異世界ファンタジー編 第26話
- 439 名前:1
[] 投稿日:2005/04/22(金) 22:33:55
- 第26話(前半)
「さて、どうしたものでしょう」
白い陽が天頂に輝く下、深田は思案顔で顎に手を当てる。
寺院で一夜を明かした俺達は、太陽が顔を出す頃にカエラと共に出発し、先刻ラミハに到着した。いや、
正確にはラミハの町の門が見える場所に着いたと言うべきか。町に入れないのである。中に入る為に門を
くぐらねばならないのだが、そこに魔族による検問が敷かれているからだ。
「ヤックソの支配は深刻みたいですね」
平井が渋面を作った。
カエラが持っている情報によると、ここを支配しているのはヤックソ(やっくん)という魔族の王子らし
い。ヤックソ(やっくん)は一夜にしてラミハを占領、配下を使い町並みを魔族の要塞に造り替えた。住
民達は抵抗したものの、ヤックソ(やっくん)の軍勢は余りに強力だった。手練れを集めた自警団でも敵
わず、降伏を余儀なくされた。以後、人々は彼の搾取に甘んじる生活を送っている。
「町に入れるのは、元々此処に住んでいる住民、許可を得た貿易商人、そして…」
「魔族、或いは魔物か」
俺はカエラの目を見た。彼女は首を小さく縦に振った。
「そう。特に私達の様な冒険者は、立ち入りはおろか、見つかれば即刻袋叩きでしょうね」
ヤックソ軍の規模は計り難い。いきなり特攻を掛けてもまず勝ち目はあるまい。町に潜入してヤックソを
討つ機会を狙うのが得策だ。侵入する手立てを何とか見出さなければ。
考えあぐねて立ち尽くす俺達。すると、今まで黙っていた甜歌が、俺の袖を引いた。
「いっそ魔物になればいいじゃん♪」
「変装したってすぐバレちゃうだろ。ハロウィンじゃあるまいし」
「違うよ。魔物そのものになるんだよ」
また事も無げに何を言い出すんだ、この子は。発言を理解できないでいる俺に、甜歌は明るく続ける。
「ポリモルフアザーの魔術を使えば、魔物とか人間じゃないモノに変身できるよ」
「マジで!?」
その手があったか。甜歌が高位の魔術士ということをすっかり忘れていた。確かに魔術で人間以外のモノに
変身できれば、町への侵入も不可能ではない。
- 440 名前:1
[] 投稿日:2005/04/22(金) 22:35:01
- 「でかしたぞ!甜歌」
「ただし効果は完全なランダムだから、何に変身するか分からないけどね」
「へ…」
「あと持続時間は大体30分くらいだから」
「へ…」
オラ、何だかすっげぇ不安になってきたぞ。
「検問を突破したら、すぐに町の人間に紛れれば大丈夫でしょう」
「ですね。先ほどから見ていると、検問は魔物に対しては甘そうだし。わたしも甜歌さんの案に賛成です」
「変身なんて面白そうじゃない」
平井、深田、そしてカエラ。みな賛成のようだ。一抹の不安が残るものの、俺も甜歌の魔術に身を委ねるこ
とにした。
「Ok!それじゃ、みんなウチの前に並んで。まとめていくから」
俺達は甜歌の前に横一列に整列した。一転して真剣な面持ちで杖を水平に構えて、瞑想を開始する甜歌。緊
張して見入る一同に向かって、甜歌が杖を振るった。杖から発生した怪しげな黒い煙が、俺達を包む。もく
もくと煙が立ち上るが、不思議とけむたくない。しばらくして、己の身体に異変が起こり始めた。全身の力
が抜け、まるで気体になったかのように体が軽くなっていく。奇妙な事態に戸惑っていると、煙が徐々に晴
れていった。再び自分の体の重みが、のしかかってきた。
煙の中から姿を現した隣の深田を見て、俺は仰天した。姿は深田のままなのだが、肌が異様に青白く、瞳は
血の様な真紅。自分の姿を見た深田は口を開けた。
「成功したようですね」
左右の犬歯は長く尖っている。どうやら彼女はヴァンパイアに変身したようだ。
「大成功!堅とカエラと、あと、うわぁ……おにいちゃんも無事変身したみたい…だね」
