異世界ファンタジー編 第30話
- 44 名前:1
[] 投稿日:2005/06/09(木) 20:17:12
- 第30話(前半)
アブソリュート・サークルが完全に消えた。しかし、外の魔物は不気味な平静を保っている。腕の中の甜歌に目を落とすと、
魔力を使い果たしてしまったのだろう、すやすやと寝息を立てている。俺は彼女の身体をそっとその場に横たえると、立ち
上がった。
「ヤックソ様ガ倒サレタ…」
絶対的な強さを誇った主ヤックソが殺された事態を、魔物達は呑み込めないでいる。しかも、仲間であるはずのえなりによ
って息の根を止められたのだから、尚更混乱せずにはいられない。指針を与える存在を失った者達が、行き先を求めて騒ぎ
始めた。
「俺達ハドウスレバイインダ」
「ヤックソ様ノカタキヲウツゾ」
混乱は次第に一つの形にまとまりを見せていく。
「ドイツダ……ドイツダ…」
「ヤックソ様ヲ殺シタノハ…アイツダ!!」
ずんぐりむっくりした魔物(沖山。小学校三年の担任。渾名はオキヤマゴン)が、闘技エリア内のえなりを指した。それを
受けたえなりは、初めて笑顔を消した。
「全くつまらない連中だ。これだから低級な魔物は使うべきじゃないんだよ」
強い不快感を示しているようだ。
「よろしい!まとめて掛かってきたまえ!!!」
えなりが吼えた。善人顔からは想像もつかない爆音とも呼べる怒号は、鼓膜を劈くばかりに響き渡り、闘技場を震撼させた。
「ォォォォオオオオオオ!!」
それに負けじと魔物達が鬨を合わせた。俺は危険を察知して、気を失っている甜歌を両腕で抱きかかえる。えなりが両手を
胸の前で交差した。何やら魔力を溜めている様子。それを見た有田は、一瞬ぎょっとして身を屈めた。深田にも地面に伏せ
るよう促す。
- 45 名前:1
[] 投稿日:2005/06/09(木) 20:17:39
- 「やれやれ、えなり様はノリがいいからなぁ」
「どういうことです」
「見てなよ。一瞬でかたがつくから」
「一瞬で………は!いけない。みんな、その場に伏せてください!」
何かに気付いた深田が、目を見開いて俺達に叫んだ。俺と平井、カエラは彼女の意図が理解できないものの、咄嗟に地に這
いつくばった。
その間にも、魔物達は観客席から闘技エリアに大挙して押し寄せてくる。このままだと俺達も踏み潰されてお陀仏なのだが、
ここは深田の言葉を信じて伏せているしかない。
「塵に帰せ!!!」
えなりが交差した両腕を、ちょうど彼の頭上から見ると綺麗な円を描くように、素早く開いた。
頭の上で一陣の風が吹いた。時が止まっている。そう思えるくらいに周囲が静けさに包まれた。魔物の咆哮が瞬時に消えた
のである。様子を見るべく顔を上げると、
「ない…」
ないのである。こちらに向かってくる全ての魔物の上半身がない。一定の高さ、つまりえなりの肩ほどの高さから上が、皆
一様にそっくり吹き飛ばされているのだ。最前列から最後部までまるで計算したかのように。
「これが……えなりの力なのか!?」
ヤバイ。えなりヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。 えなりヤバイ。
まず強い。もう強いなんてもんじゃない。超強い。
強いとかっても
「ボビーくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
何しろ瞬殺。スゲェ!なんか一発で闘技場埋め尽くす魔物葬り去ってる。K1とかプライドをかなりの勢いで超越してる。瞬
殺だし超強い。
- 46 名前:1
[] 投稿日:2005/06/09(木) 20:18:00
- しかも歴代魔王の側近らしい。ヤバイよ、魔王だよ。側近だよ。
だって普通の魔族は魔王の側近とかならないじゃん。だって勇者一行がラストダンジョンに乗り込んできたりとかしたら困
るじゃん。直前のセーブポイントで腰を据えて最大値までレベルアップとかされてると困るっしょ。
ダンジョンに入った時はレベル27だったのに、自分のポジションに来た時はレベル99とか泣くっしょ。
だから普通の魔族は魔王の側近なんてしない。話のわかるヤツだ。
