異世界ファンタジー編 第28話

 

783 名前:1 [] 投稿日:2005/05/23(月) 21:34:06
第28話(前半)
「よっしゃ、武器奪還成功」
番兵長であるゴブリンチーフが守っていた宝箱の中から、俺は異世界人専用俺専用聖剣を取り上げた。
カエラもハルバートの柄をしっかりと握り締める。
「ようやく本調子に戻れそうね」
やはり彼女には躁鬱のきらいがあるようだ。完全に躁モードで、ハルバートをブンブン素振りしている。
頼もしいことこの上ないが、ちょっと怖い。その内に何かやらかしそうで。
彼女と共に房を脱出した俺は、番兵のゴブリンやコボルトを倒しながら見張りの詰め所までやってきた。
まぁ、倒したといっても、ほとんどカエラが素手で締め上げたわけで、俺は後を付いてくるだけだった
のだが。幸いなことに、詰め所には俺達から押収した装備品がまとめて保管されていた。勿論、深田達
の装備品も宝箱に収められていた。しかし肝心の持ち主である深田達の姿を、見つけることができない
でいる。ここまで数十はあろう独房を全て覗いてきたが、彼らの姿はついに見出せなかったのだ。
深田らの武器を布で包みながら、俺はカエラに話しかける。
「どういうことだろう。深田さん達も同じように投獄されているんじゃないのか?」
「ええ。あなたが気絶した後、私達は一緒にここに入れられのだから間違いないわ」
「じゃあ、一体どこにいるんだ…」
俺が歯がゆさに眉をしかめていると、
「……騒々しいなぁ……」
つい先ほど調べた独房から、低い呻く様な声がした。人影は無かったはずなのに。俺とカエラはその独
房に近寄り、暗闇に向けてよくよく目を凝らしてみた。すると、中年の男(岸部四郎)が房の奥で横に
なっているではないか。彼の視線は虚ろで、生気を微塵として感じさせない。俺は警戒しながら問う。
「あなたは?」
「俺は岸部という者だ。かつてザ・タイガースという冒険者グループで活躍していたが、解散後はすっ
かり仕事が無くなってしまってな。その後、ルックルック隊という傭兵部隊に所属していたが、少々遊
びが過ぎて借金を背負い、首になっちまった。そこでヤックソを倒してカムバックしようとこの街に来
たんだが、返り討ちにあいこの様ってわけだ」
詳細な自己紹介乙。そこまで尋ねていないのに。無気力な語り口の割にはよく喋る男だ。

784 名前:1 [] 投稿日:2005/05/23(月) 21:34:30
「岸部さん。ここで、のほほんとした女の子と、声が高そうなイケメソと、天然系の少女を見ませんで
したか?」
「それなら、つい先ほど闘技場に駆り出されていったのを見た」
「闘技場?」
「恐らくハナマノレ祭りだろうな」
「ハナマノレ祭り…」
俺の脳裏に、ハナマノレマーケットでの情景が蘇った。ヤックソは確か“ハナマノレ祭りで使ってやる”
と言っていた。ハナマノレ祭りとは一体…。
そんな疑問に答えるかのように、岸部は説明を付け加える。
「ハナマノレ祭りってのは、ヤックソが大きな戦をけしかける前に開催する一種の闘技大会。そこでは
魔物と人間が闘う。魔物といってもオークやゴブリンチーフの比じゃねぇ、ヤックソ軍三強と呼ばれる
高ランクの魔物どもだ。早い話が、自軍の兵達に三強の実力を示し、士気を鼓舞させる生贄の儀式だな」
どうやら事態は思った以上に深刻のようだ。俺は肩に背負った深田達の得物を見た。武器がここにある
以上、彼らはなぶり殺しだ。ためらっている余裕はない。俺はすぐに心を決めた。
「行くしかないな、闘技場へ」
カエラも頷く。それを見て岸部は、
「あまりオススメできんな。ヤックソは魔王軍の中でも折り紙つきの三大魔族の一人。特に人間界侵略
を進める上で、重要な意味を持つラミハ方面軍を統べる実力者だ。奴はこの街を拠点に、これから一気
に勢力を拡大する算段だ。少々腕が立つくらいでは適う相手じゃない。俺なら親兄弟が捕われても助け
にいかんよ」
相変わらず身を横たえたまま忠告した。
「忠告ありがとう。岸部さん」
俺はボスゴブリンから奪った鍵束で、彼の牢屋の錠前を開錠した。
「でも、俺達はやっぱり行かなきゃ。岸部さんも早く逃げてください」
「そうか。まぁ、俺は折りを見て逃げさせてもらうよ。あんまり長く眠っていたもんで、身体が目を覚
ますまで、しばらく時間が掛かりそうなんでな」
寝転んだまま、一向に動き出す素振りなど見せず、岸部は答えた。どこまでも無気力な人だ。

