異世界ファンタジー編 第35話

 

646 名前:1 [] 投稿日:2005/09/05(月) 19:20:21
第35話(前半) 
カエラのハルバートが下級魔族の脳天を直撃し、そのまま身体を真っ二つに切り裂いた。 
「案外大したことなかったわね」 
23体。ようやく得物を下ろした俺達の足元には、23体のレッサーデーモンの死骸が転がっている。 
「いやはや皆なかなか良い腕をしている。これだけの数を相手にして、ものの10分とかからずに全滅させてしまうとは」 
そういう彼の視線は、俺専用異世界人専用聖剣にちらちらと向けられる。 
「さて問題はこの堀をどうやって渡るかだな」 
俺は辺りを見回したが、こちらには橋の上下装置らしきものは見当たらない。堀の外からは橋を下ろす手立てはないようだ。 
「橋の上下装置は対岸の守衛部屋の中でしょうね」 
「甜歌、空とか飛べないの?」 
「おにいちゃん、そんな空想みたいな魔術ないってこの前も言ったでしょ」 
そういえば前にも同じ質問をしたような気がした。しかし、これだけ非現実的な現象が揃っているのに、なぜ空を飛べないのか。 
全く現実は厳しいものだ。 
と、その時である。 
「いや、飛べるぜ!」 
背後から謎の声が。 
「マジか!?」 
振り返ると、そこには海岸で気絶している筈の摩邪隊長が。後ろには塚地と伊藤も控えている。13分隊が勢ぞろい。 
俺は目を丸くして摩邪隊長を見る。 
「魔邪隊長!?」 
「こいつを食らいな!」 
一喝と同時にラリアートが俺の首に炸裂した。小柄な身体からは想像もつかない強烈な一撃を食らい、俺は驚く暇もなく弾き飛ば 
され地面に転がった。 
「あたいはあんたらを助けるようシフィーロ王から命を受けているのさ」 
「え……?」 
「あたいはシフィーロ王の近衛隊の一員なんだよ」 
俺達は驚愕した。摩邪がシフィーロ王直属の軍人だったとは。だが、一体何の為に彼女を俺達に付けたのだろうか。 
「お前らはえなりとの決戦に必要不可欠。えなりの所まで行き着かせるのがあたいの任務だ」 
「でも岸部さんに逝かされたんじゃ?」 
俺の問いかけを、摩邪は鼻で笑って一蹴する。 
「逝かされる?あたいが?笑わせてくれるね」 
そして、ゆっくりと岸部に近付ていく。そして俺を指差しながら、 

647 名前:1 [] 投稿日:2005/09/05(月) 19:21:22
「こいつの他に異世界人が討伐隊に紛れ込んでいるという情報はあったが、あんただったとはね。とりあえず泳がせて正解だったよ。 
思ったよりも早くこいつらをえなりの元に届けられそうだからな」 
摩邪は岸部を睨みつけた。岸部は無表情を崩さない。なるほど。摩邪はわざと絶頂に達した芝居をして、岸部に道案内をさせたわけか。 
「でもそれなら別段芝居なんてしなくても、岸部さんの誘いがあった時、一緒に付いてくれば良かったのでは?」 
と平井。 
「その無気力親父を信用していたわけじゃないからな。お前らを別位置から客観的に見守る必要があったんだよ。つか、一々説明す 
るの面倒くせぇ。つべこべ言ってんじゅねぇぞ!タコ野郎!!」 
苛立ちのボルテージが一定に達したのか、摩邪のドロップキックが、平井の胸にクリーンヒット。俺同様吹っ飛ばされる平井。まる 
で強引にこじつけようとしているようだが、まぁ、よしとしておこう。これ以上指摘すればどんな技が繰り出されるか、分かったも 
のではない。 
「とにかくだ。こいつを用意してきた」 
摩邪の後ろから現れたのは、サーカスやお笑い番組で見かける人間大砲ではないか。 
「こいつで堀を飛んで守衛部屋に侵入、守衛を密かに倒して跳ね橋を下ろす」 
絶対にうまくいくわけがない。その場にいる誰もが思った。摩邪を除いて。 
「ウチ!!ウチやる!!ウチ飛びたい!!」 
と思いきや約一名賛同者が。甜歌だ。 
「て、甜歌、お前本気で言ってるのか?」 
「うん!だって楽しそうじゃん」 
甜歌は至って無邪気だ。つか、テーマパークのアトラクションじゃないから。 
「チビッコロの申し出は嬉しいが、身長制限に引っ掛かるんだ。飛ぶ人間は既に決めている」 
とクールに摩邪。悔しがる甜歌。胸を撫で下ろす俺。 
「カマドウマの繊毛に発生した原始的な黴の一種」 
「えぇぇぇぇぇええ!?僕でしゅかかああああ!?」 
既にカマドウマ何とかで御馴染みらしい。 
「隊長命令は絶対だ。大人しく入りな」 
言われるがまま、伊藤は砲口から砲筒に身を滑らせた。 
「おいしいで!これはシチュエーション的においし過ぎやで!!」 
と塚地はいかにも残念そうに言う。 
「そこまで言うなら、塚地さん飛べばいいじゃないっすか」 
伊藤は不服そうに言う。もっともだ。 
「俺はウェイト面で少々難があるんや」 