けどえなりはヤバイ。そんなの気にしない。側近しまくり。恐らく歴代魔王に片腕とか懐刀とか言われて絶対の信頼を一身
に受けていたくらい側近。ヤバすぎ。
……などと、ついヤバイのガイドラインに沿ってしまうほどの力をまざまざと見せつけられ、俺は驚愕せずにはいられない。
我知らず、俺は両手の震えを止めようと握り締めた。
さすがに魔力を消耗したのか、えなりは額の汗をぬぐった。先ほどの不快感とは打って変わって、彼の表情はゴルフで18ホ
ール回り終えた後のような心地よい疲労感を湛えている。
「さて、それじゃあもう行くね。君達は特別に生かしておいてあげるから、二度と僕らの前に姿を現さないでくれ」
返す言葉が見つからない。ヤックソにさえ遅れを取っていた俺である。絶対的な力の差を示されて、強がることができない。
中学時代、得体の知れないヤンキー集団にカツられた時のように。
「そうは問屋がおろさないわ」
カエラが前に進み出た。いつの間にか敬語から元の言葉遣いに戻っている。別人格は姿を消したようだ。ハルバートの槍先
をえなりに向けて、言葉を続ける。
「世界を乱し、人々の生活を踏みにじるあなた達を、野放しになんてできるわけないじゃない」
言っていることはやはりカエラも別人格も同じだ。それにしても無謀が過ぎる。俺はカエラの発言に、えなりがどう出るの
か固唾を呑んで見守った。彼は嘲笑で答える。
「なかなかの度胸だな。だが、今日は君の相手をしている暇は無い。有田行くぞ」
「行かせてたまるか!」
カエラがえなりに斬りかかる。が、先ほどの平井同様、割って入った有田に斬撃を受け止められ、そのまま弾き返されてし
まった。
- 47 名前:1
[] 投稿日:2005/06/09(木) 20:18:20
- 「言ったろう。お前らはえなり様と戦う権利がないって」
有田も決して本気は出していない。主人に倣っているのか、どこまでも人を食った態度。
「さて、恭子。行こうか」
クレイモアを背中に背負い直すと、有田は深田に近寄った。
「は?」
深田は眉をしかめて、ロングソードを抜いた。
「つれないな。昔は色々と楽しんだ仲じゃないか」
「言わないで。あなたが卑劣な魔族と知っていれば…」
ロングソードの切っ先を眉間に突きつけれた有田は、
「相変わらずだな。だがお前のそういうところ、俺は今でも好きだぜ」
「わたしはあなたの婚約者を殺した女よ?」
「ああ、そうだったな」
その顔には、婚約者を亡くした者の苦悩などは全く認められない。あるのは軽薄な笑みのみ。
「じゃあ、その責任をとって俺と結婚してくれ」
「な、何を!?」
場がどよめいた。俺は彼の唐突なプロポーズに呆れて、あんぐりと口を開けた。
「一緒に来てくれ、恭子。上原との関係は周囲が騒いだだけなんだ。俺の君への愛は変わっていない」
歯が浮くどころか抜け落ちてしまいそうな臭い台詞を、よくもまぁ軽々と言ってのけてくれる。
「ふざけないで!何を今更」
異世界人専用ロングソードの刀身が黒く変貌を始めた。それを制止するかのように、
「おっと、そうだ。これは言っとかなきゃな」
有田が深田の耳を手で覆い小声で何かを囁いた。内容は聴き取れないが、深田の表情に変化は無い。
「さぁ」
有田は手を差し出した。
しばし目を瞑り、沈黙を続ける深田。そして目を開くと、有田が出している手に、自分の手の平を重ねた。
「ハハハ。深田さん、嘘だろ…?」
- 48 名前:1
[] 投稿日:2005/06/09(木) 20:18:46
- 彼女の思惑が分からず、半笑いを浮かべて詰め寄る俺に、
「ごめんなさい…」
深田は一言、謝った。
「お前、ひょっとして恭子に惚れてたの?だったら、とんだ勘違いだぜ」
有田が俺の目を見て、傑作とばかりに嘲った。
「行くよ」
えなりが魔術で漆黒の渦を発生させた。えなりの身長より少し高いそれは、別の場所に移動するためのゲートなのだろう。
えなりと有田、そして深田は一瞥することなく、その中に吸い込まれるように消えていった。
残された俺達は呆然と立ち尽くす。俺の中に言い様の無い怒りがこみ上げてきた。
「一緒に日本に帰るんじゃなかったんかよ!!!」