785 名前:1 [] 投稿日:2005/05/23(月) 21:34:54
岸部の独房を後にした俺とカエラは、地下牢を守る番兵達をなぎ倒しながら、ハナマノレマーケットに
走る。人間は皆門戸を閉ざして、家に引き篭もっているようだ。外に出れば、何をされるかわかったも
のではないので当然だろう。一部の店だけが開いている状態。
「警備が薄過ぎるわ」
併走するカエラが不審そうに漏らした。確かに地下牢から脱出してからここに至るまで、余りに警備が
手薄だ。倒した番兵の数は両手の指で足りる。
「多分ハナマノレ祭りに参加する為に、街の魔物のほとんどが闘技場に集結しているんだろう」
ハナマノレマーケットを過ぎると、ローマのコロッセオを模したような、いかにもな闘技場が姿を現し
た。中からはおぞましいほどの大歓声が漏れてくる。
「とりあえず中に入ってみるしかないな。でも、どうやって入ろう。見つかれば厄介だ」
「そうだね…うーん、あ!!」
辺りを見回して、何を発見したのか、カエラは魔術薬屋の軒先に貼付してあるポスターを指差した。
「ねぇ、あれなんて使えそうじゃない?」
“新発売!!即効性モンストールCで、あなたも今すぐ憧れの魔物になれる!!”
嫌な予感がした。俺は気が進まないのだが、カエラについて店の扉をくぐった。
「いらっしゃい」
奥から店主(元上司。36歳独身。転勤の辞令下りて昨日送別会)が出てきた。
「モンストールCありますか?」
「あるよ。でも、あれ最近のモンプレブームで超品薄でねぇ。メーカも生産追いついてない状態で、今、
在庫2本しか残ってないんだよ。ちょっと待ってて」
彼は店の奥に在庫を取りに引っ込んだ。
「モンプレって?」
カエラに問うと、
「モンスターに変身する趣味ね。ポリモルフアザー使えるのは甜歌ちゃんみたいな高レベルの魔術士に限
るから、普通は魔術薬で変身するの。有名なレイヤーになると、自分でオリジナルモンスターの薬を調合
するし、追っかけも付いたりするんだって」
コスプレみたいなものか。しばらくして店主が2本のガラスビンを手にして戻ってきた。

786 名前:1 [] 投稿日:2005/05/23(月) 21:35:21
「今うちの店には、このボーパルバニーと…」
彼はウサギの描かれたビンをカエラの前に出した。そう言えば、この街に入る時もカエラはボーパルバニ
ーに変身していた。ヤバい。この流れは本格的にヤバい。
「バブリースライムマッドネスしか残ってないんですよ」
やっぱキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!予感的中。お前ら、期待通りの展
開ですヨ!
カエラは巾着袋から代金を取り出して、店主に手渡した。
「お買い上げありがとう。即効性だから、すぐに効果出るよ」
「それじゃ、早速飲もうか」
「ちょwwwwwおまwwwww待て!!っていうか、マッドネスって何??ねぇ、マッドネスって、あのマーブルマ
ッドネスのマッドネス?」
「いいから男らしく飲みなさいっての!」
カエラは素早くビンの蓋をねじ開けると、ついでに俺の口もこじ開けて、問答無用で深緑色のドロドロとし
た液体を流し込んだ。大学時代に一度飲んで絶句したガラナコーラに似た味。例の不可解な感覚に襲われ、
俺の体に変化が表れ始めた。
                                                                 続く

