異世界ファンタジー編 第32話(カエラ)
- 436 名前:1
[] 投稿日:2005/07/28(木) 21:37:54
- 第32話(カエラルート)
「カエラと一緒に行っていいか?」
「は?私?」
瞬時にカエラの表情が歪んだ。例えるなら、キモヲタから告白を受けた女のそれに似ている。
「め、迷惑?」
選択肢としてカエラルートを設けた手前、俺は一応カエラに問うてみる。
「……まぁ、いいけど」
渋々承諾してくれた。ルート開通。妄想家の面目躍如。
「ねぇねぇ、おにいちゃん」
甜歌が俺の袖を引っ張った。
「どうした?」
「カエラと何かあったの?」
甜歌の尋ねる声は、カエラを気にしてか、ひどく小さい。俺も自ずと小声になってしまう。
「何かって?」
「だって、最近おにいちゃんにツンツンしてるもん」
それは俺も実感している。ちょうどヤックソ戦が終わった後からだ。そっけないというか、とげとげしいというか、
便所で遭遇したカマドウマ並に嫌悪しているというか、まるで今後ツンデレな展開を視野に入れているというか、
とにかく彼女の俺に対する態度は冷たい。何か嫌われるようなことでもしたのだろうか。
「わからないな」
俺はお手上げという風に、首を左右に振った。
「それじゃあ、また一週間後にこの食堂で」
平井の言葉に頷き合って、俺達は別れた。一時の別れ。各々がどこに行くかはお互いに敢えて聞かない。俺達は並
んで平井と甜歌の後ろ姿を見送った。
「さて、私達も行きましょうか」
カエラは市営厩舎の方向に歩き出した。しばらく歩いて、俺は思い立って歩を止めた。
「あ、その前に服屋に寄りたいんだけど」
自分が未だもって家電屋の制服に身を包んでいることに、今頃気が付いた。このままの姿で冒険を続けるのはいさ
さか恥ずかしい。
「その服でもいいと思うけど」
とカエラ。
「本気で言ってるのか?」
「あははは、道化師っぽくていいじゃない」
- 437 名前:1
[] 投稿日:2005/07/28(木) 21:39:10
- その哄笑、絶対に俺を馬鹿にしている。俺はすぐ側の服屋に入ると、適当に冒険者用の服装を揃えてもらった。早
速着替えて表に出ると、カエラの姿がない。
「あれ、カエラ?」
返事はない。辺りを見回すが、御馴染みのキノコカットは見えない。探しに行こうとも考えたが、俺は思い直した。
この場所を離れれば、またややこしいことになりそうだ。幼少期、フラワーフェスティバル会場で家族離散の憂き
目にあった苦い記憶が蘇る。
仕方がないので俺はその場で待つことにした。一体どれくらいの時間を待っただろうか。そろそろ痺れを切らし始
めた頃、ようやく聞きなれた声が背後から響いた。
「お待たせ」
俺はわざと不満げな顔を作って後ろを向く。
「お待たせって、人に断りなく一体どこへ……あ」
キノコがない。立っているのは確かにカエラ。しかし、ボリュームが大分減ってすっきりした髪型に。どこをほっつ
き歩いていたのかと思えば、美容院で髪を切って貰っていたようだ。
「似合う?」
自分でもいたく気に入っているようだ。
「あ、ああ。似合ってる」
ひとまず誉めておくに越したことはない。お互いに心機一転した俺達は、再び市営厩舎を目指して歩く。
「で、カエラはこの一週間をどこで過ごすんだ?」
「修道院のことが心配だから、一度帰ろうと思うの」
「なるほど。了解」
厩舎で馬をレンタルして、俺達はガシヒロを目指して街道を進み始めた。シフィーロから修道院に至る道程は結構な距
離があり、往路だけで丸1日かかる。魔物は出現こそするものの、完全復活を遂げた俺の俺専用異世界人専用聖剣とカ
エラのハルバートの敵ではなく、特に大事は起こらず順調に旅路は進む。
それにしても気になるのは、カエラのヘアスタイルである。やはり人間のイメージは髪型が負う所が大きい。俺がちら
ちらと彼女の横顔を盗み見るていると、カエラがそれに気付かれてしまった。
「私の顔に何か付いてる?」
- 439 名前:1
[] 投稿日:2005/07/28(木) 21:43:37
