異世界ファンタジー編 第32話

 

214 名前:1 [] 投稿日:2005/07/01(金) 00:52:53
第32話 
心地よい風が頬を撫でた。ゆっくりと目を開けて身を起こすと、そこは見渡す限りの大平原。微かな涼風が、青い大地を 
揺らしてサラサラと音をたてている。 
「夢か」 
俺は二度寝に陥るべく、再び瞼を閉じた。が、 
「……って、夢じゃねえ!」 
勢いよく跳ね起きるや、俺は周囲を見回した。彼方に聳える山々、所々まばらに生える木々。間違いなくここはあのファ 
ンタジー世界。更に今自分がいる場所に見覚えがある。最初この世界に降り立った時に俺が倒れていた場所だ。同じ場所 
からリスタートとは、皮肉なものだ。 
俺は手元の俺専用異世界人専用聖剣を握り、緩慢な動作で立ち上がった。 
「問題は平井達がどこにいるかだな」 
早くも途方に暮れようとしていると、前方に見覚えのある3つの影が。まさかと思いその方向に走ってみると、 
「おぅわ!!もう見つけた!?」 
当の平井達ではないか。何と言うご都合主義。しかし、様子がおかしい。彼らの向こう側に集団が見える。遠目で見ても 
普通の人間ではないと分かる連中。 
「襲撃されているのか」 
相手は亜人のようだ。ゴブリン、ラットマン、リザードマン、ノールなどなど亜人系が盛り沢山。旅人を襲っては金品を 
強奪する追い剥ぎの類だろう。だが、ただの追い剥ぎならまだいいのだが、その数が半端ではない。恐らくギチギチコン 
パクトにまとめればイナバの物置に乗りそうなくらいいる。つまり100体くらい。 
とか何とか言っているうちに戦闘が開始された。甜歌が後衛から対集団魔術を詠唱している。その背後から忍び寄るノール。 
「あ!?」 
気付いた甜歌が短い悲鳴を上げた。ノールの三日月刀が甜歌の脳天を狙う。そこへこっそりと忍び寄っていた俺が、ノール 
の背中に剣を振り下ろした。 
「後ろから攻撃とは士道不覚悟だぜ」 
自分も背後から攻撃しておいて、我ながらナイス棚上げ。甜歌の表情が、驚きから安堵に変わった。 

215 名前:1 [] 投稿日:2005/07/01(金) 00:53:14
「お、おにいちゃん……だ、駄目だよ!何で戻ってきちゃったの!?」 
「いや、色々思うところがあってね。甜歌、ごめんな」 
「え?」 
「この前はひどいこと言っちゃって」 
「そんな……」 
今にも涙を落としそうな甜歌の頭を撫でると、俺は再び修羅場に目を移した。視界に入ったのは、ハルバートを振り回しな 
がら駆け回るカエラの姿。俺は迫る敵をなぎ倒しながら、彼女に近寄る。 
「調子はどうよ?」 
「何故ここに……言ったでしょう。あなたはもう戦う理由が無いって」 
俺はカエラと背中合わせになって、お互いの死角を無くした。 
「そんなことない。理由は幾らでもある」 
「どんな理由があるの?」 
「やっぱ深田さんを守りたいからだな」 
迫り来る亜人達を、俺達はナイスコンビネーションでことごとく撃破していく。 
「そして君のことも」 
「な!?」 
カエラは狼狽して、ハルバートの狙いを外した。俺はその前に回って、すかさずオークの攻撃から彼女をかばいながら反撃 
する。一撃の下に絶命するオーク。 
「い、今なんて言った?」 
うろたえるカエラに対して、 
「さてと、この辺りは一段落したようだな」 
俺はわざとらしく知らん振りをし、今度はリザードマンに囲まれて苦戦している平井の元に走る。 
平井は10数体の敵に取り囲まれ時代劇の殺陣状態。痺れを切らして特攻をかけてきたリザードマンを平井の刀が切り裂く。 
すると激昂した他の連中が一斉に襲い掛かってきた。俺は援護すべく、それに割って入った。 
的が円になってとり囲むその中心で、俺達は言葉を交わす。 
「自分がしたことを分かっているんですか。一度ゲート石を使った以上、あなたはまた魔王を倒さなければ帰れないんです 
よ?」 
「あ。そういえばそうだな」 