648 名前:1 [] 投稿日:2005/09/05(月) 19:22:11
そういうものなのか。しかし彼の顔に浮かんだ一抹の安堵の情を、俺は見逃さなかった。 
「じゃあ、いくで」 
「まだ準備が……」 
問答無用で塚地が導火線に火を点けた。しかし、この二人である。このままうまくいくはずがない。13分隊のお笑い担当のことだか 
らきっと何かやってくれる。誰もが不安に感じ、いや、期待せずにはいられない。 
「ちょい待ち!!あ、あれ見て!!」 
突然、甜歌が城を指差して素っ頓狂な声で叫んだ。その方向に視線を移した俺は同じく唖然とした。僅かずつだが、跳ね橋が動き出 
したのである。 
「橋が……下りてる!?」 
「マジか!?」 
摩邪が甜歌の側に走り寄る。その際に彼女の尻が大砲に当たり、きりきりと砲身が向きを変えた。ベタな展開。 
「ほんまやぁ。下りてるわ。おい、伊藤。発射中止や中止」 
塚地が大砲に向き直った。塚地が硬直する。お約束通り、砲口は塚地を真正面にロックオンして止まっていたからだ。 
「うお!?待て!!どこ狙ってんねや!?」 
砲筒に収まっている伊藤の怯えきった目が、塚地の視線に重なった。瞬間、勢いよく発射された伊藤は冷凍マグロのように硬直した 
格好で、ゼロ距離で頭から塚地の腹部に直撃した。彼は持ち堪えようと必死に伊藤の頭を支えてふんばるが、そこはファンタジー世 
界。ミサイルのような推進力を得た伊藤に、塚地はコミカルな小走りで後方へと押しやられていく。 
「どこまで行くんやああああ!!」 
「わかりましぇええん!!」 
またもやお笑いの神が降臨した二人は、見事期待に応えて森の中へと消えていった。俺達は呆気にとられたが、殺しても死なない彼 
らのことだからとりあえず放置プレイ。それよりも跳ね橋である。低く重々しい音を発しながら、橋は既に半分ほど下りている。 
「橋が……下りる」 
ゆっくりゆっくりと橋が下りる様子を、皆が固唾を飲んで見守る。跳ね橋の向こう側に、言葉通り伏魔殿の入り口がぽっかりと口を 
開けている。 
「罠ね」 

649 名前:1 [] 投稿日:2005/09/05(月) 19:23:14
カエラが呟いた。言わずもがな、十中八九間違いない。これはえなりの罠だ。しかし同時に彼からの俺達に対する挑戦でもある。 
「この橋を渡ればもう引き返すことはできねぇ」 
岸部が意地悪そうに脅かす。しかし思いは皆同じ。俺達は顔を見合わせて頷き合う。 
「行こう」 
地響きを立てて接地する橋。その上を渡り、俺達はえなりの城へと足を踏み入れた。 
                                                                 続  く 

