異世界ファンタジー編 第41話
- 376 名前:1
[] 投稿日:2006/01/17(火) 22:01:00
- 第41話(最終話)
俺は自分の目を疑った。必殺の一撃で斬り付けたはずが、奴の胸板には、まるで傷一つついていないのだ。
「フン」
一向に効いていないといった風に、鼻を鳴らす魔王。追撃を加えようと構える俺のむなぐらを掴むと、腹に強烈なボディブローを
叩き込んだ。
「ぐぇ…」
息ができないでいる俺は、宙に放られる。そこに六つの拳で連撃を浴びせる魔王。更に駄目押しのハイキック。吹き飛ばされて地
面に衝突した俺は、ちょっとしたドラゴンボール気分を堪能して満身創痍。生身にこの攻撃は反則だろう。いや、とうに死んでい
てもおかしくないような。自分でも生きているのが不思議だ。
「生身ノ人間ノ割ニハシブトイナ。ソノ剣ノ力カ。ダガ、ソレモココマデダ。ソロソロトドメトイコウ」
こちらの世界に来ればすっかり消えると思われたが、多少は剣の加護があるということか。などと都合のいい解釈をしている間に、
魔王は剣の先を俺に合わせて、走ってくるではないか。その時、
「だめです!」
怒号を上げながら、深田が俺に背を向けて仁王立ちになった。傷付いていない左腕を水平に上げている。これっていわゆる身代わ
りになるつもりなのか。
「…ちょ、待てよ!!」
無残な死を遂げた塚地の姿が、俺の脳裏を横切った。仲間を失うのはもうごめんだ。それも塚地の百倍は大事な、深田の命を奪わ
れてたまるか。
瞬間的に己の内に力が甦った。重い身体を立ち上げ、彼女が真っ直ぐに伸ばした左腕の下から、剣の腹を正面に向けて水平に構え
た。その瞬間、剣身に魔王の重い刺突が衝突する。あわやという所で魔王の攻撃を防いだものの、俺達は常識外れの威力に弾き飛
ばされ、馬洗川を挟んで対岸の斜面に叩きつけられた。
- 377 名前:1
[] 投稿日:2006/01/17(火) 22:01:50
- 「痛ぇ……」
じんわりと背中から襲ってくる痛みに、俺は顔をしかめ落涙した。ナサケナス。
「な、何で防ぐんですか。人がせっかく!」
ひょっとして僕は怒られているのですか?
「……おいおい、俺が深田さんを悲劇のヒロインにするわけないだろ」
深田は、はっとしたように目を見開いた。
「最初に会った日の夜、君が俺を守ると言ってくれたように、俺は君を守るよ」
ダメージは大きい。しかし俺は何とか立ち上がる。少しでも元気なところを見せなければ、また身代わりになられてはこちらの身
が持たない。
驚いたような表情で固まった深田は、俺の顔を見る。その彼女の目尻から涙が落ちる。
「あれ、深田さんもさっきの痛かった?」
深田は返事をする代わりに、無言で涙を拭った。どことなく嬉しそうにも見える。
「二人して涙流して、何かおかしいな」
「ええ、そうですね」
最後の戦いで痛くて泣き出す主人公なんて、そうそうはいまい。この、修羅場とは余りに不釣合いな自分達に、お互いにおかしく
なって笑い出してしまった。
負傷箇所をかばいながら笑っていると、俺専用異世界人専用聖剣の刃先が近くの岩に当たって、カチンと音を立てた。
「あれ?」
妙な違和感を覚えて、剣に目を落とす。
「なっ!?」
俺は絶句した。何と、俺専用異世界人専用聖剣の剣身に、いびつな亀裂が走っていくではないか。まさかさっきの衝撃で!?