- 「い、いや、キノコが刈られてスッキリしたなぁって、なんてな。ハハハ」
俺は慌ててごまかすが、
「フォローになってないわよ」
痛々しい沈黙が訪れた。俺は極力彼女の方を見ないように、前方に視線を固めた。
そうして耐え難い時間を過ごしていると、見覚えのある円筒形の建物が見えた。カエラが所属している修道院だ。だが
少し様子がおかしい。以前訪れた時は老朽化が進み廃院同然だった。それがどうしたことだろう。人影がちらほら見え
て、補修工事用のやぐらまで組まれているではないか
「なぁ、カエラ。補修工事が始まってるみたいだけど?」
「まさか……」
カエラは修道院に向けて全速力で馬を走らせた。俺もそれに続く。修道院に近付くに従い、幾人もの職人が忙しなく出
入りしているのが確認できた。補修工事はかなりの急ピッチで進められているらしく、以前壁に空いていた幾つもの穴
ぼこが、既に見る影もなく綺麗に修繕されている。
修道僧が3人、表で工事の様子を満足げに見守っている。そのうちの一人が俺達に感付いて、真ん中の一番老齢と思わ
れる僧に耳打ちした。老修道僧がこちらをに振り向く。
「院長様……」
カエラが小さく漏らした。どうやら老修道僧はこの修道院の院長(津川雅彦)のようだ。カエラは足早に院長の元へと
走り寄る。俺はオプションよろしくその斜め後ろについて歩く。
「院長様、指示を守らず修道院を留守にして申し訳ありませんでした」
頭を深々と下げるカエラ。修道院長は眉を顰めた。
「うむ。その点は確かに戒めるべきだな」
「はい……」
「しかし、それを含めても、今回お前が携わったヤックソ討伐の功績は大きい」
「知っていらしたんですか!?」
「ああ。お前は我が修道院の誇り。今やここにとって、なくてはならない存在だ」
「院長様……」
「我々は喜んでお前を迎えよう」
修道院長はにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます!院長様」
- 440 名前:1
[] 投稿日:2005/07/28(木) 21:44:22
- よほど嬉しいのか、カエラは感涙に咽んでいる。っていうか、ちょっと待て。今の会話の流れからすると、カエラがこの
まま修道院に留まること決定のように取れるんだが。
「カエラ、君はこのままここに、どぅふっ!?」
後ろから口を挟もうとすると、俺の口をカエラが手の平で塞いだ。いや、塞いだと言うより張り手。唇を覆う痛みに、俺
はしばし悶絶した。
「いいから黙ってて」
釘を刺すカエラは笑顔のまま。
「客人の部屋も用意しよう。今夜は泊まっていきなさい」
「ふぁ、ふぁぃ……」
腫れた唇を押さえている俺は、頷くしかなかった。
「さぁ、カエラ。中で今後のことについて話し合おう」
「はい」
院長はカエラの肩に手を置いて、修道院の中に消えていった。カエラは一体どういうつもりなのだろう。取り残されてし
まった俺の肩に、優しく手が置かれた。振り返るとアゴヒゲ気持ち青めの修道僧が。
「客室にご案内しましょう。ウホッ」
夜がやってきた。貞操の危機を感じつつ、ウホッな僧に院内を案内してもらった俺は、今つつましやかな食事を終えて回
廊を歩き回っている。
僧達は終課を終えて既に就寝中である。現実世界で言えばまだ18時くらいだろう。これで夜中の2時には起きて、翌日
のお勤めを始めるのだからたまらない。俺のような不規則な生活を送る人間には到底つとまるまい。
回廊を貫くように流れる川を見つめながら、俺は物思いに耽る。といううのも、昼のカエラと院長の会話が引っ掛かって
ならないのだ。ラミハの牢獄で交わしたカエラとの会話を思い起こす限り、彼女はこの修道院にとって失敗を頻発するお
荷物だったはず。それを院長は修道院共々カエラを置き去りにした。何故、今頃になってこの場所に帰ってきたのだろう。
教徒をこの地に呼び込み、地域の有力者の経済的支援を得る方法を見出したということか。そこにきて、まるでカエラの