675 名前:1 [] 投稿日:2005/09/09(金) 23:16:51
第35話(後半) 
えなり城の防衛網は想像以上のものだった。 
雑兵はやはりそのほとんどがゴブリン、コボルト、リザードマンと言った戦闘能力の比較的低い亜人種。海岸防衛で 
かなりの数が出払っているはずなのだが、なんの出るわ出るわその数たるや通路を埋め尽くさんばかり。と言うより 
実際に埋め尽くして、団子状で身動きが取れなくなっている。頭あんまり良くなくてヨカッター\(^o^)/ 。 
「とりあえず逃げるチャンスですか?」 
先頭の平井が汗を拭きながら、皆を促した。追っ手の魔物を撒いて、俺達は螺旋状の階段を駆け上がる。パーティは 
前衛を平井と俺、後衛を甜歌、岸部。そして最後尾をカエラが守っている。 
「岸部さん、この階段はどこまで続いてるんです?」 
俺は唯一城内を探索したことがある岸部に尋ねた。 
「それがな。以前来た時とは大分様子が変わっているんだ。リフォームでもしたのかな」 
リフォームってあんた……。 
「あ痛!!もう容赦ならねぇ!!」 
いきなり摩邪がキレた。 
「どうしたんですか?」 
「さっきから何度も同じような所で蹴躓いてんだ。このチャラチャラした階段の段め」 
そう言いながら、物言わぬ階段に猛烈にストンピングを浴びせ始めた。それを見ている内、俺達の中である憶測が次 
第に現実味を帯びていった。 
「あのさ、ひょっとして堂々巡りしてるってことない?」 
甜歌がおずおずと核心を突いた。正解。俺達今まさに堂々巡りの真っ最中。 
「これは幻術か何かなのか」 
俺は周囲を見渡した。すると、 
「正解です」 
階段の上部から、紅いローブをまとった女性が姿を現した。、ひどく眠そうなとろんとした眼をしている。 
「私の名はクリステル(滝川クリステル)。えなり様直属の幻術師です」 
うやうやしく一礼した。ご丁寧な自己紹介だ。一見上品かつ知的で、とても魔族関係者には見えない。彼女は穏やかな 
笑みを浮かべてこちらを見詰めている。 

676 名前:1 [] 投稿日:2005/09/09(金) 23:17:21
「申し訳ありませんが、えなり様の元にお通しするわけにはいきません」 
俺達も彼女の眼を見詰め返す。リア厨時代ヤンキーにガンを飛ばされるとマッハの速度で視線を逸らすほどチキンだっ 
た俺。だが、ことこの局面では負けてたまるかと必死に眼を逸らさないようにする。眼を逸らしてたまるか。眼を…… 
逸らして……たま……る……………………ZZZZZ。 
俺、見事爆睡。 
「起きなさい!!」 
何かが破裂したような物凄い音と共に、俺は跳ね起きた。気付くとそこは先程と同じ階段の踊り場。 
「あら、俺は一体、って痛てええええ!?」 
慌てて頬を抑える。じんじんに腫れているではないか。頬をさすってると、すぐ目の前にカエラの姿が目に入った。俺 
を起こす為に思い切り頬を打ってくれたらしい。 
「全くあなたはどこまで呑気なの」 
「俺は眠っていたのか」 
「クリステルの術にはまったのよ」 
なるほど。あのとろんとした眼は催眠作用を持っていたのか。 
「平井達は?」 
「わからないわ。気づいたら私とあなただけだった」 
周りを見回すが誰もいない。いや、いる。何かがこちらに歩いてくる。息を呑む俺達の眼前に現れたのは、刀を携えたワ 
ーウルフと杖を持ったオークメイジ、そして謎のセクシー美女。 
「敵か」 
俺が剣を抜くと同時に、彼らは攻撃をしかけてきた。俺はワーウルフの攻撃を受け止める。その隙を付いて、オークメイ 
ジの火炎魔術が襲う。カエラがフォローに入り、ハルバートを回転させて火炎を退けた。コンビネーションは抜群。相当 
戦い慣れした魔物達だ。セクシー美女は何故かプロレス技を駆使して攻撃してくる。 
しばらく交戦する内、俺は違和感を覚え始めていた。彼らの戦いをどこかで見たことがある。それもごく最近。 
「彼らの戦い方、カエラどう思う?」 
「ええ。間違いないわ。平井達ね」 
カエラも気付いていた。そう。恐らくワーウルフの正体は平井、オークメイジの正体は甜歌、そして謎のセクシー美女の 
正体は摩邪だろう。彼らの動きを見る限り、思い過ごしではないようだ。これもクリステルの幻覚に違いない。と気付い 
たもののこのままでは埒が明かない。俺は彼らの攻撃をかわしながら策を探す。 