807 名前:1 [] 投稿日:2005/05/27(金) 00:15:47
第28話(後半) 
魔物に変身した俺とカエラは、円形闘技場に入り込むことに成功した。 
闘技場内は、全体を通路が取り囲んでいる。場内はハナマノレ祭りを観に来た魔物が溢れ、通路までこぼれ 
出ている始末だ。だが、俺達に限っては比較的楽に進むことができる。というのも、このバブリースライム 
に変身した身体ときたら、さすがマッドネスと名乗るだけはあって、体液が極めて強い酸性なのだ。俺の身 
体に触れた魔物は片っ端から取り込まれて、この体液で溶けてしまうのだから道を開けざるを得ない。 
そうして、俺は憐れな魔物を吸収しながら、低い場所にある客席まで辿り着いた。客席といっても、岩石を 
削った粗い造りのベンチだ。ちなみに俺の身体は有機物だけを溶かすようで、石や金属は溶けない。 
「すごい熱気だな」 
俺は横にちょこんと座っているカエラにこぼした。バブリースライム自体は発声器官を持たないのだが、身 
体の中に取り込まれている犠牲者の頭部を通じて言葉を発することが出来る。どこまでもキモいな>>俺。 
カエラは当然喋れないので、首を縦に振って答えた。刀のように鋭利で長い前歯が、石の座席に当たり甲高 
い音を立てた。 
待つことしばし、俄かに歓声が大きくなった。中央の闘技エリアに一匹のオークが姿を見せたからだ。 
「ウハwwww藻前らwwww待たせたなwwwwつか待ち杉!wwww俺司会のビッパーwwwwヨロ!」 
明らかに人選ミスと思われる司会はVipper調。 
「まずは我らが主wwwwヤックソ様のwwwwご挨拶!」 
司会が客席上部の特別席を手で指し示した。そこには真紅のローブに身を包んだヤックソの姿がある。彼は重 
々しい口調で語り始めた。 
「我が忠実なる兵達よ。ハナマノレ祭りに集ってくれたことを感謝する。しかし、まず残念な報せをせなばな 
らない」 
気付けば、奇声を上げていた魔物達が、ヤックソが口を開いた途端に皆押し黙っている。 
「ガシヒロで任に就いていた上原が死んだ」 
会場にどよめきが起こる。 

808 名前:1 [] 投稿日:2005/05/27(金) 00:16:40
「これは我々にとって余りに大きな損失だ。しかし、彼女の死をむだにしない為にも、我が軍に一任されたガ 
シヒロ方面への侵攻計画は必達せねばならない。我々はそれを成し遂げる力を持っている。今日、この日のハ 
ナマノレ祭りは、我が軍の力を示し人間どもからこの世界を奪い返す為の第一歩である」 
寂とした闘技場にパラパラと拍手が生まれ、ついには今まで以上の大音声となって地を揺るがした。ヤックソ 
は兵の心を掴む術を心得ている。上原は個人としての力こそあったが、まだ多数の部下を持っていなかったの 
で、どうにか倒すことができた。しかし、これだけの大軍勢を持って侵攻されて、ガシヒロやシフィーロは果 
たして持ち堪えられるだろうか。 
俺が危惧していると、ゴブリンに槍で威嚇されながら、入場ゲートから闘技エリアに人間が数人連れ出されて 
きた。 
「あ!!」 
俺は思わず驚きの声を上げた。人間の数は全部で6人。その中に深田と平井、甜歌の姿があるではないか。大 
きな怪我は負っていないようだが、鎖で手を拘束され自由を奪われている。 
「こいつらはwwwwこの街でヤックソ様に立て付いた愚か者どもwwwww今日の生贄なwwwww」 
扇情的な司会に影響されて、観客席から6人に向かって大ブーイングが浴びせれる。 
「続いてwwwwヤックソ軍が誇るwwwなんか強いらしい奴ら入場wwwww」 
深田達が出てきたのとは反対側の入場ゲートが開いた。そこから巨大な影が二つ。ドラゴンの亜種ワイバーン 
と、漆黒の翼を持つグレーターデーモンだ。いずれも並の冒険者が適う相手ではない。幾ら深田達の実力が並 
でないとは言っても、武器を持っていないのでは話にならない。俺は自分の身体に目を落とした。そう、彼ら 
の武器は今、俺の身体の中に保管してある。 
「それじゃ早速バトルレディイイイイイイゴォオオオオオオ!!wwwwww」 

809 名前:1 [] 投稿日:2005/05/27(金) 00:17:04
俺は目を見張った。ワイバーンとグレーターデーモンに対する生贄達は丸腰、更に鎖で両手の自由を奪われた 
ままだ。敵うはずがない。ちょうど深田、平井、甜歌対グレーターデーモン、ワイバーン対生贄3人(エキス 
トラ)の形になっている。とか言っている間に早速生贄1(佐藤。小学校。特になし)がワイバーンのブレス 
に焼かれて散る。その一方で深田と平井は、甜歌を守りながらグレーターデーモンの攻撃を巧みにかわしてい 
る。反撃ができない以上、このままでは埒が明かない。 
「カエラ、こいつはマズいことに・・・あ」 
カエラが前足を小刻みに震わせている。貧乏ゆすりなのか。ウサギなのに。何かを我慢しているようだ。尿意 
…いや、違う。カエラの性質からしてこれは恐らく、 
「待て。早まるな、カエ…おぅわ!?」 
彼女は跳躍すると、前の席のいかにも鈍そうなオーガの頭を蹴り、闘技エリアに飛びこんだ。やはり突っ走っ 
たか。闖入者に目を奪われる場内。 
「ウハwwwwこれまた可愛らしいウサチャンwwwwww」 
司会がカエラを捕らえようと近寄った。しかし彼の手は空を掴んだ。思いに反してウサギが跳びかかってきた 
からだ。いや、跳びかかっただけではない。 
「アヒャアアwwwwwヤバwwwww首落ちるwwwwwwドラワロスwww」 
慌てて首を支えるがもう遅い。ボーパルバニーの必殺の一撃を食った司会の頭は、首から滑り落ちた。その顔 
は最後までハイテンションな笑みを湛えたまま。これが噂に聞くVipクオリティか。 
などと感心している場合ではない。シンと静まり返る闘技場。次いで、観客達がザワザワと混乱の兆しを見せ 
る。俺は止むに止まれず、ノソノソと客席から闘技エリアに向かう。途中、接触した魔物を次々に吸収しながら。 
グレーターデーモンの不意を突いて、カエラが歯で深田らの鎖を断ち切った。 
「ありがとう……あなたは?」 
ウサギに視線を合わせる深田。しかし、それがカエラだとはわからない。 

