異世界ファンタジー編 第32話(平井)

 

334 名前:1 [] 投稿日:2005/07/14(木) 21:58:02
第32話 (平井ルート前半) 
「平井と一緒に行動させてもらっていいか?」 
「え、僕ですか?別にいいですけど」 
平井は、瞬間、意外そうな顔をしたが、特に問題もないという様子で了承した。そこにカエラが怪訝な目つきで口を挟む。 
「あなた、平井と行動を共にしたがるって怪しいわね」 
「おにいちゃん、まさか……」 
カエラと甜歌は顔を見合わせて、少しの間を置いて同時に俺を見た。 
「“ウホッ”なの?」 
あらぬ誤解を招いてしまったようだ。ウホッって何だ。ウホッって。 
「いや、違うから」 
冷静に切り捨てる俺。しかし、2人の目は容疑者を見る目。 
「まぁ、そういうことにしとくわね。人それぞれだし。それじゃ一週間後に」 
カエラの幾分にも冷めた眼差しは、確実に俺の興味の対象が男性にあると信じ込んでいる。 
「おにいちゃん、ウチは信じてるよ……」 
甜歌さん。あんた絶対疑ってる。 
「おまwちょww待てwww」 
弁解すらも許さず、彼らは背中を向けた。結局誤解は解けぬまま、しばしの別れ。 
「むぅ、参ったな」 
「ははは、一週間もすれば2人とも忘れてますよ」 
と、他人事のように平井。下手をすれば、彼自身も疑惑の対象になったのに。しかし、あの2人のことだ。平井の言う通りかもしれない。 
「それもそうだな。で、平井はどこ行くの?」 
「墓参りでもしに帰ろうかなと思って」 
「墓参り……恋人の?」 
「はい。それでは行きますか」 
平井は特に感情の変化を表に出すこともせず、踵を返した。 
「あ、ちょい待って。その前に服だけ買わせて。このまんまじゃ、また道化師に間違われちゃうよ」 
家電屋の制服から、この世界標準の布の服に着替え終わり、俺心機一転。 

335 名前:1 [] 投稿日:2005/07/14(木) 21:58:44
目的地はノマク村。シフィーロの南東、レク村にほど近い場所にポツンと存在する小村だ。8年ほど前、平井はこの村で歌手として恋人 
と共に幸せな生活を送っていた。しかし、当時、前魔王フィカブーの配下であったえなりの謀略で村は焼き払われ、その際に恋人も命を 
落よしてしまった。仇討ちを誓い旅立った平井は、それ以来、一度も村には帰っていないようだ。 
海岸沿いの街道を出発した俺達は、一路ノマク村を目指す。 
「男同士の旅ってのもなかなかいいもんですね」 
「だな。女の子といると何かと気を遣うことも多いし。気楽でいいな」 
甜歌やカエラを嫌悪しているわけではない。ただ、これまでの人生であまり女性と交流を持つことが無かった為、彼女らと接していると 
必要以上に気を遣ってしまう。例えば毎月のお客様が来た時など。その点、平井は男同士気疲れしなくていい。イケメソとブサメソとい 
う相違点はあるけれども。 
海岸線を出ると峠を越えることになる。途中、カイタ村に立ち寄って軽い食事を取った後、ノマク村に到着する頃には既に日が傾きかけ 
ていた。村内は夕食時ということもあり、人通りはまばらだ。 
「堅じゃないか」 
こちらに気付いた複数の男達が近付いてきた。平井とは知己らしく、とても親しげに話をしている。そうしていると、一人の女性がとる 
ものもとりあえずといった勢いで駆けて来た。それも結構可愛い。歳は22、3歳くらいか。 
「兄さん……」 
「兄さん?」 
彼女の目線を辿ると平井の姿。彼に妹がいたとは初耳である。 
「あい……」 
あいと呼ばれた平井の妹は、感情を抑えきれなくなったのか、彼の胸に飛び込んだ。再会を果たした兄妹。久々に感じた肉親の絆という 
やつ。たまには妹(看護師)に電話でもしてやらねばと、一人密かに反省する俺。 
平井の妹を加えて、俺達は村はずれの墓地に向かった。小高い丘の上にあるその場所を目の当たりにして、俺は立ちすくんだ。そこには 
夥しい数の墓。二百、いや三百はあろうか。この小村にしては余りに数が多すぎる。 