677 名前:1 [] 投稿日:2005/09/09(金) 23:18:10
「う〜ん、気付けになるものがあれば…………あ!はちゃめいた!!(頭上に電球)」 
ごく短い隙をついて、俺はワーウルフの胸元に手をあてた。やはりそうだ。俺は毛皮の中、つまり平井の胸元に手を突っ 
込み紙袋を取り出した。 
「それは?」 
カエラが不審そうに問う。 
「ブラックブラック烏賊あああああああ!!(ドラえもん秘密道具エフェクト付)」 
寺院で危機を救ってくれたグロテスクな乾物が、再び日の目を見ようとは。俺達はブラックブラック烏賊の切れ端を咀嚼 
する。口内に言い様の内ペーソスを含んだ辛さが充満する。余りの辛さに涙で目が霞む。だが、涙を払うと魔物の姿は平 
井と甜歌に戻っていた。 
烏賊を千切ると、隙をついて平井の口をこじ開けて中に叩き込んだ。途端に彼は苦しみ出した。しかし効果は覿面のよう 
で幻術は解けたらしい。 
「あれ、何で?バブリースライムマッドネスと戦ってたはずなのに?」 
彼は唖然として攻撃の手を休めた。やはり俺はバブリースライムだったのかorz。続けて甜歌と摩邪の口にもそれを放り込む。 
「辛っ!!って、あれ?おにいちゃんとカエラだ」 
「あたいともあろうものが、こうもあっさり幻覚にかかってしまうとは」 
摩邪は結構ショックだったようで落ち込んでいる。そうしていると、今度は階段の下から轟音が響き始めた。 
「地震か。いや違う」 
「おっし!あたいがちょっくら見てきちゃる」 
摩邪は威勢良く階段を駈け降りていった。しばらくすると、もの凄い剣幕で駈け上ってきたではないか。 
「魔物が追い付いて来たああああああ!!」 
すっかり忘れてたあああああああ!!俺達は摩邪に追い立てられるように、脱兎のごとく駆けだした。だがこのまま逃げても、 
階段は堂々巡りしているわけだから、永遠に追跡劇が繰り広げられてしまうわけで。 
しばらく逃げているうち、俺はふと後ろを振り向いた。何と俺の後ろに付いていたはずのカエラの姿がない。 
「まさか!」 
俺は階段を駆け降りようと身体を翻した。 
「おにいちゃん!?」 
「大丈夫だ。ちょっとカエラを連れてくる。甜歌達は先に行ってろ!」 
しばらく降りると金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。案の定、カエラは独りで魔物を食い止めるべく、ハルバートを振る 
っているではないか。 
「ったく無茶しやがって」 

678 名前:1 [] 投稿日:2005/09/09(金) 23:18:56
助けに入る直前、魔物を押しのけながら巨大な肉塊がせり出してきた。球根のようなそれはあらゆるものを取り込むようで、 
周囲の魔物が次々吸収されていく。そして、とうとうカエラの身体も飲み込んでしまった。 
俺は慌てて魔物の塊に飛び乗ると、腕に力を込めて突っ込んだ。そして蠢く触手と肉塊の中から力ないカエラの腕を探し当て 
た。少し引っ張り上げると、彼女の顔が見えた。幸い気は失っていない。 
「あなた……馬鹿ね。何で助けに来たの?折角私が体内からこいつを倒そうと思ってたのに」 
何ともカエラらしいと言えばカエラらしい作戦だ。明らかに失敗していたが。 
「修道院で約束しただろ。君を一つにするって。ここで犠牲になろうなんて、幾ら君が僧侶だからと言っても俺が許さない」 
「とんだ王子様気取りね」 
「王子様なんて大層なもんじゃない。君が大事だから助けるだけだ」 
俺は両手で彼女の腕を握り締めて、魔物の中から一気に引き抜いた。 
「私が……大事……」 
カエラを救い上げた俺は、球根を俺専用異世界人専用聖剣で一閃した。石榴のようにぱっくりと割れ、中から黄緑色の体液と 
共に無数の魔物の死骸が飛び散った。その後、球根はしばらく痙攣していたが、ついに活動を停止した。 
俺は刀身に付着した体液を振り払おうと、剣を上げた。しかし振り払うまでもなく。体液は次第に薄くなり自然に消え失せて 
しまった。 
「これも幻覚か」 
気付くと球根も姿も消滅していた。俺はカエラの方を向いた。彼女はこちらに背中を向けたままで口を開く。 
「ありがとう」 
普段より落ち着いた口調。彼女に起こった異変が、俺にはすぐ分かった。 
「りえさん」 
間違いない。寺院で会話したカエラを守護する人格りえだ。彼女は呼びかけに答えるように、ゆっくりとこちらを振り向いた。 
「ええ。私はりえ。でもさきほどのあなたの一言で、私達はやっと……」 
カエラは拳を握って大きく振りかぶる。そして、自分自身の額を渾身の力で殴打した。 
「おい!?」 
「……一つになれたわ」 
小さな声。しかしとても力強い声。今までのカエラのようでどこか違う。それは確かに彼女の二つの人格が融合したことを意 
味している。 
カエラが唐突に目を瞑る。 
「どうしたんだ?」 
「しっ、クリステルが近くにいる」 

