしかけてくる。先にこちらを片付ければ話にならない。甜歌は2体のデーモンの攻撃を巧みに避けながら、魔術を放つ機会を伺ってい
る。あの歳であれだけ戦い慣れしているのも、どうかと思う。
2体のレッサーデーモンに手一杯の俺をよそに、上原は腹を押さえて肩膝をつく深田を見下ろしている。その顔が俄かに曇り、次いで何
かに気付いた。
「あ…まさかとは思うけど、私、大事な部分を殴っちゃった?」
依然として腹部を庇いながら、深田は鋭い目で上原を睨み付けた。                              
                                                                 続く

365 名前:1 [] 投稿日:2005/04/15(金) 15:12:47
第22話(後半)
「意外とあっけなかったね、おにいちゃん…って、あれ?」
黒焦げになったレッサーデーモン達を前に、甜歌が俺に呼びかける。しかし、こちらはそれどころではなく、かなりの勢いで苦戦モー
ド。幾らレベルアップしたとは言え、相手は悪魔の眷属が2体。下級などと冠しているが、リザードマンやロッティングコープスみた
いなそこらの魔物とは強さの桁が違う。俺はこの世界に来て間もない頃、これらの数段格上のグレーターデーモンを倒すことに成功し
た。しかし、あれはあくまで天文学的確率の上に偶然成り立った奇跡的なクリティカルヒットがあってのこと。いつもいつも、そうう
まく事が運ぶはずがない。
「おにいちゃん、待ってて。今そっちに助けに行くから!」
「おお、甜歌スマソ!」
敵の攻撃を受け流しながら俺が甜歌の方を向いた、まさにその時だ。よそ見しながら振った剣の切っ先が、レッサーデーモンのひどく
繊細で、まるで赤ちゃんのお腹のように脆弱な部分にヒットした。
「あら?」
甲高い悲鳴を一声上げて絶命するレッサーデーモン。
「おにいちゃん、危ない!もう一匹が!」
「マジか!?」
甜歌の警告に仰天して後ろを振り返った俺。その際、逆手に握った剣が、背後から襲い掛かろうとした残りのレッサーデーモンの、これ
またとても敏感で中学生時代の甘酸っぱい思い出に匹敵するほど触れられたくない部分に、突き刺さった。俺はこれはラッキーとばかり
にそのまま切り裂く。結局、甜歌が助けに来るまでに2体とも倒してしまった。ナイス俺。手放しに嬉んでいいのか微妙だが、まぁ、勝
ったもん勝ちということで。そんなことよりも深田が心配だ。
「深田さん、今助太刀に行くぞ!」
助太刀ってw
「わたし一人でやれます」
「何無茶なことを…」
実力差は明らかだというのに。
「やらせてください」

366 名前:1 [] 投稿日:2005/04/15(金) 15:13:08
見かけとは裏腹に、どうしてこう強情なのか。俺と甜歌はやむなく様子を見ることにした。
気力で何とか立ち上がった深田。上原に向けて突進するも、ダメージが大きいのか、最初見せた勢いはない。上原は全ての攻撃を軽くい
なし、隙をついて容赦なく連続攻撃を叩き込む。
「有田が惚れた女だからどんなものかと思えば、この程度とはね。正直失望したわ」
苛立たしげに吐き捨てる上原。またもや腹部に蹴りをまともに喰らった深田は、身体を海老のように曲げてもがき苦しむ。上原はわざと
腹を狙っているのだろうか。そういえば、さっき確か”大事な部分”と言っていたが。あれと関係があるのかもしれない。
「あなたの抱いている運命ごと掻き消して上げる。感謝するのね」
上原の左腕に強大な魔力が集積していくのが、はっきりと感じて取れる。
「お別れよ」
勝ち誇った表情で別れを告げる上原。一方の深田はと言うと、この事態だというのに彼女の方を見ておらず、少し様子がおかしい。
「駄目……駄目よ…」
独り言だろうか。自分の腹部に目を落としてブツブツと語りかけている。
「深田さん!しっかりしろ」
「動いてはダメ…」
言葉が途切れた。上原の手の平から禍々しい魔力の衝撃波が放たれた。
「深田さん!」
助けに入ろうとしたが時既に遅し。どす黒い波は地面をえぐりながら、深田を飲み込んだ。が、波が止んだ後には微動だにしていない深
田の姿が。あれだけの衝撃波の直撃を受けたのにどうやら無事のようだ。所々衣服が破れてこそいるが、顔はいつも通りのほほんとした
捉えどころのない笑顔。
「深田さん。大丈…」
一度はほっと胸を撫で下ろした俺だが、すぐに言葉を飲み込んだ。彼女の浮かべている日常的な笑顔。この危機的な状況において表れた
それはあまりにも異常で、そして何より危険なものに映る。それを証明するように、深田の首筋、手首、身体、そして顔、露になってい
る部分の血管がくっきりと浮き上がっていく。
「おねえちゃん、どうしちゃったの?」
「わからない。だが、彼女の体内で何かが起こっている…」
俺と甜歌は、ただただ見守るしかない。
上原は深田の状態を見て、満足したように口元を緩めて言う。
「いい顔になったわ」
深田は剣答える。
「いきます」

367 名前:1 [] 投稿日:2005/04/15(金) 15:14:20
異世界人専用ロングソードの刃が黒く光った。
一撃で決めるつもりだ。戦歴の浅い俺にも分かる。深田の口調は、断じて強がりやハッタリの類ではない、他ならぬ確信から生まれた
ものだ。何故かは解らないが、語調からは確かな根拠が汲み取れる。
俺は息を呑む…………暇も無かった。動きをこの目では捉えることができなかったが、気が付くと深田と上原の立ち位置が入れ替わっ
ている。一瞬の間に起こった出来事を把握できず、俺は思わず甜歌と顔を見合わせる。
「甜歌、見えた?」
「いや、ウチも全然見えなかった…」
既に決着はついている。俺達外野が固唾を飲んで見守る中、先に口を開いたのは上原。
「あなたは自分で、その身体の中の運命と共に歩くことを選んだ。もう引き返せないわよ?」
「…わかっているわ」
苦悶の表情を浮かべながら深田が答えた。浮かんでいた血管がゆっくりと元通りに消えていく。
「そう……有田によろしくね。さようなら」
頸部から鮮血の飛沫を上げて、上原は倒れ伏した。
                                                                 続く

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