帰院を待ちかねていたようなあの態度……答えは一つ……
「あ、ここにいたの」
息を切らせて、カエラが俺の元に駆けつけた。
「聞いて聞いて。私助修士から聖歌隊修道士に格上げされることになったの!」
歓喜に輝く瞳で報告するカエラ。しかし、俺は至って冷静に切り返す。
- 441 名前:1
[] 投稿日:2005/07/28(木) 21:44:57
- 「えなり討伐はどうするんだ?」
「そこら辺は大丈夫。えなりを倒して戻ってきてからの話だから。しかも、えなりとの戦いにはお供も付けてくれるって」
「そうか」
「更に聞いて驚け。明日の公開ミサに出ることを許されたの。街の有力者の前で私を紹介してくれるんだって」
「そうか」
「そうかそうかって、味気ないわね。ちょっとくらい喜んでくれてもいいんじゃない?」
ここ最近冷淡だったカエラが、今夜はかなり機嫌がいいようだ。しかし、逆に俺はおぼろげだった不安が、確かなものへと
変わっていくのを感じて沈鬱な表情。
「何か言いたいことがあるの?」
「い、いや、別に」
「い〜え!その顔は絶対に何か言いたいって顔よ」
カエラは俺の顔をのぞきこんだ。しばらく逡巡したが、俺は重苦しく口を開いた。
「院長は、本当に教区と修道院のことを案じて帰って来たんだろうか」
「どういうこと?」
カエラは俺が何を言っているのか皆目理解できないと言う表情。
「院長がここに戻ってきたのは、何らかの利益が得られると考えたからだろう。その、何ていうか……院長が必要としてい
るのは君じゃなくて、ヤックソを倒した君の名声なんじゃないだろうか」
「……つまり?」
カエラの拳が小刻みに震える。
「君を広告塔にしようとしている」
「な、何を言うの!!その言葉許せない!!」
激昂したカエラは、俺の胸倉を掴んで拳を振り上げた。しかし、俺は視線を逸らすことをせずに、彼女の瞳を見据える。
「憶測でよくもそんな……」
「俺もこれが憶測で済んでくれればいいと思っている」
カエラは胸倉を掴む力を緩めると、踵を返して就寝所に向かって歩き出した。ふと立ち止まり、俺に振り返ることなく、ま
るで独り言のように力なく呟いた。
「ごめんなさい……でもね、そんなはずはない。そんなはずは……私は必要とされているんだから……」
俺は自分の迂闊な発言を呪いながらも、彼女の後姿を見送るしかなかった。
続 く
- 475 名前:1
[] 投稿日:2005/08/02(火) 23:34:38
- 第32話(カエラルート 後半)
翌日行われた公開ミサは、俺の予想通りの展開だった。
ヤックソを倒したカエラの名は既にこの地域一帯に広まっており、彼女を一目見ようと大勢の教徒が訪れて、修道院はまるで
ライブ会場のような有様。聖堂内は信心深い教徒から普段礼拝などしないまで満員御礼、溢れかえった。そしていよいよ始ま
った公開ミサ。ミサ自体は静粛かつ滞りなく執り行われた。しかし最後にカエラが紹介されると、途端に会場は騒がしくなっ
た。彼女が中央に出るや、人々は歓喜の声を上げる。実際はこちらがメインイベントだったようだ。その扱いはジャンヌ・ダ
ルクよろしく、神に選ばれた生きながらの聖女のよう。
ミサは午前中一杯を費やし、それが終わると俺は僧侶達とともに質素な食事をとった。そうして食事を終え食堂から出る際に、
俺はカエラの姿を見出した。慣れない状況にいることもあり、心なしか疲れ気味のようだ。
俺は2人きりになったのを見計らって、後ろから彼女の横についた。
「カエラ、大丈夫か?顔色良くないみたいだけど」
「え?いえ、私は大丈夫。ありがとう」
「この後は何か予定あるのか?」
「これから院長様と一緒に領主様のお屋敷に行くの」
なるほど。カエラの足は修道院二階の院長室に向かっている。
「それじゃ、私は行くからあなたもたまには聖書でも読んでなさ……あれ?先客がいる」
ドアをノックしようとして、ふとカエラは手を止めた。近付いてみると、中から話し声が聴こえる。俺は身体をドアのすぐ側
まで寄せ、隙間から漏れる会話に耳をそばだてた。