俺は力任せに、俺専用異世界人専用聖剣を地に投げつけた。
続く
- 92 名前:1
[] 投稿日:2005/06/15(水) 22:54:27
- 第30話(後半)
ヤックソの死とその軍勢の全滅は、ラミハの街を俄かに活気付かせた。報せを聞いた人々は
閉ざしていた門戸を開け放ち、通りをパレードが練り歩くわ、至る所で酒が振舞われるわで、
街はたちまちオモチャ箱をひっくり返したようなお祭り騒ぎの様相を呈した。
俺達はラミハを開放した勇者として、まさにVIP(本来の意味)待遇。宿屋では、今まで縁が
無かったスウィートルーム(歳は普通に取る。基本は馬小屋)に部屋を取って貰い、なおか
つ専属のメイド(森三中)まで付く始末。そうした生活が3日続いた。
そして今夜、俺達は町長主催のパーティに招かれたことになった。優雅なサロンで開催され
たこのパーティの出席者は、いずれも町のセレブリティ(ハワード・ヒューズ、ジョン・ロ
ックフェラー、マーサ・スチュワート、パリス・ヒルトン、エルビス・プレスリー、クリス
ティーナ・アギレラ、エミネム、ホリエモン、三木谷、デヴィ夫人、叶姉姉妹、摩邪、あた
りをガヤとして適当に配置)。いかにも高価そうな純白のクロスを敷いた長テーブルの上に
は、所狭しと豪奢な料理が並べられている。
長々しい町長の挨拶の中で、俺達の名前が呼ばれ、会場を拍手が満たした。こういう宴の場
に慣れていない俺達は、照れながら手を振った。
「おいしい!!これもこれも、これもいただき♪」
町長の挨拶が終わるや、会場に甜歌の声が響いた。彼女は至って無邪気なもので、食べきれ
るのかという大量の料理を、取り皿に山と積み上げていく。ヤックソとの戦闘で負った傷も、
順調に快復している。
- 93 名前:1
[] 投稿日:2005/06/15(水) 22:54:49
- 「甜歌はよく食べるねぇ」
とカエラ。そう言う彼女も、相当な量の食べ物を皿によそっている。
そんな2人の食い気をよそに、俺は会場の隅で飲めないワインを、ちびちびと口に運んでい
た。何かとセレブ連中が話しかけてくるが、返事を最小限に止めている。そうすることで、
相手が飽きて去るのを待つ。毒男の基本スキルだ。
「あまり食欲が無いようですね」
すっかり周囲の空気に溶け込んで談笑していた平井が、話の合間に俺の側に寄って来た。
「ああ。ちょっとね。どうもこういう場は苦手で」
具合が悪そうに、俺は後頭部を書いた。
「深田さんのことを気に掛けているんですか?」
「いや、別に……」
別にも何も図星も図星、ウメボシ殿下。
「彼女が有田と一緒に行ったことはやはりショックです。ここまで旅を共にしてきた仲間。
甜歌やカエラさんもああして元気そうにしてるけど、それは沈んだ本心を隠すためじゃない
でしょうか」
「ああ」
「僕も出来れば彼女の真意ではないと信じたい。でも……」
「でも?」
「いざ戦うとなれば話は別です。僕はえなりという仇を討たねばならない。その障害として
深田さんが立ちはだかるなら容赦はしません。あなたも例外じゃない。厳しいようだが、旅
を続けるなら彼女と剣を交える覚悟をしないと」
「俺は……」
- 94 名前:1
[] 投稿日:2005/06/15(水) 22:55:08
- 俺は平井の物言いに腹を立てて、言い返そうと言葉を練った。しかし、言葉は出てこない。
彼の意見は一々ごもっとも。この先、深田と相まみえた時、俺は果たして彼女に剣を向ける
ことができるだろうか。敵としての彼女を受け入れられるだろうか。
「お兄ちゃん、食べようよ」
俺の危機を救うナイスタイミングで、甜歌が目の前に皿を差し出してきた。
「ごめんな。今はそういう気分じゃないんだ」
申し訳なさそうに笑って、俺は一人で夜の街に出た。月明かりは朧で、酔った魔術士が灯し
た、今にも消えそうな街路灯の灯りだけが頼りだ。
最初の頃は昼夜問わずの大騒ぎだったが、3日も経つとさすがにお祭りムードも薄れ、深夜
の町は実に静かだ。時折、遠くから酔っ払いの大声が聴こえるくらいで、昼間の喧騒が嘘の
よう。
月明かりの下を歩いていると、俺は奇妙な匂いを覚えた。
