異世界ファンタジー編 第33話

 

511 名前:1 [] 投稿日:2005/08/08(月) 23:25:05
第33話(前半) 
王都シフィーロは前代未聞の大混雑の様相を呈している。無論、えなり討伐隊に参加する者達が集合しているが為である。全国から選 
りすぐりの軍隊が招集されたのは当然のこと。加えて戦士、魔術士、武闘家といった一般の冒険者、果てには肉切り包丁を携えた肉屋 
の親父や昨日剣を初めて握ったニートまで、我こそはと志願者が今日という日の為に大挙して押し寄せた。 
港に目を移すと、幾本ものマストが目に飛び込んでくる。ドックには20隻ほどの帆船が停泊しているのが確認できる。いずれも無数の 
砲門を搭載しており、海戦にも対応できる軍船だと素人目にも分かる。 
一週間。長いようで短かい最後の休暇は終わり、それぞれの帰郷を終えた俺達は、再び港で合流した。 
「おっかしいなぁ」 
俺は所属票を片手に港内を歩き回っている。その後に甜歌達がとぼとぼとついて歩く。馬鹿げて広い上に、芋を洗うような混雑振りだ 
から、自分の所属する第13分隊を探す時点で手間取っているのである。かれこれ30分は歩き回っただろう。 
「お兄ちゃん、まだ見つからないの?」 
いい加減疲れ気味の甜歌がぼやいた。 
「まぁ、待て。ここはさっき見たところだから、多分あっち、いや、こっちか」 
「しっかりしてよね……」 
カエラが溜め息を吐いた。 
「いや、マジでおかしいんだって。これが第12分隊の船だろ。で、あっちが第14分隊のだから……」 
俺が指で指しなぞる跡に、3人は視線を追わせる。巨大な軍船が2艘停泊している間は、そこだけすっぽりと開いている。あるのは漁 
船らしき小さな船だけだ。 
「本当だ。第13分隊だけないですね」 
平井が目を点にした。ようやく彼らも分かってくれたようだ。とにもかくにも、俺達はすっかり途方に暮れてしまって、その場に立ち 
尽くしてしまった。周囲では分隊が着々とまとまっていく。そろそろ焦燥感に苛まれ始めていると、俺の肩を叩く者がある。 
「いつも4人一緒で仲良いなぁ」 
中年男性のどこかとぼけた声。振り返ると、そこには元ルックルック隊で自己破産経験のある岸部が、相も変わらず無気力な顔で立っ 
ている。 

512 名前:1 [] 投稿日:2005/08/08(月) 23:25:42
「岸部さん」 
「お前ら、この一週間で随分顔が変わったな。いい顔をしている」 
改めてそう言われると、俺達は恥ずかしくなって照れ笑いを浮かべた。確かにこの一週間で俺達は変わった。皆、どこか吹っ切れたよ 
うな顔になった。 
「もう大方の隊は集合を終えているようだが、お前らはどこの隊なんだ?」 
「実は自分達は第13分隊なんですが……」 
「第13分隊か。そりゃまた難儀な隊だな」 
岸部は顎を指先で撫でた。眼鏡の奥の瞳が妖しげにに光っている。 
「知っているんですか?」 
「ルックルック時代の俺の教え子が隊長をしているからな。ほれ、あそこだ」 
岸部の指す方向はやはり第12分隊と第14分隊の中間。そこは何度も確認した場所で、やはり軍船など……いや、待て。ひょっとして。 
「あ、あれなのか!」 
庭の隅のダンゴムシのごとくひっそりと停泊している漁船と思われた船。これこそが第13分隊の船だった。小さい。他と比べて明らか 
にスケールが違う。どれくらいかと言うと、1/100MGガンダムと1/144HGUCガンダムくらい。その上ボロい。著しく老朽化が進んでおり、 
砲弾の一発でも命中したなら木っ端微塵に弾け飛びしそうだ。 
「まぁ、しっかりやりな」 
「ありがとうございます」 
彼は自分の隊の列へと戻っていった。去り際に浮かべた薄笑いがひどく意味深に思えた。妖しげな眼光と言い胸騒ぎを覚えずにいられない。 
とにかく俺達は第13分隊の船に向かうことにした。足早に歩いていると、 
「ウチ達、仲良しだって」 
甜歌が先ほどの岸部の発言を思い出して嬉しそうに笑った。しかし、すぐにそれは哀しげな笑みに変わった。 
「ここに恭子おねえちゃんがいたら……」 
俺達は沈黙した。周囲を覆っていた喧騒が消えたように思えた。皆一様に無言で歩く。だが、しばらくして俺は甜歌の肩に手を置いて小 
さく、しかし力強く言った。 
「大丈夫。必ず深田は連れ戻す」 

