異世界ファンタジー編 第23話

 

373 名前:1 [] 投稿日:2005/04/15(金) 23:32:19
第23話(前半)
結局、上原の目的は学園地下に巨大魔族召喚ゲートを作り、学園トップ3の魔力を注いで、それを開通させることだった。その為に、
怪しまれにくい学生として学園内に潜り込み、岸部達に取り入ったというわけだ。誰をも魅了する端正な顔立ちに、俺も危うく騙さ
れるところだった。
上原が死ぬと、岸部、陣内、そして生瀬の催眠は解けた。3人とも衰弱して気を失ってはいたが、命に別状は無かった。あのままゲ
ートに魔力を放出し続けていれば、まず間違いなく3人とも今頃はカラカラの木乃伊だ。カタコンベから帰還後、魔族の存在が明る
みに出て、彼らは揃って選挙への出馬を取り消された。魔術協議会の審問が行われ、魔族に意のままに操られるような人物は、学園
長として不適格と見なされたからだ。改めて候補者を募るらしい。
俺達はというと、戦いの後、警備室に魔族の存在していた事実と岸部らの居所を匿名で書置きして、そのまま学園を去った。魔族を
倒すという目的は果たしたわけだし、ここで目立つと何かと具合が悪いと考えたからだ。
そして今、もう夜も更けようという頃。ようやく平井と合流して、宿屋に併設している酒場で一息ついたところである。
「お疲れ様でした」
経緯を聞き終わった平井が、深々と頭を下げた。
「申し訳ない。留守番させて」
今度は俺が頭を下げた。
「いいえ、仕方ないです。僕には魔術の才がないんですから」
「堅のことだから、ウチらがいない間、どっかでコレでも引っ掛けてたんじゃないの?」
と甜歌。いつの間に、どこでそんな言い回しを覚えてきたのか。魔術学園の寮で悪い友達に影響されたのかもしれない。由々しき事
態である。

374 名前:1 [] 投稿日:2005/04/15(金) 23:32:41
「そ、そそ、そんな滅相もない。あ!そうだ。こっちもすごい情報を仕入れたんですよ!!」
引っ掛けてきたようだ。この焦りっぷりからして、間違いなく女遊びをしている。正直羨ましい。
「次の目的地ラミハで魔族の動きが活発化してきたんです。何でも既に街は占拠されて魔族の手に落ちているようです」
「まじかよ…」
「はい。ラミハの街を拠点にして、奴らは日に日に勢力を拡大しています。それに対して、国軍が大規模な掃討作戦を計画している
らしいです。事態は一刻を争う。早めに、できれば明日にでも出発した方がいいんじゃないでしょうか…深田さんはどう思います?」
一同、深田の方を向く。しかし、彼女は目線こそこちらを向いているが上の空だ。
「深田さん?」
「え……ああ、そうですね」
再度の平井の呼びかけに、心ここにあらずといった風のおぼつかない返事をした。
「(深田さん、どうしたんですか?少し様子がおかしい気がするんですが)」
不思議に思った平井が、俺に耳打ちをする。
「(ああ、色々あってね。)出発は明日の朝でいいと思うよ、うん。今日のところはもう寝ようか」
深田の胸中を察して、俺は早めに切り上げることを提案してみた。
「そうだね。色々なことがあって、何だか眠たくなってきちゃった」
甜歌は大あくびをして立ち上がった、
「了解です。おやすみなさい」
平井も部屋へと戻っていく。彼らの後について、寝室に向かおうとする俺の背後から、
「あの、ちょっといいですか」
と、声がかけられた。
「ん?」
振り返った先にいたのは深田だ。
「少し付き合ってもらえますか?」
ひどく思いつめた表情。
「何に付き合うんだ?」
「一緒に外を散歩してくれるだけでいいんです」
断る理由はない。俺は首を縦に振った。そして彼女と共に宿屋を出た。
                                                                 続く