810 名前:1 [] 投稿日:2005/05/27(金) 00:18:36
「深田さん、あれ、あれ!!」 
平井が驚愕の声を上げた。深田と甜歌もその方向に目をやる。その先にいるのは……俺かよ! 
「うわぁ、気持ち悪ぅい」 
甜歌が眉をしかめた。無理もあるまい。我が身ながら、何と言うか筆舌に尽くし難い姿。十数匹の魔物を吸収し 
た上、早くもそれらが半透明な体内で分解、消化され始めている。 
「どうやら敵が三体に増えてしまったようですね」 
と深田。思いきり誤解されてしまった。 
「ちょっと待った!深田さん、オレだよオレ、ほら、オレ!!」 
俺は体内の“口”を使って必死に弁解する。が、取り込んだ魔物の頭が一斉に言葉を発したものだがら、その光 
景はまさにB級ホラー映画。 
「どうやらオレオレ詐欺的に、人を惑わせるスライムみたいですね」 
ハハハ( 'ー`)、やっぱり。 
「エネャ ジンテ レスワヲレオ!!」 
異世界の言葉を発しながら、グレーターデーモンが深田に攻撃をしかける。彼女は間一髪で避けるが、反撃の糸 
口が掴めない、のも当たり前だ。武器は俺が持っているのだから。 
「みんな、こいつを使え」 
ドサリと地面に布包みを落とす俺。粘液にまみれた布がはだけて、中の装備品の一部が見えた。それに駆け寄った 
深田は、 
「これは、私達の装備品…ということは」 
異世界人専用ロングソードを拾い、俺を見上げた。その背後から、グレーターデーモンが腕を振り下ろす。しかし、 
彼女はそちらに目を向けることすらなく、異世界人専用ロングソードを頭上に掲げる。悪魔はその刃の上に、攻撃 
の手を下ろす格好になった。黒く野太い腕が、まるで大根でも切ったように落ちた。 
深田はなおも俺から目を放せないでいる。 
「あなたは…」 
腕を斬り落とされたグレーターデーモンは、怒りに任せたて鋭い爪で、深田を背後から切り裂こうとする。しかし、 
刀を手にした平井が割って入り、攻撃を受け止める。 

811 名前:1 [] 投稿日:2005/05/27(金) 00:19:00
「あなたはまさか…」 
向かい合う俺と深田。その後ろでは、平井とグレーターデーモンの力比べ。杖を取った甜歌が詠唱を開始する。そ 
して、 
「堅、もういいよ!!」 
「おう!」 
平井は支えていたグレーターデーモンの攻撃を、受け流して身を退いた。力の行き場を失くしたグレーターデーモ 
ンは体勢を崩す。そこに甜歌が高位爆炎系魔術を炸裂させる。爆発と共に巻き上がった砂塵が辺り一帯を覆った。 
それが次第に晴れていくと、大きくえぐれた地面が姿を見せた。その中心では、身体から煙を上げながら、グレー 
ターデーモンが倒れ伏している。起き上がる気配はない。 
「やぱり、あなたは……」 
深田は絶句した。砂埃の中から現れたのは、スライムから人間に戻った俺の姿だった。薬の効果が切れたようで、 
カエラもボーパルバニーから人間に戻っている。 
「あの、その…」 
そう長い時間、別々にいたわけではない。だが、深田を前にして、ぎくしゃくしてしまう自分がいる。まだガシヒ 
ロでの夜のことが、引っ掛かっているのかもしれない。 
「何て言うか…助けに来たよ」 
「ありがとう…ございます」 
俺達はお互いに照れを隠すように笑った。 
                                                                 続く 

第29話へ→

←目次