336 名前:1 [] 投稿日:2005/07/14(木) 21:59:08
「この村の住人だけでなく、えなりの手によって殺された人達も同じ場所に葬られています。あの襲撃の夜は、祭りで各地から大勢の観 
光客が訪れていましたから」 
俺の疑問を察したのか、あいが小さな声で説明した。 
平井は黙々と墓の間を歩いていく。そして、一角にある小さな墓の前で立ち止まった。それと知っていてもうっかり通り過ぎてしまいそ 
うな、何ら特別な所などない質素で目立たぬ墓である。 
俺はいつになく神妙な気分になって、平井を見守る。その表情は、普段見せることのない悲しみに満ちたもの。地に膝を突き、瞼を閉じ 
て墓石に手の平をかざしている。既に亡い恋人と対話しているのだろうか。 
しばらくの後、平井は立ち上がって声を発した。 
「行きましょうか」 
いつもの平井に戻っている。あいが平井に提案する。 
「酒場のマスターの所に寄って上げて。きっと喜ぶわ」 
村に戻った俺達は、酒場を訪れた。店内は小学校の教室ほどの広さ。食事用の丸テーブルが3セット、奥にはカウンターがある。客の入 
りはまばら。俺達はカウンターの前に立つが人影は見えない。料理の支度で忙しいのか。 
と、しばらく待っていると、奥から中年の男が姿を現した。そして、 
「やあ、(´・ω・`) ようこそ、バーボンハウスへ」 
「バボハかよ!!www」 
突っ込まずにはいられない。彼がこの店のマスターのようだ。(´・ω・`)によく似ている。 
「お久しぶりです」 
平井は軽く会釈をした。平井の姿を認めたマスターは、大きく目を見開いて息を詰まらせ、すぐに後ろに向き直った。そして棚からグラ 
スを二個、取り出そうと両腕を伸ばした。が、グラスを持つ手は明らかに動揺で震えている。それらを台に置き、今度は酒瓶を手に取っ 
た。次にこちらを向いた時、グラスには白く透明な酒がなみなみと注がれていた。彼は覚束ない手先で、グラスをカウンター席に置く。 
「このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい」 

337 名前:1 [] 投稿日:2005/07/14(木) 21:59:31
まずあんたがおちけつ。席についた俺達は、挨拶代わりのテキーラを一気に飲み干した。テレビ番組を見ていると一気飲みが基本とでも 
いうようにやっているが、正直死ぬかと思った(実話)。 
「マスター相変わらず無口ですね」 
と平井。マスターは照れを隠すように、無言で俺たちのグラスに二杯目を注いだ。平井の言う通り、元来人と話そうとしない俺でも驚く 
くらい無口なようだ。ちなみに二杯目ともくると、テキーラなど滅多に飲まない俺にとっては嫌がらせもいい所だ。 
平井は店内を見回して、ひどく懐かしげな表情を浮かべている。壁面の古めかしさからして、どうやらこの酒場は襲撃の中でも大きな被 
害を被らずに済んだ様だ。 
「懐かしいな。僕はここで歌っていたんですよ」 
「そういえば平井は歌手だったんだよな」 
「ええ。昼間は野良仕事をして、夜はこのバーボンハウスで歌を歌わせてもらっていたんです」 
俺は平井につられて店内を見ている内、夕食を取っている一団に目を奪われた。上は15歳くらいから下は2、3歳までの子供達。それが 
皆、一様に(´・ω・`)のような顔をしていのだ。俺が平井の肩を叩くと、 
「マスター、また子供生まれたんですか。これで何人目ですか?」 
案の定、マスターの子供達のようだ。 
「うん、「8人目」なんだ。仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない」 
いや、子沢山は別に謝るようなことではないと思う。 
「この店は変わってないが、村はだいぶ変わりましたね。思い出のある場所はほとんど焼けてしまった」 
平井の言葉に、マスターは少し寂しそうな顔を見せた。しかし、すぐにこうきり返した。 
「でも、この現状を見たとき、お前はきっと言葉では言い表せない「希望」みたいなものを感じてくれたと思う。混沌に支配されようと 
する今の世の中で、子供達にそういう気持ちを忘れないで欲しい、我々はそう思って半ば廃墟と化したこの村を立て直したんだ」 
平井は口元を緩めて頷く。 