216 名前:1 [] 投稿日:2005/07/01(金) 00:53:33
今気付いた。俺はまた魔王を倒さなければならない。深田も一緒に帰るとなると、2人の魔王を倒さなければならないという 
ことだ。 
「そういえばそうって、考えてなかったんですか」 
「まぁ、なるようになるよ」 
我ながらどこまでもアバウトだ。 
「深田さんと戦う覚悟を?」 
「うーん、わからん」 
攻撃を受け流しつつ、順番に切り込んでくる相手を確実に倒していく俺達。 
「わからんって、そんないい加減な……」 
「わからんけど、とにかく深田さんと約束したんだよ。一緒に帰るって」 
「でも、彼は有田と一緒に行ったのに」 
俺を戒めるように放った平井の重い一撃が、ゴブリンを肩から袈裟掛けに斬った。 
「だな。でも、俺には深田さんの真意は違うような気がしてならない。今回だけは自分の勘を信じてみたいんだ。彼女のホン 
トの本心聞くまではどこまでもストーカーしてやるよ、俺は」 
「希望的観測ですね」 
俺は最後に残ったリザードマンの腹部に聖剣を突き刺し、蹴り飛ばした。 
希望的観測。その通りだ。深田は魔族の子供を宿している。この如何ともしがたい状況において、俺はまだ幾ばくかの希望を 
抱いている。魔族の子供は50年経っても生まれないことがあると彼女自身の口から聞いた。或いは有田に何らかの弱みを握ら 
れているのかもしれない。その弱みを突きつけられ、魔王の側近として半ば強制的に連れ去られただけなのでは。自分でも度 
が過ぎた希望的観測。しかし、 
「たまにはいいだろ。ポジティブに行ってみるのも」 
十把一絡げの亜人達は全て討伐完了。俺達はようやく一息ついた。と、それも束の間、上空を大きな影が覆った。見上げると 
巨大な褐色の竜が、こちらを見ながら旋回している。 
「気をつけて。ドレイクよ」 
カエラが注意を促した。促されなくても、あれが危険ということはおおよその予測がつく。UO(専らオークマスク被って貧相 
な服着て洞窟で包帯売り)にも出てきたし。ラミハの闘技場で闘ったワイバーンと同じ竜の一種でありながら、よりドラゴン 
に近い存在だ。 
翼で風を起こしながら大地に降り立ったドレイクは、俺達を睨む。先制を掛けようと機会を伺うカエラを制して俺は前に出た。 
「ちょい待ち!無茶よ」 
「今の俺なら多分勝てる」 
「その自信の根拠は?」 
「さぁ」 

217 名前:1 [] 投稿日:2005/07/01(金) 00:53:56
とにかく身体が軽い。今までよりも敏捷に動ける気がする。いや、気がするだけではない。確実に自分の身体能力が上がって 
いるのが分かる。 
ドレイクが俺を叩き殺すべく振った尻尾。その先端に飛び乗った俺は、そのまま尾の上を伝って走り、腰部から背中へと一気 
に駆け上がっていく。そしてドレイクの首筋で止まると、鱗と鱗の隙間に狙いを定めて聖剣を突き下ろした。 
「ドレイクの体表に剣は通用しません!!」 
平井が叫んだ。確かに。まるで金属かというくらいに堅い。先端が突き刺さっただけで、どんなに力を込めても皮膚まで届か 
ない。怒ったドレイクが首をやたらめったら振り回す。俺は突き立てた剣にしがみついているのがやっと。俺ピンチ。 
「離脱しなさい!」 
カエラの怒声が耳に入る。しかし俺にはもう一つの呼びかけが聴こえている。俺専用異世界人専用聖剣が語りかけて来るのが。 
「お前を信じる!」 
突如ドレイクが岩山に向かって突進を始めた。どうしても俺を振り落とせないと悟り、岩山にぶつけようとしているのだ。迫 
る岩肌。しかし俺は間一髪で聖剣を抜いて離脱し、岩山に降り立った。猛烈なスピードで衝突した際の衝撃で、ドレイクの首 
筋の鱗がひび割れているのを俺は見逃さなかった。再びドレイクの首に飛び乗るや、俺は聖剣を逆手に構えて振りかぶる。 
「覚悟!!」 
突き下ろした聖剣は鱗を貫通し、竜の眷属の急所に深く沈みこんだ。血が飛沫を上げる。ドレイクは数歩よろよろと歩いたが、 
踏みとどまることができず、豪快に倒れ伏した。その青色の瞳は徐々に光を失っていき、しばらくすると死を湛えた薄暗い灰 
色と化した。対象の死を確認した俺は、俺専用異世界人専用聖剣を背中に背負う。極まった。久々に極まった。 
「剣技が以前にも増して冴えている。何かあったんですか?」 
刀を鞘に収めながら、平井が問う。 
「さぁ、俺もよくわからんけど、強いて言うなら禿しく調子(・∀・)イイ」 
ポジティブな気持ちを持つことは、ここまで人間を変えるものなのか。わだかまりがふっきれたような。現実世界に一度帰っ 
たことで、俺の中の何かが変わったようだ。 
「(・∀・)イイ!って……適当な答えねぇ」 
カエラが苦笑した。 
「おにいちゃん、(・∀・)イイ!」 
甜歌もはしゃぐ。四人で久々に笑いあった。 