378 名前:1 [] 投稿日:2005/04/17(日) 01:23:39
第23話(後半)
天頂の月が投げかけるのは、淡くぼやけた光。この時間になると街頭を歩いても、すれ違う人は少ない。
道路脇の街路灯が道を照らす。水銀灯はもちろん電球すら存在しない世界であるから、それではガス灯
なのかと思いきや、実は光源は魔力だったりする。毎夕、街灯魔術士が魔力をこめることで、きっかり
一晩、煌々と輝き続けるのである。魔術万歳。
俺と深田はこれといって会話を交わすでもなく、黙々と夜の街角を散歩している。俺は何を話していい
のかわからず、ただただ彼女の歩幅に合わせるて横を歩くだけ。深田はと言うと、少し肌寒いのか青い
外套に身を包んでおり、顔からはいつのもの柔和な表情は影を潜めている。
この気まずい雰囲気を打破する為には、何か会話を切り出さなければと思いつつ、なかなかタイミング
が計れないでいる。そうしている間にとうとう街の中央に開いている広場に突き当たった。
「少し座りませんか?」
深田がベンチを指差した。俺は頷いて、一緒にベンチに腰を下ろした。空を見上げてると、宝石箱を散
りばめたように星が瞬いている。これだけ多くの星は、去年の春に赤木町の牧場で見て以来、お目にか
かったことがない(商品を渡し間違えて夜10時位に届けに行った)
「星が綺麗だね」
月並みな台詞を言ってみた。
「そうですね」
深田が、久々に笑みを浮かべた。とても小さな笑みではあったけれど、俺は安堵を覚えた。しかし、そ
れも次の深田の言葉で、動揺に変わることになった。
「上原が言っていたこと、覚えてますか?」
「何のことだ?」
唐突な質問に、俺は上原戦の記憶を辿っていく。
「有田のことです」
「有田…」

379 名前:1 [] 投稿日:2005/04/17(日) 01:24:02
有田。そうだ。上原が会話の中で出した名前だ。”関係を持った”とか”惚れた女”だとか言っていた。
「有田はかつてわたしの恋人でした」
「!!」
出た。出ちゃったよorz 一番聞きたくなかった話だ。出来うることなら、耳を塞いでしまいたい。
「彼が魔族と知った時には、既に深い関係にはまり込んだ後でした」
さらに爆弾発言キタ━━━━━━━━ッ!!有田って魔族なのかよ。生粋の毒男にはこの手の色恋話は堪える。
「その後、彼は突然姿を消し、わたしはとり残されました。そして、最近になって原因不明の嘔吐を繰
り返す度、わたしの中で、ある一つの疑惑が次第に膨れ上がってきました」
さらにさらにやばい発言が来そうな悪寒。ああ、鼓膜破っちまいてぇなぁ。
深田は自分の腹に触れた。
「疑惑?」
「はい。でも今日の戦いで、疑惑は確信に変わりました……わたしのお腹には有田との子供がいます」
「!!」
やっぱり…キタ━(;´Д`);´Д`);´Д`);´Д`);´Д`)━!!
しかし、同時に俺は納得がいった。聖剣の洞窟での激しい嘔吐、学園図書館で読んでいた人間と魔族の関
係性を著した本。そして上原戦における彼女の異常な言動も、自身と母親を守る為に胎児が深田を一時的
に魔族化させたのだとすれば、合点がいく。心に引っ掛かっていたわだかまりがとれた。
「ごめんなさい、今まで黙っていて。でも、どうしてもあなたに聞いておいて貰いたかった」
「妊娠してるようには見えないけど…」
何を言っているんだ、俺は。デリカシーの欠片もない発言に、俺は自分の迂闊さを呪った。深田は困っ
たような顔をしたが、答えてくれた。
「ものの本によると、人と魔族の間にできた子供は、通常人間に見られるような妊娠の兆候を見せない
らしいです。お腹は大きくならず、そしていつ生まれてくるのかも分からない。1ヶ月で生まれること
があれば、50年経っても生まれないこともあるそうです」

380 名前:1 [] 投稿日:2005/04/17(日) 01:24:23
「そうか…」
深田に元彼とはいえ魔族の恋人がいたとは。っていうか、それくらい想像つくだろ>>俺。相手が魔族とい
うのは特殊ではあるけれども、深田ほどの女性が色恋と無縁の筈がない。俺ではあるまいし。しかし、そ
れを別にしても子供まで宿しているという事実。俺は愕然として言葉が出ない。モー娘の矢口ではないが、
裏切られたような感覚に陥ってしまう。彼女と付き合っているわけでもないのに。
隣の深田を横目で伺うと、彼女の瞳から水滴が累々と落ちている。
「深田さん…」
名を呼びかけたのとは裏腹に内心は”逃げ出したい”。とにかくこの場から逃げ出したかった。俺は時間が
解決してくれるのを待つかのように、唇を噛み締めるだけ。
「ごめんなさい」
深田は冗談みたいな量の涙を流して、ひたすら泣いた。ここまで感情を露出する彼女を見るのは初めてだ。
俺は彼女の肩を抱こうと右腕を伸ばしたが、いざ触れようという段になって、思いとどまった。その行動が、
自分の本音に正直なものではないと気づいたからだ。そこには、魔族の子を身篭った深田を嫌悪する自分が
いた。同時に、俺はそれよりも更に激しい自己嫌悪を抱いた。
「大丈夫だよ…深田さんは悪くない…」
上辺だけでその場しのぎの慰め。もう今までのようには彼女と向き合えない、そう思った。俺はやはり卑怯
で最低の男だ。
                                                                 続く

第24話へ→

←目次