異世界ファンタジー編 第24話

 

397 名前:1 [] 投稿日:2005/04/18(月) 23:18:34
第24話(前半)                                        
そろそろ日が暮れる。
見上げた空はいわし雲が彼方まで群れをなし、産卵中の鮭の腹のごとく朱に染まっている。視界には、だだ
っ広い草原が広がるのみ。早朝、馬車でガシヒロの街を出発した俺達は、ラミハまでの道のりのようやく4
分の1程度を来た。所々で魔物の襲撃を受けたが、さして強敵ではなく、労を要することも無かった。
俺は、御者を務める平井の横で、ぼんやりと頬杖を突いて景色を眺めている。背中越しに幌の中から、深田
と甜歌が談笑しているのが聞こえる。女というのはつくづく会話が好きな生き物だ。
今朝、俺は深田に会うのが不安でならなかった。昨晩の失態が気にかかっていたからだ。嘘でも彼女の肩を
抱いてやるべきだったのではと。ところがどっこい、当の深田は、昨晩の取り乱しようはどこへやら、ケロ
ッとして挨拶をしてきた。その後の俺に対する態度も、これまでと変わった様子はない。俺はホッとすると
同時に、理解に苦しんだ。幾らポジ属性の彼女とは言え、あれだけの重大な告白をして平気なはずがない。
顔で笑って、心ではまだ泣いているのではないか。しかしながら、彼女はそんな感情はおくびにも出さない
から、こちらとしては尚更下手な勘繰りを繰り広げてしまうわけで。
そんな俺の思惑を乗せて、馬車は走る。
「そろそろ日が暮れますね」
平井が口を開いた。会話を交わしたのは、かれこれ1時間ぶりくらいだろうか。言葉は明瞭としていて、眠
気などこれっぽっちも催していないようだ。懐にブラックブラックガムかミンティアでも忍ばせているのだ
ろうか。

398 名前:1 [] 投稿日:2005/04/18(月) 23:19:00
うん。露営の場所を確保しないとな。にしても、平井は眠くないの?」
「ああ、僕はこれを噛んでますから」
平井は懐から薄っぺらい何かを取り出した。
「ブラックブラック烏賊(こんなの→ ttp://www.siokara.cjb.net/siobin/sio001/src/sa19711.jpg)」
うわ、烏賊かよ。ブラックブラックって付ければ、何でも眠気覚ましとしてまかり通るとでも思っているの
かと。そもそも黒くないし。っていうか、本当に烏賊ですか?それ。
「かなり刺激強くて、一気に目が冴えますよ。足一本分けてあげましょうか?」
平井は”それ”の足を、一本もぎろうとする。
「…ありがとう。でも、いいっす」
とりあえず遠慮しておいた。
それはともかく、元々露営は覚悟していたので、馬車にはある程度の食糧はもちろん、毛布類を積載してい
る。出発前に冒険者の為のレジャー情報誌ジャラソをめくった所、この辺りには宿泊施設はおろか、民家す
ら一軒として存在しないらしいからだ。
「ヤタ!キャンプ、キャンプ♪」
甜歌がはしゃいだ声を上げて、俺と平井の間から顔を突き出した。彼女の、何をするにしても、楽しんで事
に当たれる素質たるや見上げたものだ。
「キャンプもいいですけど、あそこに建物が見えますよ?」
今度は深田がひょっこり顔を出した。確かに目を凝らしてみると、小さな林に守られるように白い建物が見
える。
「行ってみましょう。一晩の宿を貸して貰えるかもしれない」

399 名前:1 [] 投稿日:2005/04/18(月) 23:19:28
平井は速度をやや上げて、謎の建造物目指して馬車を走らせる。甜歌には申し訳ないが、やはりキャンプを
するよりも、しっかりした屋根と壁がある中で寝たい。しかし、目標に近付くにつれ、期待は不安に変わっ
ていく。建物自体は円筒形のレンガ造り、円錐形の尖がり屋根を被っている。だいぶ年季の入った、という
よりも、かなり老朽化が進んだ建物のようだ。平井は建物の前で馬車を停めた。
「誰か住んでいるかもしれません。ノックしてみます」
自身の身長より少し高い扉を、平井はノックした。しかし返事はない。再度、今度は少し力を強くして叩くが、
やはり反応は返ってこない。
「誰も住んでいないのかな…あれ?」
彼が両手でノブを引くと、扉が軋んで開いた。俺達は顔を見合わせた。
「い、いきなり中に入るのは悪いんじゃないか?人が居たりしたらさ。こういう場合、とりあえず家の周りを
回ってみるべきだろう」
俺は冷静に状況を分析した上で提案した。決して臆したわけではない。決して。
手分けして建物の周囲を歩いてみることになり、俺は中庭を調べる為に建物脇の細い道を入って行った。か
つては生活の糧を生み出していたであろう、菜園らしきものが目に飛びこんできた。主を無くして久しいよ
うだ。壁にはめ込まれた窓ガラスも、所々ひび割れ、とても人が住んでいるようには思えない。そうして歩
いている内、俺は庭の隅でまだ新しいジャガイモの皮を発見した。水分を多分に含んでおり、少なくともそ
う時間は経っていなのではないだろうか。俺が疑問に感じていると、深田達が庭に入ってきた。
「どうやら廃寺院のようです。林の中に墓所がありましたから。でも大丈夫。壁が何かをぶつけた跡みたい
に所々崩れ落ちてて、墓所ではあちらこちらに意味不明の穴ぼこが開いてますが、これといって怪しい場所
はないようですね」
純度120%のミステリースポットじゃないか…
「ここに泊めて貰いましょう」
「マジで言ってるのか、深田さん…」
「ヤタ!廃寺院、廃寺院♪」
甜歌。ここ、はしゃぐところじゃないから。断じて。

400 名前:1 [] 投稿日:2005/04/18(月) 23:19:48
俺の第六感が告げるこの建造物の危険性、及びジャガイモの皮の事を深田らに伝えようとした、その時である。
「全員、動くな!」
頭上から怒号が響いた。屋根を見上げると真っ白な僧衣を羽織った女が、こちらを睨んでいる。彼女の手には
朱塗りの長柄武器。先端には斧と槍が合体したような刃が取り付けられている。
「そこから動かないでよ!」
そう言って、屋根に設けられている窓から、中に戻っていった。
「なんだろあれ……尼さん?」
俺は平井の方を見る。
「さぁ…」
3分ほど経っただろうか。勢いよく扉が開いて、先ほどの女が怒涛の勢いで姿を現した。年の頃は20代前
半だろうか。オカッパみたいな髪型が特徴的だ。唖然とする俺達を前に、両膝に手を突いて息を切らしている。
「ハァハァ…ちょっと待って、休憩」
ちょっと待ってみた。
「私はカエラ!墓盗人どもよ、成敗してくれる!」
カエラは、彼女の身長の1.5倍はある槍だか斧だかの切っ先を、俺の鼻っ柱に突き付けた。
                                                                 続く

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