218 名前:1 [] 投稿日:2005/07/01(金) 00:54:15
「じゃあ、シフィーロに行くか」 
俺達は一途シフィーロを目指す。っていうか着いた。実際は一日かかっているが、便宜上間は割愛。街はちょうど昼食時とい 
うこともあり、宿屋の食堂で軽食を取った俺達は、シフィーロ軍訓練所に向かった。そこでえなり討伐部隊を募集していると 
のこと。近付くにつれ、人だかりが大きくなっていく。 
「凄い人だな、おい。これ全部冒険者かよ」 
訓練所の正門は様々な装備をした冒険者で埋め尽くされている。 
「受付はあそこみたいね」 
カエラが開かれた正門の向こうを指差した。なるほど。看板にはえなり討伐部隊志願者受付案内所と表記されている。その下 
には一体何列あるのかという行列。俺達はその最後尾についた。これほどの行列に並ぶのは、故ポートピアランド(呉市)で 
ジェットコースターに乗った時以来だ。物珍しく思い、辺りをきょろきょろ見回す俺。すると、 
「あ」 
隣の行列に見知った姿が。 
「奇遇だな。お前達も参加するのか」 
ラミハで別れた岸部だ。鎖帷子を着込んで、トライデント(西遊記のイメージで)を抱えている。 
「前に言ってた面白いことってのは、このことだったんですね」 
「ああ。この歳になってなんだが、えなりを討ちとって一旗挙げてやろうと思ってな」 
ヤックソを倒す為にラミハに単身乗り込んだことといい、無気力な風体と反比例して熱いバイタリティを秘めた男だ。 
列に並んで一体何時間待っただろうか。ようやく受付の長机を前にして達成感に浸る俺達。パートと思しきおばちゃんに指示 
されるまま、書類に必要事項を記入していく。 
「ところで出発はいつごろになるんです?」 
合間に尋ねてみると、 
「一週間後だよ」 
「一週間……結構間が空くんですね」 
「世界中から冒険者を集めるてるからね。ある程度の期間を置かないと」 

219 名前:1 [] 投稿日:2005/07/01(金) 00:54:38
一体どれだけの規模の討伐部隊になるのだろうか。シフィーロの王は、それだけえなりに脅威を覚えているということか。 
手続きを終えた俺達は訓練所を後にし、シフィーロの大通りに戻った。強い日差しを避ける為、街路樹の陰に入る。 
「で、どうするの?これから」 
俺達は降って湧いた一週間という猶予期間について思案する。 
「激戦になることは間違いありません。これが最後の休暇です。一緒に行動するのもいいですが、各々でやっておきたいこと 
あるでしょうし」 
平井はみんなの顔を見回して賛否を求める。 
「うん。私はともかくあなた達はずっと一緒に旅してきたんだし、たまには自由行動ってのもいいんじゃないかな」 
カエラは平井の意見に同意したようだ。 
「ウチも賛成。でも、おにいちゃんはどうするの?」 
三人が一様に俺を見詰める。ゲート石がない以上、俺はまた自分の分の魔王を倒すまであちらの世界には帰れない。とりあえ 
ず誰かについていくか。 
「じゃあ、俺は……」 

<ここで分岐> 
@甜歌に同行する
A平井に同行する
Bカエラに同行する

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