679 名前:1 [] 投稿日:2005/09/09(金) 23:19:53
俺は促されるままに自分も目を瞑った。自ら視覚を奪うことで聴覚が研ぎ澄まされ、周囲の音という音がその音量を増した。 
最も近いのは俺の鼓動。右隣から聴こえるのはカエラの鼓動……そして背後から微かに響く第三の鼓動は…… 
「そこだ!!」 
二人の声が同時にこだました。金属が石の床に落ちる音。俺達はゆっくりと眼を開ける。目の前には胸を2本の刃で刺し貫か 
れたクリステルの姿。その足元には彼女の物であろう、紋様を施されたクリスナイフが落ちている。 
「有り得ない……人間ごときに……」 
顔を苦痛に歪ませながら、クリステルは崩れ落ち、事切れた。 
「大丈夫ですか!」 
平井達が降りてきた。やはり心配で駆けつけてくれたようだ。甜歌が俺達の無事を確認して嬉しそうにすり寄ってくる。 
と、甜歌はカエラの様子を見て首を捻った。 
「ねぇ、カエラ。何か変わってない?」 
「変わったって?」 
「う〜ん、なんて言うか、感じが良くなった」 
「何よ。それじゃ、まるで私が今まで感じ悪かったみたいじゃない」 
口では怒っているが、カエラの顔は笑っている。申し訳なさそうに手を合わせる甜歌。 
「あ、いや、そういうわけじゃ……っと!そんなことより大発見!!上に扉があったよ」 
「マジか!?」 
早速現場に急行する。幻覚は解け、あれだけ長かった螺旋階段は終わりを告げた。甜歌が言う通り鉄製の扉がある。平井が扉の 
ノブに手をかけた。 
「待て。いきなり入るのは危険だ。若いの。一緒に様子を見るぞ」 
岸部は俺に顔を向けた。俺は特に疑問も抱かずに頷いて、彼の後に続く。扉を開けて中に入ると、そこは大広間になっていた。 
かなり以前から使用されていないようで、家具が誇りを被って朽ちかけている。と、俺が入ったのを確認したかのように扉が鈍 
い音を立てて閉じた。俺は仰天して扉を開けようと試みるが、固く閉ざされて開かない。まんまと罠にはまったということか。 
「岸部さん。閉まっちゃいましたけど!」 

680 名前:1 [] 投稿日:2005/09/09(金) 23:20:26
俺の動転具合とは対照的に、岸部は背を向けたまま動かない。俺は正面にある鏡台に彼の顔が映っていることに気づいた。その 
顔は、今までに彼が浮かべたことのない不気味な笑みを称えている。 
「さて、ようやく二人きりになれたな」 
「え?」 
背負っていたトライデントを構える岸部。 
「何の真似ですか」 
俺は俺専用異世界人専用聖剣を握る手に力を込めた。 
「お前さんの剣、そいつを俺に譲っては貰えんだろうか?」 
                                                                 続  く 

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