深田の隣に立つ平井はワーウルフ、つまり人狼に姿を変えた。人間の体に狼の頭が乗っているお馴染みの姿。
カエラはボーパルバニーに変身している。一見、普通のウサギだが、前歯が異常に長い。最初に首をはねら
れて呆然とする、例のあれだ。
- 441 名前:1
[] 投稿日:2005/04/22(金) 22:35:29
- ところで、俺は一体何に変身したのだろうか。感覚はハッキリせず、姿勢がうまく取れない。水中にでもい
るかのような。俺は自分の身体に目を落とした。
「って、スライムかよ!!俺!!!!!!!!」
よりにもよってスライムとは。それもドラゴン某に登場する愛嬌のある姿ではなく、ガチャガチャで販売さ
れているバケツ入りのスライムに近いリアルな姿。俺の身体は、定まった形状を保っておらず、色は藻の茂
った沼みたいな不鮮明な深緑。半透明で中が透けている。しかも所々気泡がブクブク発生しているバブリー
スライムときた。見た者がついつい生理的嫌悪感をあらわにせずにいられない姿………ウハwwwwwww
変身前とおんなじじゃんwwwww
「まぁ、すぐに術も解けることですし」
平井がいつでも獲物を求めていそうな凶暴顔で、俺を慰めてくれた。打ちひしがれている俺をよそに、甜歌
も自分自身にポリモルフアザーを掛ける。同じく漆黒の煙から出てきた甜歌は、また何とも可愛らしい子猫
タソに姿を変えている。
「何で甜歌だけまともなんだ?」
「施術者は変身後の姿を選べるんだよ」
甜歌は喉を鳴らした。そういうものなのか。
とにかく、こうしてヴァンパイア・レディ、ワーウルフ、ボーパルバニー、猫、そして醜悪なスライムとな
った俺達は、検問をしている町の入り口に向かうのであった。
続く
- 463 名前:1
[] 投稿日:2005/04/25(月) 02:49:35
- 第26話(後半)
検問所が近付くにつれ、緊張は否が応にも高まっていく。石造りの門の両脇では、鎧を来たゴブリンが2匹、
門兵として鋭く目を光らせている。いざ門をくぐろうとする俺達の行く手を、2本の槍が遮った。ゴブリン
は鼻を鳴らして、俺達の身体を嗅ぎ回り始めた。幾らポリモルフアザーで姿を変えていても、魔物に匂いを
嗅がれるのは、あまりいい心地がするものではない。彼らはひとしきり俺達を匂った後、槍を引込めて吐き
捨てるように言った。
「ハイッテイイゾ」
「ありがとう」
先頭の深田が礼を言う。残りの4匹もその後に続く。しばらく進んで、検問所のゴブリン達の視線が離れた
ことを確認すると、俺達はそそくさと建物の陰に隠れた。同時に変身した時と同じ黒い煙が上がり、各自の
変身が解けていく。
「大成功!」
猫の姿から元に戻った甜歌が、興奮に身を震わせた。
「ええ、匂いを嗅ぎ回られた時はどうなるかと思いましたけど」
そう言う深田も、肌は元の血色を取り戻し、狼のようだった犬歯は影を潜め、人間の姿に戻った。その後ろ
では平井とカエラも元に戻っている。
さて、肝心の俺自身はというと、
「……あの、甜歌さん。俺だけ元の姿に戻らないんですけど…」
依然として、側溝に溜まるヘドロを掻き集めたような姿のまま。
「あれ、おかしいなぁ。何でおにいちゃんだけスライムのままなんだろ」
それはこちらが訊きたい。4人は不思議そうに俺を見下ろす。
「まぁ、そのうち元に戻るよ。それにね、ポリモルフアザーでスライムになるのって、確率的に結構レアな
んだよ」
甜歌は気まずそうに笑った。っていうか、全然慰めになっていない。
結局、俺だけスライムの姿のままで、町へ情報収集に繰り出すこととなった。町の往来は魔物と人間が入り
乱れており、何とも奇妙な光景だ。大通りを進んでいくと、両脇に露店が増えてきた。この辺りはハナマノ
レマーケットと呼ばれ、商売人が集まる場所らしい。一見賑やかななようで、よくよく人間達の顔を観察し
