異世界ファンタジー編 第25話
- 417 名前:1
[] 投稿日:2005/04/21(木) 00:37:33
- 第25話(後半)
「ち、ちょっと待った!俺達は墓泥棒なんかじゃないよ!」
思い出した。あれは確か、以前読んだゲームの攻略本に載っていたハルバートという武器だ。
「問答無用!」
カエラは俺に向かって、ハルバートで斬り付けてきたではないか。斧での一撃を、咄嗟に俺専用異世界
人専用聖剣で受け止める俺。彼女の細身からは想像も寄らない男顔負けの馬鹿力だ。俺が力を込めて弾
き返そうとすると、拍子抜けするほど素直に、圧し付ける力が消えた。と思いきや、間髪入れず今度は
槍での刺突が俺の胸部を襲う。俺ピンチ。しかし、あわやという所で深田の剣が槍を止めた。
「わたし達は本当に墓荒しじゃないんです」
「それじゃあ、何故こんな所にいるの?」
カエラと深田の力は拮抗しており、お互いに微動だにしない。
「理由を話すと長くなるので、できれば一度ハルバートを下ろして貰えませんか?」
「とか何とか言っちゃって、放したら反撃してくる算段でしょう」
カエラは至って懐疑的で、一向に力を緩める気配はない。
「そんなにわたし、ずる賢く見えますか?」
「見えるわ!あなたの天然顔の下に秘められた計算高い本性が」
なかなか優れた洞察力だ。深田なら、間違いなく反撃に打って出るだろう。
こうして、互いに引かない力比べに俺達が見入っていると、いつしか林の方から薄緑色をした気体が風
に乗って流れてきた。するとどうしたことか。それを吸い込んだカエラの目が俄かにとろんとしてきた。
「絶対、このお墓から…金品を…掘り出し……zzz」
彼女のハルバートを握る手から力が抜け、地面に大の字に倒れてしまった。側に寄って見ると、どうや
ら眠っているだけのようだ。
「寝ちゃったよ、この人。どうしたんだ…ろ…あれ…何だかウチも眠く……zzz」
- 418 名前:1
[] 投稿日:2005/04/21(木) 00:37:57
- 今度は甜歌が眠りに落ちてしまった。俺はさっぱり事態が掴めず狼狽するばかり。そうしている内に、
深田と平井もその場に倒れた。まさかと思い、俺は林を見据える。すると、林の中から黄緑色の奇妙な
物体が、宙を漂いながら墓に近付いてくるではないか。カンニングのデブくらいの大きさをしたその肉
の塊は、およそ緊張感のない浮き方で、身体中に無数に生えている突起物から、先ほどの黄緑色をした
ガスを噴き出している。恐らくは、あれが催眠効果を持っているのだろう。俺だけあのガスに耐性があ
るのだろうか。
俺は肉塊に斬り掛かろうと、足を踏み出した……が、力が抜けて地面に倒れこんだ。睡魔が俺達の身体
にまとわりついてくる。瞼を開いているのがやっとだ。別に耐性があるわけではなく、単に人より遅れ
て催眠ガスが回ったようだ。昔からクラスで一人だけ遅れて風邪に罹っていた俺だけに。
「くそ…」
その間にも、肉塊は2本の触手で墓を掘り起こして、副葬品の貴金属を体内に取り込んでいる。どうやら、
この魔物がカエラの言う墓泥棒のようだ。
隣で平井が眠っている。よく見ると、彼の衣服から紙包みがまろび出ている。あれは確か、
「ブラック…ブラック…烏賊……」
鉛を下げたように重い瞼を、精神力で見開きながら、俺は平井の元に這って行く。辛うじて彼の元に辿り
着き、紙包みを開く。中には例の烏賊状のものが。最後の力を振り絞って、それを噛み締める。足を一本
だけ噛むつもりが、勢いあまって頭から齧ってしまう俺……
*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
口内から鼻、さらに脳天へと雷のような衝撃が走った。俺を包んでいた睡魔は雲散霧消し、お目目パッチ
リ、頭スッキリ。でも口の中は地獄。ワクワクしてくるほど激辛。
余りの辛さに悪寒を覚えながら、俺は俺専用異世界人専用聖剣を構えて、例の緑の魔物に斬り付けた。あ
っさりと真っ二つに裂けた魔物は、体内から催眠ガスと今までに喰った貴金属を撒き散らし、まるで萎ん
だ風船のように地に落ちた。
俺は魔物と夥しい数の貴金属を見比べた。よくもまぁ、これだけの量が入っていたものだ。そうしている
と、深田達が目を覚ました。カエラだけはまだ眠ったままだ。
- 419 名前:1
[] 投稿日:2005/04/21(木) 00:38:19