「うぇ!!ちょ待て!待てって!!」
当然待ってくれるはずもなく、俺専用異世界人専用聖剣は、無慈悲にもまるでガラスを割ったように砕け散った。魔王の攻撃を受
け止めて疲弊していた俺専用異世界人専用聖剣。それを岩にぶつけることで、俺は見事とどめをさしてしまったということか。
「く、砕けてしまいましたね……」
「うん……どうしようか」
「さぁ……」
呆然とする俺達二人。その間にも魔王は川を渡ってくる。
「頼ミノツナノ、tanasinソードガクダケタカ」
顔を歪ませて笑う魔王。彼は呆然としている俺の頭上で、剣を振り上げた。深田が止めようと腕にすがりつくが、他の腕に掴まれ
て投げ飛ばされる。
(終わりだ……)
- 378 名前:1
[] 投稿日:2006/01/17(火) 22:02:40
- ところが、観念してしまった思考とは裏腹に、俺の身体は反射的に剣身を失った俺専用異世界人専用聖剣を振るった。
音が消えた。意識が急激に収縮し、そのまま消失してしまうかと思われた。
(俺は死んだのか?)
否定する代わりに、極限まで縮んだ意識が、今度はまるで宇宙開闢の様を見るかのように爆発的に膨張し、俺を我に返した。
気づくと、魔王の腕が剣を握ったまま宙を舞っている。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
魔族の長が吐き出す苦痛に満ちた咆哮の後ろで、主人から離れた腕は川面に落ち、沈んでいった。
「な、何が起こった」
状況が分からず、自分の右手を見る。その先には一直線に伸びた光の剣が握られているではないか。
「………ギラン君?」(スターウォーズ少年)
そのいかにも某映画に登場するライト何とかに似た形状を見た時、俺はスカイウォーカーさんよりも、ギラン君の勇姿を思い浮かべた。
「これは俺専用異世界人専用……いやtanasinnソードなのか……?」
すると心中で、剣が一瞬の内に全てを語ってくれた。ナイスフォロー。この光こそが俺専用異世界人専用聖剣、いやtanasinnソード
の真の姿ということ。金属でできた剣身は、tanasinnソードにとって、膨大な力を拘束する為の鞘でしかなかったこと。
「全身に力が漲る。この光は何なんだ」
(それはお前のデリュージョンだお(´・ω・`))
tanasinnソードが答えた。
「デリュージョン?」
(妄想だお(´・ω・`))
「妄想……」
(使い手の妄想が鬱屈としたものであればあるほど、私はより強力な武器となるんだお(´・ω・`))
「取ってつけたような設定だな」
(お前は私の全てを使いこなすことができる、唯一の人間だお(´・ω・`);)
「それじゃまるで俺が妄想ばっかしてるみたいじゃんか」
(否定できるのかお?(´・ω・`))
「……」
(まぁいい。今は何より目の前の魔王を倒すお(´・ω・`))
「へ?」
(お前には奴を滅ぼす義務があるんだお(´・ω・`))
「義務?どういうことだ」
(……(´・ω・`))
失言したとでもいうように、tanasinnソードは押し黙ってしまった。ショボーソのAAといい、ふざけた剣だ。
- 379 名前:1
[] 投稿日:2006/01/17(火) 22:03:24
- 俺達が問答をしている間に、魔王は体勢を立て直してしまった。憤怒の相でこちらに迫る。
「愚奴ゥ…人間如キガ!!」
さきほどまでの余裕は、腕と一緒に吹きとんでしまったようだ。
「貴様ラヲ始末シテ、我ハコノ世界ノ王トナル!」
魔王の指先から紅蓮の炎が渦巻く。
「させるか!」
俺はtansinnソードを一振り。炎を一刀両断した。勢いに任せて、すかさず魔王に特攻を仕掛ける。傷と疲労で身体は悲鳴を上げていた
のだが、tanasinnの力なのか、驚くように動きが軽い。
摩王は攻撃を受け止めようとするが、光の刃は両刃剣をすり抜け、彼の右肩口に沈んだ。
「魔賊ダケヲ斬ル剣ダト!?」(ビルギットっぽく)