「何してるの?」
「し!会話が聴こえる」
「ち、ちょ、盗み聞きなんてはしたないわよ」
「静かに」
俺はドアの僅かな隙間から中の様子を盗み見る。修道院長と、恐らく副院長と思われる男(高橋克実)が座っている。彼らが挟
むテーブルには、人間の頭部ほどの白い布袋が置かれている。院長はその袋を開けて、中から金貨を取り出した。袋の大きさか
らして、相当な額の金が詰まっていることは想像に難くない。まるで品質を見定めるかのように金貨を弄びながら、院長は薄笑
いを浮かべている。
- 476 名前:1
[] 投稿日:2005/08/02(火) 23:35:17
- 俺は耳に神経を集中させた。
「一度は捨てたこの修道院が、ここまで役立ってくれるとはな」
「これも全てあの娘のお陰ですな。院内きっての劣等生が聖女に化けてくれたのですから」
どうやら2人は、カエラのことについて話しているらしい。やはり彼女の名声を利用して一財産作ろうと目論んでいるらしい。袋
を満たす金貨は、布施乃至は有力者からの援助金だろう。
「でも、よく彼女が帰ってくると分かりましたな」
「カエラは私に対して強い信頼の念を抱いている。この修道院に戻ってくることは分かっていたよ」
修道院長は午前中のミサと同じ穏やかな微笑を浮かべている。それ故に、会話の内容を考えると、余計に彼の邪さが強調される。
「しかし、カエラはえなり討伐隊に参加するつもりのようですが?」
と副院長。
「だから供を付けるんじゃないか。彼は百戦錬磨の僧兵で、いわばカエラの護衛だ。身を挺して彼女を守るように指示してある。
万が一、彼女が死亡することがあっても、その遺骸を持ち帰るよう命じてある」
俺は息を呑んだ。
「聖遺物……ですか」
死者でさえ商売道具に見据えている。副院長も、院長の余りにも非情な算段には、さすがに戦慄を覚えているようで、すっかり言
葉を失っている。
「どんな人間でも探せば利用価値はあるものだ」
院長は高らかに笑った。
俺は吐気がして隙間から視線を外した。予感が的中した。やはり院長はカエラを利用して一山当てることしか考えていない。この
ことを傍らにいるカエラに伝えるべきか、伝えずにおくべきか。俺はドアから顔を離し、ゆっくりと身体を後方に向けた。すると、
すぐ後ろでカエラが俯いているではないか。どうやら院長達の会話を聞き入っていたようだ。
「カエ……ラ」
表情は見えない。しかし視線を下ろすと、彼女が固く握った両の拳は小刻みに震え、そこから真っ赤な血が滴り落ちている。
俺は急に身体が熱くなって、
「よ、よし!俺が院長に一言物申して……」
勢いに任せてドアを開けようと、向きを変えた。だが、その肩にカエラの手の平が乗った。
「……やめて」
- 477 名前:1
[] 投稿日:2005/08/02(火) 23:36:20
- 院長室にはいることなく、覚束ない足取りで去るカエラ。名前を呼んでも応ずることなく幽鬼のように歩く。階段を下り、回廊を
通って、彼女の足は修道院裏の菜園にある無花果の木の下でようやく止まった。
「あなたの言う通りだったわね」
「……」
言葉が見つからない。この状況で軽々しい慰めなど出来るはずがない。
「院長様は私のことなんて思ってくれていなかった。この修道院と一緒に私を捨てたんだ……そして今、私を利用しようとしている」
いつしかカエラの頬を涙が伝っていた。
「それもそうよね。何をやらせても空回りで失敗ばかりだもん。誰だって愛想をつかせちゃうよね……」
カエラは右の掌で自分の左手首を掴んだ。右手に力が込められるのがわかった。
「誰だって……」
俺が止めに入る間もなく音がした。低い、まるで木の枝でも手折るような音。俺はカエラの顔を見た。苦痛。激しい苦痛に顔を歪ま
せている。しかし、これは決して骨折による痛みだけではない。絶対的な信頼を置いていた者に裏切られ、失望と絶望に満たされた
心が漏らす嗚咽に他ならない。
その場を動けず見つめる俺。いや、見とれている場合ではない。カエラの腕が折れて垂れ下がっているのに。俺は他の僧侶を呼ぶべ