513 名前:1 [] 投稿日:2005/08/08(月) 23:26:18
船に近付くにつれて、その小ささがより一層実感させられる。船を前にして2人の男が待機している。どうやら彼らも同じ隊に配属され 
た人間のようだ。2人はこちらに気付いて、嬉しそうに目尻を下げた。一人は30代くらいの小太りの男(ドランクドラゴン塚地)、も 
う一人は20代前半と思われる小柄な男(伊藤淳志)。 
「おぉ!お仲間やな。俺は塚地。よろしくな」 
小太りの男が握手を求めてきた。腰に肉切り包丁を提げ、背中に背負うリュックからは非常食とおぼしきソーセージが垂れ下がっている。 
一言で言うと肉屋の親父っぽい。 
「どうもよろしくお願いします」 
俺が塚地と握手をしていると、その横の小柄な男も挨拶をしてきた。 
「あ、あの、伊藤です。よろ、よろしくお願いします」 
その故意とも取れる挙動不審っぷりは完璧なまでにヲタを体現しており、背中の剣は真新しくまだ値札が付いたままだ。一言で言うとニ 
ートっぽい。 
まさか第13番隊の面子はこれだけなのか。他の隊が2,30人はいるのに、たった6人だけなのだろうか。おまけに2人の戦闘能力は 
未知数ときた。行き先に不安を禁じえない。だが、これから生死を共にする仲なのだから第一印象が肝心、俺達もとりあえず自己紹介を 
返した。 
そうしていると、 
「世の中のチャラチャラした野郎ども」 
小船の甲板から声が轟いた。13分隊メンバーは一斉にその方向に顔を向けた。小柄な女性が胸の前で腕組みをして立っている。何とも 
珍妙な、金魚のようなヘアスタイルをしていて、紫色のチェインメイルで身を覆っている。肩の上にはこれまた小さな猿が。 
「あたいが第13分隊の隊長摩邪(以前パーティのガヤで出したのとは別人で再登場)だ!」 
何故か彼女の声にはマイクパフォーマンスのようにエコーが掛かっている。そこに伊藤が口を挟む。 
「あ、あのぅ、13分隊って僕達だけなんですか?」 
数瞬、時が止まった。そして、 

514 名前:1 [] 投稿日:2005/08/08(月) 23:26:58
………はぁっ!?」 
摩邪は空気を読まない夏厨レスに苛立ちを覚えた時のように、顔を歪めた。 
「あああ、すみません。でも、えっと、その、他の隊はもっと人数が……」 
「お前なんて名前だ?」 
「い、伊藤ですけど」 
唐突に問われて、彼はおどおどしながら答えた。摩邪隊長がほくそえむ。 
「たった今から“カマドウマの繊毛に発生した原始的な黴の一種にも劣る低脳野郎”に改名な」 
「えぇぇぇぇぇぇ!?」 
伊藤は目を剥いてショックで小刻みに震える。いきなりの改名指示は冗談か本気か、摩邪隊長は彼を無視して言葉を続ける。 
「いいか。よく聞け。お前達は隊を分ける段階で最後まで所属が決まらなかった連中。いわばドッジボールのリーダー同士によって行わ 
れるチーム分けで、引き取り手がなくて残り、挙句の果てにハンデとして引き取る側が先攻を譲られるような奴らだ。そんなカスの集合 
体であるこの隊に、他の隊並みの人員を……」 
摩邪隊長は急に言葉に詰まった。エコーが切れたのである。慌てて腰袋から緑色の液体で満たされた壜を取り出し、それを飲み干した。 
どうやらあの液体がエコーの素らしい。 
「ぁ、ぁ、テステステス」 
小声で発声練習をしてエコーが戻ったのを確認。一呼吸置いて、 
「割くわけないんだよっっ!!!!」 
彼女はいつの間にか握っていた木槌を、勢いよく甲板に叩き付けた。そこにペットの猿がゴングを鳴らす。摩邪隊長はゴングに合わせて、 
勝ち誇ったように拳でアピールをしている。 
俺は唖然として平井達の顔を見る。彼らも同じ心境のようだ。ところが、例の2人は少し様子が違う。 
「頼もしい隊長じゃないか!」 
塚地は全幅の信頼を寄せん勢いで褒めている。俺ら仰天。次いで伊藤の方を見ると、何と先ほど改名させられたカマドウマ何たらという 
名前をメモしようと、必死に思い出しているではないか!俺ら更に仰天。 
岸部の言動はこれを示していたのだろう。曲者揃いの第13分隊。俺達がえなり討伐隊に参加したことは、正しい選択だったのだろうか。 
幾ばくかの疑問を抱き始める俺であった。 
                                                                 続 く 