「この匂いは……どこからだ?」
異臭。ちょうど今現在うちの台所から流れている三日間放置したカレーが発する異臭、それ
を何倍にも強くしたような匂いが、次第に強くなっていく。その方に急ぐと、ハナマノレマ
ーケットの広場で、建物の2階まで届こうかという炎が、夜の闇に赤々と燃えている。
「死骸を燃やしているのか」
闘技場に散乱していた魔物の死骸を、わざわざ広場まで運んで焼いているのだ。ふと見渡せ
ば、あちらこちらに魔物の骸が転がっている。中には数匹、まだ生きている魔物も混ざって
いる。人々はそれに落書きをしたり、足蹴にしたりしている。今まで魔物に虐げられてきた
のだから、当然といえば当然の仕打ちなのかもしれない。
- 95 名前:1
[] 投稿日:2005/06/15(水) 22:55:32
- 「魔物っつっても力を失えば同じ。憐れなもんだ」
俺の右背後から、しわがれた声を掛けるものがいる。振り返ると、牢獄で出会った元ルック
ルック隊の岸部が、相変わらずの無気力な表情で佇んでいる。
「ほれ、あそこで蹴り入れてる連中の顔見てみなよ。えらい楽しそうだなぁ」
炎に照らされる彼らの顔は、サディスティックな感情を剥き出しにしており、とても魔物に
怯えていた人間達とは思えない。
「憎悪は憎悪を生み、それは永遠に繰り返される。神さんも因果な世界を創造したもんだ」
一週間前までの人間と魔物、そして今、目の前の人間と魔物。今こうして見比べてみると、
両者の間に一体どれだけの違いがあるのだろうか。
「岸部さんはこれからどうするんですか?」
「そうさなぁ。俺はシフィーロに行ってみるよ。近々面白いことがあるそうだから」
「そうですか」
岸部と並んで、俺は燃え上がる炎をいつまでも見ていた。
翌朝、俺は平井の部屋に呼ばれた。既に甜歌とカエラは集まっており、小さな丸テーブルを
前に椅子に座っている。平井はテーブルの上に、一枚の地図を広げた。
「今日はこれからについて話し合おうと思うんです」
「ああ」
俺はカエラがすすめてくれた椅子に腰掛けた。地図は以前見せられた物だ。今いる大陸上に
3つの点が置かれており、それぞれが魔族の拠点を表している。羽根付ペンにインクを浸し
た平井は、それらの内、ガシヒロとラミハを黒インクで消しこんだ。
「ガシハラとラミハの魔族を倒した今、残るはここ……」
彼はペン先で、大陸の南に位置する第3の拠点を指し示した。
- 96 名前:1
[] 投稿日:2005/06/15(水) 22:55:49
- 「孤島の砦ミャジマ。ここがえなりの根城です」
……えなりはここにいるのか。ということは深田さんも……
「えなりっていう人、一体どういうつもりなんだろう。だって、ヤックソとか自分の兵士ま
でやっちゃうなんて。ウチだったら戦力として残すけどなぁ」
……深田さんは何故有田に付いて行ったんだろう……
「奴は生まれついての享楽家です。その時の気分次第で、相手は敵だろうが味方だろうが構
わない。快楽を得る為だけに戦いに身を投じている男。言わば鬼畜。それがえなりです」
……口調からして相当親しそうだった。やはりまだ彼のことが……
「えなりと有田が深田を迎えに来た。私が思うに、これって魔王の誕生が近いことを意味し
てるんじゃない?」
……しかし、あの時の喋り方は、彼を嫌悪していたようにも思えたし……
「可能性は高いですね。奴は歴代魔王に仕えることを条件に、永遠の命を与えられている。
魔王誕生を察知して、深田さんを誘ったと考えるのが妥当でしょう」
……いや、違う。俺がそう思いたいだけだ。ご都合主義にも程がある……
「お兄ちゃん、大丈夫?」
……これくらいの裏切りには慣れているはずだ…………
「お兄ちゃん!!」
……そうだ。いつものことなんだ……
「お兄ちゃん!!!」
「ん、ああ、そうだな」
- 97 名前:1
[] 投稿日:2005/06/15(水) 22:56:07
- 我に返って適当な返事をした俺の顔を、甜歌が心配そうにのぞきこんでいる。それを見た平井
とカエラも複雑な表情だ。
「わりぃ、ちょっと考え事してた」