く踵を返した。と、その時、背後から声が聞こえた。
「待って下さい」
ひどく落ち着いた声。思わず立ち止まって首を後ろに向けるが、そこにいるのは当然のことながらカエラだけ。だが、彼女の目は明
らかに先ほどまでと変わっている。カエラであってカエラでない者がここにいる。
「あなたは……」
「リエ(木村カエラりえ)」
「リエ?」
この口調、聞き覚えがある。あれは確かラミハの闘技場だ。ヤックソとの戦いでカエラが見せた変貌。その時の彼女の口調だ。
「ええ。私はカエラのもう一つの人格。そして……」
リエに人格交代したカエラは、右手を自分の折れた左腕の患部にかざした。微弱な白い光がこぼれて、しばらくすると骨折していた
はずの左手首が持ち上がった。リエは五本の指を動かして回復術の効果を確認した。
「この子を守る者」
- 478 名前:1
[] 投稿日:2005/08/02(火) 23:36:55
- リエは全てを話してくれた。カエラは両親の厳格な教育方針の下で、常に優秀な姉弟に比べられて育った。失敗することを許されず、
失敗の度に自傷することで自らを苛んできたのだという。精神的に不安定になって姉弟に遅れを取り、結果として両親に見放され修
道院付属の寄宿学校に入れられてしまったのだという。カエラは自傷の苦痛から逃れる為に、回復術を得意とするリエという人格を
生み出し、自分自身で傷を癒してきた。
「私は本当は居てはいけない存在なんです。でも、あなたなら或いは私とカエラを一つにしてくれるかもしれない」
「俺が?でも、俺にはそんなことはとても……」
戸惑う俺。その問いかけに答える代わりに、リエはにこりと微笑んだ。同時に彼女は崩れ落ちた。俺はあわやというところで、彼女
の身体を抱きかかえた。どうやら気絶しているだけのようだ。
(俺がカエラを一つにする?どういうことだ……)
そこへ修道院長が姿を現した。その背後には副院長と数人の僧の姿が見える。
「カエラ!これは一体どうしたことだ?」
こちらを一瞥するなり院長は声を上げた。こいつが全ての元凶だと思うと、俺の中でいいようのない感情がこみ上げていた。
「悪いけど、あなたの金の卵は俺が連れて行きます」
院長はなかなかどうして聡明なようで、金の卵と言う言葉で全てを理解したらしい。眉を吊り上げて歯軋りをした。
「止めろ!!奴を止めろ!!!」
恐らくはカエラのお供に付くはずだった僧だろう。モーニングスターを携えた男(中尾。小学校時代。ビックリマン10弾くらいまで
全キャラ暗誦が特技)が前に躍り出て、俺に殴りかかってきた。しかし俺は動じることなく、カエラをその場に寝かせて、俺専用異世
界人専用聖剣を構える。次いで振り下ろされるタイミングを完璧に読み、一刀の下に銅製のモーニングスターを両断した。格の違いに
恐れを為す僧。
激昂する修道院長。
「どういうつもりだ!」
「俺はカエラ自身に頼まれたんだ。一つにしてくれと」
- 479 名前:1
[] 投稿日:2005/08/02(火) 23:37:36
- カエラを肩に担ぐ俺。そこに本性を露わにした院長が掴み寄ろうとする。
「何を訳の分からんことを!!」
その鼻先に、俺専用異世界人専用聖剣が突きつけられた。
「それ以上近付くなら、殺します」
「ぐ……貴様」
立ち尽くす僧達を尻目に、俺は厩舎に向かった。厩舎で装備品を馬に積んでいると、カエラが目を覚ました。
「ん……ここは」
「行こう。ここを出るんだ」
「え、あ、ひょっとして私、また人格が……」
「馬に乗れよ」
俺は彼女の発言を遮るように、馬を指差した。カエラも状況を飲み込んだようで、馬に飛び乗った。そんな彼女に対して俺は一言付け
加えた。
「君は必ず俺が一つにするから」
自分が吐いた臭い台詞に、胸やけを起こしながら馬を走らせる。追走するカエラはただただ無言で、それでもどこか吹っ切れたような
微笑を浮かべていた。
続 く
甜歌ルート
平井ルート
第33話へ→
←目次