577 名前:1 [] 投稿日:2005/08/23(火) 23:35:20
第33話(後半) 
濃い霧の中を船は進む。 
シフィーロの港を出発した俺達は、半日ほどのミャジマまでの航路を4分の3ほどをやって来た。途中、クラーケンや 
ヒュージオクトパスなど水棲の魔物に襲撃を受けたが、そこは選りすぐりのえなり討伐隊、先頭の一団だけで楽々と 
撃破してしまった。補欠である我ら第13分隊に至っては、最後尾ということで、戦闘らしい戦闘は一切行っていない 
という始末。 
13分隊の船には、俺達えなり討伐隊とは別に、船長を含めて5名(山崎、石井、元国、江原、賀藤。小学校時代。最 
強の喪男グループ)のクルーが乗船している。いずれも港の酒場で職にあぶれていたのを拾ってきたらしい。どこま 
でも人件費の安上がりな隊である。 
甲板上の俺とカエラは、欄干に腕をもたれさせて霧の海を見つめている。 
「あのさ。前々から思ってたんだけど」 
カエラが口を開いた。 
「ん?」 
「あなた達、確か以前シフィーロ王の命を助けたことがあるって言ってたよね」 
「ああ。そんなこともあったね」 
「だったら王様に頼めば、こんな補欠じゃなくて、少しはましな隊に入れたんじゃない?」 
「あ」 
なるほど。その手があったか。確かに俺達は以前、トライアスの襲撃から王の命を救った。王に参加の旨を伝えれば、 
その時の功績で優秀な隊に入れてもらえたかもしれない。 
「あの隊長だって、どこまで頼りになるもんだか……」 
カエラはちらと同じ甲板上の摩邪を見た。この女隊長はこともあろうにロッキングチェアで昼寝の真っ最中。完全に 
熟睡してしまっている。 
「この状況下でよく眠れるわよね」 
「ま、まぁ、あの人はあの人で力を蓄えてるんじゃないか」 
とりあえずフォローを入れておいた。 
「ミャジマが見えたぞ!!」 
物見台に配置されている元国が叫んだ。俺達も舳先に寄って先を見つめる。霧の中から徐々に島が現れてきた。それ 
ほど大きな島ではないが、島全体から禍々しい邪気が漂ってくるのがありありと分かった。 
いつの間にか船室から出てきた平井と甜歌も、島の放つ邪気に圧倒されているようだ。 
「おにいちゃん、あの島……」 
「どうした?甜歌」 