338 名前:1 [] 投稿日:2005/07/14(木) 22:00:10
「そうですね。俺がえなり討伐をできないでいるというのに、この村は既に歩むべき道を見つけている」 
その胸の内には、村の復興を手伝えなかったことと、仇討ちが果たせないでいることへの悔恨の念があるのかもしれない。平井はそれら 
を飲みこむように、二杯目のグラスを一気に空けた。俺もそれに続いて飲み下した。自分で頬を叩いて、辛うじて意識を保つ俺。平井も 
結構キテいるようだ。 
そんな俺達を見て、マスターはニカッと並びの悪い歯を見せた。 
「じゃあ、注文を聞こうか」 
俺達はマスターの心づくしの料理をご馳走になった。食事を終えた後、俺は店に平井を残しえ早々に退散した。積もる話もあるだろうと 
気を利かせたのもあるが、実際のところ、俺自身酒が相当回って限界に近付いていたのである。 
ふらつきながら宿の自室に着き、一息つく俺。ズボンを脱いで、パンツ一丁になる。 
その時、ノックの音がした。誰だろうか。この村で、俺を訪ねてくる人間などいるはずがないのに。 
「はい。どなたですか?」 
「……平井の妹のあいです」 
「あいさん?」 
俺は脱ぎかけたズボンを慌てて履いて、ドアを開けた。そこにはあいが俯いて佇んでいる。 
「どうしたんすか?こんな時間に。平井ならまだマスターのとこだと思うけど」 
「実はあなたにお願いがあって来たんです」 
とりあえず部屋に招き入れると、彼女は依然として思いつめたような面持ちで俺の目を見つめる。俺はズボンがずらないか心配でならな 
い。慌ててベルトを締め忘れたのだ。 
「で、お願いって?」 

339 名前:1 [] 投稿日:2005/07/14(木) 22:01:11
「兄さんの……兄のえなり討伐を、何とか思い止まらせてもらえませんか?」 
唐突に何を言うのだろう。俺は面食らった。と同時に、ズボンがずり下がらないように必死に手で上げる。 
「そ、そんなこといきなり言われても、ただでは……」 
絶妙なタイミングで痰が喉に絡んで、俺の言葉を詰まらせた。“ただではやめるはずがない”、そう言おうとしたのが、 
「勿論タダでとは言いません」 
完全に勘違いさせてしまった。あいは覚悟を決めた顔で、俺に寄り添ってくる。あれだ。悪代官に父親の弱みを握られ娘が、止むに止ま 
れず覚悟を決めて代官に抱かれる。あの時の目だ。というか、俺はそこまで悪人面なのだろうか。 
「そ、そんな!」 
ナイスタイミングで、俺のズボンがスルリと床に脱げ落ちた。 
                                                                 後半に続く 

344 名前:1 [] 投稿日:2005/07/14(木) 23:42:36
今日はここまで。

>>340
あ、悪ぃ。台詞一箇所端折ったらモデルの名前も一緒に消えてたよ。加藤あいな。

あと妹は妄想じゃないから。

373 名前:1 [] 投稿日:2005/07/20(水) 19:00:15
第32話(平井ルート後半) 
咄嗟にしゃがみ込んでズボンを上げた所に、あいの顔が急接近する。 
「おわ、ちょ、待って!」 
「待てません」 
せっかく履き直した俺のズボンが、彼女の手で再び下ろされた。 
「いや、ほんとまずいから」 
俺は負けじとズボンを上げる。 
「兄の為です」 
更に負けじとあいが下げる。 
「まず話し合おう」 
もう必死になってズボンを上げる俺。 
「苦痛は早く済ませたいんです」 
それでもあいは下げる。 
「だからあんた勘違いしてる!」 
俺、上げる。 
「何がですか!」 
あい、下げる。 
「“タダでは”ってのはそういう意味じゃない!!」 
あげ(ry 
「じゃあ、どういう意味なんですか!!」 
sage 
「コントか!!!」 
いい加減業を煮やした俺は、あいの両手首を強く握った。激しいズボン上げ下ろし合戦に、二人とも肩で息をしている。 
この光景、傍目から見ると変態同士の奇行に映ること請け合い。 
汗だくの俺は、疲れ果ててベッドに腰掛けた。 
「平井はただではえなり討伐を止めないだろうって、言おうとしたんだよ」 
「え……そうなんですか?」 
ようやく自らの強引な思い違いに気付いたあい。顔を真赤にする彼女に、俺は自分の隣を手の平で指した。おずおずと 
そこに座るあい。 
「何で平井を止めたいんだ?」 