取り繕うように笑う俺の顔を眺める平井達。そして彼らは、意を決したように頷き合った。
「実はもう一つ話があるんです」
平井は、いつも以上に真剣な面持ちで切り出した。
「なに?」
「昨晩、シフィーロからの伝令がこの手紙を届けに来たんです」
そう言って、平井は懐から一枚の白封筒を取り出した。俺は、赤い封蝋を解かれたそれを受け
取り、中の手紙に目を通す。手紙の内容を端的に述べると、三大魔族最後の一人であるえなり
を討伐するために、シフィーロに各国から精鋭の軍隊が集結しているとのこと。
「世界規模の一軍を作って、一気にかたをつけようってわけか」
俺は手紙を再び封筒にしまって、平井に返した。
「はい。僕らも今の人数では、とてもじゃないがえなりには太刀打ちできない。そこで話し合
って、えなり討伐軍に参加することにしたんです」
「おいおい。話し合ったって、俺は何も聞いてないよ」
そんな重要なことを勝手に決められても困る。
「うん……えっとね。お兄ちゃんは恭子お姉ちゃんを一緒に連れて帰る為に旅をすることにし
たんでしょ……でも、お姉ちゃんがあんなことになった以上…」
いかにも言い難そうに甜歌は言葉を止めた。
- 98 名前:1
[] 投稿日:2005/06/15(水) 22:56:28
- 「要するに何がいいたいんだ?」
業を煮やした俺に、
「つまり、あなたはこの先の旅を続ける理由がなくなったってこと」
カエラがとどめとばかりに、はっきりと言い放った。
「あ……なるほど。そうか。そうだな。ははは、空気嫁よ>>俺。マジレスすると足手まといだ
ってことか」
「違うの…そういう意味じゃ…」
詰まる甜歌に、俺は更にたたみ掛ける。
「何が違う?持って回った言い方じゃなくていいから正直に言えよ。もし深田さんを敵に回し
た時、同じ世界から来た俺じゃ、彼女に情があるから手を出せないってんだろ?」
大粒の涙をこぼす甜歌に強い罪悪感を感じながらも、俺は感情を押し戻すことができない。そ
こに平井が言う。
「そうです。えなりが魔王と出会い、世界侵略のノウハウを教え込めば、この世界は暗黒の時
代に突入します。そんな時に、深田さんと世界を両天秤に掛けられては困るんです」
「そうだな。平井、お前の言うことはもっともだ。俺はお前らほど非情になれないからな。所
詮は異世界の者同士。深田さんが奴らの元に行った途端、お前らは…」
その時、カエラの鉄拳が俺の顔面にめり込んだ(ジャイアンパンチを食らったのび犬くらい)。
俺は衝撃で壁で背中を激しく打ち、壁を滑るように崩れた。鼻と唇から血がだらだらと滴り落
ちる。
「お兄ちゃん!!」
「あなたに聖剣を持つ資格は無いわ」
「く……」
- 100 名前:1
[] 投稿日:2005/06/15(水) 22:56:56
- カエラと甜歌を両腕で押しのけて、俺は逃げるように部屋を出た。食堂の横を取る時、朝食を
取っている男が声をかけてきた。
「よぉ、勇者さん!どこ行くんだい?」
「現実世界に帰るんだよ!ブラボー!クソッタレファンタジー世界!!」
きょとんとしている男を無視して、そのまま宿屋を飛び出した俺は、町外れの草原を目指した。
街中では依然として好奇の視線にさらされるからだ。しばらく歩いて草原に着くと、孤立して
立っている喬木の根元に、俺専用異世界人専用聖剣を突き刺した。
「今までありがとうな。次はもっと相応しい奴が、お前の所有者になってくれるといいな」
そっと剣の束に触れる。しかし、剣は何も語ってはくれない。
ゲート石を地面に埋めると、楕円形の渦が宙に発生した。ゲートの向こう側からは、自動車の
走行音や人の声など、現実世界の音がかすかに聞こえる。
この展開は、エロゲで言うところのバッドエンドなのだろうが、所詮人生なんてこんなものだ。
そう自分に言い聞かせて、俺はゲートに足を踏み入れようと、右の足首を浮かせた。
「……」
俺は寸前で足を止めた。自分の行動が、闘技場でゲートをくぐった深田の姿と重なったからだ。
俺は忌々しさを感じながら、再びゲート内の暗黒に足を進めた。
続く
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