578 名前:1 [] 投稿日:2005/08/23(火) 23:36:35
甜歌が俺の袖を引いた。彼女は何かに気付いたのか、いつになく不安そうな表情。そこに摩邪隊長が割って入った。 
「お、ちびっころはあの島の異常さ気付いたようだな」 
ちびっころと呼ばれた甜歌は少しムッとした表情。俺は摩邪に問い返す。 
「異常さ?」 
「全く鈍感な野郎だな。あの島は結界が張られているんだよ。結界に不用意に触れようものなら、たちまちの内に溶け 
てしまう」 
また“溶ける”のか。もううんざりだ。感電をするなり生気を吸われるなり、もう少し設定にバリエーションとを持た 
せて欲しいものだ。 
「マジすか!っていうか、なら、どうやって島に入るんですか?」 
「話によると湾岸部のどこかに結界発生装置があるらしい。鳥居の形をしているって話だ」 
なるほど。まずは鳥居を破壊しなければならないのか。さすがえなりの居城だけあって、そう易々とは入れてくれない。 
とりあえずはえなり討伐隊総隊長の指示を待つしかあるまい。 
と、その時である。轟音と共に前方の海中から、巨大な何かが姿を現した。 
「水棲の魔物か」 
摩邪は腕組みをして言う。平井はそれを見極めようと、望遠鏡を目に当てた。 
「違いますね。クラーケンやシーサーペントでもない。あれは……人間だ」 
平井から望遠鏡を渡されて、俺も対象を確認するべく鏡筒を握った。確かに人間だ。全身を鎖帷子で守り、戦斧を担い 
だ巨大な男が仁王立ちになっている。 
「でかい……」 
俺は絶句した。でかい。“でかい”の一言に尽きる。推し量るに、船団最大の帆船が立てているマストの天辺でも、ま 
だそれの腰辺りの高さでしかない。巨人は船団の行く手を遮るように、否、確かに遮ることを目的としてそこに存在し 
ている。 
「恐らくは魔族でしょう」 
平井が呟く。その憶測はすぐに確信に変わった。巨人は船団に向けて、戦斧を振り下ろしたのだ。衝撃は小高い波とな 
って船団を揺らす。その余波は最後部に遅れ気味についている俺達の船をも揺らした。伊藤と塚地は体勢を崩し甲板に 
転げた。 
「ど、どどど、どうしましょう!?」 
伊藤はすっかりうろたえて、塚地にすがりつく。 
「とりあえず戦うしかないやろ!」 

579 名前:1 [] 投稿日:2005/08/23(火) 23:37:57
一方の塚地は強気で、伊藤を振り払って肉切り包丁を抜いて、戦闘体勢に入った。しかし、どうやって戦うと言うのか。 
先頭付近の数隻は既に沈没の憂き目にあっている。船という船が扇状に拡がり砲撃を浴びせるものの、巨人はダメージ 
を被っている様子はない。俺達の船は忘れ去れているのか指示すら下されていない。 
「あの身体に鎖帷子の装備。あいつからすれば、砲弾の衝撃はパチンコ玉ほどに過ぎないわ。砲撃じゃ埒が明かない。奴 
の身体にに取り付くことができれば」 
カエラが下唇を噛んだ。 
「と言っても海を泳いで行くわけにもいかないしな」 
と俺。すると甜歌が後ろから、 
「もう少し近づければ、魔術で何とかなると思うけど」 
と力強いお言葉。 
「本当か、甜歌?」 
「甜歌に任せといてよ」 
やけに自信満々な甜歌は、その場に腰を下ろすと詠唱を始めた。普段は天然なのだが、戦闘において彼女の言葉を信じて 
裏切られたことはない。俺は隊長である摩邪の目を見ながら、首を縦に振った。摩邪は目をつぶりしばし考えこんだ。そ 
して、 
「ちびっころを信じてみっか。おし、船長!!巨人の背後に周り込め」 
「了解だ」 
操舵手に指示が与えられ、船は巨人の背後に回るべく迂回した。 
巨人の攻撃は止むことを知らず、船団はみるみる内に三分の一ほどの船を失ってしまった。そうした中を、小さいのが逆に 
幸いした俺達の船は、こそ〜り(お茶汲みタソがお茶を置くように)と、巨人の背後に近寄る。さすがにここまで来ると巨人 
の動作が直接海面のうねりとなるので、船はまるで木っ端のように激しく揺らされる。 
「着いたぞ!甜歌」 
俺は欄干にしがみつきながら叫んだ。同時に詠唱し終えた甜歌が急に立ち上がり、海面に向かって杖を振り下ろした。瞬間、 
真っ青な光が迸り海に異変が起こり始めた。うねっていた海が一気に白い氷に変化していく。 
「なるほど。海を凍らせたわけか。ちびっころめ。やりやがる!」 
摩邪感嘆。光は巨人に向かって走り、ついには巨人の浸かっている辺りまでを凍らせ、その動きを止めた。先走った塚地が 
船から勢いよく海面に飛び降りた。 
「いざ!!……って、薄!!!」 