てみると、誰しもが硬い表情で魔族の支配に怯えている様子。
その時、
「助けてくれ!」
- 464 名前:1
[] 投稿日:2005/04/25(月) 02:50:30
- 絶叫が響いた。次いで雑踏にどよめきが起こった。視線を声の方向に投げかけると、若い人間の男が、複数
のゴブリンに取り囲まれて殴る蹴るの暴行を受けている。その後ろで残酷な笑みを浮かべているのは、ター
バンを頭に巻いた男。
「商人ごときが舐めた口をききおって。貴様らは黙って搾取されておけばいいものを」
彼は腕組みをして、残酷な笑みを浮かべている。
「ショーニンゴトキ!ショーニンゴトキ!」
ゴブリンは馬鹿の一つ覚えのように唱えながら、棍棒で殴るのをやめない。
「あの男性は魔族ですね」
深田が苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。なるほど。確かにあのターバン男からは、人間とは違う雰囲気が
発せられている。
「可哀想だけど、今助けに出れば何かと厄介です」
悔しいが平井の言う通りだ。ここで助けに出れば、俺達の正体がばれかねない。直情的な行動は慎むべきだ。
しかし、下等な魔物は暴行をエスカレートさせ、ついに一匹が斧を取り出して、四つん這いにさせられた男の
首に当てた。
危険な状況だ。俺は手に汗を…握ろうとしたが、汗を握る手はおろか汗を流すこともできないので、とりあえ
ずウネウネと身体を動かしてみた。
と、今まで黙っていたカエラが小さく言葉を発した。
「…許せない」
「へ?」
様子がおかしい。この眼は…そうだ。寺院で自分を殴った時の、言うなればメンヘルの眼だ。
「弱いもの苛めは許せない!!」
「カエラ!!」
唐突に彼女はハルバートを構え、ゴブリンに斬りかかっていった。幾らメンヘル入っているからといって、いき
なり過ぎる。俺は彼女をパーティに加えたことをいまさらながら後悔し始めた。しかし後の祭り。カエラのハル
バートは、斧を振り下ろそうとするゴブリンの腕を斬り飛ばした。隙を突かれたゴブリン達は、ギャーギャーと
耳障りな奇声を上げて、蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく。
「ほぅ」
ターバン男は一向に動じることなく、寧ろ状況を楽しむかのように、カエラを凝視する。それに対して彼女も負
けじと睨み返す。男は腰のサーベルを抜きかけたが、何を思ったのかすぐに鞘に戻した。
- 465 名前:1
[] 投稿日:2005/04/25(月) 02:51:08
- 「いきなり私が出たのでは面白くないな。お前達、やれ」
しかし、ゴブリンは離れた場所からカエラを見つめて、何やら話し合っているだけ。
「あの魔物達、逃げ出すんじゃないか?」
「いいえ。彼らは臆病者故の計算高さを備えています。自分達と相手の戦力差を計っているんです。あの様子だと、
すぐに反撃を開始するはず。カエラさんが危険だわ」
深田は異世界人専用ロングソードを抜いた。確かに数では圧倒的にゴブリンが有利だ。加勢に入った彼女の後
を、平井と甜歌が追う。もうどうにでもなれと、半分自棄になって俺も後を追う。
しかし、そんな俺の進行方向に、一匹にゴブリンが立ちはだかった。
「スライムノクセニ」
ゴブリンはいかにもレベルアップの素という感じの俺に向かって、シミターを振り上げた。
その瞬間、黒い煙が立ち上り、ゴブリンの視界を覆い隠した。次にゴブリンの目に飛び込んできたのは、俺
専用異世界人専用聖剣を握る俺の姿。
「ナンダト!?」
「よっしゃ!ようやく元に戻った」
唖然とする魔物を狙って、俺はゆっくりと剣を振りかぶった。
「キサマ…ナニモノダ?」
「商人だ」
一刀の元に、ゴブリンの首が刎ね飛ばされた。
続く
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