次いで、これまでにない巧みな剣捌きで、俺は魔王の六本全ての腕を斬り飛ばした。そしてtanasinnソードの先端を魔王の額に突きつ
ける。物質化されていない剣なのに、鈍い感触が伝わる。こいつを斬り下ろせば魔王は消滅する。
「待テ!!我を斬レバ、ゲートストーンモキエルノダゾ!!」
そんな脅しには動じない。ゲート石が無くなっても、あっちの世界に行く手段はある。
「まだ畠敷の井戸がある」
「我ノ次ノ魔王ガアラワレヌカギリ、井戸ハ門ヲヒラカナイ。ソシテ、ワレガ現実世界デ氏ネバ、モウ魔王ハ生マレナインダ!!」キバAA ry)
「な、なんだって〜!?」MMR AA ry)
- 380 名前:1
[] 投稿日:2006/01/17(火) 22:04:18
- ということは、ここで魔王を倒してしまうと、もう仲間達には会えなくなってしまうのか。もう彼らに会えない。この事実は俺に大き
な迷いを抱かせた。甜歌、平井、カエラ、その他の皆さん……剣を振り下ろすことは、彼らとの永遠の別れを意味する。だが、同時に
向こうの世界に平和を呼ぶことができるのも確か。
「ソ、ソウダ!我ニツケ。我ノ能力ヲヤロウ。貴様モえなりノヨウニ、イヤ、えなり以上ニ強クナレルゾ」
交渉しようというのか。これはなかなかどうして魅力的な誘いではないか。そもそも、こんな現実世界で生きることに何の意味がある。
家電店員として時代に埋没していく生涯。誰にも心留められることなく、漫然と生き、そして消えていく。十把一絡げの人生が待っている。
だが、えなりのように魔王の力を受け継げば、俺は今のまま強い人間でいられる。えなりは悪に走った。しかし同じ轍を踏まなければ。
魔王の力を継いでも、それを世の為になるよう使用するのなら、例えば生まれてくる魔王を片っ端から倒して行く。こっちから召喚さ
れた人間には、ゲート石を与えて現実世界に帰してやる。これなら平和も守れるし、或いは……。
この期に及んで逡巡している、自分自身の優柔不断さが恨めしい。こんな時、彼らならば、どう言ってくれるだろう。
平井ならきっと腕を組んで、したり顔で、
(己の信念が向くままに行くべきでしょう)
カエラなら面倒くさそうに、
(あんたが信仰する神の御心のままでいいんじゃない?)
俺が無神論者だと知っているくせに。
甜歌ならあっけらかんとして、
(お兄ちゃんが思うようにすればいいと思うよ)
と屈託なく笑うことだろう。
- 381 名前:1
[] 投稿日:2006/01/17(火) 22:04:57
- 何だよ。結局どいつもこいつもヒントすらくれやしない。俺はいい仲間を持った。本当に……。
最後の頼みと深田の方を見遣る。半身を起こしている彼女は、微かに笑みを浮かべて、小さく頷いた。その笑顔はあらゆる迷いの暗雲を
切り裂いて、俺の心に澄みきった青空をもたらした。
俺はしばし黙考した。己の心に対する最終確認。そして、
「そうだな……そうだよな。この物語は長過ぎた。おk!これで終わりにする」
夢の結末を前にしても、心には一点の曇りすらない。この一撃が、自分自身にとって正しい決断、そして皆の総意であると確信している
からだ。
「愚カナ……」
「魔王。さっきの誘惑は結構響いたよ。っていうか、お前、俺の弱い所を良く知ってるよなぁ。ひょっとしてお前が生まれた原因って
……ふ、まぁいいか」
剣を握る両手に力を込めた瞬間、魔王の顔面が形を変えた。毎朝鏡で見るその顔は、俺の疑問に対する答えなのだろうか。そいつは往生
際の悪い卑屈な表情で言う。
「オカエリナサイ。凡庸ナ日常ニ」
「ただいま」
清々しい心持のまま、俺はありったけの力でtanasinnソードを斬り下ろした。剣は魔王の身体を一刀両断し、途端に周囲は眩い光に包ま
れた。
終わるけど続く
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