581 名前:1 [] 投稿日:2005/08/23(火) 23:38:59
と思いきや、彼が下りた部分だけ何故か氷は結構薄かったようで、塚地は勢いあって氷を破り海に落ちた。お約束のボケを 
嬉しく思いつつ、俺達は塚地を教訓にして注意を払いながら海面に下りた。 
「うん、いける」 
俺は氷の厚さを確かめて頷いた。そんな俺をカエラは横目で見ながら、 
「あなた、また格好いいとこ持っていこうとしてんじゃないでしょうね」 
と確信を突いた発言。その傍らで伊藤が塚地を助けようとして、期待通り自分も海中に落ちている。密かに笑いの神が降臨し 
た瞬間だ。 
「ごるぁあああああああああああああああああ!!」 
自由を奪われ怒り心頭した巨人の咆哮が耳をつんざく。彼は俺達の船に対して、戦斧を力任せに下ろした。哀れ船は船員(石 
井、元国、江原、賀藤)もろとも木っ端微塵。 
「俺の船が!」 
船長(山崎)驚愕。彼だけ先に降りていたので命拾いしたようだ。間に合わせの船員については特に意に介していないようだ。 
「命があっただけでもありがたく思いな」 
摩邪は他人事とばかりに言い捨てた。 
俺は俺専用異世界人専用聖剣を握り締める。 
「一撃で極める!」 
身を一瞬低く屈めるや、俺は氷の上を一直線に走り出した。 
「ぐぬおおおお!!」 
忌々しげに唸る巨人。電車の車両くらいはあろうかという腕が、俺を掴み取ろうと迫る。紙一重で握撃を交わした俺は、伸びた 
腕の上を一気に駆け上 
がる。と、俺の横にもう一つの影が並んだ。 
「あ、あなたは……」 
「悪いが一番首は頂く」 

582 名前:1 [] 投稿日:2005/08/23(火) 23:39:50
どこから涌いて出たのか、俺と併走するのは無気力で御馴染みの岸部だった。俺は意表を突かれたが、負けてたまるかとばかり 
に彼と競り合う。しかし、この中年男のどこにこんな瞬発力が隠れていたのか。俺は徐々に引き離されていくではないか。俺を 
完全に圧倒した岸部は、巨人の鼻の上にひらりと飛び乗った。一対の目がアメリカンクラッカーのように中央に寄り、岸部に焦 
点を合わせる。その瞬間、巨人の眉間めがけてトライデントが突き立てられた。 
「ぐぉ…」 
剣を引き抜くと、傷口から大量のどす黒い血が噴出した。岸部は返り血を浴びながら、巨人の身体を滑り落ちる。俺も慌ててそ 
の後を追う。俺が海面に下りたつと同時に、巨人の身体がゆっくりと後ろのめりに倒れ始めた。 
「おい、あれ!」 
摩邪が巨人が倒れる方向を指さした。視線を向けると、何と巨人が倒れようとしている先には朱塗りの鳥居があるではないか。 
こうも都合良く物事が運ぶとは。巨人は勢いよく鳥居の上に倒れ、それを押しつぶしてしまった。途端に、結界が解かれたこと 
を意味するのだろう、周囲を覆っていた霧が徐々に晴れていく。 
「おし、いい橋が出来た。行くぜ!」 
摩邪は巨人の死骸に足を掛けた。 
「ままま、まさかこの巨人の上を歩いて!?」 
相変わらずの狼狽っぷりの伊藤。 
「当然だろうが!このカマドウマの繊毛に発生した原始的な黴の一種が!」 
業を煮やした摩邪はさっさと歩き出した。その姿を見守る俺の肩を叩いて岸部が、 
「俺もまだまだ捨てたもんじゃないだろ」 
と、実に枯れた口調で一言。 
「はぁ……」 
彼が元ルックルック隊とは言え、父親ほどの年齢であろう彼に差をありありと見せ付けられて、少々ショックの俺。岸部も隊長 
の摩邪に後について、巨人の身体で出来た橋を渡り始めた。 
歩き出せずにいる俺の肩を、今度はカエラが叩いた。 

584 名前:1 [] 投稿日:2005/08/23(火) 23:42:13
「ちょっとショックだったでしょ?」 
妙に嬉しそうな顔。 
「つ、次は負けない」 
精一杯の強がりを見せて、俺は巨人の骸に飛び乗った。後ろからカエラ達も続く。脇に目をやると、残った船団も碇を下ろし小 
船でミャジマへの上陸を開始していた。 
                                                                 続  く 

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