374 名前:1 [] 投稿日:2005/07/20(水) 19:00:52
俺の問いに、あいは少し間を置いて話し始めた。 
「千乃(菊間)は、兄さんを愛していなかったんです」 
彼女の話を要約するとこうだ。ある日、村に立ち寄った旅の吟遊詩人があいに忠告した。平井の恋人千乃は隣の大陸では 
有名な詐欺師だと。未成年を酒場に呼び出して酒をすすめたり、男をたぶらかして金銭を搾るだけ搾り取る。挙句の果て 
に結婚資金を奪って姿を消すことを繰り返してきた魔性の女だと。 
「彼女は巧妙に正体を隠していたわ。兄さんは結婚も考えていたようだけど、千乃自身にはそんな気はさらさらなかった 
はず。兄さんを利用するだけして、姿を消そうとしていた。そんな人の弔いの為に、兄さんが命を危険に晒すのを見たく 
ないんです」 
訥々と語る彼女の目尻から水滴が伝った。心底兄のことを心配しているようだ。 
「なるほど……」 
俺はしばし黙考した。そして、 
「わかったよ。明日、俺の口から平井に言ってみる」 
「ありがとうございます。お願いします」 
翌朝、俺は平井を村外れの丘に誘った。彼を説得するのに、何かと衆目がある村の中よりも、人気の無い場所の方が都合 
が良いだろうと思ったからだ。俺達は無言で小高い丘へと向かう。昨晩の雨のせいで地面が所々ぬかるんでおり、ドジな 
俺はしばしば滑って転倒しそうになった。 
「えなり討伐を諦めてくれないか?」 
唐突な俺の申し出を聞いても、平井は想定内という顔で、別段驚いた様子はない。 
「誰に頼まれたんですか?」 
「お前のことを心配してる人がいるんだ」 
真剣な口調の説得モードで話しかける俺に、 
「その表情から察すると話しても時間の無駄ですね……わかりました。そこまで言うなら、僕と闘ってください」 
意表を突く提案。俺は、彼の意図を理解できずに訊き返す。 

375 名前:1 [] 投稿日:2005/07/20(水) 19:01:58
「どいういうことだ?」 
「あなたが僕を倒せるだけの実力を持っているなら、僕はえなり討伐をあなたに任せる」 
そう言う平井の瞳には、普段の温厚な彼ならば決して見せない敵意が漲っている。 
「わかった」 
返事が戦闘開始の合図になった。互いに構える。間合いは近い。張り詰める空気。平井は普段背中に背負っている刀を、 
今日に限っては腰に提げている。彼が半身を捻って身を沈めた。 
風が止まった。 
「本気で行きます!」 
彼が放った瞬速の居合い抜きを、俺は脊髄反射そこのけの勢いで捌いた。初めて感じる平井の攻撃の重み。次いで放った 
俺の反撃が、平井の返す刀とぶつかり合い火花を散らした。両者の実力は完全に拮抗している。 
飛び退いて一度間合いを調整して、今度は俺が突進を仕掛けた。激しい剣撃の応酬が繰り広げられ、掠り傷ではあるけれ 
ども、お互いの身体に幾多の傷が刻まれていく。そして、ふとした瞬間に、平井がぬかるみに足を取られて体勢を崩した。 
そのごく短い隙に、俺は彼の首筋を捉えた。しかし、そこで俺の心に逡巡が生まれた。平井は言う。 
「あなたは強くなった。異世界人の特性を考慮しても、最初出会った頃とは段違いだ」 
剣を払い除けられたと思うと、俺の腹部に強烈な前蹴りがめり込んだ。 
「だが、目的の為に情を捨てることを出来ないでいる。躊躇いを含んだ剣は概して死につながるんです」 
「く……」 
ぬかるみに仰向けに倒れてうめき声を上げる俺に、平井は吐き捨てる。 
「僕を斬る覚悟もできないくせに、えなり討伐を止めようとは片腹痛い」 
平井の姿が深田に重なった。俺の中で言いようの無い力が湧き上がった。圧倒的に不利な体勢。そこから放った俺の攻撃を、 
平井の刀が受ける。渾身の力の衝突。気付いた時には、双方の得物が宙を舞っていた。俺は素手で反撃に打ち出るべく立ち 
上がった。しかし、平井は間髪を入れず、胸元から匕首を取り出して突きつけた。 
「これで決着です」 
匕首の先が俺の眉間に向けられた。と、その時である。 
「やめて!!兄さん。その人は、その人は私の頼みを聞いてくれただけなの」 
あいが俺と平井との間に割って入った。 
「やっぱりお前か」 