- 深田が俺の隣に立つ。
「この魔物は金属を喰らうゴールドイーターみたいですね」
「どうやら、こいつがこの子が言ってた墓盗人みたいだ」
俺はカエラに目を移した。穏やかに寝息を立てていて、一向に起きる気配はない。
「どうしよう…」
思案に明け暮れる俺。その手が握る紙包みに、平井が気付いた。
「あ、僕のブラックブラック烏賊。なるほど、それで眠気を妨げることができたんですね」
そうだ。これがあった。俺は眠っているカエラの口元にブラックブラック烏賊の足を近づけてみた。すると、
彼女は寝ながらにして、烏賊に噛み付いたではないか。どうやら寝ながら食べる性癖があるようだ。
「辛っ!」
効果覿面。怒涛の勢いで目覚めた。寝起きバッチリのカエラは、俺の側に落ちている緑の魔物を凝視した。
「これは…?」
「こいつが君の言ってた墓盗人だろうな」
俺は辺りに落ちている副葬品の一つを拾い上げて、彼女に突きつけた。
「ご、ごめんなさい!私の早とちりで」
カエラは自分の頭を軽く叩いた。
「ハハハ、いいよ。無事、魔物を退治できたんだし」
まだ叩いている。
「わかったわかった、もういいよ。勝手に庭に入り込んだ俺達にも非はあったんだ」
まだ叩いている…と言うより殴っている。次第に力がこもって来た。っつか、ゴンゴン音してる。って、
おい!出血してきたぞっ!!
「わああああ!マジ大丈夫だから!!天地神明に誓って、君は全面的に猫の額ほども悪くないから!!!」
「本当に?」
まだ少なからず自責の念に駆られている様子。
「ああ」
カエラは手を止めた。どうやら精神が不安定になると自傷する癖があるらしい。ひょっとするとメンヘル
少女なのだろうか。
- 420 名前:1
[] 投稿日:2005/04/21(木) 00:38:56
- 何とか誤解を解いた俺達は、コロッと機嫌を変えたカエラによって、寺院内に招かれた。話を聞いてみると、
彼女はこの寺院に独りで住んでいる僧侶らしい。
「ここ一週間、毎晩寝ずの番を試みたんだけど、何故かいつの間にか眠くなっちゃうんだよね」
カエラは笑って言い放った。7日間も同じ手口に引っ掛かっていたのか…。
その後、カエラは自分がこの寺院にいる理由を話してくれた。つい3ヶ月ほど前までは、ここも通常の寺院
として機能していた。しかし、ラミハを占拠した魔族の影響で、この一帯に魔物が頻繁に出現するようにな
った。特に寺院は目の仇にされ、幾度も魔物の襲撃を受けたのだと言う。余りの襲撃の多さに、僧侶達はこ
の場所を去った。しかしカエラは独りでこの寺院に残り、魔物を撃退し続け、寺院を守ってきたのだと言う。
「ここを守れるのは私だけだから」
そう呟くカエラの表情は、どこか寂しげだった。こうまでして寺院を守る特別な理由があるように思える。
「あの、できればここに一晩泊めて頂きたいんですけど」
深田が、カエラに申し出た。そうだった。危うく真の目的を忘れるところだった。
「いいわよ。独りより大勢の方が楽しいし。出来ることなら何日でも居てちょうだい」
「そうもいかないよ。明日の朝にはまた出発するから」
「そうなの…ところで、どういう目的の旅を?」
「魔族退治!」
甜歌が自信満々に叫んだ。
「魔族って、ラミハの街の?」
「ん、ああ…まぁ、そうだけど」
「へぇ……よし!じゃあ、私も一緒に連れてって!」
「えええ!?」
「ここで待ってても事態は変わらないわけだし、どうせなら一緒に行って魔族を倒した方が早いわ」
一理ある。
「それにあなた達、見たところ、回復術あんまり得意じゃなさそうね。信仰心低そうだもの」
確かに。俺達は神を信じて助けを請うような純粋な人間ではないな。
俺や平井は問題外として、甜歌や深田は簡単な回復魔術を使用できる。しかし、魔術の範疇にある回復術
はあくまで簡易的なもので、神の力を借りる純粋な回復術のような強力な回復効果は得られない。
- 421 名前:1
[] 投稿日:2005/04/21(木) 00:39:43
- 「どう?お役に立てると思うけど」
カエラは俺の目を見つめた。不思議と引き込まれそうになる目だ。回復術のプロがいてくれれば、魔族と
戦う上で大分有利になるはず。俺はぐるりと深田達の顔を一巡して彼らの賛同を確認した後、頷いた。
続く。
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