376 名前:1 [] 投稿日:2005/07/20(水) 19:02:37
全て承知していたという風な口調。 
「ごめんなさい。でも、私、兄さんの身に何かがあったらと思うと……」 
流れる涙で言葉を続けられず、立ち尽くすあい。 
「千乃は他の大陸では有名な詐欺師だったんだ。平井の金が目当てだったんだよ。そんな女の仇討ちに、命を賭ける意味が 
あるのか?」 
泥を払いながら立ち上がった俺は、平井に真実を告げた。しかし、平井は首を左右に振った。 
「そんなことは知っています」 
「え!?」 
思いも寄らない答えに、俺とあいは絶句した。 
「知っていたんです。千乃が詐欺行為を働いていたってこと。でも僕は彼女の愛を信じていたんです。それは今でも変わり 
ません。あの襲撃の夜、僕は結婚資金だけでも持ち出そうと燃えさかる自分の家に飛び込んだ。そこに彼女も来てくれたん 
です。僕を助けようと思っての行為だったに違いない。でも彼女は落下した梁の下敷きになって死んでしまった。その時の 
彼女の眼が僕の脳裏に焼きついて離れないんです」 
そう語る平井の哀しげな眼を目の当たりにして、俺は言葉が出なくなった。 
千乃は本当に平井を助けに家に入ったのか。或いは結婚資金だけを取りに戻ったのではないか。それは今となっては確かめ 
ようがない。しかし、事実と言うものは、実は瑣末なことに過ぎないかもしれない。平井が彼女に愛を感じていたこと。そ 
れが唯一の真実であるわけで、それはそれで万事おkのように思える。 
「あい。確かにえなりを倒すことは僕にとっての復讐だ」 
平井はいつもの穏やかな笑顔で、唯一の肉親である妹に語りかける。 
「でも皆と一緒に旅を続けている内に、僕の中にもう一つの動機が生まれてきた。使命感とでもいうのかな。この世界を守 
るという使命だ」 
ここで、平井はあいの頭を優しく撫でた。 
「ごめんな。あい」 
「兄さん……」 

377 名前:1 [] 投稿日:2005/07/20(水) 19:03:21
あいは兄の胸に飛び込んで泣きじゃくった。俺はその様を傍から見守るしか出来なかった。助っ人のはずが形無しである。 
瞬く間に一週間は過ぎた。静かな村で過ごした日々は、決戦への力を蓄える上での最上の栄養になった。ここまで心の底か 
ら安らぐことは、現実世界では有り得なかったことだ。 
今日は、束の間の休息を終えた俺と平井がシフィーロに向かう日。数人の村人が見送りに来てくれた。その中にはあいの姿 
もある。 
「兄さん。必ず生きて帰ってきてね」 
心配そうな口調は変わらない。しかし一週間前の彼女と違うことがある。それは眼差しの奥底で兄の生還を確信しているこ 
とだ。 
「ああ。僕は大丈夫」 
平井は力強く約束した。あいは俺に向き直った。 
「……あの、あなたもきっと帰ってきてください」 
「え、俺?」 
「はい……」 
どうしたわけか、彼女は居心地悪そうにうつむいた。 
「あ、ありがとう」 
小さく礼を言う俺。それを見ていた平井が、怖いくらい満面に笑みを浮かべた。そして小さく漏らした。 
「あいは絶対に渡しませんからね」 
「え?何?何?」 
聴き逃して問い返す俺を無視して、平井はさっさと馬を走らせた。 
                                                                 続  く 

甜歌ルート

カエラルート

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